アイキャッチ画像:自ら撮影したデラホーヤvsホプキンス@MGMグランド

ワイルダーvsオルティス    リナレスvsロマチェンコ    マティセvsパッキャオ
AJKOポペトキン    木村vs田中    HBO撤退    井上vsパヤノ    村田vsブラント
ワイルダーvsフューリー    ロマチェンコvsペトラザ    フィールディングvsカネロ


激闘!! ワイルダーvsオルティス

WBC世界ヘビー級タイトルマッチ(2018/3/3、米NYバークレイズセンター)
Oデオンティ・ワイルダー(39戦全勝38KO) 1.6倍
  ルイス・オルティス(28戦全勝24KO) 3.5倍

クリチコの天下で長らくビッグマッチのなかったヘビー級だが、ようやく盛り上がりの気配がみえつつある。クリチコを倒したジョシュアはジョゼフ・パーカーと戦ってタイトル統一に向かう一方、ワイルダーもビッグマッチを望んでいる。衆目の一致するところ、最終決戦はジョシュアvsワイルダーとなるだろうが、その前にお互い何人かのライバルを倒しておく必要がある。

ただ、両者に次ぐ存在とみられていたオルティスとポペトキンが、いずれもドーピング陽性で予定した試合を消化できない事態が続いているのは残念である。いずれも、旧ソ連とキューバというドーピング検査に協力的とはいえない地域から出てきていることもあって、その点ではあまり信用がおけない。無事に試合までこぎつけられるかどうか(いまだに)一抹の懸念がある。

とはいえ、この試合の両者はいずれも全勝かつKO率も高く、ヘビー級らしい一発必倒のひりひりした打ち合いが見られそうである。現状の勢いからみてオッズ通りワイルダー優勢とみるのが妥当だが、必ずしも安定した試合をする選手ではないので、空回りの危険がないとはいえない。

ただ一人倒せなかったスティバーンを見事にKOして、ワイルダーはかつての倒し屋のイメージが戻ってきた。世界戦線に登場して以来、以前の両腕を振り回すようなスタイルが影をひそめてきたが、前回の試合をみると再び解禁したようだ。世界ランカーの動きに慣れてきたということもあるだろう。

これまでの対戦相手をみると、必ずしも一線級と戦ってきたという訳ではないことに注意したいが、ジョシュアだって、最後はKOしたもののクリチコ相手に危ない場面もあったから、そうそう自分の展開で攻めてばかりいられないかもしれない。ただ、スティバーン第一戦でフルラウンド戦っていることは大きな収穫で、急ブレーキということはなさそうだ。

かたやオルティス。もともとWBA暫定チャンピオンであったが、当時の正王者はウラディミール・クリチコで、クリチコが一線級を次々とKOしていたから、戦ってきたのはその下のレベルである。クリチコと戦うこともなく、トニー・トンプソンやブライアン・ジェニングス相手では、そんなに大きな顔はしていられない。

(WOWOWで、ドーピング陽性になったのは高血圧の薬と言っていたが、そうなるとおそらくは利尿剤系で、WADA基準では医師の処方であっても使用できない薬品である。高血圧に使うのかステロイド系を「抜く」のに使うのか、分かったものではないからだ。)

ただ、ウェイト的にはオルティスの方が20ポンド重く、サウスポーなので距離が遠い。アマ経験も豊富で、ワイルダーの大振りパンチにもある程度対応するだろうし、カウンターを取る技術もある。一発決まれば試合が終わってしまうので、ワイルダーとしても迂闊に近づくことはできそうにない。

展開としては、スティバーン第1戦のような戦いになるのではないか。ワイルダーは目指すビッグマッチに向けて全勝レコードを続けたいはずだし、リスクを最小限に戦うと思われる。オルティスもペースを握れば前に出てくるけれども、ワイルダー相手にプレッシャーをかける度胸があるかどうか。

ワイルダーの振り回さないパンチがどの程度オルティスに届くかがこの試合の焦点で、パワー50%のパンチでも効かせることができればワイルダーのペースになるだろう。私としては、定期的にスケジュールをこなせないオルティスの仕上がりにやや疑問を持っているので、ワイルダーの判定勝利を予想する。終盤KOがあるかもしれない。



WBC世界ヘビー級タイトルマッチ(3/3、米バークレイズセンター)
デオンティ・ワイルダー O TKO10R X ルイス・オルティス

ジョーさんが「今年のベストファイト候補だ」と興奮したのに激しく同意で、ヘビー級の醍醐味を堪能させてもらった。 予想記事に書いたとおり、ここで負けたくないワイルダーは細かいパンチで静かなスタートとなった。4Rまでの採点は私は38-38互角。オルティスも距離を詰めてワンツーを放ち、クリーンヒットはしないもののこれまでの対戦相手とは違うところをみせた。

試合が動いたのは中盤。5R、ワイルダーの右ストレートがオルティスのガードをかいくぐってヒット、オルティスがダウン。このダメージで動きが鈍くなったオルティスに7R、ワイルダーが攻勢をかけるが、カウンターを食って逆に効いてしまう。このラウンド残り1分のワイルダーのしのぎ方が絶妙だった。

ロープ際で何度もクリーンヒットを受けて飛ばされるが、ロープがあるのでダウンにはならない。オルティスが打ち疲れるとすかさずクリンチ。そうやって決定打を許さず、クリンチを繰り返してこのラウンドをしのいだ。ヘビー級だから細かなテクニックよりクリンチで逃れるのが安全確実であり、そうやって対応していればストップされることもない。

ここで仕留めきれなかったオルティスがスタミナ切れを起こしたのはTV画面からみても明らかで、余裕はないものの普通にコーナーに戻ったワイルダーとは残りHPに差があったということだろう。8Rくらいまではまだ足がふらついていたワイルダーだが、9Rには足腰が戻ってきて、とうとう10R、最後はアッパーで仕留めた。

ワイルダーがどうしても負けたくないと思っていたのは、序盤はいくつかラウンドを取られることを承知で、オルティスのクリーンヒットをもらわない試合展開をしていたことに現れていた。ワイルダーは序盤KOが多い割に長丁場を苦にせず、試合後半になっても動きが落ちないのは大変いい。身長が200cm以上あるのにウェイトが100kgを割るように、本来アスリートなのだろう。

ワイルダーは無敗レコードを伸ばしかつKOできっちり勝って、次のビッグマッチにつなげることができた。かねてから指摘されるディフェンスを甘さを突かれて中盤危ない場面もあったが、この点を修正するよりこのままワイルドにいった方がいいかもしれない。50%くらいの力で放つ右ストレートにもなかなか威力があった。いい試合だった。

[Mar 4, 2018]

リナレス遂にビッグマッチvsロマチェンコ

WBA世界ライト級タイトルマッチ(2018/5/12、ニューヨークMSG)
   ホルヘ・リナレス(44勝27KO3敗) 7.0倍
Oワシル・ロマチェンコ(10勝8KO1敗) 1.08倍

10代の頃から日本で戦ってきたリナレスが、とうとう待望のビッグマッチである。ニューヨークMSGのメインイベント、ファイトマネーは100万ドル、相手はP4P最強に推す声も多い「ハイテク」ロマチェンコ。リナレスがこういう舞台に立てるということは、井上だってがんばれば手が届くところにあるということである。とにかく、いい試合をしてほしいと思う。

オッズは大差が付いてロマチェンコFavorite。リナレスとしてもデビュー以来これほどのUnderdogで戦ったことはなく、かえってリラックスして臨めるかもしれない。

ロマチェンコについては、いまや多言を要さない。スーパーフェザーに上げてから、ローマン・マルティネスをKO、続く防衛戦は4戦とも相手を戦意喪失させる「ロマチェンコ勝ち」で、BoxrecのP4Pランキングでもカネロ、クロフォードに次ぐ3位に上がってきた。

この順位の急上昇は、ニコラス・ウォータースとギジェルモ・リゴンドーに勝ったのが大きかったと思われる。ともにロマチェンコと戦うまで無敗で、しかも多くの強豪を倒してきた両者に、全くパンチを当てさせなかった。少なくともスーパーフェザーでやる限りは、ベルチェルトだろうがジャボンタ・デービスであろうが問題にしなかっただろう。

しかし、ロマチェンコも更なるビッグマッチを求めてクラスを上げてきた。スーパーライトからライトまで5ポンド、しかも転級初戦でリナレス戦である。さすがに体が違うのでこれまでのようには行かないとみることもできるし、リナレスだってもともとフェザー級じゃないかという見方もある。どちらの見方があたっているのか、考えどころである。

先週のWOWOWのインタビューでロマチェンコは「リナレスの弱点は分かっている。試合ではそこを攻める」と言っていたが、私が思うリナレスの弱点は、パンチを避けるのにガードをほとんど使わないということである。目の良さや動きの速さに自信を持ち過ぎているので、手や腕、ヒジを使って相手のパワーを減殺させることを若い頃からしてこなかった。

それが裏目に出たのが2009年の初黒星となったサルガド戦で、それ以降ガードに意を用いるようにはなっているが、それほど巧くはない。それと対応しているのか、相手のガードの上を叩くとこともあまりしない。打つ場所がないと極端に手数が減るという特徴がある。

だから、ロマチェンコのようにスピードがありステップワークの巧みな相手に対して、うまく自分のコンビネーションを当てられるか、相手の攻撃をディフェンスできるかというと、なかなか厳しいものがあると思う。結果的にディフェンス一方となり、手数が出ないままラウンドを支配されていく可能性はかなり大きい。

そして、衆目の一致するリナレスの弱点は「打たれ弱い」ということである。3度の敗戦はすべて一発貰ってそのままKO・TKOされてしまったもので、テクニックをパワーで粉砕された試合であった。下の階級から上がってきたロマチェンコにそこまでのパワーがあるとは思わないが、抽斗の多いロマが何をしてくるかは分からない。

逆にロマチェンコについていえば、唯一の敗戦であるサリド戦のような乱戦に弱いということがある。だから、打たれ強くて打ち返してくる相手、階級は違うがジェームス・トニーのような選手と戦えば、いまでもあまり得意ではないだろう。もっとも、いまのロマチェンコであればラフな展開に持ち込ませず12R判定で勝つだろうとは思うが。

そして、リナレス自身が乱戦は得意でない。速いコンビネーションを当てられれば活路は開けるが、ロマチェンコがまともにもらう場面は考えにくい。とはいえロマもライト級緒戦であり、リナレスのパワーを感じることがあるかもしれない。その場合にはロマが安全運転で中差の判定という展開が考えられる。

ロマが階級の違いを苦にしなければ、リナレスの悪い癖である手数の少なさを突かれて大差が付くだろう。とはいえ、リナレスも勘がいいのでカウンターをもろにもらうことはなさそうで、「ロマチェンコ勝ち」は避けられそうだ。ロマチェンコ判定勝ちを予想するが、かつてメイウェザーがライト級に上げてホセ・ルイス・カスティージョに苦しんだ試合の再現を期待したい。



WBA世界ライト級タイトルマッチ(5/12、ニューヨークMSG)
ワシル・ロマチェンコ O KO10R X ホルヘ・リナレス

私の採点は9Rまで86-84ロマチェンコ。WOWOWのお二人は身内なのにリナレスに厳しいなと思っていたら、公式採点では1-1のイーブンでたいへんな接戦だった。今年のシンコ・デ・マヨはカネロの失態でビッグマッチなしだったので、MSGは結構な盛り上がりに見えた。リナレスもデラホーヤの顔を立てたし(左ボディで負けたのも同じ)よかったですね。

予想していたよりもロマチェンコが一杯一杯の試合で、さすがのハイテクも階級の差は感じたかと思っていたら、リナレスが定評ある打たれ弱さを発揮して突然のKOとなった。せっかく互角の展開だったのに、惜しい試合というべきか、双方一度ずつ倒れて盛り上がってよかったと言うべきか、いずれにしても手に汗握る白熱の攻防で見ごたえある好試合だった。

ウェイインでの二人の体を見て、リナレスはきっちり絞ったのに対しロマチェンコに余裕があったので、パワーの違いをみせれば結構いい試合になりそうな気がした。試合前の映像でもロマチェンコの緊張が伝わってきて、これまでの相手のように一方的には勝てないとロマチェンコも考えていたようだ。

試合が始まると、ロマチェンコはいつものように華麗なステップで相手を翻弄するという訳にはいかなかった。リナレスの左ジャブも右ストレートも当たるので、互角の攻防。ただし手数ではロマチェンコの方が上回り、スタミナ面でもリナレスの消耗が大きいように見受けられた。

試合が動いたのは6R。そろそろロマチェンコがリナレスの動きが分かってきて、いつもの通り相手のパンチは一つも貰わないモードに入ったかと思ったところ、リナレスの右ストレートをもろに食ってダウン。これを見てリングサイドのデラホーヤも大喜び。ロマチェンコはすぐ立ち上がったものの、これまでの試合で中盤以降こういう余裕のない展開になったことはなかった。

ロマチェンコにもダメージが残り、いよいよ終盤。勝負の行方はあと3R次第と思っていたところ、連打を受けたリナレスが突然うずくまり、立ち上がったもののレフェリーが続行を認めなかった。VTRで見るとガードがらあきの左ボディをロマチェンコが打ち抜いていて、見事なKOでリナレスを仕とめた。

リナレスも簡単には勝たせないというところをみせたのはさすがだったが、結果的には予想した2つの弱点「ガードが巧くない」「打たれ弱い」をロマチェンコに突かれて、くやしい結果となった。とはいえ、サウスポーに左のボディをもらうということは完全に懐に入られていたということで、まあ仕方のない結果だったと思う。

ロマチェンコがこのクラスで苦しむとしたら転級緒戦だけと思っていたので、後は誰とやっても「ロマチェンコ勝ち」になる可能性が大。どうやら次はベルトランらしいが、ドーピングとウェイトオーバーの常習犯とあまり絡んでほしくない。とはいえ、あとはリナレスに負けた相手ばかりだから試合が組めない。案外、早くにスーパーライトに上げてマイキーとやるかもしれない。

負けたリナレスの商品価値も、ロマチェンコをこれだけ苦しめたことでかえって上がったように思う。日本で育ったボクサーがMSGで一万人の観衆を沸かせたのはたいへんうれしい。ただ、今回は非常にモチベーションが高く、フェザー級で負けなしだった頃の出来に戻れたけれども、年齢的にこれを維持するのは難しいかもしれない。

[May 13, 2018]

パッキャオ9年振りKO勝利

WBA世界ウェルター級タイトルマッチ(2018/7/15、クアラルンプール)
Oルーカス・マティセ(39勝36KO4敗)2.7倍
  マニー・パッキャオ(59勝38KO7敗2引分け)1.6倍

ただでさえ格下とみられるWBA正規王者のタイトルマッチで、出て来るのが昔の名前で出ていますの二人である。5~6年前ならビッグマッチだったかもしれないが、いま現在この二人がクロフォードと戦ったらホーンと同じことになるだろう。いつまでもこのレベルの試合に大金を払っていてはいけない。

先日WOWOWで、フランプトンとドネアの試合を見た。正直言って、見るに堪えなかった。ドネアの全盛期は精一杯長くみてもニコラス・ウォータースに負けた時(2014年)までであり、それ以降は世界一線級の力はない。フェザー級でパワーの違いに苦しむならともかく、フランプトンのスピードに圧倒されていた。これ以上晩節を汚すべきではないだろう。

そのドネアが、最後に世界タイトルを失ったのがWBOのスーパーバンタム級で、相手はジェシー・マグダレノであった。この選手もたいしたことはないと思っていたら、案の定、アイザック・ドグボエにKOされてタイトルを失った。

こうしてみると、パッキャオとドネア、重なるところが多い。複数階級を鮮やかに制覇していたのも同じなら、スピードもパワーも落ちているのに引退せず戦い続けるところも同じ。それでも世界タイトルマッチをやれるだけポンサクレックよりもましと考えられなくもないが、戦う相手がどんどんレベルダウンしているのは、見ていて悲しい。

パッキャオが最後にタイトルを失ったジェフ・ホーンは、クロフォードに全く歯がたたなかった。ホーンとマグダレノ、捲土重来がないとは言い切れないが、私はその可能性はきわめて低いと思っている。その伝でいけば、フランプトンに歯がたたなかったドネアと同様、パッキャオはマティセとは差があっておかしくないのだが、そう言い切れない要素もあることはある。

というのは、マティセはフランプトンとは違って、こちらもまたとっくにピークを過ぎた選手のように思えるからである。王座決定戦のティーラチャイ・テワ・キラム戦もやっとこさ勝ったという印象であり、ウンベルト・ソトやレイモント・ピーターソンを一蹴した頃の迫力は感じられなかった。

それこれ考え合わせると、このくらいのオッズになることはやむを得ないのかもしれないが、私には39歳パッキャオのFavoriteを買うことはできない。もちろん、パッキャオの動きにマティセがついていけないケースも十分考えられるのだが、Underdogならマティセを推したい。

マティセがこれまで喫した4敗の相手はすべてテクニシャンで、素早く動かれて空転したままラウンドを重ねるケースである。スウィフト・ガルシアは前半打ち合いに来て、そこまでは引けを取らなかったが後半動かれてペースを取り返された。パッキャオは基本的に攻撃型の選手であり、もちろんディフェンスは巧みだが動き回るタイプではない。

一方のパッキャオ。ハードパンチャーとの対戦はクラスを上げてからはそれほど多くはなく、リッキー・ハットンあたりが最後だったと思う。その後に戦ったコットは本調子になかったし、マルガリトに至っては動きの速さに雲泥の差があった。一発食ったら終わりという相手との対戦は、しばらくしていない。

そして、フレディ・ローチから離れて、果たしてパッキャオの調整が以前のように行くのかどうか。ライト級より重いクラスでパッキャオが戦えたのは、ローチの力が大きかったとみているので、その点はかなりマイナスに評価される。

加えて私が心配しているのは、パッキャオ陣営がマティセになら勝てると踏んでいるところである。地元に近いマレーシアで凱旋試合をしたいのなら、もう少し安全な相手だっている。どうしても世界タイトル戦をしたいのなら、スーパーライトにだって落とせなくはないだろう。ウェルターで世界戦にこだわるから、マティセ以外に戦える相手はいないということになる。

それではマティセはそんなに弱いかというと、確かにクロフォードやエロール・スペンスには敵わないかもしれないが、現実にスウィフトとほぼ互角な試合をしていることを忘れてはならない。スウィフトはキース・サーマンと差がない。となると、そんなに弱くはないとみなくてはならない。もちろん、出来不出来のが大きく、テクニシャンに相性が悪いということはあるが。

ということで、私の予想はマティセKO勝ち。パッキャオは、こんな試合をするなら引退すべきだったのではというような、ドネアと同じような感想になるのではないかという懸念がたいへんに大きい試合である。 WBA世界ウェルター級タイトルマッチ(7/15、クアラルンプール)
マニー・パッキャオ O TKO7R X ルーカス・マティセ

軽量級デビューで、39歳で、国会議員の片手間にボクサーをやっていて、それでも勝ってしまうのだからパッキャオはすごいというべきか、倒されるマティセが弱すぎると言うべきか迷うところだが、ともかくもパッキャオは2009年のコット戦以来久々のKO勝利である。

1Rにパッキャオの大振りの左フックを頭にもらってマティセの足がふらつくのを見て、ほとんど勝負の行方は見えたように思う。パッキャオがKOするときの特徴は先手必勝で、ほとんど2Rまでに主導権を握ってしまう。そこから巻き返せたのはマルケス兄くらいで、ほとんどのボクサーはそのまま押し切られている。

今回のマティセは、飛び込んでくる左ストレートは意識してガードで防いでいたけれども、ジャブの差し合いで遅れをとった上に、これまで見せたことのない秘密兵器、左アッパーへの対応ができなかった。VTRでいくら調べてもあんなパンチを放ったことはないので、無理はないのかもしれないが、あれを打つには距離をつぶさねばならず、それだけ入り込まれていたということである。

そもそも、テワ・キラム戦がやっとこさの勝ちで、マティセが全盛期の出来にないことは見当がついていた。それでも、パッキャオの劣化がそれ以上に進んでいると思ってマティセ乗りの予想にしたのだが、パッキャオの方は3~4年若返ったような動きで、3度ダウンを奪ってKO勝ちしたのは見事という他ない。

さて、これでWBAレギュラータイトルを手にしたパッキャオだが、今後が難しい。まさかエロール・スペンスとかテレンス・クロフォードとやる訳がないし、スウィフト・ガルシアならいい勝負だろうが、今更盛り上がる対決とは思えない。この際だから、カネに困っているらしいメイウェザーとの再戦が両者にとって最もメリットがありそうだ。

それにしても言いたいのは、予想記事の最初に書いた「このレベルの試合に大金を払ってはいけない」ということである。その考えは、試合を見た後でも全く変わらない。

[Jul 15, 2018]

ジョシュア、ポベトキンをKO

WBA/IBF/WBO世界ヘビー級タイトルマッチ(9/22、ロンドン・ウェンブレースタジアム)
アンソニー・ジョシュア O 7RTKO X アレクサンドル・ポベトキン

名古屋で行われる日本人選手同士の世界タイトルマッチでライブ中継がないというのに、ロンドンで開催される世界タイトルマッチのライブ中継が見られるとはたいへんありがたい反面、情けないことである。

ボクシングファンが少ないので、首都圏のゴールデンタイムに放送枠を押さえるのが難しいというのは分かるが、ならば安くはない放映権料を払い衛星通信料を払いサーバーを拡張してDAZNが配信できるのはなぜなのだろう。DAZNだって採算はとれている訳はなく、先行投資であるに違いない。

先行投資ができるところとできないところで差が出てくるのは、大規模ショッピングモール対地域商店街と同じことである。ホリエモンがかつて予言したとおり、地上波も衛星放送も、TV放送は近い将来縮小するに違いないと思う。

さて、先週のミドル級戦を終わって、BoxrecのP4Pランキングベスト3は、クロフォード、アルバレス、ゴロフキンとなっているが、これには異議がある。クロフォードはスーパーライト最強ではあってもウェルター最強を証明するのはこれからだし、カネロとGGGを両方あげるのは腰が据わっていない。個人的には、ドーピング疑惑がある選手をP4P上位に推すべきではないと思う。

それを避けるためには、オリンピックルールのように、検査クロの場合の出場停止期間を長期化する他はない。カネロだって8年出場停止とか永久追放されるとなれば二の足を踏むだろうし、神経質に違反薬物に気を使う大多数の選手がバカをみるのはボクシング全体への興趣を著しく失わせる。

ということで誰がP4Pということになると、個人的にはジョシュアとロマチェンコは外せない。ジョシュアは前の時代に最強であったクリチコをKOしてチャンピオンになっているし、ロマチェンコのボクシングスキルはいまや全階級通じて最もレベルが高い。あとの一人を争うのが、4団体統一ウシク、全勝を続けるスペンスとクロフォードあたりだろうか。

そのジョシュアの防衛戦、相手は長らく世界上位ランカーを続けるポベトキンであった。私は、勝敗よりも試合内容に注目して見ていた。というのは前の試合、3団体統一戦とはいえパーカー相手にフルラウンド戦って、ダウンも奪えず初の判定勝負であったからである。

相手によっては判定勝負になることもやむを得ないが、パーカー相手に前に出られなかったのはいただけない。そのあたりを今回どのように修正できるか楽しみにしていたのだが、結果はみごとなKO勝利であった。

最初の2Rはさすがにポベトキンもゴールドメダリストで、ジョシュアの左に右を被せたりインサイドに入ってアッパーを放ったりしてジョシュアをたじろがせた。ただ、このペースで飛ばすとバテるのも早いのではないかと思っていたら、案の定3R以降ほとんど手が出なくなった。

ジョシュアは試合通じて、右手をアゴの横に置いてディフェンスに使い、速い左でポベトキンを中に入らせないという基本通りの戦略。身長で10cmリーチで20cm違うのだから、これで削って行けば試合を支配できる。丹念にボディを攻めたのもよく、息が上がってきたポベトキンを7Rワンツーで攻めて一気に決めた。

クリチコ兄弟と比べると相手を中に入らせてしまう点は気になるが、左の使い方や右ストレートの決定力はやや上であり、12R戦えるスタミナははっきり上。やや打たれ弱いところがあるので、一発のある相手との戦いはスリリングになる。

対抗王者の「ブロンズ・ボマー」ワイルダーは、12月にかつてクリチコを下したタイソン・フューリーと戦う。ワイルダーの方はオールドファッションのヘビー級スタイルで、まさに一発必倒の破壊力がある。今後のビッグマッチがますます楽しみになった。

[Sep 23, 2018]

木村vs田中、全国ライブ中継のない熱戦

WBO世界フライ級タイトルマッチ(2018/9/24、武田テパオーシャンアリーナ)
O木村 翔(17勝10KO1敗2引分け)
  田中恒成(11戦全勝7KO)

対照的な両者である。デビュー戦KO負けから後楽園ホールの前座を続け、アウェイのUnderdogで金メダリストのゾウ・シミンをKOして檜舞台に上がってきた木村と、キャリア11戦にして2階級制覇、今回3階級目を狙う田中。このところボクシング人気の低迷を背景に日本人対決が増えているが、その中でも最も注目したいタイトルマッチである。

木村の最近のタイトルマッチは、五十嵐戦を除いてキー局で配信されない。もったいないことである。ゾウ・シミン戦はなぜかWOWOWで中継がなかったし、サルダール戦も同様である。TV局には痴呆症の終身会長を追っかける暇はあっても、試合を見る目があるディレクターがいないようだ。

今回は、チャンピオン木村よりも、名古屋で絶大な人気を誇る田中恒成の3階級制覇が注目されての全国放送である。世界戦を3連続KO勝ちするようなチャンピオンがなかなか出ないことを考えると、おそらくアウェイでブーイングを受けるだろう木村を応援する気持ちになってしまうのは仕方がない。

もう一つ木村を応援したい理由は、田中陣営が木村の前回防衛戦より前に9/24のスケジュールを発表したという王者気取りの頭の高さである。王座決定戦ならまだしも、挑戦者の分際で日時を指定するとは身の程知らずである。木村には正義の鉄槌を下してもらいたい。

とはいえ、木村のボクシングには危なっかしさが共存することも確かである。これまでの世界戦3戦とも、連打を受けてたじろぐ場面があった。いずれもパワーのない相手だったからやり過ごしたものの、田中の決定力を侮ってはいけない。

もし、田中がナチュラルウェイトであれば木村も苦しいと思うが、田中はミニマムから上げてきたという弱みがある。ミニマム級史上最強であったローマン・ゴンサレスはスーパーフライで完全に頭打ちになったが、フライ級の時から相手の体力を持て余す場面がみられた。伝説・井岡も、フライ級ではアムナットに余裕で負けた。

かつてレオ・ガメスがミニマムからスーパーフライまで連覇したが、当時はたいへん層の薄かったクラスであり、しかも大した相手と戦っていない。現在のフライ、スーパーフライあたりは以前と比べてレベルが高く、ミニマム上がりが簡単に勝てるクラスではない。

前半は間違いなく田中が小気味よく連打を決めるだろうが、そこで仕留めきれないと、木村のエンドレスのアタックが田中の体力を削いでいく展開となる。木村の判定か後半KOと予想するが、ホームタウン・デシジョンだけは勘弁してほしい。



WBO世界フライ級タイトルマッチ(9/24、名古屋)
田中恒成 O 判定(2-0) X 木村翔

日本人同士の対決、しかも田中恒成の3階級制覇がかかっている試合にもかかわらず、TVのライブ中継がなかった。TV局の電波が自分達のカネ儲けだけのためにあるのだとしたら、民放などなくなっても構わない。TV人は何を考えて仕事をしているのかと思う。

それはそれとして、私の採点は116-112田中につけた。だから、7Rがダウンであってもなくても(私はダウンに見えたし木村のラウンドとしたが)、12Rをどちらにつけても(私には田中のラウンドに見えたが)、結果は変わらない。僅差で田中の勝ちである。

映像をみて意外だったのは、木村と田中で体格が変わらないように見えたことである。ミニマム上がりの田中が、ゾウ・シミンを体力で圧倒した木村に匹敵する体格とパワーがあるというのは意外であった。

そして、勝敗を分けたのは、木村と田中の引出しの多さの違いだったと思う。もちろん、2R左フックのカウンターで木村が少なからぬダメージを受け、特に前半では押し込まれてしまうという要因はあったにせよ、仮にあのパンチがなかったとしても、12R効果的に足を使えていたのは田中の方であった。

木村の中盤からの追い上げはすばらしく、2Rのダメージを考えると驚異的といえるのは確かだが、前半受けたダメージのせいなのか、逆に押し込まれる場面が多かった。予想外に体格差がなかったことと併せて考えると、田中はまだ成長期で体が大きくなっているということであろう。

今回が熱戦であったことは確かで、年間最高試合という声があがるのも当然だが、それではもう一回戦っても熱戦になるかというと、そうはならないと思う。おそらく田中がワンサイドで勝つだろう。

というのは、フライ級に上げたばかりの田中がますますクラスに慣れていくことに加え、木村のラフファイトにも対応できることが分かったからである。返す返すも、先にクリーンヒットを奪ったのが木村でなかったことは残念である。しかし、それももちろん実力である。

それでは田中に弱点がないのかというと、それもまた違うような気がする。ダメージブローこそ避けたものの木村の大振りパンチを何度か受けていたことは腫れた顔をみれば明らかだし、決定力でも井上兄には遠く及ばない。ボクシングセンスという点でも、ケンシロウ君の方に分があるように見えるのはひいき目だろうか。

このあたりのクラスには現在、日本人有力選手が数多い。田中には中部地区限定で外国人選手とばかりやらずに、階級最強を目指す志の高い試合をしてほしい。そして、可能であれば今日のような「どつき合い」ではなく、ミゲール・カントのような卓越したディフェンステクニックを見せてもらいたい。田中には、それができる素質があると思っている。

[Sep 28, 2018]

HBO、ボクシングから撤退

アメリカのことだから、儲けにつながるのであれば手のひらを返すことなど平気で、このまま撤退となるのかどうかは分からない。ただ、個人的には、ボクシングがビッグマネーを生み出してきた時代が終わったという感慨を持っている。

振り返ると、2015年に行われたメイウェザーvsパッキャオに200億円を超える巨額のカネが動いたこと自体異常で、しかもあの試合内容を見せられて、ボクシングの隆盛も長くは続かないと感じていた。

チューリップの球根でもバブルの不動産でも、実際の需要に裏付けられない価格の上昇はいつかは止まる。あの戦いを中継画面で見るのに1万円払うという人が全世界であっても200万人いるとは思えない。となれば、このマーケットが近々はじけることは避けられなかった。

(現地で見るということなら10万円でも出す人は多いだろうが、MGMグランドで1万人、ウェンブレースタジアムだって8万人位だろう。桁が違う。)

ではなぜ、これだけの価格上昇が起こったかと言うと、「ライバル局はいくら出す、インターネットTVはいくら出す、あなた方はいくらまで出せるのか」という他者(マネー・メイウェザー?)の思惑で吊り上げられたのである。となれば、他にカネの当てがなければ、撤退するのが最も理にかなっている。

実需に基づく低予算で制作したのがSUPERFLYシリーズだったが、Ⅲは過去最低の視聴者だったという。確かに、チョコラティート・ゴンサレスを売り出すはずのシリーズがシーサケットにKOされ、そのシーサケットすら確保できずにエストラーダや井岡を出すようでは視聴者を誘引できないのも無理はない。

1980年代以降、レイ・レナード、マイク・タイソン、デラホーヤと続いたスター達には確かにオーラがあった。JCチャベス、ハメド、トリニダードといったルーツの異なるスターもいた。しかし、パッキャオ、メイウェザーにそこまでの魅力はない。まして、現時点で最大のスターであるカネロ・アルバレスにはドーピング疑惑があり、近い将来、すべての記録が抹消されないとも限らない。

振り返ってみると、モハメド・アリの全盛期が終わり、不人気のラリー・ホームズがヘビー級を席巻していた時期と、タイソン、ホリフィールド、レノックス・ルイスが退場してクリチコ兄弟が無敵だった時代には共通する要素がある。前者にはあって後者にはないものが、以前「わくわく感」という言葉で表現したこと、胸を躍らせる期待感なのである。

もともとボクシングは試合時間が約1時間と手頃であり、中継予算も野球やバスケット、アメフトに比べてかなり少ない。それは、中継機材(カメラやスタッフの必要数)という意味でもそうだし、出演料を払う対象が少なくてすむ(2人だ)という意味でもそうだ。そのため、TV草創期からキラーコンテンツの一つであり続けたのである。

とはいえ、ボクシングの本質は殴り合いであり、コンテンツとしてすべての人に好まれる訳ではない。そして、スポーツとしての公平性を確保するには階級制にせざるを得ないが、本来は体重無差別・時間無制限で戦うのが格闘技である。時間を区切り体重を制限するのは、ある意味「方便」なのである。

最近WOWOWでもよく聞くのが、「ボクシングとしてはこれでいいけれども、お客さんを呼ぶためにはKOを狙わなければならない」的な意見であるが、これなどは、スポーツとも格闘技とも離れて、ボクシングをカネ儲けに使おうということである。私はスポーツ・格闘技としてボクシングを見るのであって、他人のカネ儲けに興味はない。

今回、HBOがこのまま撤退したとしても、SHOWTIMEやDAZNがいるので、すぐにはボクシングバブルがはじけることはないかもしれない。しかし、ひとたびピークを越えれば後は下り坂になるのが世の常である。これから先、ボクシングは長い低迷期を迎えることになりそうだ。

そして、個人的に一番寂しいのは、マイケル・バッファーのリングアナウンスを聞く機会が少なくなってしまうことである。とはいえ、ヨーロッパでもロシアでもバッファー人気は絶大だし、ご本人もいい歳なので出場機会が減ってもあまり苦にはしないかもしれない。間違っても、ドサ回りで日本になど来ないでほしい。うれしいより先に、悲しくなる。

[Oct 2, 2018]

井上、衝撃KOでスーパーシリーズ緒戦突破!!

WBA世界バンタム級タイトルマッチ(2018/10/7、横浜アリーナ)
O井上 尚弥(大橋、16戦全勝14KO) 1.04倍
  ファン・カルロス・パヤノ(ドミニカ、20勝9KO1敗) 15.0倍

井上の初防衛戦としてより、階級最強を決めるワールド・ボクシング・スーパーシリーズの緒戦として注目を集める一戦。バヤノも世界チャンピオン経験者だが、ここから先勝ち進むと相手はすべて現役の世界チャンピオンとなる。

井上の実績についてはもはや多言を要さない。正真正銘の3階級王者であり、戦ってきた相手もそれぞれの階級を代表する強豪である。亀田3男を2度にわたって退けたジェイミー・マクドネルを1RTKOに破っていることからして、これまでの3階級制覇とは格が違う。海外のオッズも大差が開いている。

もともと弱い相手を防衛戦に選ぶつもりもないし、そもそも相手の方から避けられる存在となっているが、スーパーシリーズということで、緒戦から手ごわい挑戦者との対戦となった。

ファン・カルロス・パヤノはWBA4位、WBC7位、WBO1位にランクされる上位ランカーで、元WBAのスーパーチャンピオンである。山中と2度戦ったアンセルモ・モレノに勝ってタイトルを奪取、ラウシー・ウォーレンに負けて失っている。

そのウォーレンは初防衛戦でザキヤノフに敗れ、ザキヤノフも初防衛戦で現王者のライアン・バーネットに敗れていることからみて、バヤノの実力はマクドネルよりやや落ちるとみている。しかし、そういう相手であれば真正面から向かってくることは考えられず、サウスポーの利点を生かして距離を置きポイントアウトを狙うだろう。

この間WOWOWでドミトリー・ビボルとアイザック・チェンバのWBAライトヘビー級戦を見たが、パワーも切れ味もあるビボルであっても、技術がありタフで、とらえどころのないチェンバのような相手だときれいに決めるという訳にはいかなかった。

パヤノも老練のテクニックがあるので、のらりくらりと攻勢をかわして序盤に爆発的な威力を持つ井上をやり過ごす可能性がないとはいえない。そうなると、井上の課題である中盤以降の攻め手という点がクローズアップされることになるだろう。

一方で懸念される点は34歳という年齢で、中南米の選手は急速に老け込むことが多い。ロレンソ・パーラにしろアレクサンデル・ムニョスにしろ、全盛期には無敵ではないかと思われた強豪選手が、30過ぎて日本選手のカマセになり果ててしまった。井上相手にカマセということはないが、若干の懸念があるのはやむを得ないところである。

井上の成長を見たいという希望的観測を含めて、井上の終盤KO勝ちを期待するが、もしかすると序盤に決まってしまうかもしれないし、判定勝負になるかもしれない。パヤノの出来次第で振れ幅の大きい試合である。



WBA世界バンタム級タイトルマッチ(10/7、横浜)
井上尚弥 O KO1R X ファン・カルロス・パヤノ

何もさせないうちにというか、最初のワンツーで試合が決まってしまった。1分10秒KO勝ち。バンタム級2試合で5分かかっていない。

アンダーカードのケンシロウ君も小気味よいワンツーを決めてメリンドにほとんど何もさせなかったが、井上はそれ以上に何もさせなかった。相手は元スーパーチャンピオンである。これまで、日本にこんな離れ業をするボクサーがいただろうか。

ほとんど解説できなかったこの日のTV解説者、長谷川も山中も序盤KOで何試合も勝っているが、相手はそれなりの相手だった。モンティエルやモレノといったチャンピオン級とやれば、逆に序盤KOされたり苦戦したりするのである。それを一発KOである。

サウスポー対オーソドックスでは、相手の体が半身になり、しかも利き腕を後にして距離があるのでそう簡単にワンツーは当たらない。だから、ジャブの差し合いが続き、その差し合いを制した方が次のストレートを決めやすくなるのである。

それを容易に決めてしまうのだから、おそるべしである。試合開始直後で、パヤノに距離が読めてなかったという面はあるとしても、読めなければ余計に距離を置くというのが当り前だから、それをさせなかった井上がすごいということである。

試合前の予想でも書いたように、序盤の強烈さと比べて井上の中盤以降には課題があり、しぶとい相手と戦う場合は苦しむこともあるかもしれない。とはいえ、元チャンピオンをこれだけ圧倒してしまうのだから、視界は良好といえそうである。

反対側の山からはドネアに上がってきてほしいものだが、きっとバーネットなんだろうなあ。

村田、ラスベガスで大差判定負け!!

WBA世界ミドル級タイトルマッチ(2018/10/20、米ラスベガス)
O村田諒太(14勝11KO1敗)
  ロブ・ブラント(23勝16KO1敗)

村田2度目の防衛戦は、ラスベガスで行われる。パークシアターは昔のモンテカルロだから、MGMグランドからはNYNYを挟んで結構近い。私ごとになるが、ホプキンスvsデラホーヤを見てからリゾカジオフ会に向かったルートである。たいへんなつかしい。

HPをみると収容人員5200人というから、そこそこのキャパシティである。村田がこの会場を埋めることができるかどうか注目だが、なんといっても電通所属の総合スポーツタレントだから、日本からも行くだろうし現地駐在員にも総動員をかけて何とかするのだろう。

ボクシングの試合に話を戻すと、相手のロブ・ブラントはWBA3位である。1位はレミュー2位がGGGだから、チャンピオンクラスを除くと最上位にランクされているが、逆に言えばチャンピオンクラスではない訳で、GGGやカネロを目標とする村田にとって勝たなくてはならない試合でもある。

両者の戦績をみると話はそう簡単ではない。ブラントはたいした相手と戦っていないが、それは村田も同じことである。ブラントはヨルゲン・ブレマーに判定負けしているが、村田もヌジカムに1度は判定負けしている。ヌジカムよりブレマーの方が強いが、ブラントは大差負け、村田は論議を呼ぶスプリット・デシジョンだった。

とはいえ、戦績をよくみると、ブラントはラスベガスでの試合は初めてである。村田はアンダーカードとはいえトーマス&マックセンター、MGMグランドで戦っているので、場慣れしているというか、アウェイであることはあまり考慮しなくてもよさそうである。

私はこの試合、村田がどういうスタイルで戦うかに興味がある。試行錯誤でいろいろなスタイルを試してはきたものの、結局はガードを固め体力を生かして前に出るという単純明快なスタイルが村田には一番合っているようだ。

となると、武器としてはまっすぐのパンチ、ジャブとストレートしかないのである。前回のブランダムラのようにそれで恐れ入る選手であればKOできるのだけれど、水準以上のディフェンスと打たれ強さがある選手には通用しない。

同じクラスのチャーロ兄も体力で圧倒するタイプであるが、村田と違ってパンチの種類が多彩だし、インサイド・アウトサイドいずれからもパワーパンチを叩き込める。その分、どんな相手にも対応できるのである。

現在において村田の評価はというと、GGG、カネロ、チャーロ兄とは差があり、レミュー、ジェイコブスあたりにはちょっと足りないというあたりだろう。少なくとも、レミューとかいずれ上がってくるチャーロ弟を上回るくらいでないと、ミドル級頂上決戦を挑むには実績・実力とも今一歩ではないだろうか。

一応、村田判定勝ちと予想するけれども、そんなに簡単に勝たせてはもらえないだろう。



WBA世界ミドル級タイトルマッチ(10/20、米ラスベガス)
ロバート・ブラント O 判定(3-0) X 村田諒太

私の採点は116-112だが、ジャッジはそれ以上に差が付いた。村田についていえば、ヌジカムより強い相手とやったことがないにもかかわらず米国のリングで指名挑戦者と戦う訳だから、こういう結果も十分ありえたし村田自身精一杯やっただろうとは思う。

私がたいへん残念なのは、私の生きている間にはおそらく二度と現れない重量級の金メダリストを、こんなキャリアしか積ませることができなかった帝拳の体たらくである。

およそ1年前、山中vsネリ戦の時、こんなことをやっていては帝拳の栄華は長くないと書いた。あれからわずか1年、五十嵐は王座返り咲きを果たせず、リナレスは陥落し、村田も敗れた。ロマゴンとクアドラスもV字回復は難しいだろう。

功成り名を遂げたリナレスやロマゴンはともかくとして、村田はまだ将来があると思われていた選手であった。それがこういうワンサイドの負けを喫したのは、多くの部分がマネージメントの失敗に起因すると考えている。

老害御大としては、村田の実力を過大評価し、ブラントの実力を過小評価したものだろうが、村田が世界的強豪と全く戦っていないのは戦績を見れば明らかだし、もともとヌジカムと接戦するくらいの力では、世界ランキング上位とやれば苦戦は必至なのである。

だとすれば、実力を底上げするためにそれなりのキャリアを積ませるか、さもなければ未知数のままビッグマッチを組んでしまうかどちらかしかなかったのではないか。

ブラントの実力は、「世界に掃いて捨てるほどいる」とまでは言わないが、「両手の指に入るか入らないか」レベルである。あの程度のハンドスピード、パワー、スタミナでは、いまの世界上位クラスの誰とやっても苦戦は免れない。

思い起こせば、竹原からタイトルを奪ったウィリアム・ジョッピーは、当時のミドル級で間違いなく五本の指に入る実力者だった。その後フェリックス・トリニダードと戦って敗れはしたものの、ジョッピーにタイトルを取られたことは竹原にとってマイナス評価にはならない。

ひるがえって、ブラントにワンサイドで負けた村田は20年経ってどう評価されるだろうか。ブラントがチャーロ兄やアルバレスと戦っていい勝負ができるとは正直言って考えられず、結局村田の評価もその下ということにならざるを得ない。

セニョールに選手を見る目、実力評価が適確にできる戦略眼があったとしたら、WBAレギュラーのタイトルなど返上して、GGGとの直接対決をしただろうと思う(そういう予測もあったのだ)。ブラントにタイトルを取られた男と、GGGと打ち合って倒された男、どちらが歴史の評価に耐えうるかという話である。

GGGはカネロ第2戦に判定負けしているので、再起戦の相手として村田は打ってつけであった。東京ドームは無理でも、国技館か武道館くらい満員にできたかもしれない。でも、こういう負け方をした後では、無理である。お客さんも集まらないし、TVも付かない。

強敵だと思ったらせめてホームで戦って地元の利で何とかするか、そもそも足りないと思えばビッグマッチで乾坤一擲の勝負をするか、その程度のことも判断できないマネージメント能力だから、結局すべてが中途半端になってしまうのである。

ロブ・ブラントにワンサイドで判定負けを食らうくらいであれば、まだGGGに粉砕されるべきであったと思う。

[Oct 21, 2018]

ブロンズ・ボマーvsフューリー

WBC世界ヘビー級タイトルマッチ(2018/12/1、LAステイプルズセンター)
Oデオンティ・ワイルダー(40戦全勝39KO) 1.7倍
  タイソン・フューリー(27戦全勝19KO) 2.4倍

ボクシングが以前ほど面白くなくなった。以前も書いたけれど、対戦カードを見ただけでわくわくすることがほとんどない。これは歳とって私の感受性が鈍くなっているせいばかりとは言えないような気がする。

「バウンド・フォー・パウンド」ロマチェンコの相手がジャボンテ・デービスに手も届かなかったペドラザではがっかりだし、パッキャオvsブロナーも4~5年前ならともかく今更賞味期限切れという感じである。スペンスvsマイキーは興味深いけれども、GGGvsブルックと同じで勝敗が見えている。

井上のWBSSも作られたトーナメントであり、本当はウェルター級こそああいうトーナメントを組んでほしいが、ファイトマネーの安い階級でしかできない。2018年時点で私がわくわくするカードをあげてみると、クロフォードvsスペンス、マイキーvsロマチェンコ、井上vsリゴンドーといったところだが、いずれも望み薄である。

今週のワイルダーvsフューリーも、ヘビー級でも超大型に属する二人の対決であるから迫力満点といえるのかもしれないが、それほどわくわくしない。そもそも、戦うだけで他に言葉がいらないのなら、あんな芝居じみた場外戦はいらない。

心技体ともさまざまの問題があって引退していたフューリーが今年に入って復帰、2戦の調整試合を経て今回のタイトルマッチとなったが、破壊力抜群のワイルダーと戦うには不十分である。判定とはいえクリチコに勝っているから資格は十分とはいえ、勝負になるかどうかは別問題で、しかも引退前からそれほど強かった訳ではない。

フューリーが煽っているけれども、白熱した一戦になる確率は半々だと思っている。というのは、クリチコ戦から2年半のブランクを作ったフューリーがかつての出来に戻ったという保証はないし、そもそもアメリカ西海岸でやるということからみても、「昔の名前」を使って一儲けという意図にしかみえないからである。

ヘビー級の中でも大型で、一発当たればKO必至であっておかしくないのに、フューリーのKO率は70%。97%のワイルダーに劣るのはともかくとして、前戦のピアネッタ判定、ケビン・ジョンソン判定、デリック・チソラ第一戦判定となると、決定力に不足しているとみられるのは仕方がない。

大型選手らしからぬスピードとフットワークがあるとされているけれども、私が見るところジョシュアよりもかなり遅いし下手だ。大型選手というとニコライ・ワルーエフを想像するから早く見えるけれど、いまや2m超で早くて巧い選手はジョシュアに限らない。

対するワイルダー、ラストラウンドまで行ったのはスティバーン第1戦だけ、他はすべてKO決着である。スティバーン第1戦もスタミナ切れを心配したのか勝利最優先で慎重に戦ったので判定となったが、最初から飛ばせば第2戦のようになっただろう。

世界チャンピオンだと相手も世界ランカーになるから、以前のように両腕振り回して大暴れという場面は少なくなりつつある。だが、そもそもああいうことができるのは体のバランスとスタミナに自信があるからで、スティバーン第2戦やオルティス戦ではそういう動きも垣間見せた。

見た目と違って慎重なので、チャンスとみなければ大振りしないだろう。そして、フューリーのパンチを直撃されてもオルティスほどの破壊力はないから、普通に打ち合いをしていればフューリーの方にダメージが蓄積される。

そして、フューリーが以前の状態に戻っていればともかく、そうでないとすると12R動けるだけの体力はないのではないかという懸念がある。どこかで効いてしまうと、その後はワイルダーに一気に決められる可能性が大である。

ワイルダー序盤KO勝ちが7割、フューリーが万全の状態であれば後半まで行くかもしれないが、それでもワイルダーの勝ちは動かないと予想する。



WBC世界ヘビー級タイトルマッチ(12/1、LAステイプルズセンター)
デオンティ・ワイルダー △ 引分け(1-1) △ タイソン・フューリー

私の採点はジャッジの一人と同じ115-111ワイルダー。だから引分け判定はかわいそうなところもあったけれど、後半あれだけ追い込まれては仕方がない。

それよりも、ジャック・リースが2度のダウンで2度とも20秒近くインターバルをとっていたのは不公平であった。特に12Rのダウンは、10カウントの時点でファイティングポーズをとっていないのだからカウントアウトしてもいいケースで、立つのを待ってさらに足が動くか確かめる時間は必要なかった。

もしあの数秒がなかったら、ブロンズ・ボマーが追いこんでいたのか、あるいはフューリーの反転攻勢が決まっていたのかは分からない。だが、少なくともフューリーにとって、安全確保以上のアドバンテージがあったように思う。

試合前には白熱した試合になる可能性は半々とみていたが、実際フューリーの腹の皮のたるみ具合をみる限り、ブランクの間に相当不摂生をしたことがうかがわれた。高柳アナが「160kgあったらしい」と話していたが、それは事実だろう。

だから、フューリーにはブランクの影響があったのは間違いない。にもかかわらずあれだけ白熱した試合になったということは、フューリーのもともとのキャバシティがきわめて高いことと、ワイルダーの側に戦略のまずさがあったのが原因のように思える。

ワイルダーがスティバーン第一戦のように勝負に徹し、左ジャブとボディ打ちで地味に削って行けば、もう少し楽な試合ができただろうと思う。しかし、そこはフューリーのインサイドワークで、試合中にもかなりいらつかせていたから、大振りの空振りでワイルダーが自らスタミナをなくしていた。

実際のスコアカードをみると、2Rから5Rまで連続でフューリーに付けているジャッジが2人いて、これはないだろうと思う。その各ラウンドはフューリーが攻勢をとったというよりも、ワイルダーが空振りしたところをカウンターを1、2度決めただけで、手数を出してラウンドを支配していたのは圧倒的にワイルダーであった。

ジャッジがきちんと見ていたのかはさておき、実際のところ12Rでダウンをとらなければフューリーの勝ちだった訳で、その意味でブロンズ・ボマー起死回生の右ストレートであった。返しの左フックももろに入ってあれを立ってくる選手はいないはずなのに、フューリーは立ってきた。しかラウンド後半には立て直して反撃したくらいである。

この点は、フューリーの身体能力を認めざるを得ない。8、10、11Rとクリーンヒットを奪いながら二の矢、三の矢を出せない決め手のなさは大型選手にありがちな情けないところだが、あのダウンから立ってくる選手はここ数十年では思いつかない。

かつて、レノックス・ルイスがハシム・ラクマンに大番狂わせのKO負けをした時、「ヘビー級だから、もろに当たれば倒れるさ」と答えたのを思い出した。それを立ってくるというのは、フューリーの身体能力がそれだけ図抜けているということで、人間離れしているともいえ、ある意味恐ろしいことである。

インタビューでは再戦云々で盛り上がっていたが、ワイルダーの「ファイトマネーがよければ、どこでもいいぜ」というのは微妙。ワイルダーにとって、リスクの割にファイトマネーがそれほどよくなかったという印象を受けた。ジョシュアならともかく、フューリーでそこまでビッグマネーという訳にはいかないのだろうか。

あと、浜田さんが「フィーリー、フィーリー」と連呼していて、最初は「フューリー」と言っていた西岡まで「フィーリー」と言ったのには笑った。やっぱりフューリーでしょう。

[Dec 2, 2018]

ロマチェンコ、ライト級統一

WBA/WBO世界ライト級タイトルマッチ(2018/12/8、ニューヨークMSGシアター)
Oワシル・ロマチェンコ(11勝9KO1敗) 1.06倍
  ホセ・ぺドラサ(25勝12KO1敗) 12.5倍

いまや、実力的にも興行的にも、ボクシング界の中心にいると言っていいほどの勢いにあるロマチェンコ、リナレス戦の次はいきなり統一戦である。相手は、ベルトランを完封したペドラサであるが、正直なところ役者が違うだろう。

2014年3月、プロ2戦目でオルランド・サリドに挑戦し、手段を選ばないサリドに苦杯を喫して後は世界タイトルマッチばかり10連勝、しかも8連続KO勝利中である。「ロマチェンコ勝ち」とジョーさんが呼ぶ相手を戦意喪失に追い込む卓越した技術は、もはやメイウェザー以上と言っていいだろう。

メイウェザーの場合は露骨に危険な相手を避ける傾向があり、階級最強を争う対戦は、ディエゴ・コラレスとカネロ・アルバレスくらいしか思い当たらない。フレイタスでもマルガリトでもサーマンでもやれば勝てたと思われるが、結局やらなかった。

ロマチェンコの場合は、その時点で階級最強と思われる相手との対戦をクリアしている点でメイウェザーより優れている。ライト級でも他に楽な相手はいたのに、あえて最強と思われるリナレスに挑戦した。もはや相手の方から対戦を避けられる傾向にあり、ジャボンテ・デービスは対戦を避けたと伝えられる(1階級とはいえクラスが違うので責められないが)。

ペドラサはWBOのチャンピオンなので、マイキーがロバート・イースターに勝って上のクラスに移った現在、対戦可能な唯一の対抗団体チャンピオンである。他の面々というと、アンソニー・クロラやルーク・キャンベルなどリナレスに負けた組や、マイキーに負けたイースターしかいない。

つまり、現時点におけるライト級の頂上決戦といっていいカードなのだが、それでもミスマッチになってしまう可能性がかなり大きいのは悲しいところである。

その最大の理由が、ペドラサがジャボンテ・デービスと戦った時、全く歯が立たなかったという実績である。デービスのスピードと敏捷性、パンチ力は素晴らしいものの、体格が小さくパワーの点では物足りない。だから計量失格しても上のクラスに上がらないのであり、そのデービスに打つ手がなかったということは、ロマチェンコにも同様であろうと推測されるのもやむを得ない。

クラスを上げてベルトランには完勝したけれども、普通に考えてベルトランはたいした選手ではないし、しかも30代半ばでピークをとっくに過ぎていた。かつて計量失格やドーピング陽性もあり、力が落ちる時は急激に落ちるタイプである(オルランド・サリドもそうだった)。

オッズにもそれは現れていて、チャンピオン対決というよりは選択防衛戦というような開き方になっている。おそらく試合もオッズ同様に開いた内容になりそうで、ライト級でも「ロマチェンコ勝ち」が見られると予想する。ロマチェンコKO勝ち。



WBA/WBO統一ライト級タイトルマッチ(12/8、ニューヨークMSGシアター)
ワシル・ロマチェンコ O 判定(3-0) X ホセ・ペドラサ

私の採点は116-110。つまり10Rまでは96-94ということで、「ミスマッチ」という予想は大外れだった。ロマチェンコは4年振りの判定勝ち。

予想外の緊迫した試合になった原因は、両者ともにある。まずペドロサだが、非常に動きがよく、突っ込みすぎずディフェンス重視の戦略がうまく当たって、ほとんど差がないラウンドを多く作ることに成功した。ジャッジの一人は1ラウンドしかペドロサに与えていないけれど、これはちょっとかわいそうだった。

もともとがテクニシャンで、パワーで圧倒するというより打たせずに打つタイプである。ベルトラン戦はまさにそのような勝ち方をしたが、今回もいい勝負ができたのは終始ロマチェンコが前に出てくれたからで、左右スイッチしたり足を使ったりして11Rまで深いダメージを受けなかったのはさすが2階級制覇王者である。

惜しむらくは、これまで「ロマチェンコ勝ち」を許してきた面々よりずっとパンチを当てられたにもかかわらず、パワーがなくロマチェンコをたじろがせるところまで行かなかったことである。意外にスコアが開いたのは、見栄えのあるパンチを入れられなかった点も大きかった。

序盤にロマチェンコの左目を切ったのはおそらくヒッティングなので、もう少しパワーがあれば、面白い場面があったかもしれない。もっとも、ロマチェンコが前がかりで来たから当ったのであって、動かれたらどうだったかは分からない。

一方のロマチェンコ、もともと向かってくる相手を捌く方が得意で、自分から仕掛けて強いタイプではない。にもかかわらず、今回の試合では最初から前に出てプレッシャーをかけた。その分、いつものように相手を空転させるフットワークもボディワークもあまり見られなかったのは物足りなかった。

あるいは、ライト級にフィットしていないのかもしれない。もし5ポンドのウェイト増が負担にしかなっていないとすれば、両足に2.5ポンドずつ重しをつけて戦っているのと同じだから、フットワークに切れがなかったのもうなずける。カウンターの切れもスーパーフェザーの時の方が鋭かった。

思えば、あのパッキャオも、ライト級あたりでフレディ・ローチに付き、それまでの左ストレートの突進一本から腰を落ち着けて右フックを叩き込む戦い方に変えたのだった。プロ入り時点ですでに完成度が高かったロマチェンコだから改善の余地は少ないのかもしれないが、このままの戦い方だと今後は厳しいかもしれない。

そうした課題があったにせよ、11Rの攻勢は見事だった。一発効かせた後に強振せず、空振りがほとんどなかったところはワイルダーにもぜひ見習ってほしいところである。そして、ダウンを奪ったのはリナレスと同じボディ打ち。パワーファイターではないので一発の破壊力には欠けるけれども、ああいう技ありの攻撃はさすがパウンドフォーパウンドである。

[Dec 9, 2018]

カネロ、スーパーミドル級挑戦

WBA世界スーパーミドル級タイトルマッチ(2018/12/15、ニューヨークMSG)
ロッキー・フィールディング(27勝15KO1敗) 10.0倍
カネロ・アルバレス(50勝34KO1敗2引分け) 1.06倍

ドーピング疑惑のあるカネロの試合はあまり予想したくないのだが、いきなりスーパーミドルに上げるという選択の背景には興味がある。

ドーピングについては、抜いているかどうかは別問題として(抜かないとGGG戦はできなかっただろう)、カネロが意図的に何かしていたのはほぼ間違いない。2、3年前とは顔かたち、筋肉の付き方が違うし、今回スーパーミドルに上げて戦うというのも傍証になりそうだ。

というのは、オルランド・サリド、レイムンド・ベルトラン、ルイス・ネリのいずれも、トーピング陽性の後にはウェイトを作れなかったからである。カネロがGGG戦からわずか3ヵ月でこの試合に臨むという点から考えて、ミドル級ではウェイトが作れなかったのではないかと思っている。

そもそも、カネロの主戦場はスーパーウェルター級であり、メイウェザーと戦った時は2ポンドアンダーの152ポンドキャッチウェイトで戦っていた。ミドル級タイトルがかかったコットやアミール・カーンとはスーパーウェルターに近いキャッチウェイトであり、結局ミドル級で戦ったのはGGGのみ、スーパーミドルに至ってはチャベスJr.だけである。

そのカネロが、なぜミドル級で戦わずにスーパーミドルに上げるのか。一つは、チャーロ兄とやるよりリスクが少ないとみているからだろう。率直に言って、WBSSのスーパーミドルはかつてのSuper6と比べて相当レベルダウンしていて、カラム・スミスがアンドレ・ウォードより強いと思う人はいないだろう。ましてや、カラム・スミスにKO負けしているフィールディングでは尚更である。

もう一つは上に述べた体調面の問題である。GGGの強打に対応するため何らかの対策をとったカネロは、おそらくドーピングなしでミドル級のウェイトは作れない。となれば、スーパーミドルで手頃な相手を選ぶ他ないのである。

そのカネロの思惑がそのまま通用するかどうか。まず一つ目の懸念は、ドーピングをした連中はウェイトを上げてもあまり良績を上げていないことである。サリドはミゲル・ローマンにめった打ちを食らってKO負けしたし、ベルトランはロマチェンコ戦までたどり着けなかった。ネリに至ってはスーパーバンタムに上げることができない。

ドーピング懸念を抜きにしても、ミドル級からスーパーミドル級の8ポンドはそんなに簡単ではない。スーパーミドル級の層が厚くなって以降、この間の転級を難なくこなしたのはロイ・ジョーンズくらいで、ジャーメイン・テイラーもアーサー・アブラハムもうまくいかなかった。ホプキンスでさえ、ジョー・カルザゲには敗れている。

つまり、ミドル級からスーパーミドル級への転級が無理なくできるのは、さらにその上のライトヘビー級でも通用するだけのキャパシティを持っている選手ということである。カネロがライトヘビーで通用するとは思えないので、スーパーミドルだってそう簡単ではないということである。

もう一つ、ロッキー・フィールディングがそんな簡単な選手かということである。確かに、カラム・スミス戦のKO負けは減点材料とせざるを得ないが、無敗のタイロン・ツォイゲをKOしてタイトルを取ったという点はかなり評価できるのではないだろうか。

現在のスーパーミドル級はカラム・スミスとヒルベルト・ラミレス、ホセ・ウスカテギといったところがチャンピオンで、それほど圧倒的な存在感はないけれども、それぞれ体格がよくて体力があるという共通点がある。もともとの骨格がスーパーウェルターのカネロが、そう簡単に突破できるクラスではないように思う。

勝敗は予想しないが、判定決着に1枚。(ちなみに、カネロ判定4.5倍、ロッキー判定34倍、引分け34倍)

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