ステイプルズセンター
ステープルズ・センターへ [Dec 4, 2007]
#1 ステイプルズ・センターへ先週の金曜日はステイプルズ・センターにボクシングを見に行ってきた。(注.発音でいうとステイプルズのはずですが、日本では通常ステープルズと表記されるので、表題だけはステープルズとしました。)
なんて書くと何だか生意気だけど、3連休に何かいいイベントはないかなあと探していたらバルガスvsマヨルガがあって、Ticketmasterですぐ席を押さえることができて、ついでにラスベガスに寄ってくることにしてエアも押さえて、ロスとLV合計4泊分のホテルも取って、全部インターネットで事が足りてしまった。いまだに後楽園ホールの席はインターネットで押さえられないのだから、国内よりよっぽど便利である。
11月23日は勤労感謝の日。奥さんに車で成田空港まで送ってもらって第1ターミナルへ。日本時間で3時15分発のNW2、NRT-LAXである。ノースウエストは安く座席指定ができるのでとてもいいのだが、半面、JALや全日空と違って個別のディスプレイがない上、機内食も大変においしくなくて、アルコール類も有料というデメリットがある。
だから前回の遠征からポータブルDVDを持っていくことにしていて、往路の上映番組は「どろろ」「TRICK」「のだめカンタービレ」である。そして、機内食は”No, thank you.”。夕食はいったん持ってくるとなかなかトレイを下げてくれず狭くて嫌なのだが、食べなければその分広くていい。到着前の朝食はフルーツとかジュースだし、すぐ片付けてくれるのでこちらはありがたくいただいた。こうした工夫の成果で、9時間半のフライトはあまりストレスを感じない間に終わってしまったのである。
ロサンゼルス国際空港到着は現地時間の7時15分頃。しかし、入管が開くのが7時半ということでまず機内で待たされ、さらに入管の外国人窓口が二つしかなくて全然進まない。日本時間で真夜中の3時頃だから大層辛い順番待ちになってしまう。手続きが終わったのは結局9時過ぎ。着陸してから2時間近くかかってしまった。タクシーで市内へと向かう。
今回の宿はMiyako Hotel Los Angelesである。日本の都ホテルのグループということは、近鉄系列ということになる。前日から予約してあるので、まだ10時前なのだが問題なくチェックインできる。シングルルームなのにダブルベットが置いてあって、テレビもAQUOSの37型だからなかなかのものである。ただ、湯沸しと書いてあったのにコーヒーメーカーがあったのには面食らった。もちろん豆をいれずに湯沸しとしても使える。
手早くシャワーを浴びてすぐにベッドへ。すばらしく寝心地のいいベッドで、10時から2時過ぎまでぐっすり眠った。ホテルを前日から押さえた甲斐があったというものである。一階の売店で買っておいたオレンジジュースを飲んで、いよいよ出撃。ホテル前に止まっていたタクシーに乗り、10分もかからないうちにあっけなくステイプルズ・センターに着いた。
まだ3時前と早いためか(試合開始3時、メイン3試合7時~)窓口もすいていて、チケットを引き換えてくれるWill Callもすぐに分かった。予約番号の書いてあるメールとクレジットカード、パスポートを窓口に示すとちょっとだけ待ってチケットを渡された。Section101のRaw6、Seat21、ちょうど正面中ほどになる$150のアリーナ席である。
$300でリングサイド席になるのだが、この席はバスケットボールのコートに当たる部分で、リングを見上げる位置になる。それよりもリングより上の高さになるアリーナ席の方が見やすいのではないかという読みである。
実際に探して席に座ってみると、予想以上にリングに近い。アリーナ席の6列目で、その前に通路をはさんで、リングサイドも6列だから合わせて前から12列目ということになる。後楽園の階段席の一番前くらいの感覚で、高さ的にはリングよりわずかに上、これより前の列だとリングより下になってしまうというぎりぎりの位置である。そして、21番は通路側の席だった。これも私にはありがたい。
日本の世界タイトルマッチで、この位置この料金で世界一流の選手を見ることなど、とても考えられない。アンダーカードからアナウンスしているジミー・レノンJr.の声を聞きながら、ああ、来てよかったなあ、なんて幸せなんだろう。と、すごく満たされた気持ちになった。
ステイプルズ・センター。こちらは正面ではなく北側の入口になります。
#2 ローマン・カルマジンvsアレハンドロ・ガルシア
さて、この日の興行は3部構成になっていて、3時10分スタートの3試合がいわゆるアンダーカードの8回戦。これが終わるとしばらく休憩があって5時からが第二部の10回戦2試合。また休憩があって、7時からの12回戦3試合はペイ・パー・ビュー放送されるのである。
7時になると、まず頭上の大型画面にプロモーターであるドン・キングが出てきて、イラク駐留の兵士たちと一緒にこの試合を楽しみにしていますというコメントがある。そしてその後なんとブッシュ大統領のメッセージが流れると、すかさずブーイング。
女性歌手の国歌独唱があって、いよいよ12回戦の一試合目、ローマン・カルマジン(35勝22KO2敗1引分け)とアレハンドロ・ガルシア(25勝24KO2敗)のWBAインターコンチネンタル・スーパーウェルター級タイトルマッチである。
この二人、両方ともこのクラスの元チャンピオンで、カルマジンがIBFの、ガルシアがWBAの世界タイトルをかつて持っていて、今でも世界上位ランカーである。ただ、カルマジンはテクニシャンで一発がなく、ガルシアはKO率は高いものの強豪と当たると途端に決定力がなくなる。だからこの試合だけは判定だろうと思っていたら、ところがどっこい、この試合が一番早かった。
ご存知のとおり西海岸ではヒスパニック系(スペイン語圏からの移民)、特にメキシコ系ボクサーの人気が絶大である。もちろんその代表格がデラホーヤであり、この日のメインイベンターであるバルガスで、この試合のガルシアもメキシコ人である。だからガルシアの入場には場内大歓声、カルマジンの入場にはブーイングという、主役と敵役が非常に分かりやすい顔合わせであった。
しかし、世界的名トレーナー、フレディ・ローチ(マニー・パッキャオのトレーナー)がセコンドを務めるこの日のカルマジンは、非常に出来がよかった。ガルシアの出鼻に左ジャブ、右ストレートが小気味よく決まり、そのたびに左後ろに陣取っていたロシア人のグループが「ハラショー!」「ハラショー!」の連発である。(カルマジンはロシア出身)
そして3R、またもやカルマジンの左右が決まり、さらに左フックをボディへ、右フックをアゴへと追い打ちすると、ガルシアがあっさりという感じでひざをつく。両手もついて背中を丸めた倒れ方(いわゆるorzですねw)は、どう見てもアゴではなくレバーに入った一撃が原因であった。そして、そのままカウントアウト、なんとカルマジンが3RKOで勝利を飾ったのである。
次の試合はIBF世界ウェルター級タイトルマッチ、今回楽しみにしていたチャンピオン、カーミット・シントロン(28勝26KO1敗)の登場である。挑戦者は世界ランク14位のジェシー・フェリシアーノ(15勝9KO5敗3引分け)。戦績も平凡なフェリシアーノが世界挑戦者の地位を獲得したのは、今年3月のUSBAウェルター級タイトルマッチで、その時点で20勝1敗1分けのホープ、デルヴィン・ロドリゲスを番狂わせでKOしたからであった。
それでも、なんといっても相手は強打のシントロンであり、フェリシアーノの勝ち目は薄いというのが大方の見方であった。しかし、フェリシアーノもメキシコ系、場内は大歓声である。一方、シントロンはプエルトリカン、同じヒスパニックといっても、プエルトリコ系は東海岸に多い。彼らのヒーローは、いまもフェリックス・”ティト”・トリニダードである。そして、メキシコ系とプエルトリコ系の仲は決していいということはなく、シントロンの入場はブーイングで迎えられたのであった。
アンダーカードのラウンドガール。リングと席との高低差がお分かりいただけるでしょうか?
#3 カーミット・シントロンvsジェシー・フェリシアーノ
さて、チャンピオンのシントロンは28勝のうち26がKO、つまり2試合を除きすべての試合をKOで決着させている強打者である。唯一の負けはWBOの王座統一戦で、正チャンピオンだったアントニオ・マルガリトに敗れただけ。メイウェザーですら対戦を避けたマルガリトに負けたのは、ある意味仕方がない。
私がシントロンを買うのは、彼がストレートを主武器とする強打者だからだ。かつての統一世界ヘビー級チャンピオン、レノックス・ルイスもそうだったが、ストレートの強い選手は好きである。フックを主武器とする強打者は相手に近づかなければならないが、ストレートなら相手の射程外から一気に決められるからである。
1Rのゴングが鳴り、いきなりシントロンの攻勢。長い右ストレートが2度3度と決まり、フェリシアーノの体が大きく飛ばされる。この分だと2、3Rで終わってしまいそうだ。そんな中で、列の真ん中に座っていたグループが、ラウンド途中で打ち合っているというのにビールを買いに席を立つ。
この連中はさっきからビールを再三おかわりしていて、500mlのプラスチックコップを一人5、6杯ずつ飲んでいるのだった。こうなると、通路側の席がかえってあだになる。いちいち席を立たなければならないからだ。「馬鹿野郎、終わっちまったらどうすんだよ」と思ったが、仕方がない。そもそも彼らが見たいのはメインのバルガスだけなのだ。
しかし案に相違して、試合は長引く。シントロンの長いストレートをかいくぐったフェリシアーノが、懐に入って接近戦を挑んだからである。こうなると、シントロンの長いリーチはかえって邪魔である。特にいいパンチをもらった訳ではないが、しつこく左右フックを浴びせるフェリシアーノから距離をとろうとするシントロンは、逃げているように見えなくもない。
くっつくフェリシアーノ、離れようとするシントロンの駆け引きのうちにラウンドは進み、両者かなり疲れてきた。特に、絶対有利だと言われながら倒せないシントロンは動きが鈍くなり、不利と予想されながら粘り場内の大歓声を受けるフェリシアーノは、さらに張り切って手を出し続ける。なんだかだるいファイトになり、シントロン有利ではあるが3ラウンド位はフェリシアーノに行ったかなという10Rでいきなり試合は大きく動いた。
それまで前進を続けてきたフェリシアーノが、シントロンの右を受けてこの試合初めて後退。それを見たシントロンが攻勢に出て左右の強打を連続して叩き込む。とにかく、シントロンは距離があれば強いのである。最後はガードが取れなくなったフェリシアーノを見て、レフェリーが割って入ってストップ。10Rで、シントロンのTKO勝ち。ダウンはしなかったが、明らかにストップのタイミングであった。
大苦戦後のKOがよっぽどうれしかったらしく、シントロンはリングに倒れこみパフォーマンス。おそらく、ブリッジをしようとしたのではないかと思うが(彼はレスリングの経験がある)、その途端、右手首を押さえて悶絶してしまった。どうやら、試合中か試合後かは分からないが拳を痛めたようで、すぐにトレーナーのエマニュエル・スチュアート(こちらも有名。ハーンズとかホリフィールドとか)が飛んできて、グローブを外していた。
試合後の拍手は明らかにフェリシアーノの方が大きく、これは彼がメキシカンであることだけが原因ではないだろう。それほど、前評判を覆しての健闘は光った。それでもフェリシアーノがコットやメイウェザーに通用するとは思えず、この夜明らかになったのはシントロンは接近戦に弱いということだけだったかもしれない。
さて、いよいよメインイベント、ヒスパニック系のヒーロー、フェルナンド・バルガスの登場である。
試合前の注意。後ろ手にマイクを持つジミー・レノンjr.の左がトレーナーのエマニュエル・スチュアート。金のトランクスで上を向いているのがカーミット・シントロン。
#4 フェルナンド・バルガスvsリカルド・マヨルガ
まず入場したのはリカルド・マヨルガ。ニカラグア出身の34歳、オーソドックス(右構え)のファイターである。2001年にアンドリュー・”シックス・ヘッド”・ルイスをKOしてWBA世界ウェルター級チャンピオンとなり、後にWBC世界スーパーウェルター級も制した2階級王者である。
しかし、その実績よりも彼を有名にしたのは、フェリックス・トリニダード、オスカー・デラホーヤの両スーパースターを相手に悪役キャラで渡り合い、結局KO負けしたものの結構いい勝負をしたことである。今回もバルガス相手ということで、盛大なブーイングで迎えられながら全然気にしないでパフォーマンスしているところはさすがである。
次いでフェルナンド・バルガス入場。肩車された2人の息子が掲げるチャンピオンベルトに先導され、場内全員起立のスタンディング・オベーションに迎えられてのリングインである。ヒスパニック系の米国人で29歳。
1998年に”ヨリ・ボーイ”・カンパスをKOしてIBF世界スーパーウェルター級チャンピオン、このタイトルはトリニダードに奪われるが、2001年にホセ・”シバタ”・フローレスをKOしてWBAの同級王者となった。このタイトルは今度はデラホーヤに取られている。やはりオーソドックスのファイター、ということはまともな打ち合いになる可能性がかなり大きい。
バルガス入場から試合前のセレモニーになっても、みんな立ったままである。私の後ろの席の奴が”Sit down ! Sit down !”とうるさいので座るが、前が立ったままなので見辛くて仕方がない。こういうファイトは、立って見るべきものだと思うのだか・・・。
ゴングが鳴って試合開始。ともに164ポンドと主戦場のスーパーウェルターより10ポンド(約4.5kg)も重い。しかし、マヨルガがそのウェイトでもシェイプアップされたいい体をしているのに対し、バルガスの腹回りはいかにも太い。もともと、スーパーウェルターでやっていた時も、バルガスの腹回りは決して引き締まってはいなかったのに、10ポンド上ということでさらに太めに見える。
予想されたように、マヨルガがいきなり大振りの左右フックで襲い掛かる。1年以上振りの試合とは思えないくらい、踏み込みは鋭く動きがいい。バルガスはなんとかまともにもらわずに避けるが、何度目かの接近の際にはローブローを放ってマヨルガの前進を止めようとする。マヨルガペースである。
残り1分を回ったあたりで、バルガスが後退しバランスを崩す。すかさずマヨルガが頭を押さえてはたき込み、バルガスが膝をつく。これをレフェリーがダウンと判定し、場内大ブーイングである。もちろんダメージはない。再び全員起立で場内大興奮だが、大してまともなパンチはお互いにもらっていないように見えた。
こうして2Rまでマヨルガの前進が続いたが、さすがにそれほどの体力はないので、3Rから5Rは逆にバルガスが前進。マヨルガはアゴが強いのが自慢で、ストレートをまともにもらってもひるまないのだが、効いていないとしてもポイントは相手に行ってしまう。バルガスのストレートがよく当たり、ペースはバルガスになる。
しかしマヨルガもなかなかの食わせ物である。世界タイトルもかかっておらず、一発勝負の性格が強いことから徹頭徹尾打ち合いに行くのかと思っていたら、6R以降作戦を変えてバルガスのボディを打ち始めた。完全に長期戦の構えである。バルガスは上に述べたように太め残りだったから、このマヨルガの作戦変更で急に手数が減る。6Rから8Rはマヨルガペース。
しかし大声援を受けたバルガス("メヒコ!""メヒコ!"の大コール。バルガスはいちおう米国籍)、9R、10Rと再び前進。多少疲れてきたマヨルガに連打を浴びせる。10R終わったところで、ラウンドの優劣は5対5、1Rのダウンを取られた分の1ポイントだけマヨルガ有利と思われるが、どうやら疲れているのはマヨルガ。残り2ラウンド、いよいよ面白くなりそうだ。
そして11R、前の2ラウンド休んでいたマヨルガが、機先を制して前進、右の大きなスイングを的中させる。面食らったバルガスだが、体制を立て直して逆に攻勢、今度はマヨルガが後退する。ラウンド終盤では、ともに打ち疲れたのか動きが鈍り、両者の距離が開いた。その瞬間、いきなりという感じでマヨルガが右ストレート。バルガスはすとん、と尻餅をついた。決定的なダウンである。
12Rはマヨルガが打ち合いを避け、完全にカウンター狙い。そのまま試合終了。私の採点では114-112マヨルガだったが、ジャッジも一人が114-112、あとの二人は115-111、113-113と、2-0のマジョリティ・デシジョンでマヨルガの判定勝ちという結果となった。
この結果は、両者の実力差というよりも、引退試合として最後まで打ち合いたかったバルガスと、まだまだビッグマッチのチャンスがあるので負けたくないマヨルガの、勝負に対する執着心の差だったような気がする。そうでなければ、マヨルガのボディ狙いなど、そうそう見られるものではない。
試合が終わったのは午後10時過ぎ。帰りは地下鉄を探そうかとも思っていたのだが、時間も遅いしそもそもどこが地下鉄の入口なのか分からなかったので、はす向かいにあるホリディインまで歩き、そこでタクシーを拾った。あんなにみんなビールを飲んでいたのに、なぜか駐車場のビルの方に歩いていくのがちょっと不思議なステイプルズセンターだった。(完)
[Dec 4, 2007]
勝利の雄たけびを上げるマヨルガ
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