ブックメーカー方式とパリミチュエル方式
胴元が掛け率を提示する場合の方式として、ブックメーカー方式とトータリゼータ方式(注.昔はそれで通じたのだが、正確にはパリミュチュエル(パリミチュアル)方式というようだ)がある。英米のブックメーカーの提示するのは、もちろんブックメーカー方式であるが、日本のJRAその他の公営競技が表示しているのはトータリゼータ方式である。前者はプロでないと勤まらないが、後者は素人でも胴元になれる、という点に特色がある。
ブックメーカー方式の場合、ブックメーカーは提示したオッズは当該契約において賭け参加者との確定した配当率となる。したがって、仮にeven(2.0倍)で賭けが成立すると、その後人気が集中して直前のオッズが-200(1.5倍)になったとしても、直前に成立した契約に対しては1.5倍で払戻せばいいが、当初の契約に対しては2.0倍で払い戻す義務を負う。日本の公営競技が表示する事前のオッズがあくまで「中間オッズ」であり、最終締め切り後に計算した払戻金ですべての的中者に払い戻すのとは大きく異なる。
だからブックメーカーは単に賭けを受けるだけでなく、「どちらにどの程度投票が集中するか(投票シェアの正確な把握)」「実際にどれが勝つ可能性が大きいのか(勝者の予想)」を正しく分析する必要がある。その上で、自らの利益を最大にすると予想されるオッズを提示する。実際にブックメーカーをやった訳ではないので断言はできないが、おそらく確率統計の手法を使っているものと思われる(その中でも、ミニマックス理論=予想される最悪のケースが起こったときの利益を最大にする組み合わせを選択する、を使っている?)。ハンデを切る場合はさらにどのくらいのハンデならば「丁半そろう(バランスする)」のかを判断しなくてはならない。とても、官庁や地方公共団体の片手間仕事では追いつきそうもない。
対して、日本の公営競技はどうやっているのかというと、全ての投票(売上)の中からまず自分の取り分として25%を天引きして、残りの75%を当った人で分けなさいというだけのものである。足し算と掛け算と割り算ができれば誰でもできるので、集計機(トータリゼータ)方式という訳である。そこには、リスク判断も、経営努力も存在しない。あるのはひたすら、正確な売上集計と計算だけである(厳密には、すべての人が当り馬券のみを買うと、胴元は本来75円のところ100円で払い戻すことが法律で決められているので経費見合い分だけ損をするが、そんなことはあまり起こらない)。
それでは日本のノミ屋(もちろん非合法)はどうやっているかというと、客への払戻金はJRAなりと同じである(そうだ)。ただし、それだと客にとってわざわざノミ屋で買うメリットはないので、ノミ屋の側で買った額の10%をキャッシュバックするシステムになっている(と聞いたことがある)。それでも、お上は25%取っている訳だから、ノミ屋は15%儲かるということになる。昔は今ほど場外売場や電話投票がなかったので、結構儲かる仕事だったという。
ただ、この場合もリスクをとっているだけであって、本当のブックメーカーのようにオッズを自分で提示している訳ではない。だから、絶対的に投票数の大きいJRA等の存在を前提にしなければ、ノミ屋という業態は存在しえない。そういえば、昔「ノミ屋殺し」というのがあって、絶対的に投票数の少ない競輪や競艇の単勝で有力選手をノミ屋で大量に買って、本場の方は逆にその他の選手を買って払戻金を吊り上げ、本来ありえないオッズでノミ屋に払い戻させる、といった方法があったそうだ。当時、単勝の発売窓口は連勝とは別にあって、その数も1つか2つだったから、そんなことが可能だったのかも知れない。いずれにせよ、聞いた話であるが。
[Apr 23, 2005]