アイキャッチ画像:自ら撮影したデラホーヤvsホプキンス@MGMグランド

パッキャオvsブラッドリーⅢ    GGGvsウェイド    カネロvsカーン
クアドラスvsロマゴン    GGGvsブルック    パッキャオvsバルガス
コバレフvsウォード    井上vs河野   


パッキャオvsブラッドリーⅢ

WBOインターナショナル・ウェルター級タイトルマッチ展望(2016/4/9、ラスベガスMGMグランド)
Oマニー・パッキャオ(57勝38KO6敗2引分け)1.5倍
  ティモシー・ブラッドリー(33勝13KO1敗1引分け)3.3倍

WBO正王座を返上したブラッドリーがWBOインターナショナルの王座決定戦というのも妙な話だが、いまや統括4団体のタイトルよりメジャーファイターのネームバリューの方が大きいという証明でもあるだろう。それはさておき。

これがラストファイトといわれるパッキャオ。東洋の軽量級ファイターが世界的にメジャーとなったのは、2005年から2008年にかけてのモラレス、バレラ、ファン・マヌエル・マルケスとの激闘からであった。

その後、クラスを上げながらデラホーヤ、リッキー・ハットン、ミゲール・コットを倒した試合は非常にエキサイティングだった。試合前には、そもそもウェイトが違うだろう、勝負にならないのではないかと思ったものだが、終わってみればいずれもパッキャオの圧勝だった。このあたりから、ファイトマネーも桁違いになっていった。

しかし、2010年のマルガリト戦を最後に、パッキャオの試合前にわくわくさせられることはなくなった。マルケス第4戦も、試合内容こそすばらしかったが試合前にはマンネリ感が満載だったし、メイウェザー戦もほとんど結果が見えていた。誤解を恐れずにいえば、2010年以降パッキャオは脅威を感じる相手とは対戦していないのである。

そのこと自体は、ファイターとして責められるべきではないかもしれない(興行としてはともかく)。リングに立つだけでメガファイトになるのだから必要以上のリスクを負う必要はないし、すでに実力の証明は十分している。また、すでに30代も半ばを過ぎたパッキャオが、売り出し中の新鋭とサバイバルマッチをすることもない。

そうしたことは十分理解できるけれども、それでもラストファイトの相手がブラッドリーというのは面白みに欠ける。たまたま前の試合をブランドン・リオス相手にKO勝ちしているとはいえ、ブラッドリーはKOパンチャーではない。あまり利かない連打で主導権を支配して逃げ切るタイプの、あまり魅力のないボクサーなのである。

昔のパッキャオであれば、キース・サーマンなりケル・ブルック、少なくともスウィフト・ガルシアと戦っただろう。彼らと戦えばKO負けのリスクがかなりあるが(ガルシアにしてもブラッドリーよりは)、逆に倒した場合のインパクトも大きい。それよりも、戦う前から見る者をわくわくさせることができるという点で、ブラッドリーとは比較にならない。

という訳で、この試合にはあまり期待していない。両者ともピークを過ぎた選手なので、意外と倒し倒されの試合になる可能性はなくはないけれども、パッキャオが昔、デラホーヤやハットンを倒した頃の切れ味はみられないだろう。パワーだけ比較するとブラッドリーよりパッキャオが上なのは確かなので一応パッキャオだが、1・2戦と同様に判定決着が濃厚である。



WBOインターナショナル・ウェルター級タイトルマッチ(4/9、米ラスベガス)
マニー・パッキャオ O 判定(3-0) X ティモシー・ブラッドリー

私の採点はジャッジより1つブラッドリーに行って115-111パッキャオ。9Rにダウンを取ってほぼ試合が見えてしまったので、パッキャオが残り3ラウンド勝負に行かなかった。あるいは、年齢的なものか、終盤のスタミナに不安があったのかもしれない。 ブラッドリーの作戦、パッキャオの左ストレートに右を合わせるという作戦は悪くはなかったように思う。少なくともこの試合では、一気に飛び込んでくる攻撃を受けることはなかった。おそらくマルケス兄の二番煎じを狙ったのだろうが、それだったらもっと乱戦に持ち込む伏線を工夫しなければならなかった。マルケス兄はダウンの応酬があったから、あの右が決まったのだ。

今回の場合はパッキャオに作戦を読まれてしまい、左ストレートを打った後、瞬時にスウェイバックするという神業のディフェンスで対応されてしまった。30代後半であの動きができるのだから、さすがスーパースターである。セミファイナルのアーサー・アブラハムの方が年下なのに、あの鈍重な動きとは雲泥の差であった。

1Rの体つきをみた時には、パッキャオの衰えが想像以上にあったように思えた。ブラッドリーの仕上がりがよかったこともあるのだろうが、体のキレもないし、ハットン戦やコット戦で見せたような体中から発散されてくる迫力がみられなかった。あるいは、予想した以上につまらない試合になるかと思った。

しかし、歴戦の雄パッキャオは作戦の引き出しが多く、3Rくらいから小さな右フックを当て出した。この右が徐々にブラッドリーの出足を止めて、クリーンヒットではあきらかにパッキャオが上回った。そして、9Rの左はあのタイミングでダブルだから恐るべしである。2発目をフルスイングしていたら、一瞬の差でブラッドリーは対応しただろう。

かつて誰かとの試合予想の中で、パッキャオは史上最強に列するボクサーではなく、異才であると書いたことがあった。各階級それぞれでみるならば、パッキャオより強いチャンピオンは何人もあげることができる。しかし、フライ級からスーパーウェルター級まで世界チャンピオンとなるようなボクサーは出なかったし、今後も出ないであろう。

その意味では、過去50年のボクシング界において、パッキャオに匹敵する選手はいない。試合の勝ち負けは別として、後の世代のボクシングファンがいまの時代を振り返った場合、メイウェザーより存在感があるのではないかと思う。

ただ一つ残念なのは、同時代に生まれたもう一人の異才、ナジーム・ハメドと戦うチャンスがなかったことである。この二人は、同じ時期に同じ階級にいたことがあるのだから、誰かが気付いてマッチメーキングすれば物理的に戦えない訳ではなかった。現に、マルコ・アントニオ・バレラとは二人とも戦っているのである。

しかし、当時においては二人のファイトマネーには格段の開きがあって、パッキャオの方がかなり格下であった。だからやむを得ない面もあるのだが、9.11がなくてハメドがあと何年か現役生活を続けることができたならば、そういう気運が高まってきたはずである。残念なことである。

いずれにせよ、私が試合前にわくわくして予想してきた選手がひとり、またひとり引退してしまうのは非常に寂しい。こうして、私自身の人生の残り時間も少なくなっていくということかもしれない。

GGG・ロマゴン、3回目の競演

WBC/IBF/WBC暫定統一ミドル級タイトルマッチ展望(2016/4/23、米イングルウッド・フォーラム)
Oゲンナディ・ゴロフキン(34戦全勝31KO)1.04倍
  ドミニク・ウェイド(18戦全勝12KO)21.0倍

ゴロフキン、ロマゴンが3度目の競演である。長らく続いたメイウェザー、パッキャオの時代から、この2人がボクシング界の中心になっていくのだろうか。それとも、本場メキシコのスター、カネロ・アルバレスが人気ではやはり上なのだろうか。1週おきに彼らが登場する4~5月はその点でも注目される。

GGGの試合を見ていると、体格的に圧倒している訳ではないし、接近するまでに結構打たれるところはあるし、絶対的な安定感があるかというとそうでもない気がする。ただ、実績的には全勝かつ連続KO防衛を続けているから、現時点においてミドル級最強でありP4Pでもトップを争う存在であることは間違いない。

ミドル級といえば、かつてのカルロス・モンソン、マービン・ハグラーといった名王者がいたし、近年においては、ロイ・ジョーンズJr.、バーナード・ホプキンスが双璧である。それらの王者と比べた場合、GGGのボクシングには穴がある。

接近してパワーパンチを打ち込んでしまえば強いのだが、徹底して距離を置かれた場合や、先にパワーパンチを打ち込まれた場合どうなのかということである。だから、全盛期のロイ・ジョーンズとやったらやはり敵わないように思うし、同じく全盛期のハグラーのパンチに耐えられたかどうか。

その意味では、現在のミドル級にはGGG以外に真の強豪がおらず、ライバル不在のままひとりゴロフキンが突っ走っているというのが本当のところかもしれない。他団体王者でさえ、実質スーパーウェルターのアルバレスや、ダニエル・ジェイコブス、ビリー・ジョー・ソーンダースではちょっと相手にはならないのである。

さて、今回の相手であるドミニク・ウェイド、GGG同様に全勝であるものの、戦ってきた相手は一人を除いて世界的な選手はいない。その一人が前の試合で判定勝ちしたサム・ソリマンである。

それもスプリット・デシジョンの接戦で、boxrecのレビューを見ると手を出しているのはソリマン、有効打はウェイドといったスタッツである。まあ、ロバート・バードがジャッジして95-94だから、わずかに優勢ではあったのだろう(プッシュ気味ではあるが、ダウンを取っている)。

まあ、ソリマンは誰とやってもしぶとい試合をするし、そのソリマンにとにかく勝っているのだから、全く希望がない訳ではないかもれない。しかしオッズは圧倒的である。ダニエル・ゲールもマーティン・マレーもあっさりKOしているGGGが再びKO防衛という可能性はかなり大きいものの、体格的な優位を生かせば粘る展開があってもおかしくはない。

アンダーカードのロマゴンの相手はマクウィリアムス・アロヨ。あのアムナット・ルエンロンにタイで1-2判定負けだから、実は押していたのであろう。ただ、このあたりのクラスで1年のブランク開け、しかもいきなりロマゴンというのはどうなのだろうか。エンジンがかかる前につかまってしまう可能性が大きい。

ロマゴンはメイウェザーを超える50連勝が目前であり、そのあたりで井上戦ということになるのかもしれない。その頃には井上はバンタムに上げているだろうから、そうなるとチャンスがなくはないと思う。



WBA/WBC/WBO世界ミドル級タイトルマッチ(4/23、イングルウッド・フォーラム)
ゲンナディ・ゴロフキン O 2RKO Ⅹ ドミニク・ウェイド

試合前の予想ではウェイドの経験の少なさを心配したけれども、まさにそういう試合になった。おそらく、1R中盤にたたらを踏んでしまった場面から後は、自分の思うように体が動かなかったのだろう。言ってみれば、100km/hの球ばかり見ていたのに、いきなり150km/hが飛んできてしまったようなものであった。

ゴロフキンが打ちに行ってガードがおろそかになるのはいつものこと。まともに連打されても持ちこたえるから、今日ぐらいはご愛嬌といったところか。インタビューでカネロのことを聞かれて、「どちらが勝つか分からないが、自分はチャンピオンなので、誰とでも戦う」と言っていたところをみると、カネロは自分とはやらないだろうと思っているのかもしれない。

ウィルフレッド・ゴメスの17連続KO防衛まであと2つだが、いまのミドル級で止められそうな選手はいない。勝てないけれども判定ということであれば、エリスランディ・ララが最も可能性があるような気がするが、ちょっと体が小さいか。

WBC世界フライ級タイトルマッチ(同)
ローマン・ゴンサレス O 判定(3-0) Ⅹ マクウィリアムス・アロヨ

私の採点では117-111で3つアロヨに与えた。アロヨは非常にいい選手で、アムナットと相手地元でスプリットデシジョンに持っていくだけのことはある。前にロマゴンと判定勝負になったファン・フランシスコ・エストラーダともいい勝負をするだろうし、井岡よりも全然強い。

ただ、今回ゴンサレスが判定まで持ち込まれた要因のひとつに、あまりカウンターが巧くないということがあるように思う。アーサー・アブラハムほどではないがロマゴンも攻防分離の傾向があり、相手が攻撃している間はガードしているので手が出ない。今回のアロヨは打ち終わると足を使ってロマゴンの射程圏外に脱出していたので、つかまりそうな場面もあまりなかった。

それでも、ロマゴンの7割くらいのパンチが、アロヨの目いっぱい打つパンチよりも効果があったようだから、フライ級までならロマゴンの無敵は続くだろう。とはいえ、クラスを上げるごとにロマゴンの破壊力が相対的に落ちてきているような気がするので、フライより階級を上げるのはあまりよくないような気がする。

カネロKO勝ち、カーンも善戦

WBC世界ミドル級タイトルマッチ(11/21、ラスベガス・Tモバイルアリーナ)
Oサウル・アルバレス(46勝32KO1敗1引分け)1.3倍
  アミール・カーン(31勝19KO3敗)4.6倍

ミドル級タイトルマッチと聞くと違和感があるのだけれど、よくよく考えてみるとカネロはメイウェザーに完封されている。メイウェザーvsカーンは実現しそうだったし、スピードだけみればカーンはメイウェザーに匹敵するものを持っているから、いい勝負になるかもしれない。実際、カーンはかなりその気になっているようだし、オッズもそれほど開いていない。

カネロのメイウェザー戦は、まさに完封されたといっていい試合だった。あまりにもパンチが空を切るので、終盤では手を出せなくなってしまった。だらしがないと言うときびしいかもしれないが、「みっともなく」負けるのが嫌だったのだろうかと思う。どうせ負けるなら、当たらなくてもパンチを出して前進してほしかった。

その後のカネロは、アルフレッド・アングロ、ジェームス・カークランドをそれぞれKO。難敵エリスランディ・ララ、ミゲール・コットを判定で下した。戦ってきたメンバーをみるとかなりのハイレベルであり、人気だけでなく実力でも世界の上位にあることを示しているといえる。しかしそれでも、6~7年前の、どこまで強くなるんだろうという頃の勢いはなくなってしまったように思う。

その最大の要因はおそらく、当たれば倒れると思われたパワーが、強い相手に対してはそれほどではなかったということである。GGGゴロフキンは当たれば倒れるを16回続けているからパウンド・フォー・パウンドであるが、カネロはメイウェザーのみならずララもコットも倒せなかった。もの足りなく思われるのもやむなしである。

もう一つ加えるならば、体格的にはスーパーウェルターなのだけれども、スピードという点ではそれほど抜群のものがあるわけではなく、どちらかというと力の選手だということが指摘される。だから、アングロや昔戦ったカーミット・シントロンなど力の選手に対してはたいへん強いのであるが、メイウェザーやララ、コットに対しては手こずるということになる。

となると、カーンに対してはどうかということになるが、カネロにとって有利なことに、カーンのスピードは攻めには生かされているのだけれど、ディフェンスにはあまり生かされていない。加えて、足も、攻めの足であってディフェンスの足ではない。スウィフト・ガルシア戦のように、追い込まれた時に足を使って逃げるのは得意ではない。

カーンが非常に強かった試合というと、コテルニクとかマリナッジとか、ザブ・ジュダーとか、あまり攻撃力がない相手にテクニック(ハンドスピード)で勝った試合ばかりが思い浮かぶ。パワーのある相手を迎えると、ブレイディス・プレスコットに1RKO負けしたり、マルコス・マイダナにKO寸前まで追い込まれたりしている。

だから、カネロの攻撃をまともに受けたら、ひとたまりもないという懸念がぬぐえないのは残念なところである。カネロが接近した時に手数で圧倒できれば、カネロの手が出なくなるという欠点も出てくるのだけれど、 やっぱりパワーが違うと思う。カネロKO勝ちに1票。



WBC世界ミドル級タイトルマッチ(5/7、ラスベガス)
サウル・アルバレス O 6RKO X アミール・カーン

1R早々に、カーンのワンツーが決まってアルバレスがたじろいだ。ウェイトが五分であればもう少しダメージを与えられたところだが、ここを持ちこたえてアルバレスが巻き返す。そして6R右の一発でノックアウト。やはりメイウェザーよりもカネロのボクシングの方がおもしろい。

飯田さんの全ラウンドカーンというのはやり過ぎで、私は3R以降カネロにつけた。1Rはクリーンヒットを決められ、2Rは空振りばかりとよくないスタートを切ったアルバレスだが、3Rくらいからボディにパンチを当てるようになった。かたやカーンはカネロの圧力に押されたし、もともとカーンの足がディフェンスにあまり生かされないのは予想記事に書いたとおりである。

メイウェザーの時はできなかったボディ打ちが今回できたのは、カーンのパンチは大部分が手打ちで、速いのは速いけれど、もらってもあまり効かないというのが分かったせいだろう。メイウェザーのようにスナップの効いたパンチだったら、カネロがあれほど無造作にボディを攻められたかどうか。

決め手の右ストレートは、カネロの成長はもちろん認めるにせよ、カーンの打たれ弱さに救われたという面は否定できない。確かに強烈な一発ではあったものの、あれを持ちこたえる選手は少なくないだろう。カーンの場合はブレスコットやガルシアに一発でやられているし、マイダナ戦もかなり危なかった。

一方のカーン、体格的にはカネロとそん色なく、もしかするとスーパーウェルターで戦った方がコンディションがよさそうなのだが、この打たれ弱さは致命的である。序盤ではいいワンツーも決めたし、ハンドスピードはさすがというところだが、手打ちのパンチと打たれ弱さはこのクラスでは無理。年齢的にも、これから巻き返すというのは難しいように思う。

試合前に、アミール・カーンのファイトマネーが1300万ドル(13億円)というニュースが入ってきた。もちろんPPVの歩合も含めた数字だろうが、これでカーンが妙にハイテンションだった理由が分かった。逆に、勝負という観点では若干関心が薄れてしまったのはやむを得ない。

カネロにとって、独立記念日にネームバリューがあって勝てる相手と戦うことにはメリットが大きいけれども、カーンにとって九分九厘負ける相手と戦うことにあまりメリットはない。キャッチウェイトだから本来のミドル級と戦う訳ではないにしても、やっぱり「壊されるリスク」はないとはいえないからである。

それを受けなければならないほど、カーンにとって待望のビッグマッチだったということである。これまで人気を博してきたキング・カーンだが、2012年のダニー・ガルシア以降の相手は残念ながらいずれも二線級である。メイウェザーやパッキャオ戦にも名乗りを挙げたが実現せず、ここ2年間は100万ドル以上のファイトマネーは受け取っていないものと思われる。

だから、カネロ戦で、おそらくメイウェザー、パッキャオと戦って受け取るレベルのファイトマネーを得ることはたいへん魅力的だっただろう。ましてムスリムのカーンにとって、ラマダン明けになる秋はコンディション調整が難しい。いまを逃せば、来年の春までビッグファイトのチャンスはないかもしれなかったのである。

さて、既定路線ということではアルバレスはGGGと、カーンはケル・ブルックと戦うということになっているが、そんなにすんなりとはいかないだろう。アルバレスがミドル級の体格でないことは明らかだし、カーンは今年の稼ぎを確保したので次は来年でいい。もっともアルバレスはすでに1敗しているので、不利を承知であえて戦うことはあるかもしれない。

ロマゴン、大苦戦も4階級制覇

WBC世界スーパーフライ級タイトルマッチ(2016/9/10、米イングルウッド・フォーラム)
チャンピオンカルロス・クアドラス(35勝27KO1引分け)7.7倍
  O挑戦者 ローマン・ゴンサレス(45戦全勝38KO)1.14倍

9/10は英米で注目のビッグマッチが行われる。こちらはロマゴンの4階級目の挑戦。ただし、ミニマムからスーパーフライまでのウェイト差は10ポンド、ウェルターとミドルの差は13ポンドだから、単純計算はできないにせよケル・ブルックは大したものだということはいえそうだ。

無敗のチャンピオンに挑戦するのに、圧倒的なFavoriteだからさすがにロマゴンである。全勝全試合1RKOで日本に現れたのは10年前、まさか超軽量級で世界的なビッグネームになるとは思わなかった。そして、この分でいくと再来年あたりにメイウェザーの無敗記録に並ぶ。そうなるとメイウェザーは意地でもカムバックということになるのだろうか。

さて、フライ級でさえ余裕含みの体をしているロマゴンがまた1階級上げるのは、ビッグマッチの相手がいないからというのが唯一の理由だろう。とはいっても、スーパーフライでも相手になりそうなのはクアドラス、井上とオマール・ナルバエスくらいで、わざわざクラスを上げてもビッグマッチというのはそうなさそうなのは気の毒だ。

フライ級のウェイトを作るのは難しくないはずだから、4階級の後は再びフライ級に戻って、エストラーダとかカシメロ、ゾウ・シミンあたりと戦う方が本人にとってメリットは大きいしリスクも小さいと思われる。

さて、ロマゴンの魅力といえば何と言っても攻撃力だが、ミニマム時代に高山、ライトフライではエストラーダ、フライ級では前の試合のアロヨに判定決着となっているように、それなりの相手となるとそう簡単には倒せていない。だから今回のクアドラスもKOできないのではないかと思う。

ところが、それらの判定決着でも、ロマゴンがあまり苦しんだという印象はない。確かにクリーンヒットは許すのだが、芯で食うことはほとんどないので、顔を腫らしたこともない。大田区体育館の八重樫戦でも、八重樫は結構いいパンチを決めていたように見えたのだが、後からVTRでみると見た目ほど効いたパンチはない。つまり、ロマゴンは攻防兼備なのである。

ロマゴンの攻撃をかわし続ければ勝てるのなら相手にチャンスはあるが、ロマゴンは無理に倒しに来ないし長丁場も平気である。少なくともロマゴンに出て来させない、できれば下がらせるだけの攻撃力がないと、ポイントを取るだけでも相当大変である。

かたやクアドラス。無敗のチャンピオンにして圧倒的なUnderdogは結構プライドが傷ついているのではないか。とはいえ、勝った相手でそこそこ一流といえるのはルイス・コンセプションくらい(でも、河野といい勝負)で対戦相手の比較でもロマゴンに劣る。もちろん、ここで勝てば一気に世界のビッグネームだから、モチベーションは間違いなく高いはずである。

体格的にはロマゴンを上回るし、ロマゴンの体は絞れていない。であれば、勇気を振り絞ってボディを攻めてほしい。これまでの相手はロマゴンの攻撃を恐れてボディ攻めを徹底できていないし、メキシカンであればボディ打ちはお手のものである。おそらく、クアドラスの突破口はそこにしかない。

まさかそんなことはないだろうが、何の工夫もなくロマゴンと打ち合えば、パワーの差、ディフェンスの差でいずれはロマゴンのペースとなる。クアドラスが勝つためには、前半でボディを効かせて、ロマゴンを出て来れなくするしかないと思うのだが、さてどうなるか。

ロマゴンの4階級制覇を予想するが、決着は7割方判定になると思う。



WBC世界スーパーフライ級タイトルマッチ(9/10、米イングルウッド・フォーラム)
ローマン・ゴンサレス O 判定(3-0) X カルロス・クアドラス

私の採点は116-112ロマゴン。高柳さんが「New!」と聞いて「怪物敗れました」と絶叫してしまったのはご愛嬌としても、117-111がいて3-0判定ならロマゴン勝ち以外はありえない。

WOWOWの採点は両者帝拳ということに遠慮したのか、クアドラスを贔屓した判定を付けていたが、6ラウンドまではほぼロマゴンのラウンド。確かに空振りが多くいつもの追い上げがきかなかったロマゴンだが、クアドラスをロープにつめてクリーンヒットを奪っていた。いくらジャブ重視の北米とはいえ、クアドラスの逃げ足と逃げジャブにポイントはつけられない。

ところが7R以降、ロマゴンが急激に失速した。追い足が鈍ってパンチが出ないところをクアドラスに反転攻勢を受け、まともにパンチをもらっていた。このままラストラウンドまで進めば、ジャッジの2人くらいは引分けにつけるかもしれないと思っていたら、11R中盤以降クアドラスもいっぱいになってしまった。

ロマゴンがこれほど苦戦した最大の理由は、ウェイトだろう。ミニマム級から上がってきたボクサーはこのあたりが体力の限界のはずで、ロマゴンも体格に勝るクアドラスからダウンを奪うことはできなかった。ただ、これは当初から予想できたことで、今回の場合、これまで鉄壁だったディフェンスが破られたという意味は大きい。

つまり、同じように防御していたとしても、相手の体が大きくてパンチにパワーがあれば、ダメージは大きくなるという当り前といえば当り前の話である。それも、ハンドスピード重視で手打ちのクアドラスのパンチにあれだけ顔を腫らしてしまったということは、このクラスはちょっと厳しいとみるのが妥当ということになる。

ただし、今日の苦戦をみて、エストラーダやカシメロ(今日の英国の試合でKO防衛)が名乗りを挙げてくることは十分に考えられるし、フライ級に戻った方がロマゴン本人にとってもファンにとってもいいことのように思う。軽量級では仕方のないこととはいえ、相手が少しでも大きくなることでKOが難しくなるし、ロマゴンの魅力は一にも二にもKOなのである。

GGG、ブルックも相手にならず

WBC/IBF世界ミドル級タイトルマッチ(2016/9/10、ロンドンO₂アリーナ)
Oチャンピオン ゲンナディ・ゴロフキン(35戦全勝32KO)1.17倍
  挑戦者 ケル・ブルック(36戦全勝25KO)6.9倍

WOWOWによると、9月はボクシング祭りだそうである。確かにこれから3週間、好カードが目白押しであるが、その中でも注目なのはGGGとロマゴンであることは言うまでもない。この両者は3試合前から同日にカップリングされてきたのでローテーション的に一緒にはなるのだが、今回はともに無敗の相手との対戦で、絶対とは言い切れない要素がある。

カネロvsアミール・カーンが「階級を超えた対決」というキャッチフレーズだったが、あの試合はキャッチウェイト(スーパーウェルター+1ポンド)で厳密にはミドル級とはいえない。この試合は本来のミドル級の戦いで、まさに階級を超えた戦いとなる。ただし、ケル・ブルックはいずれ階級を上げたことは間違いないので、全く勝負にならないとはいえない。

それでも、GGGが有利であることは間違いない。ケル・ブルックはショーン・ポーターと僅差の判定であり、KO率も6割程度とウェルター級にしては特に高くはない。つまり、体格差がない相手であっても倒し切るところまでは難しいということであり、パワーではGGGに一歩も二歩も譲ることになるのではないだろうか。

かと言って、ブルックは足を使ってうまく戦うという選手ではない。仮に足を使えたからといって12RにわたってGGGをかわすことは難しいとみているが(その意味で、エリスランディ・ララとGGGは結構面白いかもしれない)、ブルックの場合は攻撃力で相手を上回って押し切るパターンなので、正面切っての打ち合いではどうかという懸念がある。

ではGGGには死角はないのかというと、必ずしもそうではなかろうと思う。まず挙げられるのが、攻撃力に自信があるものだから無造作に打たせるところがあるということ。これまでの相手は、腰が引けてきちんと打てなかったが、ブルックはそういうことはないだろう。間違いなく、決して大きくはないチャンスを広げるべく狙ってくるはずである。

もう一つは、GGGはワンパンチで決めるタイプではなく、連打で攻めるタイプだということである。また、相手の打ち終わりを狙うことがない訳ではないが、やや攻防分離のきらいがある。打ち合いの中でカウンターを狙ってくるということは必ずしも多くはない。

だから、クラスはかなり違ってしまったが、アンドレ・ウォードのようなタイプと戦って倒せるかというと、それほど楽ではないような気がする。現在のミドル級は、マルティネスが引退し、その前にはウィリアムスが交通事故に遭い、コットやアルバレスはキャッチウェイトでしかやらないなど、一流のチャンピオンクラスが見当たらないクラスなのである。

ただ、私が思うに、GGGは無敗記録の継続は気にするだろうけれども、ウィルフレッド・ゴメスの連続KO記録にはあまりこだわっていないのではないか。記録記録と騒いでいる人はいるけれども、もともとクラスが違うし、相手も違う。ミドル級のような歴史のあるクラスで、これだけ無敗で防衛記録を伸ばしていることの方が価値があるはずである。

一方のブルック、時間さえかければ、ミドル級タイトルをFavoriteで戦うことはそれほど難しくはなさそうだ。1ヵ月前計量で、GGGよりもウェイトが上だったというのも面白い。とはいえ、ミドル級の相手と、それも一流のチャンピオンと、チューンナップマッチなしに戦うというのは、いかにも準備不足である。

上にあげたようにGGGのボクシングには付け入る隙がない訳ではないので、打たせずに打つことを徹底できれば、逃げ切るチャンスはないとはいえない。例えば、ロイ・ジョーンズがジョン・ルイスに、パッキャオがマルガリトに勝ったような戦い方である。幸いにブルックとGGGにはそれほどの体格差はない。

とはいえ、GGGはジョン・ルイスやマルガリトのように動きが鈍いことはないし、体格差がない分打ち合いになった場合に的も大きい。あれこれ考えるとGGGの防衛は9割方堅いと思うが、何とかブルックにがんばってほしいと思ってしまうのは仕方のないことかもしれない。



WBC/IBF世界ミドル級タイトルマッチ(9/10、ロンドンO₂アリーナ)
ゲンナディ・ゴロフキン O TKO5R X ケル・ブルック

ウェイトではむしろブルックの方が上だったのだが、パワーの差が歴然であった。ゴロフキンは例によってプレッシャーをかけてパワーパンチを打ち込み、ブルックは2Rまでは果敢に打ち返して試合を盛り上げた。しかしながら、ゴロフキンのパンチはブルックを倒しそうなのに対し、ブルックのクリーンヒットはブロフキンにダメージを与えることができなかった。

ゴロフキンもかなり被弾しており、クリーンヒットは4、5発ではきかなかったように見えたが、特に顔を腫らすこともなく、これまでの試合に比べてもダメージは少なかった。逆に、1、2Rでブルックのパワーを見切ってしまい、3R以降はお構いなしに前進したのでそうなってしまったという見方もできる。

ブルックとしては、攻撃力でゴロフキンに及ばず、ディフェンスでも対抗できないとなると、残念ながら今回は勝ち目がなかった。予想記事でお伝えしたように、ウェルター級でもきっちりKOで仕留めるだけのパワーはないので、いきなりミドル級は無理だったとしか言いようがない。

とはいえ、ここまでウェイトを上げてしまうと、ウェルターに戻すのは難しい。今後はスーパーウェルター級が主戦場になるのではないだろうか。現在、ウェルター級のライバルはキース・サーマン、ショーン・ポーター、ダニー・ガルシア。そしてスーパーウェルターにはカネロ・アルバレス、チャーロ兄弟とエリスランディ・ララがいる。スーパーウェルターの方が、ビッグマッチのチャンスが大きそうだ。

さて、ゴロフキン。これで世界戦17連続KO防衛となるが、今回の防衛戦をWBAは公認しなかったので、次の防衛戦はWBAが17度目、WBCが6度目、IBFが4度目となる。連続KO防衛記録などと騒ぐのは日本だけのような気がしてしようがない。連勝記録、連続KO記録だけで十分ではないだろうか(と書いていたら、WOWOWでも言っていた)。

予想記事の繰り返しになるが、ゴロフキンには無造作にパンチをもらうという課題があるので、打たせずに打つアンドレ・ウォードのようなタイプとか、体格的に上回るポール・ウィリアムスのようなタイプが出てきたら面白い。個人的には、カネロよりも、エリスランディ・ララとやってほしい。

もう一つ課題があるとすれば、年齢。なんと私と同じ誕生日のGGGは、私より四半世紀遅れて生まれたので、来年35歳になる。比較的年齢層の高い中重量級とはいっても、30台後半になって力を維持するのは容易ではない。セルヒオ・マルティネスも、35歳を過ぎてめっきり老け込んだ。

パッキャオ、半年でカムバック

WBO世界ウェルター級タイトルマッチ展望(2016/11/5、ラスベガス・トーマス&マックセンター)
  ジェシー・バルガス(27勝10KO1敗) 6.0倍
Oマニー・パッキャオ(58勝38KO6敗2引分け) 1.11倍

前の試合が今年の4月だから、復帰戦ではなく通常のスケジュールである。はじめから復帰織り込み済の引退宣言だったということである。まさに商売ずくだが、1試合で数十億円が動くとなるとビジネス的には仕方のないことなのかもしれない。引退試合と言わなければブラッドリー戦がそれほど注目されたとは思えない。

だからパッキャオのコンディショニングにはさほどの問題はないとしても、そもそも論として、二十歳前から現役である37歳に往年の力が残っているかということである。現実に、ウェルター級以上のウェイトでは2009年のコット戦を最後に、7年間パッキャオにKO勝ちはない。ダウンは奪っているものの、倒し切るだけのパワーがないのである。

確かに、階級を上げてからのパッキャオはディフェンス面で改善しており、まともにパンチをもらうことが少なくなった。とはいえ、メイウェザーのように全くもらわないという訳ではないので、ダメージの蓄積は半端でないはずである。贔屓目に見ても、いまのパッキャオには往年の7割程度の力しかないとみている。

それを補っているのがマッチメイクである。彼の上位階級進出の時点から、戦うのはネームバリューのある相手、言葉を替えればピークを過ぎた相手や下の階級から上げてきた相手がほとんどすべてである。例外を探せばジョシュア・クロッティとクリス・アルジェリだが、後から考えると実力に差があった。スカウティングの勝利ということである。

そのスカウティングの観点からみると、ジェシー・バルガスはうってつけの標的である。4団体の他のチャンピオン、スウィフト・ガルシア、キース・サーマン、ケル・ブルックと比較すると実力でかなり落ちるし、スーパーライトのクロフォード、トロヤノフスキーと比べてもどうかと思う。このあたりの階級のチャンピオンの中から選ぶとすれば、リッキー・バーンズかバルガスだろう。

そして、27勝のうち10KOが示すように、破壊力がない。ウェルター級のトップコンテンダーであるショーン・ポーター、エロール・スベンスJr.と比べても脅威がない。申し訳ないが、クリス・アルジェリとよく似た位置づけである。

そのジェシー・バルガス。2階級制覇のチャンピオンではあるが、パッキャオと戦わない限り単独で100万ドル稼ぐことは難しい選手である。確かにサダム・アリ戦は強かったが、いまから考えるとサダム・アリは騒がれ過ぎであった。パッキャオに対して明らかなアドバンテージがあるのは体格だが、それもパンチ力が伴わないとパッキャオに踏み込まれるだけである。

だからこの試合はパッキャオ判定勝ちがかなり有力であるが、パッキャオの年齢的な衰えが予想以上に大きくて、バルガスが押し切る可能性もない訳ではない。とはいえ、フレディ・ローチがついている以上、あまりその点を心配することもなさそうである。

むしろ注目すべきはパッキャオのこの試合以降のマッチメイク。本来であれば、スウィフトやキース・サーマンとやるべきとは思うが、デラホーヤの晩年と同じように、名前があって下のクラスから上がってきた相手、ロバート・ゲレロとかせいぜいエイドリアン・ブロナーあたりを選ぶのではないかと予想している。



WBO世界ウェルター級タイトルマッチ(11/5、LVトーマス&マックセンター)
マニー・パッキャオ O 判定(3-0)X ジェシー・バルガス

私の採点は117-110パッキャオ。あと1つか2つはバルガスに振ってもいいラウンドがあったけれども、114-113にはならない。私の印象では、10ラウンド以降バルガスは倒さなければ勝てなかったと思う。[注.公式採点は118-109x2,114-113x1 ]

1R、バルガスのワンツーに相当スピード感があったのでパッキャオ苦戦かと思ったところが、2Rのダウンで流れが完全にパッキャオとなった。バルガスの言うようにタイミングで取られたフラッシュダウンではあったが、それ以降バルガスの腰が完全に引けた。重心が後ろにあるのに、スピードの乗ったワンツーが打てるはずがない。

そのあたりも含めて、バルガスの経験のなさ、実力のなさということになるのだろう。アルジェリよりは上だが、ブラッドリーよりは下。予想記事で書いたとおり、パッキャオのスカウティングの勝利である。

それではパッキャオの力が衰えていないのかと言うと、それはどうだろう。少なくとも、ジョシュア・クロッティとやった時のような12R手を出し続けるスタミナ、ディフェンスのいいコットからダウンを奪ったタイミング、二回り体の違うマルガリトを追い詰めた迫力のいずれも、今回のパッキャオからは感じられなかった。

確かにパッキャオはレジェンドになった。すでに実績的にはデラホーヤやチャベスと肩を並べる存在になっているけれども、パッキャオがビッグネームになったのは、階級を次々に上げ、さすがに勝てないだろうと言われつつ予想をくつがえして勝ってきたからである。勝てるだろう相手を選んで勝つだけでは、晩年のチャベスやデラホーヤと同じである。

その意味では、今回の試合を私はそれほど面白いともスリリングだとも思わなかった。どうやら次の試合もやりそうだけれども、会場に来ていたクロフォードを選ぶ可能性は非常に少ないと思っている。

アンダーカードのドネアは完全にコンディションがよくなかった。あれだけ大振りの空振りを繰り返せば、スタミナもロスするしカウンターもとられる。そもそもパッキャオが特別なのであって、フライ級スタートの選手が30過ぎれば力が衰えて当り前である。マグダレノはそんなに強い選手とは思えないので、山中あたりが戦えばチャンスは大いにあると思う。

コバレフvsウォード無敗対決

WBA/IBF/WBO統一世界ライトヘビー級タイトルマッチ(11/19、TモバイルアリーナLV)
Oセルゲイ・コバレフ(30勝26KO1引分け)2.2倍
  アンドレ・ウォード(30戦全勝15KO)1.8倍

ともに全勝の統一ライトヘビー級タイトルマッチ。両者とも勝つ気満々でオッズも均衡している。はじめは2対3くらいでウォード有利だったのだが、試合が近づくにつれてコバレフに人気が集まり、現在は5対6くらいに差は縮まっている。 2013年に当時無敗だったネイサン・クレバリーをKOしてWBO王座を手に入れたコバレフ。その後、バーナード・ホプキンスからWBA/IBFのベルトを吸収、ジャン・パスカルやナジーブ・モハメディをKOして防衛回数を増やしている。P4Pでも上位にランクされる強いチャンピオンである。

何と言ってもその魅力は攻撃力で、ライバル王者のスティーブンソンのようにいかにもパワーのある大振りのパンチというのではなく、接近して堅いパンチを打ちこむというタイプである。ジュニア時代から豊富なアマ経験があり、プロの試合のほとんどを米国で行っているものの、かつてはロシアの国内チャンピオンだったアマ・エリートである。

かたやウォード。こちらはアテネ・オリンピックのゴールドメダリストで、アマ・エリートとしては一枚上ともいえる。やはり全勝で、スーパーミドル時代はスーパー6で優勝して名前を上げた。スーパー6はWOWOWを見ている人にはミッケル・ケスラーやアーサー・アブラハムをアメリカで売り出すための企画のように思われたが、実は当初からウォード優勝という見方は強かったようだ。

スーパー6ではその両者に加え、アラン・グリーン、サキオ・ビカ(いずれも代理出場)、決勝ではカール・フロッチを判定で下した。その後ライトヘビーから下りてきたチャド・ドーソンもKOし、1年半のブランクを経てライトヘビー級に上げ今日に至る。

さて、この一戦を予想するに当たり、最も気になるのはウォードのライトヘビー級がどうなのかということである。スーパーミドル級時代でさえパワーでは対戦相手に一歩譲り、それはこのクラスで50%というKO率の低さにも表れているのだが、パワーも耐久力もスーパーミドルより上のライトヘビー級において、それが通用するのかということである。

ウォード有利という現時点のオッズをみると、最近のスーパーミドル→ライトヘビーの成功例であるロイ・ジョーンズJr.が人々の頭の中にあるように思う。確かにライトヘビーで統一チャンピオンだった頃のロイ・ジョーンズは強かったし、アマチュアの実績ではウォードも引けを取らない。

とはいえ、ロイ・ジョーンズも最後はターバーやグレン・ジョンソンにKO負けしたように、パワーや耐久力はこのクラスではやや見劣りするものであった。ナチュラルなライトヘビー級のパワーを持つ相手と戦ってどうなのだろうかという疑問はどうしても残る。そして、もし本当にこのクラスに自信があるのなら、なぜよりくみし易いスティーブンソンと先に戦わなかったのだろう。

私の予想では、コバレフが前進しウォードが足を使う展開になると思われる。もし、ウォードが打ち合って勝てるパワーがあれば面白いが、打ち合ったらコバレフだろう。ウォードが勝つとすれば12R動いてまともに打ち合うことがなかった場合で、そうなると、たいへんつまらない試合になる。ウォードもKOされないだろうから、コバレフの判定勝ち。



WBA/IBF/WBO統一世界ライトヘビー級タイトルマッチ(11/19、米ラスベガス)
アンドレ・ウォード O 判定(3-0)X セルゲイ・コバレフ

私の採点では114-113コバレフだが、ラスベガス採点なので逆もあるかなと思っていた。予想記事で書いたとおり、面白くない試合でウォードが勝った。

2Rにダウンを奪ったコバレフが3Rに決められなかったのが結果的に勝負を分けた。ウォードにまだダメージが残っているうちに、KOできなかったのはウォードがそれだけ強かったということだし、試合後半ではコバレフに懸念されていた長丁場のスタミナという弱点が出てしまった。

ウォードがスティーヴンソンと先に戦わなかったのはなぜだろうと疑問に思っていたのだが、コバレフの一発ならなんとか耐えられるという見通しがあったのだろう。個人的には、前半の爆発力ならスティーヴンソンで、試合全般通してならコバレフの攻撃力が上と思っていたのだけれど、なるほどコバレフはバーナード・ホプキンスも倒し切れていないのだった。

コバレフの弱点がスタミナだということは、以前から指摘されていたが、ホプキンス戦以降その懸念はなくなったとされていた。しかし、今回の試合、おそらく7R以降ほとんどのラウンドはウォードに行っていたはずで、やはりコバレフの弱点はスタミナだったということである。

だから、3Rくらいからクリンチのもみ合いが多くなったことはウォードの思う壺で、ダメージから回復するまでの時間稼ぎをするとともに、コバレフのスタミナを奪った。その意味では見事な作戦勝ちである。とはいっても、ウォードがコバレフをKOできる試合ではなかったし(ダウン位は奪えたとしても)、ウォードにもそのつもりはなかっただろう。

今回の試合で、本筋以外で気付いたことが2つ。1つは赤コーナーと黒コーナーとなっていたことで、前にも一度そういう試合を見たことがあるような気がするが、赤黒の方がラスベガスらしくていい。ただ、ルール的にそれでいいのだろうかとちょっと気になった。

もう一つ、WOWOWはP4P決定戦とあおっていたが、これまで帝拳の手前ロマゴンを推していたはずなのにそれでいいのだろうか。個人的には、コバレフがウォードをKOすればP4Pの資格はあると思うけれど、ウォードが勝つとすればこうした塩漬けの試合なので、玄人受けするとしてもP4Pには推したくない。やっぱり現段階のP4Pはゴロフキンだろう。

私としては、ウォードの試合はメイウェザーよりつまらないし、リゴンドーよりもっとつまらないので、今後は月曜夜の放送で構わないと思う。むしろ、来週のロマチェンコvsウォータースの方が見たい試合である(たとえ、結果的に判定となったとしても)。

2016年末のボクシング 井上vs河野、内山

ひと昔前は、年末というとK1、PRIDEが定番だったのだが、ここ数年ボクシングの世界タイトルマッチが行われることが多くなった。同じ格闘技とはいっても、歴史と伝統、運営母体の確かさにおいて、ボクシングは他の格闘技の追随を許さない、と思っている。一時期亀田でたいへんイメージを傷つけた過去があるが、ぜひこのまままともに定着してほしいものである。

ボクシングは世界的にも選手層が厚いのでマッチメークがしやすく、K1やPRIDEをやっていた局もボクシングをやるようになって、見る方は大変である。こうなると、関心のある試合とそうでもない試合とを区別しなければならず、関心のない(大阪の)試合はたまたま東京の試合が放送していなければ見てもいい、という程度の優先順位になるのはやむを得ない。

私としては、優先順位1位が井上vs河野、2位がコラレスvs内山、3位がまとめて田口と八重樫の試合ということになる。井岡、田中、村田、小国あたりは予想しても楽しくないし、結果だけ見れば十分である。

WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチ(2016/12/30、有明コロシアム)
O井上 尚弥(大橋、11戦全勝9KO) 1.07倍
  河野 公平(ワタナベ、32勝13KO9敗) 13.0倍

ナルバエスを倒して世界的ビッグネームにのし上がって2年、井上があれからどれだけ成長したかというと、やや首をひねってしまうのは物足りないところ。拳の故障はハードパンチャーの宿命のようなもので、パンチがまともに打てないというのは言い訳にならない。ロマゴンを追って、エストラーダ、さらにジョンリエル・カシメロまで上がってきた。好敵手には事欠かない。

私が思うに、井上の強打はやはり「軽量級としては」のカッコつきの強打であって、体が暖まっていない序盤戦ではきれいに決まるが、打たれる方に耐性ができてくる中盤以降では破壊的とはいえない。まして、カウンターがそれほど上手ではなく、パンチもストレート主体で、相手がこらえている所に打つものだから決定打とはなりにくいきらいがある。

かたや河野、このクラスで2度にわたって世界王者となったが、肝心なところでいつも負けるというイメージがある。唯一の例外が亀1号戦というのはうれしいところだが、あの試合でも亀1にローブローでないボディを効かされてしまっていた。その後本当にローブローを打たれて休めたのが幸いしたが、KO負けなしの耐久力をあまり過大評価しない方がいい。

海外でもオッズが出ていて、井上が圧倒している。井上の勝ちは動かないが、左フックとかカウンターとか、新たな境地をみせてほしいものである。

WBA世界スーパーフェザー級タイトルマッチ(2016/12/31、大田区総合体育館)
  ジェスリル・コラレス(パナマ、20勝8KO1敗)1.7倍
O内山 高志(ワタナベ、24勝20KO1敗1引分け)2.3倍

わが国におけるオールタイムのP4Pを考えた場合、ファイティング原田、大場政夫、具志堅用高、輪島功一らの名前が挙げられるが、2000年代で誰かといえば、私がみるに西岡でも山中でもなく内山である。

4月の試合では体が温まる前にいいのを食って終わってしまったが、内山が打たれ弱いのは昔からで、ああいう危ないところはこれまでもあった。心配なのはむしろ年齢的なもので、耐久力も反射神経もかなり劣化しているのではないかという懸念がある。ただ、カムバックする以上は少なくとも往年の8割くらいの力はあるはずで、パワーだけなら年をとってもそうは落ちない。

私が思うに、前回のあっけない試合は、内山自身のモチベーションの問題ではないかという気がしている。ビッグマッチもなく複数階級挑戦もなく、本来の内山の力を試せないままここまでキャリアを引っ張ってきたことが、よくない方向に向いているように思う。よく言われるように、ジムの問題だ。

せっかくロマチェンコが来てもすぐ上に行ってしまいそうだし、せめてリナレスとやらせてあげられないものだろうか。コラレス自身はたいしたチャンピオンではなく、8割の出来なら内山がKOする。



WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチ(12/30、有明コロシアム)
井上尚弥 O TKO6R X 河野公平

予想記事で、「井上の勝ちは動かないが、左フックとかカウンターとか、新たな境地をみせてほしい」と書いたところ、計ったように左フックのカウンターで井上のKO勝ち。ロバート・バードも最初のダウンで止めるべきだったと思うが、ラスベガスでなく日本なので引っ張ったのだろうか。

いつも試合で拳を痛める井上が、あまり無茶振りをせずにジャブとかボディで河野の体力を削って行ったのはいい作戦。ああいう展開で、ここぞという時に強打をカウンターで入れれば、河野でなくても倒れる。井上にはぜひ今後もこういう戦い方をしてほしいと思う。

河野も何とか接近戦で局面を打開しようとがんばったのだが、井上をあわてさせるところまではいかなかった。5Rにいいのを当てたのだが、井上は意外と打たれ強いのでラウンド終盤では逆襲されてしまった。最後にカウンターを食った場面ではすでに動作が鈍くなっていた。放送時間の関係か、ほとんどVTRを流さなかったのは残念。

スーパーフライ級のリミットで戦えば、すでに現段階でロマゴンよりも強いと思うけれど、世界的にネームバリューを確立したロマゴンには今年一杯くらいの希望者が並んでいる。井上の体つきをみると、来年までスーパーフライでいられるとは思えないので、大橋会長としては何とかクアドラスの次に押し込みたいところ。八重樫ロマゴンの貸しは残っていないのかな。

WBAスーパー世界スーパーフェザー級タイトルマッチ(12/31、大田区総合体育館)
ジェスリル・コラレス O 判定(2-1) X 内山高志

予想記事で、「コラレス自身はたいしたチャンピオンではなく、8割の出来なら内山がKO」と書いたとおりの試合だったが、内山は往年の半分の力もなく、まともに当たったパンチはジャブを含めて一つもなかった。それでも内山に行ったラウンドがあるのは、コラレスが勝手にバテてへろへろになったためで、たいしたチャンピオンでないのは間違いない。

毎日練習をみているジムの連中が、内山がああいう状態であるのを分かってカムバックさせたとしたら、ファンに対して詐欺師としかいいようがないし、分かってなかったとしたらお前らの目は節穴かという話である。とにかくジャブが出ないし、ディフェンスはガードするだけ。動体視力も反射神経も世界タイトルマッチに出せる水準ではなかった。

昨日の試合を見ていて、何十年も前のガッツ石松を思い出した。石松もテレビ局の思惑絡みで最後の試合に出て、全くコンディションができておらずKO負けした。でも、相手がセンサク・ムアンスリン(ロマチェンコも破れなかった最短世界王者)だし、タイトルを奪われたのもエステバン・デ・ヘスス(その当時デュランに勝った唯一の男)、ともにあの時代最高のチャンピオン達であった。

対して内山は、おそらくすぐに忘れられてしまう水準の王者に、2度も完敗した。前回の試合は出会い頭に一発もらったで済ませられるが、今回の試合は周到に準備してほとんどパンチを当てられなかったのだから、十数回防衛したチャンピオンとして最悪の結末である。私は内山を日本のP4P候補と思っていたが、残念ながらその評価はこの1回の戦いで急落である。

願わくは、観戦に来ていたモンスター井上が、この日の内山をみて何かを感じ取ってくれていたらありがたい。

ワタナベジムのもう一つの凡ミスは、田口の相手として連れてきたカニサレスであった。小型ロマゴンかと思って田口自身も準備してきただろうに、出てきたのはベネズエラの高山だった。超軽量級ではああいう戦い方がまだまだ効果があるということが分かったが、小さな相手が動き回れば田口でなくてもてこずるだろう。

つくづく、あの会長はカネ勘定ばかりで何も考えていないと思う。井上相手に果敢に勝負に行った河野だけがこの年末の成果だが、あのていたらくでは後に続く選手は出てこないだろう。これも「亀の呪い」か?

ページ先頭に戻る    → 2017年予想&観戦記    ボクシング過去記事目次