アイキャッチ画像:自ら撮影したデラホーヤvsホプキンス@MGMグランド

西岡世界奪取    パッキャオTKOデラホーヤ    モズリーKOマルガリト
パッキャオKOハットン    ワルーエフvsヘイ    パッキャオKOコット
ドネアKOモンテイエル    サリドKOファンマ    パッキャオvsクロッティ


西岡、ついに世界奪取

WBC暫定世界スーパーバンタム級タイトルマッチ展望(2008/9/15、パシフィコ横浜)
O 西岡 利晃(帝拳、31勝19KO4敗3引分け)
  ナパポーン・キャットサクサーチョイ(タイ、46勝39KO2敗1引分け)

正規タイトルがバスケスvsマルケス間で1年半以上続いており、あまりの消耗戦にWBCが両選手に休養を命じたことによる暫定王座戦。西岡にとって4年半ぶり、そしておそらく最後のチャンスである。

ウィラポン第4戦以降はスーパーバンタムに上げて、現在8連勝5KOの西岡だが、正直なところ中島吉謙以降はたいした相手と戦っていない。

そのことは2003年にオスカー・ラリオスにTKO負けして以来連勝を続けているナパポーンも同様で、そもそもちゃんと計量した試合自体があまりないのである。ナパポーンが挑戦者決定戦を戦った相手は、同じタイのセーンヒラン・ルークバンヤイ(10回TKO)だが、このセーンヒランは最近武本在樹と引き分けている選手である。

またナパポーンは次の試合で、ジャック・アシスというフィリピン選手相手に8R引分けである。このアシスは、ルークバンヤイやムゾンケ・ファナ(WBOスーパーフェザー)とも戦っているそこそこの選手ではあるが、地元タイで戦って引分けということは、かなり分が悪かったと想像できる。

タイのこの手の選手はそうとうタフだと思われるが、決め手の争いになれば西岡の方が上なのではないか。なんとかここを勝ちあがって、バスケスvsマルケスの勝者と戦うことになれば、それだけで日本ボクシング界にとって快挙となるはずである。



WBC暫定世界スーパーバンタム級タイトルマッチ(9/15、横浜)
西岡 利晃 O 判定(3-0) X ナパポーン・キャットサクサーチョイ

西岡は暫定王座とはいいながら、悲願のタイトル奪取。相手のナパポーンは見たところ減量の影響が出てしまっていて(タイは普段きちんと計量しないので、タイトルマッチでは時々こういうことがある)、西岡の動きに付いて行けなかった。

中盤で余裕が出た西岡が打ち合ってしまったのと、8ラウンド後の採点で差がつまっていたせいで残り4Rが妙にエキサイティングになってしまったが、スピードと技術の差はかなり明らかなように見えた。

西岡な年齢的な限界もあるので、防衛戦などやろうとせず、早くイスラエル・バスケス(正王者)と戦ってほしい。セミでも何でもラスベガスのリングに登場できれば日本ボクシング界にとって快挙である。

パッキャオTKOsデラホーヤ

ウェルター級12回戦展望(2008/12/6、米ラスベガス・MGMグランド)
O オスカー・デラホーヤ(米、39勝30KO5敗) -190(1.55倍)
  マニー・パッキャオ(フィリピン、47勝35KO3敗2引分け) +150(2.5倍)

まあ、確かに元フライ級(112ポンド)のチャンピオンと元ミドル級(160ポンド)のチャンピオンが戦うのだから話題性があるということは分かるが、この試合が双方のファイトマネー合計で数千万ドルという金額に見合う価値があるかというと、私はないと思う。

というのは、そもそもタイトルマッチではない上に、どちらが勝ったとしてもウェルター級最強のボクサーということにはならないからである。仮にパッキャオがデラホーヤに勝ったとしても、それは単にデラホーヤの力が落ちていたというだけのことであって、パッキャオがウェルター級でこれから先、強豪と渡り合うという可能性はゼロである。

ウェルター級の世界レベルの戦いという意味では、来年早々行われるマルガリトvsシェーン・モズリー戦の方が断然価値があるし、パッキャオが本来戦うべき相手はエドウィン・バレロやホルヘ・リナレスだと思う。だから、ある意味この試合は、昔ヘビー級全盛時代の、フレイジャー戦以降のモハメド・アリの試合のようなものかもしれない。

人気者同士を戦わせればビッグマネー・ファイトになるというやり方は、うっかりするとK-1とかのショー的格闘技と重なるものであり、ボクシングの本質とは相容れないものではないだろうか。確かにデラホーヤは不世出のボクサーであったかもしれないが、同じ階級で世界レベルとの戦いが難しいのであれば現役を退くべきであろう。

さて、そんな試合でもオッズが成立している。パッキャオunderdogは致し方ないところだが、数ヶ月前の+250(3.5倍)から+150(2.5倍)に人気を上げている。

確かに、それぞれのVTRを見ればパッキャオの左ストレートが決まると思う向きがあるかもしれないが、デラホーヤの戦ってきた相手はホプキンスやマヨルガ、シュトルムやカスティリェホといった160ポンド級の相手であり、前の試合でようやく135ポンドに上げたパッキャオとでは、破壊力が違いすぎるのである。

したがってこの試合は、デラホーヤがどういう組み立て方をしてくるかで決まる。おそらく、プロモーター兼務のデラホーヤとしては中盤以降に勝負の山場を持ってくると思われ、そうなると判定までもつれ込むこともありうるかもしれない。

しかし、アクシデントがない限りデラホーヤの勝ちは動かず、本来は体力差でKOしなければおかしい。その意味でも、あまり興味を引かないビッグマッチである。



ウェルター級12回戦(2008/12/6、米ラスベガス)
マニー・パッキャオ O TKO8R終了 X オスカー・デラホーヤ

試合前の控え室での映像を見たとたん、デラホーヤは苦戦するだろうと思われた。ウェイトを落としたはずなのに体がだぶついていて、ファイトに必要な筋肉が落ちてしまったことが窺われたからである。以前、ヘビー級チャンピオンとなってからライトヘビー級に戻したロイ・ジョーンズJr.のターパー戦と全く同じケースである。

一方のパックマンは147ポンドの契約に対して143ポンドと無理にウェイトを上げなかったし、仕上がりも前回のディアス戦の出来を維持していた。体をみても、ホプキンス戦のロナルド・ライトやケリー・パブリックのような無理に増量した感じはない。こうなると、番狂わせの条件がほとんど整ってしまうことになる。

それでも、この日の出来でもデラホーヤが勝つことはできたはずで、そのためには、先制攻撃でパッキャオが調子づく前に叩く必要があった。事実、1Rのパッキャオはデラホーヤの射程内に入ることができなかった。ここで打ち合いに持ち込めばデラホーヤのペースとなったはずだし、パッキャオの左をもらって倒れたとしてもラッキーパンチということで済んだ。

それができなかったのは、もしかすると「プロモーター」デラホーヤの意図が働いたのかもしれない。仮に序盤でKOしてしまうと、試合前から言われていたように「ミスマッチ」ということになるし、アンダーカードがほとんど1RKOだったので観客にとっても物足りない。だから2、3Rまでは様子をみてそれから打ち合えばいいだろうと思ったのではないか。

ところが序盤で見てしまったものだから、パッキャオがデラホーヤの距離と動きを見極めてしまい、ヒット&アウェイ(打っては離れ)が余裕を持ってできるようになる。加えて、デラホーヤの足が減量の影響で動かない。4ラウンド以降、両者が左の相打ちとなっても体の大きいデラホーヤの方が効いてしまったのだから、もう話にならない。あとはワンサイドである。

もう43歳になるホプキンスがいまだにきっちり体を作っているのに、デラホーヤにそれができないというのは、やはり選手専業かプロモーター兼務か、ということがあるような気がする。まだ35歳ではあるが、昔ならとっくに引退する年だし、前の試合くらいから反射神経の衰えが隠せない。残念ながら、選手としてのデラホーヤにはもはや世界レベルの力はないということになる。

かたやパッキャオ、今回のビッグマッチの勝ちは見事だが、これから後が難しい。試合前の展望で述べたようにウェルター級でやっていけるとは思えないし、スーパーライト級でも相当の体格差がある。そして再びライト級に落とすとなると、今回のデラホーヤ同様に必要な筋肉が落ちてしまう危険がある。

マルガリトvsモズリー

WBA世界ウェルター級タイトルマッチ展望(2009/1/24、ロサンゼルス ステイプルズセンター)
アントニオ・マルガリト(メキシコ、37勝27KO5敗) -450(1.2倍)
O シェーン・モズリー(アメリカ、45勝38KO5敗) +300(4.0倍)

何とか見に行きたかった試合であるが、行けなかった。そうしたら、なんとWOWOWでタイムリー・オン・エア中継される(もう一試合はリッキー・ハットン!)。すごくうれしい。個人的には、デラホーヤvsパッキャオの倍、楽しみである。

WBAは、前チャンピオンのミゲール・コットからタイトルを奪取したマルガリトをいきなりスーパーチャンピオンにして(マルガリトはすでにIBFを返上している)、ユーリ・クズネンコ(ウクライナ)を新たな正チャンピオンとした。こういうことをしているから、ビッグマネーファイトの世界タイトル離れが起こるのではなかろうか。

それはそれとして、ポール・ウィリアムスが階級を上げた現在、マルガリトがこの階級最強であることは確かである。そしてマルガリトに次ぐ実力者は誰かというと、アンドレ・ベルト(WBC王者)でもジョシュア・クロッティ(IBF王者)でもなく、シェーン・モズリーということも衆目の一致するところであろう。

最近のモズリーはスーパーウェルターでの試合が多く、ロナルド・ライトに僅差判定負け、フェルナンド・バルガスに2連続KO勝ち、そして昨年9月にはリカルド・マヨルガにKO勝ちという実績は、マルガリトを上回る。懸念されるのは37歳という年齢と、ウェルター級の試合でミゲール・コットに押されての判定負けを喫しているということである。

そしてマルガリト、そのコットをKOして獲得したタイトルの初防衛戦ということになるが、すでにこの階級ではWBO、IBFのタイトルをそれぞれ取っているので、実績面では申し分ない。こちらの問題は、名うてのスロースターターであることと、打ち合う相手には強いけれども、動く相手は必ずしも得意としていないということである。

試合はマルガリトが前に出て、モズリーが足を使ってかわし細かいパンチを当てていくという展開が想定される。ここでポイントとなるのは、マルガリトの前に出る圧力にモズリーが耐えられるかということである。モズリーに減量の影響がなければ、マヨルガやバルガスを寄せ付けなかったモズリーのスピードに分があるとみるが、デラホーヤもそうだったように、ある程度の年齢になると減量の影響は顕著に出るようだ。

そうなるとマルガリトということになってしまうが、試合に出てくる以上それなりの体調であると仮定すると、むしろこのオッズならモズリー逃げ切りを買ってみたい。いずれにしても、どちらかの一方的な試合にはならないはずである。



WBA世界ウェルター級タイトルマッチ(1/24、ロサンゼルス)
シェーン・モズリー O KO9R X アントニオ・マルガリト

モズリーに減量苦がなければスピードで上回るだろうとは思っていたが、ここまで一方的な試合になるとは予想しなかった。これで+300(JRA流にいうと、4.0倍)はうれしいオッズ。

こういう展開になった理由をマルガリト側からみると、やはり歴戦のダメージが蓄積しすぎていたのではないか。マルガリトはどんな相手とやっても、相手のパンチをまともに受けて下がらない。シントロンやコットの強打をまともに食らい、なおかつ前に出ていたけれども、さすがにこのスタイルで通すことは難しい。マルガリトも人間だったということである。

モズリーはバルガスやマヨルガ(ともにスーパーウェルター級の元チャンピオン)をKOしているくらいで、1クラス上のパンチ力がある。それでも、マルガリトが十分な試合間隔をとり、ダメージを抜き切って戦ったとしたら、あれほど失速することはなかったはずである。その意味で、マルガリトの適正な試合数は二年に3試合くらいで、ウィリアムス戦以降2年1ヵ月の間に6試合というのは、あの打たれ方からするとちょっと多すぎたのではないか。

一方モズリー側の最大の成功要因は、パンチ力やスピードでなく、インサイドワークだったような気がする。モズリーというと、アップライトスタイルで打っては離れ、ハンドスピードで勝負するのがこれまでのやり方だったはずが、今回はあえて接近し、頭を相手の顔に近づけて嫌がらせ、またクリンチをうまく使っていた。

これは、リングサイド6列目あたりから試合中ずっと立ち上がって指示を送っていた、同じゴールデンボーイ・プロモーションの重役仲間バーナード・ホプキンスのよくやる手であり、おそらくマルガリト対策としてかなり念入りに準備したと思われる(だから、亀田一家のやり方はダメなのである。比較するのもおこがましいが・・・)。

1Rからハンドスピードよりもパワーを重視する作戦をとっていたので、もしマルガリトが万全なら後半スタミナ切れとなる可能性もあったと思われるが、そうなった場合でも何とかごまかせる自信があったのだろう。

もともとシェーン・モズリーは無敗のままデラホーヤに勝って2階級を制覇し(その後3階級まで制覇)、世界最強と評価されておかしくない選手であった。それが一気に評価を落としてしまったのは、2002年のパーノン・フォレストに対する連敗、それも完敗といっていいダウンを奪われての判定負け(初戦)であった。

その後フォレストがマヨルガに連敗したため、マヨルガ>フォレスト>モズリーという評価が確立してしまったが、もともとウェルター級あたりでは安定した成績を示す実力者であり、そうでなければあのロナルド・ライト(3階級王者トリニダードをKO)と接戦できるはずはないのであった。

昨年マヨルガをKOし、今回マルガリトをKOしたことで、再びモズリーの評価が高まることは間違いないが、それではミゲール・コットと再戦すれば勝てるかというと、それはまた別の問題かもしれない。モズリーはどうやら相手による得手不得手がはっきりしており、フォレストに連敗、ライトに連敗と、キャリア5敗のうち同じ相手2人に4敗なのである。

これでコットに連敗すれば3人に2敗ずつで6敗となり、それはそれでモズリーらしいことになる。

パッキャオ、ハットンをKO

IBOスーパーライト級タイトルマッチ展望(2009/5/2、米ラスベガス・MGMグランド)
O リッキー・ハットン(英国、45勝32KO1敗) +200(3.0倍)
マニー・パッキャオ(フィリピン、49勝37KO3敗2分け) -260(1.3倍)

マイナータイトルIBOとはいえスーパーライト級(140ポンド)の試合、これはハットンのベストウェイトである。ハットン唯一の負けであるメイウェザー戦、苦戦したコラーソ戦、いずれもウェルター級での試合であった。普通にやればこのクラスならハットンの勝ちはまず動かないはずなのに、なぜかオッズはパッキャオFavoriteである。

パッキャオにある程度人気が行くのは、デラホーヤ戦の勝利からいって仕方ない。しかしあの試合は、減量や歴戦の疲れからデラホーヤの出来が悪すぎた。1R前の両者の体の違いを思えば、このウェイトの一流選手がパッキャオに手も足も出ないということはありえない。

ハットンももう30歳。マイナータイトルWBUのチャンピオンとして、ビンス・フィリップス、ベン・タッキーといった世界戦常連を相手に防衛を続けた後、コスチャ・ズーをギブアップさせてIBFタイトルを取ったのが2005年。以後、カルロス・マウサやホセ・ルイス・カスティージョといった難敵をKO、メイウェザーにはカウンター一発でKOされたが、しつこく攻めてかなり嫌がられた。

メイウェザー戦後に、やはりマイナータイトルのIBOのベルトで戦っているのは、ハットンの場合主要4団体のベルトでなくても客は集まるし、自他共にチャンピオンと認められるということであろう。なにせ、昨年KOしたポール・マリナッジはIBFのチャンピオンで、ハットンとやるためにベルトを返上したくらいである。

ハットン以外ではWBC/IBFを統一したティモシー・ブラッドリーが強豪だが、現段階ではまだまだハットンの方が上。かねてからデラホーヤのラストファイトの相手として有力視されてきたので、臨戦態勢も十分整っているとみていい。

一方のパッキャオ、デラホーヤ戦では142ポンドで戦っているので、今回もほぼ同じ体で出てくることになる。ハットンはデラホーヤより背は低いが横幅があって頑丈なので、向き合った段階で相当の体格差を認識することになりそうだ。

ライト級でのディアス戦とデラホーヤ戦で過大評価されているパッキャオだが、3戦前にはスーパーフェザー級で、マルケス兄とスプリット・デシジョンという結果だったのを忘れてはならない。デラホーヤ戦では出入りを多くした作戦が図に当たったが、もともとテクニックで勝負するボクサーではない。

”Fat Man”といわれるハットンのコンディションがやや懸念されるものの、underdogで気楽に戦えるのは相当のアドバンテージで、前進してしつこく攻め立てるはず。パッキャオの左がもろに当たったとしてもハットンの耐久力が上回ると思う。パッキャオが12ラウンド耐えることは難しいとみる。ハットンKO勝ちにグリーンチップ。

この試合は、WOWOWで実況生中継される。



IBOスーパーライト級タイトルマッチ(5/2、米ラスベガス)
マニー・パッキャオ O KO2R X リッキー・ハットン

ああ、ハットンあまりにも無策・・・って感じの一戦でした。おそらくハットン陣営としては、デラホーヤ戦はフロック、普通にやれば勝てると思って最初から全開で前に出たんだろうけれど、1Rのパッキャオが要注意なのは昔から決まっているのに、ガードをあんなに下げてアップライトで前に出れば、一発食っても仕方ないでしょう。

正直、パッキャオはよくやっているとは思うけれど、あの大振りのフックが世界水準かと言われたら、それはちょっと違うと思う。ハットンも相手がメイウェザーなら用心していたはずだから、あまりにもパッキャオを甘く見て無策に過ぎた、ということ。私がメイウェザー・シニアなら、前半3Rくらいまでクリンチしてもみ合ってパッキャオの体力を奪いたいなあ。

次はどうやら、復帰路線のメイウェザー・Jrらしい。個人的には、パッキャオがスーパーライト以上のナチュラルウェイトとやるのは体力的に難しい、という見解は変わらない。これで、今年9戦目で初の予想黒星。私に乗って買っていただいた米国在住のみなさん、すみませんでした。

ヘイvsワルーエフ

WBA世界ヘビー級タイトルマッチ展望(2009/11/7、独ニュルンベルク)
ニコライ・ワルーエフ(ロシア、50勝34KO1敗1NC) +155(2.55倍)
O デビット・ヘイ(イギリス、22勝21KO1敗) -185(1.45倍)

当初クリチコ兄弟と戦う予定とされていたヘイが、照準を切り替えてワルーエフに挑戦。勝算はかなり高まったものの、今度はFavoriteで勝って当り前ということになってしまったのはつらいところ。でも、おそらく勝てるはず。

1980年代にライトヘビー級とヘビー級の間に創設されたクルーザー級であるが、当初は190ポンド(86.3kg)リミットであった。このクラスからヘビー級に進出した代表選手は何と言ってもイベンダー・ホリフィールドである。

しかし近年の大型選手の台頭により、この体格の選手がヘビー級で大成することは難しくなった。90年代以降のクルーザー級で無敵であったファン・カルロス・ゴメスはじめ、ワシリー・ジロフ、ジェームス・トニーといった選手は、いずれもヘビー級の壁は厚く、ホリフィールドのように活躍することはできなかった。

こうした中、クルーザー級リミットが200ポンド(90.9kg)に上げられたのが2003~4年。それ以降最強のクルーザー級ボクサーが、このデビット・ヘイである。2007年にジャン・マルク・モルメクをKOしてWBA・WBC、2008年にはエンゾ・マカリネリをKOしてWBOと3団体を統一した後、タイトルを返上した。

クルーザー時代からノンタイトルでは200ポンド超で戦っており、ヘビー級に上げても体調面での問題はない。スピード、パワーとも一級品で、ミドル級あたりのボクシングにパワーアップされた体格がプラスされた印象である。昨年11月にはモンテ・バレットをKOしてヘビー級本格進出を果たしている。並みのヘビー級相手なら、スピードで圧倒するはずである。

かたやワルーエフ、213cm、300ポンド超の体格はヘビー級ボクサーの中でも別格と言っていい。また、クリチコ兄弟でもフルパワーで動くとスタミナ切れを起こすくらいであるのに、この体格で12ラウンド動けるスタミナを持っているのは脅威である。ただし、スピードは全くなく、ナックルがきちんとヒットしないので破壊力も体ほどではない。

ヘイにとっておそらく参考にするのは、2007年にルスラン・チャガエフがワルーエフを判定で下した試合だと思われる。この試合でチャガエフは、自分のパンチはヒットさせてワルーエフを空振りさせ、あまり深追いせずに12Rをコントロールした。ヘイのスピードはチャガエフ以上なので、同様にヒット・アンド・アウェイで戦えば勝つ確率はかなり大きい。

ただし、ヘイ自体が打ち合いを好むので、クリーンヒットが続けば深追いする可能性もある。その場合、ワルーエフの打たれ強さがどのくらいなのか、ワルーエフのカウンターがまともにヘイに当たったら持ちこたえられるのか、たいへん興味深い展開となる。見る側としてはむしろ、ヘイにリスクを冒してほしいところだ。

クリチコ兄弟打倒を公言しているヘイとしては、まず一冠目は楽勝で飾りたいところ。この試合はWOWOWでタイムリー・オン・エア中継される。



WBA世界ヘビー級タイトルマッチ(11/7、ニュルンベルク)
デビッド・ヘイ O 判定(2-0) X ニコライ・ワルーエフ

期待通り、200ポンドリミットになって以降最強のクルーザー級チャンピオン、デビット・ヘイが”ロシアン・ジャイアント”ワルーエフをマジョリティ・デシジョンで下して新チャンピオンとなった。

私の採点は、116-112でヘイ。ただし、1ラウンドは10-10、12ラウンドは10-8とした。ヘイがヒット・アンド・アウェイで深追いしないのは予想していたが、12ラウンドのように一発当てるチャンスがもう少し早い回だったとしたら、どちらにもチャンスがある打ち合いとなったかもしれない。

ワルーエフにしては動きはシャープだったが、それでもヘイと比べると大分遅い。前進は止めなかったものの、クリーンヒットはほとんどなかった。動きの早いヘイ相手にボディを打たなかったのはどうかと思うが、ボディを狙うとガードが下がりすぎるのでそのあたりを気にしたのだろう。

ヘイのパンチをかなり警戒していて、ガードを緩めなかったワルーエフ。実際に12ラウンドではヘイのクリーンヒットをもらって足下が定まらない状態となった。40kg体重が違っても効く時は効くということである。一方ヘイの方も、勝負に徹してリスクは冒さなかった。今回は、ともかくヘビー級のチャンピオンベルトを手に入れるというのが目標だから、賢明な戦法といえるだろう。

さて、今後のヘイの防衛路線であるが、クリチコ兄弟とはやりたがらない連中が名乗りを上げてくることが予想される。ジョン・ルイス、ルスラン・チャガエフ、サミュエル・ピーターといった元チャンピオン、アレクサンドル・ポペトキン、エディ・チェインバースといった新興勢力、トーマス・アダメク、ファン・カルロス・ゴメスなどクルーザーからの転向組との対戦をこなしつつ、クリチコ兄弟とのビッグ・マネー・ファイトを目指すことになりそうだ。

最後に、来週のパックマン・コット戦との比較を少し。確かにパワーでコットが、スピードでパッキャオが上という図式は今回と同様であるが、コットはワルーエフほどスピードがない訳ではない。ワルーエフが今回やらなかった、ボディを打ってパッキャオの足を止めることとか、パッキャオのコンビネーションを交わすディフェンス面でのスピードとか、コットにできてワルーエフにできないことはかなりある。

パッキャオ、コットをKOし7階級制覇

WBOウェルター級タイトルマッチ展望(2009/11/14、米ラスベガス)
O ミゲール・コット(プエルトリコ、34勝27KO1敗) 2.9倍
  マニー・パッキャオ(フィリピン、49勝37KO3敗2分け) 1.5倍

Boxrecによると、コットの持つWBOタイトルの防衛戦となるらしいが、試合自体はウェルター級リミット(145lbs)未満でのキャッチウェイトになる。デラホーヤ、ハットンを連破してきたパッキャオの方がファイトマネーが上なのは仕方ないとしても、強いのはコットのはずである。

もちろん、パッキャオ陣営としては全く成算のない勝負ということではないと考えているのだろう。確かに、ウェルター級の3強、シェーン・モズリー、アントニオ・マルガリト、そしてコットを比較した場合、最も打たれ弱い(体力的にも、ハートの面でも)のはコットである。

パッキャオとすれば、スーパーウェルター級(あるいはミドル級)相手でも打ち合えるモズリーやマルガリトが相手となると、例えハットン戦のようにクリーンヒットがあったとしても、いずれはパワーで打ち負ける可能性が大きい。唯一コットだけが、スーパーライト時代のリカルド・トーレス戦、唯一の敗戦であるマルガリト戦にみられるように、打たれ弱さがあるのは確かである。

とはいえ、コットがマルガリト、モズリーより優れている点もある(でなければモズリーに勝てない)。それは、ディフェンスの堅さとパンチのパワーである。コンビネーションならモズリー、しつこい連打ならマルガリトであるが、一発一発のパンチはコットの方が強くて硬い。また、コットががっちりガードを固めれば、ハットンのように被弾することは考えにくい。

一方で死角もあって、コットはまだ29歳なのだが、年齢的な衰えが上の二人より激しい。おそらく3、4年前がピークで、それ以降の力は全盛期より落ちていると思われる。コット自身もある程度それを自覚していて、この一戦が、かつて素通りされたメイウェザーとのビッグマッチを実現するラストチャンスと考えているはずである。

展開であるが、パッキャオが動いてコットが追うこととなるだろう。パッキャオのチャンスは、ハットン戦と同様、序盤戦で決定打を打ち込むことであるが、コット陣営としてもそれは折込み済のはずで、ディフェンシブにスタートしつつ、ラウンド終盤で早いコンビネーションを入れてみる、ということになる。

パッキャオの右フック、左ストレートは、ハットンのようにノーガードで食わない限りウェルター級のコットには致命傷とはならないはずで、ある程度試合が落ち着いたところで、パッキャオの動きを止めるべく、コットのボディ狙いが始まる。そこで、パッキャオのカウンターと、コットのディフェンスが勝負の鍵となる。

パッキャオとすれば、コットにダメージを与えるにはカウンターしかない。逆に、コットはもともとアマチュア出身で手堅いディフェンスが持ち味である。パッキャオはコットにダメージを与えてようやく五分五分、コットとすれば余計な被弾をしなければパンチ力でもテクニックでも上という意識はあるだろう。

もしパッキャオが試合序盤でダウンでも奪えるようなら、フェザー級時代のマルケス戦のようなクロスゲームになるが、そうでなければ中盤からコットが体力で圧倒することになるだろう。コットの判定が5割、終盤KOが3割。残りの2割が序盤KOでそうなればパッキャオにも半分(1割)くらいのチャンスはある。



WBOウェルター級タイトルマッチ(11/14、米ラスベガス)
マニー・パッキャオ O KO12R X ミゲール・コット

解説の浜田さんがおっしゃるとおり、4Rのアッパーがすべて。あとは体の大きなコットが逆に逃げ回る展開となり、見ていて胃が痛くなった。本当にパッキャオはすごい。今回は素直に脱帽である。

パッキャオが天才であることはもともと認めている。ただし、その天才とは、パンチ力とか、テクニックとか技術的なものというよりも、勝機をつかむ勘であり、その裏づけとなるのはカウンターをとる能力と思っている。今回も、基礎体力ではコットに分があった。事実1ラウンドは、コットが左ジャブでコントロールしていた。

パッキャオ~フレディ・ローチの計算として、私の予想と同様に、五分五分の体力を残して後半に持ち込まれれば不利だという考えはあったと思う。そして、コットにダメージを与えるにはカウンターしかない。だから、あえてロープ際まで下がって打ち合いに誘ってみた。もちろん危険は承知の上である。そして、打ち合いの中で、スピードの差が出てアッパーが決まった。

あとはコットのパワーとスピードが落ちる一方で、パッキャオのパンチは当たるのにコットは当たらないというワンサイドの試合となってしまった。コットは時折り左ジャブをヒットさせるものの、すぐにパッキャオに左に動かれてしまい付いていけない。終盤では苦し紛れにサウスポーにスイッチしたりしたものの、事態を打開することはできなかった。

予想でも触れたように、コットはウェルター級3強の中で最も打たれ弱い。だから、序盤で決め手を奪うことができれば、こういう展開になる可能性はかなりあった。しかし、個人的にはその可能性よりも、コットが中盤までディフェンシブに進めて、体力の差を生かす方向を選ぶ可能性の方が大きいと思ったのである。

コットに誤算があったとすれば、やはりハート面だったという気がする。カウンターをもろに食わなければいいのだから、パッキャオがロープに下がったのをカウンター狙いと見抜ければ、あえて早いラウンドで打ち合いに応じる必要はなかった。あるいは、ウェルター級マイナス2ポンド(0.9kg)の減量が予想以上にきつく、早めの勝負という頭があったのかもしれない。

試合を見ながら思い出したのは、かつてマルコ・アントニオ・バレラがナジーム・ハメドを判定で下した試合。この試合でバレラは、ハメドを深追いすることは最後までせず、徹底してジャブと小さなパンチで対抗した。結果的にハメドが自滅する形でキャリア唯一の敗戦となった。バレラは大好きな打ち合いを封印することにより、難敵ハメドを下したのである。

コットが打ち合いに応じず、前半だけでも徹底してガードして重い左ジャブをヒットさせ続ければ、バレラがハメドを苦しめたように、パッキャオが事態打開に苦しむ場面もあったはずである。その意味では、むしろそうさせなかったパッキャオ~フレディ・ローチの作戦勝ちを誉めるべきなのかもしれない。

パッキャオファンの方々には、おめでとうございました、とお祝い申し上げます。



パッキャオ快挙・読売新聞・コット敗戦の教訓 [Nov 17, 2009] 4団体が乱立し世界チャンピオンのレベルが下がっているのは確かだとしても、マニー・パッキャオの快挙に少しも水を差すものではない。何度もくり返すが、フライ級の世界チャンピオンが徐々にクラスを上げ、ウェルター級で試合をすること自体が驚異的なのである。

主要4団体のタイトルに限定すると、フライ、スーパーバンタム、スーパーフェザー、ライト、ウェルターの変則5階級制覇。フェザーとスーパーライトはマイナータイトルを取っているので、都合7階級制覇とあちらのマスコミは言っているようだ。確かに、フェザー級ではマルコ・アントニオ・バレラを、スーパーライト級ではリッキー・ハットンをKOしているのだから、その主張には十分根拠がある。

スーパーバンタム~ウェルターの6階級は、デラホーヤの達成したスーパーライト~ミドルの6階級と同じだが、パッキャオはそれに加えてフライ級である。ファイティング原田がどんどんウェイトを上げて、柴田国明を倒しガッツ石松も藤猛もKOして、最後は輪島功一と戦ったようなものである(確かに原田JBC会長は輪島並みに体重を増やしてはいるが)。

さて、東洋の生んだ空前絶後のボクサーといっていい今回のパッキャオの快挙について、読売新聞の昨日の朝刊にはなんと一行の記事もないのである(千葉版だけだろうか?)。ボクシングの記事はわずか数行、パックマン・コットの前座で「ユーリ・フォアマンがWBAスーパーウェルター級新チャンピオン」だけである。

確かに、ダニエル・サントスはビッグネームだが、それでも知名度は決して高くない。ユーリ・フォアマンも注目の新進ボクサーだが、サントス以上に知る人は少ないだろう。なぜこのタイトルマッチが記事になってパックマンが一行も載らないのか。おそらくこのタイトルマッチがWBA、パッキャオ・コットがWBOだからであろう(JBCはいまだにWBA・WBCしか認めていない)。

それにしても、いっそのこと全部記事にしないならともかく、サントス・フォアマン>パッキャオ・コットというのはいかなるセンスなのであろうか。読売=日テレといえば帝拳と親しいはずだったのだが、ダイアモンド・グローブの放送終了を受けて、ボクシング担当がいなくなってしまったということなのかもしれない。

さて、昨日の試合、何度考えてもコットの作戦ミスという考えが頭から消えない(ハットンの時もそうだったけれど)。なぜ、カウンター狙いが分かりきっている相手に対して、ムキになって打ち合う必要があったのか。中盤の展開からみて、足が動いて反射神経がまともであれば、十分にアウトボックスできたはずなのである(少なくとも判定勝負になるくらいは)。

もちろん、パッキャオの攻撃は鋭い。しかし、こちらから攻めて行ってカウンターを食らうのと、ディフェンスしつつ避けきれない一撃を許すのとでは、ダメージが倍以上違う。それに、結局最後までコットはパッキャオのボディを打つことはできなかったが、あれだけウェイトを増やしていればボディが弱点でないはずがない。

どうやら、フレディ・ローチは“Money”メイウェザーと戦うのは時期尚早と考えているらしい。次の対戦は2戦して完全決着していないマルケス兄が有力とのことである。どのウェイトでやるかが問題だが、スーパーライト以上であれば、階級への適合状況からみてパッキャオ優勢ということになりそうだ。

それにしても、一発のある相手には無理に打ち合わず、アウトボックスで長期戦に持ち込むべきだというのは、ボクシングに限らず実生活でもかなりあてはまることなのかもしれない。サラリーマンは相手をKOすることよりも、ガードを固めて致命傷をできるだけ避けることを選んだ方が、長期的には損ではないらしい。最近ようやく分かってきたことなのだけれど(定年間近になって・・・)。

ドネア、劇勝!

WBC/WBO世界バンタム級タイトルマッチ展望(2010/2/19、米ラスベガス・マンダレイベイ)
フェルナンド・モンティエル(メキシコ、44勝32KO2敗2引分け) 2.6倍
O ノニト・ドネア(フィリピン、25勝17KO1敗) 1.4倍

長谷川がもしモンティエルに勝っていれば、ドネアとラスベガスで戦えたのかもしれないと考えると非常にもったいない。ショータイムのバンタム級トーナメントも、WBAの決定戦を勝った某正規王者も、この1戦の勝者を差し置いてバンタム級最強は名乗れない。 この2人同様に下のクラスから上げてきたダルチニアンが、バンタム級では体力の壁に苦しんでいる。フライ級の相手なら一発で倒してきたパンチもバンタム級には通用せず、押し合いになると体力を消耗するのはダルチニアンの方である。その点ドネアがどうなのか非常に気になるところである。

結論をいえば、ドネアはバンタム級も苦にしないとみている。まず第一に、ダルチニアンが変則ファイターであるのに対し、ドネアは生粋のパワーファイターである。ダルチニアンのパンチは角度やスピードで相手を翻弄してきたが、ドネアの場合はまさに力ずくなのである。現実に、シドレンコを圧倒して通用するという証拠を示している。

ただドネアにも死角がない訳ではない。相手のパンチを無造作に受けてしまう傾向があることである。幸い、ダルチニアン戦以降で本当のハードパンチャーと戦っていないが、攻めにばかり気を取られて一瞬のスキを突かれれば、危ない場面があるかもしれない。

その意味で、モンティエルというのは非常に怖い相手である。長谷川を一発KOに仕留めたシーンは記憶に新しく、相手がドネアであっても看板で負けることはない。

それでもドネアを推すのは、体格差が一番の理由である。二人とも下から上がってきているが、モンティエルの方が背もリーチもやや下回っている。つまり、ドネアの攻勢をかいくぐってカウンターを決めなくてはならないのである。

そして長谷川のように一発で決まってしまえばいいのだが、おそらくドネアは一発では止まらない。モンティエルのカウンターにひるまず、二の矢三の矢と攻勢を強めるはずである。そうなると、体格で劣勢なモンティエルには苦しい展開となる。



WBC/WBO世界バンタム級タイトルマッチ(2/19、ラスベガス)
ノニト・ドネア O TKO2R X フェルナンド・モンティエル

早くも今年最高のKOシーンといってもいい試合で、ドネアが3階級制覇を果たすとともに、名実ともにラスベガスでメインイベントを張れるビッグマネーファイターに仲間入りした。

2007年にビック・ダルチニアンをKOして世界戦線に飛び出したドネアであるが、その後ダルチニアンがビッグファイトに恵まれた一方で、必ずしも世界最高クラスの舞台に立った訳ではなかった。これは、フライ~バンタムという米国では売り出しにくいクラスであることが一つと、もう一つは強すぎて相手から避けられたということが大きな要因であったと考えられる。

今回も、マンダレイベイという大きな会場でやや空席が目立ったことや、HBO、Showtimeの大手PPVが付かなかったことから、先週末現在のドネアの人気が世界トップクラスではないことが窺われた。とはいえ、前回のシドレンコに続き、今回モンティエルにこれだけ鮮やかなKO勝ちを飾ったことから、今後はMGM、マンダレイベイといった大箱を満席にすることは十分可能であろう。

試合自体は、1Rからドネアがパワーで圧倒しており、モンティエルがどのように巻き返すかというところを、左フックの一発で決めた。しかも、モンティエルの右をよけずにそのまま強烈な左をかぶせたもので、モンティエルにパンチがないならともかく、なかなかああいう芸当はできない。そういえばダルチニアン戦も、強打のダルチニアンのパンチに全く腰が引けていなかった。相当自分の打たれ強さに自信があるのだろう。

試合後のインタビューではしばらくバンタム級で戦うと答えていたが、残念ながらバンタム級でまともに相手できる選手はいない。アグベコやマレス、ダルチニアンではいまやミスマッチになりそうで、ビッグマネーファイトにはなりそうにない。

現時点で勝負になりそうな相手としては、フェザー級のガンボア、ファンマ・ロペス、スーパーバンタムのリゴンドーくらいしか思い浮かばない。西岡には期待したいが、残念ながらファイトマネーで折り合いそうにない。スティーブ・モリターやバスケスJr.を破って統一王者となって待つくらいでないと、なかなかチャンスは来ないだろう。

パッキャオvsクロッティ@カウボーイズ・スタディアム

WBO世界ウェルター級タイトルマッチ展望(2010/3/13、アーリントン、カウボーイズ・スタディアム)
  マニー・パッキャオ(フィリピン、50勝38KO3敗2引分け) -700(1.14倍)
O ジョシュア・クロッティ(ガーナ、35勝20KO3敗) +500(6.0倍)

デラホーヤ、ハットン、コットと連続KOに仕止め、飛ぶ鳥を落とす勢いのパックマンであるが、それにしてもこのマッチメークは危険である。少なくともオッズほどの力量差はなく、クロッティ体力勝ちの目も大いにある戦いとみている。

何と言ってもクロッティは、あのディエゴ・”チコ”・コラレスに引導を渡した男なのである。コラレスはメイウェザー戦以降精彩を欠いてしまったけれど、2000年くらいにはウェルターまでの4階級制覇は堅いとみなされていた選手である。そして確かにライト級までは強かったものの、ウェルター級ではクロッティが撃沈したのであった。

そのクロッティの3敗とは、まず1敗目が世界チャンピオンになる前のカルロス・バルドミルに反則負け。これはバッティングを故意とみなされたものらしい。2敗目がアントニオ・マルガリトに判定負け。これは仕方ない。3敗目は昨年のミゲール・コットとのスプリット・デシジョン。この一戦は序盤でダウンを取られたものの、後半はむしろ押し気味であった。

つまり、マルガリト以外に明確に差がついたことはなく、そのマルガリトにも倒されていないということである。まさに、ウェルター級では一線級の実力者であり、パッキャオの右フック、左ストレートがクリーンヒットしたとしても倒れない可能性の方が大きい。

ここ3戦のパッキャオの相手であったデラホーヤ、ハットン、コットは、体格差があるので倒して当り前という戦い方をしていた。だからパッキャオがカウンターを狙い撃ちできたけれども、今回のクロッティは挑戦者の立場である。倒されなければ自分の市場価値は上がるし、勝ちでもすれば大変なことになる。クロッティ側に、あせって仕掛けなければならない理由はない。

もちろん、フレディ・ローチがOKした以上、クロッティにも穴があるということだし、実際コットにダウンを奪われているように、体が温まらない間にパッキャオが決めてしまうこともありうる。とはいえ、クロッティが守る気になればガードは固いし、手が長いので急所はほとんどカバーできる。パッキャオはあまりボディ打ちは使わないので、守りやすいはずだ。

もう一つクロッティに注目すべきは、全身武器というか、頭が当たることが結構あるということである。コットも目を切って大苦戦したし、バルドミル戦以外にもザブ・ジュダーとの負傷判定など、バッティング絡みの決着が何試合かある。もしパッキャオが負傷した場合、ただでさえ体格的に不利であり、事態を打開するのが難しくなることもありうる。逆に言えば、負傷引分けや負傷判定といった不完全燃焼の試合になるかもしれない。

私のボクシング予想の基本的な考え方は、「技術に差がなければ体格に勝る方が有利」である。確かにパッキャオのここ3戦はすばらしいかったが、本来の階級リミットより低い契約ウェイト(相手に減量の不利あり)という条件面の有利さもあった。この1戦は、クロッティが戦い方を間違えない限り、パッキャオには厳しい戦いとなるのではないか。



WBO世界ウェルター級タイトルマッチ(3/13、テキサス州アーリントン)
マニー・パッキャオ O 判定(3-0) X ジョシュア・クロッティ

期待したクロッティ、きちんと序盤ディフェンシブにスタートして、後半勝負の作戦で臨んだのだが、案に相違してパッキャオの手数とスピードが最終ラウンドまで落ちなかった。ポイント的には完敗だけれど、クロッティとしてはやるだけのことはやったということだろう。

パッキャオのスタミナは、本当に人間離れしている。ウェイトを上げるとほとんどの場合耐久力がなくなり、後半バテることになる。マラソン選手に筋骨隆々な選手がいないのは、それを証明している。ところがパッキャオの場合、どうみてもフェザー級時代のマルケス兄戦などと比べて、より耐久力が増しているのだから不思議である。

アーサー・アブラハムやフェリックス・シュトルム、しばらく前ならマルクス・バイエルといった攻防分離型選手は、相手が3分間フルラウンド攻め続けるほどのスタミナはないということを前提としている。その意味で、クロッティのとった作戦は必ずしも成算がなかった訳ではない。相手が悪かったということである。

もう一つ言えるのは、カウボーイズスタディアムの5万人以上の観客の前で戦うのに、やはりクロッティは大舞台慣れしていなかったということである。その意味でもパッキャオは何万人が目の前にいようと実力を発揮できる図太さを持っており、フェザー級時代からの度重なるビッグファイトの経験がクロッティを上回っていたということであろう。

序盤2Rでクロッティがふらついた点についてWOWOWでも見解が分かれていたが、私の目には、いいパンチをもらったクロッティが「効いてないよ」という意味でダンスステップを踏もうとしたところが、予想外に足に来てしまったように見えた(昔、同じようなことをしたザブ・ジュダーがジェイ・ネイディにカウントアウトされ、コスチャ・チューにKO負けした試合があった)。

これは、パッキャオのパンチの強さと的確さを誉めなければならないが、それに加えて、クロッティが大観衆を目の前にして緊張し過ぎたという要素も考える必要がある。おそらくパッキャオが今回用意した作戦であるボディ打ち(これまであまり見たことがない)と過度の緊張が、後半戦でのクロッティの足の動きとスタミナを奪ったはずで、その意味でフレディ・ローチの作戦勝ちということはできるだろう。

そして、判定としてはワンサイドになってしまったが、この試合はパッキャオにとって見た目ほど楽な試合ではなかったのではないか。最終ラウンドまで手を出し続けるのは誰にとっても楽ではないし、WOWOWで高柳さんが言うほど、クロッティがパンチでダメージを受けたとは見えなかった。それに、過去3戦と比較してもパッキャオは結構クロッティのクリーンヒットをもらっていたように思う。

だから、クロッティとしてはもしかしたら序盤から前に出て行くという選択肢もあったのかもしれないが、これをするとハットン、コットの二の舞になる可能性は大きくなるし、いずれにせよ大舞台慣れしていないクロッティの動きの重さという問題は残るので、何ともいえない。ハットンやコットが取らなかった作戦を選んだということは評価したいと思う。

さて、これでパッキャオがウェルター級でも十分に通用するフィットネスを証明したことは間違いなく、”マネー”メイウェザーが年齢的な衰えをみせるようだと、結構いい勝負になりそうな気もしてきた。しかし本当に正直なところを言うと、日本人が束になって60年以上とれないウェルター級が、フライ級から上がってきた選手にやられてしまうようでは、ちょっと寂しいというのが本音である。

ファンマ・ロペス敗れる

WBO世界フェザー級タイトルマッチ展望(2010/4/16、プエルトリコ)
O ファン・マヌエル・ロペス(プエルトリコ、30戦全勝27KO)
オルランド・サリド(メキシコ、34勝22KO11敗2引分け)

先週はラスベガスと東京で世界タイトルマッチ、今週はHBO、Showtimeのペイ・パー・ビュー両社が好試合の興行を行う。中でも注目は、Showtimeのファンマ・ロペスの防衛戦だろう。

先週長谷川がジョニー・ゴンサレスにKOされた。バンタム級時代の長谷川には期待していたけれど、本来の足を使うスタイルとは異なるKO防衛を続けてしまったせいか、まともに打ち合って玉砕した。残念ながら今のスタイルで戦っていては、ファンマやユリオルキス・ガンボアとは格が違うと言わざるを得ない。

さてそのファンマ。デ・レオンを1回KOして一躍スターダムにのし上がったのは2008年。以来コンスタントに試合を続けており、現在2階級目。ロジャース・ムタガに大苦戦してやや評価を落としたものの、フェザー級では危なげなく防衛を重ねている。

今回の相手であるサリドは、前の試合で対抗王者ユリオルキス・ガンボアと対戦していて、ファンマvsガンボアの実力を比較する上で参考になる。その際の予想で書いたように、ファン・マヌエル・マルケスに善戦して名前を上げ、3階級制覇したロバート・ゲレロに判定勝ち(ドーピングで後に無効試合)。クリストバル・クルスに勝ってとうとう世界チャンピオンとなった。

ガンボア戦では、フラッシュ・ダウンとはいえ一度ダウンを奪っての中差判定負けだから、まずまずの内容。最近はきわめてしぶとい戦い方をするので、ファンマ相手でも簡単には譲れないという見方もあるかもしれないが、今回はファンマが快勝するのではないかと予想している。

というのは、ファンマはサリドタイプとかみ合うように思われるからで、早いラウンド、せいぜい5Rくらいまでにファンマの豪打がサリドを捕らえるとみる。ただし、だからファンマはガンボアより強いかというとそうではなく、まともな打ち合いにはならないガンボアには苦戦するとみているのだが、果たしてどうだろうか。

また、米国コネティカット、フォックスウッド・カシノでは、HBOのペイ・パー・ビューでWBCウェルター級チャンピオン、アンドレ・ベルト対ゴールデン・ボーイ・プロモーションの秘蔵っ子、ビクトル・オルティス戦が行われる。こちらは、今乗りに乗っているベルトが圧勝するだろう。実はベルトは、もしかすると現時点でパッキャオとやってもいい勝負になると考えている。



WBO世界フェザー級タイトルマッチ(4/16、プエルトリコ)
オルランド・サリド O TKO8R X ファン・マヌエル・ロペス

予想どおり両者かみ合った打ち合いになった。ただしダウンを重ねてKO負けしたのはファンマの方で、サリドがロバート・ゲレロに続く大物食いを果たした。

11敗しているサリドだが、ガンボア戦の予想で書いたようにほとんどが10代の頃の負けで、2002年以降の負けはマルケス兄、クリストバル・クルスとガンボアだけである。マルケス兄戦でも(この試合はホプキンスvsデラホーヤのアンダーカードで、現地で見た)、当てるのが巧いマルケス兄にほとんどクリーンヒットを許さなかった。ただし、ほとんど攻めることもできずに判定負けとなったが。

ファンマの弱点がディフェンスにあるのは、かつてのムタガ戦ではっきりしていたが、抜きん出た攻撃力があるためこれまで全勝で来たし、ここも打ち合いなら負けないとみていた。ところが、地元プエルトリコのファンの目の前で、どうやらワンパンチのフロックではないKO負けである。

映像を見ていないので断定はできないが、これでユリオルキス・ガンボア>サリド>ファンマという順番になってしまった。サリドなら、先日長谷川に勝ったジョニー・ゴンサレスといい勝負なので、申し訳ないがファンマも普通のチャンピオンということになってしまいそうだ。

防衛を重ねてきたファンマなので再戦のチャンスはあるだろうが、仮に再戦で勝ったとしても、これまでの評価を回復するのは難しい。ウィルフレッド・ゴメスがいかに偉大だったかということになりそうだ。これを機にクラスを上げて、内山や粟生と戦ってくれたらうれしいが。

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