昔いただいた初段免状。大山・中原時代・・・。

第72期王将戦   第81期順位戦   第8期叡王戦、挑戦者は
第48期棋王戦、藤井竜王六冠達成   第94期棋聖戦、挑戦者は   第64期王位戦、挑戦者は
第8期叡王戦   第81期名人戦、藤井聡太竜王名人・七冠に   第36期竜王戦決勝トーナメント


第72期王将戦七番勝負・藤井王将4-2で初防衛

第72期王将戦七番勝負(2023/1/8-3/12)
藤井聡太王将 4-2 羽生善治九段

今回の王将戦、レジェンド羽生永世七冠とのおそらく最後の七番勝負である。しかも二日制の長丁場ということで、藤井王将はなぜ羽生九段が99ものタイトルを獲れたのか、確かめたい気持ちがあったのではないかと思う。

というのは、第二局や第四局の指し方は、どうみても勝利を最優先にしたものではなかったからである。相撲に例えると、左四つの力士があえて相手十分の右四つに組ませ、巻き替えもせず相手の土俵で戦ったように見えたからである。

そして、七番勝負を通じて、羽生九段の読みにない手をあえて指した。これは、羽生九段が著書で「可能性のある手をすべて読むことはできない。2、3手に絞って深く読む」という趣旨のことを述べていたからだと思う。

相手が読んでいない手はAIの選択肢の中でも上位ではなく、指した瞬間評価値が急激に下がる。しかし、AIが数億手読んでいるうちに評価値が戻って来る。藤井竜王がそれだけ深く研究しているということである。

藤井竜王・王将がおそらくいま考えているのは、自分得意の形に持ち込んで勝つのは当り前。相手の土俵でも勝てなければ長期政権はありえないということである。

そして、AIを研究に使っていれば、いま現在定跡として確立している手から外れなければ、AI並みには勝てないと感じているはずである。

これまでタイトル戦線で活躍した棋士達がどういう将棋を指すのかは見当がつく。それよりも、これから出てくる未来の棋士達が、AIを研究素材にどのような将棋を組み立ててくるのか、藤井竜王・王将の関心はそこにあると思う。

現時点では、AI同士の対局のようなノーガードの打ち合いになる将棋は人間には指せないが、もしかするとそれを指しこなす棋士が現れるかもしれない。藤井竜王・王将はそこまで考えているのではないだろうか。

※ 王将戦ガイドラインにより、途中図の掲載はできません。

第72期王将戦は、藤井王将が4勝2敗で初防衛を果たした。レジェンド羽生を挑戦者に迎え、藤井王将はあえて最善手でない、読みを外す手を指していたように思える。


第81期順位戦終了 藤井竜王、名人挑戦

今期の順位戦は藤井竜王がA級に昇級し、名人まで突っ走るかどうか注目されたが、そう簡単に問屋は卸さなかった。

序盤で菅井八段に一敗、第8局で永瀬王座に二敗目を喫し、3月2日の一斉対局で稲葉八段に勝って7勝2敗としたものの、同じく7勝2敗の広瀬八段とのプレーオフとなった。

プレーオフは最終戦から6日後の3月8日。藤井竜王は王将戦、棋王戦のダブルタイトル戦に加え、朝日杯、NHK杯そして順位戦と2月下旬からのスケジュールが半端なくきつい。週末の棋王戦でも、1分将棋で即詰みを逃すという負け方だった。

このプレーオフも準備期間がほとんどなく影響が心配されたが、幸い振り駒で先手を引き、戦い慣れた角換わりに誘導できた。広瀬八段も奇策を用いず堂々と受けて立ち、攻め合いでお互いの玉に肉薄する激戦を制して藤井竜王が挑戦権を獲得した。

3月末にかけて王将戦・棋王戦の終盤で、4月5日から早速名人戦七番勝負が始まる。渡辺名人とは棋王戦からの十二番勝負となり、もし両タイトル奪取なれば羽生七冠以来の七冠制覇となる。ただし、叡王戦とのダブルタイトル戦でスケジュールは楽にならない。

降級は最終局前に確定していて、佐藤会長九段と糸谷八段。会長の降級によりA級棋士のすべてが20代と30代、渡辺名人も39歳なのですべて30代以下ということになった。これはA級はじまって以来だそうである。

かつてのように、長年の経験とかインサイドワークが勝敗を左右するのではなく、AIを活用した事前研究と最新知識が勝利に直結する時代である。40代以上の棋士が復権するのは、かなり難しそうである。

B級1組は昇級者が最終戦まで決まらない激戦となったが、佐々木勇気、中村太地の両若手が初A級・八段昇段を手にした。

佐々木勇気七段は昨年も昇級戦線で健闘したが、惜しくも5位にとどまった。今年はこの順位が効いて最終戦で自力昇級可能であったが、屋敷九段との激戦を制し9勝3敗で昇級・昇段を決めた。

2010年四段の28歳と相当出世が早いが、藤井竜王がいるので目立たないのは気の毒である。その藤井がプロ入り初黒星を喫したのが佐々木勇気であった。今期NHK杯でも決勝に進出し、対藤井竜王戦である。

中村太地はご存じ元王座。その王座タイトルを獲った羽生九段相手の最終戦を落としたが、澤田七段の黒星で昇級・昇段を果たした。ただ、9勝3敗は例年であれば楽勝で昇級できる星で、今年はレベルが高かった。米長門下では先崎九段以来久々のA級棋士となる。

降級は郷田、丸山が決まっていたが、最終局で久保九段が敗れ降級となった。3者とも元タイトル保持者で九段の大ベテランであるが、残念ながら今期は星が伸びなかった。B級2組が、B1に代わって新たな鬼の住処となりつつあるようだ。

B級2組からB1への昇級者は2月中に3名とも確定した。増田六段、大橋六段と木村九段である。増田、大橋は昇級・昇段となった。

増田新七段は藤井竜王が四段になるまでの最年少棋士だし、大橋新七段は藤井と同期の四段昇段。ともに、将来を嘱望される新鋭である。大橋はこれでC1からB1まで3年連続昇級。強豪ぞろいのB1で、両者ともどのように戦うか注目である。

木村九段は最終局の相手だった中田八段の死去により8勝2敗が確定し、順位1位が効いて1期でのB1復帰となった。昇級した2名だけでなく若手の進出が著しいB1だが、磨き上げられた実力に衰えのないことを示してほしいものである。

C級1組は最終局まで昇級者が決まらないハイレベルの激戦となった。自力昇級のかかっていた石井六段、青嶋六段がそれぞれ勝ってB2昇級を決めたが、9連勝の伊藤匠五段が敗れ、4・5番手の直接対決となった対都成戦を制した渡辺和史五段の連続昇級となった。

石井健太郎六段は2014年デビュー。C2は5期、C1を4期で勝ち上がった。C2でもC1でも7勝~8勝をあげて、惜しいところで昇級を逃すケースが多かった。今年は3位と高順位で、第7局で黒田五段、第8局で出口六段というライバルを下した星が大きかった。

青嶋六段は2015年四段昇段。C2を1期で通過したものの、C1通過に6年を要した。毎年勝ち星が先行するものの、強力な昇級候補が全勝に近い成績をとるので遅れをとっていた。前期からの昇級枠増がプラスに働いた。

渡辺和史五段は昨年のC2でも9勝1敗で伊藤五段と相星だったが、今年も同じ9勝1敗、順位の差で昇級・六段昇段となった。2019年四段で、毎年のように勝数・勝率ランキング上位に顔を出している。特に順位戦の相性がいいようで、最近は昇級・昇段となるケースはそれほど多くはない。

伊藤匠五段は最終戦を落とし、惜しいところで連続昇級を逸した。とはいえ、C1頭ハネは藤井竜王でさえ喫したくらいで、悲観するに及ばない。王位戦リーグ入りや棋王戦ベスト4など他棋戦でも勝ちまくっており、来期は順位もよく昇級候補筆頭だろう。

C級2組は、昨年惜しいチャンスを逃した服部五段と、いつも昇段候補の斎藤明日斗五段が序盤から突っ走り、第8局まで8連勝で2月までに昇級を確定した。残り1枠は昇級候補が2月に揃って敗れ混とんとしたが、古賀悠聖四段が最終戦に勝って9勝1敗で逃げ切り、順位戦初年度で昇級昇段を果たした。

服部五段、斎藤明日斗五段は他棋戦でも活躍し対局数・勝ち数ランキングでも例年上位に顔を見せる存在で多言を要さないが、古賀新五段は2020年フリークラスで四段デビュー。

三段リーグ次点2回や編入試験でフリークラスのプロ入りとなった棋士は何人かいるが、順位戦C1に昇級したのは古賀新五段が初である(花村元司九段を除く)。佐々木大地七段が何度も惜しいところで昇級を逃している間に先を越したことになる。

もっとも、古賀新五段が四段昇段を決めたのは19歳だから、権利を行使しなくてもいずれ昇段したものとみられる(佐藤天彦九段も次点2回だが行使しなかった)。ランキング上位にも顔をみせているので、当然さらに上をめざすことになるだろう。

[Mar 15, 2023]

第71期A級順位戦プレーオフ。先手となった藤井竜王が角換わりに誘導、お互いの玉に肉薄する攻め合いとなったが、この局面で7四金を馬で取ると後手玉が詰んでしまう。競り合いを制して藤井竜王がA級1期目で名人挑戦となった。


叡王戦、挑戦者は菅井八段

第8期叡王戦挑戦者決定戦(2023/3/16)
菅井竜也八段  O - X 永瀬拓矢王座

Dwangoの提供した巨額の契約金で、棋界第3位の格式でタイトル戦となった叡王戦だが、Dwangoの撤退により七番勝負から五番勝負、変動持ち時間廃止、本戦トーナメントも24名から16名に減員となった。

今後、どのような性格のタイトルとなっていくか注目だが、とりあえず何十万円かで藤井竜王の対局を直に見られる特典があるのはリッチなファンにとってうれしいだろう。せっかくなら「見届け人」を抽選ではなくオークションにすれば、将棋連盟の安定収入となるような気がするが。

それはともかく、この棋戦の特徴は前年度ベスト4に入らなければタイトル保持者といえども予選スタートとなることである。予選はチェスクロック1時間の早指しで、実力通りに決まるとは限らない。組み合せの有利不利もある。

今期も、前期ベスト4の出口、服部、佐藤天、船江が本戦シードで、残り12名が段位別予選からの勝ち上がりとなった。その九段戦で、渡辺名人と豊島九段が敗退し、結果16名のうちタイトル保持者は永瀬王座一人になった。

ベスト4は前回と総入れ替えとなり、永瀬王座と菅井八段、山崎八段、本田五段である。いずれもタイトル戦登場実績があり、山崎八段は第1期の叡王(タイトル戦昇格前)、永瀬王座は第4期の叡王である。

準決勝第1局は菅井八段対本田五段。本割は双方穴熊から千日手となり、指し直し局で先手となった菅井八段が三間飛車から穴熊に組む。こうなると経験の差が物を言い、じりじりと差を広げた菅井八段が見事に1手勝ちをおさめた。

第2局は永瀬王座対山崎八段。先手を引いた山崎八段が、相掛かりから力戦に持ち込もうとするところ、永瀬王座は手堅く受けて仕掛けを許さない。銀が上ずったところを鮮やかに逆襲を決めて快勝した。

永瀬・菅井の決勝は三番勝負だった第4期以来。ここを2-1で勝った永瀬七段(当時)が、高見叡王をストレートで下して初タイトルを手にしたのである。

再び長手数の激戦が予想されたが、ゴキゲン中飛車から5筋をへこませた後手の菅井八段が主導権を奪う。永瀬王座は地下鉄飛車で対抗するも、右辺に取り残された金を引き付ける間に菅井八段が速攻、飛車と銀香交換の2枚換えを果たす。

こうなると振り飛車ペース。永瀬王座は1筋から逆襲するも、香車を連打した菅井八段の守りが堅い。1筋の制空権を制した菅井八段がミスなく寄せて永瀬王座投了、菅井八段が藤井叡王への挑戦権を獲得した。

藤井叡王はこれまで番勝負無敗だが、純粋な振り飛車党との対戦は初。今期A級順位戦でも菅井八段が勝ち星をあげており、名人戦とのダブルタイトル戦で藤井叡王の準備時間が十分とれないと、思わぬ混戦となるケースもありうる。

そして、五番勝負はチェスクロック4時間・切れれば1分将棋である。タイトル戦の中でも、波乱の起きやすいシチュエーションである。菅井八段にとって王位失冠以来のタイトル戦、気合の入った戦いが予想される。

[Mar 17, 2023]

第8期叡王戦挑戦者決定戦。中飛車の対抗形となったが、5筋をへこまることに成功した菅井八段が主導権を握る。永瀬王座が4八にいた金を4九に下げ、玉近くに移動させる間に1筋から速攻をかけた。


第48期棋王戦、藤井竜王六冠達成

第48期棋王戦五番勝負(2023/2/5-3/19)
藤井聡太竜王 3-1 渡辺明名人

第48期棋王戦五番勝負は予想通り藤井竜王が3-1で勝利、渡辺棋王の長期政権に終止符を打った。藤井竜王はこれで6冠達成となり、完全制覇に残すは名人・王座の2冠のみとなった。

番勝負負けなしの中には、渡辺名人・棋王とのタイトル戦も含まれる。誰にも負けていないのだから渡辺棋王にも負けていないが、それにしても豊島・永瀬と比べると土俵の割り方があっけないという印象があった。

しかし、今回の棋王戦では、勝敗は別として熱戦が多かった。第3局は終盤に入って形勢が二転三転したし、第4局は1分将棋になるまで評価値に大きな差がつかなかった。これをどうみるかである。

渡辺名人に好意的にみれば、対藤井戦略が徐々に整ってきて、勝負できる局面までもってくることが可能になったということになる。

五番勝負を通じて、これまでのように中盤早々に藤井優勢という状況が少なくなり、1手違いでお互いミスが許されないところまで差を縮めてきたようにみえる。そしてその状況で1分将棋となれば、藤井竜王といえどもミスはするのである(下図)。

逆に藤井竜王寄りにみれば、持ち時間の少ない1日制だからそうなったので、2日制で時間があればそこまで追い込まれることはないということになる。

藤井竜王はタイムマネージメントが巧みで、かつて1分将棋で広瀬八段に即詰みを食らってから、できるだけ持ち時間を残すようにしてきた。今回も、最終第4局で最後の1分まで使わず、ここぞという場面で読みをいれて決めた。

両者とも、念頭にあるのは目の前の1局ではなく来月から始まる名人戦である。注目度は棋王戦よりも上だし、マスコミも過熱してくるだろう。

渡辺名人としては、何とか打倒藤井の糸口をみつけたかった棋王戦だが、おそらく本人としては手ごたえを感じているだろう。逆に藤井竜王としては、今回の苦戦を教訓に、さらに工夫を重ねてくるに違いない。

藤井竜王の番勝負不敗がつづくのか、渡辺名人の逆襲なるのか、答えはまもなく始まる名人戦で出る。

[Mar 19, 2023]

第48期棋王戦五番勝負第3局。今後長らく語り草になりそうな藤井竜王の詰み逃し。▲2五歩で詰みと解説陣も指摘していたが、▲2六飛と走り再逆転。お互い1分将棋で、数手前に逆転した局面だったからやむを得ないところか。


第94期棋聖戦、挑戦者は佐々木大地七段

第94期棋聖戦挑戦者決定戦(2023/4/24)
佐々木大地七段 O - X 永瀬拓矢王座

棋聖戦の挑戦者決定戦はゴールデンウィーク前に行われるのが通例である。今期は準決勝が4月20日だったのでゆっくりだなと思っていたら、中3日で24日月曜日に決勝が組まれた。渡辺名人が準決勝まで残っていたので、日程的に厳しかったのだろう。

今期のベスト4は昨年ベスト4のうち3人が残った。渡辺名人、永瀬王座と佐々木大地七段である。あと1人は今年A級に昇級昇段して波に乗る佐々木勇気八段。準決勝は渡辺vs大地、永瀬vs勇気の対戦となった。

勝ち上がったのは永瀬王座と大地七段。永瀬王座は対藤井竜王には相性が悪いが、他の棋士相手には勝ちまくっており、昨年度の成績は37勝19敗とほぼ2勝1敗ペースである。

一方の佐々木七段。棋聖戦も連続ベスト4、王位戦も何度かリーグ残留しており、棋王戦でも挑戦者決定戦まで駒を進めているが、まだタイトル挑戦はない。本田五段、出口五段といった後輩棋士に先を越されているが、ここは勝ってタイトル初挑戦したいところだ。

振り駒の結果、佐々木七段の先手。得意の相掛かりから、飛車先交換に▲7七金と受けて趣向をみせる。金を三段目に出て受けるのは藤井竜王も何局か指しており、流行しつつある戦型である。

そして下図となる。ここまで攻撃の陣形は双方ほぼ変わらないのに、守備は先手が8八に玉を囲っているのに対し、後手はまだ3一にいる。玉を2二に入れるには単純計算で2手必要だが、その場合角は1三に動かさなければならず窮屈だ。

つまり、この時点で佐々木七段が作戦勝ちということである。ここから手得から駒得に、駒得から具体的に優勢な局面に持ち込むまで長い中盤戦があり、さらに永瀬王座の粘りで長い終盤戦となったが、評価値は一貫して佐々木七段優勢であった。

珍しく永瀬王座が詰みまで指さずに投了、佐々木七段がタイトル初挑戦を手にした。2月から絶好調でこれで15連勝。現在決勝リーグが進んでいる王位戦でも挑戦者決定戦まであと1歩であり、こちらも挑戦者となれば藤井竜王との十二番勝負となる。

そして、今回の棋聖戦は久しぶりに海外での開催となる。コロナ以前もしばらく海外棋戦はなかったし、藤井竜王が棋士になってから初めてである。6月5日に第1局ベトナム対局が行われるので、藤井竜王としてはここまでに名人戦を勝っておきたいところだ。

佐々木七段はもちろん得意の相掛かりだろうし、藤井竜王はもちろん受けて立つだろうから、急戦になるか力戦になるか、いずれにせよ一手の価値がかなり高い将棋となるだろう。

[Apr 26, 2023]

第94期棋聖戦挑戦者決定戦。2月から14連勝中の佐々木大地七段が得意の相掛かりから趣向を見せ、この局面では作戦勝ちになっている。後手は玉を2二に入れるには少なくともあと2手必要。


第64期王位戦、佐々木大地七段ダブル挑戦へ

第64期王位戦挑戦者決定戦(2023/05/18)
佐々木大地七段 O - X 羽生善治九段

第64期王位戦リーグは、四強の残り3名がリーグにいたにもかかわらず、挑戦者決定戦に勝ち上がったのはレジェンド羽生九段と佐々木大地七段であった。

紅組は新進気鋭の服部六段と徳田四段、加えて永瀬王座が予選を勝ち上がり激戦が予想された。予想通り6名全員が2勝以上をあげる潰し合いとなったが、挑戦権争いは残留組の豊島九段と羽生九段。最終局で豊島九段を下した羽生九段が挑戦者決定戦に駒を進めた。

白組は渡辺名人と増田七段が予選突破。残留組の佐々木七段と渡辺名人のトップ争いとなり、第4局で直接対決を制した佐々木七段が全勝でリーグを突破した。

佐々木七段は王位リーグ残留は何度もあるが、挑戦者決定戦まで残ったのは初めて。先日の棋聖戦でもトーナメントを勝ち抜いており、タイトル挑戦となれば藤井六冠との十二番勝負となる。

挑戦者決定戦は5月18日に行われた。振り駒の結果佐々木七段の先手となり、得意の相掛かりに持ち込む。金が7七で止まっている佐々木七段に対し、羽生九段は速攻を見せ敵陣に竜を作った。

下図は午後6時半の終盤戦。バランス型で組んでいたはずの佐々木七段が金銀四枚の堅陣となり、一方の羽生九段は美濃囲いにしていた銀が6三に吊り上げられている。

難解な終盤戦だが玉の堅さに差があり、玉頭から逆襲した佐々木七段が激戦を制し挑戦権を手にした。

数年前から若手有望株としてタイトル挑戦間近のところまで勝ち上がっていた佐々木七段だが、ここへきてようやく華々しい場面に登場することとなった。

そして、棋聖戦では永瀬王座、王位戦では渡辺名人と藤井六冠以外のタイトル保持者を下しての挑戦だから価値がある。藤井六冠を追う棋士が誰になるのか注目されるが、佐々木七段もその位置を確保したいところだ。

藤井六冠の壁は分厚いが、過去の対戦成績は2勝2敗で勝負付けは済んでいない。何しろ相掛かりという得意戦法があり、居飛車党の藤井六冠は受けて立つだろうから、お互いに一歩も引かない勝負になるだろう。

ただ、心配があるとすれば長い持ち時間の将棋があまり得意とは思われないことである。佐々木七段は順位戦C級2組で何回も次点で昇級を逸しており、竜王戦でも6組突破に時間がかかっている。

その意味からすると、2日制の王位戦でどういう対局となるのか、たいへん興味深いと思っている。

[May 21, 2023]

第64期王位戦挑戦者決定戦。リーグ戦の常連ながら初めて決定戦に勝ち上がった佐々木大地七段が、羽生九段を破って挑戦権を手にした。さきの棋聖戦に続き、これで藤井六冠との十二番勝負となる。



第8期叡王戦、藤井叡王3連覇で6冠防衛

第8期叡王戦五番勝負(2023/04/11-5/28)
藤井聡太竜王 3-1 菅井竜也八段

振り飛車党との初タイトル戦となった藤井叡王(竜王)だが、第4局の後手番をサービスブレイクして、3-1でタイトル防衛に成功した。

これでタイトル戦負けなし・番勝負負けなしの記録がさらに伸びることとなった。タイトル獲得はこれで14期。叡王は3連覇。

名人戦七番勝負との同時進行となり、研究時間が確保できるかという心配があった。名人戦は2日制なので、前日から3日間拘束される。特に対振り飛車だと戦法がまったく異なるので、先行されると不利な展開もありうると思っていた。

幸い、振り駒の結果、第1局が先手番となった。ここを手堅く勝ち、後手番の第2局は菅井八段が意地をみせたが、第3局も勝ってカド番に追い込み、あと1勝と有利な展開に持ち込んだ。

第4局は後手番。本割は序盤戦で千日手となり、昼休憩をはさんで指し直し局。先手となった藤井叡王が指しやすい場面もあったが、合穴熊の寄せ合いで再び千日手となり、午後7時15分から2回目指し直し局となった。

アベマ解説の井出五段が「合穴熊は千日手になりやすいんですよね」と言うとおり、合穴熊から膠着状態となり、藤井叡王が本割と同じく△7二飛と寄った時には3度目の千日手必至かと思われた。

しかし、菅井八段としては先手の利を生かしたい。▲5八飛と打開して飛車交換から先に敵陣に飛車を打ち込んだのである。

お互い穴熊の堅陣なら先に攻撃した方が一手早いかと思われたが、藤井叡王が落ち着いて飛車交換で飛を取った歩を5六に伸ばす。▲5二歩打ちに対し△5七歩成と先にと金を作り、1手勝ちが見込める局面とすることに成功した。

最後は菅井玉をみごと即詰みに討ち取って、1日3局にわたった第4局を制し、叡王防衛に成功した。

今回の戦いをみると、対振り飛車(というより対菅井八段)の後手番においては無理に勝負せず、千日手で先後入れ替わりにすれば十分という考えのようだ。特に相手が穴熊にする場合には、お互い手詰まりになり先に手を出した方が不利になる。

個人的には、AI研究が進めば千日手は確実に増えると思っている。それが将棋として面白いかどうかはともかく、千日手を打開した方が不利になるのであれば、そうならざるを得ない。あとは体力と根気の勝負である。

3連覇を果たした藤井叡王は今日29日に岩手から移動、明日30日は長野へと移動し、31日からの名人戦第5局に臨む。

[May 29, 2023]

第8期叡王戦第4局は、2度の千日手からの2回目指し直し局を藤井叡王が制し3連覇を達成した。飛車交換から敵陣に飛車を打ち込んだのは菅井八段だったが、△5七歩成から△4七桂が早かった。



第81期名人戦、藤井聡太竜王名人・七冠に

第81期名人戦七番勝負(2023/04/05-6/1)
藤井聡太竜王 4-1 渡辺明名人

藤井・渡辺のマッチアップは極端に成績が偏っていて、第5局前まで藤井竜王の19勝4敗である。勝率は実に82.6%。対全棋士が83.3%だから、ほとんど変わらない勝率をあげていることになる。

この成績どおり、これまで両者の番勝負は第91期棋聖戦3-1、第92期棋聖戦3-0、第71期王将戦4-0、第48期棋王戦3-1と、ほとんど一方的に藤井竜王が勝っている。

そして今回の名人戦も、第1、2局を藤井勝ち、第3局こそ渡辺名人が返したが、第4局藤井勝ちで渡辺名人は早々にカド番に追い込まれた。

そして第5局、印象深かったのは下図の局面。封じ手前の一手を定刻5時半の直前に指した渡辺名人だが、藤井竜王あわてず20分の考慮で封じた。封じ手は△9五歩。大方の予想通りの手であった。

再開後ノータイムで渡辺名人▲同歩。これに対し35分で藤井竜王が指したのが、△4七銀の打ち込みだった。この手は封じ手の前にも検討されていたのだが、先手にも対抗手段があって難しいとされていたのである。

9筋の突き捨てが入れば、△4七銀が成立すると読んでいたとすれば、さすが藤井竜王である。おそらく△8六歩や△6六歩といった飛車を活用する手を読んでいた渡辺名人には予想外だったはずで、62分の長考から▲2四歩△同歩▲4五歩と攻勢に出た。

ところが、△3六銀と成った手が意外と強靭で、渡辺名人の猛攻も一歩届かない。細い攻めを続けるのが持ち味の渡辺名人には珍しい退却で、反転攻勢に出た藤井竜王が菊水矢倉の渡辺玉を攻略した。

藤井竜王は豊島以来の竜王名人となるとともに、これで8タイトル中7冠を制覇、残すは王座だけとなった。ということは、王座戦で永瀬王座に上座を譲る時以外は、他の全棋戦で、全棋士に対し上座で対局することになる。すごいことである。

叡王戦第4局から休みなしの移動で名人獲得を果たしたが、本日(6/2)帰郷するとすぐに棋聖戦五番勝負がスタート。第1局(6/5)はベトナムなので、またもや準備期間ほぼゼロで臨まなければならない。ただ、棋聖戦も王位戦も相手は同じ佐々木大地七段である。

一方の渡辺前名人。無冠となるのは、2004年12月の竜王奪取前の六段時代以来じつに18年半ぶりである。規定上は「前名人」を名乗れるはずだが、おそらく羽生と同様「九段」を選ぶのではないか。

羽生世代の棋士たちがまだ一線級で活躍しているのに、このまま老け込んでしまうとは思われない。きわめて相性の悪い藤井竜王名人に対し今後どうやって巻き返していくか注目される。なにしろ、打倒藤井ができなければ、タイトル獲得はほとんどできないのである。

[Jun 2, 2023]

第81期名人戦は、藤井竜王が4-1で名人獲得、これで七冠達成となった。図は2日目の再開直後。封じ手△9五歩に渡辺名人がノータイムで▲同歩と応じたのに対し、△4七銀と打ち込んだ。



第36期竜王戦決勝トーナメント

現在、王座以外の七冠を制する藤井竜王名人への挑戦権をかけて、第36期竜王戦トーナメントが始まる。出場11棋士のうちタイトル戦経験者が9名、タイトル獲得実績があるのが7名という密度の濃い戦いだが、それでも藤井竜王の壁は高く厚い。

パラマスの組は昨年、佐々木大地vs伊藤匠戦が5・6組優勝者戦だった。佐々木大地七段は残念ながら敗退したが、今年は棋聖戦・王位戦で挑戦者に勝ち上がっている。今年は伊藤匠六段と出口若武六段の対決。ともに挑戦者に勝ち上がっても不思議ではない。

その勝者を待つのは、4組優勝の大石直嗣七段。昨年度後半から絶好調で、ランキング4組優勝はじめ9勝1敗と勝ちまくっている。4組決勝では本田奎六段を下しており、2人にとっても油断ならない相手だ。

その勝者が当たるのが元竜王の広瀬八段。次が丸山九段、そして準決勝が1組優勝の稲葉八段となる。いずれもタイトル戦線で活躍中の上位棋士であり、このパラマスは容易ではない。有利なのはやはり、勝ち残った一人と対戦する稲葉八段だろう。

もう一つの準決勝は、面白い組合せとなった。一つの席は四強同士の対決、永瀬王座と豊島九段戦である。

普通に考えればこの勝者が挑戦者になる可能性がもっとも大きいとみられるが、豊島九段は王座戦でベスト4に残っている。永瀬王座は竜王戦の相性がよくないが、王座防衛戦と重なることが原因かもしれない。

この勝者と戦うのが、いわゆる羽生世代のベテランが固まった3者の対決である。連盟の新会長となった羽生九段と、前会長の佐藤康光九段、そして三浦九段である。

1組2位の羽生九段がシードの分だけ有利だが、会長業務の引継ぎが大変そうだ。そして、準備の時間が多くとれるようになった康光九段がどのような新機軸を打ち出してくるかも注目である。

現時点で予想すると、豊島九段本命、永瀬王座対抗、単穴稲葉八段というところだが、伊藤匠・出口戦の勝者が台風の目になるかもしれない。棋界最高賞金のタイトル戦であり、挑戦者になれば賞金ランキング上位も確実なので(JT日本シリーズの選考に有利)、モチベーションも大きい。

第36期竜王戦決勝トーナメントは、来週27日の伊藤匠vs出口戦で開幕する。

[Jun 24, 2023]

番勝負無敗・タイトル戦無敗の藤井竜王名人への挑戦権をかけて、第36期竜王戦トーナメントが始まる。11人中9人がタイトル戦の経験があり、うち7人がタイトル獲得実績がある。


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