アイキャッチ画像:自ら撮影したデラホーヤvsホプキンス@MGMグランド

GGGvsジェイコブス    ロマゴンvsシーサケット    ジョシュアKOクリチコ弟
ウォードvsコバレフⅡ    パッキャオvsホーン    GGGvsカネロ
2017年末ボクシング


GGG、WBA統一戦

WBA・WBC・IBF統一世界ミドル級タイトルマッチ(2017/3/18、ニューヨークMSG)
O ゲンナディ・ゴロフキン(36戦全勝33KO)1.12倍
  ダニエル・ジェイコブス(32勝29KO1敗)6.0倍

メイウェザー引退後のP4P(パウンド・フォー・パウンド)の呼び声高いGGGであるが、それほど圧倒的なオッズとはなっていない。言葉は悪いけれども、日本で行われる山中や井上のタイトルマッチより勝負に関心を持たれているということである。

それはなぜだろうと考えてみると、連続KO防衛を積み重ねてはいるものの、GGGの試合振りはそれほど圧倒的とはいえないのである。1発で決めるカウンターがある訳でもなく、強烈なパワーがある訳でもなく、際立ったテクニックがある訳でもない。基本はインサイドに入っての連打なので、接近するまでに被弾がある。GGG自身、全くきれいな顔で試合を終えることは少ない。

だから、モンソンのようなタフネス、ハグラーのようなパワー、ロイ・ジョーンズのようなカウンターの打てる相手にどうなのか考えると、未知数ということになる。せめて、マラビージャ・マルティネスやポール・ウィリアムスと対戦の機会があればその疑問はクリアできたかもしれないが、残念ながら対戦することはなかった。

ある意味、ライバル不在の名王者ということになるのかもしれないが、それでも、現時点における対抗王者はジェイコブスとソーンダースしかいないので、最強の相手ということになる。GGGが敗れるとすれば打つ前に打たれて倒れる場合だろうと思っているので、可能性としては全くないとはいえない相手である。

そのジェイコブス、1敗したのはかつてのチャンピオン、ディミトリー・ピロフのみ。2010年の話だからGGGが売り出す前である。そのピロフ戦以降12連続KO勝ち。その中にはピーター・クイリンやセルヒオ・モーラが含まれている。

とはいえ、大陸をまたいで世界上位ランカーをなぎ倒してきたGGGと比べると見劣りするのは明らかで、年齢も似たようなものなので上昇度もさほど強調できない。可能性はなくはないが、倒される可能性はさらに大きいと言わざるを得ない。

GGGも30代半ばにさしかかり、これからのライバルは若くて威勢のいい連中になるだろう。すでに名前のあるカネロ・アルバレスがリスクを冒すことは考えにくいが、チャーロ兄弟はじめ、このあたりのクラスでビッグマネーを求めて立ちはだかるであろう候補は少なくない。今回はGGGがKO勝ちするとみるが、ここ数戦の間にも危ない試合はありそうである。

WBA・WBC統一世界ミドル級タイトルマッチ(3/19、ニューヨークMSG)
ゲンナディ・ゴロフキン O 判定(3-0)X ダニエル・ジェイコブス

私の採点は116-111ゴロフキン。ジャッジ採点は1、2ポイント多くジェイコブスに振っていたが、地元だそうだからそれくらいは仕方がない。ゴロフキンの連続KO防衛記録はウィルフレッド・ゴメスに並んだところで途切れた。

ゴロフキンが右のダブルでダウンを奪って以降、ジェイコブスが左にスイッチしてディフェンシブな戦い方となった。それから後はゴロフキンも攻めあぐねてラウンドを重ね、決定的なラウンドを作ることはできなかった。オッズ通り、ジェイコブスは実力者だったということだろう。

予想記事にも書いたように、ゴロフキンのファイトには圧倒的な要素がそれほど多くはない。これまで重ねたKO記録も、渕上や石田が含まれていることから明らかなように、相手に恵まれたといえなくもない。だから今日のような判定防衛も、本来ならもっと早くあっておかしくなかった。

個人的には、連続KO防衛「記録」なんてものにほとんど意味はなく、誰にどういう内容で勝ったかということが重要なのである。その意味で、高いKO率を誇るジェイコブスにダウンを与えて判定勝ちという結果は尊重すべきであるし、現在のミドル級における最強選手であることも確かである。

一方のジェイコブス。左構えとしたことでKO負けは回避できたが、力のある速射砲連打が出せなかったことで、勝つチャンスもまた小さくなってしまった。スケールを小さくしたコバレフvsウォードのような感じで、ウォードのような戦い方ができれば僅差判定を持って行けたのかもしれないが、サウスポーにした時の攻撃力のなさが響いてしまった。

採点としては競っていたこと、ゴロフキンがKOできなかったことで、再戦という話が出てくるだろう。ただでさえゴロフキンの相手はいないのだから、今回のように150万ドルのファイトマネーということになれば、ジェイコブスも断る理由はなさそうだ。チャーロ兄もミドル級に慣れるには時間がかかるだろうし。

もう一つ、WOWOWでは空いたWBAレギュラー王座に村田が挑戦という伏線を張っていたが、クラス最強のチャンピオンを標的としないという時点で、ボクサーの志としてどんなものなんだろうかと気になった。

ロマゴン、落城

WBC世界スーパーフライ級タイトルマッチ(2017/3/19、ニューヨークMSG)
Oローマン・ゴンサレス(46戦全勝36KO)
  シーサケット・ソー・ルンビサイ(41勝38KO4敗)

クアドラスを辛くも退けて4階級制覇を果たしたロマゴンの初防衛戦。当初はクアドラス直接再戦という情報もあったが、クアドラスの前のチャンピオン、シーサケットに落ち着いた。

米大陸のファンにとって、シーサケットの知名度などなきに等しく、ロマゴンが何RにKOするかにしか興味はなさそうであるが、日本のファンにとってこの対戦はかなり楽しみである。というのは、ロマゴンのスーパーフライはとても圧倒的とはいえないし、シーサケットがバンコクでの佐藤戦くらい強ければ、結構いい試合になりそうだからである。

ロマゴンは軽量級離れしたパワーとさりげないテクニックで勝ち星を重ね、米国での地位も確立しつつある。この試合が47戦目で、これを勝てばあと2つでメイウェザー(とロッキー・マルシアノ)に並ぶ。ロマゴンとの高額ファイトを求めて、エストラーダやカシメロがクラスを上げてきているのは周知のとおり、その中には井上尚弥も含まれる。

クラスを上げるということは、自分の体を上のクラスにフィットするということが一つと、対戦相手のパワーも耐久力も大きく上がることに対応するというもう一つのリスクがある。前者については時間をかければ対応可能な部分が大きいのだが、後者についてはそうではない。だから、メイウェザーもパッキャオも、上のクラスではKO率が極端に落ちている。

ロマゴンについても、スーパーフライへのフィットについては、前の試合よりこの試合、この試合より次の試合とますます対応していくだろう。一方で、対戦相手が相対的に強くなることについては、まだ未知数な要素がかなりある。個人的には、スーパーフライならロマゴンより井上の方が強いと思うけれども、シーサケットと井上だって井上の圧勝だろう。

そのシーサケット、ムエタイからの転向当初は別として(八重樫と戦っている)、国際戦の負けは実質的にはクアドラスのみ。その負けも、テクニックの違いで完封されたという訳ではなく、クアドラスのカット(バッティング)で負傷判定になった負けである。いまだ後に下がって負けたことはない。

バンコクで佐藤を追いかけまわしたようなプレッシャーを、ロマゴンにかけることができるかどうか。体格的にはシーサケットが上回るので、全く可能性がないとはいえない。それでも、ロマゴンの強打を受けてそれでも前進できるかどうか。ロマゴンは下がってもある程度テクニックは発揮できるだろうが、シーサケットは後に下がったら勝ち目はない。

とはいえ、シーサケットのタイ国内全勝、国外全敗という「内弁慶」振りを否定するのは難しく、タイ選手特有の「勝負にならなければ早々にあきらめる」式が出ないとは限らない。それでも、佐藤洋太を追いかけまわしてから4年しかたっていないことを考えると、それほどみっともない試合にはならないことを期待したい。予想としてはロマゴン判定勝ち。

WBC世界スーパーフライ級タイトルマッチ(3/19、米ニューヨークMSG)
シーサケット・ソールンビサイ O 判定(2-0) X ローマン・ゴンサレス

私の採点は115-111ロマゴン。だから判定にはちょっとびっくりだし、連勝記録が途切れてロマゴンかわいそうと思わないでもないが、少し前からのロマゴンの試合ぶりは全試合1RKOで売り出した頃とは雲泥の差で、これでメイウェザーの記録に迫るというのも何なので、いろいろ考えると妥当な結果といえなくもない。

1Rのダウンは、バッティングもあり足も引っかけられたように見えたのでそれほどのダメージはなかっただろうが、その後のカットは影響が大きかった。おそらく8Rくらいで負傷判定になっていれば連勝が続いたかもしれないが、それも含めてあのボクシングでP4Pとはとても言えない。

思うに、かれこれ10年も戦ってきて、最軽量級からのスタートではそろそろ年齢的に厳しいのかもしれない。上に書いた繰り返しになるが、ここ数戦の体のキレの悪さは隠しようがなかった。クラスを上げたことによる余分な肉ということもあるし、全身にたまってしまった疲労の影響もあるのだろう。

それに、いくらバッティングとはいえ、あそこまで嫌な顔を見せるのはいただけない。当り前のことだが、クラスが上がればパンチ力が増すけれども、それと同時に頭突きのパワーだって大きくなる。まして体格的に劣るものだから、バッティングをまともにもらってしまうのである。もちろん反則ではあるのだが、ある程度は気を付けておかない方が悪い。

微妙な判定だし、これで引退ということはなさそうだが、今後誰と戦っても、スーパーフライではかつてのロマゴンの迫力を期待するのは難しいような気がする。目標がなくなってしまった井上は、もしかするとバンタムに上げることになるのかもしれない。それはそれで面白そうだが、せっかく日本人選手がアメリカでPPVに乗れるチャンスだったのに残念である。

チャンピオン奪回のシーサケットだが、私の採点では負けだし、MSGでも首をひねった人が多かったのではないだろうか。前半こそ佐藤を追い詰めた前進がロマゴンを後退させたが、中盤でボディを効かされて以降、後に下がる場面が多くなった。ジャッジはあの声を出しながらの手打ちパンチにポイントを割り振ったのだろうか。

次の試合はWBCの指示によりクアドラスになるのだろうが、シーサケットvsクアドラスにHBOやShowtimeが興味を示すとは思えないので、再び米国では不人気なクラスとなる可能性が大である。今日の出来であれば、井上はもちろんのこと、エストラーダとやってもカシメロとやっても、もしかして井岡とやっても勝てないのではないかと思う(MSGでやらなければ)。

新旧交代!ジョシュアKO勝利vsクリチコ

WBA/IBF世界ヘビー級タイトルマッチ(2017/4/29、ロンドン・ウェンブレースタジアム)
Oアンソニー・ジョシュア(16戦全勝16KO) 1.4倍
  ウラディミール・クリチコ(64勝53KO4敗) 2.8倍

ヘビー級久々の大一番である。新旧対決ということでいえば、レノックス・ルイスvsマイク・タイソン(2002年)、レノックス・ルイスvsビタリ・クリチコ(2003年)以来といっていい。私は過去50年最強のチャンピオンはレノックス・ルイスだと思うが、その根拠はこの2戦で新旧ライバルを下しているからである。

試合が決定した直後のオープニングオッズでは両者ほぼ拮抗したオッズだったのだが、ここへ来てジョシュアが人気を集めている。いまや日の出の勢いのあるジョシュアに対し、ウラディミールは41歳になり、しかもタイソン・フューリーに敗れて以来1年半振りの実戦である。このブランクはフューリーに原因があるので気の毒だが、不利な要素であるのは間違いない。

まずウラディミールについて言えば、1年半のブランクは初めてのことである。兄ビタリと違ってコンスタントに試合を行ってきていて、2003年、2004年の二度のKO負け後も半年で次の試合を行っている。激戦型の選手の場合、ある程度の試合間隔はプラスに働くこともあるが、あまり打たれていないウラディミールの場合どうだろうか。かえって試合勘が失われていることが心配だ。

それと、ウラディミールのこれまでの戦いのほとんどが、圧倒的な体格差を生かして、距離を保ってストレート系のパンチで決めるという試合であった。アッパーやフック系を試みた時期もあったけれども、結局はストレート系主体の戦い方に戻っている。

ある意味、戦法に幅がないということである。それでも幾多の挑戦者を退けてきたのは、体格差つまり距離の違いがあったことと、ボクシングの能力に差があったことが要因であった。ところが、今回の相手ジョシュアはウラディミール同様にゴールドメダリストであり、体格差もほとんどない。だから、いままでの戦い方で足りるかどうかは分からない。

そして、もう十数年前のことになってしまったが、コーリー・サンダース戦、レイモン・ブリュースター戦に見られるように、自分のペースで戦えなかった場合には打たれ強くもないしスタミナも十分ではないということを忘れてはならないだろう。

それでは、ジョシュアが盤石かというと、未知数というより不安要素がかなりある。最も重要なのは、ウラディミールと比べて経験があまりに少ないということであり、それに伴って、長丁場のスタミナが試されていないということである。

全勝全KOの戦績は見事ながら、7Rまでしか戦っていない。そして、世界タイトルマッチ常連との戦いがほとんどない。私のみるところケビン・ジョンソンくらいだが、負けが込んできてからのジョンソンなのであまり参考にはならない。チャールズ・マーティン、ドミニク・ブレジールくらいでは、ウラディミールが過去に戦ってきた相手と差がありすぎる。

同じヘビー級のデオンティ・ワイルダーが、全勝全KOだったのにタイトルマッチではスティバーンと判定勝負になり、その後の防衛戦も弱敵相手にあまり余裕のない勝ち方をしているのをみると、経験というものは決して軽視できないと思う。

だから本来ならば、ウラディミールとやる前に、ワイルダーと統一戦をやるとか、ポペトキンかルイス・オルティスと戦って経験を積んで頂上決戦に臨むべきだったのではなかろうか。もちろん、マイク・タイソンのように格の違い、経験の違いをものともせず片っ端からぶっ倒して王座に君臨するケースもあるから、断定はできないが。

どちらにもチャンスはありそうだが、兄ビタリと比べて、ウラディミールにはどうにも底力、紙一重になった時のプラスアルファが足りないような気がするので、私はジョシュアの上昇度に賭けてみたい。ただし、いままでのような戦い方ではなく、足を使ってウラディミールの射程に近づかない戦い方をするのではないか。だから判定になると思う。



WBA/IBF世界ヘビー級タイトルマッチ(4/29、ロンドン)
アンソニー・ジョシュア O 11RTKO X ウラディミール・クリチコ

私の採点では10Rまで95-93ウラディミールだったのだが、ジャッジ3人中2人はジョシュアだったので、あのまま進んでも良くて引分けだったようである。しかし印象的には、ジョシュアの逆転KOといっていいと思う。

予想記事で書いたように、ジョシュアの強敵経験のなさ、スタミナの不安が的中して、6Rにダウンを奪われて以降はウラディミールのペースで試合が進んだ。ただ、あのふらふらな状態から回復できたのは若さであり、打たれ強さであり、ゴールドメダリストの底力だろう。10Rにはクリチコの左ジャブに右をかぶせていたので、持ち直しているように感じられた。

11R、前半1分くらいしか攻める体力の残っていないジョシュアが前進してコンビネーションを集めると、やや攻めに重点を置いていたウラディミールがまともにもらってダウン。さらに2度目のダウンの後たたみかけたジョシュアに、レフェリーが割って入ってストップとなった。

試合全般を通して振り返ると、やはりウラディミールの年齢と長期ブランクの影響があったように思う。前半のジャブの差し合いではジョシュアの方に迫力があったように見えたし、左フックの空振りもスタミナを消耗させた。5Rの先制ダウンもクリーンヒットというほどではなかったが、体格差のない相手との対戦があまりないウラディミールは面食らったようだ。

とはいえ、このダウンの後ウラディミールの逆襲がすばらしかった。5R前半に振り回して消耗したジョシュアが急激に失速、このラウンドは10-9でもいいくらいクリーンヒットをもらったし、一度ロープに飛ばされたのはダウンに近い状態。そして6R、逆に右ストレートでダウンを奪い返されてしまう。

全盛期のウラディミールだったとしても、基本的に攻め手はストレート系に限られるので、あの状態から倒し切ることはできなかったと思う。しかし、これまでの相手はあの状態から逃げ回る一方だったのに対し、ジョシュアは回復して打ち返してきた。その結果が11RのKOシーンとなった訳である。

もともとウラディミールは打たれ強い訳ではないので、パワーパンチをもらえば倒れる。そして、ウェイトを増やしてきたジョシュアに対抗するため前半から足を使ったので、スタミナの余裕はそれほどなかったようだ。とはいえ、オリンピック3大会分の年齢差のある相手にここまで対抗できたというのは、やはりウラディミールも大したものである。

さて、勝ったジョシュアだが、この一戦でヘビー級最強といえるかというとなかなか難しい。長丁場になっても戦えるということが分かったのは収穫だが、よく考えるとパンチが出ていたのはラウンド前半だけで、後ろ1分半くらいは毎ラウンド失速していたようでもある。ウラディミールも11R前半もう少し慎重に戦っていれば、判定勝負になったかもしれない。

そして、今日の勝ちは別として、全勝全KOの戦績にふさわしいほどのパワーパンチャーかというと、そうともいえないように思う。パワーだけみればワイルダーの方があるように思うし、あれだけウラディミールの左ジャブをまともにもらったディフェンスにも課題がありそうだ。

とはいえ、まだプロのキャリアは始まったばかりであり、まだこれから強くなる可能性のある選手である。今日はあまりみられなかったコンビネーションをきちんと使えるようになれば、強敵相手でも安定した試合をできるのではないだろうか。

あと、両選手以外では、ビタリ・クリチコの「俺が現役なら仕留められたのだが」的な渋い表情と、レノックス・ルイスの「やっぱり俺の方が強かっただろう」的な笑顔が印象に残った。

ウォードvsコバレフⅡ

WBA/IBF/WBO世界ライトヘビー級タイトルマッチ(2017/6/17、LVマンダレイベイ)
Oアンドレ・ウォード(31戦全勝15KO)1.7倍
  セルゲイ・コバレフ(30勝26KO1敗1引分け)2.3倍

早いもので、前回対決からもう半年たつ。前回はジャッジ3者がいずれも114-113ウォード。私の採点では114-113コバレフなので再戦は妥当ともいえるが、村田vsヌジカムとの違いはそれほどなかったように思う。村田の判定をあれほど大騒ぎするのは、よく分からない。

ウォードvsコバレフに話を戻すと、確かに微妙な判定ではあったものの、コバレフがウォードを倒せなかったことも事実だし、試合後半をウォードが支配していたことも確かである。チャンピオンがコバレフだったから、挑戦者であるウォードがあの試合振りでいいのかという問題があったけれど、今回も同じ展開となればウォードの判定で仕方のないところである。

どの再戦でも注目されることとして前回の試合からの上乗せはあるかどうかだが、ライトヘビー級の実績が不足していたウォードは前回よりもいい試合をできる要素はあるものの、コバレフにあるかどうかは微妙なところ。というのは、パワーはそう簡単に強化されない上に、スタミナに至ってはいまさらどうしようもないからである。

前回明らかになったコバレフの弱点は、一発のパワーはあるものの足のある相手を捕まえきるだけの機動力はないし、ペースを握れない試合では後半の失速が明らかということである。ということになるとウォードは前回以上に足を使って試合を後半に持ち込むだろうし、それに対してコバレフが効果的な対抗手段があるかというと、ちょっと思いつかない。

一方のウォードも、スーパーミドル級でも相手を倒し切るだけのパワーはなかったし、ましてライトヘビー級では無理である。逆に考えると足を使ってテクニックでしのぐしか方法がない訳で、ある意味戦法に迷いがない。コバレフもアマキャリアはあるが、ボクシングをすればウォードの方が上というのは前回分かったし、あとは不用意な一発を食わないことだけである。

そういうボクシングが面白いかどうかは別にして、メイウェザー以来そういうボクシングスキルが重視されてきたことも確かである。もし結果が逆だったら笑われてしまうけれど、私にはウォード判定勝ち以外の展開がどうにも思い浮かばない。でも、ライブで見る必要もあまりないので、WOWOWの録画中継で十分である。

WBA/IBF/WBO統一世界ライトヘビー級タイトルマッチ(6/17、LVマンダレイベイ)
アンドレ・ウォード O TKO8R X セルゲイ・コバレフ

最終的にはボディかローブローか微妙なところはあったが、コバレフがスタミナ切れだったのも確か。仮に判定まで行ったとしても、8R以降ウォードで間違いなかっただろう。ただし、7Rまでの私のスコアは1ポイントコバレフなので、コバレフがローブローでストップはおかしいというのも分からないではない。

とはいえ、試合前に予想したとおり、ウォードには前回からの工夫がみえたのに対し、コバレフにはみえなかった。ウォードは前半3Rくらいまでは距離をとってビッグパンチを食わないようにし、足を使って試合を後半に持ち込むことに成功した。コバレフは5R以降目に見えて動きが落ちたし、ウォードのパンチはシャープだったから、両者の準備の違いは明らかであった。

ただし、VTRをみる限り、最初に効かせたパンチはベルト上だけれども、最後ストップされたパンチはローブローのように見える。いずれにせよ、試合の流れの中だから倒される方が悪いのだが、後味がよくないことも確かである(あれで、俺のボディは無敵などと言ったら、亀田と同じである)。

後味がよくないといえば、セミのリゴンドーの試合も同様である。こちらも、流れの中であのパンチを食らうフローレスがよくないことは確かなのだが、少なくともリゴンドーはゴングが聞こえてから打ったと思われる。(注.ネバダ州コミッショナーは、後日、この試合をノーコンテストに変更した)

ドラクリッチレフェリーの裁定も妙で、頭を押さえて打つのが反則で割って入るのならリゴンドーの手を押さえるべきである。フローレスにとってみれば、ゴングが鳴ってレフェリーが間に入って手を止めたらリゴンドーのパンチが飛んできた訳で、あれでKO負けにされては踏んだり蹴ったりというところであろう。

とはいえ、リゴンドーvsフローレスは何回やってもリゴンドーの勝ちであることは間違いなく、再戦しても結果は同じだろう。その意味では、前回はどちらの勝ちともいえたコバレフが、これから何回やってもウォードに勝てないこととは、若干違うといえなくもない。

パッキャオ劣化の上敗戦

WBO世界ウェルター級タイトルマッチ(2017/7/2、豪ブリスベーン)
Oマニー・パッキャオ(59勝38KO6敗2引分け)1.16倍
  ジェフ・ホーン(16勝11KO1敗)7.0倍

ウェルター級の覇権はキース・サーマンなのかそれともエロール・スペンスなのかがファンの関心であって、昔の名前で田舎で試合するパッキャオには「まだやるんですか」というのがまともな反応だろう。まあ、統轄団体が認めるだけMMAのマクレガーと戦うメイウェザーよりましといえなくもない。

思うに、超軽量級(スタートはフライ級だ)から上げてきて、ミゲール・コットやマルガリトと戦った頃がパッキャオのピークであって、ウェルター級に落ち着いてからはいまいち迫力のないマッチメイクが続いている。ボクシングマガジンを立ち読みするとこの一戦も米国での関心は今一つのようだが、それも無理はない。

ジェフ・ホーンはWBO1位だから挑戦資格としては十分なのだが、なにせ世界的に無名である。ウェルター級は最近人材が薄くなってきていて、サーマン、スペンス、スウィフト、ポーターといったチャンピオンクラスを除くと、あまりインパクトのある選手はいない。そして彼らチャンピオンクラスと戦う気は、パッキャオにはなさそうである。

それでも、オーストラリアでの盛り上がりはかなりのもので、東京ドーム級の会場が一杯になるだろうと言われているそうだ。日本の場合、仮にコットvs亀海を武道館でやっても満員にするのは難しいだろうから、やはりパッキャオ人気というのはすごいということになるだろう。

さて、そういう訳で挑戦者に対する情報が極端に乏しい中で予想しなければならないのだが、それでもパッキャオと考えるのは、フレディ・ローチが付いているからである。フレディ・ローチとパッキャオの相性はたいへんによく、階級を上げた当初、それまでの左ストレート主体の攻撃から、右フックに重点を移して大成功したことはいまだに印象に残っている。

そのフレディ・ローチが、アミール・カーンでなくホーンを選んだという点で、現在のパッキャオでも楽勝という読みがあるのだろうと思う。その読みに間違いがなければ、3年前のアルジェリ戦のように何度かダウンを奪ってパッキャオ判定勝ちというのがもっともありうるパターンだろうと思う。

一方、ホーンを強調できる点をあげるならば、昨年ランドール・ベイリー、アリ・フネカと元世界上位クラスを連続してKOしていることである。ベイリーにせよフネカにせよ、一線級から退いて久しく、ロートルを倒しても強調材料にはならないというのが大方の見方だとは思うが、パッキャオだって38歳、彼らとたいして違わないのである。

WBO世界ウェルター級タイトルマッチ(7/2、豪ブリスベーン)
ジェフ・ホーン O 判定(3-0)X マニー・パッキャオ

何日か前に予想していた結果とは違ったものの、パッキャオが劣化していたことに特に驚きはなかった。ちなみに私の採点は116-112ホーン。最初の4ラウンドはESPNと同じ39-37ホーンであった。

もともと、軽量級から上がってきたパッキャオは体格的に上の相手と戦うことがほとんどであり、そのディスアドバンテージをスピードとタイミングで圧倒してここまでの地位を築いてきた。ホーンのような体格で押す戦い方はリッキー・ハットンだってマルガリトだってしたかったけれども、それをさせないだけのスキルがパッキャオにはあったのである。

しかし、今日の試合ではスピードもなく体のキレもなく、かつてこうした相手に有効であった右フックもほとんど出せなかった。9ラウンドにあわやKOというラウンドを作ったのが最後のきらめきであって、最後は再び体で圧倒されて試合を終わった。マルケス4の時はまた復活するだろうと思ったものだが、今回はこれ以上衰えた姿をみせてほしくないと思っている。

新チャンピオン・ホーンは、実力的に位置づけるとジェシー・バルガスとブランドン・リオスの間くらいだろうと思う。だから米国本土で戦えば、リオスには勝てそうだがバルガスには負けるだろう。ショーン・ポーターとかスウィフト・ガルシアには圧倒されるだろうし、ましてサーマンやエロール・スペンスとは格が違う。

そんな相手に勝てなかったパッキャオの敗因は、ジョー小泉の指摘したように「今日のパッキャオは動きがよくない」に集約される。試合前の予想映像でブラッドリーが「パッキャオは本気でやるのかね」みたいなことを言っていたが、本気とか8割の出来とかいう以前に、パッキャオの劣化は予想以上にひどかった。

これは、上院議員の仕事との両立が大変だということ以上に、軽量級スタートの選手が30代後半まで戦うことに無理があるのである。WOWOWのVTRで流していたモラレス戦もハットン戦も約10年前だ。そんなピークを過ぎた選手が、いつまでも世界の一線級で戦えるほどプロボクシングの世界は甘くないはずである。

4団体もあるから38歳のパッキャオもチャンピオンでいられたが、ウェルター級の最強はサーマンかスペンス、彼らに次ぐのがポーターとスウィフトで、もうすぐ下のクラスからクロフォードとかマイキーが上がって来る。もはやパッキャオの時代ではない。かつてのチャベス(・シニア)のように引退記念試合を何十もやるならともかく。

今回の予想で見逃していた要素があるとすれば、フレディ・ローチもかつての彼ではないということだったと思っている。すでに十分な名声や報酬を得ているので、あえて上得意を敵に回すリスクを冒す必要はない。なあなあで相手して適当に調整して、オーストラリアに大名旅行できれば十分だったのではないか。

その意味では、コットに挑戦する亀海のupset可能性が20%ほど上がったような気がする。

GGG vs カネロ

WBA/WBC/IBF世界ミドル級タイトルマッチ(2017/9/16、ラスベガス・Tモバイルアリーナ)
Oゲンナディ・ゴロフキン(37戦全勝33KO) 1.57倍
  カネロ・アルバレス(49勝34KO1敗1引分け) 2.37倍

GGGの試合にしては、意外なほどオッズが接近している。私がハンディキャッパーなら1対3くらい付けるかもしれない。おそらくカネロ陣営も、チャンスありとみているから挑戦したのだろう。私の意見は、GGG乗りである。ゴロフキンにあってカネロ・アルバレスにないもの、それが勇気であり、試合になればそこが違ってくると思うからである。

GGGの試合には隙がある。無造作に接近するからまともに打たれるケースがよくあるし、後半になると追い足が鈍る。ジェイコブス戦も明らかに失ったラウンドがあったし、その前のケル・ブルック戦もスピードにあおられる場面がみられた。

以前はそれがGGGの欠点だと思っていたが、最近見解が変わった。おそらくそれが、GGGの勇気なのである。世界の一線級相手では、相手にもスキルがあるしテクニックもある。そうした相手にパワーパンチを決めるには、自分もリスクを冒さなければならない。相手のパンチの届く距離に踏み込まなければ自分の強打も当たらないし、逆に相手の強打も受けることになる。

自分だけがパンチを当てて、相手の攻撃によるリスクがないなどという試合は、本人は面白いかもしれないが客はあまり面白くない。例えばメイウェザーである。ただしメイウェザーは大部分の試合がマッチメークした時点でそうなると分かっている試合だけれども、何試合かに1試合はリスクを冒す試合をするので、長く無敵を誇ることができた。

GGGが本当の世界一線級と連続して戦うようになったのは2014年頃からである。誰も石田や渕上を世界一線級とは思わないし、カシム・オーマもその時点で下り坂だった。しかしダニエル・ゲール以降の試合はほとんど全員が本物の世界一線級である。その相手に連続KOしてきたのだから、多少の被弾はやむを得ないし、いつかはKOできない日も来る。

その連続KO防衛が途切れたダニエル・ジェイコブス戦をどうみるか。私の意見は、ジェイコブスとは体格差があったし(IBFの当日計量を拒否したことからすると、10ポンド以上は違っていたのだろう)、ディフェンスも巧みだった。ジェイコブス自身、勝つことよりも、連続KOを阻止しようとしたように見えた。

そうしたことからすると、また相手が最大のライバルと世界が認めるカネロとなれば、GGGのモチベーションは間違いなく高い。連続KOが途切れたこともプラスに働くはずで、カネロが打ち合いに応じればKOが期待できるし、逃げ腰になれば12Rプレッシャーをかけ続けることになるだろう。

かたやアルバレス。私が「勇気がない」というのは、あのメイウェザー戦でカウンターを決められて全く踏み込めなくなってしまったことを指している。その後の対戦相手をよくみると、コットやアミール・カーンなど体格的に劣る相手か、ララのように一発を恐れることのない相手とばかり戦っている。チャベスJr戦でミドル級で戦う目処が立ったというが、前に出るだけで手を出さない相手に勝ったからどうだというのだろう。

アルバレスの場合、チャベスJrほどではないがボクシング一家の若きヒーローとして十代の頃から人気があり、さほどリスクのあるマッチメークをしなくても稼ぐことができた。オースティン・トラウト、メイウェザー、エリスランディ・ララくらいがリスクある相手で、そのリスクも勝ち負けのリスクであって倒されるリスクをあまり考える必要がなかった。

ところが、今回はキャリア初めてといっていい倒されるリスクのある相手との戦いである。それでも踏み込んでいく勇気がカネロにあるかどうか。しかも、体格のある相手と戦ったのはチャベスJrだけなのである。GGGとは格が違う。

もちろん、カネロの強打も十分ミドル級で通用するとは思っているが、これまでミドル級の一線級と戦って相当のパンチを受けてきたGGGにいきなり通用するかどうか、私はその点は否定的である。そして、GGGの一発でカネロがいきなり倒れることもないだろうが、GGGの強打を受けてカネロが「マッチョ」でいられるかどうかにも、私は否定的なのである。

統一ミドル級タイトルマッチ(9/16、米ラスベガス)
ゲンナディ・ゴロフキン △ 判定(1-1) △ サウル・アルバレス

私の採点は115-113ゴロフキンだが、引分けどころかカネロ勝ちもあるかと思った。だから118-110の点差には驚いたものの、三者三様ドローの結果には驚かなかった。こういう結果になった第一の要因は、おそらくGGGの衰えである。たびたびCo-Mainを張ってきたロマゴンと同様、GGGもいつまでも全盛期ではありえないのである。

1Rから3Rは私はカネロに付けた。ゴロフキンが例によって無造作に前進するのに対してシャープな左右で対抗し、ゴロフキンの前進は許したもののクリーンヒットは許さなかった。ところが4R以降はロープを背にすることが多くなり、手数でもクリーンヒットでもゴロフキンが上回った。4Rから8Rをカネロに付けたジャッジは何を見ていたのだろう。

ところが9R、カネロがこのままでは押し切られるとみて逆襲に転じた。終盤にきて切れのある連打を受けて、さすがのGGGもたじろぐ。ただしカネロのスタミナも続かず、1R通して攻勢をかけることができない。私は9~10カネロ、11~12ゴロフキンとみたが、全部カネロとみることもできないではなかった。

カネロのよかった点は、「マッチョ」を捨てて勝負にこだわったところだと考えている。中盤でロープを背にディフェンシブな戦い方をしたのは、結果的にみればGGGを疲れさせるという効果があった。1、2度危ないタイミングで強打を受けたが、足に来ることもなく終盤に体力を温存することができた。

かつてのメイウェザー戦から成長したのは、相手のカウンターがこわくて手が出ないという最悪の展開とならず、ロープを背に打たれても必ず打ち終わりを狙っていたことで、そのためGGGもディフェンスに気を使わざるを得なかった。カネロとしても、メイウェザーのように出鼻をカウンターで返されるのはたまらないが、圧力をかけてくるGGGにはある程度対抗する自信があったということである。

そうしたカネロの出来のよさを勘案したとしても、2、3年前のGGGなら倒していたと思うのは、決してひいき目とはいえないだろう。実際、ここでインサイドから打てば倒せるというところで、頭の上を空振りというケースが何回もあった。予想通り「12Rプレスをかけ続ける」ことはできたものの、KOチャンスはほとんどなかったといっていい。

半面、ディフェンスはいつもの試合よりもきちんとできていて、カネロのカウンターもほとんどガード、ウィービング、ダッキングでよけてクリーンヒットはさせなかった。ただ、アミール・カーンなら倒れるであろう右ストレートがあったし、アッパーのクリーンヒットもあった。ただ、まだ体がスーパーウェルターのせいか、GGGをあわてさせるには至らなかった。

試合後のインタビューでカネロへのブーイングが多いように感じられたのは、引分けはないだろうという判定への不服が半分と、「マッチョ」でなかったカネロへの不満が半分あったのだろうと想像している。ただ、ボクシングは相手次第であり、誰が相手でも前に出て打ち合うのが最善とは限らない。今日のように下がったり足を使って戦わなければならないケースもある。

カネロの場合は誰と戦ってもビッグビジネスとなるので、インタビューで言っていたようにすんなり再戦となるとは限らないが、もし再戦となった場合、ロマゴンと同様GGGが倒されるというケースも十分考えられる今日の試合だった。予想としては完敗。

[Sep 17, 2017]

2017年末ボクシング 井上・田口・木村翔

今年の年末ボクシング中継については、10月以降あわただしい動きがあった。ジム会長である父親との確執が伝えられた伝説・井岡が休養~王座返上となり、代わってTBSがメインに持ってきたのが12チャンネル所属だった田口。まあ、ワタナベジム自体、亀田の片棒担ぎとの噂も伝えられTBSとの相性は悪くないはずだが、田口がTBS色に染まるのは残念である。

まあ、内藤だってもともとTV局がついていなくて、12チャンネルの時代もあったと記憶しているが、いまではNHKのスポーツ番組にさえ出ているくらいだから、キー局と親しくなることは悪いことではないんだろう。私はスポーツ選手がCMやバラエティ番組に出るのは好きではないが、海の向こうではマニングだってブレイディだってCMに出ているくらいだから。

WBA/IBF 世界ライトフライ級タイトルマッチ(12/31 大田区総合体育館)
O田口 良一(ワタナベ、26勝12KO2敗2引分け)
  ミラン・メリンド(フィリピン、37勝13KO2敗)

もともとTBSは田中恒生と田口の統一戦を中継したかったはずだが、田中がまずい試合をした上に眼下底骨折で長期休養に入ってしまった。代わりに白羽の矢が立ったのは八重樫を1RKOしたメリンド。はっきり言って田中よりよっぽど強敵で、TBSも亀田や井岡にこういうマッチメイクをしていればよかったのに。

ただし、田口にとってみれば井上とフルラウンドやっており、それ以上の強敵というのはいないので、メリンドも恐れるに足らないのかもしれない。ただし、田口は見た目ほど積極的で派手なボクシングをする訳ではないので、個人的にはTBSのメインイベントという点に不安を持っている。

というのは、おそらくTBSというのはテレ東とは比較にならないくらい雑音の多い局のはずで、本来なら対戦相手に集中しなければならないのに、事前の集録やら番宣やらあいさつ回りやらしていたら、とても練習だけしていればいいとは思えない。村田のような経歴・性格ならともかく、普通のボクサーはそういうことは苦手なはずなのだ。

(話は替わるが、井上の人気がそれほど高くないと聞くが、村田のようにできないということがあると思う。でも、どちらが長期的にみていいのかは分からない。特に、いまの井上はパッキャオになる可能性があるのだから、CMやバラエティに割く時間はない。もちろん、大橋会長もそれは分かっているだろう)

田口の強みというのは、実はスタミナと打たれ強さだと思っている。それはメリンドも同じで、八重樫戦の印象が強烈なのでKOパンチャーのように思ってしまうが、あれは八重樫がぼんやりしているので一気に決めただけで、過去の戦績からみるともっとスローモーな、長期戦を渋く戦うボクサーである。

となると、田口が以前大苦戦したカニサレスのように、一見ファイターなのに実は待ちのボクシングという作戦をとられる可能性もある。そうなると、田口はそれほど武器が多いとはいえないので、ずるずる相手のペースにはまってしまう危険もある。もし相手が田中であれば、田中が出てこないことは考えられないので、そういう心配をすることはなかった。

ただ、伝えられるようにメリンドに減量苦があるのだとすれば(メリンドの初世界戦はフライ級でのエストラーダ挑戦である)、そうそう気長に戦っていられなくて、短期決戦を挑んでくるかもしれない。減量苦の相手との対戦といえば思い出すのは宮崎戦で、ああいう戦い方ができれば田口完勝ということになるだろう。

だから問題となるのはメリンドのコンディション。もともと年末に戦うはずだった田口は5ヵ月の間隔があるが、メリンドは9月にフルラウンド、それもブドラー相手に大激闘してから3ヵ月しか空いていない。試合自体も急きょ決まった印象であり、準備が万全とはいえないのではないだろうか。そして、もうすぐ30歳のフィリピン選手というのは、決して上昇期とはいえない。

予想としては田口判定だが、TBSの呪いがかからないことを願うのみである。

WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチ(12/30、横浜文化体育館)
O井上 尚弥(大橋、14戦全勝12KO)
  ヨアン・ボワイヨ(フランス、41勝26KO4敗)

30日は井上の防衛戦。かつては日本の世界チャンピオンも、顔見世的にノンタイトルを挟んでいたので例がないとはいえないが、2月のスーパーフライ2に出るつもりだとしたらどうなのだろうか(他団体チャンピオンが対戦拒否で相手が見つからず、回避の見込み)。近年の日本選手ではあまりないスケジュールだし、バッティングに相手の強弱は関係ないので、心配ではある。

相手のボワイヨは2013年以来28連勝というレコードは大したものだが、それこそ1ヵ月以内の間隔で戦ったり、アルゼンチンやモロッコ、セビリア(旧ユーゴスラビア)で試合したり、大事に使われている選手とは思われない。 ヨーロッパどころかフランスの国内タイトルも取っておらず、悪いけれども、米国で戦ったニエベスより大分落ちるだろう。(誰がみつけて来たんだろう?ジョー小泉か?)

だから、井上の懸念材料があるとすればコンディションだけ。スーパーフライに上げてからはそうでもなくなったが、以前は拳の不安や体調不良でよくない試合があった。そういうことさえなければ、ケガをしないように戦ってほしいというだけである。

WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチ(12/30、横浜文化体育館)
井上尚弥 O KO3R X ヨアン・ボワイヨ 足を使って逃げる相手のボディを狙うというのは定石なのだが、それをここまで見事にできるというのはすばらしい。日本の選手は、こういう逃げ腰の選手でも顔面を狙い、空転したままラウンドを重ねることが多かった。ここまで徹底してボディを攻めれば、例え3Rで倒せなかったとしても後半失速するのは目に見えていた。井上の完勝。

ナルバエス戦もボディ、河野公平もボディ、米国上陸のニエベス戦もボディ、今回もボディで、スーパーフライに上げてからボディ打ちに磨きがかかったようだ。ボディを打つためには相手の射程深く入る必要があるため打たれるリスクと隣合わせで、今回も全く被弾がない訳ではなかったが、それでもあまり効いた様子もなかったのは、ディフェンスも巧いからである。

引退後の解説者に向かって着々と布石を打っている村田が「セオリー通りなんですが、それをここまできっちりできるのはすごい」と言っていたが、まさにその通り。来年からは、より体格のある相手と戦うことになるが、バンタムまでは大丈夫だろう。ただ、いまのバンタムでも好敵手がいそうもないのは残念。この際また1階級飛ばしてリゴンドーとやるとか。

村田といえば、もう一人のメダリスト清水の録画を拳四朗KO後の時間調整で見ることができた。「巨人兵」とも揶揄される独特のスタイルで、誰とやっても嫌がられることは間違いないものの、中に入られて左フックを合わされたら一発で終わってしまうようにも見える。サンタクルスやアブネル・マレス、ゲイリー・ラッセルとやったら普通に負けるような気もするのだが。

WBA/IBF世界ライトフライ級王座統一戦(12/31、大田区総合体育館)
田口良一 O 判定(3-0)X ミラン・メリンド

ほとんど予想記事に書いたとおりに展開した。メリンドがああやって前に出て来ると田口はやりやすい。1R終盤のアッパーには面食らったが、2R以降ていねいにジャブを突いてペースを握った。私のスコアも117-111田口。終盤はメリンドがまともにもらう場面が多く、バッティングのカットも重なって一方的になってしまった。

心配したTBS全国放送の影響だが、モンスター井上とのスパーリングVTR(よくあんな映像が残っていたものである)はあるし、意外とまともにボクシング中継をしていたので今回は合格点。TBSも井岡・亀田で懲りたかな。(ちなみに、井岡会見は見ていません)

統一王者となった田口だが、すでに7度防衛の31歳と決して若くはない。打たれ強さに自信があるのは分かるが、できるだけ被弾しないようにすることが望ましい。昨日のようなジャブを突く戦い方は大変いい。拳四朗と3団体統一戦はあるのかな。

WBO世界フライ級タイトルマッチ(同)
木村翔 O TKO9R X 五十嵐俊幸

ほとんどの人にとって木村チャンピオンは初見だと思われるが、なるほどこうやってゾウシミンに勝ったのかと改めて感心した。1Rに五十嵐が右手で相手の頭を押さえたり、スリッピングアウェイをしたのを見て木村を応援していたのだが、あの大振りの空振りでは失速するだろうと思っていたところが失速しないでつかまえたのは大したものである。

五十嵐の出来自体は悪くなく、木村の打ち終わりに適確に左を入れていたので4Rまでの採点は互角。しかし頭をつけて打ち合ったのは相手の思う壺で、あれで形勢が一気に傾いた。きついかもしれないが足を使って相手を空振りさせ、スタミナを奪いつつカウンターを入れられれば、木村の見栄えは決してよくないのだから、判定はどちらに転ぶか分からなかった。

ただ、木村の勢い、ゾウシミンを敵地でKOした余勢をかって大晦日の全国放送という晴れ舞台に望んだ勢いに飲み込まれてしまった。はるか昔の、ロイヤル小林と歌川の試合を思い出した。ただ、あのボクシングだとメキシコあたりのボディ打ちできる相手には厳しいかもしれない。引退した井岡とやったら面白かった。

[Jan 1, 2018]

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