アイキャッチ画像:自ら撮影したデラホーヤvsホプキンス@MGMグランド

パッキャオvsブロナー    WOWOW解約    ロマチェンコvsクロラ    クロフォードvsカーン
テテvsドネア    井上vsEロッド    カネロKOコバレフ    井上vsドネア   


パッキャオ、40歳初防衛

WBA世界ウェルター級タイトルマッチ(2019/1/19、ラスベガスMGMグランド)
マニー・バッキャオ O 判定(3-0) X エイドリアン・ブロナー

私の採点はジャッジ2人と同じ116-112。いくらブロナーが「俺の勝ちだ」と言ったところで、手数も少なく決定的な場面も作れなければ、判定に文句を言うことはできない。

正直なところ、試合前の予想を書く気にはならなかった。パッキャオの現在の立ち位置は、チャンピオンとはいってもクラス最強を争うところから遠く離れていて、かつて自らが破ったデラホーヤとかコットの位置にいる。そして、ブロナーはかつてのマヨルガとかフェルナンド・バルガスに比せられる。40歳の中量級チャンピオンが、Favoriteになるようなカードで、まじめに予想する気にはなれない。

たまたまマティセの力が落ちていたのと打たれ弱かっただけで、前回のKOは8年振りだったほどこの階級でのパッキャオは限界であった。ブロナーがマイダナ戦前の出来であれば、本来ブロナーが圧勝しなければならない試合である。あえて試合前予想をするならば、そう書いただろう。

ところがブロナーは精進を怠ってしまい、20代にしてボクシングの伸びしろをなくしてしまった選手である。今回に限っては、パッキャオ相手ということでキャリア初めてといっていいほどまじめにファイトしたのだが、残念ながら怠けた期間が長すぎた。

ブロナーもメイウェザーと同様スーパーフェザー(ジュニアライト)からスタートしたが、生活の乱れがウェイトを増やしたのではないかと疑うくらい、クラスを上げてからスタミナがなくなった。瞬間的なスピードは最後まで衰えないものの、スタミナに自信がないためか1Rから12Rまでずっと待機策である。これでは勝てないし、面白くない。

私は、ブロナーのボクシング能力はマイキーとかスウィフトより上だと思っていたし、油断負けしたマイダナ戦の前までは、メイウェザーを追って5階級制覇するだろうと多くの人が考えていた。実際、スーパーフェザー、ライト位まではすべて圧勝、KOの山を築いてきた。

ところが、スーパーライト以降の試合は、勝つ気がないのではないかというほど手が出ない。カウンターを決めても追い打ちがかけられない。今日の試合でも、かつてのブロナーであれば、パッキャオの突進を目の先三寸で見切ってカウンターを打てたはずだし、実際、数は少ないが決めていた。ところが、そこから倒しにいけないのである。

声を出しながら前に出て行く試合も以前は多かったのだが、今日の試合では終始パッキャオに前に出られて、テクニックをみせるのが精一杯。10歳以上年が離れているとは思えない試合だった。今後も、ネームバリューがあるのでどこかの王者決定戦に出る機会はあるだろうが、階級最強を争うクラスまで浮上するのは難しいだろう。

かたやパッキャオ、40歳を迎えての初防衛戦を快勝した。KOを逃したのはこのクラスなので折込済で、あるいはリングサイドにいたメイウェザーと再戦ということになるのかもしれない。

仮にそういう試合が決まったとしても、階級最強をめぐる戦いという訳ではないので、あまり興味が沸かない。ホプキンスは50歳近くまで世界戦線に生き残ったけれども、スティーヴンソンのような例もある。フライ級からスタートしたパッキャオは、まだできるというところでグローブを置くのが正解だと思う。

[Jan 20, 2019]

19年続けたWOWOWを解約

しばらく前から、WOWOWの契約についてしっくりこないものを感じていた。

そもそも契約したのはボクシング番組Exite Matchを見るためだし、週1回2時間の番組に月額2,300円+消費税が惜しいとは思わないで長らく過ごしてきた。現在も、ボクシング以外の番組を見ることはほとんどない。

ところが2年くらい前から、一部試合の画質を目で見て分かるくらい落としているのに気づいていた。さすがにたいした試合ではないけれど、もし見たい試合でこれをやられたら頭にくるだろう。中継する試合も、米国の一部に集中している。それほど予算が削られているのかと思った。

毎月送られてくる番組情報誌をみると、ボクシングの占める割合はおそらく2%にも満たない。放送時間からして、3チャンネルで1週間504時間中再放送入れてせいぜい6時間だから、そんなものである。

とはいえ、ボクシングを見るためだけにWOWOWと契約している人は私だけではないはずである。大坂なおみにも東方神起にもWOWOW制作のドラマにも興味はないのに、おそらく視聴料の大部分はそういう番組に使われている。

ライブで流すような試合で画質を落とすようなことはないけれども、パッキャオとか帝拳絡みばかりで、いま現在旬の選手(エロール・スベンスとか)の試合は録画でしか流さない。そして、解説陣もいつのまにか帝拳ばかりになってしまった。

とくに、ジョー小泉が出なくなってしまったのはなぜだろう。ジョーさんの主張に100%同意することはないけれども、金儲けよりボクシングそのものが好きなことは見ていれば分かる。引退した訳ではなく、いまも国際マッチメーカーとして世界を飛び回っているのだ。デラホーヤvsホプキンスのチケットを買った縁もある。

飯田覚士が諸般の事情で出られないのは、仕方がない。でも、代わりが西岡とか亀海だったらまだ分かるが、海外で1度も試合をしていない山中がなぜ大きな顔をして出て来るのだろう。ましてドーピングクロの選手と分かって試合をした時点で、世界水準ではドーピング選手と同じである。

HBOがボクシング中継を終了し、これから先、組まれるビッグマッチは間違いなく減る。ドーピング選手のカネロの試合は見たくないし、いまさらパッキャオ、メイウェザーでもあるまい。

この1月、WOWOWを見たのがパッキャオvsブロナーのライブと、チャーロ兄弟の録画だけという時点で、これに2,300円は掛け過ぎだと痛感した。WOWOWに電話して、1月末で解約した。

自宅を建てて以来19年契約してきたけれど、長く契約したからといって割引してくれる訳でもなく、特別なプレゼントがある訳でもない。ボクシング番組の予算を削っているところからみて、私のようなユーザーを想定してはいないのだろう。こちらからも、あえてお付き合いする理由はない。

今を去ること30年ほど前、WOWOWは深刻な経営危機にあり契約者を増やすことが至上命題だった。その頃まだ1チャンネルしかないにもかかわらず、ボクシングの放送時間はいまと変わらなかった。マイク・タイソンやデラホーヤの独占中継が契約者増に果たした役割は、小さくなかったはずである。

年月は過ぎ、いまWOWOWを動かしている連中はかつての経営危機の時代を知らない。知識として知ってはいても、いま現在の経営判断とは別物と考えているだろう。それはそれで仕方がないことだ。

しかし、私自身のコスト計算の観点からは、NHKを上回る視聴料をWOWOWに払い続けるのはどう考えても間尺に合わないのである。どうしても見たい試合のライブ中継は2,300円+消費税のPPVを見るつもりでスポット契約して、あとはYouTubeのダイジェスト映像を見てがまんしようと思っている。

[Feb 7, 2019]

ロマチェンコ、元王者クロラを相手にせず

WBA/WBO世界ライト級タイトルマッチ(2019/4/12、米ステイプルズセンター)
Oワシル・ロマチェンコ(12勝9KO1敗) 1.01倍
  アンソニー・クロラ(34勝13KO6敗3分け) 19.0倍

金曜日夜のタイトルマッチというのは珍しい。英国への放映を考慮したのだろうか。

昨年リナレス戦で予想したとおり、ロマチェンコはライト級で相手を探すのに苦労している。12月のペトラザ戦では「ロマチェンコ勝ち」こそできなかったもののワンサイドでWBO王座を吸収、次の相手はリナレスに敗れているクロラを選ばざるを得なかった。オッズ通り、勝敗のスリルはほとんどない試合である。

ロマチェンコがオールタイムでどれくらい強いかという記事が、ボクシングマガジンに載っていた。相手として選ばれていたのがロベルト・デュランだが、デュランのベストがライト級であることはそのとおりとしても、ロマチェンコがライト級でベストかというと現時点では首をひねるところがある。

まだライト級は2試合、しかもスーパーフェザー時のように圧勝を続けて来た訳でもない。リナレス戦ではダウンを喫し、ペトラザ戦では決めきれなかった。マルティネス、ウォータース、リゴンドーと強豪を相手にしなかったスーパーフェザー時の迫力には及ばない。

デビュー直後にオルランド・サリドに苦杯を喫したように体力で押してくる相手を苦手にしているのもあるだろうし、あるいは年齢的な問題があるのかもしれない。ロマチェンコもすでに31歳、スピードと反射神経が売り物のテクニカルなボクサーには、少し年齢が行き過ぎているような気もする。

ロマチェンコの歳には、デュランはすでにウェルター級だった。年間6~7試合もやっていた時代と比較することはあまり公平ではないが、ロマチェンコがアマチュアで200戦以上戦っていることを勘案すると、共通する要素は少なくない。

一方のクロラ。リナレス戦連敗の後、同じ英国のリッキー・バーンズに勝ち再浮上してきた。世界ランクでは各団体上位に位置するが、ライト級の人材がそれだけいないということである。

リナレスと戦った際も、攻勢はとるものの的確さに欠け、相手も疲れていたのに押し込めなかった。リナレスよりさらに的確でスタミナのあるロマチェンコをたじろがせる場面は、想像しがたい。

クロラにアドバンテージがあるとすれば、デビュー以来ずっとライト級で戦っているという体力的な強さである。とはいえ、いくら体力で上回ったとしてもパンチを当てられなければどうしようもないし、実際ほとんど当てられない可能性が高い。

久しぶりに「ロマチェンコ勝ち」を予想するけれども、ここで手こずるようならいよいよライト級が合わないのか年齢的な限界ということになるだろう。



WBA/WBO世界ライト級タイトルマッチ(4/12、ロサンゼルス・ステイプルズセンター)
ワシル・ロマチェンコ O KO4R X アンソニー・クロラ

リナレスを物差しにすればこういう結果が出て当り前なのだが、ロマチェンコがクロラにほとんどパンチを当てさせず4Rでキャンバスに沈めた。

3Rは米国では珍しくジャック・リースがダウン扱いにして、ロープダウンなしの統一ルールだから関係者が入ってきてしまった。私もダウンのジェスチャーをとっていたのが見えたけれども、慣れない関係者だったのかもしれない。3分計れない日本の関係者よりはましだが。

ロマチェンコはこれまでボディで倒すか、あまりに一方的な展開で相手がギブアップしてしまう「ロマチェンコ勝ち」が多かったが、今度はテンプルの一発で決めた。実力差もあり、クロラにダメージがあったこともあるが、ロマチェンコ自身ライト級のパワーがついてきたということかもしれない。

それと、今回驚いたのは、個人的に「闘牛士スタイル」と呼んでいる相手のフックの軌道を懐でよけてしまうロマチェンコ独特のスタイルが健在だったことである。

あのよけ方は、本来ガードしてカバーすべきところ、動きが早くて肩の動きが柔軟なので両手を浮かしてどこも当てさせないというすごいよけ方なのである。自分と同じか身長の低い相手なら軌道も低いのでまだしも、自分より上背のあるクロラにあれができるとは驚きである。

それだけ、ロマチェンコがナチュラルに構えていて、クロラが前傾して相手を見ずに振っているということになるが、それにしても、もともとの体重差・体格差を感じさせない芸当であった。

さて、WBA1位のクロラとこれだけ差があると、次の相手を探すのはたいへんである。WOWOW(今回、再契約)ではIBF王者のコミーの名前が挙がっているが、ケガなのでしばらく無理だろう。

コミーに勝ってマイキーに敗れているロバート・イースターとやればマイキーと比較できるが、今月末にランセス・バーテルミーとWBAレギュラーの決定戦があるので勝てるかどうか。イースターでもバーテルミーでも、ファイトマネーでは折り合いそうだ。

あとは、ウェルターまで上げたマイキーが12ポンド落とせるかどうか、タンク・ジャボンテ・デービスが負けそうな試合をやるかどうかだが、今年秋のタイミングでは難しい。もっとも、今日のような試合を見せてくれれば、イースターでもバーテルミーでも中谷でも文句はない。

[Apr 14, 2019]

クロフォードvsアミール・カーン

WBO世界ウェルター級タイトルマッチ(2019/4/20、米ニューヨークMSG)
Oテレンス・クロフォード(34戦全勝24KO) 1.1倍
  アミール・カーン(33勝20KO4敗) 8.5倍

この試合の主役がどちらかというのは、やや難しいところがある。3階級制覇チャンピオンでありパウンド・フォー・パウンドを窺うクロフォードが断然主役でおかしくないのだが、ではカーン以外が相手で客が入るかと言われると微妙である。

そのアミール・カーン、30年後にボクシングシーンを振り返ってどういう地位を占めるのかを予想するのは大変難しい。

英国のボクサーでアングロサクソンでないという点からみるとプリンス・ナジーム・ハメドと同様だが、実績でも試合の面白さでも遠く及ばない。ハメドが敗れたマルコ・アントニオ・バレラに圧勝しているが、体が違い過ぎたので勝って当り前だろう。

オリンピックを含む輝かしいアマチュアキャリアという点では一時プロモートしたデラホーヤと共通だけれど、デラホーヤが人気に見合ういい試合を見せたのに対し、カーンはここぞという試合は大抵負ける。

人気先行という意味では「世界レベルの村田」的なところがあるが、一発食うまでカネロ・アルバレスと五分に渡り合ったボクシングセンスは村田よりもかなり上だろう。そもそも世界タイトルマッチでマリナッジやマルコス・マイダナ、ザブ・ジュダーといったビッグネーム相手に防衛しているから、村田と比べるのは気の毒だ。

かたやクロフォード、ライト級時代はディフェンスの巧みなスイッチヒッターという印象であったが、スーパーライトでは破壊力を増し、4団体統一して激戦区ウェルターに上がってきた。

ライト、スーパーライトではライバルに恵まれなかった。4団体統一とはいえ相手がインドンゴでは評価が上がらないのもやむを得ず、最強の相手がいまだにユリオルキス・ガンボアというのではマッチメークが弱すぎる。

最近ではサウスポーで戦うことが多くなり、腰が落ち着いてKOで決められるようになってきた。とはいえ、体格的にはウェルターでは大きいとはいえず、このクラスのハードパンチャー相手では耐久力に課題がありそうだ。

だからエロール・スペンスとやれば、スペンスが体力勝ちするだろうとみているのだが、統一戦の機運が高まらないのは、リスクに見合うだけのビッグマッチとならないからだろうと想像される。

スペンスの場合は強すぎて相手がいないという点が大きいが、いずれにしてもパッキャオvsブロナーほどのファイトマネーとならないのは実力者二人に気の毒である。

試合そのものは、クロフォードがどのくらいカーンをコントロールできるかが鍵だろう。スピードではカーンも相当なので、クロフォードとしても圧倒できるとは限らない。カーンのモチベーションも気になるところ。

ただ、プレスコットに倒され、スウィフト・ガルシアに倒され、カネロに倒されたように、カーンはたいへん打たれ弱いボクサーである。しかも、それらの試合は一発で決められてしまっている。カーンが再びリングに大の字になる可能性はかなり高いとみなくてはならない。



WBO世界ウェルター級タイトルマッチ(4/20、米ニューヨークMSG)
テレンス・クロフォード O TKO6R X アミール・カーン

クロフォードのローブローで試合が終わったとFightnews.comにあったのでアクシデントかと思っていたら、3Rくらいから打たれていたボディブローが効いて、ローブローを機にギブアップしたということであった。カーンとしても、ボディブローで座り込むよりましということかもしれないが、地元だったら許されないことだろう。

ただ、ローブロー自体は反則行為であり、クロフォードは試合を優位に進めていたのだからああいうパンチを打ってはならない。打ったのは足だと言っているが、足だって反則に変わりはない。

何年かに一度、ゴング後のヒットやレスリング行為等で反則負けやノーコンテストがあるのだから、本当の一流チャンピオンならそれを避けるべきだし、あのタイミングでボディを打つ必要はなかった。

試合全般をみると、クロフォードがカーンをコントロールしたといっていい。1Rをオーソドックスで始めて右のオーバーハンドでダウンを奪ったのは戦略の勝利だし、3Rから左にスイッチしてボディを攻めた。攻撃に偏り過ぎてカーンの一撃を何発かもらっていたが、それ以上に小気味いいアッパーやフックを当てていた。

この二人、歳はほとんど変わらないのだが、どうしてこんなに差がついてしまったのだろう。クロフォードはますますスピードや回転力に磨きがかかり、カウンターも巧くなった。逆にカーンは、1Rのダウンをはじめ打たれもろさはそのままで、攻撃に適確さがなくなっていた。ダメージがあったのを勘案しても、往年より力は落ちているだろう。

とはいえ、クロフォードがパウンド・フォー・パウンドかというと、多少首をひねらざるを得ない。

第一に、一発でリングに大の字になる打たれ弱いカーンに対し、1Rに決めきれず逆襲を受けていたことである。もちろんボディ打ちは迫力満点だったのだが、一発の威力でいうとカネロやスウィフト・ガルシアには及ばないということになる。

この点では、スイッチヒッターの限界というか、どちらも器用にこなすのだがどちらも破壊力では足りないということか。体重の移動はうまいのだが、踏込みが半歩、1/4歩浅いような気がする。

だから、もしエロール・スペンスと戦った場合の想定も戦前と変わらない。早い出入りとスイッチでスペンスを幻惑するとは思うが、パワーと耐久力でスペンスに分があり、体力の差が出るだろう。その前に、ショーン・ポーターとか、ウェルターのトップクラスと戦う必要もありそうだ。

今回の試合を見て、強いけれど何かバタバタしているという印象を受けたのは私だけではないだろう。試合は圧倒していたように見えたが、クロフォード本人としてはそれほど余裕がなかったのかもしれない。余裕があればローブローは打たない。

[Apr 24, 2019]

テテvsドネアWBSS準決勝(中止!!)

注.記事を上げたとたんにテテの負傷欠場が発表されました。せっかく書いたのでそのまま残しておきます。

WBA/WBO世界バンタム級タイトルマッチ(2019/04/27、米ラファイエット)
Oゾラニ・テテ(28勝21KO3敗) 1.2倍
  ノニト・ドネア(39勝25KO5敗) 5.2倍

この対戦の公式タイトルはDonaire vs Teteである。ドネアが前に来るのである。確かに知名度ではドネアがかなり上回るが、現時点の実力比較ではテテに軍配が上がる。オッズもそのとおりだが、ロマチェンコ、クロフォードと比較すると接近している。

ノニト・ドネア36歳。同郷の先輩パッキャオがまだ戦っているから現役でもおかしくはないだろうが、すでにピークを過ぎていることは疑いない。前の試合はバーネットの負傷リタイアで勝ち進んだが、さすがにここは厳しいだろう。

ドネアのピークがシドレンコ、モンティエル、ナルバエスを連破したバンタム級であることに異議を唱える人はそれほど多くないと思う。その後スーパーバンタム、フェザーと制覇したものの、リゴンドーに敗れ、ウォータースに敗れ、マグダレノに敗れるに至ってはすでに往年の力はない。

そのバンタム級に7年振りに戻ってのWBSS、さすがにどうかと思っていたが、バーネットのアクシデントで勝ち上がった。こういうアクシデントは何年かに一度あり、かつてビタリ・クリチコが肩の負傷で、日本でもイーグル京和がやはり肩を痛めて途中リタイアしている。

バンタム級に戻って2戦目ということで、緒戦より体調面では上向いているものとみられるが、問題はかつての力量が戻っているかどうかである。パワーはさほど落ちないかもしれないが、スピードと反射神経は36歳という年齢が響くとみなければならない。

かたやテテ。南アフリカの選手はパワーがあるのにもろいところがあり、パッキャオ出世のきっかけを作ったリーロ・レジャパが思い出される。井岡に負けたソーサに敗れているのも評価を下げる。

とはいえ、ソーサに敗れた2012年以来6年以上負けなしで、その間にポール・バトラー、オマール・ナルバエスといったビッグネームに勝っている。1回戦のアロイヤンもキャリアは浅いものの難敵で、井上兄以外の日本選手が勝つのは難しい選手だった。

ただし、28勝21KOの数字ほど決定力があるタイプではなく、アロイヤン戦もダウンを奪って決めきれず、日本で帝里木下とやった試合もコントロールしたもののダウンなしだった。

リゴンドーやカール・フランプトンのパンチに耐えることのできたドネアを圧倒するのはきついかもしれないが、スピードと機敏さでは優位にあると思われ、決勝進出をかけてモチベーションも高いはずだ。テテの中差判定勝ちを予想する。

[Apr 26, 2019]

井上世界の晴舞台 vsEロッド

WBA/IBF世界バンタム級タイトルマッチ(2019/05/18、英グラスゴーSSEハイドロ)
O井上 尚弥(17戦全勝15KO) 1.14倍
  エマニュエル・ロドリゲス(19戦全勝12KO) 7.25倍

経営危機が伝えられるWBSSであるが、トーナメントの片方の山からはノニト・ドネアが勝ち上がり、どちらが勝ち上がっても決勝戦はスリリングな試合になる期待が高まった。井上にはぜひともがんばってほしいものである。

テテの負傷欠場で代役ヤングが相手だったとはいえ、モンティエル戦を思い出す左フック一発でドネアが勝ち上がり、WBSSバンタム級は一挙に盛り上がってきた。ここで井上がKOで勝ち上がれば、WBSS決勝という看板がなくてもビッグマッチとして成り立つのではないか。

まず相手のEロッドことエマニュエル・ロドリゲス。19戦全勝12KOのレコードは文句ないが、1回戦のジェイソン・モロニー戦で株を下げてしまった。モロニーは河野公平に負傷TKOで勝ったばかりであり、河野はその1年半前に井上にKO負けしている。河野とモロニーを物差しにすると、井上の方が強いという結論になる。

ポール・バトラーを敵地で破ったことで評価されているが、バトラー自身ゾラニ・テテに地元でKO負けしている。プエルトリコのこのあたりの階級だとウィルフレッド・ゴメスを思い出すが、最近ではバスケスもファンマ・ロペスも登場した時から尻すぼみに弱くなった。

かたや井上。地元開催だったとはいえ、バンタム級2戦をいずれも1RKOで圧勝し、この階級ではまだ3分ほどしか戦っていない。格別に強い一方で経験十分とはいえないし、WBSSの経営不安でなかなかスケジュールが決まらないこともあって、コンディショニングが一番心配だ。

お互い第三国であるイギリスでの対戦であり、有利不利はないにしても地元で調整できるという利点はない。井上にはKOが期待されるものの、Eロッドはとにかく勝てばいいから、その点でもプレッシャーは井上の方により大きいだろう。

とはいえ、この試合でどちらに会場の声援が多いかというと、私は井上ではないかと思う。英国の観客はジェイミー・マクドネル戦もファン・カルロス・パヤノ戦も見ているはずなので、再び見事なKOを目の前で見たいと思っているはずだ。

井上自身、メキシコ、プエルトリコあたりの粘っこいボクシングの相手との経験は多いとはいえず、カルモナに判定まで持ち込まれたこともある。ましてロドリゲスは苦戦慣れしているので、試合が後半まで進めばそう簡単に倒れることはなさそうだ。

とはいえ、長期戦になっても井上の優位は変わらない。というのは、強打ばかりが注目されているが、井上のディフェンスはすばらしく、過去にカットしたことがほとんどない。バッティングすら受けないのである。

ロドリゲスが井上を警戒して距離を置けば、試合を支配するのは井上のジャブであり、ただでさえ決定力が不足気味のロドリゲスが井上にダメージングブローを叩き込む場面は想定しにくい。

井上の前半KOを期待するが、ロドリゲスもチャンピオンであり、判定まで持ち込まれる可能性は少なくない。判定でも、井上が明確な差をつけるだろう。



IBF世界バンタム級タイトルマッチ(5/18、英グラスゴー)
井上尚弥 O TKO2R X エマニュエル・ロドリゲス

スコットランドでも日本でも井上の強さは変わらず、またも序盤KOでドネアの待つWBSS決勝へ駒を進めた。

1Rを見て驚いたのは、足を使うと思われたロドリゲスが前に出て、井上が下がりながら迎え撃ったことである。ディフェンスも巧い井上はほとんどのパンチを見切っていたが、距離の違いがあるのか芯ではないものの何発かクリーンヒットをもらっていた。

この1Rの前進がロドリゲスの作戦だったのか、あるいは伝えられる減量苦で勝負を急いだのかは分からない。いずれにしても、2Rに井上が腰を入れた攻撃を始めると、左フック一発でほぼ勝負を決めてしまった。

おそらく、日本人選手が英国で世界タイトルを獲ったのは初めてのはずだが、そういう新聞向けキャッチコピーなどどうでもいいくらいのパフォーマンスであった。何よりのことである。

半世紀以上ボクシングを見て来て、井上のように世界レベルで活躍できる選手を見ることができたのは大変うれしいことである。もちろん最近でもWOWOWで解説していた西岡や、三浦、亀海といった選手がいて、さかのぼれば西城正三、柴田国明も海外で実績を残したのだが、井上ほど世界レベルで注目を集めた選手はいなかった。

グラスゴーの会場でも、ロドリゲス入場の時にはブーイングが聞こえ、井上入場の時には大歓声だった。在留邦人や日本からの応援団もいたのだろうけれど、現地のボクシングファンにも井上は注目されていたということである。

長谷川や山中、内山が世界のリングで戦っていれば、井上のように活躍できたかどうかは分からない。分からないけれども、国内限定で世界レベルの相手と戦わない間にピークを過ぎてしまい、実力を証明できなかったことは間違いない。

国内限定で戦うことにより生活の安定は確保することができただろうし、それは決して否定することはできないけれども、井上はもしかするとパッキャオのように、彼らとは桁の違うビッグマネーファイトの機会が得られるかもしれない。

井上のここ最近の試合を見ていると、「石の拳」ロベルト・デュランのように感じることがある。デュランはライト級時代から、石松とか小林弘、ブキャナンといった連中をKOしてきたし、歳とって階級を上げてもライバルに恵まれた。

井上の次の試合は決勝のドネアだが、WBSSを勝ち進めなかったゾラニ・テテやライアン・バーネットも井上との対戦を希望しているようだ。トップランクもそのあたりを見込んで契約したのだろう。そして、リゴンドーの引退に間に合うかどうか、井上の今後には楽しみが一杯である。

(諸般の事情によりWBA"レギュラー"ベルトが懸けられなかったが、あまり関係なかったのでコメントしませんでした。)

[May 19, 2019]

カネロ、コバレフをKO

WBO世界ライトヘビー級タイトルマッチ(11/2、ラスベガスMGMグランド)
サウル・アルバレス O TKO11R X セルゲイ・コバレフ

NFLを見るためにDAZNを契約していたら、おまけでカネロの試合が付いてきた。ドーピング疑惑のあるカネロをとりあげたくはないが、何しろボクシング界で今一番ギャラの高いボクサーだし(この試合で3000万ドル・33億円!!)、誰かのようにドーピング検査を拒否している訳ではないようなので、イエローカード1枚扱いで。

私の採点は10ラウンドまで96-94カネロ。コバレフに振った4Rはカネロがほとんど手を出さなかったラウンドなので、終始カネロのペースで進んだ試合であった。

それにしても、11RのKOシーンは鮮やかだった。アミール・カーンの時は相手がウェルター級だったので、あのくらいの決め方をしてもらわないと困るが、今回はライトヘビーである。試合全般を通じ同じ軌道でボディをさんざん攻められていたので、左フックの上はコバレフもよけ切れなかった。そして、アミール・カーンの時と同じ右ストレート一発である。

コバレフ自身、アンドレ・ウォード戦以降かつてのような破壊力も頑丈さもなくなってしまったので、この結果にはあまり驚かない。そして、ミドル級のボクサーがライトヘビーで通用するかという問題にも、ロイ・ジョーンズやホプキンスがすでに答えを出している。

さらに、ライトヘビー級のトップ戦線は、すでに同じ旧ソ連圏のベテルビエフとビボルに移ってしまっている。コバレフの力は、彼らより一枚落ちる。それでも、とにかくライトヘビーの現役チャンピオンを破った訳だから、4階級制覇には異議のはさみようがない。

(中継を見ていたら、「4階級同時王者」と言っていたような気がするが、その中には例のフランチャイズ王者も含まれているので、あまり意味がない。)

それにしても、DAZNと高額契約を結んだカネロは、これからどこに行こうとしているのだろうか。175ポンドの体を作ってしまったボクサーが160ポンドに戻すというのは無理で、ロイ・ジョーンズがヘビー級で戦った後、急に弱くなった実例もある。

上の階級の強豪(しかも下り坂の)と戦うという戦略はすでにパッキャオがやったことだが、カネロがここから上となるとクルーザーに行くしかない。ライトヘビーは175ポンド、クルーザーは200ポンドだから25ポンド、10kg以上重いクラスである。

それでも、ロイ・ジョーンズがヘビー級まで上げているから、相手を選べば可能性はなくはないだろう。ただ、今回は米国でも名前が売れているコバレフだからビッグマッチになったが、そういう相手がいるかどうか。

そしてクルーザー級は、4団体統一王者であったウシクがヘビー級に転向して、混戦状態である。しぱらくはライバル同士がつぶし合う戦いとなりそうなので、ビッグマッチという状況ではなさそうだ。そして、ライトヘビーより25ポンド上となると、一発もらって終わりというリスクは格段に大きくなる。

今回のカネロも、体だけみるとチャベスJr.がライトヘビーにいた時よりも絞れていたように見えたし、実際コバレフにKOパンチを叩き込んだのだからパワーの点では問題なさそうだ。

一方ディフェンス面はというと、スーパーウェルターの時のように目の先三寸で見切るという訳にはいかず、コバレフの手打ちパンチをちょこちょこ当てられていた。これがビボルならもっと効かされていたいたはずだし、ベテルビエフには圧力負けしたように思えた。

ただ、そうしたマイナス評価はあるにしても、KOシーンの鮮やかさはなかなか見られないもので、DAZNに感謝である。WOWOWを解約しても、こうした試合がライブで見られるのはありがたいことである。

[Nov 3, 2019]

井上、激闘の末ドネアを下しWBSS王者に

WBA/IBF世界バンタム級タイトルマッチ(2019/11/7、さいたまスーパーアリーナ)
井上尚弥 O 判定(3-0) X ノニト・ドネア

2万人収容のさいたまスーパーアリーナが、前売で完売したそうである。普段ボクシングを見る層が増えていないことは、後楽園ホールの入場者数が漸減していることで明らかなのだが、この試合が多くの人の注目を集めるのは、ラグビーを見る人が少ないのにワールドカップが満員になるのと似た状況なのかもしれない。

私の採点は116-111井上。公開採点だったら8Rまで1-1だったはずで、どちらに転ぶか分からなかった。スピードでは井上が完全に上なのだが、ドネアはモンティエルを沈めた相打ちの左フックを狙ってきて、井上は右目のカットと鼻血というハンデを負った戦いとなった。

井上は試合前に、「この試合を勝つことにより、これまで日本人ボクサーが達したことのない大きな舞台で戦うことができる」と言っていたけれども、後のことを心配している場合じゃないのにと思っていた。確かに、ドネアには往年の力はないかもしれないが、五階級制覇チャンプのプライドとして、バンタム級でKO負けはしたくないはずである。

ただし、11Rのダウンはレフェリーの判断が不可解だった。井上のボディでドネアが横を向いた時に井上を押しとどめていたように見えたが、ファイト中に止めたら試合終了である。ラスベガスならTKOだっただろう。

そうでなくても、(家のビデオで確認したところ)ドネアが両手を突いたのが1分49秒で立ち上がったのは1分37秒だから、明らかに10カウント以上かかっている。スーパーシリーズと銘打つ割には、オフィシャルはお粗末である。

とはいえ、レフェリーの不手際は両選手に罪はない。ドネアは序盤から井上の強打をもらっていたので、マクドネルやパヤノ、ロドリゲスなら前半で倒れていただろう。そこを耐えたのは、さすが歴戦の雄ドネアである。

井上も、これまで戦ってきた相手にはろくにパンチも受けなかったが、超一流と戦えば被弾もある。これまでカットしたことはなかったけれども、オマール・ナルバエスだって井上と戦うまでダウンしたことはなかったのだ。

序盤で決められなくて試合が長引くと、相手がパンチに慣れてしまうという課題は相変わらずだが、11Rまでほとんど出していなかった左ボディを最高のタイミングで決めたのはさすがである。結局判定になってしまったが、実質TKOだと私は思うのでよしとしよう。

フジテレビではインタビューまで放送に入らなかったが、おそらく井上は、「相手が相手なのでそう簡単に倒せないと思っていました。判定になることも想定して準備してきました」と答えたのではないかと思う。試合後のダメージも、傷こそ深くなってしまったけれども、明らかにドネアの方が疲れていたように思う。

さて、試合中のレポートで気になったのは、井上が足に力が入らない様子だったということである。同じような症状はライトフライ級の時にも出ていたので、またもや減量がきついのだろうか。バンタム級4試合で16Rしか戦っていないが、あるいはスーパーバンタムに上げることになるのかもしれない。

となると、トップランクに所属して最初のビッグマッチはリゴンドーということになるのだろうか。いずれにしても楽しみである。

[Nov 8, 2019]

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