アイキャッチ画像:自ら撮影したデラホーヤvsホプキンス@MGMグランド
世界タイトルマッチは「卒業記念旅行」ではない [Aug 21, 2007]
日曜日のWBA世界フェザー級タイトルマッチは、金曜日に書いたようにチャンピオンのクリス・ジョンが圧倒的な力量差で挑戦者の武本在樹を9回終了TKOで退けた。やはり、「格闘技に番狂わせなし」なのであった。
何年か前にJBC(日本ボクシングコミッション)は、「日本チャンピオンまたはOPBF[東洋太平洋]チャンピオンになっていない選手は、世界タイトルに挑戦させない」という申し合わせを作った。これは世界戦の粗製濫造、つまり日本人挑戦者が世界チャンピオンに全く敵わないという試合がとめどもなく続いたことにより、ボクシング人気が冷え込むことを懸念して作られたものだったのだが、いつのまにかこのルールはうやむやにされ、歩調を合わせてボクシング人気も冷え込んでしまった。
世界中で、日本のようにほぼ毎日ボクシングの試合があるという国はそれほど多くはない。しかしどう控えめに見ても、そのレベルは世界最高というにはほど遠い。レベルが高ければ、仮にローカルタイトルを取っていなくてもいい選手はいるかもしれないが、全体のレベルが低いのだから少なくともローカルチャンピオンにならなければ恥ずかしくて世界に出せないというのはすぐれた見識である。
ところが、こんなに不景気なのに「黄金の国ジパング」なのか、まるで卒業旅行とかボクサー生活の記念とかであるかのように、世界に挑戦しては全く見せ場も作れずに負けていく選手が多い。それでも、国内のライバルを破ってというなら分かる。そうでないから見ている側には頭にくるのである。
現在、ボクシングの世界チャンピオンとして認められている団体は4つあり、そのうち歴史の古いWBAとWBCを日本では世界タイトルと認定している。この4団体はそれぞれに地域タイトルを持っており、日本チャンピオンの上とされているOPBF[東洋太平洋]チャンピオンはWBCの認定タイトルである(WBAの認定しているのはPABAで日本未公認)。そして、地域タイトルのチャンピオンはそれぞれの団体でオートマチックに世界ランク上位にレイティングされるが、なにしろ4つもあるので中にはそれほど強くないチャンピオンもいる。
そういう実力の劣る世界ランカーを連れて来て日本で試合させ、地元判定でも何でも勝てば世界ランカーとなり世界チャンピオンへの挑戦権を得ることができる。そういう選手もそのマネージャーも自分達の実力は知っているので、半ば負けるのを承知で、別の言葉で言うと「世界ランクを売りに」日本に来る。そうやって世界ランカーとなったのが今回の武本在樹であり、亀田弟なのである。
そんなことをして何のためになるのかと思うが、おそらく世界戦経験者というのはそれなりの「ハク」がつくのだろうし、何十回に1回はまぐれで勝ってしまうこともある。だからといって、負ける何十回を見せられる方はたまったものではないし、大体、世界ランクや世界戦をカネで買える奴だけがそういう「卒業記念」をすることができて、そういうカネや伝手がない選手はいくらがんばってもそういう機会にたどり着くことが難しいというのは、世間一般と同じで全く夢のない話ではなかろうか。
ボクシングの試合は「競技(スポーツ)」なのか「興行(見世物)」なのかという根本的な議論はあるのだが、保守的に「競技(スポーツ)」と仮置きしたとしても収入と支出が見合わなければそのうち誰もやらなくなってしまう。
そのことを前提に考えると、仮に5000人入る会場を客単価5000円で満員にしたとしても、入場料収入は2500万円にしかならない。後楽園ホールには2000人くらいしか入らないし、有明コロシアムやさいたまアリーナを使ったところでちゃんと自腹で入るのは5000人程度しかいない。そして日本選手の試合で5000円以上払って一般席で見る価値のある選手は残念ながらいない(ホルヘ・リナレスを除く)。
入場料収入を得るためには、試合を開催する費用、つまり会場の借り賃、ポスターや開催告知のための広報費用、当日の会場整理・警備その他スタッフの人件費、チケット販売の委託費用などがかかるので、それらが収入2500万円から引かれると仮に主催者の儲けをゼロにしたところでファイトマネーとして割けるのは両選手合わせて数百万円ということになる。
その程度のファイトマネーで来てくれるようなチャンピオンもいない訳ではないが(ミニマム級とか)、大抵はそれでは来てくれない。だから、その分をどこからか調達しなければならない。それができるのは、テレビ局か、スポンサーか、ジムの後援者ということになる。
しかし現実には、もともとNHKが紹介したことから注目され始めた亀田一家とか、たまたまスポンサー企業を見つけることができた選手とか、ジムのオーナーが漫画家でボクシングに使えるおカネがたくさんあるとか、資金力のふんだんにある大手ジムの所属選手であるとか、(「マネーの虎」に出るとか)、そういうことでないと資金の調達はできない。
つまり、勝負は最初から半ばついていることになる。資金調達のできるバックボーンのある選手はカネで世界ランクを買い、カネで世界挑戦を果たし、そして見せ場もなく負けていく。そもそも日本に優れたボクシング指導者はそれほど多くないし、国内のライバル相手に切磋琢磨もしない訳だから、こういう選手が何人いたところで世界戦の数が増えるだけで全体のレベルを上げることには全くつながらない。
さて、最初に戻って質問である。これが「競技(スポーツ)」と言えますか?私が見たいのは、実力が接近した選手同士の手に汗をにぎる熱戦であって、はじめから勝負の行方が決まっている「興行(見世物)」ではない。
おカネがあるからといって、卒業記念旅行のような気分で世界タイトルマッチをやるのはいい加減やめてほしいし、JBCもこれを許すのなら、いっそのことIBFとWBOも認めてしまってほしい。なぜなら、勝負の行方が決まっていても見る価値のある選手は世界にいるからである。
[Aug 21, 2007]
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