アイキャッチ画像:自ら撮影したデラホーヤvsホプキンス@MGMグランド

サリドvsロマチェンコ    パッキャオvsブラッドリーⅡ    メイウェザーvsマイダナ
アムナットvs井岡    マルティネスvsコット    ラッセルvsロマチェンコ
カネロvsララ    メイウェザーvsマイダナⅡ    ドネアvsウォータース
パッキャオvsアルジェリ    ナルバエスvs井上


サリド、プロの意地を示す

WBA世界ウェルター級タイトルマッチ展望(2014/3/1、米テキサス・アラモドーム)
  オルランド・サリド(40勝28KO12敗2引分け) 4.5倍
Oワシル・ロマチェンコ(1戦1勝1KO) 1.2倍

現時点でのフェザー級最強は、私としてはジョニー・ゴンサレスを推すけれども、オルランド・サリドも強いチャンピオンであることは間違いない。

12敗の多くはキャリアの初期に喫したものであり、過去10年の敗戦はファン・マヌエル・マルケス、ユリオルキス・ガンボアなど一線級が相手である。ファンマ・ロペスには2度KO勝ちしているし、ロバート・ゲレロにも勝っている(ドーピング違反でノーコンテスト)。

そして前の試合の「オルランド対決」クルス戦も、実力の違いを見せつけた勝ち方だった。本来ならばさらなるビッグマネー・ファイトであるジョニー・ゴンサレスやノニト・ドネア戦を目指すところなのだろうが、あえてアマチュア・エリートであるロマチェンコとの対戦を選んだ。

サリドとしては、仮に負けたとしても商品価値がそれほど落ちることはないし、もし勝てばさらに評価が上がるという意味でおいしいマッチメイクなのかもしれない。また、見る側にとっては、ロマチェンコと他の一流選手とを比較するものさしとして、サリドは非常に有効である。

個人的には、マイキー・ガルシアに一方的に敗れたことで、サリドの現時点の力はリゴンドー、ドネア、ジョニゴンよりも確実に下とみている。それでも、ファンマやポンセ・デ・レオンよりは上だし、レオ・サンタクルスともいい勝負だろう。

一方のロマチェンコ、何しろオリンピック2連覇だから期待は非常に大きいのだが、プロ1戦しかしていない。相手のラミレスも世界ランカーとはいえ一線級という訳ではなく、実力は未知数というのが現時点の評価だろう。ボブ・アラムの目論見としては、ドネア、リゴンドーと絡ませたいのだろうが、ここは試金石である。

最近の日本では、井上や村田といったアマチュアから転向した選手が、プロのチャンピオンを寄せ付けない試合をしている。世界的にそうした傾向が続くとみるのは早計かもしれないが、サリドが超のつく一線級でないことも確かだ。ロマチェンコの判定に一票。



WBO世界フェザー級タイトルマッチ(3/1、テキサス)
オルランド・サリド O 判定(2-1) X ワシル・ロマチェンコ

私の採点は144-144ドロー。最終回10-8を付ければロマチェンコだなと思っていたのだが、意外と点差が開いてサリドの勝利。

WOWOWでのジョーさんのコメント、「どこがハイテクなんでしょうかね。2戦目で世界というだけの試合を見せてくれませんでした」がすべて。試合通してサリドの泥臭いインファイトに巻き込まれて、ロマチェンコはほとんどクリーンヒットはできなかった。

ロマチェンコがあと1~2戦でもキャリアを積んでいるか、あるいはセンサク(3戦目で世界獲得)並みのパワーがあれば、今日の試合も勝てたはずである。ところが実際は、サリドの突進を持て余し、少なくとも力の差を見せることはできなかった。

こういう試合をみると、最短での世界獲得に何の意味があるのか全く疑問に思う。観客が望んでいるのは強敵相手に優れたパフォーマンスを見せてくれることであって、これまで何試合のキャリアがあるのかにはほとんど関心はない。仮に今日接戦で判定をものにしたとしても、センサクとの迫力の差は歴然としていた。日本のなんとかオカいうボクサーも肝に銘じてほしいものである。

さて、試合全体を通して言えることは、サリドが本気でロマチェンコを止めにかかったということである。想像だがウェイトオーバーも承知の上でやったことで、タイトルよりも、「昨日今日プロになったボクサーに、目に物見せてやる」という意地で戦ったのだと思う。そう思わせた時点で、また相手の本拠アラモドームで戦うという時点で、ロマチェンコには慢心があったと思う。

聞くところによると、初戦で世界チャンプ相手でもいいと言っていたそうである。相手がWBAとかWBOのバンタムならともかく、サリドは一線級である。あるいは前評判のとおり、ロマチェンコがアマチュア史上最強であれば問題なかったかもしれない。しかし今日の出来をみる限り、アマルールで戦ったとしてもリゴンドーに勝てるとは思えない。

個人的には、トップランクの金メダリストプロモーションには大きな疑問符が付いていたけれど、これでその予感が正しかったことがよく分かった。プロだろうがアマだろうがボクシングの本質には変わりがなく、限られた相手で戦うアマチュアが、その戦績のみでプロよりも評価されるのはおかしいということである。

もちろん、アマチュアで優れた戦績を残した者がプロでの経験を積めば、一流の選手となる可能性は大きい。しかし、アマチュアでの経験がそのままプロで通用するはずがないのである。その意味では、ゾウ・シミンが層の薄いフライ級とはいえ、そのまま世界で通用するかどうか(“ハワイアン・パンチ”ブライアン・ビロリアとやるという噂もあるが)は大いに疑問だと思っている。

パッキャオ・ブラッドリーⅡ

WBO世界ウェルター級タイトルマッチ(2014/4/12、米ラスベガス)
Oティモシー・ブラッドリー(米、31戦全勝12KO) +160(2.6倍)
  マニー・パッキャオ(比、55勝38KO5敗2引分け) -200(1.5倍)

Showtime+ゴールデンボーイ vs HBO+ボブ・アラムの冷戦により、パッキャオの相手が限定されてしまっている。本来であれば、メイウェザーはもちろん、ブロナー、マイダナ、ダニー・ガルシア、アミール・カーンなど、ウェルター近辺の錚々たるメンバーが候補に挙がってもいいところなのに、ブラッドリーとマルケス兄くらいしか相手がいないのが残念である。

さて、前回の対戦が微妙な判定だったことで組まれた再戦であるが、それではパッキャオが明らかに勝っていたかというと、そうではないと思っている。少なくとも、パッキャオはブラッドリーからダウンを奪ってはいないし、ラスト2ラウンドは明らかにブラッドリーが取っていた。シンシア婆さんが絡んでいたためミスジャッジとの評価もあるが、スプリット・デシジョンとなっておかしくはなかった。

その後、ブラッドリーはマルケス兄を完封しており、かたやパッキャオはマルケス兄にKO負けしているのだから、今回はブラッドリーが明白に判定をものにするだろうと考えるのが机上の計算である。ところがオッズはパッキャオ。人気があるからといえばそれまでだが、それだけでないのはご存じのとおり、ブラッドリーのプロボドニコフ戦があったからである。

パッキャオのトレーナーであるフレディ・ローチが、ジョーク半分ではあるが「ブラッドリーはプロボドニコフに壊されたんじゃないの?」とコメントしている。確かに、ブルファイターであるプロボドニコフとまともに打ち合い、13R以降があれば明らかに倒されていたと思われるブラッドリーが、かつてのように負けない強さを維持しているかどうかは課題といえるだろう。

ただ忘れてはならないのは、ブラッドリーはプロボドニコフ戦の後にマルケス兄と戦っていることである。例によって安全運転、勝利最優先のつまらない試合ではあったものの、全く危なげがなかったことは認めざるを得ない。となると、今回も同じような結果になる可能性の方が大きいと思っている。

パッキャオの試合の傾向として、的の大きい相手には非常に強みをみせ、圧倒的なパワーでねじふせてしまう(ハットンとかマルガリト)のだが、体格差がなく動きの早い相手を圧倒したという試合はそれほど多くはない。その意味では、前回のリオスは前者のケースだし、ブラッドリーは後者である。

あえて言ってしまえば、勝負最優先のブラッドリーと打ち合いを望むパッキャオでは、もともと噛み合わないのである。その噛み合わない相手と、プロモーターの関係で何度も戦わなければならないのが気の毒ではある。パッキャオが倒せば痛快だろうが、やっぱりブラッドリーが判定をものにしそうだ。



WBO世界ウェルター級タイトルマッチ(4/12、ラスベガス)
マニー・パッキャオ O 判定(3-0) X ティモシー・ブラッドリー

私の採点も116-112パッキャオ。しかし内容的には、ブラッドリーが勝手に負けた印象で、パッキャオが強さを見せたとは決して言えない試合であった。

5Rあたりにブラッドリーがコーナーに戻る足がおかしかったのは気付いていたが、試合中のアクシデントというよりも、慣れないスタイルで開始早々スタミナを使ったツケが回ってきたというのはうがち過ぎだろうか。マルケス戦の緻密なボクシングではなく、プロボドニコフ戦の大味なボクシングが一試合おいて再現されたようだ。

もともとブラッドリーのようなボクサーは、客にどう見られようが勝利最優先のつまらないボクシングをするのが持ち味であって、大して効かないパンチを単発大振りで振るったところで効果は知れている。1Rからパッキャオと正面から押し合い、いいカウンターを入れてはいたものの、それでパッキャオが倒れそうだったかというとそうではなかったろう。

一方のパッキャオ。同じウェルター級なのに、ジョシュア・クロッティ戦のようなノンストップの攻撃をかけることができなかったのは、やはり年齢からくる衰えではなかろうか。途中でブラッドリーの動きがおかしいのは気付いたはずなのに、追い打ちをかけるどころかカウンターをもらわないのが精一杯だった。

パッキャオの本当にいい頃は、相手がガードしようが体の動きでディフェンスしようが、それをかいくぐって強打を決めていた。今日ほとんど出なかったのは右フック。いつものブラッドリーには難しいパンチでも、今日のように意地になって前に出てくるならば右を合わせられたはずなのに、出なかった。左ストレートは、やはりマルケス戦が響いたのか踏み込みが浅い。判定は間違いないものの、見ている側には欲求不満が残る試合だった。

ブラッドリー第一戦、マルケス第四戦連敗の後、これで連勝。ブラッドリーに借りを返して完全復活と言いたいところだが、残念ながらクラス最強には程遠いと言わざるを得ない。トップランクで試合する以上相手が限定され、次はマルケスvsアルバラドの勝者が有力だろうし、それならどっちが出てきても勝つだろうが、マイダナやブロナー、キース・サーマン、ましてメイウェザーとははっきり差がついてしまったように思う。

現状でいい勝負と思われるのは、来週行われるIBFウェルターの両者とアミール・カーン。ただしプロモーターの関係もあり、実現するかどうかは不透明である。今日のアンダーカードもそうだったが、トップランク傘下の選手はぎりぎりの勝負をしていないだけ、GBP傘下の選手より弱いのではないだろうか。

一方のブラッドリー。明白な判定負けとはいえ足を痛めたという言い訳がききそうだから、また出てくるだろう。ただし、プロボドニコフ戦とか今回の戦いをするなら、このクラスではきつそうだ。そもそも筋肉を付ければパワーパンチが打てるようになる訳ではない。デボン・アレクサンダーもそうかもしれないが、パワーがない選手がクラスを上げるのは考えものだと思う。

メイウェザーvsマルコス・マイダナ

WBA/WBC 世界ウェルター級タイトルマッチ展望(2014/5/3、米ラスベガス)
OWBC王者 フロイド・メイウェザーJr.(45戦全勝26KO)1.06倍
  WBA王者 マルコス・マイダナ(35勝31KO3敗) 8.00倍

ここ数年、パウンド・フォー・パウンド最強の評価はメイウェザーで固まりつつある。ライバルと目されていたパッキャオは後退、カネロ・アルバレスを自ら完封して、その地位はゆるぎないものとなった。ブロナーがマイダナに敗れ、スウィフト・ガルシアやキース・サーマンも拙い試合をしており、ポスト・メイウェザー候補もなかなか台頭しない。

とはいえ、メイウェザーも37歳である。世界の第一線に登場したディエゴ・コラレスとのスーパーフェザー級統一戦から数えても15年。そろそろピークを過ぎている可能性は常に想定しておくべきだろう。

来年50歳を迎えるバーナード・ホプキンスがライト・ヘビー級で君臨していることから、メイウェザーもまだまだやれるとみることは可能だし、選手の健康管理が相当に前進していることも確かではあるが、そこには個人差があることを忘れてはならない。日本人とは単純に比較できないが、バンタム級時代あれだけ強かった長谷川穂積が30代前半でああいう負け方をするくらいである。

年齢的な衰えはすべての要素で一斉に現れるとは限らない。一般的に、スピードや防御カンの良さが衰えるのが先で、パンチ力やインサイドワークの衰えは後になるだろう。試合全般にわたるスタミナや耐久力は、インサイドワークでカバーできる範囲もある。年齢的衰えの前兆として、スピード、防御勘を注意して見ることは、それほど的外れではないだろう。

こうした点から考えると、カネロ戦のメイウェザーには目立った衰えはなかったことは否定できない。そして、ボクシングは相手次第である。パンチのパワーという点では、マイダナよりもカネロの方が上であることもまず間違いない。となると、オッズどおりメイウェザー完封勝ちが最も妥当な予想ということになりそうだ。

一方、マイダナで特筆すべきは、何と言っても昨年末にブロナーを2度倒して判定勝ちしたことである。しかし、この一戦の価値を目減りさせる要素が出てきた。ブロナーが2-1判定で破ったマリナッジを、IBFチャンピオンのショーン・ポーターがワンサイドでKOしていることである。

この試合の映像はまだ見ていないので断定はできないにせよ、ウェルター級においてブロナーの実力に疑問符が付いたということになると、マイダナのupsetもそれなりの評価にならざるを得ないのかもしれない。もともとマイダナはスーパーライト級の選手であり、メイウェザーに対し体格的にそれほどアドバンテージがある訳ではない。

結論としては、メイウェザー判定勝ちに1票。マイダナのボディの弱さからKOを予想する向きも多いと思われるが、そこまで無理をしないのがメイウェザーである。



WBA/WBC世界ウェルター級タイトルマッチ(5/3、ラスベガス)
フロイド・メイウェザー O 判定(2-0) X マルコス・マイダナ

私の採点は116-112メイウェザー。114-114をつけたジャッジはちょっと?だが、攻勢点だけとればそうなるのかもしれない。メイウェザーにとって、カネロ戦より大分と苦労した戦いであった。

メイウェザーがかつて戦った中で最も苦労した相手が、ホセ・ルイス・カスティージョである。マイダナもカスティージョと同じラテン系のファイター。足を使って捌けばそれほど苦しむ展開にならないはずだったが、例によってロープ際で横着をしようとしたため少なからず被弾があった。

それでも決定打を打ち込ませなかったのはL字ガードを使わなかったからで、ブロナーと違ってそこまで相手をなめることはしなかった。逆にガードの隙間からアッパーを決めてはいたものの、手数の差があって一部ジャッジ(とSHOWTIME)はマイダナに振ったラウンドもあったようである。

リング中央でのジャブからストレートの差し合いでは明らかにレベルの差があっただけに、なぜメイウェザーがこの展開に持ち込まなかったのか疑問。もしかすると、年齢を考えてスタミナ温存を図ったのかもしれない。バッティングもかなりアピールしていたが、トニー・ウィークス・レフェリーにあまり取ってもらえなかったのは計算外だった。

一方のマイダナ。デボン・アレクサンダー戦と違って見どころがあったのは、メイウェザーがロープに詰まってくれたためだが、12Rがんばって攻め続けたということは、それなりの練習をしてきたのだろう。例によってボディを打たれて露骨に嫌がるところをみせたが、顔だけならば打たれ強いのはもとからである。

ただ、今回はメイウェザーとの相性が悪くなかったことが善戦の最大の要因で、実力的に上積みがあった訳ではない。再戦しても今回同様の結果だろうし、今でもアレクサンダーには完封されてしまうだろう。再戦をアピールしていたが、やっても仕方ないのではという感想。

セミファイナルのアミール・カーンvsルイス・コラーソは、カーンが相変わらずのスピードと打たれ弱さをみせてくれた。個人的には、メイウェザーの次の相手はカーンの方が面白いと思う。

井岡、3階級制覇ならず

IBF世界フライ級タイトルマッチ(2014/5/7、大阪ボディメーカー・コロシアム)
アムナット・ルエンロエン O 判定(2-1) X 井岡 一翔

私の採点は116-111アムナット。謎だったのは、とてもポイントが取れているとは思えない覗き見スタイルで戦った井岡陣営の作戦である。まさか倒れなければ判定で勝てると思っていた訳でもあるまいが、そう勘ぐるくらいに不可解であった。

ライトフライまでの井岡の戦い方は、まるで相手は打ってこないと決めてかかっているようにガードに意を用いず、その分自由奔放に攻めることができた。ところが今回は、最初からガードを高く上げて手数を出さず、ただ前進してプレッシャーをかけるという作戦であった。かつて、日本人挑戦者が連敗の山を築いた作戦である。

事情としては単純にアムナットが技術的に上回っていたということなのかもしれないし、序盤2Rあたりに受けたアッパーが最後まで効いていたのかもしれない。いずれにせよ、最初から最後まで堅苦しい動きに終始したのは、井岡の力不足だけでなく陣営に何かの計算違いがあったのではないかと思われる。

もしかすると、アムナットのみせかけ減量ミス作戦に引っかかって、序盤はポイントを取られてよしという読みだったのかもしれない。だとすれば、相当の甘ちゃんである。本気で減量をミスってふらふらになるのは宮崎だけであり、勝つためにはそうした手段をとることだってありうると予測していないとすれば、プロという名にふさわしくない。

もともと井岡は、ロマゴンの指名戦をカネ払って逃げたくせに、自分が最強だの伝説だのとぬかす態度が大嫌いであった。ボクシング一家などと言われるが、もともと叔父さんだって大したチャンピオンじゃなかった。それを勘違いして強い相手を避ける間に、本来もっと伸びてよかった実力が頭打ちになってしまった。前にも書いたように、この試合の前の時点ですでに井上に抜かれてしまったと思っている。

これも前に書いたけれど、最短での三階級記録なんてものに全くと言っていいほど意味はない。意味があるとすれば、強い相手としのぎを削り、すばらしい試合を見せてくれることだけである。内藤元チャンピオンのコメントどおり、フライ級で体の違いを感じているヒマがあったら、チューンナップマッチの1試合でも2試合でも挟むべきなのだ。それをせずに、チャンピオンのパンチが予想以上に重くてビビってしまったとしたら情けない。

かたやアムナット。今日は勝ったものの、それほどレベルの高いチャンピオンではない。同じタイのボンサクレックと比べるのはかわいそうなくらいである。しかしそれは必ずしもビジネス上の不具合を意味しない。ロマゴンやエストラーダ、セグラと戦うことはないけれども、ゾウ・シミンにとってかなり魅力的なチャンピオンであることは間違いないからである。

願わくば井岡が性根を入れ替えて精進し、いまあげたメンバーに挑戦するくらいの気概を見せてほしいものである。

コット、4階級制覇!

WBC世界ミドル級タイトルマッチ(2014/6/7、ニューヨークMSG)
Oセルヒオ・マルティネス(51勝28KO2敗2分け) 1.6倍
  ミゲール・コット(38勝31KO4敗) 2.0倍

正直なところ、この1戦がミドル級トップクラスの試合だとみている人はそれほど多くはないであろう。 マルティネスがケリー・パブリックに完勝し、ポール・ウィリアムス、セルゲイ・ジンジルクを続けてKOに破った頃は、間違いなくミドル級最強のチャンピオンであった。ところがその後はイギリス人ランカーとの防衛戦を続け、チャベスJr.はほぼ完封したものの最後はKO寸前まで追いこまれた。ああいう試合をするということは、ピークが過ぎてしまっていることは間違いない。

かたやコット。パッキャオにKOされメイウェザーに完封され、あげくはオースティン・トラウトに明白な判定負けで内定していたカネロ・アルバレス戦がなくなってしまった。加えて、ミドル級では試合をしたこともないのである。プエルトリコ初の4階級制覇と本人は言っているようだけれど、あまりきちんとした過程を踏んでいるようには思われない。

したがって、チャンピオン・挑戦者ともに一枚落ちということであり、チャンピオンシップとしてはあまり評価できない。加えて、どちらが勝ったとしても今後の展望が開けないのである。マルティネスにチャベス再戦があるかどうかくらいで、現在クラス最強とみなされているゲンナディ・ゴロフキンやスーパーウェルター級のカネロ・アルバレスと戦うことはなさそうだ。

このように考えていくとどうにも興味が半減してしまうのだが、机上で計算する限りオッズ以上にマルティネスが上のように思っている。何と言っても、ミドル級におけるキャリアが違う。スーパーウェルターからミドルの6ポンドは、ウェルターからスーパーウェルターまでの7ポンドより大きな差があるのである。

最近で言えば、フェリックス・トリニダードもオスカー・デラホーヤも、スーパーウェルターまでは圧倒的に強かったのにミドルでは体力の差が出た(チャンピオンにはなったが)。ロナルド・ライトもシェーン・モズリーも、ポール・ウィリアムスでさえミドル級のタイトルはとっていない。

マルティネス自身も下のクラスから上がってきた選手ではあるものの、本格化したのはミドル級にフィットしてからである。スーパーライトの時に一番強く、クラスが上がるにしたがって並みのボクサーになってしまったコットとは、ちょっと違う。

心配されるのは1年振りの実戦ということだが、もともとスピードで勝負するタイプではないので、それほどの劣化はないとみている。コットのパンチでマルティネスがぐらつく場面は、どうしても想像できなないし、逆に、「これがコットの最後の試合になるよ」と言っているマルティネスがKOすることはあるかもしれない。ということで、マルティネス判定に1票。



WBC世界ミドル級タイトルマッチ(6/7、ニューヨーク)
ミゲール・コット O TKO10R X セルヒオ・マルティネス

1年振りマルティネスのブランク明け1Rにコットの左フックが炸裂、試合が決まってしまった。コーナーがフレディ・ローチなので、まるでパッキャオが戦っているかのような錯覚を覚えるほどだった。ただ、1Rのコットの攻撃で決まったのか、マルティネスがそもそも戦えるコンディションでなかったのかは議論の分かれるところかもしれない。

39歳というのは昔の基準からするとピークをとっくに過ぎている年齢である。ウェイトの大して変わらない輪島だって、32を越えたあたりで完全に往年の力はなくなっていた。パワーは残っていたけれど、スピードとキレが全く鈍っていたのである。その意味では、若い時から万全のサポートを受けていた訳ではないマルティネスが衰えているのは仕方のないことである。

今から振り返ると、チャベス戦の前のマシュー・マクリン戦あたりから劣化のきざしは見えていたように思う。マルティネスタイプのボクサーは、基本的に相手に前に出させてカウンターを取るべきところ、あの頃から自分が前に出ようとする傾向がみられた。これは、長期戦に耐えるだけの体力的裏付け(スタミナとか膝や腰の強さとか)に自信がなかったからのような気がする。

してみると、チャベス戦はチャベスが失敗したということであり、もう少し早めに攻勢をかけていれば捕まえられたのかもしれない。とはいえ、あの時点でそれをさせなかったマルティネスが強かったということだろう。

1Rで4点差をつけられ、ダメージも残ってしまった時点でマルティネスの打つ手は限られた。あとはポール・ウィリアムスを沈めたような逆転のカウンターに頼る他なくなったが、そこはもともとディフェンスの堅いコット、無理に攻めずに的確にパンチを決め、最後はギブアップさせたのは見事であった。マルティネスにとって、コットではなく自分のラストファイトとなってしまいそうである。

2、3Rにあれだけ足がふらつくマルティネスを追い込まなかったコットだが、それがコットの悪いところでもありいいところでもある。開始早々は自分も相手も体が温まっておらず、決めに行ったつもりがカウンターをもらう可能性は十分考えられるから、ああいうやり方もありうる。実際、6R終了時点ではダウンしなければコットの勝ちという点差がついていたのである。

とはいっても、この試合155ポンドで戦ったコットが、この先ミドル級で戦う可能性はそれほど大きくはない。実際、体格的にはミドル級では小さいマルティネスよりさらに小さく、ゲンナディ・ゴロフキンだのピーター・クイリンとやれば吹っ飛ばされてしまうだろう(サム・ソリマンは大丈夫かもしれない)。

おそらく今後最も可能性があるのは、一度つぶれたカネロ・アルバレス戦ではないだろうか。もともとスーパーウェルターのカネロなら体格的に全然敵わない訳ではないし、カネロとしてもミドル級はいずれ進出しなければならないクラスである。そして、言うまでもなくメガファイトになる。同じフレディ・ローチ門下のパッキャオという訳にもいかないだろうから、個人的には一番手に予想しておく。

ロマチェンコ、3戦目で世界王者

WBO世界フェザー級王座決定戦(6/21、米カーソン スタブハブ・センター)
Oゲイリー・ラッセル(米、24戦全勝14KO)2.25倍
  ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ、1勝1敗1KO)1.72倍

5月のマカオでドネアがWBAスーパー王座を奪取して、いよいよフェザー級戦線が混沌としてきた。個人的には、現状でのクラス最強はWBCのジョニー・ゴンサレスとみているが、ゴンサレスにKOされたアブネル・マレスもこの階級にとどまるようだし、ダルチニアンをあっさり倒したWBA正王者のウォータース、激戦型のIBFグラドビッチもいる。

そして空位のWBO王座を争うのがこの両者である。ロマチェンコは体重超過のオルランド・サリドに1-2判定負け。以前は相手が体重超過の場合は優先的に王座決定戦出場が認められていたが、最近はそういうことはないようだ。ならばウェイトオーバーの相手とわざわざ戦うこともないと思うのだが、そういう契約になっているのだろう。

体重超過の故意性やスポーツマンシップ云々はさておき、ロマチェンコの側に、それでも楽勝という油断・慢心があったことは否定できない。試合自体は完敗といっていい内容であり、すでにアマ時代にボクシングができ上がっていたことからして、上がり目がどの程度あるのかは疑問。唯一収穫だったのは、12R戦うことに問題はないことを確認できたことである。

もしここを敗れるようなことがあればプロ戦績1勝2敗となり、ロマチェンコの商品価値は暴落することは避けられない。その意味では背水の陣で、本気を出して準備してくることは間違いないが、仮に100%の出来だったとしても、ロマチェンコのボクシングがそれほど圧倒的であるとは思えないのである。

打たせずに打つ技術では、リゴンドーに遠く及ばない。パンチのパワーで、ドネアやジョニゴンに及ばない。体格的にはウォータースに及ばないし、打たれ強さではグラドビッチに及ばないだろう。個人的にボブ・アラム路線が好きでないこともあるのだけれど、ロマチェンコの強さが具体的にイメージできないのである。

対するゲイリー・ラッセル。全米ゴールデン・グローブなどアマチュアタイトルを数多く獲得し、北京オリンピック代表にもなったアマ・エリートである。北京ではウェイト調整に失敗して出場できなかったという失敗談があるが、バンタム級でそれだけウェイトがきつかったとみれば、プロでフェザー級というのは悪くない選択である。

ロマチェンコとは対照的に、2009年以降の5年間で24戦のキャリアを積んで、満を持しての世界戦登場である。世界戦へのステップとしてははるかに妥当なキャリアであり、好感が持てる。課題があるとすれば強敵と当たっていないことで、地域王座さえ戦っていないという点は懸念材料だが、素材は間違いない。

前に出る圧力ではラッセルが上回るとみるが、ロマチェンコのコンビネーションがラッセルの前進を止めることができるかどうかはやってみなければ分からない。ラッセルが前に出られなければ、ロマチェンコのテクニックが試合を支配するだろう。ある意味、未知の要素が多くてどちらに転ぶか予測が難しい。

ラッセルを推す理由は、五分五分の勝負でUnderdogだということと、話題のアル・ヘイモン傘下であることを考慮した。GBPでも、シェーファー+ヘイモンはメイウェザー寄りで反ボブ・アラムだから、ロマチェンコには負けたくないだろう。もともとこの試合は、GBPが落札した試合でもある。まあ、実力に差があれば関係ないが。

この日のメインは「ゴースト」ロバート・ゲレロvs亀海だが、マウリシオ・エレラに完敗している亀海では世界レベルとは差が大きいとみるのが妥当で、あまり強調できそうにない。望みがあるとすればゲレロ自身がウェルターにフィットしているとは言えないことだが、メイウェザーにさえ決定打を許さなかったゲレロが、亀海に一発もらう場面も考えづらいところだ。PPVではないらしいが、SHOWTIMEのメインは快挙であり、それはそれで大したものである。



WBO世界フェザー級王座決定戦(6/21、米カーソン・スタブハブセンター)
ワシル・ロマチェンコ O 判定(2-0) X ゲイリー・ラッセル

私の採点では116-112ロマチェンコ。ラッセルは9Rを明白に取ったのと、ロマチェンコが手を出していないラウンドが多かったから、中差の判定となった。ジャッジも一人はドローであと2者は私と同じ。完勝とはいえないまでも、ロマチェンコが「ハイテク」というだけの動きをみせた。

サリドとラッセルの最大の差は、打たれ強さだったと思われる。サリドも相当にクリーンヒットをもらっていたけれど、効いたそぶりもみせずに前進して判定をものにした。今回のラッセルは露骨にボディを嫌がっており、それが原因で微妙なラウンドを失ったことは間違いない。

序盤5Rまでのロマチェンコは完璧だった。序盤はラッセルが前に出ると予想したのだが、1Rラッセルのジャブにロマチェンコがカウンターを入れると、予想とは逆にラッセルが下がってしまった。この一発で距離を押さえて、序盤は完全にロマチェンコのペースとなった。

ところが中盤以降、ラッセルが打たれるのを覚悟で手数を出し始めると、ロマチェンコが急激に失速してしまう。やはり12Rに不安があるためだろうか、ほとんど手を出さずに休むラウンドを作ってしまっては、くずれかけた相手が立て直す余地が生まれてしまう。WEB中継なので画面がよくなくて確かではないが、9Rはダウンに見えた。

おそらくロマチェンコは、いったん自分のペースにしてしまえば、誰と戦っても優勢に試合を進めることができるのだろう。しかし基本的に攻防分離の傾向があり、相手がノンストップで攻めてきた場合に、ディフェンス一辺倒になる。カウンターも相手の打ち終わりだけなので、ある意味で読まれやすいともいえる。アマチュア最強との呼び声が高いが、これから先フェザー級で抜けた存在となるのは難しいように思える。

一方のラッセルにとって、これまでの経験で苦しい試合をやっていないというのが、大いに響いたと思う。確かにロマチェンコのボディは強烈だが、あれだけ効いたそぶりをみせてしまっては勝てない。ハンドスピードは大したものだが、手が短い選手が下がりながらハンドスピードを出しても、届く訳はないのである。

メインイベントは「ゴースト」ロバート・ゲレロvs亀海。思ったよりもいい試合だったけれど、判定は明白。ヘスス・ソト・カラス的にまた呼ばれるといいのだけれど。

ところで、スタブハブ・センターは空席が目立った。チャド・ドーソンもデボン・アレクサンダーも、ラッセル・ロマチェンコもさほどの集客能力はなく、ゲレロも知名度のない日本人相手では客は集まらないということである。

逃げてばかりじゃ勝てない。カネロvsララ

スペシャル・アトラクション12回戦(2014/7/12、ラスベガスMGMグランド)
Oサウル・アルバレス(メキシコ、43勝31KO1敗1引分け)1.6倍
  エリスランディ・ララ(キューバ、19勝12KO1敗2引分け)2.6倍

ララの持つWBAの暫定タイトルは懸けられず、ミドル級特別試合12Rとして行われる予定である。ご存じのとおり、「カネロ」アルバレスの1敗はメイウェザーに喫したもので、一方ララの1敗はポール・ウィリアムス。ただしこのウィリアムス戦の判定はダウトフルなもので、実質的にはまだ負けていないと言って過言ではない。

ララがやりづらい選手であることは言を待たないところであるが、それでは圧倒的なテクニックの差があるのかというとそうとも思えない。ウィリアムス戦はともかくとして、マーティロスヤンとは打ちつ打たれつの負傷判定引分け。アルフレッド・アングロは負傷でストップを呼び込んだものの、2度のダウンを喫している。

そのアングロを、カネロはあっさり完封しているところからみると、この両者にはある程度力の差があるとみるのが妥当である。オッズもそれを反映してカネロ優位。だからカネロ乗りの見解ではあるのだが、ララの場合は誰がやっても噛み合わない優劣のはっきりしない試合になることが多いので、不安があるとすればそこである。

スーバーウェルター、ミドルあたりのテクニシャンの場合、このクラスの相手の強打を受ければまともに食わなくても効いてしまうので、ガードを高くしてブロックしないとダメージが重なってしまう。マルクス・バイエルなどディフェンシブな選手がしばしば攻防分離してしまうのは、そのためである。

もう一つテクニシャンがダメージを避ける方法として、足を使うという方法がある。ただし相当卓越したフットワークがないと全く被弾しないことは難しい。アンドレ・ウォードはそうしたタイプの数少ない成功例であるが、「Son of God」と名乗るくらいの才能がないとなかなかあそこまでは行けないだろう。

そうしたことから考えると、ララのボクシングへの評価が「やりづらい」から「強い」になるには、まだ少々距離があるのではないかと思っている。その最大の理由は、ディフェンスはともかく攻撃力にいまひとつ迫力がないことである。相手に一撃でダメージを与える攻撃力を持たないと、このあたりのクラスではなかなか厳しいだろう。

カネロの場合は、ミゲール・コットのデビュー当時と同様にディフェンスから組み立ててきたスタイルであるけれど、一発の攻撃力も兼ね備えているのはこれまでの戦績が示している。メイウェザー戦では手数があまり出ないという弱点を突かれた格好だが、最初の一、二発が当たらなくとも四発、五発と攻撃を続けられれば、もう少しいい試合になっただろう。

その意味ではまだ23歳、発展途上の選手である。今後、ミドル級に上がって行かなければならないことを考えると、ここで苦戦している訳にはいかない。メイウェザー戦の反省を踏まえ、一発で当たらなくても連打で当てる、相手の攻撃にいちいちひるまないということができれば、それほど苦しまなくても勝てるはずである。カネロの判定に一票。

全く話が変わるけれど、亀3こと和毅の試合がPPVに入らないundercardでやるらしい。undercardとはいえカネロと同一興行というのは大したものであるが、果たしてこれで落札した数千万円が回収できるのだろうか。



スーパーウェルター級(+1lbs)スペシャル・アトラクション12R(7/12、ラスベガスMGMグランド)
サウル・アルバレス O 判定(2-1) X  エリスランディ・ララ

私の目には、カネロのワンサイドに見えた。ララは自分の資源のすべてをKOされないことに費やしたように思われ、あの戦い方は評価できない。私の採点は117-111カネロでジャッジの一人と同じ。「マラソンしに来たんじゃない。ファイトしに来たんだ」というカネロのインタビューに尽きる。

亡命仲間であるリゴンドーもそうだけれど、キューバのボクサーはボクシングで生活を立てるという意識が強すぎるのか、勝つことよりも負けないことに力を注ぎ過ぎである。ファイター相手に打ち合えとまでは言わないが、試合をコントロールする、パンチで相手を止めるという意識をもっと持つべきだと思う。だからPPVはキューバ人の試合をやりたがらないのだ。

ああいうボクシングをアマチュア連盟のプロ組織でやるのだとすると、誰がああいう試合を見たいというのだろう。ボクシングがビッグマネーに結びつくのは大金を払って見る人がいるからであり、チャンピオンになると自動的にカネが入ってくる訳ではない。ああいう試合をずっとやりたいのなら、ララはずっとキューバにいるべきであった。

亡命したのはビッグマネーが欲しいからで、ただしボクシングはアマ仕様というのは二律背反である。プロボクシングでは、WOWOWの採点基準で言われているように、「攻撃に結びつかない単なる防御は、評価しない」のである。確かにララのカウンターは入ったが、追い打ちをかけて倒すつもりのない打撃は、攻撃とみなすことはできない。出合頭のジャブだって、ほとんど出さなかったのである。

一方のカネロ。打たれても前進してボディ攻撃をするという点は、メイウェザー戦の反省として改善されたといえそうだ。リーチの差をあまり感じさせなかったことも評価できる。ただし、詰め切ることができなかった点はちょっと不満。とはいえ、ララがほとんど攻撃姿勢をみせなかったのだからやむを得ない面もある。

もしかすると、カネロにミドル級は厳しいのかもしれない。まあ、コット相手なら問題ないとしても、それ以上に体格差のある相手に、得意の打ち合いスタイル以外で対抗するのは現時点では難しいような印象を受けた。

最後にもう一度ララについて。WBAのタイトルを持っているだけではカネにならない。あのスタイルでビッグファイトしたいのなら、ゲンナディ・ゴロフキン以外に相手はいないだろう。

ちなみに、undercardの亀3はボディフック一発でKO勝ちしたらしい。本場でこの成果は大したものであり、本来は特筆すべきことなのであるが、ほとんど注目されていないのは自業自得。このまま北米で試合するのが彼らにとってもいいことでしょう。

メイウェザーvsマルコス・マイダナⅡ

WBA/WBC世界ウェルター級タイトルマッチ(2014/9/13、MGMグランド)
Oフロイド・メイウェザー(米、46戦全勝26KO) 1.14倍
  マルコス・マイダナ(アルゼンチン、35勝31KO4敗) 6.5倍

今年5月の第一戦に続くダイレクトの再戦。メイウェザーは5月と9月のMGMグランドでしかやらないと決めているようなので、イスラム教徒のアミール・カーンが希望しなかった(ラマダンのため)こともあって、スムーズに再戦となった。メイウェザーにとって、2002年のカスティージョ戦以来の同じ選手との再戦になる。

マイダナ戦のメイウェザーが2-0判定となるほどの接戦だったかというと、必ずしもそうは思わない。マイダナは終始攻勢をとったしメイウェザーの明白なクリーンヒットも多いとはいえなかったが、それでもポイントを振り分ければメイというラウンドが多かったように思う。とはいえ、メイにとっては久々にてこずった戦いであり、マイダナもアレクサンダー戦よりは改善された。

メイウェザーのこれまでの戦いぶりを振り返ると、2001年のディエゴ・コラレス戦、2007年のリッキー・ハットン戦ぐらいが完勝といえるもので、最近はテクニックで上回るところは見せてくれるものの、「これは強い」という印象はあまり受けない。最近のサウル・アルバレス戦も前回のマイダナ戦も、負けないというだけで明確に打ち負かしたという戦いではなかった。

ボクシングの姿として、相手の攻撃を無効にするのが本来なのか、それとも相手を打ち倒すことが本来なのかは難しい問題である。ただ、エリスランディ・ララの試合とゲンナディ・ゴロフキンの試合のどちらを見たいかといえば95%のボクシングファンはゴロフキンを選ぶだろうから、どちらかというと後者に比重があるとはいえそうである。

さて、試合前の様子をみると、メイウェザーのモチベーションは前回よりかなり上がっているようである。確かに、苦戦が予想されたカネロ・アルバレス戦では万全の状態に仕上げて、ほとんどのラウンド、カネロに何もさせなかった。それと比べると、マイダナ戦にそれほど苦戦の要素はないように思えたので、油断というか慢心があったことは確かだろう。

そして、マイダナとメイウェザーの相性という要素も軽視できないだろう。かつてメイが最も苦戦したカスティージョはディエゴ・コラレスといい勝負であり、そのコラレスの全盛期にメイウェザーは4度ダウンを奪って圧勝している。だから、マイダナがアミール・カーンやデボン・アレクサンダーに敗れているからといって、メイと勝負にならないとは限らないのである。

とはいっても、今回もメイが判定をものにするだろうと思っている。というのは、メイウェザーにはKOしなければならないというプレッシャーがなく、テクニックで上回ってポイントアウトすればいいという、ある意味ハードルの低さがあるからである。

序盤では明確な決着に向けて多少のアクションはあるかもしれないが、それが効果を現わさなければ、例によって安全運転で12Rを受け流すだろう。マイダナが勝つためには後頭部だろうがバッティングだろうがとにかく乱戦に持ち込む必要があるが、メイウェザーも打たれ強いので、マイダナ程度の攻撃力では厳しいと思っている。メイウェザー判定に一票。



WBA/WBC世界ウェルター級タイトルマッチ(9/13、MGMグランド)
フロイド・メイウェザー O 判定(3-0) X マルコス・マイダナ

ようやく出張から帰ってVTRを見ることができた。私の採点は浜田さんと同じく117-110メイ。ジャッジがマイダナにあと1~2ラウンド与えていたのは、ラスベガスらしからぬ攻勢点だろうか。

8Rにマイダナが噛んだかどうかはインタビュアーが言うほど明らかだとは思わないが、マイダナの主張するように目に指を入れられたとも見えなくはない。いずれにせよ、メイウェザーはクリンチのしすぎであり、レフェリーから注意があってもよかったように思う。あの場面だって、グローブの手のひらで顔をつかまなければ、噛みようがないのである。

試合自体はメイウェザーの完勝で、第1戦よりも明らかな判定となった。その要素の一つが展望記事にも書いたように「ハードルの低さ」である。メイウェザーにはKOする、ないし明らかなダメージを与える必要がないのだから、その分リスクを取る必要がない。試合全般を通じてメイのインサイドワークとマイダナの空振りばかりが目立つこととなった。

1~3Rに徹底してフットワークを使ったのは、序盤に強いマイダナに対して有効な戦い方だった。マイダナには前進してロープに詰めて強打を叩き込む以外の作戦がないので、足を使って回られるとなすすべがなかった。多少はボディも狙ったけれども徹底することはできず、中盤以降は逆に弱点のボディを狙われてしまった。

試合後にメイウェザーが鼻血を出していたように、マイダナの強打も何発かは入っていたけれども、メイウェザーは結構打たれ強いので、足が止まったりヒザに来ることもなかった。残念ながらマイダナにはあれが精一杯であり、メイウェザーがきっちり仕上げていれば前回だってこういう試合になったはずである。

とはいえ、メイウェザーが引き続きパウンド・フォー・パウンド最強かというと、やや疑問符が残る。そもそもこの試合の発端となったブロナーvsマイダナ戦でも、ブロナーはラスト2ラウンドでマイダナをKO寸前まで追い詰めているのに、メイは24ラウンド戦ってああいう場面を結局作れなかった。ボクシングの質が違うとはいえ、物足りないのは確かである。

カネロ・アルバレスを完封してしまうくらいだから余計な心配なのかもしれないが、ベテラン相手のビッグマネーファイトばかりやっている間に、若い選手たちとの差が詰まっているような気がする。来年5月にはまた歳をとる訳だし、ホプキンスのように体格差がある訳でもないから、これからますます厳しい戦いとなるだろう。

まあ、(インタビュアーの言うところの)パッキャオは力が落ちているし、アミール・カーンはマイダナより打たれ弱いので、それほど脅威にはならないだろうと思う。むしろキース・サーマンなど生きのいい若手と戦うことがあれば注目である。

ドネアvsウォータース@カーソン

WBA世界フェザー級タイトルマッチ(10/18、米カーソン・スタブハブセンター)
  ノニト・ドネア(フィリピン、33勝21KO2敗) 2.0倍
Oニコラス・ウォータース(ジャマイカ、24戦全勝21KO)1.83倍

河野・亀田の対戦指示・入札をめぐるごたごたを見ていると、統括団体としてのWBAのガバナンス能力には首をひねらざるを得ないが、まだまだ強いチャンピオンがいることも確かである。この対戦は、スーパー王者とレギュラー王者の統一戦となるが、ジョニゴンがアルセあたりとやっているのを見ると、この階級で最強を決める戦いといってもいいだろう。

WBOのグラコビッチをクラス最強とみる人はいないだろうし、IBFのロマチェンコはサリド戦でミソを付けた。ドネアのベチェカ戦も褒められたものではなかったけれども、一応ダウンを与えて負傷判定勝ちであった。そしてウォータースはダルチニアンに一方的なKO勝ちである。

ダルチニアンはバンタム以上ではほとんど良績がなく、ああいうスタイルは体力差があってはじめて効果的といえるけれども、それでもウォータースはセンセーショナルなKO勝ちといっていい。何より気に入ったのは、体格差を十分に生かしたボクシングであったことである。

いまのボクシングは複数階級で戦うことが当たり前になってしまっているが、もともと階級制の競技というのは、生まれながらの体格差によって有利不利が出るのはアンフェアであるので、なるべく条件を等しくして競おうというものである。例えば重量挙げで、下の階級の成績が上の階級を上回るということはほとんどない(展開のアヤで全くないということはない)。

格闘技の場合はある程度「柔よく剛を制す」ことがあるので、重量挙げほどには体格と成績が比例しない。体重無差別の柔道日本選手権で下の階級の選手が優勝することはこれまで何度かあったし、ボクシングでもパッキャオやメイウェザーが体格差をものともせずに大きな選手を破っている。その意味では、本来ジュニアクラス(いまのスーパーなんとか級)は要らないのだろう。

しかし、そもそも階級制がある以上は、体格の上回る選手が有利なのは当然のことなのである。リーチが長ければ相手の射程外からパンチを見舞うことができるし、ウェイトが重い方がパンチにパワーがある。体格に劣る方が有利なのはスピードと敏捷性だが、それとて12R通して効果をあげるのは至難の業である。

ウォータースのダルチニアン戦は、まさに体格差を活かした戦い方であった。年齢的にはドネアと3つしか違わないが、プロデビューは2008年とまだフレッシュである。そして、アマ時代から現在まで引き続いてのフェザー級で、フライ級から上げたドネアとの体格差がある。もしかすると、フェザー級で最も強いチャンピオンかもしれないと思っている。

ウォータースのKO勝ちに一票。ちなみに、GGGゴロフキンとマルコ・アントニオ・ルビオがCo.フューチャーされたこの日のスタブハブセンターは、満員札止めだそうである。



WBA世界フェザー級タイトルマッチ(10/18、米カーソン)
ニコラス・ウォータース O KO6R X ノニト・ドネア

勝敗が予想どおりだからというだけでなく、ウォータースがこの試合でも体格を活かしたいい試合運びをしていた点で満足できる結果であった。

ウォータースの強みはなんといってもフェザー級のナチュラルな体格があることである。ドネアとの身長差がそれほどなさそうなのは意外だったが、リーチの違いは圧倒的であり、それを活かしてストレート並みの左ジャブを的確に当ててダメージを与えた。リーチの違いはディフェンスにも活かされており、グローブで顎とテンプルをカバーしなおかつ肘でボディをカバーできてしまうので、ドネアは打つ場所が限られてしまった。

2ラウンド終盤、打ち合いの中でドネアの左フックをもらってしまったのがこの試合唯一のピンチだったが、次のラウンドに右アッパーのカウンターでダウンを奪い、これでほとんど試合が決まった。ジョーさんはドネアが前がかり過ぎた点を指摘していたが、おそらく1Rで体格差とパワーの差を感じていたので、ジリ貧となることを恐れての攻勢だったように見えた。

少し気になったのは、ジャブで距離を作って右ストレート、入ってくるところに右アッパーのカウンターだけで十分試合を支配できたように思えたのに、ドネアの注文通りに至近距離での打ち合いに応じていたところ。もちろん、ウォータースとしては接近戦での打ち合いにも自信があるのだろうが、今日の試合でも危ないところはなかった訳ではない。

試合後ウォータースに、リングマガジンのチャンピオンベルトが渡されていたようなので、これまで空位だった同紙のフェザー級チャンピオンに認定されたようである(これまでは空位で1位にジョニゴン)。フェザー級のチャンピオン達の中では最も体格に恵まれており、現時点では最強とみてよろしいのではないかと思っている。

ただし、あえて打ち合ってしまうところがあるのと、必ずしも打たれ強くはなさそうなので、ジョニゴンとやったら必ず勝つとはいえなさそうなのが微妙なところである。

WBC暫定世界ミドル級タイトルマッチ(同)
ゲンナディ・ゴロフキン O 2RKO X マルコ・アントニオ・ルビオ

ルビオがウェイトを作れなかったため、ゴロフキンのWBAタイトルは懸けられなかったものの、もともとこの対戦はタイトル云々ではなく、タフなルビオをゴロフキンがどう倒し切るかだけが興味あるところだったので、むしろウェイトオーバーしてでも体力を温存してもらった方が見る方としてはよかったのかもしれない。

実際、試合時のルビオはライトヘビー級はあるのではないかと思われる体の太さ。ゴロフキンとは体格が一回り違ったので、少しは苦労するのかと思ったら、2Rの左フック一発で終わってしまった。あのパンチは昔タイソンが身長が20cm違うルー・サバリース相手に決めたパンチと同じで、おそらくルビオは脳しんとうを起こしていたに違いない。

さて、この階級のリングマガジン王者はセルヒオ・マルティネスに勝った関係でミゲール・コットであるが、コットにしろジャーメイン・テイラーにしろ、ゴロフキンには敵わないとみている。チャベス・ジュニアやマルティネスが出てきてもおそらく無理で、可能性があるのは一つ上のクラスのアンドレ・ウォード、カール・フロッチあたりだろう。メイウェザーはウェイトが違い過ぎてやらないだろうし。

パッキャオvsアルジェリ@マカオ

WBO世界ウェルター級タイトルマッチ展望(2014/11/23、マカオ)
  マニー・パッキャオ(フィリピン、56勝32KO5引分け2敗) 1.07倍
Oクリス・アルジェリ(米、20戦全勝8KO) 9.0倍

アルジェリが勝つと本気で予想している訳ではないけれども、このオッズでパッキャオは買えないと思っている。

10月のスタブハブセンターの後、Fightnews.comに「メイウェザーとゴロフキン、どちらがパウンド・フォー・パウンドか?」というアンケートが掲載された。さすがにメイウェザーの方が多かったのだけれど、その比率は6:4。ゴロフキンが本当の一線級相手の試合をやっていないことからすると、いまやメイウェザーの評価は下降線にあるといえそうだ。

パッキャオについてもこれは同様のことで、思うに、彼ら二人ともカネの稼げる相手、知名度の高い相手とばかり戦っていて、クラス最強とみなされる相手との対戦を微妙に回避しているのである。特にパッキャオについては、パッキャオ戦に敗れて「以降」に世界チャンピオンとなったのは、ライト級より上ではミゲール・コットだけである。

だからパッキャオは弱い相手とばかり戦っているというつもりはないけれども、彼が本当に強かった時期はいつのまにか終わったのではないかと思っている。マルケス第4戦にしても、KOされるまでの展開がすでに一進一退であったことを認めない人はいないだろう。リッキー・ハットンを失神させ、コットやモズリーをダウンさせた左フックは、最近ほとんど決まらなくなった。

そして、アルジェリ自体、かなりの難敵ではないかという気がして仕方がない。プロボドニコフ戦では1RにKO寸前まで追い込まれ、あとのラウンドをアウトボックスしまくってポイントアウトした戦い方には全く脅威を感じられないし、アルジェリがパッキャオをKOすることはほとんど可能性ゼロと言わざるを得ないが、あの逃げ足をパッキャオが追えるかという懸念は大きいのである。

パッキャオがいい試合をした相手はほとんどが好戦的な選手で、一発当てようと接近したところでパッキャオのカウンターをもらったり、打ち疲れを待とうとガードを固めていたらペースを握られてしまったというパターンが非常に多い。徹底して足を使うという選手はこれまでいなかったし、足を使われたブラッドリー第一戦では微妙な判定を失っている。

アルジェリが12R逃げ回って、細かいジャブでポイントを稼ぎ、パッキャオは空振りばかりという展開は、オッズほどには低くはないとみている。とはいえ、-400と+350くらいが妥当なところだろうという意味で、アルジェリ有利とまではとてもいえない。それでも、一時期の日本選手の世界挑戦ほどには、可能性がない話ではないと思うのである。アルジェリ判定にちょっとだけ。



WBO世界ウェルター級タイトルマッチ(11/23、マカオ)
マニー・パッキャオ O 判定(3-0) X クリス・アルジェリ

パッキャオが6度のダウンを奪って(内2回はスリップ判定が妥当だったが)、予想以上の完勝。ただ、この試合を見て思ったのは、対戦相手がパッキャオをこわがらなくなっているということだった。

予想では、アルジェリはもっとアウトボックスをすると思っていた。しかし実際には、最初のダウン(本当はスリップ)で緊張がほぐれたのか積極的に攻めて行った。むしろもっとディフェンスに徹した方がよかったような気がするが、浜田さんの言うように、パッキャオの左は見切ったと思っていたのだろうか。だとすれば、パッキャオ健在とは必ずしも言えないことになる。

2回目と4回目のダウンを奪ったカウンターはさすがにパッキャオで、結果的にみればアルジェリとは格が違ったということになる。さらにいえばプロボドニコフも大したことはなかったということになるし、プロボドニコフに追い詰められたブラッドリーも力が落ちていたということになる。最近はHBOとSHOWTIMEの仲が悪いので交流戦がないけれど、このあたりのクラスはSHOWTIMEの方が強いということになりそうである。

アルジェリがもっとアウトボックスしたらどうだったろうか。5R6Rあたりのもたつき方をみると、パッキャオは捕まえるのに相当苦労しただろうと思うが、勝負だから「たられば」を言っても仕方がない。おそらく、序盤戦の感触でアルジェリは勝負になるとみたのだろうし、もし番狂わせを起こせばさらなるビッグマネーが入ってくる。責める訳にはいかない。

さて、これでパッキャオは念願のメイウェザー戦に一歩前進、というより踏みとどまった形になる。とはいえ、メイウェザーはボブ・アラムが嫌いだし、ウェイティングリストは数年分待ちだそうだし、今日の出来ではメイにパンチは当たらないように思うので、あまり興味がわかない。何か、3、4年前にやるべきカードだったように思う。メイにとっても、パッキャオにとっても。

アンダーカードのロマチェンコ、ゾウ・シミンともにKOチャンスに決めきれず判定決着。両者とも、技術ほどにはパワーがないし、打たれるとひるむところがプロ向けとは言えない。ゾウ・シミンはアムナットには苦労しそうだが、判定ならスプリットで勝ちそうだ。ロマチェンコは、ウォータースとやったら破壊力の差でやられるのではないだろうか。

井上、ナルバエスを粉砕!

WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチ(12/30、東京体育館)
  チャンピオン オマール・ナルバエス(亜、43勝23KO1敗2分け)
O挑戦者 井上 尚弥(大橋、7戦全勝6KO)

今年の世界ボクシング界は実力伯仲の好勝負が意外と少なくて、WOWOWの年間最高試合投票ではちょっと迷った。結局、マルティネスvsコットにしたのだけれど、ミドル級のクラス最強は間違いなくGGGゴロフキンだから、最高試合のレベルとしてどうかという点には疑問符がついてしまうだろう。一方で、日本ボクシング界は好勝負が多かった。

井上vsエルナンデス、八重樫vsゴンサレス、山中vsスリヤンは、いずれもクラス最強チャンピオンと挑戦者の激闘だったし、どの試合も年間最高の候補である。そして、年末に開催されるこの試合も、スーパーフライ級最強のナルバエスに、ライトフライ最強だった井上が挑むというレベルの高いマッチメイクである。

ナルバエスの1敗は2011年のドネア戦の判定負け。この試合はドネアのバンタム級タイトルへの挑戦だったから、自らが王者であったフライ、スーパーフライ級では無敗というレコードを持つ。アルゼンチンが主戦場なので世界的な強豪との対戦経験の少なさが指摘されるが、世界経験者ではブライム・アスロウム、ビクトル・サレタ、セサール・セダ、久高寛之といった面々を下している。

向かうところ敵なしだった時代のドネアに判定まで持ち込んでいるくらいだから、ナルバエスの実力は疑いないところだが、対戦相手のレベル以上に気になるのは、アルゼンチンから出て試合をしたことがほとんどないという点である。最近では3年前のドネア戦、その前は2008年にスペインで試合をしているくらいである。

言うまでもないことだが、南半球はいま夏である。海老原vsアカバロの時代から、地球の反対側に行って戦うことはコンディショニング上の課題が多いし、ましてナルバエスは39歳である。体格的に減量にはそれほど苦労しないとはいっても、万全の体調を作って来るだけでもひと苦労あることは間違いのないところである。

まして21歳伸び盛りの井上が、クラスを上げてパワーアップしてくる。チューンナップマッチを挟むに越したことはなかっただろうが、これまでの戦いぶりを見る限りほとんど問題はなさそうだ。というよりも、このクラスで1回でも戦ってしまったら、受けてもらえなかったかもしれない。

かつては、井岡とどちらが強いか話題になったのだが、現時点では完全に抜き去ってしまったというのが大方の評価だろう。ロマゴンにはまだちょっと敵わないだろうが、ナルバエスくらいには12R攻め続けてみせてほしい。ただ、KOは難しいだろう。井上判定に1票。



WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチ(12/30、東京体育館)
井上 尚弥 O 2RKO X オマール・ナルバエス

井上が勝つだろうと予想してはいたものの、4度のダウンを奪ってKO勝ちというところまでは考えられなかった。今日の試合をみると、ロマゴンとも好勝負できるのではないかと期待してしまう。もちろんスーパーフライ級では最強である。この試合のビデオを見たら、このクラスの上位ランカーはほとんど対戦を避けてしまうだろう。

海外のオッズをみるとナルバエスに7倍とかつけていたので、日本からの大口投票の結果だなと思っていたのだけれど、オッズメーカーは意外とシビアにナルバエスの近況をつかんでいて、この結果もある程度予想の範囲内だったのだろう。もちろん、体が暖まらないうちに強烈な一発をもらってしまった結果ではあるが、それにしてももろかったのは、39歳という年齢のせいもあるのかもしれない。

最初のパンチは頭をかすったようなパンチで、あれが効いてしまうと脳が揺れてしまいほとんど戦闘不能になる。古くはマイク・タイソンがルー・サバリースを一発で沈めたことがあったし、ついこの間はウォータースがドネアをKOしている。ただし、よほどパンチ力がないと決まらないし、相手も百戦錬磨のナルバエスである。

最後の左フックは、何十分か前に八重樫が決められたパンチであった。八重樫は打ち気にはやってガードがおろそかになった時に食ったが、井上はナルバエスが防御態勢にある時に決めている。これも、そんなに簡単にできることではない。

ゲストの香川さんが「マイク・タイソンが(東京ドームで)負けた時以来の興奮をしています」とコメントしていたけれど、全盛期のドネアでさえ倒せなかったナルバエスを粉砕するというのは、ほとんどありえないというのが普通の感覚である。2階級目の王座ではあるが、世界に向けてセンセーショナルなデビューを果たしたといっていいだろう。

さて、冷静に試合を振り返るならば、この試合では井上のコンディションが非常によかったことが最大の勝因としてあげられる。ライトフライ級のときは、一種窮屈な、強いことは強いがなにか歯切れの悪いボクシングであったものが、スーパーフライ級ではスピードもパンチのパワーもあるという本格派の強さをみせてくれた。

もちろん、この試合では悪いところが出る余地がなかったことも確かなので、この先いろいろなタイプの選手と戦って、ロマゴン戦の前にさらにボクシングを完成させていく必要があるだろう。アンダーカードで久々にチャンピオンとなったリナレスだって、サルガドの一発でKOされたり、カットの傷がもとでデマルコにTKO負けしたりして、ずいぶんと遠回りしたのである。

まだ21歳だし体格的にはまだまだ上のクラスもいけそうだ。井上には、日本のカルロス・サラテ、ウィルフレッド・ゴメスを目指して精進してほしいものである。

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