亀田家の起こした裁判の記録


合法的いやがらせ 拳論vs亀田    先送りは悪いことばかりじゃない    亀田問題その後の推移
亀田vsJBC半年経過    亀田vsJBC1年経過    亀田vs拳論・片岡氏出廷
亀田vsJBC職員・東京地裁判決    亀田vs拳論判決!


合法的いやがらせ 拳論vs亀田

個人的なことだが(と前置きして)、ボクシングブログ「拳論」に対する亀田兄弟の損害賠償請求訴訟について、意見をまとめておきたい。結論から先に言うと、拳論およびライターである片岡亮氏を応援するため、「スラップ訴訟被害者支援の会」に些少ではあるが寄付をさせていただいたところである。

ボクシングファンでない方もいらしゃるので、この件を簡単におさらいしておく。

去年9月に行われたIBFスーパーフライ級王座決定戦、亀2こと大毅vsロドリゴ・ゲレロ戦において、契約ではそれぞれ希望するグローブを使用することとなっていたにもかかわらず、亀田サイドは両者とも日本製グローブを使用すべきだとして、JBC(日本ボクシングコミッション)職員を監禁・恫喝したとされる問題である。

この件については、東京スポーツでも報じており、現地にいた片岡氏も「拳論」コメント欄に速報を入れた。しかし、それが気に入らない亀田サイドは、興毅・和毅を原告として、片岡氏に事実無根の風評により名誉を棄損されたとして、2000万円の損害賠償請求を起こした。

この種の訴訟は「スラップ訴訟」と呼ばれ、経済的強者が自らの立場を利用して相手に圧力をかけることが目的である。訴訟の勝ち負けははっきり言って問題でない。相手が提訴されたことにより、心理的財政的な負担をしなければならないという時点で、すでに目的は達せられているのである。

実際に被害に遭ったJBC職員が、興毅・和毅と亀田ジム関係者に対し損害賠償請求をしていることからみても、おそらく監禁・恫喝は事実であろう。ただ、問題はそこ(だけ)にあるのではないと思っている。

スラップ訴訟そのものが違法という考え方もあるが、私は個人的にはその見解をとらない。それは立法・司法で救済すべき問題である。損害賠償請求そのものは法で認められた正当な権利であり、亀田兄弟のやり方はいかがわしいとはいえ裁判所の判断を仰ぐことは妨げられない。これはいわば、合法的な嫌がらせなのである。

お前は嫌がらせを認めるのかと言われるだろうが、嫌がらせは世界にあふれていて、完全になくすことはできない。合法であって経済的な圧力という手段であれば、他の嫌がらせよりもまだましだと思っている。というのは、その手段によらなければ直接的身体的な嫌がらせになる可能性が大きいからだ。

サラリーマンであれば、業務命令という名前の嫌がらせを受けていない者は少ない。運転をすればネズミ獲りがあり、役所に行けば順番を待たねばならず、街を歩いていればガードマンに進路を遮られる。世の中の規則・ルール・申し合わせの少なからぬ部分は、誰かにとって嫌がらせである。

だから、裁判という手段をとることは認めよう。しかし、どちらを応援するかは自由だ。私としては、しょっぱい試合でボクシングの興趣を著しく損なってきた亀田兄弟よりも、迫力あるブログを作りみんなが知るべきであるニュースを伝えた片岡記者の方を、全面的に応援したいのである。

ブログを閲覧したからといって、片岡氏に手数料が入る訳ではない。しかし、ブログの記事によって知るべきニュースを知ることができたという意味で、受益者の一人は私である。その結果こういう事態となったからには、ぜひ協力したいのである。

その意味では、必ずしも募金額が問題なのではなく、むしろ、何人が自分の懐を痛めて応援するかに注目している。亀田のしょっぱい試合には入場料を払いたくはないが、片岡氏の対亀田の戦いには支援しようという人がどれくらいいるだろうか。

そして、亀田兄弟の人気といわれるものも、元をたどればTBSの番組制作費であり、スポンサーの広告費支出であり、もともとわれわれがスポンサーの商品を買ったおカネである。彼らが自分自身の迫力あるファイトによって築きあげてきたものではない。

直接か間接かの違いはあるものの、亀田に対するNOの意思表示は、こうした形で表されるべきであると考えるのである。自分達の名誉がたかだか2000万円で回復されると思っている兄弟に、そんなことは嫌がらせにさえならないという位の人数・募金額が集まれば、彼らの思惑は完全に裏目に出るのである。

[Feb 24,2014]

先送りは悪いことばかりじゃない JBCvs亀田

2月7日のJBCによる亀田ジムと亀田3兄弟のサスペンド(ライセンス停止)から、早いもので約1ヵ月が経過した。亀田サイドからはさまざまの小細工が行われているようであるが、いまのところ、大きな動きはない。大きな動きがないということは、JBC対亀田の戦いはJBCペースで進んでいるということである。

強烈なアンチ亀田の人たちにとって、動きが少ないことは物足りなく思えるかもしれない。TBSが中継打ち切りを決断し、IBF、WBOが兄弟の王座を剥奪し、ジムのオープンが暗礁に乗り上げれば多くのファンにとって溜飲が下がるのかもしれない。ただ、長いこと社会人をしてきた経験から言えば、激しい動きには必ずリアクションがある。このように問題の多くが先送りされている状況は、決して悪い方向には向かっていないと思う。

まず認識した方がよろしいのは、この争いはわかりやすく言えば兵糧攻めなのである。JBCが囲む側、亀田サイドが籠城する側である。事態が変わらないで時間がたてばたつほど、籠城側の食糧はなくなり、打つ手が限られてくるのである。

処分前に発表された亀3・和毅の防衛戦は、いまだに正式発表がない。4月か5月にやるのであれば、当然会場は押さえておかなくてはならないし、無観客でやるのでなければチケットだって売る準備がある。それができないということは、TBSの中継が決まっていないということである。

TBSはいまだに方針を明らかにしていない。もちろん、情勢の推移をみているのであろう。TBSにしたところで、反社会勢力とのつながりが噂され、JBCからもサスペンドされている亀田一家と親密とみられることは避けたいはずである。事態が解決に向かわない限り、少なくとも株主総会が終わる6月までは、TBSが姿勢を明確化することはない。

試合が組めないということになると、亀田サイドは困る。TBSからの制作協力費やファイトマネーは入ってこないし、新しくオープンする三軒茶屋のジムの宣伝もできない。ちなみに、JBCにサスペンドされているからといって、ジムをオープンすること自体には問題はない。ここからプロの選手がデビューできないというだけである。ただ、こういう事態で客が集まるかどうか。

苦しいのはJBCも一緒だという人がいる。ただ、JBC自体は財団法人(現在は一般財団法人)であって、必ずしも収益を目的とはしていない。基本的には収支が合えばいいのであって、毎年内部留保を増やさなければ存続できないという団体ではない。仮に、対亀田の訴訟費用が収益を圧迫したとしても、それはライセンス料、加盟料、承認料等の増額によって対応することになる。つまり、亀田サイドは業界全体に喧嘩を売っているということである。

もちろん、費用の増加から収入の増加までにはタイムラグがあり、その間の資金繰りはどうするかという問題はありうる。とはいえ、JBCのバックは東京ドームである。巨人軍のホームゲームという圧倒的な収益源を持つ東京ドームと、新規ジムの集客にさえ暗雲が漂う亀田ジムとの体力差は歴然としている。JBCが資金繰りに困る事態よりは、亀田ジムが困る事態を想定する方がはるかに現実的である。

つまり、このまま何も起こらずに裁判手続きに入るという事態を避けるべきなのは亀田サイドであって、JBCは困らない。亀田サイドに可能な選択肢があるとすれば、協栄ジムの金平会長が言うとおり「興毅引退→会長就任」であって、年初にこれをやられたらJBCも厳しかったかもしれない。元世界チャンピオンが自分のジムを持つのをダメという理屈は立てづらいからである。

ところが、興毅は職員恫喝・訴訟騒ぎでJBCと事を構えてしまった。だから、この選択肢も使えない。私が北村弁護士の立場なら、JBC・拳論との訴訟合戦などさっさと和解に持ち込んで、興毅に一度引退させてジムを存続させる。興毅にやる気があれば、ほとぼりがさめた頃にカムバックさせればいいし、その時までに新会長を人選して時間をかせぐ。

ただ、時間が経てばたつほどこの手も使いづらくなる。亀田に同情的とされるIBF、WBOにしたところで、長期間防衛戦をしなければ入札指示なり暫定王者なり置かざるを得ない。亀田兄弟が本当に強ければ中南米の多くのチャンピオンと同様に敵地で防衛戦をすればいいのだが、彼らにそれをするだけの度胸があるかどうか。

ここでもっとも辛いのは、亀田兄弟の試合をぜひ見たいというファンなど、あまりいないことである。ギネスに載った三兄弟同時王者などと威張ったところで、試合自体がつまらないのだから仕方ない。私だって、亀田兄弟の試合など別に見たくはないし、このままフェイドアウトしてもらうのが一番好ましい。

思えば、興毅が出てきた頃には徳山、新井田、イーグルくらいが世界チャンプで、西岡・長谷川も国内限定だったが、いまや内山・三浦をはじめとして本物の世界チャンピオンは大勢いる。亀田兄弟などを応援しなくとも、面白い試合・期待できる試合は数多く存在するのである。

[Mar 3,2014]

亀田問題、その後の推移

亀田を巡る問題について、先月注目すべき3つのニュースが流れた。しかしながら3つとも正式発表には至っておらず、逆風の強さに対する観測気球といううがった見方も出ている。いずれにせよ、サスペンドから半年経とうとしている中で、兄弟の試合は目途が立たない状況が続いている。

第1のニュースは、当初4~5月と発表されていた亀3・和毅の防衛戦が予想通り延期となり、なんとカネロvsララの7/5ラスベガスMGMのアンダーカードでやるらしいということである(正式発表はないが、いまだにBoxrecにはそう書いてある)。

ラスベガスでPPVとなると大変なことだが(日本選手絡みでは、荒川vsリナレスで繰り上がりPPVとなったケースあり )、果たして見る人がいるのだろうかと思っていたら、案の定正式発表されたPPVの4試合はファンマ、アブネル・マレスといったビッグネームで、軽量級で知名度もない亀3の出る幕はなかった。

PPV以外で、落札したファイトマネーを払えるのだろうか。確か指名戦の落札価格は1千万円を超えていたはずだが、PPVに乗らないアンダーカードのファイトマネーが5万ドル以上ということは考えにくい。そこでありうるのが、TBSがWOWOWから権利を買って後日放映という可能性である。1千万円もクリアできるし、7月ならばTBSの株主総会が終わっている。

私の予想では、可能性は半々である。ゴールデンボーイ・プロモーションとしては、前座の前座みたいな試合にこだわりはないはずで、場所くらいは貸してくれるだろう。問題はTBSが放映権を買うのかという点と、亀田ジムがニュートラルなジャッジでやる度胸があるかという点である。もっとも、亀3のタッチボクシングは、客はともかくラスベガスのジャッジ向きではある。

第2は、現在JBCによりサスペンド中の亀田ジムについて、協栄ジムの元トレーナーである大竹氏を新会長として再申請を行ったというニュースである。

これについては、東日本ボクシング協会の大橋会長や協栄ジム・金平会長が「そう簡単には認められない」とのニュアンスを出しているが、私の予想では、形式的にでも基準を満たしていれば、結局は認めざるを得ないだろうと考えている。形式的の中身は、業界経験のある人物であること(これはクリアしている)と、二度と同じことは起こさせない保証である。

一説によると、帝拳の本田会長が保証人に立つという。本田会長が登場すればさすがに誰も反対できないが、果たして本当に火中の栗を拾うのだろうか。いずれにしても、亀1の謝罪(?)会見は避けられないと思われるので、どの面を下げて出てくるか楽しみだ。

拳論を見ていると、亀兄弟の復帰絶対反対という論調がみられるのだが、そうした人たちに言いたいのは、じゃあんた方、亀兄弟に訴訟を起こされてる片岡氏をちゃんと応援しているのか、ということである。訴訟カンパの額は50万円余、後楽園ホールの入場料にして100人くらいしか応援していない。けしからんと言うだけでは単なるクレイマーである。

第3は、第2とも密接に関連するのだが、WBAがスーパーフライ級チャンピオンの河野公平に対し、指名挑戦者として亀田興毅と対戦指示を下したというニュースである。これについては先週末に追報があり、亀田ジムのJBC認可を条件として8月くらいの実施を両陣営が合意したと伝えられる。

おそらくすでに水面下では、業界内の根回しが行われていると思われるが、私は個人的に、この対戦は見てみたい。本当に亀1が「えぐいくらい強い」ならば河野を相手にしないはずだし、赤穂でも岩佐でも山中とだって誰でも来いということだろう。公開処刑になるのか、実は本当に強かったのか、どうなるか楽しみであり、少なくとも元世界チャンピオンにそれくらいのチャンスは与えるべきだろう。

[Jun 1,2014]

亀田vsJBC 半年経過

今年2月にJBCが亀田ジムをサスペンドしてから、早いもので半年が経過した。

7月に亀3・和毅が、ラスベガスでカネロ・アルバレスのアンダーカードに出場、KO勝ちしてアル・ヘイモンの傘下に入り、バンタム級戦線で世界の強豪とマッチメークされつつあるのがほとんど唯一の動きであるが、負ければ終わりの厳しい状況にあることは間違いない。一方で、興毅・大毅の兄弟は、依然として国内での試合ができないままの状態が続いている。

亀1・興毅はスーパーフライ級でWBAチャンピオン河野公平の指名挑戦者となっており、大竹氏の3Kジム継承、UNITEDジム移籍などの動きが報じられたものの、結果的にどれも実現せずに現在に至っている。テレビ東京の中継を見込んで会場を押さえたとされるワタナベジムも次々とキャンセルに追い込まれ、ついには別の挑戦者で防衛戦という観測も出始めている。

もともとJBCの処分は、ガバナンス不足の亀田ジム(実質的な責任者はいまだ親父)に対して課せられたもので、3兄弟はまともなジムに移籍さえすればお咎めなしのはずであった。ところが、亀田兄弟はそれに服せず、あくまで親父とともに独自の道を模索しているようである。

大竹氏がジムを継承するという動きがあった際には、業界重鎮の帝拳ジム・本田会長が保証人に立つという噂があったが、これは結局噂にすぎず、大竹氏も早々に亀田ジムとは関係を絶ったとされる。思うに、亀田ジムの生命線は興行権とそれについてくるテレビマネーであって、ジムの経営ができなければ足りないというのが正直なところと思われる。

ともあれ、2月のサスペンドから半年が経過し、亀田兄弟の国外追放は徐々に既成事実化しつつある。興毅が出始めた約10年前と違い、いまの日本ボクシング界は多士済済である。帝拳とその系列ジムは世界王者を輩出しており、山中はじめ世界の一流選手に伍していけるチャンピオンもいる。新鋭という意味では井上・村田はじめ有望選手が続々と登場している。

世界レベルという意味では、きたる9月5日には八重樫東がローマン・ゴンサレスを迎えて防衛戦を行う。いうまでもなく、この階級の世界一を争う試合である。こうした試合を数多く観戦できる現状はたいへんうれしいことであるが、亀田一家にとっては、自分達だけがネームバリューがあり、視聴率が稼げるという状況だけが望ましいのであろう。

おそらく亀田一家は、かつて内藤戦で大毅が世界戦の権威を傷つける反則行為を行った際のサスペンドと同様、1年も経てば許してもらえると思っているだろうが、前回は有期(1年)サスペンド、今回は条件を充たすまでは無期限のサスペンドという点が全く違う。そして、時間が経てば経つほど、世間の関心は亀田からは離れるのである。

残念ながら、日本のボクシングファンの大多数はライトファンであり、アル・ヘイモンって誰ですかという層が大部分である。このままTBSがフェイドアウトし、テレ東もあきらめてくれて、どこの局もバラエティにさえ出さずに時間が経ってしまえば、誰も亀田にニーズなど感じない。なにしろ試合自体に魅力がなく、貧しい境遇から親子でのし上がってきたというドラマ性のみで売ってきたのである。

JBCのサスペンドにマスコミが乗る形でこのまま兵糧攻めが続けば、早晩亀田ジムは東京・大阪のジム経営に支障が出ることは避けられない。そして、拳論・JBC職員に対して起こしている名誉棄損訴訟も、彼らの望む結果となることは考えにくい。そうなると困るのは彼ら自身なのに、打開どころか自滅の道を歩み続けているのは、自業自得とはいえかわいそうではある。

[Aug 18,2014]

亀田vsJBC 1年経過

亀田兄弟とJBC+拳論の法廷バトルが本格化してから、早くも1年が経過した。この1年で様変わりしたことといえば、井上尚弥の登場によりボクシング界が新しい時代に突入し、もはや亀田兄弟の出る幕がほとんどなくなったということである。「去る者は日々に疎し」と言うけれどもまさにその通り。亀田を放送すれば視聴率が取れるという時代は終わったようである。

個人的に肩入れしている拳論との訴訟については、行列のできる北村弁護士がストーリーAとかストーリーBとか言っていたものの結局は尻つぼみ。実際の口頭弁論手続きを事務所の同僚に任せ、亀田兄弟も活動の場を海外に移して今日に至っている。アル・ヘイモンと契約できたのはご同慶のいたりだが、それだけ強い相手とやらされるということだから、しっかり勝ち残ってほしいと思うばかりである。

前にも書いたようにこの訴訟合戦の本質は兵糧攻めであるから、目立った動きがなければそれだけ亀田サイドに不利である。したがって、個人的にはこの先何年でも法廷闘争をやっていただいて、亀田兄弟は「あの人は今」になってしまうのが一番いいと思うけれども、せっかくだから2年目突入を機に、裁判の展開について私見をまとめてみたい。

まず押さえておかなければならないことは、JBC職員vs亀田、亀田vs拳論のいずれの裁判も民事ということである。民事の裁判では、はっきり言って正義や真実がどこにあるかが問題ではない。裁判所によって原告・被告間の調整が図られるということが重要なのである。したがって(特に日本では)民事では和解という結論がベスト、うやむやのままに終わるというのがベターな解決となる。

原告・被告間の調整とは何かというと、はっきり言ってカネである。裁判所としては上に述べたように和解での決着をめざすものの、判決まで行かざるを得ない場合、どういう根拠でどちらがいくら払うかということを判断する。その判断においては、基本的に前例(判例)を踏襲し、それに当事者に対する裁判官の印象(心証)が加味されて判決が下される。

以上を踏まえて、まずJBC職員vs亀田の裁判についてみると、職員の主張は「亀田兄弟の対応に身の危険を感じた。その精神的被害に対し損害を賠償せよ」ということであり、対する亀田サイドの主張は「そんなことはしていない。事実無根の訴訟で名誉を棄損されたのでその損害を賠償せよ」である。

訴訟のこれまでの経過をみると、JBCと亀田ジムに意見の相違があったことは争いようがない。それを狭い部屋の中で交渉したのも事実である。亀田側がもし事実無根というのであれば、職員に対して精神的圧迫感を与えるような発言はしていないと主張しなければならないが、自分達で提出したVTRが逆の証拠になって、全面的に否定することができなくなっている。

亀田サイドとしてはその証明ができないものだから、「JBCは統括団体であり亀田ジムより立場が強い。だから強く出られる訳がない」という主張をしているようである。だがこれはことの本質とは話がずれている。JBCというのは法人であり生身の身体を持たないから、殴られても痛くないし後をつけられても平気である。被害を受けたと主張しているのは人間であるところのJBC職員である。

だから裁判所としては、おそらく職員が精神的に圧迫される状況であったことを認定することになるだろう。亀田側からそうでないという立証がなされていないからである。ただし、職員個人が受け取る損害賠償の金額としては、ほとんど0、ないしきわめて小さいものとなる。実際にケガを負わされている訳ではないし、利害が相反してきびしい折衝を要すること自体は職務の範囲内と判断されるからである。

たとえば、コンビニ本部と加盟店オーナーのようなケースが近いかもしれない。立場的には本部が強いように思われるが、実際に本部から経営指導のようなものが行われるとした場合、職員個人の立場が強くなる訳ではない。

「誰のおかげで稼げていると思ってるんだ」とすごむオーナーがいるかもしれないし、「まだ話は終わってないんや」と退席を妨げられるケースもあるかもしれない。しかし、そうした場合でも、職員が損害賠償請求するケースはほとんどない。実害が生じれば警察マターだし、態度の悪い加盟店に対しては報告を受けた本部がその加盟店を除籍しておしまいである。

今回のケースも同様で、本来ならJBCが亀田ジムを処分して終わりである。しかし、常識的でない亀田サイドは拳論に対して訴訟を起こすという手段に出た。だから、職員側が「損害額がほとんど0」にもかかわらず亀田兄弟と関係者に対し提訴したのである。

結論からいうと、JBC職員vs亀田の訴訟においては、損害賠償額がいくらに査定されるかは問題ではない。職員が精神的被害を受けたと主張するような事実があったかどうか、裁判所の判断が求められているのである。それが裁判所に認定されれば、損害賠償の金額にかかわらず亀田ジムへの処分が軽くなることはない。

もちろん、行列のできる北村弁護士は、損害賠償が少額にとどまれば「実質勝訴」などと言うだろうが、もともと民事訴訟に勝訴も敗訴もない。裁判所は勝ち負けを決める訳ではなく、原告・被告間の調整を図るものだからである。それに、すごく好意的な言い方をすれば、亀田サイドの目的は事件以前の状態に戻ることだが、それができなければ実質的に彼らが得るものはない。

さて、本線の亀田vs拳論の訴訟である。亀田サイドの主張は「事実無根の報道により名誉を棄損され被害を受けた。損害を賠償せよ」であり、拳論の主張としては「そもそもその事実はあったし、東京スポーツも報道している。またこの記事には公共性・公益性があり、名誉棄損にはあたらない」である。

さて、昨日書いたように、JBC職員に対して亀田兄弟と亀田ジム関係者が精神的に圧迫感を与えたことは事実である。もちろん見解の相違はあって、職員が「身の危険を感じる」一方で、亀田サイドが「そんな意味で言ったんじゃない」ということはあるかもしれない。しかしいずれにせよ、事実無根という主張はJBC職員vs亀田の訴訟が起こった段階ですでに成り立たない。

だから亀田サイドとしては、「あえて公開しなくてもいいことを公表され、名誉を棄損され社会的評価が下がった」という主張に切り替えざるを得なかった。民事だからどういう主張をしてもいいのだけれど、この路線変更はかなり苦しい。

というのは、名誉棄損の範囲を広く取れば取るほど、憲法で保証されている表現の自由と抵触するケースが多くなる。そのため、過去の判例においては、①事実の公共性、②目的の公益性、③真実相当性、が証明されるものについては、刑法上の名誉棄損罪、民法上の不法行為に基づく損害賠償請求の対象とはならないこととしているからである。

今回のケースでは、③の真実相当性については、すでにJBC職員vs亀田の訴訟が起こされているし、JBCによる亀田ジム処分等とあわせて考えると、「真実あるいは真実と信じるに足る十分な根拠があった」、つまり、真実相当性があることについては亀田サイドの主張は成り立たない。

また、②の目的の公益性については、不特定多数を対象にしたボクシング興行がまっとうに運営されるべきことは公益性があると判断されるし、①の事実の公共性については、こうした事実を報道することによってインチキ興行に加担したり、不行き届きなジムに関係して被害を受ける一般人を減らすために、こうした事実を周知させる意味がある、つまり公共性があるということになる。(こうした事実を知ってなお関係したいという人は、それなりの覚悟を持って関係しているのだろう)

つまり、過去の判例から見る限りほとんど亀田側は「詰み」なのであるが、ここでもう一つ注意しなけれはならないのが裁判所の印象(心証)なのである。亀田サイドはこの部分においても、記者会見場にガラの悪い人を派遣したり、いろいろやっている。警察に被害届も出されているくらいだから、心証としては最悪である。

だから拳論サイドが気を付けなければならないことは、裁判所の心証を悪くしないために、亀田兄弟や関係者への人格攻撃ととられかねない行動をとらないということと、仮に最高裁まで行ったとしても持ちこたえられる財政的裏付けを用意するということである。前段についてはすでに拳論各位も承知しているようで、訴訟以来亀田問題はほとんどスルーしている。

後段については、訴訟応援カンパがまだ100万円にも充たない状況をみるとやや不安要素はあるのだが、資金面での不安は双方ともにいえることで、この点についても亀田サイドは相当追い詰められているようだ。

最近の亀1興毅のブログでは、世界チャンピオンはもっとビッグマネーを手にしていいみたいなことを言っているが、おそらく歴代世界チャンプの中でも上位の稼ぎを得てきたはずの亀1がこう言うということは、内情はかなり厳しいのではないだろうかと思っている。

[Feb 28,2015]

亀田 vs 拳論 片岡氏、出廷

先週のはじめに、片岡氏を支援する会から久しぶりにメールがあった。その内容は、8月5日午後1時30分に片岡氏が出廷するのでその準備に追われているというものであり、東京地裁8階の場所も書いてある。地裁8階といえば、私も何度か足を運んだ場所である。

思い起こせば、初めて裁判所に足を運んだのは35年ほど前、まだ社会人になって2、3年目の頃である。借金を残したまま亡くなった人の事後処理で、地方の裁判所まで、裁判所振出の日銀小切手を取りに行ったのだった。以来、勤め先は変わってもなぜか訴訟ごととの縁は切れず、霞ヶ関の東京地裁には何回も行った。原告も被告もやったから(もちろん会社が)、大体の勘どころは分かっているつもりである。

せっかくのお知らせだし、5日の午後は空けようと思えば空けられる。という訳で、昼を食べてからそそくさと東京地裁に向かったのでありました。

指定された法廷では、ひとつ前の案件を開廷中であったが、公開の法廷であるので傍聴するのは別に差支えない。どうやら、東電関係の訴訟らしく、放射能測定値の報告書が問題となっているようだった。原告側から証拠の提出があり、被告側が了承してこの日のスケジュールは終了し、次回期日を決定して閉廷した。そして、いよいよ亀田vs拳論の裁判である。

はじめに被告側が法廷に入る。女性が一人と男性が三人。男性の一人はひときわガタイが大きく、片岡氏と見当がついた(これまで見たことがなかったのだ)。片岡氏は白のシャツにクリーム色のパンツ、法廷に敬意を表して細いネクタイを着けているが、三人の弁護士がサラリーマンスタイルであるのと比べると、いかにも業界人という印象は免れない。

そして原告側弁護士が現われた。男性一人と女性一人。男性の方はあまり目立たないのだがよく見直したところ、行列のできる弁護士のようだ。見た目では、女性弁護士の方が賢そうに見えた。もちろん、見た目の話である。

話は変わるけれど、こういう場面を見るたびに、若い頃もう少しがんばって試験を受け、ここに登場する立場になる道もあったのかなぁと思う。そういう選択をすれば(もちろん試験に受かるという難関はあるが)、家の奥さんとも出会えなかったし今の人生は送れなかったとは思うものの、ちょっとうらやましいと思ったりもする。もちろん、ああいう人達だって自分の思うような仕事ばかりではないはずだし、意に添わないことも言ったりしたりしなければならないのは確かだろうけれど。

3人の裁判官が入り、起立・一礼して開廷。裁判長・左陪席・右陪席の裁判官3名の後ろに2人控えているのは、おそらく司法修習生か。ほとんどの法廷は日時の打合せなど事務的なやり取りで終わってしまうので、尋問がある法廷は彼らにとっても勉強になるのであろう。

中央の裁判長に促されて、片岡氏が証人席に進む。真実でないことを述べた場合は科料の制裁があることについて裁判長から説明を受ける。あえていうなら、被告人本人であるので証人の場合とはやや条件が異なるのだが。そして宣誓書を朗読する。よく通るいい声であると思った。もしここに亀田兄弟を連れてきていたら、声を聴いただけでどちらが真実を語っているか分かりそうである。

裁判長から「それぞれ40分でいいですね。」と尋問時間の確認があり、いよいよ被告代理人から尋問が始まった。最も裁判官側に座っている女性弁護士、この方が支援ブログに名前の出てくる飯塚弁護士であろう。自分の側の代理人弁護士からの尋問の場合、質問の内容も打合せ済みだし、おそらく予行演習も行われているはずである。

被告側弁護士からは、定石通り、片岡氏の記者歴、専門分野、ブログ「拳論」の趣旨・運営方法などについて一通りの質疑応答があった後、いきなり核心に入る。2013年9月3日、亀2vsゲレーロ戦当日、亀田陣営とJBC間で起こったトラブルの経緯である。



ざっと数えたところ、傍聴者は25人ほどで、直前の東電関係訴訟より少し増えている。ほとんどがサラリーマンスタイルだが、何人かラフな服装の人もみられる。被告代理人尋問における片岡氏の発言趣旨は以下のとおり(文責は私taipaにあります)。なお、問題となったタイトルマッチでは、JBCを立ち会わせないで当日計量を行うというトラブルもあったのだが、訴訟とあまり関係がないので触れられていない。

① 2013年9月3日に行われた世界タイトルマッチについては、JBC職員であるA氏(法廷では実名であるが、支援ブログの記載は仮名であるので、同様に仮名とした)から試合前日に受け取ったメールに「モメている」という表現があったので、トラブルが発生していることは知っていた。かなり大きなトラブルだと思ったが、自分はその場にいなかったし、まだ事実関係も明らかでないので、その時には記事にもしていないしブログにも書いていない。

② 試合当日、A氏から電話があり、亀田側による監禁・恫喝の事実について知った。A氏は興奮した様子で震えるような声だった。早口でまくしたてるような調子で、当日あったことについて話した。「あいつら、とんでもないですよ」「やめろと言うのにビデオを回され、部屋を出ようとするとのど輪のようなこともされた」「言葉は敬語だが、やくざのような態度で威圧された」と聞いたことが記憶に残っている。

③ 事実関係を確認するため6人の記者仲間に連絡したところ、そのうち3人の記者が現場にいて様子を聞くことができた。報道関係者が部屋の外に出された後、和毅選手が出入口で立ちふさがり、中から大声が聞こえたということだったので、実際にA氏のいう監禁・恫喝があったものと確信した。だが、この時点でもブログには書いていない。

④ 試合翌日、東京スポーツ紙が亀田・JBC間でトラブルがあったことを報道した。内容をみて、これまで自分が取材したものと同様の事実が裏付けられたものと判断し、ブログに掲載した。

尋問の中で印象深かったのは、「その3人の記者に証言を頼んでみましたか?」という質問に対し、「お願いしたのだけれど、断られました。理由の一つは亀田兄弟は今後も取材対象となるので、不利な証言をして関係を悪くしたくないこと。第二に、違う媒体の記者に対し、自分が取材した事実を明かすことは好ましくない、ということでした。」

また、ブログでこの事実を公表した意図について、「私はボクシングの試合は公明正大に行われるべきであり、そうでなければ試合への興味は失われると思っている。一部選手の暴挙により世界タイトルマッチの公正な運営が妨げられたことについて、公表してボクシングファンの意見を聞きたかった。なお、当時は、ブログへの投稿によって報酬は得ていない」との趣旨で証言があった。

続いて原告代理人からの反対尋問である。まずは女性弁護士の片岡弁護士(同じ名字だ)から。早口で質問をたて続けに行い、事実関係について、「聞いたのは電話かメールか」「メモはとったか」「そのメモを提出できるか」と何回もしつこく尋ねる。答えている途中で、「はいいいえだけでいいです」と言って話をさえぎる。

これは反対尋問の典型的なやり方である。証言の矛盾を突くというのが表立った理由であるが、しつこく質問することにより証人(この場合は被告人本人)をいらだたせて失言を誘い、「この証言は信用できませんよ」と裁判官に印象付ける狙いがある。だから、ゆっくり考え(るふりをし)てから答えてもよかったと思うのだが、反対尋問に合わせてスピーディに答えることで、かえって裁判官に実直な印象を与えたかもしれない。

ここで印象的だったのは、証拠書面を示して同僚の片岡弁護士が質問している最中に、行列のできる北村弁護士が証人席まで歩いて行って示されている証拠を確認し、自分の席に戻って改めて書類を見直していたことである。

これが「ふり」でなければ、行列のできる北村弁護士は事前に同僚弁護士ときちんと打合せをしていなかったか、あるいは資料をちゃんと見ていなかったか、もしかするとその両方ということである。私には「ふり」には見えなかったし、そういうふりをする意味もなさそうだ。



さて、いよいよ行列のできる北村弁護士の登場である。いくつか当たり障りのない質問をした後、「あなたはAさん(JBC職員、裁判時は実名)は、大げさなことを言う人だ、誇張の多い人だという印象を持っていませんでしたか?」(このあたり、仮名ではニュアンスが伝わりにくい。おそらく裁判官にも伝わらなかったと思うw)と質問した。

「いいえ。そのような印象を持ったことはありません。」「でもね。別の裁判のAさんの証言では、和毅選手の手の甲が軽く触れただけだと言っているんだよね。」

笑っている場合ではなかった。一瞬置いて、被告代理人から「私の記憶では、軽くとは言っておりません」と異議。裁判長も「それはそちらの裁判の調書を見ないとね」と陪席裁判官と話している。すかさず北村弁護士、「いや、そこはどちらでもいいんですが、『のど輪』という言葉は、あなたは聞いていないんじゃないですか?」

このあたりは行列のできる弁護士のダーティテクニックである。その場では確認できない証拠を使って、証言の信用性に疑問を投げかけている。ただし、ここでの片岡氏の証言がよかった。「確かに聞きました。『のど輪』などという言葉が自分の中から出てくるとは思いません。」

行列のできる弁護士のダーティーテクニックは続く。「さきほどからJBCの調査というけれども、JBCは調査の結果、亀田側に何の処分もしてないんですよね。あなたそれ知ってましたか?」これに対する証言も100点であった。「知りません。まだ調査中と聞いています。」

JBCの調査については、調査の結果亀田サイドに何らかの処分を下したというプレスリリースは行われていない。したがって、処分は行われていないという北村弁護士の質問はグレーではあるけれども嘘ではない。

もちろん、片岡氏を動揺させ、失言を招こうというのが大きな狙いである。ただし、JBCが調査の結果、事実があったことは認定したものの処分をしないことはありうる。それはJBCの裁量の範囲であり、本件訴訟とは関係がない。

さらに、「東スポの記事では、監禁という言葉も、恫喝という言葉も使っていない。それなのに、あなたのブログではそれらの文言を使っている。しかも、『東京スポーツで既報のとおり』と書いてある。これは、あたかも東スポがそういう言葉を使って報道したかのように読者を誘導するものだ。東スポ記事のどこを見て、あなたは監禁とか恫喝とか読めるというんですか?」

さすがにこのあたりは行列のできる弁護士である。ただ、ちょっと割引きされるのは、おそらくそのことに気付いたのは先ほど同僚弁護士が尋問している最中なので(資料を見直したときだ)、かなり詰めが甘かった。これまでの裁判でもすべて出席している訳ではないようなので、資料の読み込みが足りなかったのではないか。

これに対する片岡氏の証言が、「どこということはなく、全体です」「監禁という言葉には軟禁状態ということも含まれると思います」等だったので、事前にきちんと準備しておけば、さらに追及することもできたはずだ。しかし結局のところ、「ジャーナリストなんだから、言葉の使い方には慎重であるべきでしょう」と皮肉を飛ばすにとどまったのである。

このあたり、傍聴していて、「これは聞いとくべきなんじゃないか」という点を二つほどスルーしていたように思う。(まさかこのブログを見るとも思わないが、相手方のヒントになるといけないので、裁判が決着するまで書かない)

その後、被告代理人からの再尋問、裁判官からの尋問(特に関心があったのは、ブログの日付と追記する際の手順)があって、3時半前に尋問は終了。追加書証の確認と次回期日を決定して、この日は閉廷となった。長くなったので、口頭弁論の感想及び今後の見通しについての私見はまた次回。

 [Aug 5, 2015]



前回は、片岡氏の本人尋問について当日の様子をお届けしたところであるが、今回は亀田vs拳論裁判の今後について私見を述べてみたい(なお、私は訴状も見ていないし、口頭弁論も今回しか傍聴していないので、お含みおきください)。

本件訴訟の本質は、不法行為(名誉棄損)に基づく損害賠償請求である。亀田側は「拳論」の記事を不法行為として訴え、拳論側は不法行為でないとして争っている。したがって裁判に勝ち負けをつけるとすれば(本来、民事訴訟は勝ち負けではないが)、拳論に書いた片岡氏の記事が不法行為(名誉棄損)であると裁判所が認めるかどうか、である。

ボクサーの素行にとどまらず、書評にしても、飲食店の良し悪しにしても、温泉の評判にしても、すべての人には自分の体験したこと、知りえた事実、あるいは意見を表明する自由がある。それは内容によって相手方の評判を落とすことになるが、それが不法行為にあたるかどうかは表現の自由及び知る権利と比較考量される。

その比較考量において考慮すべき点として、公共性・公益性・真実性の三点がある。それらが担保されれば刑法上の名誉棄損罪とはならないと刑法には書かれているし、民法上の不法行為も同様であるというのが判例・学説の考え方である。

つまり、プライバシー等個人に係ることでなく公共の利害に関する事項であって(公共性)、しかも公共の利益の増大を目的としたものであること(公益性)、そして内容が本当のこと、ないし本当のことであると考えるだけの理由があること(真実性)が証明できれば不法行為とはならず、損害賠償の対象とはならないということである。

本件訴訟については、片岡氏の記事は亀田家のプライバシーに関することではなく「世界タイトルマッチの運営に関すること」である。また、その目的は「運営が公正でなければ、入場料を払っている観客やTVで観戦しているファンの不利益になる」からであるので、公共性・公益性については議論になっていない。したがって争点は、真実性のみということになっているようである。

さて、本訴訟において、原告である亀田側の当初の主張は「JBCとの間にトラブルなど存在せず、したがって拳論に書かれたことは全くのデマである。つまり不法行為である」というものであった。ところが、JBC職員であるA氏が亀田側を訴えたことにより、「事実無根のデマ」という主張は通らなくなってしまった。

だから現状の争点は訴訟提起時とは異なり、「トラブルはあったけれど深刻なものではなかった」対「深刻なトラブルがあった」ということである。言ってみれば当初が「0対1」で現状は「0.5対1」なのである。

真実性による免責は、それが絶対に事実でなければならないということまでは求められておらず、客観的な資料・根拠に基づいて事実と考えられる場合には不法行為とはならないとされている(真実相当性)。だから、0が0.5になった時点で、すでに原告である亀田側は不法行為の立証をあきらめたということになりそうである。

ここで重要なのは、JBC職員A氏vs亀田の損害賠償請求訴訟である。この訴訟は、A氏が亀田興毅・和毅他2名から監禁等を受けたことに対し損害賠償請求したもので、亀田側が名誉棄損として反訴したものであるが、亀田側が二つの訴訟を併合して一つにすべきと主張したことについて、裁判所が併合しないとすでに判断している。

思うに、JBC職員vs亀田の裁判でどういう結論が出るとしても、何もなかった、「デマ」だという亀田側の主張が成り立たない以上、亀田vs拳論について裁判所の判断は変わらないということである。つまり、原告亀田兄弟の請求は棄却される公算が大きい。

今回の片岡氏尋問の様子を見ていても、原告代理人の質問には将棋で言うところの「形作り」のような印象を強く受けた。おそらく行列のできる弁護士の主張としては、トラブルを針小棒大に公表したことで原告の名誉を棄損したといいたいのだろうが、それは当初の主張からすると大きく後退したものであり、それでは不法行為とは認められないだろう。

次回期日は10月21日。おそらく最終書面が提出され結審となるだろうから、判決は年末ないし来年早々になるものと思われる。

そもそも今回の訴訟は、亀田兄弟が自分達の名誉に1000万円の値段を付けた時点で、彼らの負けであったと思う。正直なところ私は、スラップ訴訟自体を必ずしも否定するものではないが(少なくとも合法的な手段である)、それにしても、自分に1000万円の値札を付けてしまうというスタンスは、私にはちょっと理解できない。

本件訴訟、JBC職員vs亀田の訴訟、世界タイトルマッチにおける詐称等々の問題により、亀田ジムが国内活動停止の処分を受けてすでに1年半が経過した。「去る者は日々に疎し」、彼らがいなくてもTV局は全く困らない。かつてキラーコンテンツであったK-1やPRIDEが突然なくなっても、誰も困らなかったのと同じことである。

亀田兄弟はアル・ヘイモン傘下に入って現役を続けているが、TBSと組んでいた時ほどの好条件ではないはずだし、試合がつまらなければすぐにリリースされる世界である。日本にいてさえつまらないと酷評された彼らのボクシングが、本場アメリカ、メキシコでどこまで受け入れられるだろうか。

長男・三男は秋にはタイトルマッチに登場する見込みであるが、自分達の興行ではないのでこれまでのような「うまい商売」はできない。あとは自力でいい試合を見せてファイトマネーを上げていくしかないのだが、それだけの実力とモチベーションが彼らに残されているかどうかである。

[Aug 13, 2015]

亀田 vs JBC職員、東京地裁判決

昨日の亀田 vs JBC職員A氏裁判の東京地裁判決については、WEBでもいろいろな速報記事が出ているし、読売新聞に載っているくらい社会的関心を呼んだニュースであった。あるいは亀田 vs 拳論の訴訟にも影響が出るかもしれないので、現時点での私見をまとめておきたい。

---------------------------------------------------------------
(以下、弁護士ドットコムより引用)
日本のプロボクシングを統括するJBC(日本ボクシングコミッション)の職員が、亀田興毅・和毅両選手らに監禁・恫喝されたとして、両選手らを訴え、逆に亀田選手側も「名誉を傷つけられた」として職員に慰謝料を求めていた裁判の判決が9月30日、東京地裁であった。
倉地真寿美裁判長は「(両選手らが)強要、監禁、どうかつ及び暴行というべき違法行為に及んだとの事実は認められない」としてJBC職員の訴えを退け、亀田選手側が求めた慰謝料のうち320万円を認める判決を下した。
----------------------------------------------------------------

何回も繰り返すが、この裁判も亀田vs拳論の裁判も民事訴訟である。したがって本来は勝ち負けをつけるものではない。したがって、プレスリリースでは亀田全面勝訴みたいな書きっぷりになっているが(リリースしたのが北村弁護士だからそうなる)、実際のところ裁判所がどう判断したのかは判決文を読まなければ分からない。

そもそも、亀田側が請求していた損害賠償額は3200万円であり、実際に認められたのは320万円である。金額的にみると、行列のできる弁護士の一人勝ちというのが実態であろう。

さて、判決文も見ていないし、そもそも口頭弁論を聞いていないので推測するしかないのだが、問題は裁判所が、亀田・JBC間にトラブルがあったことを認めた上で職員の訴える監禁・強要等にはあたらないと判断したのか、そもそもトラブルはなくすべてJBC職員の虚言(うそ)と判断したのかということである。

上記の引用記事の裁判長の意見はおそらく判決文に書かれていることなので、ここから推測すると、「違法行為に及んだとの事実は認められない」というだけで、トラブルのあった事実そのものを否定したのではないと思われる。以下では、その前提で話を進めたい。

つまり、JBC職員が精神的な被害を受けたと主張して提訴したのだけれど、裁判所は「違法行為ではないので」損害は生じていないと判断してJBC職員の主張を認めなかった。裁判においては、基本的に原告側に挙証責任がある。JBC職員側は亀田側が違法行為をしたという証拠を示せなかったということである。

その点では、北村弁護士はさすがに行列ができるだけあって、ツボは外さなかった。JBCは統括団体で基本的にジムや選手を監督する立場である。したがって多少のトラブルは自力で解決しなければならないというのは、考えてみれば当たり前である。問題は、JBC職員個人が感じたような精神的圧迫が、損害賠償になじむのかということであったと思われる。

監禁・強要などの違法行為が立証できれば、当然、損害賠償請求は可能である。一方で、「密室状態」「威圧」だけでは損害賠償は難しい。おそらく裁判はそういう展開をしたのではなかったか。

私は以前、この裁判の今後の展開について、以下のような記事を書いた。

-------------------------------------------------------------------------
だから裁判所としては、おそらく職員が精神的に圧迫される状況であったことを認定することになるだろう。亀田側からそうでないという立証がなされていないからである。ただし、職員個人が受け取る損害賠償の金額としては、ほとんど0、ないしきわめて小さいものとなる。実際にケガを負わされている訳ではないし、利害が相反してきびしい折衝を要すること自体は職務の範囲内と判断されるからである。

たとえば、コンビニ本部と加盟店オーナーのようなケースが近いかもしれない。立場的には本部が強いように思われるが、実際に本部から経営指導のようなものが行われるとした場合、職員個人の立場が強くなる訳ではない。

「誰のおかげで稼げていると思ってるんだ」とすごむオーナーがいるかもしれないし、「まだ話は終わってないんや」と退席を妨げられるケースもあるかもしれない。しかし、そうした場合でも、職員が損害賠償請求するケースはほとんどない。実害が生じれば警察マターだし、態度の悪い加盟店に対しては報告を受けた本部がその加盟店を除籍しておしまいである。

(2015/2/28)
-------------------------------------------------------------------------

基本的に、この時と意見は変わっていない。だから、本線の亀田 vs 拳論で亀田側の主張は認められないだろうという意見も変わらない。何しろ、こちらの裁判では亀田側が原告なのである。そもそもトラブルそのものがなかったということを立証できない限り、亀田サイドの満足する結果は出ない。

ただ、可能性として、東スポでは使っていない「監禁」という言葉を記事では使っているということで、少額の認定はあるかもしれない。いずれにしても、亀田兄弟が自分達に付けた各1000万円の値札は、0ないし1割に満たない金額に買いたたかれることになりそうだ。

JBC職員にとって320万円という金額は大きいけれども、払えない金額でもない。一方で、世間一般がこの裁判での亀田側の対応をみて思い出すのは、「疑惑の銃弾」三浦和義ではないだろうか。だとすれば、今後まともなメディアは亀田を敬遠するだろうし、金額以上のマイナスイメージを負ったということになりそうである。

[Oct 1, 2015]

亀田 vs 拳論 判決!

1月27日、東京地裁において亀田vs拳論の損害賠償請求訴訟の判決があった。判決は、拳論・片岡氏に亀田兄弟への名誉棄損があったことを認め、各150万円、合計300万円の損害賠償を命じるものとなった。

翌28日のスポーツ紙の報道は意外なほど小さく、デイリースポーツに囲み記事があったくらい。むしろ読売新聞の扱いの方が大きかった。「去る者は日々に疎し」なのか「君子危うきに近寄らず」なのか、あるいは世間の関心そのものがなくなってニュースバリューがないのか、ともかく亀田サイドや行列のできる弁護士が期待したような大きなニュースにはならなかったようである。

さて、この件に関してはいろいろ書きたいことがあるのだが、まず、この判決自体がどういう論旨で導かれたものかについて考えてみたい。

判決理由としてスポーツ紙等では、「ブログの内容は真実とは言えず、裏付け取材も十分と認められない」と書いてあるが、私が思うに、それはあくまで補足説明に過ぎず(もし裏付け取材を行っていたとしても結論は同じと思われる)、ポイントは若干違う。

前にも書いたことだが、すべての人には自分の体験したこと、知りえた事実、あるいは意見を表明する自由がある。それは内容によって相手方の評判を落とすことになるが、それが不法行為(名誉棄損)にあたるかどうかは表現の自由及び知る権利と比較考量される。その比較考量において考慮すべき点として、公共性・公益性・真実性の三点がある。

今回の場合、公共性・公益性については問題とならなかった(片岡氏の主張が認められた)。問題となったのは真実性である。「監禁と言っているけれども、監禁してないよね」というのが判決に至るもっとも重要な裁判所の判断なのである。

裁判所も、「マスコミ関係者等を締めだした」密室状態で「廊下に聞こえるほどの大声で」やりとりしたことは認めている。しかし、身体の自由を奪った訳ではなく、少なくとも見た目上は強要や脅迫なしに数分間やりとりした場合に、監禁・恫喝となるかというとならないということである。

このことはすでに結審しているJBC職員A氏の判決文でも指摘されているはずなので、当然片岡氏側の弁護士としては対策を立てなければならなかった。世間一般では、「密室状態で」「拒絶したにもかかわらずカメラを回しながら」「敬語は使っているが威圧的な態度で」応対するのがどういうことか見当がつくのだが、裁判所的には「犯罪行為ではない」ということである。それがいい悪いの話ではなく、それを前提として対処しなければならないということである。

真実性についてはそういうことで不利だとしても、真実相当性、つまり真実であると信じるだけの客観的根拠があったかということが次の問題である。ここで、例の裏付け取材の話が出てくるのだが、裏付け取材以前に指摘されるのは、「そもそも最初にA氏から聞いた話からしても、監禁という結論は出てこないのではないか」という点である。

ここは私も認識が甘かったところなのだが、裁判所は監禁という言葉をきわめて限定的かつ厳密にとらえているということである(法律家としてはそうあるべきだろうけれど)。あまり適当な例でないかもしれないが、「泥棒」も「誘拐犯」も刑法犯に変わりはないが、「泥棒」なら比喩で逃げられるが「誘拐犯」は名誉棄損になるということかもしれない。

相手の行為を監禁と言い切った場合、それは刑法上の監禁罪に該当するものでなければならない。それが裁判所の見解だとすると、「軟禁や監禁状態という意味も含めて、監禁という表現」という片岡氏の主張は結果的に採用されなかったということになる。裁判所にとって、「監禁」は「誘拐犯」と同様の言葉だったのである。

片岡氏の主張は、細かい言葉の使い方はさておき、亀田サイドがJBC職員に対し、威圧的な態度で自分達に有利な取り決めを引き出そうとしたことを取材を通して知ったので、公共性・公益性の観点からこれを公表したということである。その大筋については、裁判所は認めているように思われる。

ただ、「監禁」という言葉の使い方が、裁判所の考える厳密な使い方でなかったので、そこを行列のできる弁護士に突かれてしまった。そういう展開にならないようにこちらにも弁護士が付いているのだけれど、残念ながら今回はうまく運べなかった。前にも言ったように、民事訴訟は正義の実現のためにあるのではなく、証拠に基づいて当事者間の利害調整を行うものなのである。

[Jan 29, 2016]

ページ先頭に戻る    海外観戦記    国内観戦記    ボクシング記事目次