アイキャッチ画像:自ら撮影したデラホーヤvsホプキンス@MGMグランド
激動の2020年末決戦、井岡が田中をTKO
WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチ(2020/12/31、大田区総合体育館)
チャンピオン 井岡一翔 O TKO8R X 挑戦者 田中恒成
コロナに揺れた2020年、ボクシングの興行自体ほとんどできなかった上に、感染防止の観点からジムワークにも制限が加えられた。この対戦も何とか開催にこぎつけたものの、両者とも今年はじめての試合であり、十分な調整ができたとは思えなかった。
正直なところ、両者ともあまり好きなボクサーではないので、予想記事を書くほどの関心はなかった。世間一般の見方と同様、若さとスピードでまさる田中が押し切る可能性が大きいものの、経験とディフェンスでは井岡が上回り、どっちが勝ったか分からないような展開もあるとみていた。
ただ、世界最速四階級などというほとんど意味のない階級の上げ方をしている田中にとって、スーパーフライが本当にフィットするのかという不安はあった。井岡が約10年かかってミニマムからスーパーフライまで上げているのに、田中は半分の5年である。
そして、下の階級でもパンチをまともにもらって眼窩底骨折をしているのに、相手が重く大きくなって大丈夫かという不安があった。これまでは力任せに倒してきたけれども、体力差は相対的に小さくなる。
試合の序盤は、田中のハンドスピードが井岡を翻弄しているようだった。しかしよく見ると、井岡はほとんどのパンチをガードしてまともにもらっていないのに対し、田中は井岡のジャブをガードしないで受けていた。序盤4Rまでの私の採点は、38-38のイーブンである。
5R、打ち合いの中で井岡の左フックがまともに入り田中ダウン。スーパーフライではとてもハードパンチャーとはいえない井岡のパンチをもらって倒れるということは、ディフェンスができていないか、階級に合っていないかどちらかである。
続く6Rにも同じようなパンチでダウンを追加され、8Rにまともにもらってグロッギーになったところをレフェリーに止められた。調整過程の問題があったのかもしれないが、それ以上に力の差があったとしか言いようがない。
井岡の鮮やかなKO勝利で、年末特番が盛り上がったのはボクシング界としてはよかった。ただ、最高の日本人対決といえるかどうかはかなり疑問。辰吉・薬師寺とか、畑山・坂本の方がもっとスリリングで、白熱したと記憶している。
井岡は自分自身を伝説などと称して、若い頃から弱い相手とばかり戦ってきた印象があるが、アムナットやニエテスなど強豪チャンピオンと戦い、八重樫やレベコ、アロヨといった一流選手を退けてきた。31歳の年齢に見合う経験は積んでいるのである。
加えて、高校時代からのジムメイトであった中谷正義が、ラスベガスでベルデホをKOして世界に名を売ったのもかなりの刺激になった。年齢的により厳しい軽量級ではあるが、中谷があれだけやるなら自分もと思ったに違いないのである。
いつの間にかタトゥーを大っぴらに見せるようになったのはどうなのかと思わないでもないが、世界的には驚くには当たらない。TBSが視聴者からの問い合わせにどう答えるかだけが課題であろう。
一方の田中。木村翔や田口と戦ってはいるものの、複数階級の一流選手と拳を交えてきたとはいえない。ディフェンスの課題も、ほとんど改善されていなかった。世界最速四階級などという意味がないことに挑戦したツケが、回ってきたように感じられてならない。
今をときめく井上尚弥は、ハードパンチャーの側面ばかり強調されるが、ドネアの右フックまでまともにパンチをもらったことがなかった。世界何階級より先に、磨くべきはボクシングのテクニックである。
階級は一度上げてしまうと、下げるのは至難の技である。田中がシーサケットやエストラーダ、強い時のロマゴンとまともに渡り合えるような気がしないのである。
[Jan 1, 2021]
この世界戦はESPNラティーノで放送されたようです。BUEはブエノスアイレス、SCLはサンティアゴ、BOGはボゴタ、CDMXはメキシコシティ。en vivoは生中継。早朝の放送ですが、きっと楽しんでもらえたでしょう。
ウシク、ジョシュアに3-0でヘビー級制覇
WBA/IBF/WBO世界ヘビー級タイトルマッチ(2021/9/25、英国トッテナム・ホットスパー・スタジアム)
オレクサンドル・ウシク(19戦全勝13KO) O 判定(3-0) X アンソニー・ジョシュア(24勝22KO2敗)
ヘビー級ビッグマッチもDAZNで中継があるので、NFLのために支払った月1,925円で見ることができる。ありがたいことである。しばらく前にWOWOWを解約したのだけれど、コロナでビッグマッチが少なくなったのと、こうしてDAZNで放送してくれるので不便は感じない。
驚いたのは、トッテナム・ホットスパーのサッカースタジアムがほとんど満員で、レフェリーもセコンドも観客も誰もマスクをしておらず、ビールを飲みながら観戦している人もいるし密そのものであったことである。
おそらく入場に際してはワクチン証明が必要なのだろうが、いずれにせよオリ・パラを野放しで開催して感染拡大させた国とは大違いである。ベトナムではロックダウンで工場の生産が止まりいろいろな製品の供給が止まっているというし、先進国との差はこういうところに出てしまうのだろう。
そして、メインのリングアナウンサーは、ちょっと歳とってしまったマイケル・バッファーというのもうれしい。DAZN独占ではなくSky Sportsとの共同配信だったためと思われる。(マイクのロゴが違った)
ロンドンオリンピックのヘビー級とスーパーヘビー級の金メダリストは、プロのヘビー級3団体、クルーザー級4団体の統一チャンピオンとなり、ウシクがウェイトを上げて今回の対決となった。場所は再びロンドン。体重差は18.5ポンド、約8kgである。
ちなみに、ロンドンのライト級金メダルはロマチェンコ。ゾウ・シミン、ルーク・キャンベルも金。そしてミドル級の金メダルは電通所属の村田である。女子ボクシングが初採用となり、ライト級のケイティ・テイラー、ミドル級のクラレッサ・シールズが金。両者ともプロの統一王者である。
「重量級のロマチェンコ」と言われるだけあって、対格差をものともせずウシクがジョシュアの懐に入ってビッグショットを決める。早くも3Rには連打でジョシュアを下がらせた。
ただ、4R以降は私には膠着して見えた。ウシクはビッグショットを決めないと効いたように映らないのに、ジョシュアのオーバーハンドの右は単発でも効いたように見える。ウシクの左目が軽くカットしていたのは、ジャブが当たっていたということである。
ジョシュアが追ってウシクのボディを狙い、ウシクが散発的に逆襲というラウンドが続いた。いつの間にか、ジョシュアの右目がふさがっている。ウシクが右目なのはジャブだが、ジョシュアが右目なのはウシクのストレートをまともに食ったということである。
最終ラウンドウシクが攻勢をかけ、ジョシュアをダウン寸前に追い込んで試合終了のゴング。このラウンドを10-8として私の採点は114-113ウシクだが、ジャッジは最大5ポイント差でウシクのユナミナス・デシジョンとなった。
現地解説で11Rくらいから、"AJ in trouble.""AJ needs knockdown."と言っていたので、リングサイドからはウシクかなり優勢と見えていたようだ。確かに、12R終了後のジョシュアのバテ方をみると、かなりダメージがあったのは間違いない。
とはいえ、ウシクがヘビー級でどれだけやれるかというと、正直なところクエッショクマークが付く。今日はタイプの似ているジョシュアが相手で、しかも左対右というやりやすさ(ジョシュアにとってはやりにくさ)があったが、一発の重さではジョシュアに分があった。
テクニックの違いで翻弄できる相手ならヘビー級でも大丈夫だが、タイソン・フューリーのような段違いの体格とか、ワイルダーのように破壊力のある相手に対して、巧さだけでは対抗できないのがヘビー級である。
一方のジョシュア、打たれるとすぐひるむのはアンディ・ルイス第1戦と同じ。クリチコ戦では後半までスタミナが残っていたのに、最近の戦いでは後半になると息が上がってしまう。ウシクより若いのに、調整かトレーニングに問題があるのかもしれない。
オーバーハンドの右は効いていたようだし、中盤のボディも悪くなかった。数年前のジョシュアなら、追い打ちをかけて決定的な場面を作れたはずだが、それができなかったのは力が落ちているからと言わざるを得ない。
近々行われるフューリーvsワイルダー3の勝者とウシクとの対決はすぐには行われないだろうが、少なくともジョシュアの出番はなくなったようである。
[Sep 26, 2021]
ファイトマネー世界一カネロ、ビボルに歯が立たず
WBA世界ライトヘビー級タイトルマッチ(2022/5/7、米ラスベガス)
ドミトリー・ビボル O [判定 3-0] X カネロ・アルバレス
久しぶりにボクシングの話題。フィリピン大統領選に出たパッキャオの引退後、ファイトマネー世界一の男となったカネロ・アルバレスの「シンコ・デ・マヨ」(メキシコ独立記念日)恒例の試合、YouTubeにDAZNでない映像がupされていたので見ることができた。
結果的にいうと、ライトヘビーの安定王者ビボルに歯が立たない敗戦であった。私の採点では117-111ビボル。好意的に見てもあと1ラウンドがせいぜいで、115-113という接戦には全く見えなかった。
そもそも、体格的にスーパーウェルター(154ポンド)のカネロが、おそらく筋肉増強剤を使ってウェイトを上げ、ライトヘビー(175ポンド)で戦うこと自体無理がある。体格的に上の選手がジャブを使えば、至近距離から強打を決めることは難しい。
加えて、ライトヘビーで下り坂のコバレフをKOして自信満々で試合に臨んだせいか、ボクシングそのものが横着になっていた。ジャブや出入りをほとんど使わず、ボディやガードの上からでもフックを叩き込めば終わりと思っていた節がある。
事実、スーパーミドルの選手には、そうやって勝ってきた。こんなもんで倒れるのかと興ざめする思いでこれまで見てきたが、ちゃんとしたボクサーにはやっぱり通用しなかった。
スーパーミドルでも、かつてのロイ・ジョーンズとか「スーパー6」のアンドレ・ウォード、コブラ・フロッチの時代と比べて、いまのスーパーミドルのレベルは落ちている。4団体統一とか、あまり威張れることでもないように思う。
そして、少なくともメイウェザーとやる頃、20代前半までのカネロはスーパーウェルター級、骨格的には154ポンドしかないはずである。20ポンド増えたのはすべて筋肉で、パワーや耐久力は増したとしても射程距離が長くなった訳ではない。
長年ボクシングを見てきたが、複数階級制覇に意味があるのは軽量級で5階級、重量級で3階級がせいぜいである。つまり、体重差15ポンドくらいまでが増やせる限度と考えられる。パッキャオにしても、ライト級より上ではほとんどKOできていない。
今回のカネロはボクシング自体が横着で、ジャブをほとんど使わず接近してフック空振りばかりだった。クリーンヒットはほとんどなく、取ったラウンドはビボルが警戒して守りに入っただけのように見えた。
一方のビボル、主武器がワンツーストレートで一発がなく、破壊力はライトヘビーの水準以下ということでカネロ陣営は選んだのだろうが(確かに、ベデルビエフのような破壊力はない)、懐が深い上にテクニックもあり、さすがに無敗でここまで来ただけのことはある。
戦略的にもしたたかで、序盤では腰を落として一発を警戒し、中盤以降ペースを握るとフットワークを使って接近を許さなかった。クリーンヒットも全然多かったが、軽打が多くジャッジ受けはしなかったようだ。
今回の試合ではカネロのクリーンヒットをほとんど許さなかったが、同じようにボディやガード上からのフックだけでひるむ選手も多くいるのだから、耐久力も水準以上あるのだろう。
カネロ陣営としては、独立記念日に恥をかかされたので再戦ということになるのだろうが、ビボルが油断しない限り、違う結果にはならない可能性が大きい。
間違いなく言えるのは、パッキャオのようなマッチメークで人気が上がるのはパッキャオのボクシングに魅力があったからである。筋肉増強剤でパンチ力を付けても、面白がるのは地元メヒコのファンだけである。
[May 14, 2022]
井上vsドネア2 井上予告通りKOで3団体統一
WBA/WBC/IBF世界バンタム級タイトルマッチ(2022/6/7、さいたまスーパーアリーナ)
井上尚弥 O 2RTKO X ノニト・ドネア
2019年のWBSS決勝で、激闘を繰り広げた両者の再戦。年齢的にいまがピークの井上に対し、ドネアはキャリア22年の39歳。前回不用意なカウンターを受けて接戦にしてしまった井上が、どう修正してくるかが注目だと思っていた。
ベテランとはいえ、ドネアの臨戦過程は悪くない。井上弟に勝ったウーパーリを4回KO、無敗の挑戦者ギャバロをやはり4RでKOして防衛に成功している。序盤で一発決めれば、反射神経の衰えも耐久力も関係ない。
開始早々、両者ともスピード抜群破壊力十分なパンチを交換するひりひりする試合。これはどちらが勝つにしても長くかからないなと思っているうちに、1R終了10秒前に井上が右クロスカウンターでダウンを奪う。
前回は終盤、しかもボディで奪ったダウンだったが、今回は顔面である。これでほとんど勝負あった。
2Rはドネアが必死に反撃に出るところを最初は受け流して、30秒過ぎたくらいから突然ギアチェンジしてパワーパンチを打ち込む。途中の一撃でドネアがふらついていたので、ダウンしてすぐレフェリーがストップした。
全盛期のドネアは、カウンターを打たれてその上からカウンターでモンティエルをKOしている。そのドネアが反応できなかった井上のクロスカウンターは、スピードが世界水準のさらに上ということである。
試合ぶりを見ていて、彼の出世試合であるオマール・ナルバエス戦を思い出した。あの試合も2RKOで相手に試合させなかった。ジミー・レノン曰く「将来のFall of Famer(殿堂入り)」ドネアを圧倒した井上はたいしたもので、日本からこれだけの選手が出ることは私が生きている間はないであろう。
さて、この中継がAmazon Prime独占中継だったことについて少し。
もしかすると、何社かの広告主とメディアが参加しないと収支が成り立たないと思う人がいるかもしれないけれど、フジTVで中継しようが日テレで中継しようが、TV局も広告代理店も一銭も負担しない。払うのは広告主だけである。
だから、TV局や代理店の中抜きなしで、純粋にファイトマネーだけであれば、TV中継の広告主が払う広告料の何分の1かで試合は成り立つ。そのくらいの額は、Amazonが広告料として負担しておかしくない。(両者のファイトマネー合計2億円くらいか)
村田戦もそうだが、番組制作はフジTVがやっていた。おそらく、中継は無理でも二次使用させてくださいということでAmazonと交渉したのだろう。だから、局アナとか出演料をあまり払わなくて済みそうな面々ばかり出ていた。
ただ、回線が混んでいたのかもとの映像のレベルが悪いのか、村田戦と比べて映像が粗くてあまり見やすいものではなかった。それを補って余りある強烈KOであったのは、素晴らしいことであった。
[Jun 8, 2022]
ゴロフキンvs村田に続き、井上vsドネアもAmazon Primeの独占中継。TV地上波もBSの二の舞で、いずれ通販番組になってしまうのでしょう。
次の試合