アイキャッチ画像:自ら撮影したデラホーヤvsホプキンス@MGMグランド
ロマゴンvsビロリア コットvsカネロ
メイウェザーvsパッキャオ・今世紀最大のビッグイベント
WBA/WBC/WBO 世界ウェルター級タイトルマッチ展望(2015/5/2、米ラスベガス)
Oフロイド・メイウェザー(47戦全勝26KO)1.2倍
マニー・パッキャオ(57勝38KO5敗2引分け)3.5倍
ゲート収入だけで数十億円、これに世界各国からの放映権とPPV収入が加わり、両者のファイトマネーが最低保証でメイ150億円、パック100億円。最終的に両者とも200億円を超えることが予想されるメガファイトであるが、値段に見合うスリリングな戦いになる確率はおそらく10%もない。おそらく、以前HBO/SHOWTIME合同興行であったタイソンvsレノックス・ルイスほどエキサイティングな戦いとはならないだろうと思っている。
パッキャオに巨額のファイトマネーが払われるのは、その戦いぶりからすんなりと理解できる。デラホーヤ戦以降、リッキー・ハットン、ミゲール・コット、シェーン・モズリー、アントニオ・マルガリトといった体格で大きく上回る相手にすべて攻め勝って来た。ただ勝つというだけでなく、KO勝ちか、そうでなくてもダウンを与えて明確にポイント差を付けている。
マルケス兄とは倒し倒されの激戦、相手が逃げ腰だった試合を除いては、ファイトマネーに見合った激闘を繰り広げてきた。こうした戦いが巨額のファイトマネーに結びつくのは、当然といえば当然のことである。直前の試合ではプロボドニコフをアウトポイントしたアルジェリをダウン6度、ワンサイドの判定に下している。
かたやメイウェザー。抜群のテクニックは疑いようがないが、必ずしもすべての試合でファイトマネーに見合った働きをしてくれたかというと、そうではないように感じないでもない。カネロ・アルバレス戦では優勢になった後は安全運転だし、マイダナ戦やゲレロ戦は勝てばいいという試合運び。倒す気になって戦ったのは、不意打ちKOのオルティス戦、リッキー・ハットン戦などを除けば、ライト級以前にさかのぼらなければならない。
ボクシングの質としては、現在HBOから干されているギジェルモ・リゴンドーと通じるものがあるが、それでもスポーツ界最高の高額所得者の地位を維持しているのは、無敗であるということと、節目節目で強力な相手をほとんどワンサイドで下しているからだと考えられる。2001年のディエゴ・コラレスから始まって、2002年のカスティージョ2連戦、2007年デラホーヤ、2013年カネロ・アルバレスといった相手は、いずれも体格的にメイウェザーを上回っていた。
そして今回の一戦、体格的には、メイウェザーがパッキャオをかなり上回る。テクニックで上回る選手が体格的にも有利である場合、その選手が勝つ確率はかなり大きいというのが常識的な判断である。従って、今回の試合で最も可能性の高い展開は、メイウェザーが試合全般を通じてパッキャオを射程内に入れずにアウトボックスするというものであろう。
パッキャオに付け入る隙があるとすれば、メイウェザーが自分より小さい相手とほとんど戦っていないのに対し、パッキャオは自分より大きい選手と戦うのに慣れているということである。パッキャオの右フック、左ストレートをメイウェザーがまともにもらう場面があるとすれば、ファイトマネーに見合った激戦となるだろうが、その可能性はかなり小さいだろう。
というのは、パッキャオの攻撃力がクラスを上げるにしたがって相対的に落ちてきていることは間違いない上に、メイウェザーは意外と打たれ強いからなのである。メイウェザーはハットンではないので、たとえ出合頭に一発もらったとしても軌道修正して、パッキャオを近づけないだろうと思う。体ごと左ストレートをたたきつけようとすれば、マルケス兄のようにカウンターを決めるだろう。
メイウェザー判定に一票。
WBA/WBC/WBO世界ウェルター級タイトルマッチ(5/2、ラスベガスMGMグランド)
フロイド・メイウェザー O 判定(3-0) X マニー・パッキャオ
私の採点はジャッジの一人と同じ118-110。現地の高柳・西岡コンビは感激していたけれど、私の目にはどうしても数百億円動く試合にはみえなかった。対戦両者の名前・試合内容いずれをとってみても、今世紀最大の一戦としてはレノックス・ルイスvsマイク・タイソン戦に及ばなかったのではないか(マイケル・バッファーの声もよくなかったし)。
予想記事の繰り返しになるけれども、メイウェザーの試合内容が巨額のファイトマネー(スポーツ界トップ)に見合うとは、どうしても思えないのである。干されているリゴンドーと、どこが違うのかと思う。今日の試合だって、追い打ちをかければ倒せそうなチャンスは何回かあった。それをしないのは、もちろんパッキャオの逆襲というリスクもあるのだろうが、それ以上にメイウェザーが「勝てればいい」と思っているからである。
ボクシングの本質が殴り合いであるのか、格闘技であるのかという問題はあるだろう。格闘技の側面を重視するならば、ディフェンスも打撃と同様にボクシングの本質であり、規定された範囲のリングの中で規定された時間、相手の攻撃を受けないでいられるというテクニックは評価されるべきであろう。しかし、リングの中を走り回っているだけの試合は、誰もカネを払っては見ないのである。
そしてパッキャオについていえば、ウェルター級まで上げてしまうと、彼の攻撃力は世界上位クラスをそれほど越えるものではない。今日のメイウェザーは、マルコス・マイダナ第一戦ほど困ってはいなかった。攻撃力だけみれば、パッキャオよりマイダナの方が上のように見えたし、メイウェザーもそう思っていたのではないだろうか。
試合後のインタビューでパッキャオは、「メイウェザーのパンチなんて、マルガリトやコットほどじゃなかった」と言っていたが、メイウェザーはパンチ力の選手ではないのだから、それを言うのはポイントがずれている。12R通じてクリーンヒットを4、5回しか入れられなかったのだから、なぜ自分の攻勢が効果的でなかったかを反省すべきであった。
メイウェザーというとL字ガードだけが強調されるのだが、実際は打たれ強いし懐が深い。巨額のファイトマネーが動く試合ということで柄にもなく緊張していたのか、序盤戦はやや固くなっているように見えたけれど、中盤からはいつものように横着な戦い振りが戻ってきた。体格が上の選手がテクニックでも上であれば当然こういう試合になるはずであり、本当ならばコットもパッキャオ相手ならこういう試合をできたはずだと思う。
これで48連勝のメイウェザー。次の試合は9月と言っていたけれど、2年前から試合待ちリストの1番手にいるアミール・カーンはラマダン月のため回避が見込まれる。となると、ルーカス・マティセかダニー・ガルシアあたりになるだろうか。名前が売れていて捌けそうな相手を選ぶというのが以前からの傾向であり、キース・サーマンとのWBA統一戦は多分ないのだろう。
「プロ」ボクシングの本質について考える [May 4, 2015]
「世紀の一戦」メイウェザーvsパッキャオから一夜明けた。WEBとかいろいろ見たけれど、世間的な評価を集約するとおそらく、技術的にはすごかったのだろうが、誰が見ても分かるほど強い(タイソンのように)というほどメイウェザーの強さは分からなかったし、誰が見ても感動するほどの激闘(アリvsフレージャー第二戦のように)でもなかったということである。
世紀の一戦としての評価を「カネ」で測る限りにおいて、今回のメイvsパックは確かにボクシング史に残る一戦であっただろうし、おそらく今後数年間は破られない(その後はインフレで貨幣価値が下がるかもしれない)であろう。しかし、今回のPPVを何人が見たかは分からないが、$100払っただけのことはあったと満足する人がどのくらいいただろうか。
私自身の評価としては、$20(WOWOWの月額視聴料)を払うのはいいけれども、プラスアルファを払えと言われればあとから録画で見ればいいというレベルの試合であった。もっというと、実際録画はしたが見ようという気の起こらない試合である。(予想は当たったので、くやしいから見たくないということではない)
だから私としては、今世紀最大の試合は2002年のレノックス・ルイスvsマイク・タイソンだといまだに思っているし、ボクシング史最高の一戦は依然として「スリラー・イン・マニラ」(アリvsフレイジャー3)という評価は変わらない。
どうしてそう思うかということを自分なりに考えると、フロイド・メイウェザーのボクシングをどう評価するかという点にどうしても集約されてしまう。パッキャオの良さは誰が見ても分かると思うし、対マルケス兄4戦はボクシング史に残るライバル対決と評価している。問題はメイウェザーの側にある。
よく言われることは、メイウェザーのボクシングは近代ボクシングが究極に進化した形であるというものである。私としてはその点にかなりの疑問を持っている。誤解をおそれずに言えば、究極に進化したものではなくて、袋小路に向けて進化したもの、あるいは究極に退化したものなのではないのだろうか。
ボクシングに限らず、格闘技の本質は「護身術」である。相手を何人倒したとしても、自分が倒されてしまったら終わりである。だから格闘技の究極の目的は、相手にダメージを与えることではなくて自分の身を守ることである。引分けでも判定負けでも、最終ラウンド終わって深刻なダメージを負わずに立っていられることがすべてなのである。
だから、ほとんどすべての格闘技はディフェンスの練習から始める。攻撃が最大の防御などというのはまやかしであって、防御が満足にできない者は練習試合にだって出してはもらえない。その意味で、団体の勝ち抜き戦(戦前の日本でよく行われた)というのは理にかなっている。仮に実力でやや劣っていたとしても、時間切れ引分けに持ちこめば勝ちに等しいのである。
しかし、「プロ」ボクシングはそうではない。なぜなら観客がカネを出さなければ、「プロ」として成り立たないからである。極端なことを言えば、誰も見ていなくてもボクシングの試合はできる。技術には有用性があるし、巧拙がはっきり出る。格闘技はすべてそうである。観客というものを想定していないし、勝敗すら問題としないことがある。
一方、「プロ」として有料で試合を観客に提供するということはそういうことではない。お互いの技術に優劣をつける、はっきり言えば相手を打ち倒すことが求められるのである。アリがグレーテストなのはフレイジャーやフォアマンをKOしたからだし、マイク・タイソンは体格で劣るのに自分より大きな相手を打ち倒してきた。
世界戦15ラウンドが12ラウンドになり、当日計量が前日計量になったのは、ボクサーの健康維持が唯一の目的ではなくて、それによって12R攻め続け動き続けることができるようにである。健康維持だけが目的なら、アマと同じ3ラウンドでいいのである。観客は、お互いに相手を打ち倒そうとする戦いが見たい、KOが見たいからカネを払うのである。
すべてのボクサーが「究極系」メイウェザーを目指すならば、行きつく先はお互いに射程圏外をサークリングし、ジャブを当てた回数が多い方が勝ちというタッチボクシングになってしまうだろう。ボクサーが大きなダメージを負ったり深刻な後遺症に悩まされることがなくなるのはいいとしても、それで「プロ」として成り立つかどうかは大いに疑問である。
メイウェザー、安全運転でマルシアノに並ぶ
WBA/WBC世界ウェルター級タイトルマッチ(9/12、ラスベガスMGMグランド)
Oフロイド・メイウェザー(米、48戦全勝26KO)1.03倍
アンドレ・ベルト(ハイチ、30勝23KO3敗) 17.0倍
アンドレ・ベルトはWBA暫定の王座を持っているので資格がないとは言わないが、メイウェザーが完封したビクター・オルティスとロバート・ゲレロに負けているので、どうにも勝敗への興味が沸かないのは仕方がない。本当ならWBAレギュラー王者のキース・サーマンとやるのが筋だが、それをしないのが「マネー」メイウェザーである。
これを勝てばロッキー・マルシアノに並ぶ49戦全勝無敗となるが、アクシデント(バッティングによる負傷引分け等)を除けばベルトの勝ち目がほとんどないというのはオッズどおりだろう。それにしても、ベルトといい、ブロナーといい、第二のメイウェザーと期待された選手が次々と失速する中で、唯一メイウェザーだけが孤高を保つことができているのはなぜだろう。
巷間よく言われているのがディフェンスである。確かに、メイウェザーの防御カンは他の追随を許さない。テクニック主体の選手によくあるところの打たれ弱さもない。体が柔らかく肩の使い方が巧いので、急所にパワーパンチをもらうことが極端に少ない。それらの長所を認めるにはもちろんやぶさかでないが、私はもう一つの要因として、マッチメークが巧みであることをあげたい。
メイウェザーのこれまでのキャリアにおいて、相手選手が登り坂の時に対戦した相手は、ディエゴ・コラレスとサウル・アルバレスしかいない。他の選手とは、すべてピークを過ぎてから戦っている。パッキャオしかりデラホーヤしかり、リッキー・ハットン、モズリー、ミゲール・コットみんなそうだ。マイダナだって、ブロナーとやったのは落ち目と思われていたからだし、今回のベルトもそのグループに含まれるだろう。
マルシアノの時代と違って、いまや4団体があり階級も細分化されている。メイウェザーがピーク時のマルガリトを避けたというのはありうる話だし(当時のマルガリトはパッキャオに負けた時とは違った)、今回もキース・サーマンを避けた。アミール・カーンはずっと待ちぼうけだし、スウィフト・ガルシアにもチャンスは来そうにない。ましてGGGとなんてやる訳がない。
こうしてみると、パウンド・フォー・パウンド最強といいつつも、最強の挑戦者を迎えるのは十年に一回くらいで、後はピークを過ぎた相手、勝てる相手を選んでマッチメークしているということが言える。もちろん、常に世界王者レベルを相手に30代後半まで戦って無敗ということは大変な偉業ではあるが、例えば、常に階級最強の相手と戦ってきたバーナード・ホプキンスと比べると、勇気というか、自らを追い込む覚悟がかなり違うと思ってしまうのは仕方がない。
この試合も、メイウェザー得意の安全運転となる可能性が80%以上ありそうで、ベルトの力の落ち具合と、かつてメイウェザーが鮮やかにKOしたフィリップ・ヌドゥのように体が堅いという弱点があるので、20%くらいは中盤KOの期待もなくはない。ただ、いずれにせよメイウェザーは「マネー」次第でまだまだ現役を続けるのは間違いなさそうだ。
WBA/WBC世界ウェルター級タイトルマッチ(9/12、ラスベガスMGMグランド)
フロイド・メイウェザー O 判定(3-0) X アンドレ・ベルト
私の採点は119-109。ベルトのラウンドは、メイウェザーが手を出さなかった10Rだが、いずれにしてもメイウェザーの安全運転で終わった試合であった。
ベルトがメイウェザーにダメージを与えられるとすれば、インサイドからのショート連打だと思っていた。序盤2Rに、まともには入らなかったがベルトがショートのワンツーを放ったところ、その後のメイウェザーの攻撃は遠距離からのいきなりの左フックが主体となり、クリンチ以外で至近距離になることはほとんどなくなってしまった。
いきなりの左フックだけでもパワーがあれば倒せたのかもしれないが、そこはメイウェザー、スピードとタイミングはよくてもパワーがない。結局相手の射程圏外からの安全運転で終始し、予想通りの判定決着となった。メイウェザーに倒す気があれば、少なくとも3度はチャンスがあった。これは実況を見ていたほとんどの人がそう思うだろう。
この試合のMGMグランドは全然埋まらなくて、MGMがホテル2泊パック$2000のリングサイド席を用意したなんて話もあるくらいである。時折TV画面に映る客席は、中段より上には空席が目立った。PPVの数字もそれほど伸びなかっただろう。メイウェザーのような試合をしていたら、いずれこうなるのは明らかなことであった。
熱心なボクシングファンであれば、メイウェザーのテクニックは十分観賞に耐えるし、見る価値は間違いなくあると思う。しかし、ラスベガスのファンの多くは休暇で息抜きに来ていて、カシノで遊ぶついでにショーとして、誤解を恐れずに言えばシルク・ドゥ・ソレイユと同じレベルでボクシングを見ているに過ぎない。その人達にあのファイトは退屈である。
それでも、どちらが勝つか分からないという賭けとしての興味があればまだましである。この試合の最終的なオッズは20対1くらいになったはずで、賭けとしての妙味はほとんどない。メイウェザーがKOで勝つか判定かは4対7あたりでそこそこ買えるかもしれないが、メイウェザーの胸先三寸で決まってしまう賭けなど危なっかしくてやっていられない。
そもそも、ラスベガスのスポーツブックというのは、どちらが勝つか賭けるというのが本質であって、これは競馬の発祥と同様である。KOか判定か、何ラウンド決着か、なんていうのは賭けのための賭けにすぎず、スポーツブックの本質からは外れている。意識的に(と私は思っている)最強の相手を選んでこなかったメイウェザーは、本当ならラスベガスから避けられてしかるべきなのだ。
今日の試合内容だったとしても、相手がキース・サーマンとかケル・ブルック、せめてアミール・カーンだったらそこまで言われないだろうと思う。しかし今日の相手はアンドレ・ベルトである。メイウェザーはこの試合で何を証明したつもりなのだろう。
山中神の左不発、辛くも防衛
WBC世界バンタム級タイトルマッチ(9/22、大田区総合体育館)
O 山中 慎介(帝拳、23勝17KO2引分け)1.25倍
アンセルモ・モレノ(パナマ、35勝13KO3敗1引分け)4.5倍
山中が早くも9度目の防衛戦。相手は歴戦の雄アンセルモ・モレノ、かつて亀1がレギュラーチャンピオンだったWBAバンタム級のスーパーチャンピオンで、亀田サイドがWBAの対戦指示に従わず階級を下げたといういわくつきの相手である。
その後、そのタイトルをファン・カルロス・パヤノに負傷判定で奪われ、今回は無冠から再び王座奪取を目指す。かつて、ダルチニアンやシドレンコ、モンシプール、セルメニョといった一線級を下してきた実績は申し分ないが、世界戦のほとんどが判定決着であるように、破壊力のある選手ではない。
そして、それよりも私が気になるのは、中南米の選手の一般的な傾向として、力が落ちるときには一気に落ちるということである。最近の例ではロレンソ・パーラやアレクサンデル・ムニョスといったところだが、世界最強クラスから若手の登竜門へと後退する時間が非常に早い。例外としては古くはデュラン、アルゲリョ、最近ではマヨルガのように、活躍場所が米国内に移った場合だけである。
想像するに、おそらく生活環境とか練習環境といった要因が大きいのだろう。通貨の安定していない途上国ではせっかく稼いだカネも高いインフレ率でどんどん目減りしてしまい、堅実な投資対象も少ない。だから結局は準備不足でも何でも試合をして稼がざるを得ず、それで力が落ちると急斜面を転がるように落ちていくのではないだろうか。
特に軽量級の選手については、中量級以上と比べてファイトマネーも高くないし、全米のPPVに乗るほどの人気を獲得するのも困難である。その意味では、日本でおなじみのローマン・ゴンサレスがPPVに乗りつつあるというのは軽量級では破格の扱いであり、今後のさらなる活躍を期待するものである。
話を戻すと、日本のボクシングファンには亀田絡みで有名になったモレノであるが、世界的には無名に近いし、ファイトスタイルもアメリカ受けはしないので、パヤノに負けてからの生活環境、練習環境がどうだったのかという疑問がどうしてもぬぐえないのである。
2009年にシドレンコ、モンシプールを、2010年にセルメニョを下したモレノも、もう30歳になった。先進国で恵まれた環境で生活・練習していれば30はまだまだ強くなる年齢であるが、途上国ではそうもいかない。まして、世界的にみれば高いとはいえないファイトマネーも、かの国の一般大衆にとってみれば大金であることは確かである。生活に乱れがあったとしてもおかしくはない。
一方、山中は32歳であるが、まだまだ力は落ちていない。モレノとの年齢比較は32対30であるが、実際には30対35くらいではないだろうか。もちろん、視力やスピードは加齢によって衰えるとしても、パワーやインサイドワークは一度には落ちない。今回も、山中の得意な距離では戦わないようにするくらいの芸当はモレノにはできると思う。
ただ、山中の左ストレート系のパンチは距離をとったりクリンチしたりしてごまかせるとしても、そこから一歩進んで山中にダメージを与えることは難しいのではないかとみている。見ている側にストレスのたまるような展開になる懸念はありそうだが、山中の判定勝ちとみている。
WBC世界バンタム級タイトルマッチ(9/22、大田区総合体育館)
山中 慎介 O 判定(2-1) X アンセルモ・モレノ
私の採点は114-114ドロー、試合前に予想したとおり、消化不良ながら山中の判定勝ちであった。
それにしても疑問なのは、モレノが最終ラウンド全く手を出さなかったことである。公開採点で8Rまで2者が引分けである(1者はモレノ)。9Rは3者ともモレノで、10Rは3者とも山中というのはほぼ確実である。だとすれば、仮に11Rモレノが押さえたとしても、12Rを流してしまっては勝てる試合が引分けになってしまうのである。
私の採点では11Rモレノに振ったけれど(あのスリップは腰砕けだろう)、山中というジャッジがいてもおかしくはない(実際2人が山中につけた)。だから12Rは勝つつもりなら決して失ってはいけないラウンドであった。にもかかわらず、モレノはほとんど手を出さなかった。なぜなのだろう。
最もありうるシナリオは、9Rを取ってエンジン全開で臨んだ10R、逆にいいパンチをもらってしまい、残りラウンドは逃げるだけで精一杯だったということである。だとすれば、やはりモレノの力が落ちていて、12Rを戦い切るだけのコンディションができていなかったということだ。
あるいは、11Rを失ったと思ったので、仮に12Rがんばって取ったとしても引分けにしかならないと思ったのだろうか。そうだとしても、挑戦者である以上勝たなくてはタイトルは手に入らない。何とか最終ラウンドに逆転KOを狙うのがプロだろうし、いいのが当たれば山中が倒れてもおかしくはない状況であった。
今回の山中は、やたらと髪型を気にして額に手をやっていた。あれはヘアスタイルが気になるのが一つと、やはりジャブをもらって顔面の感覚がおかしかったのではないかと思っている。いずれにしても、これまで見てきた山中チャンピオンの試合とは違っていた。反面、モレノ自身のコンディションも良くなかった。再三いいカウンターを決めていたけれども、あれだけ消極的では微妙なラウンドは失ってしまうだろう。
とはいえ、モレノのようなインサイドワークに優れた相手に対して、何はともあれ引分け以上の試合ができたというのは、悪いことではない。特に私が山中陣営でよかったと思うのは、左ストレートをボディに集めていたことである。顔面は避けられてもボディを避けるのは困難だし、とにかく空振りを少なくするというのはああいう微妙な判定をもらう場合には重要である。
今回は消化不良だったが、1年くらい置いて再戦したら、きっとKOできると思う。
ロマゴン、GGG@MSG
WBC世界フライ級タイトルマッチ(2015/10/17、米ニューヨークMSG)
Oローマン・ゴンサレス(ニカラグア、43戦全勝37KO)1.12倍
ブライアン・ビロリア(米、36勝22KO4敗) 9.0倍
今週のMSG興行、メインイベントはGGGゴロフキンの統一戦なのだが、残念ながら勝敗はほぼ見えている。こちらもゴンサレス有利は動かせないものの、ビロリアが簡単にやられるとも思えないところが注目である。
ビロリアの4敗の中には、ファン・フランシスコ・エストラーダとエドガル・ソーサが含まれている。この2人とも、ゴンサレスはすでに下している。この比較からすると、ゴンサレスの勝ちはまず動かないと思われるのだが、一つ考慮しなければならないのは体格である。
ビロリアの4敗のうち3敗はライトフライ級時代のもので、その頃から減量苦がパフォーマンスを下げていると言われていた。フライ級に上げて(戻して)からは、ジョバンニ・セグラ、オマール・ニーニョ、エルナン・マルケスをKO、エストラーダ戦もスプリット・デシジョンである。エトスラーダとロマゴンが小差判定だから、これを物差しにすると二人の差はそれほど大きくはないと考えることも可能である。
一方のゴンサレスは、ご存じのとおりミニマム級スタート。20歳前から戦っているから体の成長はあるとしても、フライ級、スーパーフライ級あたりはそろそろ体力的なアドバンテージが少なくなる。そして気になるのは、ゴンザレスは「攻撃は最大の防御」で勝ち進んできた選手なので、これまで何度もパンチをまともにもらうことがあったことである。
ここ数戦の体つきをみると、フライ級ではややゆったりした体、有体にいえば本来もう少し絞れるように見えるので、パワーバンチをまともにもらえばやっぱり効いてしまうことはありうる。とはいえビロリアも34歳、ピークは過ぎたとみているので、全米進出の成功に向けてロマゴンKO勝ちが妥当な予想か。
それにしても、ロマゴンがこのままPPVで戦っていけば、いずれメイウェザーの勝ち星を上回ることになるが、さてどうなるか。
WBC世界フライ級タイトルマッチ(10/17、米ニューヨークMSG)
ローマン・ゴンサレス O 9RTKO X ブライアン・ビロリア
ビロリアでさえ八重樫状態になってしまうのだから、ゴンサレス恐るべしである。過去50年で私が見聞きしたフライ級ボクサーの中でも、文句なしに最強である。
今回のビロリアはいいコンディションを作ってきていて、1Rのコンビネーション、特にロマゴンのボディを攻めた左フックにはパワーがあったし、ロマゴンも面食らったようである。しかし、それでも全くあわてないのがロマゴンである。2Rにビロリアの手が止まると逆に細かいコンビーションを叩き込み、以降はロマゴンのペースで試合が進められた。
それでも、ロープに追い詰められると足を使って立て直し、パワーパンチを返していたビロリア。さすが2階級王者というところを見せたけれども、7R以降は手が止まったらTKOという状態となり、最後はレフェリーが割って入った。
ロマゴンの未知数な点として打たれ強さがあったのだけれど、今回ビロリアにかなりいいのをもらっていたにもかかわらず、それほど効果があったようには見えなかった(試合後に、「ビロリアに打たれて痛かった」とインタビューに答えていたようだが)。となると、ほとんど弱点はないということになりそうである。
次はエストラーダとの再戦になるだろうが、おそらく問題にしないだろう。タイでアムナットとやれば多少は苦労するだろうが、それでも勝ちは動かない。ゾウシミン、井岡あたりでは相手にならない。結論としてフライ級には敵はなく、あとは階級を上げて、体格差のある相手とどう戦うかということになりそうだ。早くメイウェザーの無敗記録に並んでほしいところである。
WBA/WBC/IBF世界ミドル級タイトルマッチ(同)
ゲンナディ・ゴロフキン O 8RTKO X デビット・レミュー
ゴンザレスが盤石の勝ち方だったのに対し、ゴロフキンの防衛は薄氷だった。試合自体はゴロフキンの圧勝で間違いないのだけれど、今日の相手がホプキンスだったら、よくてノーコンテスト、悪くすると反則負けになるところであった。
(ちなみに、レミューはゴールデンボーイ・プロモーションの所属であり、ホプキンスも試合前にリングに上がっていた。自分だったらと思っただろうか。)
いうまでもなく、5Rのダウン後の加撃である。確かにボディブローだったので一瞬置いて膝をついたし、ゴロフキンもパワーパンチを入れた訳ではないものの、それでも反則は反則。あれでレミューが倒れたら、レフェリーがどう判断したかは分からない。
ホプキンスは同様のケース(チャド・ドーソン第一戦)で続行不可能を主張し、後にノーコンテストとなっている。そういえば、ロイ・ジョーンズ全盛期に喫したただ一つの負けは、ダウン後加撃による反則負けである。
なぜああいうパンチを入れてしまったのかというと、ゴロフキンに余裕がなかったからである。14連続KO防衛中(これで15連続)の安定チャンピオンなのに、なぜこんなに必死になるんだろうと思うほど、試合中のゴロフキンには余裕がない。相手にペースを握られたらやられると思っているのだろうか。もっとリラックスして休むラウンドを作ったり、急に攻勢をかけたり、チェンジ・オブ・ペースがあってもいいと思う。
ゴロフキンは、この間までマルティネスがこのクラスの中心であったので、ポール・ウィリアムスとも、チャベス・ジュニアとも戦っていない。ウィリアムスのような体格のある相手、ホプキンスのようなダーティーな相手、ロナルド・ライトのような変則サウスポー、そしてロイ・ジョーンズのような天才と対した時にゴロフキンが対抗できるかどうかは、まだ何とも言えない。
ゴロフキンがかわいそうなのは、コットとアルバレスのどちらが勝つとしても二人とも本当のミドル級ではないし、やってくれそうなアンドレ・ウォードは8ポンド(4kg)上ということだろう。普通ならミドル級には強い奴がごろごろいてビッグマッチが可能なのに、たまたま現在はスーパーウェルター以下とスーパーミドル以上に集まってしまって、ミドル級が一種の空白区となっているのである。
アルバレス、パワーでコットを圧倒
WBC世界ミドル級タイトルマッチ(11/21、ラスベガス・マンダレイベイ)
ミゲール・コット(プエルトリコ、40勝33KO4敗)3.5倍
Oサウル・アルバレス(メキシコ、45勝32KO1敗1引分け)1.4倍
155ポンドキャッチウェイトの試合をミドル級タイトルマッチと呼んでいいのかどうかは大いに議論のあるところだが、勝った方がGGGゴロフキンと戦うのであれば文句はない。その場合は157ポンドキャッチウェイトになるのだろうか。特に文句を言うボクサーもいないようだが、チャベスJr.がぎりぎり160ポンド作れる状態でなかったのがむしろ幸いということかもしれない。
コットも35歳。ケルソン・ピントをKOしてスーパーライトのタイトルを獲ったのが2004年だから、もう11年前になる。その頃予想されたように人気ボクサーとはなったが、ティト・トリニダードに匹敵するほど強かったかといえば、それほどでもない。私のイメージでは、エステバン・デ・ヘススよりやや上でウィルフレッド・ベニテスとほぼ同じというところである。
その評価も、もしこの一戦で勝てば修正する必要が出てくる。というのは、コットの評価がそれほどでもない最大の理由が、実力伯仲と思われたビッグマッチにほとんど勝てないというところにあったからである。
かつてマルガリトにKO負け、パッキャオにKO負け、メイウェザーにも敗れた。必ずしも一流チャンピオンとはいえないオースティン・トラウトにも敗れてコットももう終わったと思われていたところ、昨年セルヒオ・マルティネスに勝ってミドル級チャンピオンとなり四階級制覇、再浮上を果たした。
マルティネス戦からコンビを組んでいるフレディ・ローチとの相性も良かったのだろう。初防衛戦のダニエル・ゲールを全く寄せ付けずにKOした試合はよかった。一時期のパッキャオ的な雰囲気もあり、カネロとしても油断はできないものの、やはり気になるのは基本的にミドル級の体ではないということである。
スーパーライト時代から減量苦が伝えられていたし、パッキャオのようなシェイプアップされた体を計量で見せたこともない。逆に、シェイプアップされたコットは想像できない。公称では身長170cmだがおそらくそんなにはないし、170あったとしてもミドル級では小柄である。
かたやカネロ・アルバレスはまだ25歳。メイウェザー戦ではキャリアのなさも影響してあと一歩の踏込みがなく、メイウェザーの老獪さにしてやられてしまった。再起後は3連勝。ディフェンシブな戦いに終始して打ってこなかったエリスランディ・ララには判定だったが、アングロ、カークランドはKO結着。そろそろ大舞台に戻ってきていい時期である。
アルバレスも175cmとミドル級ボクサーに混じると体格的なアドバンテージはないが、首が短く肩幅もあり、体の厚みもある。ディフェンスも巧みで打たれ強さもあるので、GGGとやって勝負になるのはカネロの方だろう。ただ、コットにあってカネロにないのは、スピードである。マルティネスのようにまともに左フックをもらうことはないとは思うが、やはり警戒すべきではあろう。
とはいえ、コットにはメイウェザーほどの老獪さはないので、カネロがいつものようにディフェンスを固めつつプレッシャーをかけていけば、それほど紛れがあるようにも思えない。判定でカネロを予想するが、もしかすると中盤KOもあるかもしれない。
そしてこの興行のセミファイナルでは、帝拳の三浦隆司チャンピオンが、メキシコの全勝ホープ、フランシスコ・バルガスと防衛戦を行う。バルガスはファンマを序盤KOしているので楽な相手ではないが、この晴れ舞台をいい試合で防衛し、次のビッグマッチにつなげてほしいところである。
WBC世界ミドル級タイトルマッチ
サウル・アルバレス O 判定(3-0) X ミゲール・コット
私の採点は117-111カネロ。コットに振ったラウンドは1、5、10Rで、1Rは10-10もあるかと思ったので、それをカネロに振ればジャッジとほぼ同じ採点だった。だからWOWOWでジョーさんが1~3をずっとコットに振っているのを見て、多分違うだろうと思っていた。
カネロとコットの差は、やはりパワーだった。コットも鋭いコンビネーションを見せてはいたものの、カネロの出足をそぐぐらいの効果しかなく、一方でカネロの一発は、コットがその効果を殺してはいたものの、芯まで効きそうなパンチであった。
中盤7Rあたりでは、カネロが決めてしまうのではないかと思ったが、さすがにコット、9Rくらいからは盛り返して、終盤では五分五分の展開となった。これは、カネロがいいパンチを食らうと手が止まってしまうことに起因していて、ジョーさんのいうようにメイウェザー戦から進化していないということになるだろう。
10Rにコットが反撃していいラウンドを作ったことにより、カネロも追い込む(倒す)意欲がなくなってしまった。これがカネロのいいところでもあり、悪いところでもある。打たれすぎないことはボクサー生命を長持ちさせるのは間違いないが、紙一重の勝負になった場合、必ずしもいい点ばかりではないだろう。
カネロの出来はメイウェザー戦より良かったし、コットの出来はパッキャオ戦よりも上であった。コットもこのくらいの動きができれば、パッキャオにもマルガリトにも負けなかっただろう。とはいえ、今回も1階級下のウェイトでおさめたように、本来はミドル級の体格ではなかったということである。
試合後のインタビューでは、カネロはGGGとの対戦に前向きの姿勢のようである。だが、現時点でGGGとカネロとでは、ミドル級における実績がかなり違う。本当のことを言えば、カネロにはもう少しミドル級における実績を積んでからGGGというのが望ましいと思われる。
いずれにしても、カネロもコットもコンディションがよく、きびきびしたいい打ち合いが見られた。ダウンの応酬こそなかったものの、試合内容としてはメイvsパックより上であり、今年のベストバウトといっていいのではないだろうか。
ダウンの応酬といえば、三浦は残念な結果。何と言っても1Rに受けそこなったダメージが最後まで響いた。反射神経は途中でやや持ち直したように見えたが最後までおかしかったし、左の軌道もおかしかった。基礎的な体力やパンチ力では上回っていたように思うので、日本で再戦すれば勝てるだろう。ただセニョール本田がオプションをどのように使うつもりなのか、興味深い。