昔いただいた初段免状。大山・中原時代・・・。
第94期棋聖戦   第71期王座戦   第36期竜王戦、挑戦者は
第64期王位戦   藤井王座奪取で全冠制覇
  

第94期棋聖戦、藤井棋聖4連覇!!

第94期棋聖戦五番勝負(2023/6/5-7/18)
藤井聡太棋聖 3-1 佐々木大地七段

タイトル初挑戦の佐々木大地七段が、返す刀で王位戦の挑戦権を獲得して十二番勝負となった第94期棋聖戦だが、大舞台の経験の差もあって藤井棋聖が3-1で防衛、これで棋聖4連覇を果たすとともに、タイトル戦及び番勝負の無敗記録を伸ばした。

佐々木七段はこのところ絶好調で、先手番では今年になってほとんど負けていない。得意戦法の相掛かりでは藤井棋聖にも引けをとらないと期待されたのだが、まず王位戦第2局を先手番で敗れ、次いで棋聖戦第4局も先手番を生かすことができなかった。

何しろ藤井王位は、番勝負でカド番になったことは豊島九段相手に一度しかない。棋聖戦第4局でも、難解な中盤戦で藤井棋聖が劣勢を意識したときの仕草がみられたのだが、勝負手連発で最後は逆転勝利、防衛を果たした。

ダブルタイトル戦が始まる時点で、両者の対戦成績は2-2の五分。それが棋聖戦決着まで7-3に開いたのだから、藤井棋聖の普段の勝率8割に近づいたということなのだが、中盤以降ずっと優勢というこれまでのタイトル戦とは少し違っていた。

特に相掛かりになると、さすがに佐々木七段の研究が深く、そう簡単に決め手を与えない。相掛かり自体1手違いになりやすい戦法なので、わずかな違いが終盤まで響くことになる。

第4局でも、AI評価値では佐々木七段が90%超という局面もあった。ただ、ここでも最善手以外を指すと大きく評価値が変動することになっていて、実際次の1手で逆転した。

アベマ解説を森内九段と八代七段がやっていたのだが、2人ともついていけてなかったので、プロが見ても難しい局面だったのだろう。その直前に藤井棋聖がAI推奨でない手を指して勝負をかけてきたので、解説者を含めて幻惑されたのかもしれない。

藤井棋聖は、よく知られるように詰将棋の速さと正確性ではプロ棋士中でも他の追随を許さない。持ち時間が少なくてもお互いの詰む詰まないは計算していたはずで、おそらく、普通に指していたら一手負けと思っていたのだろう。

佐々木七段はどちらかというと受けの棋風であり、今回の番勝負でもあえて藤井棋聖に手番を渡す場面が何度かみられた。受けに自信がないとできないことだし、実際途中までリードすることもあったから計算どおりだっただろう。

しかし、攻めについては藤井棋聖の方が一枚二枚上であった。まだ王位戦の決着がついていないので断言できないが、今回はそのあたりで差が出たといえる。

逆にいうと、佐々木七段の課題はそこにあって、順位戦で上位クラスに上がるには優勢の将棋を確実に勝ちにつなげる攻めをさらに磨く必要がありそうだ。

[Jul 19, 2023]

第94期棋聖戦五番勝負第3局。どの戦法も指しこなす藤井棋聖だが、もっとも得意とするのが角換わり。先手番の第3局、佐々木七段が右玉に構えたのに対し、すかさず▲9七桂とハネて主導権を奪った。



第71期王座戦、藤井七冠が全冠制覇に挑戦

第71期王座戦挑戦者決定戦(2023/8/4)
藤井聡太七冠 O - X 豊島将之九段

王座戦は、将棋界のオールスター戦である。持ち時間は順位戦、竜王戦に次いで長く、タイトル保持者は本戦シードなので勝ち上がり有利である。しかし、藤井七冠はこれまで挑戦どころかトーナメント序盤で敗れてきた。

第68期二次予選で大橋六段(当時)に敗れて本戦出場も果たせなかったのをはじめ、第69期には深浦九段に、第70期には再び大橋六段に本戦一回戦で敗退し、その間永瀬王座が防衛を重ねた。

今回のトーナメントは、名人を奪取した藤井七冠に全冠制覇が、かたや永瀬王座には永世王座が懸かる。展開が注目されたが、藤井七冠は今年も序盤であわやの場面があった。

一回戦で中川八段を下し、二回戦が村田顕弘六段である。相掛かりでは村田システムと呼ばれる必殺技を持つが、さすがに藤井七冠相手は厳しいと思われた。

ところがトーナメントの一発勝負では何が起こるか分からない。終盤まで先手・村田六段が一手勝ちの形勢を維持、藤井七冠チェスクロック5時間を使い果たして一分将棋。村田六段も残り時間6分。ここで藤井七冠が勝負手を放つ。

先手陣に詰みはなく、後手は詰めろがかかっているので解除しなくてはならない。ここで6三の銀を△6四銀と立ったのである。普通に受けていたら一手負け。しかし、この銀を角で取れば先手は詰みである。

結局自陣に手を入れなければならず、その後はお互い1分将棋になって最後は逆転、藤井七冠が最大のピンチを脱した。さらに準決勝で羽生九段を下し、初の挑戦者決定戦進出となった。

もう一つの山は渡辺・豊島の名人経験者対決。本田奎、斎藤慎太郎とタイトル挑戦者・経験者を連破した豊島九段が渡辺前名人を破って決勝進出を果たした。

豊島九段は竜王名人から無冠となった後もコンスタントに勝っており、前期王座戦の挑戦者でもあった。タイトル奪回にはいずれにしても藤井七冠の壁を突破しなければならない。

挑戦者決定戦は8月4日。例年よりやや遅れたのは、藤井七冠が勝ち残った上に王位戦・棋聖戦のダブルタイトル戦でスケジュールに空きがほとんどなかったからである。

振り駒で藤井七冠が先手。後手の豊島九段が角交換を拒否して雁木に組む。終盤まで互角の展開で夜戦へ。

ここから予想外の展開となる。チェスクロック5時間を使い切り、両者1分将棋。1分では読み切れない難しい局面となり、ともにミスがあって形勢は二転三転する。

AIでは豊島九段が余していたのだが両者ともその手順に気づかず、最後は藤井七冠が押し切り、初の王座戦挑戦。あわせて全冠制覇に挑戦することとなった。

最後は指運が大きな比重を占めたが、運も実力のうち。いまだ番勝負無敗の続く藤井七冠の全冠制覇は目前といっていい。

永世(名誉)称号の懸かる永瀬王座に勝たせたいファンもいるだろうが、チャンスに後ろ髪はないという例えもある。30年前に羽生が全冠制覇した頃(当時は七冠)、このまま大山・中原に続く長期政権になるのは確実と思われた。

ところが、同世代のライバル森内、佐藤康光とタイトルを獲ったり獲られたりし、年少の渡辺明には竜王の長期政権を許した。いまは無敵の藤井七冠だが、数年後はどうなるか分からない。

藤井全冠制覇は8割方成ると予想するが、獲れるときに獲っておかないと次のチャンスは来ないかもしれない。王座戦五番勝負はかなりの注目を集めることになるだろう。

[Aug 5, 2023]

第71期王座戦決勝トーナメント二回戦。村田六段が角道を開けない「村田システム」でリードを奪うも、△6四銀が勝負手。角で銀を取ると▲5九金△同玉▲5七香以下先手が詰むので取れない。お互い1分将棋となり、最後は藤井七冠が逆転した。



第36期竜王戦、伊藤匠が5組から勝ち上がり挑戦

第36期竜王戦挑戦者決定戦(2023/7/31-8/14)
伊藤匠六段 2-0 永瀬拓矢王座

決勝トーナメント展望記事で「豊島九段本命、永瀬王座対抗、単穴稲葉八段というところだが、伊藤匠・出口戦の勝者が台風の目」と書いた。永瀬王座は予想どおりだったが、伊藤匠六段が5連勝で挑戦者決定戦に進んだのには少しびっくりした。

1組勢の広瀬八段、丸山九段、稲葉八段に、危ない場面はあったものの序盤から五分以上にわたりあった。5組・6組優勝者が挑戦者決定三番勝負に進むのは竜王戦の歴史ではじめてである。

そして、挑戦者決定三番勝負で永瀬王座に連勝して挑戦権獲得。これまでランキング戦からの挑戦は4組の渡辺明五段がもっとも下位だったが、伊藤匠はこれを更新し、あわせて七段に昇段した。

藤井竜王、伊藤七段ともに2002年生まれで、第1局時点で21歳対20歳は、過去最年少のタイトル戦対戦となる。

伊藤六段のトーナメント勝ち上がりはたまたまではなく、研究の深い裏付けを感じさせた。広瀬八段戦は序盤からほとんど隙がなく、丸山九段戦は角換わりから勝ち切った。

稲葉八段戦、永瀬王座戦は苦しい場面もあったが、いずれも序盤から趣向をみせて自分の研究範囲に持ち込もうという意欲がみられた。

藤井七冠と比較すると、序盤は藤井七冠がオーソドックスな印象があるのに対し、伊藤六段は早くから動くことが多い。動いた結果すぐに優勢にはならないのだが、どこかで逆転可能な局面に誘導する。

藤井七冠相手に一度優勢を許すと、持ち時間が切迫しない限り逆転するのは困難である。特にタイトル戦の番勝負は竜王戦はじめストップウォッチが多いので、藤井七冠はここ数年、意識的に持ち時間に余裕を作ることが多い。

そうした点を勘案すると、現時点では藤井竜王有利と予想するのが妥当だが、藤井竜王にとって同年配以下の挑戦者を迎えるのは初めてである。両者とも感覚も若いし、AIを利用した研究にも長けている。

そして、伊藤六段にとって、タイトルを獲得するには藤井七冠の壁を破らないことにはどうにもならない。当然、対藤井対策も練って来るだろうし、どこかで勝たなければならないと考えるだろう。

その意味で、勝敗はもちろんだが、伊藤新七段がどういう作戦で対抗するかに注目したい。

[Aug 15, 2023]

第36期竜王戦挑戦者決定三番勝負第2局。第1局を先勝した伊藤六段、右辺で竜とと金を作られてやや苦しいかと思われたが、△6七銀から先手陣に殺到。この後二転三転したが連勝して挑戦権を獲得した。



第64期王位戦、藤井王位4-1で4連覇

第64期王位戦七番勝負(2023/7/7-8/23)
藤井聡太王位 4-1 佐々木大地七段

棋聖戦に続く藤井七冠・佐々木大地の十二番勝負は7-2で藤井王位・棋聖が防衛に成功したが、スコアほど圧倒した訳ではなく、佐々木挑戦者も健闘したといっていいと思う。

スコアが大きく開いたのは、藤井王位・棋聖が先手番で5-0と圧倒したからで、後手番に限ると2-2だから五分である。いまの藤井七冠に、先手番を引いたとしても半分勝てる棋士はほとんどいない。

その意味では、両棋戦とも振り駒で第1局の先手番を取られたのは痛かったが、それでも先手番なら勝率5割だからたいしたものである。そして、敗れた後手番の戦いでも、あと一歩まで迫った戦いがいくつかあった。

だから、藤井七冠も対戦前のインタビューで、「課題は後手番」と答えていた。相掛かりでは乱戦になりやすく終盤まで一手違いというケースが少なくない。AIの評価値では差がついても、一手違いなので間違えればすぐに逆転する。

さて、藤井王位が先手番となった王位戦第1局、横歩取りから難解な中盤戦となったが、初日は後手やや指しやすいという意見が多かった。

ところが、佐々木玉が銀冠に入城したところですかさず▲3五歩。金で取ると▲4四銀と出て金取りと▲5三歩成の両狙いとなる。このあたりで逆転して藤井王位が幸先よく1勝をあげた。

このまま第3局まで連勝して防衛は9割方決まった。藤井王位の生涯戦績は8割を超えており、3連敗したことは一度もない。同じ相手に3連敗したのも、デビュー当時に豊島竜王名人(当時)だけである。

佐々木七段も第4局の先手番で一矢報いたものの、第5局で敗れて1勝4敗でシリーズ終了となった。これで藤井王位は早くも4連覇となり、来期早くも永世王位が懸かる。

月末から始まる王座戦で、藤井七冠は羽生以来の全冠制覇が懸かる。もちろん永瀬王座は棋界最強の実力者の一人だが、いまの藤井七冠相手ではさすがに分が悪い。

永瀬王座が勝利を最優先に考えるのであれば、後手番では徹底して千日手狙い、先手番で用意した作戦をぶつける他ないように思えるが、さすがに千日手狙いは美学に反するかもしれない。

そして佐々木七段。数年前から次にタイトル戦に登場するのは佐々木大地だろうと思っていたが、本田奎、出口若武に先を越されたものの、佐々木勇気、増田、近藤誠也といった若手ライバルより早くタイトル戦に登場した。

ただ、問題は順位戦に相性が悪く、いまだC級2組にとどまっていることである。奨励会時代からここ一番に弱く、三段リーグも次点2回でプロ入りしているが、順位戦でもこの一戦に勝てばという場面を何度か落としている。

得意戦法である相掛かりのコインの両面で、一手違いになるのは自分にとってもリスクと隣り合わせということだが、勝率7割でトーナメントだと負けないのだから、いつまでもこのままではいられない。

気が付いたらあのダブル挑戦の時がピークだったとならないよう、さらなる精進を期待したい。

[Aug 25, 2023]

第64期王位戦第1局、佐々木七段チャンスかと思われたが、藤井王位が▲3五歩から巻き返し先勝、そのまま第3局まで連勝して優位に立った。



第71期王座戦 藤井タイトル奪取で全冠制覇

第71期王座戦五番勝負(2023/8/31-10/11)
藤井聡太竜王名人 3-1 永瀬拓矢王座

永瀬王座に永世称号(名誉王座)、藤井竜王名人に全冠制覇が懸かるタイトル戦であったが、第3局、第4局とも1分将棋の最終盤で永瀬王座にミスが出た。

「たられば」はないけれども、もし永瀬王座に指運があれば対藤井竜王名人に初の番勝負勝利があっただろう。控室でもすでに検討が終わっていたらしいから、惜しいシリーズであった。もちろん、両者同じ条件なので文句はいえない。

タイトル戦でも和服を着ない永瀬王座には珍しく、今回の防衛戦では全局和服で通した。着慣れて集中を乱すことがなくなったのか、あるいはそれだけ気合がはいっていたのだろうか。

最近の藤井竜王名人は序盤から隙がなく、先後を問わず、どの場面であっても劣勢となることはほとんどない。しかし今シリーズは永瀬王座のペースで進み、インタビューでも「内容的には押されている」と答えていたくらいである。

実際、Abema解説でも、この変化だと永瀬王座と指摘されていた。大勢が気楽に検討する控室と対局者は別だけれども、少なくとも第3局での飛車の合い駒は角打ちで逆転が見えており、1分将棋でなければ指されなかっただろう。

これで藤井竜王名人は、羽生以来約30年ぶりの全冠制覇となり、すべての棋戦で上座に着くこととなる。ここまで番勝負無敗・タイトル戦無敗が続いており、これがどこまで続くのかたいへん興味深い。

今後を大胆に予想すれば、持ち時間が長くストップウォッチ採用となる竜王、名人、王位、王将の4冠は十連覇くらいまで楽に続きそうだ。大山十五世、中原十六世の全盛期のように、無敵の進撃がしばらく続くだろう。

現在の上位棋士相手で番勝負を落とすことがあるとすれば1日制のチェスクロックで、今回の王座戦でも苦しい場面が続いた。1分あれば30秒将棋と違ってかなり読めるとは言われるが、そう簡単なものではない。

そして、最終盤の読みの速さと正確性において、藤井竜王名人に並ぶ棋士がいないのも確かである。序中盤の研究勝負で優勢に立ったとしても、必ず逆転の種を蒔いているのが藤井将棋である。

とはいえ、まだ奨励会にも入っていない若い世代が出てきた場合、彼らはAIを使った研究にも長けているので、藤井八冠も油断できない。昔と違って年齢を重ねたことによる経験値は、重要でなくなっているのである。

藤井八冠が羽生九段の年齢になるまであと30年。大山十五世名人のように長期安定政権を築くのか、あるいは次々と新星が現われて藤井竜王名人を脅かすのか。見届けるには私の寿命が足りないもしれない。

[Oct 12, 2023]

第71期王座戦五番勝負第3局。中盤から優勢だった後手番・永瀬王座だが、▲2一飛の王手に△4一飛が失着。すかさず▲6五角と金の両取りで逆転。△3一歩を解説陣は予想しており、難しいものの勝勢だった。



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