代々木第二体育館

内山フセインをストップ    藤本日本ヘビー級チャンプ    井上世界初戴冠
八重樫vsロマゴン・井上防衛戦    石田負傷TKO虎辰   

内山、フセインをストップ [Sep 8, 2007]

OPBFスーパーフェザー級王座決定戦(2007/9/8、後楽園ホール)
内山 高志 O KO8R X ナデル・フセイン

土曜日は予定が盛りだくさんで、後楽園ホールに着いた午後8時過ぎはまさに両選手入場の場面だった。

何しろナデル・フセインといえば、世界的ビッグネームである。約50戦して負けたのは、マニー・パッキャオ、オスカー・ラリオス、スコット・ハリソンといった世界の一流チャンピオンと昨年の榎洋之の4敗だけ。問題は、本来のウェイトであるスーパーバンタムから昨年の榎戦ではフェザー、今回はスーパーフェザーとクラスを上げたことである。

一方の内山はこれまで7戦全勝5KO。そしてプロ戦績以上に注目されるのは、アマ113戦91勝、全日本ライト級3連覇、世界選手権ベスト16、タイキングスカップ銅メダルという近年アマチュア・ボクシング界における最高のエリート選手であったということである。その意味では粟生(日本フェザー級チャンピオン)よりも一枚上といってもいい。

その両者によるOPBF王座決定戦。巨人戦があるのでG+の実況もない(録画中継)。これは見に行くしかないということで後楽園ホールに向かった。内山のきれいなボクシングがフセイン兄(弟はフライ級の世界ランカー、フセイン・フセイン)にどのくらい通用するかと思っていたのだが、案に相違して、一方的な試合になった。

1Rからフセインがガードを固めて前進、内山がジャブから上下を打ち分けるという展開。しかしフセインは全く手が出ない。「おいおい、お前は大ちゃんか?」と思わずつぶやいてしまうくらい、ガードを固めるだけで何もできず、時たま振るう左フックは内山に軽々と交わされてしまう。

3Rくらいからは内山のワンツーが的確にヒットして、フセインはロープを背にガードを固めるだけ。内山のストレートでフセインがのけぞる場面が目立つ一方、フセインはどうしたと思うくらいコンビネーションが出ない。ボディへのフックが時折当たるだけで、上へのパンチは交わされるかガードされている。

そして7Rから、内山はいよいよパンチをまとめ始める。フセインは打ち合いに活路を見出そうとするが、ほとんど全くクリーンヒットがないまま8Rに入る。ニュートラルコーナーで内山のワンツーが入り、フセインが応戦に入ろうとした時再度右がヒット(あるいは左の返しが入っていたのかもしれない)、フセインがたまらずダウンすると、コーナーからカウント途中でタオルが入った。フセインは「なんで止めるんだ」というポーズをとっていたが、あれは無理だろう。7Rまでの私の採点は70-63のフルマークで内山。

あのタオルのタイミングからして、フセイン陣営に当初から何らかの不安があったことは間違いないところで、おそらく体格的にスーパーフェザーは無理なのではないだろうか。一方の内山はこれで世界ランキング入りが確実だし、世界の一線級をKOしたのだから堂々と世界に打って出ることができる。体格・体調に問題があったにせよフセインを完封したということは、私が考えていたより強いということである。

しかし残念なことに、スーパーフェザーのチャンピオンはWBAがエドウィン・バレロ、WBCがファン・マヌエル・マルケスである。バレロは危険だし、マルケスのファイトマネーは出せないだろう。そして待っているとそのうちにホルヘ・リナレスがクラスを上げてくる。となると、狙い目としては一つ上のライト級か。アマチュアが長かったため内山はすでに27歳。そんなにゆっくりはしていられないかもしれない。

[Sep 9, 2007]

藤本、KOで日本ヘビー級チャンプ [Jul 25,2013]

日本ヘビー級王座決定戦展望(2013/7/25、後楽園ホール)
 藤本 京太郎(角海老宝石、6勝4KO1敗)
Oオケロ・ピーター(緑、21勝19KO6敗)

ランカーが4人しかいなくても、クルーザーにもライトヘビーにもチャンピオンがいなくても、ともかく半世紀振りに日本ヘビー級タイトルが復活する。しかも、オケロ・ピーターは元世界挑戦者である。何はともあれ、楽しみである。

ランキング1位は元K-1選手の藤本。K-1で戦っていたのでリング慣れしているだろうし、勝てばチャンピオンなので張り切るのは間違いないが、そもそもボクシングスキルがどの程度あるのかは大いに疑問である。というのは、日本国内では練習相手がいないし、これまで戦ってきた相手のレベルも高くない。一発決めれば倒せるかもしれないが、試合がこう着した時に打開できるかどうか。

昨年12月のOPBF王座決定戦では、オーストラリアチャンピオンのソロモン・ハウモノに5RTKO負けを喫している。そのハウモノは次の試合で、世界戦経験者のケビン・ジョンソン(2009年ビタリ・クリチコに判定負け)にKO負けしているので、世界との距離は相当に遠いのは間違いない。

かたやピーター。何と言っても世界戦経験者である。2006年オレグ・マスカエフのWBCタイトルに挑戦したが判定負け。マスカエフ以外にも、カリー・ミーハン、シナン・サリム・サンといった世界ランカーと戦っている。

実績ではどう考えても藤本よりかなり上だし、ボクシングテクニックにも差がある。問題は41歳という年齢と、マスカエフ戦の後にブランクがあり、決して世界レベルとはいえない相手にKO負けするなど、かつてのレベルに戻っていないのではないかと思われる点である。

とはいえ、40代で現役というのは特に重量級では珍しくないし、藤本とは身長差・リーチ差があって体格的にもかなり有利である。しかも頭が小さいので、藤本はかなり踏み込まないと届かないだろう。ピーターが細かくジャブを突けば、藤本は近づけないのではないだろうか。

ヘビー級でレベル的には今一歩ということになると、大振りで一発狙いという大味な試合を想像してしまうが、ピーターにはぜひスタイリッシュな試合を見せてほしいものである。ピーターKO勝ちに一票。

日本ヘビー級タイトルマッチ(7/25、後楽園ホール)
藤本 京太郎 O TKO6R X オケロ・ピーター

予想記事を書いていたら、できたら行って見てきたいなあと思った。木曜日の仕事も何とか定時に上がったので、水道橋で下りて後楽園ホールへ。5,000円払って後から2番目の列。後楽園ホールは、考えてみれば内山がフセインをKOした時以来である。 アンダーカードもなかなか面白かったがそれは改めてお届けするとして、メインイベントの藤本vsピーター戦。56年振りの第2代日本ヘビー級チャンピオン決定戦である。場内はほぼ満席。「ほぼ」というのは、アンダーカードを見て帰ってしまった応援団がいて、やや空席が目立ったからである。

まず、青コーナーにオケロ・ピーター登場。後楽園ホールに190cmを超えるピーターが入ると、最後方の席からみてもはっきり分かるくらいでかい。続けて赤コーナー藤本京太郎登場。髪を黄色と赤に染め分けている。個人的にはボクシングなんだから髪を染めちゃいかんだろうと思うが、最近は刺青しててもリングに上がれるので仕方がない。

日本タイトルが懸かるからか、国歌独唱がある。森口博子である。ここ20年くらいはバラエティにしか出ていないように思うが、そういえばもともと歌手である。後楽園ホールくらいならアカペラでやってほしいが、マイクが入るのはテレビ中継だからなのだろうか(金曜日の深夜にTBSで録画放送あり)。

さて試合が始まると、ちゃんとボクシングの試合になっている。体格に勝るピーターが左のゆるいジャブを突きながら前進すると、藤本はフットワークを使って距離を置く。ピーターのジャブは当たらず、かえって藤本のジャブがよく当たる。一発当てるとすぐに足を使って回り込むのに対し、ピーターは追う足がない。

4Rくらいから、ピーターも距離を詰めだしたが、接近しても藤本のカウンターがよく当たる。ピーターは藤本をロープに追い込んで、さあパンチを打とうとするともうそこには藤本はいない。藤本は体重を絞ってきたというだけのことはあって、動きが軽い。また、ちゃんとボクシングができているのには感心した。

5Rまでピーターのパンチはほとんど当たっていないので、採点は藤本だっただろう。6R、このままではいけないと思ったのかピーターはさらにプレスを強めるが、ジャブに鋭さがなく動きも緩慢なので、上体だけが出ている感じ。ジャブだけだったら、同じ緑ジムの竹原の方がよっぽどちゃんとしたジャブを打っていた。

このラウンド終了間際、フック気味の右ストレートが入ってピーターが足をもつれさせ、そこに藤本が連打で追撃するとピーターダウン。さすがにヘビー級のパンチである。ビーターはなんとか立ち上がったが、ストップされてもおかしくないほどふらふらである。残り10秒もなかったが、藤本さらに追撃してピーター再びダウン。レフェリーが止めてTKO。

試合が決まったので、混む前にダッシュで出口に向かう。エレベータが空いていたので滑り込む。「ピーターも強かったんだけどね。今日はスピードがなかったね。衰えたんだろうね。」と言っている人がいたのでよく見てみたら渡嘉敷だった。56年ぶりの日本ヘビー級戦。ともかく試合になっていたので、見に行っただけのことはあったようである。

例によって携帯なのでよく撮れてませんが、ピーターはでかかったです。


藤本vsオケロ・ピーター アンダーカード回顧

藤本vsピーターのアンダーカードはそれぞれに面白く、角海老ジム選手のインタビュー(15分位かかった)を除いては退屈しなかった。

惜しむらくは、あまりボクシングに興味がないであろう角海老応援団(お揃いのTシャツ着用。ヤンキーっぽい)が、ラウンド最中に立ち上がったり、ビールの受け渡しをしたり、トイレに行ったりして、しばしば視界をさえぎられたことである。まあ、MGMでもステープルズセンターでも、同じような人はいるのだけれど。

第一試合 フライ級8R
坂下優友(角海老) ○ 判定(3-0) × マーク・デュラン(フィリピン)

坂下は2011年新人王。デュランは2週間前に急きょ試合が決まったそうだが、なかなかアグレッシブで打たれ強かった。私の採点は78-74坂下。ジャッジもほぼ同じ。坂下はもう少しパンチが切れないとなかなか上は難しいだろう。

第二試合 バンタム級8R
藤原陽介(ドリーム) ○ 判定(2-1) × 久保賢治(角海老)

久保は元K-1選手。藤本、土屋もそうなので、今回はそういう興行だったようだ。2Rにボディーで2度ダウンを奪った久保だが、追い込みきれず、かえって藤本の反撃を許した。クリーンヒットは試合全般を通して藤原が多かった。私の採点は76-74藤原だが、角海老の興行なので久保が取るのだろうなと思っていた。スプリット・デシジョンで藤原。

第三試合 ライト級8R
中谷正義(井岡) ○ KO3R × 土屋 修平(角海老)

実はこの日の隠れメインはこちらだった。両者ともKO率は80%を超え、いずれも日本ランカーという対決。中谷は興国高校出身の24歳だから、井岡・宮崎のWBA軽量級コンビと同級生。スタイルも井岡に似ている。やたらと挑発的なパフォーマンスをやるのがどうかと思うし、実際ノーガードで土屋のクリーンヒットをもらっていた。

最大の勝因は距離の違いで、180cm対170cmの身長差でリーチ差もかなりあった。土屋が強打を打ち込もうと体が伸びきったところに中谷のボディが炸裂し、座り込むようにダウン。再開後もまともにボディの連打を食ってカウントアウト。体の柔軟さにも差があったように思う。この試合後に大阪応援団が退出。井岡もいたらしい。

第四試合 ヘビー級8R
竹原 虎辰(緑) ○ 判定(3-0) × 樋高リオ(渥美)

ピーターと竹原が勝ち残らない限り、この勝者がヘビー級タイトルの挑戦者となる一戦。竹原は7勝3KO8敗3引分け、樋高が10勝8KO1敗と戦績では樋高だが、私は竹原の方に分があると思っていた。キャリアと戦ってきた相手が違うからである。

実際、竹原の右フックで樋高がロープに下がって防戦一方という展開が目立った。樋高もアッパーを決めて応戦したが、体格差もあり試合全般を竹原が支配した。二人とも8Rまで手を出し続けたのは立派だが、残念ながらメインの2人とは差があった。私の採点では78-74竹原。

第五試合 女子4R
高野 人母美(ともみ) ○ 判定(3-0)  × ヨッカオ・ローエイシティジム(タイ)

高野はモデル・ボクサーとかで、180cm近い背の高さ(身長差15cm)、手足の長さは目立った。しかしヨッカオもさすがムエタイの国から来ただけのことはあって、高野の攻勢をしのぐと大振りの左右フックを放って威嚇。これで高野の前進が止まってしまった。

あとは高野が遠距離からジャブを放って4R判定。モデルだから顔が大事なのは分かるが、お客さんはボクシングを見に来ていると思う。とはいっても、この試合が終わって席を立った人もいたから、それでもいいのだろう。女子が2分1ラウンドだということを知ったのは収穫だった。

[Jul 27,2013]

第三試合・土屋vs中谷。手前青コーナー長身の選手が中谷。パフォーマンスが余計だが、なかなかいい選手。

エルナンデスvs井上@大田区総合体育館 [Apr 6,2014]

WBC世界ライトフライ級タイトルマッチ(2014/4/6、大田区総合体育館)
井上 尚弥 O TKO6R X アドリアン・エルナンデス

日本最速6戦目の世界獲得を、井上があっさり達成してしまった。

WOWOWで見た印象では、エルナンデスの前に出る圧力は相当強そうだったので、井上は足を使ってさばいていくと予想していた。ところが、1R始まって前に出たのはむしろ井上。ストレートやフックをボディに当てて、早くも主導権を奪ってしまった。3Rにはヒッティングでエルナンデスが目の上をカットした。

公開採点で3者40-36と発表された5R、傷の具合もあったのかエルナンデスがプレスを強める。このラウンドはちょっと押され気味で、何度かロープ際まで詰められ、クリーンヒットももらっていた。

続く6Rもエルナンデスが前に出るが、井上も接近戦での打ち合いに応じる。打ち合いならチャンピオンのはずなのだが、これまでのダメージもあったのだろう。右ストレートでエルナンデスがダウン、そのままカウントアウトされた。

井上のボクシングのいいところは、ノーガードで遊んでみたり挑発的なアクションをしたりせずに、終始きちんとしたボクシングを見せてくれるところである。この試合でも、左右のガードは最後まで上げていて、不用意な一発をもらわないように注意していた。ボディへの左フックはメキシカン並みで、パンチのキレ、カウンターのセンスもすばらしい。

前チャンピオンとなったエルナンデスは、Boxrecではライトフライ級トップに評価されており、層の薄いクラスとはいえ階級最強クラスの選手である。その相手を、ほとんどワンサイドで倒してしまうのだからすばらしい。昨日の試合を見る限り、井岡よりも上だろう。

最速での世界獲得にそれほどの意味がある訳ではないが、昨日の試合を見せてくれれば文句はない。まだ若いし減量がきつそうなので遠からず階級を上げると思われるが、ロマゴンとやってもいい勝負になるのではないかと思わせるたいへんなボクサーである。

昨日の大田区総合体育館はこの他にも好カードが多かったので、明日はアンダーカードのご報告を。

4戦目日本タイトル、5戦目東洋タイトルに続き、6戦目で世界タイトルマッチに登場した赤いトランクス「モンスター」井上尚弥。


KO勝利で肩車される井上。前チャンピオンとなったエルナンデスは、ほとんどいいところがありませんでした。


それでは、井上vsエルナンデスのアンダーカードのご報告。この他に予備カードとして新人王予選他1試合があったのだが、当り前ながらよく知らない選手だったので割愛します。

第一試合
井上 拓真 O 判定(3-0) X ファーラン・サックリンJr.

宮崎をKOした時はいい選手だと思ったファーランだったが、この日の試合は全く出来がよくなかった。何しろ手が出ない。井上弟の打ち終わりにパンチを合わせようとしてはいたものの、ほとんど空振り。私の採点もジャッジ3者と同じ79-73。

井上弟もキャリアが浅いので仕方ないとはいえ、ほとんどの攻撃が単発でコンビネーションが打てていない。ただし体はできているので、ミニマムとかライトフライなら通用するだろう。これで世界ランクに入ることになるが、日本タイトル挑戦まで少し経験を積んだ方がいいかもしれない。

第二試合
松本 亮 O 判定(3-0) X 久高 寛之

私の採点は76-76ドローだったが、ジャッジの1人は79-73を付けていたので近くで見るのと印象が違ったのかもしれない。久高はナルバエス戦に続く連敗。年もとってしまってちょっと劣化してしまったかもしれない。

フライ、スーパーフライで戦ってきた久高とバンタムの松本では体格が違い、序盤は久高にやる気が見えなかった。ところが、4Rあたりから例の微妙なタイミングのカウンターが当たりだして、体の大きい松本の方が後退した。終盤7、8Rではむしろ久高の方が倒しそうだったが、最後は二人ともバテてしまった。

第三試合
細野 悟 O TKO10R X 緒方 勇希

「バズーカ」細野は例によって手数が少ないがパワーパンチ、対する緒方は19勝3KOの戦績が示す通り、マリナッジ並みの軽い連打で手数が多い。プラス角海老恒例の当たったら大拍手があるので序盤は緒方が押しているように見えたけれども、オープンブロー気味のパンチだからあれでは効かない。

3Rくらいから細野のボディ攻撃が効果を現わして、緒方は後退一方になる。5Rまでの途中採点は48-47緒方だったが、6R以降は全部細野に行っただろう。10R細野の連打で、緒方ダウン。緒方はプッシングを主張したが、再開後につかまりレフェリーがストップ。

第四試合
ローマン・ゴンサレス O TKO3R X ファン・プリシマ

WBCホセ・スレイマン前会長の追悼セレモニー、袴田巌さんへのWBCチャンピオンベルト贈呈式をはさんで、いよいよロマゴン登場。相手はフィリピンの国内ランカー。1R半ばからボディ攻撃を本格化させたロマゴンの圧勝。ただストップは少し早かった印象。

2Rでダウンしたプリシマがそのまま立たないように見えたので、9カウントで立った時には場内から割れんばかりの大拍手。気のせいか、ロマゴンの破壊力はクラスを上げるにつれて弱まってきているように思う。前は顔面一発で相手が戦意喪失していたが、最近はそういうケースが少ないように思う。やはり、階級の壁があるのではないか。

ダブルメインイベント・WBC世界フライ級タイトルマッチ
八重樫 東 O KO9R X オディロン・サレタ

この試合の八重樫は、前の防衛戦の時と全く違って手数が少なかった。まるで、第3試合のバズーカ細野と同様に、挑戦者の軽い連打を浴びながら、前進するだけでパンチは出ないという感じだった。私の採点では3Rまではサレタに行っていた。

ところが、4Rあたりからパワーパンチをボディに叩き込むと、とたんにサレタの手が止まった。このラウンド以降はすべて八重樫のラウンド。そして9R終盤、右ストレートをカウンターで決めると、サレタは前のめりに倒れてカウントアウト。いきなりといった感じで倒れたので、場内は大歓声。

試合後にロマゴンがリングに上がり、「すばらしいチームワークの勝利でした。おめでとう」とメッセージを送る。八重樫は「正直きびしいと思っているが、勝つチャンスが少しでもあるのだから、みっちり練習して、絶対とは言わないができれば勝ちたい」とコメント、またもや場内の大歓声を浴びた。

半世紀前の興行ではないのだから、ファンは日本人が勝てばそれで喜ぶというものではない。強いチャンピオンと強い挑戦者がしのぎを削り、ハイレベルの試合を見せてくれるのが楽しみなのだ。八重樫の姿勢に率直に敬意を表したい。また、勝てる可能性は決して少なくはないと思っている。

[Apr 8,2014]

大田区総合体育館。開門の午後3時頃は雷雨で、盛んに雷が落ちていました。


袴田巌さんに、WBCからチャンピオンベルトが贈られました。中央にいる太った人がスレイマン息子。白いコートが袴田さんのお姉さま。

八重樫vsロマゴン@代々木第二 [Sep 5, 2014]

9月5日金曜日はフライ級世界最強を決める八重樫vsロマゴン戦である。すでにチケットは入手しているが、会場は代々木第二体育館である。

数日前から大騒ぎになっているデング熱の代々木公園からは目と鼻の先で、大橋ジムからは「代々木公園は封鎖されていますが予定通り開催します」とのメールが届いている。ロマゴンと戦わなくてはならない八重樫を思えば、蚊に刺されるのが怖いなどと言ってはいられない。

5時半まで仕事で、会場についたのは6時10分過ぎ。あまりひと気がなかったので、人が集まるのはこれからだろうと思っていたら、すでに会場は8分以上席が埋まっていた。そして、まだ試合開始から10分しかたっていないのに、すでに第一試合が終わってしまっていた。

アンダーカードの結果と感想は改めてお届けするとして、今日はメインイベントの八重樫vsロマゴン戦。

WBC世界フライ級タイトルマッチ(2014/9/5、代々木第二体育館)
ローマン・ゴンサレス O TKO9R X 八重樫 東

試合前の予想では、ゴンサレス優位は動かせないものの、ロマゴンの圧倒的なパワーはミニマム級の頃と比べて相対的に落ちてきているし、戦い方によってはいい勝負できるのではないかと思っていた。この試合は海外でもオッズが出ていて、ロマゴンfavoriteではあるものの2対5程度の接戦とみられていたくらいである。

ところが試合が始まってみると、パワーの差は明らかであった。考えてみれば八重樫自身ミニマム級から上げてきた訳であり、フライ級に上げてからの期間は長いけれどもミニマム当時のような激闘王という試合ではなく、パワーを強化したというよりスピードとタイミングで防衛を重ねてきたからである。

1Rから足を使って出入りしようとはしていたものの、肝心のパンチにそれほど効果があるように見えなかった。ロマゴンは攻撃にばかり目が行くが防御勘も優れており、軽いジャブはもらうけれども大振りのフック系はもらわない。3Rのダウンは大声援を背に攻めてきた八重樫に、軽く左を合わせただけ。八重樫にダメージはなかったが、精神的に大きいダウンだと思った。

4R途中採点は39-36が一者、残り二者はフルマークでロマゴン。ここまでロマゴンの手数が少なく、八重樫も果敢に攻めているように見えたので会場からはため息がもれる。私の採点でも39-36。ただし2Rはダウンさえなければ八重樫のラウンドだったので、それほど一方的という訳ではない印象であった。

途中採点を聞いて八重樫が前に出ようとするが、ロマゴンもプレスを強める。会場からは「八重樫!足使え!」と悲壮な声が飛ぶけれども、八重樫も後退せずに打ち合う。結構まともに入ったパンチもあったが、パワーだけ比べればロマゴンが明らかに上であり、八重樫は徐々に消耗が進む。8R終了時点でコーナーに向かう八重樫の足はふらふらで、もうちょっと無理という感じ。

8R途中採点は79-72が二者、残り一者はフルマークでロマゴン。ここまでの採点でひいき目に見れば八重樫が2R取っていたようにも見えたが、それ以前に最後まで持ちそうもなかった。

9R、ロマゴンのパンチは大振りにはならず、的確に当てて八重樫にダメージを蓄積する。八重樫は逆転を狙って一発に賭けるが、残念ながらクリーンヒットしてもロマゴンの前進は止まらない。コーナーに詰まってふらふらになりながら脱出を何度か繰り返し、最後は赤コーナー近くでダウン。カウント途中で八重樫が手を振って、レフェリーがストップした。

ロマゴンはこれで3階級制覇。WBA/WBO統一王者のファン・エストラーダにはライトフライ級時代に勝っているので、フライ級最強は異議のないところであり、チャンピオンになったとたんに相手がいないことになりそうだ。それとも井上がやるのかなあ。せめてアムナットとやってからにした方がいいと思うけど。

あと気になったことは、八重樫の健闘は本当に大したものだったけれど、「日本で最も勇敢な男」を連呼するのにはやや興ざめした。そんなことは見る人それぞれが判断すればいいことであって、リングアナに押し付けられる意見ではない。八重樫だって、チャンピオンである以上強い挑戦者ともやらなくてはならないことは分かっていることで、大げさに言われたくはないだろう。

「勝てない相手とは戦わない方が賢い」ならば、原田はジョフレと、柴田はサルディバルとやらなかっただろうし、日本でアルゲリョやウィルフレッド・ゴメスを見ることができたのはロイヤル小林のおかげである。 格闘技である以上勝ち負けはあるし、強い相手と戦うこと自体に価値がある。何の世界であっても、最高の相手と戦うことに価値があるのがあるべき姿のはずである。

午後6時過ぎ、夕やみ迫る代々木第二体育館前。あまり人がいないなと思っていたら、すでに会場には80%以上入っていました。


肩車される3階級制覇のロマゴンと応急手当中の赤コーナー。中央にWBCスライマン息子会長。


では、八重樫vsロマゴンのアンダーカード回顧を。第一試合の井上弟は間に合いませんでした。

スーパーフライ級8回戦
松本 亮 O KO2R X デンカオセーン・カオウィチット

1Rにデンカオが左右フックを振るって前進した時には、「今日はなかなかやる気あるじゃないか」と思ったのだが、2R松本のボディ打ちで悶絶。タイ選手のやる気のない時のパフォーマンスをもろに見せてもらいました。もっとも、体格からしてデンカオとはかなり差があった。

デンカオは坂田に勝った時はポンサクレックを受け継いでタイの強いチャンピオンになるだろうと思ったが、亀2、河野、今回の松本とだんだん負け方がひどくなっていくのは残念。これで世界ランクも失うことになりそうだが、まだ誰かの当て馬にされるとしたら悲しい。

松本は、4月の久高との試合があまりぱっとしなかったのだが、今日はすっきりと決めた。これで世界ランキングに入るが、大橋ジムだからナルバエスかクアドラスと当てるのだろうか。現時点で河野より強そうだ。せっかくだから井岡ジムの石田とやってほしいものだが、相手が受けないかもしれない。

ミドル級10回戦
村田諒太 O 判定(3-0) X アドリアン・ルナ

私の採点は97-93。98-92のジャッジとは比較的意見が近かったが、どこをどう見れば村田のフルマークになるのだろうか。

村田の手数が何としても少なかった。おそらく3対1とか4対1でルナが手数で上回っただろう。そして、右ストレートの精度が非常に悪い。オーバーハンドどころかオーバーヘッド(頭上を通る空振り)を連発し、散漫な印象で10Rまで行ってしまった。

ガードをしっかり固めているように見えて結構被弾していたのは、攻撃にばかり頭が行ってしまっているから。相手の打ち終わりに左フックの上下ダブルを入れるだけでもかなり違ったはずなのに、ワンパターンの右ストレート狙いでは相手にも読まれるし、効果が上がらない。それでも勝てたのは体力差。押し合いでは村田に分があった。

初の判定となったけれども、倒せる相手ばかりとやるより今回のような苦戦をして、それを練習で克服していくところにキャリアを積む意味がある。今日の出来ではゴロフキンどころか、オーストラリアあたりの世界ランカーにはとても歯が立ちそうにない。奮起を促したい。

WBC世界ライトフライ級タイトルマッチ
井上 尚弥 O TKO11R X サマートレック・ゴーキャットジム

サマートレックは意外な難敵で、体が小さく頭を下げてガードを固めると急所がすっぽり隠れて、井上も打つところが少なかった。それでも4Rにガードが下がったところに右フックが一閃、早々にダウンを取った時には長くはかからないだろうと思った。

しかしそこからサマートレックが粘る。結構な被弾はあるのだが何とか持ちこたえるし、ボディをがまんするのはデンカオにも見習ってほしいくらいだった。それと、各ラウンドともゴングが鳴ってからセコンドが下がる準備を始め、コーナーにお祈りをしてからおもむろにリング中央に進むものだから、1分間にプラスして10秒以上の休憩時間があった。

ゴングが鳴っている以上井上が攻めて行っても問題ないと思うのだが、その間レフェリーは左手で井上を制していて、サマートレックの用意が整って初めてファイトをかける。会場からは苦笑が聞かれるけれども、レフェリーは最後までこの流儀を通した。

もっとも、11R半ばで唐突に試合をストップしたから、「チャンピオンの方が全然強いんだから多少のことは許してやりなさいよ」ということだったのかもしれない。ただ、インターバル1分間というのはルールなのだから、そこまでレフェリーが裁量してしまうのもどうかと思う。

試合後のインタビューで、井上はフライ級に上げることを宣言、エストラーダとアムナットの名前をあげた。そして、「八重樫さんの心が折れそうな時には、みなさんの声援で後押ししてください」と妙なエール。心が折れるのかよ、と会場からは率直な感想に笑いが起こったのでした。

[Sep 7, 2014]

井上は小さい相手にてこずったが終盤TKO勝ち。相手はこうやって最初の10秒くらい出てこないし、その間レフェリーがファイトをかけないので間延びしました。


村田はもたもたして10R判定。ラウンドガールおのののかちゃんも、こんなにリングに上がらされるとは思っていなかっただろう。


[ミッチーさんからのコメント]
松本の試合は少ししか観たことがないのですが...気が強そうですし身体がありますから楽しみな選手です。
スパーでは井上相手に敵意むき出しで向かっていくそうですね。

村田に関してなんですが...
今回の試合は随分早くからスタミナが消耗していましたね。
『4Rにパンチをまとめたら疲れた...』と言っていましたが、2Rあたりから肩で息をしていたような...
帝拳でのキャンプや、先日ゴロフキンと練習した際も、ロードワークでは一番で走りきるんだそうです。根本的なスタミナは備わっているのかもしれませんが、ボクシングでのスタミナ配分をもっと研究するべきなのかもしれませんね。

井上は『0点』と厳しい自己採点をしていましたが...
僕はこの試合の井上は素晴らしいパフォーマンスに見えました。もっとも、4回か5回に両拳を怪我してしまったらしく、その影響と減量苦もあってか後半はペースダウンを余儀なくされましたが。

そうですか...アムナットとエストラーダの名前を出していましたか。
『陣営はアムナットと交渉する』と報道されていました。
エストラーダの先日の試合ご覧になりましたか!? セグラ戦です。
『やっぱりエストラーダ強い』との声が多いですが、この試合で僕のエストラーダの評価はがた落ちです。
人それぞれ見方は違うでしょうが...

ロマゴンですが...次戦でルイス・コンセプシオンの名前が挙がっているそうです。
しかも帝拳・プロモーションの興行で日本開催との噂...
コンセプシオンは序盤飛ばしますので、“何か”が起こるかも...!?

井上選手の今回の試合は、ラウンドの終盤で仕掛けることが多く、“開始10秒のタイムラグ”とまんざら無関係ではないかもしれませんね。
レフェリーはそれを認めるのではなく、注意するのが仕事だろうと思います。
井上選手はもう少し早く仕掛けることができれば、ダウン後に追随するチャンスが広がるのかもしれませんが。それは今後の課題でしょうか。まぁタラレバですが。


石田 負傷TKO 虎辰 [Dec 27,2014]

ヘビー級8回戦(12/27,住吉区民センター)
石田順裕  O  TKO4R終了  X   竹原虎辰

先週の終わりは大阪に出張していて、27日土曜日は夜の予定が空いた。そういえば石田vs虎辰の試合があったと思って調べたら、会場の住吉区役所はホテルから駅3つだった。仕事が終わったので行って来た。

昔大阪に勤めていた時期もあるし、出張では山ほど行っている大阪であるが、難波より南、堺より北にはほとんど足を踏み入れたことはなかった。今回はじめて住吉区役所(区民センター)に向かったのだけれど、この試合がなかったら行くことはなかったかもしれない。

南海沢ノ町駅から東に歩く。大通りを一つ渡って住宅街を進むと、周囲を圧する大きくて新しい建築物が現われる。住吉区役所である。同じ大阪の区役所でも、その昔仕事をさぼって図書館で本を読んでいた西区役所とはえらい違いである。そういえば新大阪の勤労者センター(ココプラザ、ユースホステルのあるビル)もこんな感じだった。30年前とは大分違うのかもしれない。

興味深く見たのは場内の掲示で、「施設内禁煙!守ってください。以後借りられなくなります」と書いてあったこと。大阪というと、使う方も使わせる方もそんなことに無頓着だったような気がするが、きちんと整理整頓・分煙しなければならないのは当節では当り前とはいえ、今昔の感があった。いまに通天閣周辺も、スカイツリーのようになるのだろうか。

さて、仕事が終わって会場に着いたのは第三試合。当日券3000円を買ってホールの扉を開ける。下の写真のように入るとリングサイドのすぐそばである。けっこう人がいる。1000人収容と書いてあったが、4~500人は集まっているだろう。さすが関西大手のグリーンツダジム主催興行である。当日席は2階のいちばん後ろ。とはいえ、狭い会場なので観戦には全く差し支えない。

第3試合は判定、第4試合は9勝16敗の選手が1RではKO寸前まで追い込まれていたのに、負傷TKOで逆転勝ちし会場は大喜び。第5試合のセミファイナルは東洋ランカーがタイ選手を1RスリーノックダウンでKO。いずれもグリーンツダの選手が勝った。メインイベントは石田順裕のヘビー級3戦目、相手は名古屋緑ジムの竹原虎辰(こたつ)である。

会場のライトが落とされ、演歌のBGMに乗って虎辰登場。あいかわらずがっちりしていて少々のパンチでは応えないという感じ。続いて石田登場。185cmと日本人離れした体格を持ち、オケロ・ピーターほどではないがでかい。リングで虎辰と並ぶと、10cm近く違うように見えた。ということは、虎辰は私と身長体重とも同じくらいということだろうか。

1R、開始早々石田の小気味いいジャブ、ストレートが決まる。軽いヒットのようだがスナップが利いていて、これで虎辰は目の上をカットした。射程外からパンチを当てられて、虎辰は厳しい。とはいえ持ち前のタフネスで打たれながらも前進して、ラウンド終盤には左右フックを当てた。ラウンド全般は石田。

2R、虎辰はさらに前進し、頭を付けての打ち合いに持ち込もうとする。接近するまで被弾はあるが、近づいてしまうとパンチはみるからに重い。石田は足を使って捌こうとするが、見方によっては重いパンチにひるんでいるようにも見える。クリーンヒットは石田の方に多い。

3R、虎辰の前進は止まらないが、レフェリーが傷口を気にするようになる。接近戦では石田のパンチに距離を置いた時のようなキレがない。体自体の強さも虎辰の方があるのか、石田の足が地に着いていないように見えた。虎辰の重い左右フックが当たるけれども、石田もヘビー級慣れしてきたのか極端に足に来たりはしない。ひいき目に見て虎辰のラウンド。

4R、はじめは前のラウンドの流れを引き継いで虎辰のペース。しかし1分過ぎに石田のボディがクリーンヒットして、これが効いてしまった。虎辰は後退して手が出ない。石田はコンビネーションで攻める。打ち合いが一段落したところでレフェリーが入って傷のドクターチェック。ここでコーナーも呼ばれ、再開はされたもののこのラウンド終了で石田のTKO勝ちとなった。

試合後の石田のコメント「虎辰選手の気合いがすごくて、いっぱいいっぱいの試合でした。来年はチャンピオンカーニバルで京太郎選手と戦うので、応援してください。」

虎辰はこれで2連続KO負けとなった。選手層の薄いヘビー級で、戦う相手がいないというのが残念なところ。これで虎辰が引退ということになると、日本ランカーは京太郎と石田だけということになる。せっかく再開された日本ヘビー級だが、このまましりすぼみにおわってしまうのだろうか。

[Dec 29, 2014]

会場の様子。奥はステージになっていて、袖から選手が登場します。携帯のカメラだし、会場が暗いため休憩時間しか写りませんでした。


試合終了後、子供達とリングで記念写真の石田選手。