アイキャッチ画像:自ら撮影したデラホーヤvsホプキンス@MGMグランド

パッキャオvsモズリー    ウラディミールvsヘイ    メイウェザーvsオルティス
ホプキンスvsドーソン    パッキャオvsマルケスⅢ


パッキャオ vs モズリー

WBO世界ウェルター級タイトルマッチ展望(2011/5/7、米ラスベガスMGMグランド)
  マニー・パッキャオ(フィリピン、52勝38KO3敗2引分け) 1.11倍
O シェーン・モズリー (米国、46勝39KO6敗1引分け) 6.00倍

デビッド・ディアス戦以降のパッキャオは神がかり的としか言い様のない快進撃で、このあたりのクラスではメイウェザー以外には止められないだろうというのが大方の見解であろう。また、秋には40歳になるモズリーが全盛期の出来にないだろうというのも、否定しがたいところ。それでもモズリーを推すというのは、もはや意地になっていると見られても仕方がない。(ご存知のとおり、デラホーヤ戦以来5戦続けてパッキャオ負けで予想している)

モズリーのオッズが6倍で、ちょうどこれまでの負けを挽回できるオッズであるというのも一つの要因であるが、もう一つには、最近乗りに乗っていた選手が次々と敗れているということもある。確かにベルトvsオルティスは意外とオッズが接近していたが、ファンマ・サリドはオッズが立たない、つまりアクシデントなしにサリドが勝つとは思われていなかったのである。

こういうケースはツラが続くような気がする。もともと、体格に劣るパッキャオが勝ち進んできたのは、心技体の充実や参謀フレディ・ローチの手腕、対戦相手が名前の割に下り坂であったことなど複合的な要因によるもので、断然のfavoriteに支持されるべきものではない。本人もそういう意味のことを言っているように、常に厳しい相手との戦いであって、勝って当然などというマッチメイクではないからである。

一方、モズリーもあまり強調はできない。年齢のことは置くとしても、最近はフルラウンド動き続けることができない傾向があって、しかもサウスポーはあまり得意とはしていない。若いときから出来不出来の差が大きく、どちらかというと戦い方も横着である。

とはいえ、メイウェザー戦でも序盤に一瞬だけ主導権をとりそうな場面があった。マヨルガやバルガス、マルガリトをKOで沈めているようにパワーはスーパーウェルター上位のものがあり、パッキャオの出来が悪かった場合には主導権を握ることは十分可能である。

逆にパッキャオ側にとって、速さではこれまでの相手の中では上位、パワーでは最上位に当たる相手なので、作戦には一工夫必要だろう。少なくとも、ハットン相手の右フック、マルガリト相手のコンビネーションではモズリーに通じないとみる。モズリーが苦しむのは、むしろ昔ながらの踏み込み鋭い左ストレートのような気がする。

マッチメイク的には、パッキャオにここを勝ってもらってメイウェザーというのが主催者側の希望かもしれないが、そううまく行かないのはこのところの番狂わせが示すとおり。モズリーとしても、同じゴールデンボーイ・プロモーションのホプキンスがさらに年上でがんばっている以上、ここ一番できっちり仕上げてくるはずである。



WBO世界ウェルター級タイトルマッチ(5/6、米ラスベカスMGM)
マニー・パッキャオ O 判定(3-0) X シェーン・モズリー

今年のゴールデンウィークは出勤が多くて、一昨日から昨日までは泊まり。レジャーの予定もなくこの試合だけを楽しみにしてきたのに、多くの方の感想と同様期待外れの試合となってしまった。ファイトマネーをsuspendされるほどではないが。

WOWOWで浜田さんが言っていたようにモズリーは出来不出来の差が大きくて、こういう結果も当然予想された範囲なのだけれども、序盤にダウンを食らって手を出せないで終わるというのは昔のフォレスト戦と同様だし、サウスポー相手にジャブが出ないというのもよくあること。一体何の準備をしてきたのだろうというのが正直な感想である。

確かにモズリーはもうすぐ40歳になる。フルラウンド動けないのはここ1、2年の傾向だとしても、だったら序盤で逆に打って出る作戦もあったはずなのに、左ストレートでダウンを奪われると(このパンチが効いたのだけ予想が当たった)、腰が引けて逃げ回ってしまったのはいただけない。MGMグランドがブーイングだったのもやむを得ない。

35歳を過ぎてからマルガリト、マヨルガ、バルガスをKOしていたのだけれど、さすがにバーナード・ホプキンスのようには行かなかったということで、おそらくこの試合が最後の<本気の>世界戦ということになるだろう。

さてパッキャオ。前のコット戦、マルガリト戦と比べるとパンチに適確さがなかったのは、モズリーが専守防衛だったので仕方がない。そして相手が距離を詰めてこなければ、左右のフックやコンビネーションも当てにくい。だから左ストレートが鍵だと思っていたのだけれど、最初のダウンの後警戒されてしまい続くクリーンヒットがなかった。

その意味では、パッキャオにとってウェルター級はベストではないということで、格下の相手に今日のような試合をしていたらお客さんは徐々に離れていくだろう。だから今後のマッチメークは非常に難しいことになりそうだ。もしメイウェザー戦が組めるとすれば今のタイミングがベストであり、それ以外の適当な相手はなかなか思い浮かばない。

パッキャオが注目されるのは「小よく大を制す」からなので、いまさらティモシー・ブラッドリーやデボン・アレクサンダーと戦ってもどうかという感じである。また体格的にスーパーウェルター以上がきついのはここ数戦で明らかだから、セルヒオ・マルティネスやらポール・ウィリアムスという訳にもいかない。

パッキャオ陣営とすればメイウェザー戦の可能性を探りながら、「名前があって実力は下り坂」路線を継続するならフェザー級時代のライバルであるマルケス兄、モラレス、バレラとの再戦、再々戦あたりが今秋の照準となるのではないだろうか。個人的にはこのあたりのクラスなら、マルコス・マイダナ戦が面白いと思っている。

ウラディミール・クリチコ vs ヘイ

WBA/IBF/WBO世界ヘビー級タイトルマッチ展望(2011/7/2、ドイツ・ハンブルグ)
ウラディミール・クリチコ(ウクライナ、55勝39KO3敗) 1.57倍
O デビット・ヘイ(イギリス、25勝23KO1敗) 2.35倍

久しぶりのヘビー級における大一番である。オッズは拮抗しているもののややクリチコ弟有利と出ている。とはいえ、世界の期待はデビット・ヘイがウラディミールを倒して、ヘビー級に新時代が到来することであろう。

いつからクリチコ時代であるのかについては議論の余地があるが、早く考えるならビタリがWBCチャンピオンとなった2003年(レノックス・ルイス戦の直後)、遅く考えてもウラディミールがクリス・バードを倒し、現在も防衛を続けるIBFチャンピオンとなった2006年ということになるだろう。いずれにせよここしばらくクリチコ時代が続いているということになる。

とはいえ、クリチコ兄弟と一口に言っても、クリス・バード戦の肩の故障とレノックス・ルイス戦のパンチによる目のカットというアクシデントで敗れたビタリに対し、ウラディミールのKO負けは見事に倒されたものである。2003年のコーリー・サンダース戦、2004年のレイモン・ブリュースター戦とも、いまだに記憶に新しい。

確かに、ブリュースータとの再戦、サミュエル・ピーターとの再戦を含んで現在13連勝。全く危なげのない連勝を続けてはいるものの、よく見ると主武器である左ジャブ、右ストレートはそれほど速いパンチではない。スピードのあるヘイをとらえられるかどうかは微妙なところだし、時折見せる左手を前に相手を押さえるようなやり方は、ヘイにとって思う壷だろう。

一方のヘイ。ウラディミールの次はビタリを倒すと豪語するだけあって、新時代のヘビー級盟主としての魅力は十分にある。クルーザー級から上げたところは“リアル・ディール”イベンダー・ホリフィールドと同様だが、当時よりクルーザー級のリミットは10ポンド重い。ワルーエフをぐらつかせジョン・ルイスを倒したように、ヘビー級でも攻撃力は通用する。

むしろ一発の破壊力という点では、見えない角度からフックを打ち込むヘイの方が上ではないかとみている。そして、一発決められた時のウラディミールのもろさは、かつての戦いで証明されているのである。

おそらく試合は、ヘイが連打のチャンスを狙って速くて小さな動きで接近し、ウラディミールがそれをジャブとストレート系のパンチで撃退するという展開になるだろう。そして、ヘイの戦略としてはウラディミールのパンチの帰り際に合わせることになるだろうが、ウラディミールの側がこれに対抗する有効な手段を有するとは考えにくい。

大胆かもしれないが、デビット・ヘイのKO勝ちを予想する。この試合は、日曜日のWOWOWでライブ中継される。



WBA/IBF/WBO世界ヘビー級タイトルマッチ(7/2ドイツ・ハンブルグ)
ウラディミール・クリチコ O 判定(3-0) X デビット・ヘイ

ヘイの動きが本来のものではなく、試合中に腰を痛めたのかと思ったら、どうやら試合前から足と拳を痛めていたらしい。それにしても、クリチコが徹底してヘイのスピードを警戒して、右手をアゴから離さなかったのが印象的だった。ヘビー級の大一番にふさわしく、最後まで緊張感がある試合だった。

クリチコの2mの体格からすると、ラウンドを重ねるごとにスタミナを消耗し後半の動きが鈍るだろうという想定をヘイ陣営はしていたはずで、その意味では後半勝負という作戦もうなづけるのであるが、結果からみると序盤1、2Rにもう少し攻めるべきだったのだろう。

前半のクリンチで上からのしかかられた場面以降、ヘイの踏み込みに鋭さがなくなった。クリチコのジャブもいつも以上にコンパクトだったが、それでも本来のヘイならもう少し左右の揺さぶりができたように思う。クリチコの攻撃はストレート系なので、時折ヘイに動かれてバックハンドブローになっていたように、横の動きに弱い。

それでもクリチコが工夫したのは、ジャブをいつも以上にコンパクトにしてヘイが打ち終わりに右を返す際にうまく肩を使っていたことと、右をディフェンスに使ってヘイの左をほとんど封じたことである。だからKOが難しいことは最初から分かっていたはずで、ともかくヘイをペースに乗せないことに全力を尽くしたといっていいかもしれない。

だから中盤でクリンチした際、クリチコの表情は結構しんどそうに見えた。それがブリュースター第一戦のような急激なペースダウンとならなかったところが、クリチコのクレバーなところであろう。

ただし、クリチコと最後までほとんど互角に戦ったという点で、ヘイの評価は下がらない。クリチコのジャブ、ストレートを上体の動きで殺し致命的なダメージを受けなかったということだけでも、ここ7、8年誰もできなかったことなのである。

惜しかったのは3Rに右を決めた時に、レノックス・ルイスがビタリに与えたようなダメージを与えられなかったことで、今後はヘビー級相手でも一発で決められるような破壊力を身につけることだろう。その意味ではもう少しヘビー級の経験が必要なのと、フック、アッパー系のパンチがほしい。

クリチコ王朝はもうしばらくは揺るがないということになりそうだ。

メイウェザーvsオルティス

WBC世界ウェルター級タイトルマッチ展望(2011/9/17、ラスベガスMGMグランド)
  ビクトル・オルティス(米、29勝22KO2敗2引分け) 6.00倍
O フロイド・メイウェザー(米、41戦全勝25KO) 1.14倍

異次元の強さを持つメイウェザーが約1年半ぶりの試合。形としてはオルティスに挑戦することになるが、オッズが示すとおり実際の王者はメイウェザー。最近パッキャオに人気面で差をつけられており、この試合もパッキャオ・マルケスⅢと比べて注目度は低いが、相変わらずの強さをみせられるかどうか。

オルティスは前回の試合でアンドレ・ベルト相手にupsetでタイトルを獲得。余勢をかってメイウェザー攻略を目指す。何といってもまだ24歳という年齢は魅力で、12R圧力をかけ続けることができれば34歳のメイウェザーが失速することがあるかもしれない。

メイウェザーがここ10年で最も苦戦したのは、デラホーヤとホセ・ルイス・カスティージョ。デラホーヤはウェイト差が主な要因だったが、カスティージョの場合は終始プレスをかけられ続けていた。カスティージョと比較するとオルティスは手数と打たれ弱さの点でやや劣るが、そこを若さとスタミナでカバーできれば面白い。

かたやメイウェザー。こちらは年々試合間隔が開く中で、従来の動きを維持できているかどうかがポイント。かつてスーパーフェザーの王座に並立していたコラレス、カサマヨル、フレイタスが一線を退いた中(コラレスは死去)、メイウェザーも決していつまでも若くいられる訳ではない。

とはいえ、最近の試合ではほとんど被弾することもなく、体にダメージを受けていることはない。シェーン・モズリー戦では一発いいのをもらったが後は試合を支配できており、極端な衰えがない限りアウトボックスするだろう。パッキャオとの最終決戦に向けて、技術の違いを見せつけるはずだ。

メイウェザーの判定勝ちを予想。このあたりのクラスになると、KOまでは難しいとみる。



WBC世界ウェルター級タイトルマッチ(9/17、ラスベガス)
フロイド・メイウェザー O KO4R X ビクトル・オルティス

出張でしばらく映像が見られず、昨日ようやくWOWOWのVTRを見ることができた。

結末については現地でもいろいろ論評されているが、メイウェザーの言うとおり遅かれ早かれKOできたことは確かなように思われた。オルティスはメイウェザーを相手にするにはガードが甘く、しかも打たれ弱い(マイダナ戦も、結局打たれ強さの差が勝敗を分けた)。3Rまでにかなり痛めつけられたような印象を受けた。

そもそも、ラウンド開始のゴングが鳴ってから終了のゴングが鳴るまでは、戦闘態勢になければならない。リング上でパフォーマンスすることはもちろん、やたらとグローブを合わせたりバッティングやローブローでいちいち謝ることは、不要なだけでなく今回のような結果を招く危険性がある。

レフェリーはルールに則った試合を行うことと、選手の安全管理に責任を持つべきではあるが、戦っている選手は相手に対する安全管理の注意義務はない。スポーツマンシップというのはあくまでマナーの問題であって、ラウンド中であってレフェリーが制止していなければ、選手が相手を殴るのに躊躇する必要はない。

だから個人的にはメイウェザーのKO勝ちに全く異議はないのであるが、さてメイウェザーの力に衰えがみられないのかという点では、やや首をひねるところがある。

もともとメイウェザーのボクシングは横着であり、瞬間的に素晴らしい動きをする以外は相手に打たせて当たる寸前で見切ってかわすという戦法をとることが多かった。ところが今回は、オルティスの体格ということもあったのかもしれないが、足を止めてまともに打ち、早めにダメージを与えてしまおうという姿勢がみられた。

一方でオルティスに攻められる場面では、まともにもらうことはなかったにせよ、勢いに押されるような場面もみられた。そもそもメイウェザーは、相手の頭すら当てさせないディフェンスができたはずなのである。その意味では、もしかするとメイウェザー自身の全盛期は過ぎてしまったのではないか。

もちろん、ディフェンス力が落ちた点は攻撃力のアップで埋め合わせるというのならば、それはそれで今後の展開が非常に楽しみではあるのだけれど、さて今回の出来でパッキャオと戦った場合、間違いなく勝てるとはいえないような気がする。確率的にいうと、先月までは90%メイウェザーといえたのだが、60%くらいに下がったというのが今回の戦いをみた印象である。

ホプキンスvsドーソン

WBC世界ライトヘビー級タイトルマッチ展望(2011/10/15、ロサンゼルス・ステイプルズセンター)
  バーナード・ホプキンス(米、52勝32KO5敗2引き分け) 1.9倍
O チャド・ドーソン(米、30勝17KO1敗) 1.9倍

老いてますます盛んなホプキンスだが、チャド・ドーソンが本来の調子であれば若さと体力の差が出る。46歳vs29歳の年齢差は如何ともしがたいとみるが、さてどうなるか。

30代後半でミドル級の4団体を統一したホプキンス。まだ誰もこの偉業に追いついた者はなく、少なくともあと4、5年はそれに近付く者すら現れないだろう。その後クラスを上げて、アントニオ・ターバー、ロナルド・ライト、ジョー・カルザゲ、ケリー・パブリック、ロイ・ジョーンズらと戦い、遂にジャン・パスカルを破ってWBCのライトヘビー級の王座を手にした。

確かに40を超えてばりばりの一線級と戦うこと自体驚異的だし、敗れたカルザゲ戦もダウンを奪ってスプリット・デシジョンだから評価を下げるべきではない。それでも、ミドル級時代の底知れない強さまではないのではないか。

というのは、ミドル級時代は自らの強さに自信を持っているので、ある意味どこからでも行けるという横着な戦いぶりであった。ジャーメイン・テイラー戦ではそこを逆に突かれる形となったが、ライトヘビー級に上げてからは、常に一杯一杯の試合をしているように見えるのである。

2度のパスカル戦でも、私が見る限り、ペースを握られたら押し切られてしまうと思っているかのような余裕のない戦い振りに思えた。ディフェンスは堅いしパンチはハードなので自分のペースになればもちろん強いが、そう簡単には勝てないということが自分でも分かっているのではないか。

かたやドーソン。かつては若手のスーパースター候補として脚光を浴びたけれど、ターパー戦、ジョンソン戦あたりから切れ味が鈍くなり、とうとうジャン・パスカルに初めての敗戦を喫した。一度沈んだところからの挽回は簡単ではないが、何しろまだ29歳なのである。

もともとスピードスターとして売り出した選手で、動きのスピード、ハンドスピードともホプキンスを上回る。変に色気を出さずに12Rアウトボックスするつもりで戦えば、いまのホプキンスでは捕まえ切れないのではないかとみる。

ハンデも五分というのはホプキンスに人気が集まりすぎで、これならドーソンの狙い目だろう。ドーソンの判定勝ちに1票。ターバー戦以来買い続けてきたホプキンスだが、さすがにここは厳しいとみている。



WBC世界ライトヘビー級タイトルマッチ(10/15、ロサンゼルス)
チャド・ドーソン O TKO2R X バーナード・ホプキンス

チャド・ドーソンのタックルでホプキンスが試合続行不能を訴え、なんとTKO負けになってしまった。実況でジョーさんが、①ドーソンの反則負けか、②ノーコンテスト、とコメントしていたが、可能性としては当然、③ドーソンのTKO勝ち、もあった。最近の例ではイーグルがタイトルを失った試合のように、不可抗力で試合続行不能となればできない側のTKO負けである(4Rまで引分けとなるのは、「偶然のバッティング」)。

ただし問題は、ドーソンの行為に反則性はなかったかということで、今回の場合意図的にリフトアップしており、反則をとられてもやむを得ないところ。だからレフェリーの措置としては、ひとまずホプキンスに休憩を与え、その上で続行できなければTKO負けにするという判断が妥当であったと思われる。

それをしなかったのは、レフェリーがサッカーでいうところの「シミュレーション」、つまりホプキンスが意図的に反則をもらおうとしたという判断ということだが、その判断にもやはり無理がある。ホプキンスが持ち上げられて落とされたのは事実であるし、肩から落ちていないとしても腰やひじを打って肩にダメージを負うことは十分にありえることである。

ホプキンス陣営としてはWBCに提訴ということになるだろうし、その裁定はおそらくノーコンテスト=王座移動なしになるような気がするが、さて再戦した場合にホプキンスに勝ち目があるかどうかは微妙なところ。というのは、今回の試合を12R続けたとしてもドーソン優勢は変わらなかったはずだし、ホプキンスにもそれは分かっているはずだからだ。

それは、予想記事で書いた「年齢差」に加えて、「体格差」が歴然としていたからで、ライトヘビーの経験が長いドーソンの方が体の大きさ、厚さ、ふところの深さで上回っていた。だからドーソンはホプキンスの右を警戒しながらも、ノーガードで打たれなければ大丈夫と思っていたような気がする。

ホプキンスがこれまで長くこのあたりのクラスで君臨してきたのは、常に相手に対して体格的アドバンテージを有していたからである。パスカルからタイトルを取れたのも、もともとパスカルがスーパーミドルの選手で体格的にはホプキンスの方が上であった要素が大きい。

私はホプキンスのファンなので、このあたりで第一線から退いてもらいたいと思うのだが、さてどうなるだろうか。

パッキャオ・マルケスⅢ

WBO世界ウェルター級タイトルマッチ展望(2011/11/12、米ラスベガス)
O マニー・パッキャオ(53勝38KO3敗2引分け) 1.12倍
  ファン・マヌエル・マルケス(53勝39KO5敗1引分け) 6.00倍

パッキャオ・マルケスもいよいよ3度目の戦い。2004年のフェザー級ではマルケスにやや分がある引分け、2008年のスーパーフェザー級ではパッキャオのスプリット・デシジョン。そして今回はウェルター級。ウェイト的にどちらがフィットしているかというと、やはりパッキャオということになるのではないか。 戦績を書いていて気がついたが、両者ともに53勝、KOの数もほとんど同じ。マルケス兄は、オルランド・サリド、マルコ・アントニオ・バレラ、ホエル・カサマヨル、ファン・ディアス、マイケル・カチディスらに勝ち、フレディ・ノーウッド、クリス・ジョン、パッキャオ、メイウェザーに敗れている。ただし、ライト級を超える試合での良績はない。

かたやパッキャオのライト級超の試合はいずれも圧勝。デラホーヤ、リッキー・ハットン、ミゲール・コット、アントニオ・マルガリト、シェーン・モズリーをいずれもKOないし一方的な判定に下している。世界戦での負けは、1999年のメッグン戦(フライ級)、2005年のエリック・モラレス第一戦(フェザー級)までさかのぼらなければならない。

この試合は、ウェルター級タイトルマッチ144ポンド契約で行われるとなると、パッキャオの方がよりフィットしているのではないかというのが常識的な判断だろう。特に最近の試合では、マルケスがいずれも激戦で打ちつ打たれつの試合、パッキャオはほとんどまともに打たせていないため、ダメージの蓄積度もかなり違う。

ただ一つパッキャオに懸念材料があるとすれば、マルケスをやや苦手としている点であろう。第一戦の中盤以降は完全にマルケスペースだったし、第二戦でもカウンターをもらいたたらを踏む場面があった。いずれの戦いでもダウンを奪っているのだが、KOまで追い込むことはできなかった。

現在各階級を通して、最も負けそうにないのがパッキャオとセルヒオ・マルティネスと思うのだが、マルティネスは前回のダレン・ベイカー戦で大苦戦した。ボクシングには相性というものがあって、ベーカーがポール・ウィリアムスとやればおそらくウィリアムスの圧勝だろう。パッキャオもマルケスにやや相性が悪いので、カウンターを決められる場面は出てくるはずである。

それでも、ウェルター級にフィットしたパッキャオとライト級のマルケス兄では、最後は体力の差が出ると思う。パッキャオが判定勝ち。終盤でストップする可能性も少なからずありそうだ。

この試合は日曜日の昼、WOWOWでライブ中継される。しかし私は、出張に出ているため当分見ることができない。断腸の思いとはこのことであろう。



WBO世界ウェルター級タイトルマッチ(11/12、ラスベガス)
マニー・パッキャオ O 判定(2-0) X ファン・マヌエル・マルケス

ようやく今朝早くに録画を見ることができた。私の採点では115-113パッキャオで、ジャッジのデイブ・モレッティと同じ。各ラウンドの採点もほとんど同じなので、あるいはテレビと同じ角度から見ていたのかもしれない。

パッキャオが過去数戦のように攻められなかったのは、やはりマルケスを苦手としていることが大きな要因と思われる。他のボクサーのパンチにはひるまず前進するパッキャオが、マルケスの左アッパーとボディへのフックで動きを止められた。アッパーで口の中を切り、レバーへの左フックが再三にわたり決まった。試合全般を通じて、クリーンヒットではマルケスの方が多かったのは間違いない。

フライ級からウェルター級まで増量したパッキャオの弱点がボディだというのは、対戦相手にも見当がつくはずなのだが、これまでの相手にそれができなかったのは、一つはパッキャオの右フックが速いから、もう一つには相手にとってパッキャオは小さいので、ボディを打ちにくいということがある。

実際に、マルガリトのボディでパッキャオの動きが止まった場面があった。その際にマルガリトが追い打ちをかけられなかったのは、下手をすればリッキー・ハットンの二の舞になるからである。ところが、マルケスはパッキャオ同様動きが速いし、体のサイズ的にもボディを打ちやすい。

かといって、この試合マルケスの勝ちと判定できるかというと、ちょっと首をひねるところ。Fightnewsのアンケートをみるとマルケス勝ちという視聴者が多いのだけれど、各ラウンドが独立した10ポイント・マスト・システムという採点方法をとるのであれば、やはりマルケスの手数は少なく、試合全体の主導権はパッキャオにあったと思われる。

各ジャッジの採点も私と同様、8Rまではイーブン(ジャッジの一人だけ2ポイントパッキャオ)で、最後の4ラウンドで差がついた判定となっており、9R以降お互いにクリーンヒットが少なく、手数とアグレッシブでパッキャオが上回ったといえる。タイトルマッチとしてはマルケスが挑戦者なので、勝つためにはもう少し手数が欲しかったところだろう。

とはいえ、向かうところ敵なしだったパッキャオと接戦の判定という結果は、マルケスの大健闘といていいだろう。逆に言えばパッキャオの弱点として、体が同等あるいは小さな相手でスピードが五分だと、なかなか局面を打開できないという点が明らかになったといえる。

その意味では、この日のセミファイナルに登場したティモシー・ブラットリーやアンドレ・ベルト、ましてやフロイド・メイウェザーと戦った場合には、相当厳しい展開になりそうだ。

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