亀田興毅世界初挑戦    亀田vsランダエタⅡ    内藤vs亀2世界戦決定
内藤vs亀2戦の真相に迫る    内藤vs亀2戦興味深い展開    内藤vs大毅世界戦!
内藤vs亀2戦の技術(反則)論    内藤vs亀1世界戦    亀2vsデンカオ2
亀1vsポンサク    亀2vs坂田!    河野beats亀1@シカゴ


亀田興毅、世界初挑戦

WBA世界ライトフライ級タイトルマッチ展望(2006/8/2、横浜)
  ファン・ランダエダ(ベネズエラ、20勝16KO3敗1引分け)
O 亀田 興毅(協栄、11戦全勝10KO)

史上最強と持ち上げられたかと思えば、一転して弱い相手ばかりと戦ってカネでタイトルマッチを持ってきたと批判されている亀田。まあ態度が悪いのはともかく、彼が世界戦に登場してくるだけの実績を積み上げてきていることは確かである。

東洋タイトルを獲り、元世界王者を倒し、前哨戦2戦でともに世界ランカーをKOしたという実績は、具志堅の初めての世界戦時よりあきらかに上である(具志堅も亀田を批判する一人である)。あの頃はジュニアフライ級ができたばかりで選手の絶対数が少なく、地域タイトルでもそんなクラスはないので世界ランク上位は日本と中南米の一部の国に限られていたからだ。

しかし、亀田の現在の実力が図抜けているかというとそんなことはない。そもそも、フライ級でポンサクレックかパーラに挑戦しなかったことで、それは証明されている。それでも運が強いのは間違いない。WBAのこのクラスの前チャンピオン、ロベルト・バスケスの減量苦によるタイトル返上により、王者決定戦が回ってきた。相手はもともとミニマム級のランダエダ。これもまた恵まれている。

ランダエダはミニマム級では圧倒的なKO率を誇ったが、世界クラスと戦うとノエル・アランブレッドに負け、チャナ・ポーパオインと引き分け、新井田豊に負けということだから、まあそれほどの選手ではない。スタイルもやや攻撃的なボクサー・ファイターだから亀田にはやりやすいはず。そして何より、もともとフライ級の亀田とは体が違う。格闘技において体の違いはかなり決定的な要因で、それは先週のガッティ敗戦にもあらわれている。

亀田が負けるとすれば初めてのライトフライ級への減量が予想外に苦しくて手が出なくなってしまう場合と、左右フックを振り回してがら空きのアゴにカウンターを食った場合、つまり自滅する場合しか考えられない。その危険性が少なからずあるというのが残念なところであるが。

WBA世界ライトフライ級タイトルマッチ(8/2、横浜)
亀田 興毅 O 判定(2-1) X ファン・ランダエタ

先週予想した亀田の自滅パターン、がら空きのアゴと減量から来ると思われる手数の少なさがもろに出た試合。私の採点はジャッジの一人と同じく115-112でランダエタだが、2-1のスプリット・デシジョンで亀田がタイトル獲得に成功した。判定が出た瞬間、解説で登場していた鬼塚の露骨な判定勝利を思い出したが、今夜の試合は鬼塚のときよりひどくはなかった。見方によっては、2ラウンドから9ラウンドまでは(4ラウンドを除き)亀田が取っているとみることは可能であろう。

それにしても、1ラウンドのダウンからなんとか立ち直ったのはさすが。これにより亀田の勝ちパターンである右ジャブから左フックという展開がほとんどなかったにもかかわらず、打たれたら打ち返してかなりいいパンチを入れていた。やはり体の差はかなり有利に働いたと思う。そうなると、今回の最大の功労者はランダエタとマッチメークしたジョー小泉ということになる。ただし、どんな弱い選手を連れてきても日曜日の越本のようにKOされてしまえばどうにもならないから、11R以降必死に耐えた亀田の底力はそれなりに評価してあげるべきだろう。

いまさら言っても仕方がないが、亀田興毅の才能は辰吉丈一郎以来最高といって差し支えないにもかかわらず、きちんとしたトレーナーについていないため伸びが止まってしまった。今日の試合も相変わらず足を踏ん張っての強打狙いで、ランダエタだから接戦になったが普通のチャンピオンとやったらKO負けである。それは本人の調子とかではなく、トレーナー(親父)がきちんとしたボクシングを教えていないからだ。でも、それでいいと本人が言っているのだから、それでいいんだろう。

むしろ問題なのは、こうした露骨な判定(協栄判定)で折角盛り上がりつつあるボクシング人気が冷えることである。普通に見ていれば、今日の試合はランダエタの勝ちというのはほとんどの人が感じるところだろうから、こんなことが続けばみんなが試合場に足を運んだりテレビを見たりするだろうか。具志堅以降そうやってボクシング人気を落としてきた協栄ジムがまた同じ轍を踏むのかどうかは亀田の次の試合以降にかかっている。まあ、減量も2回目となれば今回のようなことはないだろうとは思う。くれぐれも、イーグル京和などとは戦わないことである。

[Aug 3, 2006]

亀田vsランダエタⅡ

WBA世界ライトフライ級タイトルマッチ(2006/12/20、有明コロシアム)
亀田 興毅 O 判定(3-0) X ファン・ランダエタ

不勉強なTBSのアナウンサーが「ニュー亀田」と連呼していたが、あれは出世試合ともいうべきアランブレッド戦の亀田である。誰が指示したのか分からないが、亀田はあのスタイルが一番強い。一部報道に「興毅は臆病で気が弱い」というのがあったのだが、気が弱いかどうかはともかく、臆病でなければ、つまり打たれる怖さを知らなければいいボクサーではない、と私は思っている。

もともと体が違うのだから、同じタイミングで打てば亀田のパンチの方が効く。おまけにランダエタのジャブを当てさせないのだから勝負にならない。1ラウンドこそ慎重に出たが2ラウンドから身上の手数が出始め、5ラウンドにはランダエタの息が上がってしまった。私の採点は117-110(12ラウンドに亀田に減点1)で亀田。完勝であった。

一昨日のブログで予想したように、前の試合、あの絶対のチャンスを生かせなかったことがランダエタの弱さだと思う。落ち着いて打ち合えば体格の差が出る。ましてや、ランダエタは巨額のファイトマネーで来る前から満足しているのだ。

柄の悪さやパフォーマンスにいろいろ批判はあるけれども、ボクサーは強さが第一。これからも精進してほしいものである。因みに、前座の大毅は余計。あんなもの、ゴールデンタイムに流すもんじゃない。

亀田・ランダエタ2の技術論

昨日の試合を見ていた家の娘が、「亀田がKOできなかったのはよくない。そもそも、あれが亀田優勢だったのかどうか、よく分からない」と言っていた。おそらく、ボクシングをあまり見た経験がなく、亀田父子のパフォーマンスに注目してテレビを見たライトファンの一般的な意見ではないかと思う。今日はそのあたりを書いてみたい。というのは、そうした層を取り込んでヘビーファンになってもらわないとボクシング人気は盛り上がらないからである。

ボクシングというスポーツの基本は、「相手のパンチをもらわずに、自分のパンチは当てる」ということである。判定基準の第一は有効なクリーンヒットなのだが、クリーンヒットというのは自分のパンチを当てなければ永遠にないし、有効か有効でないかというのは相対的なものだから、相手のパンチを入れさせずに自分のパンチだけ当てれば有効に決まっている。だから、昨晩の試合はランダエタにほとんどチャンスがない、亀田の圧勝であった。

私が何度も書いている体格の違いというのは、昨晩のように距離をとった場合に、亀田のジャブは当たるのだがランダエタのジャブは当たらないということが一つある(その他にパンチ力の差もある)。かつてのアランブレッド、今回のランダエタのようにもともと体格が違う相手とやる時には非常に有効で、かつ安全な戦法が距離をとってジャブを当てるということである。

かつて、フェザー級史上最強と今でも言われるアレクシス・アルゲリョが日本に来てロイヤル小林とやった時がそうだった。小林は後に1階級下のジュニアフェザー(今のスーパーバンタム)で世界チャンピオンとなったのだが、アルゲリョは後にジュニアライト、ライトと3階級を制覇したように、もともと体が違ったのである。

亀田の一番の良さというのは、手数が出るということである。日本のボクサーに共通の欠点として、手が動けば足が動かない、足が動けば手が動かない、相手を見すぎて手が出ないということがある。その点亀田のいいところは、足を動かしながら手も出るということで、見ている者にフラストレーションを感じさせることが少ない。手を出さなければパンチは絶対当たらないし、パンチが当たらなければ判定は絶対に相手のものである。

一方で、亀田の欠点(というか親父のトレーニングの欠点)は肩に力が入りすぎることである。昨晩有効だったパンチはタイミングで打った右ジャブと左ストレートで、足を踏ん張って肩に力を入れまくって打ったボディへのフックやロープ際の連打はさほどの効果がなかったことを、陣営にはよく考えてほしいものだ。

確かにライトファンはあれを喜ぶのだが、距離を詰めて相手のパンチが当たる範囲で、さほど効果のない連打を狙うというのはかなりリスキーである。そして、今回KOできなかった一つの原因は、チャンスにあまり効果のない連打をしてしまったことにあるのではないかと思う(ランダエタも顔面のパンチにはよく耐えた)。

もう一つ気になったのは、左ストレートを打った後で相手に正対してしまう(体の正面を向ける)ことが結構あったことである。今回は相手もサウスポーということで特にそうだったのかもしれないが、正対するということは足が揃っているということだから、その瞬間カウンターを食らえば倒れてしまう。もしかしたら、亀田は本来オーソドックススタイル(左が前)の方が合っているのかもしれない。

世界に目を向けると、一階級上のフライ級にかなり強豪選手が集まっているのに対し、ライトフライ級にはそれほどの選手はいない。その意味ではこのクラスに下げたのは大成功で、後は年齢的に自然と上のクラスに上げていけば、ちょうどその頃いまのフライ級上位も上のクラスに行っているだろう。

今回のように距離を取る方法を選ばせた参謀がいるのだから、今後はぜひ足を踏ん張って肩に力を入れまくるのを改めさせてもらいたいものである。何度も言うけれども、興毅の才能だけは間違いなくあるからだ。

[Dec 22, 2006]

内藤大助vs亀田大毅世界戦決定!

「格闘技に番狂わせなし」は桜五郎(プロレスラー)の名言だが、実際ボクシングの試合で本当の番狂わせというのは百試合のうち1試合あるかないかである。「番狂わせ」といわれる場合のほとんどが情報不足に起因していて、有利とされる方がそれほど強くないか、不利とされる方がそれほど弱くないかのいずれかである。

今世紀にはいってからの世界戦でいうと、20回やって1回勝てるかどうかの選手がその1回を世界戦でやってしまったというのは、2001年のヘビー級世界戦でハシム・ラクマンがレノックス・ルイスをKOした試合がほとんど唯一のケースで、あとは冷静にみて実力差がそれほどなかったにもかかわらず絶対有利(不利)などといわれていただけである。

今年のケースでいえばドネアがダルチニアンをKOした試合と内藤がポンサクレックに判定勝ちした試合が番狂わせといわれるが、後から考えるとそれほど力の差はなかったというべきだろう。

さて、10月に内藤の持つWBC王座に挑戦することが決まった亀田弟だが、もしアクシデント(バッティング等による負傷)以外で亀田が勝ったとしたら、ラクマンがルイスに勝った以上の番狂わせである。もちろん、両者の年齢差が十歳以上違うことからすれば、内藤が急速に老け込み亀田弟が急速に伸びる可能性はゼロではないが、そもそもきちんとした指導者についていない弟が伸びるはずがないのであった。

亀田兄弟として一緒くたにされてしまう兄の興毅は、ともかくも世界戦前にOPBF(東洋太平洋)のフライ級チャンピオンをとっているし、ノエル・アランブレッドをはじめちゃんとした世界ランカーと対戦して経験を積んでいる。一方弟の大毅が対戦したそこそこの相手といえばせいぜいバレリオ・サンチェス(メキシコ・チャンピオン)くらいで、しかも打ちまくられてどう見ても負けのはずなのに露骨な地元判定勝ちだった。

週末にクリス・ジョン(インドネシア・WBAフェザー級王者)に挑戦する武本在樹も、おそらく10回やって1回しか勝てないのだろうからもし勝てば番狂わせだが(大体、何で榎に勝てないのに世界挑戦できるのか?)、大毅が勝てる確率はそれ以下であろう。そもそも、日本の上位ランカーで、亀田弟とやって負ける選手はいないのではないか。

それでも、大毅のファイトマネーは2億円だそうである。彼の商品価値があるのはこの試合までだろうから、まあ不愉快ではあるが我慢しよう。唯一懸念材料があるとすれば、これに勝てば次は兄の興毅との試合が確実であることからビッグマネーを前にして内藤が緊張しすぎてしまうことだけだ。これを勝てば次はデラホーヤとのビッグマッチというロバート・アレンとの試合で、あのバーナード・ホプキンスでさえ固くなったのである。

もう一つ予想すると、これは勝敗予想ほどの自信はないが、10月11日の有明コロシアムはアンチ亀田が半分以上を占め、亀田弟はブーイングを浴びるはずである。

[Aug 17, 2007]

内藤大助vs亀田大毅戦の真相に迫る

なんかボクシング専門のブログみたいになってきましたが、とりあえず今日までご辛抱を。

ここ数日、時間があるとネット上を行ったり来たりして、内藤・大毅世界戦の情報を集めていた。ボクシングに目の肥えたライターは例外なく私と同じ意見、大毅では内藤の相手にはならないというものであった。だから、今日は技術論に戻って議論することはしない。

言ってみれば、常磐道で250km/hとか出して「俺には誰も追い付けないぜ!」とか言ってる小僧っ子が鈴鹿でFIに出るようなものなので、クラッシュするか何十周遅れるかという世界に違いないのだが、これまで分からなかったのは仮にも協栄ジム金平会長はプロ、そんなことが分からないはずはない。

TBSだって視聴率ばかり気にしている奴が大多数だとしても、スポーツ観戦歴が長ければその程度のことを考える人間がいないはずはない。にもかかわらずなぜ、3億円はリップサービスとしても相当の大金をかけてこんな試合をするのかということであった。

その答えがネット上にあった。あくまで真偽不明の情報であるが、「内藤戦が大毅のラストファイトになる」というものである。スポーツ新聞記事の表面だけ読んでいるとそんなバカなと思われるかもしれないが、実はこのことで私が不思議に思ったかなりの部分の説明が可能になるのである。以下、私の推測も含めてその情報についてご紹介したい。

3兄弟の中で大毅が最もボクシングの才能がなく、またやる気もないというのはかなり良く知られた話である(才能があってもトレーニング方法が間違っていては大成しないが)。大毅の希望は亀田兄弟フィーバーで名前を売って芸能界入りすることで、世界チャンピオンを張れる器でないことは本人はじめ亀父も金平会長もみんな分かっていることだ。その意味では内藤も言っていたが、大勢の前で歌える度胸だけは大したものである。

さて、そういう最終目標からすると、どういうタイミングでボクシングから身を引くのが最も効果的だろうか。これまでジョー小泉がうまいことやる気のない選手とマッチメークしてきたが、だんだん客の方も気づいてきた。「無敗の快進撃を続け、史上最年少世界王者を目指したが、惜しくも奪取はならなかった。生涯成績11戦10勝7KO1敗」という今回の試合がドンピシャだという気はしないだろうか。

亀父にとってみると、大毅で客を呼べないということは分かってきたし(どこの会場もがらがらだ)、最近TBSもいい顔をしない。興毅は仮にも元世界王者だし現在も世界上位ランカーだが、いまさら後楽園ホールでなど試合させたくない。となると、なんとかいまメキシコで修業中の三男がプロデビューするまで食いつながなければならない。TBSから大毅をダシにまとまったカネが入るこの機会は好都合であり、併せて大毅も世界挑戦者のハクをつけて芸能界に送り出したい。

TBSにとっては、フジのPRIDE騒動を見ているだけに、亀田一家との付き合いはバックギアに入れたいところ。加えて亀田一家に対する世の中の風向きもフォローからアゲンストになりつつあり、この一戦がターニングポイントになりそうな雰囲気は感じているはず。もちろん視聴率=広告収入は見込めるので手切れ金代わりに多目に払っても懐は痛まない。

そして協栄ジム。長男移籍時にグリーンツダジムに支払った金額は、そろそろ全額回収しておかないと危なくなってきた。だからTBSから大金をGETしようという点では亀父と利害は共通。そしてこの試合大毅が負けても(負けるが)、後に興毅も坂田もいるから全く問題ない、というよりはむしろビッグマネーが期待できる。いずれ次の試合はタイに行かなければならないし、だとすれば嫌な仕事は全部内藤と宮田ジムにやってもらおうというくらいは、金平会長なら考えていそうだ。

こうして考えてみると、大毅が負けて困るのは本人含めて誰もいない。問題は大きなダメージなく試合を終えることができるかということと、芸能界入りがそんなにうまく行くかということである。TBSも露骨なことはできないので「SASUKE」と「筋肉番付」くらいには出してもらえるのだろうが、あのキャラクターがそんなに好まれるとは思えず、その点では亀父の目論見は大きく外れることになるだろう。

そんなことを考えていたら、大毅のスパーリングパートナーは6回戦ボーイという新聞報道である。どうやら、ケガをしないことに全神経を傾けているようだ。「オレはもっと先をみている」そうだけど、一体どこを見ているのかな?

勝つのはともかくいい試合をしようと思っていたら、本田秀伸とか(バレラがハメドとやったとき、仮想ハメドとなってスパーリング)とやるべきじゃないの。というわけで、内藤戦の結果は今のところ、◎勝手な理由をつけて試合放棄、○勝手な理由をつけて試合そのものをキャンセル、△4Rくらいで壊される前に座り込む、といったところでしょうか。

[Aug 22, 2007]

内藤vs大毅戦・興味深い展開に

あと1ヵ月に迫ったWBC世界フライ級タイトルマッチ、チャンピオン内藤大助対挑戦者亀田大毅戦が興味深い展開になりつつある。

まず第一は、試合の透明性・公平性を担保するため(今さら・・・)、日本ボクシングコミッション(JBC)が異例としか言い様のない介入をしてきたことである。いったんは、チャンピオン(日本製)と挑戦者(メキシコ製)が異なるグローブで対戦すると発表されていたが、両者メキシコ製のグローブとなったことに加え、身体検査・計量でのJBC立会い、レフェリー・ジャッジの隔離などが行われることになった。

何しろ協栄ジムといえば「毒入りオレンジ」、亀田一家といえば「不当判定(より直接的には800なんとか)」が代名詞となっているくらい、試合の不透明性・不公平性には定評のある組合せなのである。そして、今回初めてフライ級リミットに落とす(はずの)亀田弟にとって、計量がシビアに行われるというのはそれだけでプレッシャーになる。実は世界的に計量不正というのは決して珍しくないのである。

なぜ今さらこんなシビアなことを行うのだろうと考えると、非常に興味深い。実のところ、ジャッジの見方によっては大毅の勝ちともとれる(例.興毅vsランダエタ第一戦)くらいの試合だったら、内藤の負けで仕方ないというのが大方の見方だろうし、2ポンドくらいのウェイトオーバーではとても埋まらないくらいの実力差が両者にはある(それでは世界タイトルマッチにはならないが)。グローブの違いなんて初めから関係ない。

普通に考えれば、興毅vsランダエタ第一戦で苦情が殺到したJBCが、面子にかけてそのスポーツ性を主張したということなのだが(ファイティング原田会長はフライ・バンタム2階級制覇チャンピオン)、うがった見方をすると、これは協栄ジムの仕掛けではないのだろうか。つまり、協栄ジムとしては、これ以上ドロ舟亀田号に乗っていられないということではなかろうか。

TBSと商売するために亀田一家と組んだ協栄ジムであるが、イメージが悪くなるばかりで兄弟の実力は少しもアップしない。せっかくWBAに働きかけて楽な相手と王座決定戦を組んでやったのに、きれいに勝てなかったばかりか亀父は自分の手柄のような顔でますます図に乗って言うことを聞かない。その間に苦労人坂田は世界チャンピオンとなり、暴力事件で謹慎していたサーシャも戻ってきた。

むしろこの機会に先代金平会長の遺したダーティーイメージを解消するため、このタイトルマッチを利用する方が利口である。どうせどんな手を使ったところで今回の勝負は望み薄である(サーシャに大毅のお面でもかぶせない限り)。だったら、われわれはフェアプレーでやってますよということを世間に知らしめることにしよう。どうせセコンドに付くのは亀父なのだ、というのが協栄ジムの腹積もりではないか。

二番目に興味深いのは、内藤陣営に続々応援団がついたことである。以前からの関係である白井・具志堅ジム(具志堅はもともと協栄の選手)に加えて、スパーリングパートナーとして川嶋勝重・名城信男のスーパーフライ級元世界王者が名乗りを上げ、苦労していたスポンサーにも、日本ベンチャー協議会(楽天とかヒルズ族)が付いたようである。内藤にとってはファイトマネーの点も含めてネックが次々と解消されている。

仮想チャンピオンを4・6回戦ボーイにやらせる大毅と、仮想6回戦ボーイを世界チャンピオンにやってもらう内藤。こうしたトレーニングの差が実力差に加わるとすれば、内藤がどんなパフォーマンスを見せてくれるのかたいへん興味深い。

そして、これだけ外堀が埋まってしまうと、亀田一家としては「計量に失敗した」とか「手を痛めたから試合は中止」だとか言えなくなってくるので、ますます面白いことになると思うわけである。

[Sep 11, 2007]

内藤・大毅世界戦!

WBC世界フライ級タイトルマッチ(2007/10/11、有明コロシアム)
O 内藤大助(宮田、31勝22KO2敗2引分け)
  亀田大毅(協栄、10戦全勝7KO)

勝手な理由をつけて亀田陣営が試合そのものをキャンセルする可能性は決して小さくないとみていたが、無事(?)公式計量も行われ調印式も済んだ。

記者会見で「負けたら切腹や!」とのたまい、「なんで?」と冷静に内藤に切り返されて、「(刃物は)お前が用意せい!」などと逆上したらしいので、減量苦で頭が回っていないようである。もっとも、「俺のびごえ(美声)を聞かせてやる」とも言っているので、そもそも国語能力に問題があるのは確かである。

さて、リングに上がってしまえば誰も助けてくれない。「俺が勝つに決まっている」と根拠のない虚勢を張ってはいるものの、おそらく1R始まってしまえば勝ち目のないことは本人にも分かるはず。最近になってようやくスポーツ新聞も本音が出てきて、「いずれにせよ王者有利は動かない」という論調になってきたが、そんなことは少しでもボクシングを見ている者にとって常識であった。

また、かねて指摘したように初めてフライ級に落とした減量の影響で、大毅の調整は十分でない様子。おそらく試合前に反動でドカ食いしてさらに調子を悪くする可能性もある(トレーナーがまともでないので)。

だとすればどうするか。まず考えられるのは、最初から最後まで逃げ回って判定に持ち込もうとすることで、見栄も体裁もなくこれをやられたら内藤はかなり面食らうはず。ただ、内藤も「KOでも判定でも勝ちにいく」と言っているので、少しはそのあたりは予想しているだろう。

次に考えられるのは、まともに行ってもダメなので、とにかく頭から突っ込んでいくこと。内藤は試合間隔が短い上、目を切りやすいことはポンサク第二戦で証明済み。しかし、反則をとられるより前に内藤に動かれて「見えないパンチ」を食らう可能性が大きい。内藤の目と同様、大毅は鼻血を出しやすく、そうなると凄惨な試合になるだろう。

上の二つのケース以外、つまり大毅がガードを固めて前進するいつもの亀父直伝スタイルで臨めば、中盤8ラウンドくらいまでに内藤のKO勝ちとなる。

少しは勝負にしたいと考えるなら上のどちらかの方法をとる他はないが、ここまでヒール(悪役)に徹してきたのだから、せめて後者の方法、つまりダーティーファイトで意地を見せてほしいものである。もっとも、その場合でも7、8割方は内藤KO勝ちで動かないかもしれないが、もしかすると負傷判定くらいには持ち込めるかもしれない。

結論としては判定でもKOでも内藤勝ちで動かない。内藤には、内容とか国民の期待とか考えないで普通に実力差をみせてほしい。おそらく試合後には亀兄が「次は俺とやれ」となるはずだが・・・。ちなみに、この試合10日夜現在海外ブックメーカーのオッズが出ていない。あまりまともな試合だとは思われていないということである。



WBC世界フライ級タイトルマッチ(10/11、有明)
内藤大助 O 判定(3-0) X 亀田大毅

試合終了するやいなや、採点結果を聞いたのかというタイミングで亀田一家はチャンピオンコーナーのみならずファンにも関係者にもあいさつせず集団脱走。途中採点ですでに大差が開いていたので、覚悟の行動だろう。きっと今頃言い訳を考えているに違いない。私の採点では116-108で内藤。この中には内藤の減点1、大毅の減点3が含まれる。

今夜の試合の第一殊勲賞はJBC(日本ボクシングコミッション)だろう。はっきりいって低レベルの試合に、世界的名レフェリー、ビック・ドラクリッチ氏の起用である。ジャッジもデイブ・モレッティ氏など本場ラスベガス並みの布陣で、ボクシング界の威信を賭けて臨んだ。12Rのレスリング行為の減点合計3点など、世界水準では当り前だが亀田ルールではこれまでOKだったのである。

試合としてみると、正直なところ感心しなかった。ほとんど唯一の懸念は内藤が平常心で戦えるかどうかだったのだが、リングインの時にはすでに感極まっていたので「これはまずい」と思った。3Rに右目を切って余計にあせってしまい、動きがぎこちない。4R、8Rと途中採点で優勢だったので持ち直したが、序盤にダウンでもしていたら危なかったところである。

大毅も正攻法(?)の亀父直伝スタイルできたので、オーソドックスにジャブを突いていても良かったのに、ボディを狙いに行ったのがどうだったのか判断が難しい。ボディを打つには接近しなければならず、ここで左フックをもらって目を切ってしまった。逆にそうさせなかった大毅を誉めるべきかもしれない。

4Rの途中採点を聞いてからは内藤ペース。クリンチをうまく使ってロープにつまる場面をほとんど作らなかった。もともと、ロープにまっすぐ下がってフックを打たせてくれる一流選手などいないのだから、大毅がいくら首をひねっても無駄である。最後は苦し紛れのレスリング行為(それまでも再三見せていた)で最初に減点1、二度目に減点2を食らってジ・エンドとなった。

試合後に内藤が言っていたが、「どうしても勝たなくてはならないというプレッシャーが相当あった。ポンサク戦以上だった」ということで、まずは亀弟のメッキが剥げたことを安心したい。こういうプレッシャーがなければ、おそらく内藤は頭をつけて打ち合いに応じKOしたのではないかと思う。そして、脱走してしまったため亀兄の挑戦表明がみられなかったことも残念であった。

最後に、次男は7割方これで引退するのではないかと思う。

[Oct 12, 2007]

内藤・亀田大毅戦の技術(反則)論[Oct 16, 2007]

今日、JBC(日本ボクシングコミッション)の倫理委員会が開催されて、亀田父子の反則・反則教唆に対する処分が決定される。大毅本人と以前観客との騒動で厳重注意を受けている亀父のサスペンド(ライセンスの停止)という線が強くなってきているが、今日・明日で今回の世界タイトルマッチを総括してみたい。今日はまず、今回の試合の技術面に絞って議論してみる。

今回の試合、12Rの自殺行為は明日の問題として取って置くとして、それまでの試合展開についてどう評価するかというと、一言でいって亀田大毅の大健闘である。これはおそらく、ボクシングを見慣れた人ならかなりの部分が認めるのではないかと思う(全員ではないにせよ)。

直近の2つのタイトルマッチ、WBAフェザー級のクリス・ジョンと武本、WBAスーパーフライ級のムニョスと相澤、いずれもワンサイド、チャンピオンがほぼフルマーク(1Rも落とさない)のTKOないし大差判定勝ちである。

しかし今回の内藤・大毅戦は、反則減点を除くと、私の採点でもジャッジの一人の採点でも3ラウンドを大毅に与えている(あとからもう一度VTRを見たら2Rがせいぜいだとも思ったが)。ラウンドで9-3ということは普通に行けば117-111の6ポイント差で、決して圧倒的大差ではない。

実際、内藤はもちろんだが大毅にもダウンに近い状態はなかったし、最終ラウンドも、「もしかしていいのを一発もらったら内藤でもダウン取られるんじゃないか」と心配になるくらい、大毅のパワーは残っていた。

それに、内藤の強打をかなり受けていた(ボディーが大部分だが、顔面にも入っていた)にもかかわらず、けろっとして向かっていったタフネスは、なかなかのものであった。だからこそ内藤は試合後に、「さすがに練習しているだけあって、予想以上にやりにくかった」と認めたのである。

そして、反則云々で全てけしからんという論調になってしまったが、実力で劣る挑戦者が、レフェリーストップされそうな古傷を持つチャンピオンの傷口を狙っていくというのは、それがクリーンファイトなのかスポーツマンシップに則っているのかはさておき、作戦として当然といえば当然なのである。問題は、大毅がそうしたこと(反則行為)を見つからないようにやれるテクニックがなかったということなのだ。

例えばレスリング行為(投げ)をするのなら、パンチを振るって行って相手がクリンチしてきたところを振りほどくようにすれば、「あいつが組み付いてきたから仕方なくああなった」と言える。またバッティングでも、パンチを出しながら頭が前に行けば誰にも咎められないのに、パンチを出さないで頭だけ出せばそれはただの頭突きである。

確かトリニダード戦だったと思うが、ホプキンスが右強打を決めたその動作でショルダータックルをかましてダウンを取った試合があったが、要はそういうことである。やり方が下手くそなのだ。

兄の興毅が「ヒジでもええから、目に入れろ」というようなことを言った音声がテレビで流れたが、そんな高度なテクニックは大毅にはない(言う以上、興毅にはあるのだろう)。そんな実力差がありながら、大毅はあれだけがんばった。大したものである。

これまで私は大毅には日本ランキングの力もないと言ってきたが、先日の動きはこれまでのベストで、日本ランキングに入るくらいの力はあると認めるにやぶさかでない。

だからあの試合、12Rに当たらなくてもいいからパンチを振り回し続け、ラウンド終了のゴングまで攻め続けていれば、そして試合終了後本人だけでもいいから内藤コーナーにあいさつ(頭を下げなくても)していれば、道中あれだけ反則を繰り返していたにもかかわらず、大毅に対するボクシング界の評価(=商品価値)は試合前より全然上がったはずなのだ。これは断言してもいい。

にもかかわらず、なぜにあの一家はそれができなかったのか。それは明日また。



内藤・亀田大毅戦の戦略(?)論(その1)

亀田史郎 セコンド資格無期限停止
亀田大毅 ライセンス停止1年間
亀田興毅 厳重戒告

興毅にも(なお、試合のセコンドに入ることを禁じます)くらい入れても良かったと思うが、まずは妥当。かなり重い処分である。

世の中に受け入れられない人にありがちな傾向として、世間的な価値観とか権威といったものを否定することがある(私にも非常に覚えがある)。そしてそれと同時に(全く矛盾するのだが)、賞賛されたい、評価されたいという思いもまた強烈にあるのではないか。

亀田史郎氏(亀父)の場合、おそらくはその個人的な資質により、長らく世の中に受け入れられなかったのであろう。だから、少しは身に覚えのあるボクシングを息子達に教え込んだ。

世間並の価値観など否定しているから、学校に行かせなくてはとか人様に迷惑をかけないように育てるとかいったことは考えない。ただひたすら、息子を強くして金を稼ぎ世間の奴らを見返すことしか頭になかったものと推察される。

同じようなことを別の道でやろうとする人達は多い(いわゆる教育・・・以下自己規制)が、彼の場合目の付け所がよかったのと、たまたま長男に非常にボクシングの才能があったことから、それはうまく行った。彼は望みどおり金を稼ぎ、TBSその他社会的地位のある人達から下にも置かない扱いを受けることができた。まさに世間の奴らを見返すことに成功したのである。

だから、亀父の望みは、いま(タイトル戦前)の状況が永遠に続くことであった。もともと世界チャンピオンがなんぼのもんやと思っているし、外国から負けにやってくる選手を相手に、世界前哨戦と銘打って延々と「亀田場所」をやっていればよかったのだ。だから、「最年少世界王者」などという記録をキャッチフレーズに視聴率を上げようとするTBSの思惑など、実は迷惑以外の何ものでもなかった。



内藤・亀田大毅戦の戦略(?)論(その2)

今回の内藤戦、タイトルマッチが決まってからも亀父がさんざんゴネたという情報が流れている。長男はともかく、次男が内藤に勝てないことは火を見るより明らかなのだから、その考えは正しい。しかし、結局のところ亀父はTBS・協栄ジムに押し切られた。観客動員も視聴率も下ってきている上に、スポンサー(広告企業)もどんどん離れていっているからである。

そしてここが亀父の亀父たるところなのだが、勝てそうにないならどうやってダメージを最小限に留めるかと考えるべきところをそうせず、反則でも何でも使って勝つ、でなければ試合をぶちこわしにして訳を分からなくしてしまおうと考えたのである。

ファーストクラスに乗れなければビジネスでもエコノミーでも飛行機に乗れればいいやと考えず、ファーストに乗せないなら妨害して飛ばさないということである。

亀父にとって、自分を賞賛しない世間など受け入れられるものではない。試合が迫るにつれ、亀父の中では自分をこんな境遇に追い込んだ世間、TBSや協栄、そして本物の権威(チャンピオン)である内藤への憎しみが、おそらく膨れ上がっていっただろう。

加えて、有明コロシアムのあの雰囲気である。会場の大部分が内藤コール、大毅にはブーイング、内藤のトランクスにはスポンサーいっぱい、亀田家のスポンサーはどんどん引き上げである。頭に来た亀父は、レフェリー注意の時に「しゃー、なんやこら!」と内藤を威嚇するに至ったのであった。

しかし、TKO狙いで傷口を狙い打ちする(そのために、リングを規程より狭くし、床も動きにくいように柔らかな素材を使った)作戦は、もともとそこまではボクシングだから内藤チャンピオンには通じなかった。それで、おそらくはTKOが難しくなった7、8Rあたりから、「試合そのものをぶちこわす」つまり反則作戦に出たのである。

これは、単にインターバル中に指示したかどうかという話ではない。おそらく報道陣をシャットアウトした試合前何日かで、集中的に指示し練習したのではないか(でなければサミングなんてそう簡単にレフェリーの目を盗んではできない)。

だから試合直前興毅は何やら引きつったような顔でインタビューを受けていたし、12R前の指示「最後やからな、やってこい!」と言われて大毅がサイドスープレックスを繰り出したという訳である(ちなみに、以前の試合でもあれをやりかけたことがある)。

結局のところそれ以上のことはできず(大毅も疲れていてガードをするだけで精一杯)、そうでなければ中差の判定で済むところが大差の判定になって言い訳がきかなくなった上に、減点と明らかなボクシングルールからの逸脱という証拠によって処分を受けた。

亀父の思惑は完全に外れ、ボクシング界に彼のいる場所はなくなってしまった。ファーストじゃなきゃ嫌だと駄々をこねた末に、エコノミーにさえ座れなくなったのである。

無期限というのはJBCに頭を下げない限り復帰できないということだから、おそらく亀父絡みの試合が組まれることは今後ないだろう。大毅は、ボクシングが好きではないからあまりショックはないかもしれないが、再びリングで脚光を浴びることはない。問題は興毅で、彼の才能はこのまま潰してしまうにはあまりにも惜しい(JBCもそう思ったから厳重戒告にとどめた)。

興毅がリングに戻るためには、興毅自身が「キャンセル待ちでも結構ですから」という謙虚な気持ちを天下に示した上で出直すことが必要である。亀父にそれを期待するのは無理だが、興毅にそれができるかどうか。なんとか共倒れは避けてほしいとは思うのだが。(なんとなく、興毅だけはお詫び会見をするような気もしている)

[Oct 16, 2007]

内藤・亀田興毅世界戦

WBC世界フライ級タイトルマッチ(2009/11/29、さいたまスーパーアリーナ)
O内藤 大助(宮田、35勝22KO2敗3引分け)
  亀田 興毅(亀田、21戦全勝14KO)

いよいよ“国民の期待”内藤と亀田一家の最終決戦である。意外と盛り上がっていないのは、亀田一家のネームバリューが格段に下がっているためと思われるが、実際の試合内容も、かなりお寒いものとなる危険をはらんだ組み合わせである。

内藤有利というのが大方の予想だが、キャリアのピークからみると明らかに内藤の力は衰えている。35歳という年齢は現代では必ずしも限界という訳ではなく、40近くまで活躍する選手もいるけれど、これには個人差がある。内藤の前の試合(熊戦)をみると、体の動きもスムーズさに欠け、パンチにも切れが全くなかった。

対亀田ということになると、日本チャンピオンの時代に対戦を呼びかけたのに無視されたという前歴がある。とはいえ、すでに弟の大毅を下し、内藤自身もこれだけマスコミにもてはやされている中で、当時のモチベーションをどの程度維持しているかは未知数と言わざるを得ない。

かたや亀1号こと興毅。TBSの申し子としてWBAライトフライ級の世界王者となったのも今は昔。現時点では、弟の大毅に追い越されてしまったのではないかと言われる始末である。なぜそういうことを言われるかというと、ランダエタ以降3年間、まともな相手と全く戦っていないからである。

興毅の素質は相当に伸びるはずだったと今でも思っている。しかし、きちんとした指導者に付かず、また実戦でも切磋琢磨しなければ、伸びるものも伸びない。弱敵相手のチューンナップマッチも時には必要だけれど、全部の試合がそれではレベルアップする訳がない。先日のパッキャオ・コットのアンダーカード、チャベス・ジュニアがいい例であろう。

さて試合展開だが、アゴに弱点を持つ興毅が内藤に近づくことは考えにくく、おそらく足を使ってアウトボックスという展開になる。

清水智信に大苦戦したように、内藤はこういう展開は苦手にしているのだが、興毅は清水と違ってジャブから組み立てるということができない。「ノーモーションの左」とかよくTBSアナウンサーが絶叫するが、要はジャブが打てず強弱のアクセントがつけられないだけである。加えて、カウンターも下手くそときているので、内藤が前に出れば興毅は下がるしかない。

内藤が追い、興毅が距離を置き、パンチの交換がみられないということが十分予想され、そうなると大層面白くない試合となる。4R終了後の中間採点でまかり間違って興毅リードなどということになれば、興毅が逃げ回ってますます試合は膠着し、見ているこちらにとっては消化不良ということになるかもしれない。

面白くなるのは、興毅が事態を打開するために前に出なければならなくなった場合で、そうなると内藤の破壊力が発揮されることになる。興毅が本気で勝つつもりならそうせざるを得ないはずだが、そう思えないところが残念である。あとは内藤が古傷の目をカットした場合、興毅に「ヒジでもええから目に入れ」る技術があるかどうか。

予想としては、興毅が結局まともに打ち合わず、内藤がプレッシャーをかけて攻勢点による判定勝ち。このところ予想が当っていないので、今週も外れて大熱戦となることを期待したい。

WBC世界フライ級タイトルマッチ(11/29、さいたま)
亀田 興毅 O 判定(3-0) X 内藤 大助

いよいよ最終決戦、注目していたのは内藤チャンピオンがどのようなコンディションを作ってきて、どういう精神状態で戦うかということであった。そして、その見極めは、おそらく「ROMANTICはとまらない」の時の内藤の表情で、九分どおり分かるのではないかと思っていた。

心配していたように、内藤は大毅戦と同様というよりさらにハイテンション、一方の興毅はリラックスしたいい表情に見えた。この時点で悪い予感はした。ジョーさんがFightnewsに書いていたように、「日本人の多くは内藤の勝利を望んでいる」のだが。

そして、勝負を決めたのは2Rの興毅の左ストレート。これで、おそらく内藤は鼻か目の下に深刻なダメージを受けたと思われる。動きが極端に鈍くなり、一発を狙って大振りになってしまった。動きの鈍くなった大振りの相手にカウンターを当てるのは、興毅も仮にも元世界チャンピオンだからできるはずである。

私の採点では116-112で興毅。もっと差が開いたジャッジもいたけれど、内藤のスタイルでクリーンヒットがない場合、採点は取れなくて仕方ない。

結局のところ、35歳の内藤は熊戦よりもさらに衰えていて、23歳伸び盛りの興毅に完敗したということである。興毅もボクシング自体は弟よりかなりうまいし、ストレート主体なのでスピードがある。途中採点でリードすれば、こういう展開はあってもおかしくはなかった。ランダエタ戦の時にも書いたように、興毅の才能そのものは、辰吉にも匹敵するレベルと言ってもいいくらいなのである。

ただし、今日のボクシングで防衛路線を歩んでいくのはかなり茨の道といえるだろう。今日は内藤の不調と序盤のラッキーパンチで勝ったようなものであり、手数にしてもコンビネーションの組み立てにしても、世界のトップレベルに通用するとは思えないからである。とりあえず、ポンサクレック戦はなんとか回避するのが賢明であろう。

一方の内藤。昔の輪島と同じように、変則スタイルで体のキレがなくなってしまったのでは仕方ない。2ラウンドの左を食らうようなポジショニングは、大げさに言えばポンサク第一戦以来である。これが日本人相手で初黒星となるが、昨年の清水戦から衰えが目立っていたので、予想は外れたけれどそれほど意外ではない。あと、いくらなんでもバラエティー番組に出すぎだった。

それにしても、今夜はヤケ酒を飲むボクシングファンが多いだろうなあ。

[Nov 30, 2009]



内藤はなぜ負けたか

日曜日のタイトルマッチ、考えれば考えるほど、亀田が勝ったというより内藤が負けるべくして負けたという感が強くなってきた。

試合が終わった直後には、2Rのクリーンヒットで終わってしまったな、という感想であった。ボクシングも他の格闘技と同様、実力が伯仲していても(あるいは多少実力が劣っていても)、機先を制することにより試合を支配することができる。今年のタイトルマッチでいうと、リナレスの負け、コットの負け、いずれも機先を制されたことによるものである。

また昨年来、試合のたびに動きが悪くなっていく内藤の姿を見ていたので、やっぱり年齢的な限界が来たのかな、とも思った。35歳というと、昔は現役を続けることができる年齢とは思われなかったのである。

しかし、過去のチャンピオンの中には、機先を制され、しかも深刻なダメージを負っているにもかかわらず、試合を逆転した選手もいる。日本人チャンプでいうと、何と言っても大場政夫であろう。

大場は最後の2回の防衛戦、オーランド・アモレス戦、チャチャイ・チオノイ戦とも、初回に強烈なダウンを奪われている。チャチャイ戦に至っては足をくじいてしまった。足を負傷すると、フットワークが使えない上にパンチを打つときに力が入らない。まさに、致命的ともいえる状況にもかかわらず、その足で戦い続け、とうとう逆転KOに仕止めたのである。

また、年齢的な限界ということでは、バーナード・ホプキンスはじめ、シェーン・モズリー、マルケス兄弟など、最近のトップボクサーの中には30歳を越えてから一段と強くなっている選手が何人もいる。食事管理やトレーニング方法の改善、試合間隔、前日計量となったことなどにより、昔と比べるとボクサー寿命は格段に延びているのである。

ではなぜ、内藤にはいいところがなかったのか。確かにファイティングスピリットは見せてくれたけれど、技術的には全くといっていいほど持ち味が出せなかった。私が考えるに、おそらく内藤の敗因はオーバーワークではなかったかと思う。

テレビ用の映像ということもあるのだろうが、内藤のトレーニングをみるといつも目一杯である(階段上りやクロスカントリー、サンドバックにしても)。しかし、亀田の年齢であればともかく、30半ばの選手にはそれなりのトレーニング、調整方法があるのではないだろうか。純粋にスタミナ勝負や瞬発力勝負をしたら、35歳が23歳を上回るのは容易ではない。

考えられる要素としては、減量がきつくなったこと(年齢とともに基礎代謝は落ちる)、そして世界チャンピオンになる以前と違って、一日中ボクシングをできる環境にあることなどがあげられるだろうが、内藤の年齢であればこれまでの練習と経験で培ってきたものがあるはずで、実力を示すべきは練習ではなく、本番のリングなのである。

内藤のリングインの時の表情は、「無理している」ように感じられた。これはおそらく、左脳が「勝たなければ、倒さなければ」と思っている一方で、右脳では「ちょっとつらいよ。若い時みたいに動けないよ」と無意識に思っていたような気がする。表現に語弊があるかもしれないが、きつい練習をしすぎて本番は一杯一杯になってしまったのではないか。

(これは、中年というより初老の私も教訓とすべきことで、何でも若い人と同じようにやればいいというものではない。老兵には老兵の戦い方がある、ということかもしれない。)

実際の試合は皆さん見られたとおりで、2Rの左はポンサクレックと戦った時点ではかわせていたパンチなのである。1Rのフットワークもポジショニングも、よく考えるとおかしかったし、もしかすると2万人の観客(MGMグランドより多い)にも緊張してしまったのかもしれない。

さて、40%超という高視聴率、内藤にとって不本意な結果、長期防衛王者の特典ともいえる契約上のオプションなどを受けて、おそらく再戦に向けて動き出すことになるだろう。ただ、個人的な意見を述べれば、先週のようなコンディションと精神状態で戦う限り、内藤が興毅に勝つのは難しいような気がする。

内藤が昔の実力に近い状態に持っていくということだけ考えれば、ノンタイトルのスーパーフライ級10回戦、後楽園ホールで、内藤が入れ込まずコンディションをうまく持ってこれるような条件が望ましい。ただ、望む望まないにかかわらず大金とTBSが絡んでくるので、これは難しいかもしれない。

[Dec 2, 2009]

亀田大毅vsデンカオセーン2

WBA世界フライ級タイトルマッチ展望(2010/2/7、神戸)
Oデンカオセーン・カオヴィチット(48勝20KO1敗1引分け)
 亀田 大毅(15勝11KO2敗)

昨年10月、デンカオセーンが小差判定勝ちした試合のダイレクト再戦。日曜午後8時にTBS中継が入るが、正直言って試合内容は惨憺たるものになる可能性が大きい。

というのは、デンカオセーンはもはやモチベーションを維持しておらず、やる気がないだけでなくウェイトも作れないのではないかという噂があるからだ。事実、一昨年の大晦日に坂田をKOしてチャンピオンとなってから、昨年行った試合は久高戦と亀田戦のみ、いずれも手数がほとんど出ない不出来な防衛戦であった。

タイの選手はあまり試合間隔を開けないのが普通で、世界タイトル防衛戦の合い間にノンタイトルを入れることもしばしばである。それが大きなケガもないのに年2試合しか行えないというのは、通常のコンディションにはないと考えざるを得ない。

坂田がタイトルを取った試合も、ロレンソ・パーラにやる気がなくウェイトオーバーだった。俗に「タイトルをカネで売る」ともいわれ、挑戦者陣営のマネージメント力(つまりカネ)がモノを言う世界である。そのこと自体の是非を論じても始まらない。ボクシングでは割とよくあるパターンで、特にキャリア晩年の軽量級選手に多い。

さて、その場合デンカオセーンはパンチを出さない。一方が手を出してもう一方が出さなければ、クリーンヒットやダメージに関係なく判定は出した方に行く。亀2号の唯一の武器であるフックが決まるならともかく、そういう盛り上がらない試合になれば入場料を払っているファンはいい面の皮ということになる。ところが、噂ではそうなる可能性がかなり高いようなのである。

とはいっても、まじめに戦えばデンカオセーンのキャリアとテクニックが上位なのは間違いない。マネージャーとごたごたしていた位だから、ここで防衛して坂田戦でもうひと稼ぎという心変わりがあるかもしれない。その場合は、前半戦である程度勝負の目処をつけてしまうだろう。

ということで、この試合を見るとすれば2、3Rまで。ここでデンカオセーンにやる気がなければ、99%惨憺たる試合になるので、精神衛生上それ以上見ない方がいいかもしれない。幸い、関東でテレビ観戦の方は、裏番組で「ビフォー&アフター」をやっている。生観戦の人にはお気の毒である。

(そういえば、以前スーパーアリーナにウィラポンvs西岡4を見に行った時、ダブルタイトルマッチの後半、戸高の試合がとんでもない凡戦で、7~8Rで席を立ってしまったことがあった。相手のフリオ・サラテも相当だるい選手だったので。)

WBA世界フライ級タイトルマッチ(2/7、神戸)
亀田大毅 O 判定(3-0) X  デンカオセーン

亀2号こと大毅が勝って、これで兄弟同時世界チャンピオン。同じ兄弟同時チャンプでも、ビタリとウラディミールとはちょっと格が違うけど・・・。

前日計量後に、亀3号和毅がデンカオセーンを挑発、あわや乱闘というニュースがあったので、もしかするとデンカオがやる気になるかと思った。実際、前半のボディ打ちはそれなりに気合が入っていたのだが、レフェリーの余計な減点でやっぱりやる気をなくしてしまった。減点なしでも採点結果は同じだったが、あれで試合の流れが決まってしまったのは残念である。

中盤ではやっぱりクリンチとレスリング行為の連続で、デンカオのパフォーマンスが落ちていたのは確かだが、試合前に予想したほどには惨憺たる展開にはならなかった。デンカオも大毅もいいパンチを入れていたし、迫力のある打ち合いもあった。世界タイトルマッチという水準にあったかどうかはともかく、両者それなりに見せ場は作ったといえるのではないか。

大毅の強みは、何と言っても打たれ強いことである。坂田が2度の対戦で、かなりひるんだところがあったデンカオの右ストレートに対して、全く効いたそぶりを見せなかった。ボディは前の試合と同様かなり打たれており、レバーを狙う左フックではなく大部分が右からとはいえ、あれで嫌になってしまう選手は日本ランカークラスでも結構いるはずだ。

加えて、これまでのフック一辺倒から、左ジャブ、右ストレート、左フックのコンビネーションが使えるようになったのは改善された点である。特に、出会い頭の左フックにはなかなか見所があった。兄・興毅のいいところを取り入れたことで、試合ぶりに幅が出来たといえそうだ。1ラウンドに足を使ってジャブを打ち込んだのを見て、「何だこれは」と驚いてしまったくらいである。

さて、デンカオセーン不調が伝えられていた中で、大毅勝利 → 減量苦でタイトル返上 → 坂田は王座決定戦登場、はほぼ規定路線。大毅はこの勝利を手土産に上の階級へ向かうことになると思われるが、Sフライに名城、バンタムに長谷川、Sバンタムに西岡がいるのに、彼らに挑戦することはなく、おそらく再び世界前哨戦商売(?)となりそうだ。

それにしても、内藤に挑戦したときには反則三昧で1年間出場停止だった選手が世界チャンピオンとは、タイトルの価値も落ちたものだが、これもデンカオごときにタイトルを取られた坂田のせいである。それを考えると、本来は今日の試合でタイトルを取り戻せるはずだった坂田にも、あまり同情する気にはなれない。

[Feb 8, 2010]

興毅vsポンサクレック、亀1号陥落!

WBC世界フライ級タイトルマッチ展望(2010/3/27、有明コロシアム)
O亀田 興毅(22戦全勝14KO)
  ポンサクレック・ウォンジョンカム(74勝39KO3敗1引分け)

先週のクリチコ兄弟が世界のボクシングファンの熱い視線を集めるヘビー級兄弟チャンプであるのに対し、今週の亀田兄弟は極東の一部ファンの生温かい視線を集めるフライ級兄弟チャンプである。とはいえ、いつ負けるのかという関心を呼んでいる点では共通しているといえないこともない。

「国民の期待」内藤をワンサイドの判定で下して2階級目を制覇した兄の興毅が、実力的には弟の大毅より上であろうというのは、ほぼ衆目の一致するところ(ただし、打たれ強さでは弟が明らかに上)。弟がデンカオセーンに勝てるのだから、兄貴はポンサクレックに勝てるだろうというのも大方の予想。だから、今回の一戦、勝敗についてはそれほど盛り上がっていないようだ。

とはいえ、何と言ってもWBCの王座統一戦である。両チャンピオンには、王者にふさわしいパフォーマンスを見せてほしいものである。

興毅は前回の内藤戦でこれまでのマイナス評価を一気に挽回したものの、やる気のある外国人選手との戦いはアランブレッド、ランダエタ戦以来になる。その両者はミニマム級から上がってきた選手で体格的に有利であり、右ジャブで距離を作っての左ストレート、左からボディへのフック、ノーモーションの右といった武器が有効であった。

一方、内藤戦では体格的なアドバンテージがなかったことから、徹底して待ちの作戦。気負った内藤が前に出るところへ、狙いすました右が何度も決まった。今回は内藤戦と違って引分けでも防衛であるので、前回同様自分から出ることはないだろう。ただ、今回は相手もサウスポーであり、より距離が近くなることから打ち合いに巻き込まれる可能性は少なくない。

かたやポンサクレック。日本人選手には内藤以外ほとんどKO決着で片付けていることから、無敵チャンピオンの評価は高いものの、タイと日本以外ではほとんど試合したことがない。暫定王者となったフリオ・セサール・ミランダ戦は久々の中南米の相手で、判定勝ち。接近しても離れてもカウンターが強烈だが、年齢的にスピードが落ちてきており、過大評価は禁物だ。

試合展開としては、興毅の待機策をポンサクがどう打開していくかということになる可能性大で、そうなると、23歳対32歳のスピードの違いが出てしまうのではないだろうか。興毅の判定勝ちを予想するが、ポンサクが圧倒的なパワーの差を見せれば、それはそれで文句はない。

WBC世界フライ級タイトルマッチ(3/27、有明)
ポンサクレック・ウォンジョンカム O 判定(2-0) X 亀田 興毅

私の採点は115-112でポンサクレック。私が亀に振り分けたラウンドは、1、3、7、12Rとバッティング出血の減点1。

「その無作法とアンスポーツマンライクな態度で、日本で最も嫌われているボクサー」とジョー小泉氏に世界に向けて発信されてしまった亀1号・興毅だが、以前から繰り返しているようにボクシングセンスは近年の日本人ボクサーの中でも抜群であった。しかし、まともな指導者に付かず、まともな相手と戦ってこなかったツケを、この大一番で払わされてしまったという気がしてならない。

おそらく試合前の作戦としては、内藤戦と同様に距離をとっての待機策、ポンサクが無理に前に出てくるところにカウンターを合わせるということだったと思われる。しかし、誤算その1は両者サウスポーなので距離が近く、ポンサクがそれほど無理をせずにボディへの左フックやアッパーを放つことができたこと。打たれ弱い興毅にとって、軽いパンチでも細かく当てられたのはダメージとなった。

もう一つの誤算は、4ラウンド終了時の中間採点で予想外の大差を奪われたことである。私の採点ではここまでイーブンだし、正直40-36はないように思う。ポンサクの有効打を評価するなら、試合終了時に119-108というジャッジがいなければならないのだが、そういうスコアシートはなかった。これで、亀田陣営としては前に出なければならなくなった。

だから5Rにバッティングで目を切ったのも偶然ばかりではない。作戦変更で前がかりになって、しかも技術がないものだから頭だけ前に出てしまった結果である。こういう時に、適切な指導者がコーナーにいればよかったのだが、弟2人が気合を入れるばかりで局面を打開することはできなかった。6R以降は一方的な展開といっていい。

テレビで見ても有明の客席はがらがらで、一時の異常なほどの亀田人気も落ち着いたようだ。TBSがやたらとポンサクのクリーンヒットを指摘していたのも亀田離れの表われではないだろうか。まだ若いのだから修業し直せばなんとかなるかもしれないが、あの親父が付いている限りそれも望み薄なのかもしれない。

[Mar 28, 2010]

大毅vs坂田!

WBA世界フライ級タイトルマッチ展望(2010/9/25、東京ビッグサイト)
 亀田 大毅(17勝11KO2敗)
O坂田 健史(36勝17KO5敗2引分け)

先週のダブル世界戦を含めて、この秋日本で多くの世界戦が行われるが、欧米のブックメーカーでオッズが出ているのはただ一つ、西岡vsムンローだけである(西岡が1.3倍のFavorite)。この試合も、現チャンピオンと元チャンピオンの対戦だというのに、世界的な注目度は残念ながらほとんどない。

ロレンソ・パーラ、ロベルト・バスケスに勝っている坂田の実績は、現チャンピオン大毅より明らかに上である。ただ、内山と同じ30才(来年1月に31)とはいえ、すでに12年のキャリアがあり、さほど器用なボクサーではないので打たれ続けた疲れもたまってきている。デンカオセーンにKOされたのは、明らかにその影響が出た。

だから今回の試合も、若い大毅のクリーンヒットをもらって早いラウンドでのKO負けという可能性も、3割くらいはあると思う。まして大毅は、内藤ともデンカオともフルラウンド戦っているように、打たれ強くてスタミナがある。もちろん減量はきついだろうが、過去3度フライ級で戦っているので、体は作ってくるはずである。

とはいえ、順当なら坂田の勝ち。大毅の武器は基本的にフックであり、坂田がデンカオ戦の二の舞を踏まなければ、まともに被弾することはない。そして坂田のような細かく正確な連打は、亀田兄弟が苦手とするのではなかろうか。興毅より足がない大毅は、打ち合いに持ち込まれることになるだろう。後半大毅の手が止まって、坂田判定勝ちと予想する。

WBA世界フライ級タイトルマッチ(9/25、東京)
亀田大毅 O 判定(3-0) X 坂田健史

後半手が止まるのは大毅と予想していたが、手が止まったのは坂田だった。私の採点も116-112、しかも坂田寄りに付けてこのスコア。ジャッジの一人は118-110としていたが、これもあり。判定は文句ないだろう。

もちろん、坂田が受けたバッティングの大きな負傷が影響したことは間違いないが、それよりも大きかったのは左右のフックを再三にわたりまともに被弾したことだろう。大毅は足も使って距離をおき、坂田の打ち合いペースに巻き込まれなかった。その点、大毅の成長は認めざるを得ない。

坂田のセールスポイントは細かい連打が止まらないことである。その前提となるのは、相手の大きなパンチを食わないということであり、つまりディフェンスがしっかりしているということであった。ところが、デンカオ戦の前あたりから相手のパンチをまともに食らうようになった。この日も、その弱点を突かれるおそれはあるとみていた。

その点は坂田も気をつけていて、1~2Rはポイントを取られることを承知でゆっくりスタートした。ところがバッティングで受けた傷が深く、多分負傷判定に持ち込まれることを想定したのであろう、かなりのハイペースで前に出始めた。いつもより振りが大きく、その打ち終わりに左フックを合わされてしまった。

中盤では右目もヒッティングで切り、両目とも見えづらくなった坂田が明らかに失速した。接近して細かいパンチがノンストップで出続けるはずの坂田が、自らクリンチに行くのは悲しい場面だった。その意味で最大の敗因は、歴戦の疲れが蓄積したということになるだろう。少なくとも世界レベルの相手の現役続行は難しいと思われる。

さて、減量苦からタイトル返上が濃厚な大毅、すでにそれを見込んで、暫定チャンピオンであるルイス・コンセプションの次の防衛戦は、デンカオセーン相手に10月に行われる。大毅のタイトル返上がいつになるかが微妙だが、おそらくこの勝者が正チャンピオンに昇格しそうだ。清水、久高といった世界上位ランカーのチャンスは、なかなか巡ってきそうにない。

[Sep 26, 2010]

河野beats亀1@シカゴ

WBA世界スーパーフライ級タイトルマッチ(2015/10/16、米シカゴUICパビリオン)
O 河野 公平(ワタナベ、30勝13KO8敗)
  亀田 興毅(ヘイモン、33勝18KO1敗)

世界的なビッグマッチの前日に、日本ローカルで注目を集めるこの一戦。一言でいえば何年か前にピークを過ぎてしまった両者の、劣化度を測る戦い。どちらも負けそうだが、予想としては弟2人が負けている亀1の負けにツラを張ってみたい。

亀1のバンタム級は、モレノがスーパーチャンピオン時代のレギュラーチャンピオンで、戦った相手も一流クラスはおらず、評価するにあたらない。WBAレギュラー王者がすべてそういう体たらくではなく、キース・サーマンとかスコッド・クィッグとかちゃんとしたチャンピオンもいるから、これは本人の責任だろう。

そのバンタム級で最後の試合、Boxrecに写真も載っていない急造ランカー相手に、ダウンを奪われてスプリット・デシジョンだから実質は負け。その後調整試合まで1年開いて、さらに今回まで1年開いた。「練習しなくても勝てる」と言っているくらいだから本当にしていないんだろう。

かたや河野、ノンストップで打ちまくるアグレッシブさは2008年の名城戦あたりがピークで、ロハス、佐藤、戸部と3連敗したあたりでは、完全に終わったと思われた。昨年になってデンカオセーンに勝ってチャンピオンになったものの、いいのがうまく当たっただけのようにも思うし、その半年後に松本亮にあっさりKOされたデンカオが往年のデキにはなかったともいえそうだ。

繰り返しになるが、両者ともかつての力がないだけに、モチベーションの有無が勝敗を分けそうだ。亀1にとってはここで負けると兄弟揃ってリリースされるという危機、河野にとっては何度も世界戦の機会を作ってくれた会長への恩返し、どちらともいえないが、亀1が足を使って丁寧に戦えるとは思えない。まともに打ち合ったらいくらなんでも河野だろう。

WBA世界スーパーフライ級タイトルマッチ
河野公平 O 判定(3-0) X 亀田興毅

オッズを聞いた時は、ラスベガスまで買いに行こうかと思った。興毅1.1対河野7.0などというハンデはありえないからである。おそらく、河野ファンはスポーツブックなど買わないが、亀ファンには大口投票をする人がいるのでこうなったのだろう。(念のためいえば、William Hillなど「まともなところ」はこの試合のオッズは出していない)

試合展開はほとんど予想どおり。興毅は足を使えないだろうと予想したがその通り。打ち合いになったらいくらなんでも河野というのも予想どおり。あとはお互いのモチベーションと打たれ強さの勝負となった。

興毅はバンタム級最後の防衛戦ほどひどくはなかったが、ほとんど一本調子の河野に対して打ち合いという最も相手が望む対応をしてしまった。ラスベガスでサラストレーナーに教えてもらって、「もう少し早く教えてもらっていたら」と言ったというけれども、そんなことは十年前から分かっていたことである。(10年前の当ブログにこんなことを書いている)

ちなみに、私の採点は115-109河野。試合としては、両者ほとんど休まずに打ち合ったのでスリルがあった。河野が効いたのは3回くらい、興毅が効いたのはダウンも含めて4回くらいで、これも河野の優勢。もらったダメージも、顔のハレをみれば明らか。そして、河野が2Rに受けたローブローはかつて多くの外国人選手が煮え湯を飲まされたもので、中立レフェリーでやれば当然反則である。

興毅に内藤戦の頃の力が残っていれば、足を使って河野の前進をいなし、細かくジャブを当て(もちろんガードの上に)、ポイントアウトしてチャンスにカウンターを決めることができたかもしれない。そうされた場合、河野には作戦の引出しがないから、逆の結果が出たことは十分ありえることだったと思う。

しかし、興毅にはそれができなかった。力が衰えていることが一つと、成長期にきちんとしたトレーニングをせず、日頃の生活から節制していなかったからである。私は、いくら態度が悪くても、コミッションといざこざを起こす人間であっても、ボクシングが強ければすぐれたボクサーであると以前から思っている。

例えばメイウェザーの性格の悪さは有名だし(なんたって「カネの亡者」である)、マイク・タイソンは禁治産者かつ性格破綻者である。エドウィン・バレロに至っては家庭内暴力の末に奥さんを殺して自分も死んでしまった。それでも、彼らがすぐれたボクサーであることには誰も異議をはさまない。リングの上で文句のつけようのない実績を示したからである。

亀田ブラザースを私が(そして多くの人々が)評価しないのは、リング外のパフォーマンスは達者だが肝心のボクシングがつまらないからである。これは、長男、次男、三男いずれも同じである。でも、少なくとも長男は、きちんとトレーニングすればそれなりのものを見せてくれたと思うけれど、十年遅かったようである(どうやら引退らしい)。

一方の河野。とにかく全米TV放映のある(あったと思う)試合で勝てたことは、本人にとっても、ジムメイトの内山にとっても、意味のあることだったと思う。ただ、今回は劣化度において亀1が上回っていたというだけのことで、河野が力を付けたということではない。残念ながら、他団体のどのチャンピオンとやっても劣勢だろう(もしかするとフライ級のチャンピオン達にも)。

あと、米国のリングで日本人選手同士が戦うというのは、やはり無理があったと思う。レフェリーが何を注意していたか二人には分からなかったと思うし(なにしろ河野は、「Still」とアナウンスされているのにきょとんとしているし)、「クリーンにファイトしないと試合中止だ」と言われた後、相手のバッティングやローブローのアピール合戦になってしまったのは、完全にレフェリーの趣旨を分かっていない(あのレフェリーも?だが)。

最後にもう一つだけ。テレビ東京でインターバルに流したスニッカーズの宣伝のセンスの悪さにはあきれた。あのCMを見て、スニッカーズに好意を持つ人が何人いるのだろうか。

[Oct 17, 2015]

ページ先頭に戻る    海外観戦記    国内観戦記    ボクシング記事目次