再び十勝川温泉    幌新温泉    然別湖畔温泉    谷地頭温泉
函館昭和温泉    函館富岡温泉    函館山の手温泉    屈斜路温泉    霧多布温泉


再び、十勝川温泉 [Oct 12, 2010]

以前(2005年だからずいぶん前)、十勝川温泉の記事を書いた。その中で、「最初に行った頃と比べると、ずいぶんと色が薄くなった」ということを述べたのだが、どうやらこれは、大ホテルの大衆化路線のせいなのかもしれない。今年行った宿は、昔と同じくモール温泉の濃い色をしていたのである。

今回訪問したのは、「はにうの宿」といって、ホテル街から少し山の方に上がったところにある。宿泊施設はちょっと古いし、風呂も男女の内風呂だけである。いわば昭和の温泉宿といった風情なのだが、泉質は大したもので昔入った十勝川温泉の雰囲気を残している。宿泊の他に入浴のみも受け付けており、地元の方々と思われるお客さんも結構来ていた。

説明書きをみると、源泉はホテル街のものとは別にここで掘ったものらしい。とはいえ、何kmも違わないところだから、源泉の濃さがそれほど違うとは思えない。だとすると、この宿のように男女の内風呂だけなら昔と同じになるが、ホテル街のように大浴場や露天風呂を揃えると薄くなるのではないかと推測されるのである。ちょっと寂しい話である。

日帰りの人が帰ってから、広い浴槽を一人占めする。たいへん気分がよろしい。モール温泉とは簡単にいうと、温泉が地下の泥炭層を通過する際にその成分を溶かし込んだもので、普通の温泉が硫黄とか重曹とか鉱物由来であるのに対し、植物性の成分を多く含むところに特徴がある。肌触りはなめらかで、長湯しても疲れない。日頃のストレスを癒すにはうってつけなのである。

ただ物足りないのは、設備の古さとサービスが今ひとつなところである。何しろ、ここはもともと町営なのである(もともとは音更町サイクリングターミナルといった。現在は民営化されている)。この日も、まだ風呂に入っているのに掃除を始められてしまった。案内には午前1時まで入浴可と書いてあって、遅いとはいえまだ日付が変わっていなかったのに。

それはそれとして、山の手にあるので、景色は雄大である。十勝川温泉の昔の雰囲気を味わいたいという方には、ぜひお奨めしたい宿である。

[Oct 12,2010]

はにうの宿。Lの字型になっている向こう側が、浴室。泉質は昔の十勝川温泉を思い出させてくれる。建物の入口に「十勝婦人会館」と書いてある。おそらく施設の一部が共用となっているのであろう。宿の入口は、写真よりもっと手前にある。


宿の前から、十勝平野を望む。


幌新温泉ほたる館 [Aug 26, 2013]

明日萌(あしもい)駅から線路を離れ、川に沿って山へと向かう。ここから先、人家はほとんどないけれども道路は広い。ここは昭和30年代までは留萌鉄道という私鉄が通っていて、上流にあるダム湖になっているあたりは炭鉱だった。そこから留萌港まで石炭を運んでいたのであった。

6、7km道なりに進むと急に周囲が開ける。一軒宿の幌新温泉・ほたる館である。宿のホームページによると、ここを経営しているのは沼田町。もともとは小規模なものだったが、町が買収して大きな施設にしたようだ。温泉宿だけではなく、キャンプ場やパターゴルフ場も併設されている。町のシンボルなのか、化石資料館のような建物もある。

「ほたる館」というのは、ちょうどこの施設を拡充する頃に町おこしで蛍の育成を始めたところから名付けられている。どこか蛍の本場で勉強してきて、同様の環境を整備したということである。確かに、自然環境には間違いなく恵まれている。やや課題があるとすれば、蛍だけでなく他の昆虫も集まってくるということだろう。

湧出しているのは鉱泉で、単純硫黄泉。飲用にもできて冷泉がそのまま引かれているが、さすがに硫黄くさい。昭和はじめに見つかった頃は飲用が主だったというが、これを飲むのはさすがに厳しい。浴用には沸かし湯としていて、湧出量は豊富であり、広い浴槽にいっぱいのお湯がはられている。

入ってみると、肌にすべすべして大変気持ちがいい。思うのだけれど、かなりの山奥でも利用者に比べて湧出量が豊富で、きちんとメンテナンスされていれば、基本的に温泉は気持ちいいものなのである。昔は山奥の温泉というと古くて設備も整っていないところが多かったが、最近そうでもないようなのがうれしい。

この宿でもう一つすばらしかったのは料理である。宿泊料金に応じていくつかのコースがあり、わが家がお願いしたのは真ん中あたりのコースだったが、付出しから始まって刺身、揚げ物、焼き物、煮物とひととおり。料理も温かいものは温かく、冷たいものは冷たい。それにおいしい。1泊2食で8千円くらいとは思えないレベルだった。

昔北海道に来た頃は宿の数がそれほど多くなくて、予約を取るのが大変忙しい上に、1泊2食2万円くらい取るのに料理は付出しからデザートまでいっぺんに持ってくるような状況だった。いまは不景気でどこも採算を確保するのが大変厳しいと聞くけれども、利用者にとって料金が安くてサービスがいいのはうれしいことである。

宿の中には、「すずらん」関連の写真だけでなく昔の炭鉱時代の写真も掲示されていて、いまはダム湖に沈んでいる人口数千の街が写っている。また、このあたりでは今から90年くらい前、史上二番目の熊害事件である石狩沼田幌新事件が起こっていて、死者4名、重傷者3名を出している。それでは第一位はというと、この事件もこれから向かう場所の近くなのであった。

[Aug 26, 2013]

幌新温泉ほたる館。2階建ては本館、8階建ては宿泊棟になっていて、一軒宿にしてはなかなか本格的です。沼田町の経営。


宿から歩いてすぐの幌新ダム。街灯が見えるところがダム本体で向こうに水がたまっています。こちら側はキャンプ場とパットパットゴルフ場。


然別湖畔温泉 [Jul 16, 2015]

帯広市街から北に向かって2時間弱、然別湖は大雪山国立公園の区域内にある。きわめて環境保護に厳しい地域であり、道路も一部は一車線のみである。新規の建築が原則として認められないため、宿泊施設は然別湖畔温泉ホテル、ホテル福原の2軒しかない。

実はこの2軒以外に、40年前は然別湖畔ユースホステルがあった。湖畔温泉ホテルがやっていたユースホステルで、2段ベットのぎゅうぎゅう詰めだったと記憶しているが、当時はユースホステルなんてみんなそんなもんだった。ここの遊覧船も湖畔温泉ホテルが経営しているので、料金が割引になったように覚えている。

然別湖に泊まるのは、以来40年振りのことである。湖畔温泉ホテルは現在、ホテル風水という名前を使っているが、ところどころに古い名前の表示が残っている。おそらく閑散としているのだろうと思っていたら、予想に反して観光バスが6、7台という盛況であった。ホテル風水には中国人ツアー客が数十人、ホテル福原には京都の修学旅行生が泊まり、たいへんな賑わいであった。

ホテル風水は客室のすぐ外が湖なので、窓から然別湖が一望できる。湖の対岸が天望山、別名唇山(くちびるやま)である。湖面に映った山がちょうど上下の唇のように見えることから名付けられた。着いた日の夕方は霧に包まれて見えず、翌朝の夜明け前にようやく見えた。ところが日が昇ると、右端の峠から雲が進出してきて再び姿を隠してしまった。神秘的である。

着いてさっそくにお風呂をいただく。含食塩・硫黄泉で、色合いはまさに硫黄のおうど色なのだけれど、それほど硫黄臭がないのはイオン化しているからだろうか。特筆すべきはその湧出温度で、70度以上ある。かけ流しならばどこかで冷ましているのだろうが、あるいは加水しているのかもしれない。

このところ鉱泉を沸かしたお湯が多かったので、噴き出した時から熱いお湯は久しぶりである。気のせいかもしれないが、よく温たまる。大勢宿泊できるホテルだけあって、浴室も大きい。団体客の入る前にゆっくり入っていたら、上がってから汗がとめどもなく出た。温泉につかりながら、40年前にここに来た時に聞いた話を思い出していた。

もともと然別湖畔には道が通じておらず、宿泊客や資材・食糧は舟で運んだという。北海道の湖にはダムによる人造湖が多いのだが、ここは火山活動により川がせき止められた自然湖であり、有史以前からある。アイヌの民話でも素材にとられており、この湖特産のオショロコマ(イワナの一種)は、食糧がないときに神様が空から降らしてくれたものなのだそうだ。

夕食後、20時スタートでナイトウォッチングの会が開催された。然別湖ネイチャーセンター主催のイベントで、さすがにこのイベントには中国人ツアー客の参加はない。湖周辺で街灯があるのはホテル周辺だけなので、人工的な光の届かない自然の姿を楽しもうという企画である。これがまたすばらしかった。

秘密のウォッチングポイントまでミニバンで移動し、まずは暗闇でナキウサギの声を聴く。彼らは岩の間で活動するのだが、暗闇の中でも人間が来たことをすばやく察知し、鳴き声で仲間に「気を付けろ。人間が来た」と連絡しているのだそうだ。他に、エゾシカやキタキツネの姿も見ることができた。シマフクロウは声の出演。道路を横切るネズミを狙っているのだそうだ。

それから湖畔に移動して、星空観賞。まだ薄く雲がかかっているにもかかわらず、都会であれば1等星くらいの明るさの星がたくさん出ていた。これまで、あれほど見事なさそり座を見たのは、初めてである。残念ながら天の川は雲に隠れて見えなかったが、何年か振りで降るような星空を見ることができた。

あっという間に1時間が過ぎてホテルに戻ったのだが、然別湖にいらっしゃる方にはぜひお薦めしたいイベントである。要予約で、ホテルの予約とセットで行うことができる。ずいぶんと冷えたので、再度お風呂に行って温まってから寝た。カーテンを開けたままにしておいたら、夜半になって唇山の向こうから月が上がってきた。

[Jul 16, 2015]

然別湖畔温泉ホテル。現在は「ホテル風水」という名前を使っている。国立公園内のため、ここと隣の「ホテル福原」以外は営業できないらしい。


客室の窓から見た夜明け前の唇山(くちびるやま)。前の日もこの後も、山の右に見える峠から雲が侵入してきて、山は見えなくなってしまった。


谷地頭温泉 [Sep 28, 2015]

函館出張の合間に、谷地頭(やちがしら)温泉に足を伸ばしてみた。函館市内の温泉といえば、競馬場の近く、旅館街の立ち並ぶ湯の川温泉が非常に有名だが、こちら谷地頭温泉も前からガイドブックに載っている。数十年前には小さな地元のお風呂屋さんのようだったが、近年施設を整備して、近代的な建物となっている。

市電の終点である谷地頭で下り右に折れて少し歩き、適当なところで山側に方角を変えるとすぐに見えてくる。谷地の名前に違わず、すぐ後ろまで函館山の稜線が迫っている。建物のネームプレート「谷地頭温泉」の前に二文字「市営」と読めるが、プレートが外れてしまっているのは、すでに民営化されたのだろうか。

この谷地頭温泉、源泉を掘り当てたのは函館市水道局という。 驚くべきはその湧出温度で、成分表によると60度以上ある。本州だとこうした街中の温泉はほとんどが20度以下のものを沸かして使っているのだが、さすがに北海道、すぐ地下にマグマだまりがあるのだろうか。そういえば、東にしばらく行った恵山岬にも、浜から出ている温泉があったはずだ。

入口の自動販売機で入場券を買う。一緒にタオルを買ったため正確な値段は覚えていないが、500円以下であったことは間違いない。まさにお風呂屋さんである。そして、脱衣室から浴室に入ってびっくりしたのは、壁際に並んだカランの数である。その数はおそらく100以上。プールの壁面がすべてカランになっているようなそんな景色である。

浴槽は中央に3つ。それぞれ10人以上は楽に入れるほど大きい。熱め、普通、ぬるめの3段階だが、少し塩分があるためか熱めの風呂にはゆっくり漬かっていられないくらいである。3つとも入ってみて、落ち着けそうなのは一番ぬるめのお湯だった。バイブラ湯になっていて、背中に勢いよく水流が当たるのが心地いい。

泉質は海辺のお湯らしく食塩泉(ナトリウム-塩化物泉)であるが、鉄分がかなり含まれているらしく、浴槽の底が見えないくらいの黄土色をしている。バイブラなのでお湯の飛沫が空中を漂っていて、口に入るとしょっぱい。これだけの大きな浴槽があるということは、湧出量は相当ありそうだ。いいと思ったのは床面のタイルで、新しい上にきれいに掃除されていた。

100以上あるカランが埋まるほどではないが、お客さんは結構入っていて、中には若い外人さんがいたのは興味深かった。しばらく入っていたのだけれど、プール並みに広い浴室は、温泉というよりもお風呂屋さんである。3つの浴槽の他に五稜郭の形をした露天風呂があるのだが、こちらは満員盛況であった。

この温泉に行く時に気を付けなければならないのは、基本的にお風呂屋さんであるので、浴室内には石鹸もシャンプーも、もちろんボディソープも備え付けられていないということである。おそらく地元の人はお風呂セットを持ってくるのだろうが、旅先の場合は難しい。「手ぶらセット」は500円で売っているが、ここで使うだけ分だけの石鹸やシャンプーに500円出すかどうかは考えどころ。

あの壮観のカランを見て、函館市としては、家の風呂なんか入らないで温泉を使って節水してほしいということなのかと思ったが、よく考えたらここは北海道。きれいでおいしい水源はいくらでもあるのであった。だとすれば、あのカランの数は何なのだろうとつくづく考えてしまったのでした。

[Sep 28, 2015]

谷地頭温泉全景。「谷地」の名前にふさわしく、すぐ後ろに函館山の稜線があります。おそらく100以上あるカランは壮観。


温泉は市電終点の谷地頭から徒歩約5分。函館駅から向こうは大分と整理された市電ですが、函館山方向は昔のまま、谷地頭方向と函館ドック方向に走っています。


函館昭和温泉 [Aug 20, 2016]

五稜郭から四稜郭まで歩いて、かなりバテてしまった。幸い、台風の影響での雨風はみられないものの、雲の合間からのぞく日差しは強烈で、Tシャツもズボンもびしょびしょである。幸い、帰りは下り坂なので行きよりは全然楽である。彼方に函館山と函館市街を望みながら、幹線道路まで下って行った。

さて、これだけ汗をかいてしまうと温泉で一汗流したいところである。昨年谷地頭温泉に来た時に風呂用タオルを買ったのだけれど、そこには谷地頭温泉と並んで、昭和温泉、山の手温泉の名前と電話番号がプリントしてあった。スタート地点の五稜郭からすると谷地頭は反対側だし、山の手はかなり東である。比較的近そうな昭和温泉に向かうことにした。

向かうといっても、地図を持っていない。こういう時に頼りになるのがタブレットのマップであるが、このあたりは道路だけで目印になるような地点の表示がない。ネットにつながらないので、Google Mapも見ることができない。という訳で、天性の方向感に頼って、歩き始めたのである。

下りきったところが十字路である。五稜郭からこちらに来たのが直進する道で、これは南に向かっているはずだ。先ほど間違えたのが左の道で、これは東向きである。昭和温泉はここから西のはずなので、右に行けばいいはずである。何kmあるかは分からないが、いつかは国道6号線かJRの線路に交差するはずである。

さて、北海道の道路は基本的にまっすぐである。そのまっすぐな道路が、結構な起伏を伴って上下している。なかなか進まないのと、見通しがきかない。左右は住宅街であるが、時々空き地がみられるのは、町の外れということのようだ。そして、歩いているうちに、なんだか微妙に左にスライスしているような気がする。もしかして、市街地を中心に弧を描いている道なのだろうか。

そういえば昔、フェリーで函館に着くと、環状線のような太い道を走ったような記憶がある。だとすると、西に向かっているつもりでとんでもない方向に進んでいるのでは、と不安になる。

15分くらい歩いて、片側2車線の道路と直交する。太い道ではあるが、国道標識はない。6号線ではないようだ。この頃になると雲の合間どころか太陽が舞台中央という感じで登場してきて、暑くて仕方がない。幸い、バス停とベンチが見える。方向に自信がないのと大汗かいてつらいのとで、半分くじけてしまいバス停の前へ。「赤川入口」というところのようだ。

行先をみると、「昭和バスターミナル」と書いてある。WEBで調べたところでは、昭和温泉は「昭和営業所」からバス停1つくらい歩いたところにあったはずだ。ターミナルと営業所の違いは気になるが、昭和には違いがあるまい。幸い、あと20分ほど待つとバスが来る。ベンチにリュックを置いて腰を下ろし、汗まみれのハンドタオルを干す。気休めにもならない。

バスは時間どおりに来てくれた。すごく冷房が効いていて、天国かと思った。

函館・昭和バスターミナルから少し歩いたところにある昭和温泉。谷地頭温泉・山の手温泉と同じ経営のようです。空模様は微妙。


バスは北に向かってしばらく進むと、左折して西に進み、さらに右に左に細かく曲がる。いずれにしても、歩いて来れた距離ではなさそうなので、ちょうどバスがあったのはラッキーだった。15分か20分で、終点の昭和ターミナルに到着。料金を払いながら、「昭和営業所はどこですか?」と聞いてみた。

「あそこ」と運転手さんはターミナルの奥にある建物を指す。

「道のこっちから入ると昭和ターミナル、向こうから入ると昭和営業所なんだよね」

それは大いに助かった。バスが行き来するターミナルを突っ切るのはよろしくないので、いったん道路に出て敷地外を大回りする。ターミナルの逆側にある停留所には、確かに「昭和営業所」と書いてある。ここから市街地に向かってバス停1つか2つ歩くと、昭和温泉に着くはずである。

道路の両側には住宅が続く。市街地のようにビルが続く訳ではないが、ところどころに商店や飲食店が点在する。しばらく行くと、「昭和温泉 → 」の看板がある。右折するとすぐに昭和温泉の建物が見えてくる。

谷地頭温泉はいかにも観光名所といった大型の温泉施設であるが、昭和温泉は首都圏でいえばスーパー銭湯のような趣きである。入るとすぐに下駄箱と入場料の自販機がある。料金は420円。良心的なお値段である。

更衣室のロッカーは100円入れて戻ってくる形式。浴室に入ると、カランが何列か並んでいて、その奥に浴槽がある。カランは縦に付いていて、上のボタンがシャワー、下のボタンが蛇口、これは谷地頭温泉と同じである。

体を洗ってから浴槽へ。お湯の温度はちょうどいい。泉質は食塩泉だが、細かい海藻のような湯の花が浮かんでいる。この密度が濃くなると、モール温泉になるのではなかろうか。とすると、モール温泉は世界で十勝川とバーデンバーデンだけなんてことはないんじゃないか、とふと考える。

この日は大汗をかいたので、お昼過ぎの温泉は最高に気持ちがよかった。そして、それに加えて最高だったのが、風呂上りの生ビールであった。

昭和温泉の食堂は広く、テーブル席と座敷がある。もちろんテーブル席も風呂エリアから地続きで、裸足のままくつろぐことができる。とりあえず生ビールを一気に空けて、冷やしラーメン(つけ麺かと思ったら冷やし中華である)でお昼にし、デザートにソフトクリームをいただいた。

この世の極楽とは、大汗をかいて温泉で汗を流し、湯上りに生ビールを飲むことではなかろうか、とふと思った。市街地に戻るバスの時刻までくつろぐ。テレビでは高校野球をやっていた。あまり関心がなかったので知らなかったけれど、2016年夏の甲子園は北海高校が決勝まで進んだので、どこへ行っても高校野球のTVが流されていた。

[Oct 18, 2016]

函館富岡温泉 [Aug 20, 2016]

この温泉に来たのは、本当にたまたまであった。

つい1時間前に、昭和温泉に行って汗を流してきたばかりなのである。再びバス通りに出て、五稜郭方面行きのバスに乗った。ところが、この日もう一つ片づけなくてはならない用事があった。洗濯である。

今回泊ったホテルは朝食が付いて1泊5500円と安いのだが、ネット環境がないのと、コインランドリーが付いていないのであった。ネットは歩いて5分のネットカフェに行ったり、市内にいくつかあるフリーwifiを使ったのだけれど、コインランドリーが見当たらないのには参った。

だからこの日は、前日着替えたシャツや下着をリュックに入れて、五稜郭から四稜郭、昭和温泉まで回ったのであった。しかし途中で見かけたコインランドリーは、朝のうちに通った五稜郭公園の北にある一軒だけであった。

仕方なく、午前中に見かけたコインランドリーに向かおうと、適当なところでバスを下りた。ところが、バス停から東、五稜郭の方向に向かうとすぐに、コインランドリーがあったのである。もちろん、また何kmも歩くことを考えれば、ここを使う一手である。しかしよく中を見てみると、設備が古い。それはがまんするとして、何しろ暑いのである。

思うに、冷房が効いてないのは函館ではありがちなことだけれど、このコインランドリーはクリーニング店に併設されていて、隣のクリーニング店から尋常でない熱気が来るのである。あまりの熱気にがまんできずに外に出る。しかし外もまた暑い上に、近くに座る場所さえないのであった。

5分10分とがまんしたけれども、とても30分もこんなことをしてはいられない。すぐ隣りにあったのが「富岡温泉」である。このまま汗みどろになるよりは、風呂でくつろいだ方がいいに決まっている。1時間前に入ったばかりの温泉だけれども、行くことにした。幸い、こちらも庶民価格の420円である。スタバに入るよりも安い。

さて、この富岡温泉。入口近くに貼り紙がしてあって、「この温泉は約60度の源泉をかけ流しており、そのまま捨てています。毎朝、いったんお湯を抜いて浴槽を洗い、新しいお湯を張っています」とのことだ。純正の源泉かけ流しということである。ただ、こういう温泉には一つだけ問題があって、加水しないからゆっくり浸かるには熱すぎるということである(こちら)。

階段を2階に上がると、下駄箱があってその奥が休憩所である。タオルや備品、飲み物が置いてあるカウンターが番台を兼ねていて、おばちゃんが「いらっしゃい」と迎えてくれる。後から見ていたら、来る人ごとに個人的な会話をしていたから、ほとんどの客は顔なじみということであろう。

休憩所から右に入ると女湯、左が男湯である。更衣室は広い。カギのかかるロッカーと着替えを置くだけのザルがあるので、近所の人はロッカーなど使わないのだろう。浴室へ入ると、カランは赤い栓と青い栓の昔ながらのカランである。そして、浴槽は3つに分かれていて、一番右の浴槽に源泉が流れ込み、そこからあふれたお湯が真ん中、左端と流れる仕組みになっている。

当然、一番右が人のあまり使っていないお湯な訳で、さっそく入ろうとすると、足の先をつけただけで異常な熱さである。思わず「あちっ!!!」と大声を出して先客に笑われた。とてもじゃないけれど、私に入れるのは左端の浴槽がやっとである。それでも44度くらいはあったはずだ。

ただ、肩まで浸かっているとだんだん慣れてきたのは不思議であった。食塩泉だけあって、肌にひりひりしみてくる。午前中の歩きで日焼けしてしまったので、余計塩分が効いてしまったのであった。そして、後から入った水風呂の快適だったこと!熱いお湯でふやけてしまった肌を引き締めてくれるような気がした。

あまりに熱くて長い時間入っていられなかったけれど、地元の人たちは浴槽の脇に座ってしばらく休んでまた入ってを繰り返していました。私はというと吹き出る汗を拭きながら休憩室でポカリスエットを飲み、コインランドリーが終わる頃合いまでゆっくりさせてもらったのでした。

実は、翌日になって千代台公園の正面口を出たら、真向いに近代的なコインランドリーがあるのを見つけた。ここならホテルから歩いて5分くらいだし、初めから知っていれば当然ここを使ったと思う。でも、そうするとこの地元密着の源泉かけ流し温泉も入れなかった訳で、何がよくて何が悪いかなんてことは一概には言えないということでしょうか。

[Oct 25, 2016]

昭和温泉から市街へ戻る途中にある富岡温泉。たまたま入ったのですが、湯量豊富な庶民の湯でした。


函館山の手温泉 [Aug 21, 2016]

前日に昭和温泉を制覇したので、谷地頭系列であと残すのは山の手温泉である。この温泉、大体の場所は分かるのだがバスでどう行くのかがはっきりしない。路線図に「山の手団地」という停留所があるので、そのあたりだろうと見当をつける(実際は違った)。

この日の昼間には千代台公園に用事があったので、行きがけにバスの時刻表を見る。山の手方面行きは60番系統で、2、3時間に1本しかない。時間的に都合がよさそうなのは3時20分というバスだが、それでもイベントが終わる1時半から2時間近くある。そこで、前に出張の時に来たことがある千代台公園のプールで泳ぐことにした。

何しろ、場所がざいだんフェスティバルの会場である陸上競技場の隣りであり、料金が安くて広い。今回は台風が来るかもしれないというので、念のため水着を持ってきた。1時間ほどプールで過ごせば、時間的にもちょうどいい。残念なのはジャグジーやお風呂がないことだが、これから温泉に行くのだから問題はなかろう。

という訳で3時近くまでプールで過ごす。その後、バス停まで行く途中の弓道場で、高校生の弓道大会をちょっとだけ見学。味方の選手の矢が的に当たると、「OK!」とか「やった!」とか、「It's Good!」とか言うのではなくて、「よーし」という何とも間延びしたリズムの声援が送られるのが面白かった。

さて、60番系統東山ニュータウン行きのバスが来たので乗り込む。路線図では深堀町から北に入るように書いてあったのだが、五稜郭の西の通り、前日に私が通ったあたりを北上し、五稜郭の裏手を東に向かう。よく分からない道を行ったり来たりして、やがて太い通りを突っ切る。「世界救世教前」というバス停があり、そこに「山の手温泉→」という看板があった。

あわてて次のバス停で下りて引き返す。看板に従って右折する。右折してもそれらしき建物はなく、住宅街が続いている。そして、バス停を2つ3つと過ぎてゆく。しかも登り坂である。停留所の時刻表をみると「日吉営業所前」行きと書いてある。1時間に1本ずつバスがあるので、こちらで来るのが正解だったようだ。

いくつめかの坂を登りきったあたりで、左手が大きな駐車場になっている。黄土色の2階屋の壁に、大きく「山の手温泉」と書いてある。おお、なんとか着くことができた。

料金は昭和温泉と同じ420円。更衣室の造りもよく似ていて、100円入れて戻ってくるロッカーも同じ。ただ、設備はこちらの方がかなり新しい。これで420円で採算が取れるのだろうかと心配になるくらいである。もっとも、駐車場はほぼ満杯なので心配することはないのだろうが。

浴室に入る。カランは縦型で、これも谷地頭温泉、昭和温泉と同じ。お湯の出も強烈で、相当に豊富な湯量があるのだろう。体を洗って浴槽へ。いくつか浴槽があるので、函館市内の経験則にしたがって、「低温」と書いてある浴槽に入る。しかし、それでもたいへんに熱い。

そういえば、谷地頭もそうだったと思い出す。前日の昭和温泉はそれほどでもなかったのに、この熱さは格別である。しばらく浸かった後、せっかくなので露天風呂に行ってみた。露天の方も熱いので、入っている人よりも脇で休んでいる人の方が多い。いよいよ台風が近づいてきたのか雲が多く、外気はやや涼しかったので内風呂よりも適温に感じた。

この日はお昼を軽くすませたので、温泉に入った後で夕飯を食べるのをたいへん楽しみにしてきた。昭和温泉にも生ビールはあったので、当然こちらにもあるのだろうと疑いもしなかった。ところが、ここにはビールが置いていないのである。

夕食メニューが始まる5時まで、あと15分ほどあったのだが、ビールが置いていないのでは仕方がない。方針変更で、ソフトクリームを注文して自販機でコーラを買う。

風呂上りに生ビがないなんて、こんな温泉があっていいのかと思う一方、お客さんがほぼ全員自動車を運転して来るのだから、アルコールが出せないのもやむなしとも思う。いずれにしても、ここに長居するよりホテルに戻ってビールを飲もうと、来た時に使った60番系統のバスに乗るため、歩いて10分ほどの世界救世教前まで再び戻ったのでありました。

[Oct 31, 2016]

山の手温泉は、函館競馬場あたりから山側に入った山の手地区にある。でも、バスは「山の手団地」ではなく「日吉営業所」行きに乗らないとけっこう遠い。


屈斜路温泉 [Sep 17, 2018]

屈斜路周辺には川湯温泉があり、屈斜路湖の湖畔には地面を掘ると温泉が出るという砂湯もあるが、屈斜路プリンスホテルも天然温泉で、川湯・砂湯とは数km離れたところにある。車で走るとどんどんひと気がないところに向かうので心配だが、さすがにホテルの駐車場は多くの車で埋まっていた。

着いてすぐ入りに行くと、たいへんに熱い。湧出温度が45度と書いてあったから、おそらく源泉かけ流しと思われた。熱い源泉かけ流しというと昔会津で入った会津芦ノ牧温泉や福島飯坂温泉を思い出す。

この屈斜路温泉でも小さい子を連れてきた親子連れがいて、熱すぎてお湯に漬かることができずに困っていた。ただのリゾートホテルのお風呂だと思っていたら、温泉場もびっくりの本格的な源泉かけ流しだったのである。温泉場だから、部屋のお風呂はシャワーのみである。湯船に漬かろうと思えばこの熱い風呂に入るしかないのである。

お湯は黄土色に濁っているが、匂いはそれほど気にならない。浴槽にもこびりついているところを見るとおそらく硫酸塩泉かと思われた。私も熱くて短時間しか入れなかったけれど、それでも体がぽかぽかするのは、温泉成分が濃いからだろう。

印象が変わったのは翌朝早くもう一度入りに来た時であった。内湯はあいかわらず熱いのだが、露天風呂に入ると外気で冷されてちょうどいい温度になっている。ようやくゆっくりと湯船に漬かることができた。

ここのお風呂は温泉だけあって、真夜中の1時間ほどを除いていつでも入ることができる。ホテルであれば夜中1時くらいまで、朝は5時くらいからというところが多いから、たいへん営業時間が長い。ありがたいことである。

落ち着いて周りを見回す。露天風呂というと戸外の一画だけというのが普通だが、ここの露天風呂は外に出る階段の踊り場から外がすべて浴槽で、たいへんに広い。宙を隔てて別棟の屋上が見え、もう少し遅くなればここには雪が積もっているのだろう。熱い温泉を雪でさまして入るのは、風情がありそうだ。

北海道のリゾート地にあるプリンスホテルは、大沼、富良野、屈斜路であるが、これで3つとも泊まったことになる。私の世代にはプリンスホテルといえば、西武全盛期に有望選手をいったんプリンスホテルに入社させて、ほとぼりが冷めた頃に西武に移籍させることをしていたのを思い出す。

高校・大学の野球選手にしたところで、プロでやっていけるかどうかは分からないし、名前の通ったところに就職した上でやれそうならプロへというのは保険になる。そんな連中でチームを作っていたのだから、プリンスホテルはなかなか強かった。

当時はいまのようにサッカーのプロはないし、プロ野球の人気は現在よりもずっと高かった。日テレのゴールデンタイムは、巨人戦の主催ゲームがあれば例外なくナイターを放送していた。そんな時代だから、堤義明も十分採算が取れると見込んだのだろう。

今は昔、兄弟のセゾンはいったん潰れてしまったし、西武もいっときの勢いはない。当時、プリンスホテルに入った連中でいまも残っている人は果たしているのだろうか、と妙に昔のことを思ってしまったのでした。

[Oct 17, 2018]

屈斜路プリンスホテル。お風呂は天然温泉で、日帰り入浴もできるようです。


霧多布温泉 [Sep 18, 2018]

霧多布温泉は路線バスの終点になっていて、行先・霧多布温泉のバスがかなり遠くから走っているのだが、正式名称は「浜中町ふれあい交流・保養センター」である。

市街から坂道を登った高台にあり、浴室と休憩室は西向きである。だから、太平洋に沈んで行く夕陽が真ん前に見えて壮観である。ちょうどその時間に訪れたので、真っ赤な夕陽を浴槽の端に座ってしばし眺めていたのでした。

公共施設だけあって、たいへん大規模で新しい施設なのに、入浴料は500円とたいへん割安である。しかし、場内で販売している当地出身モンキーパンチの「ルパン3世」キャラクター商品は結構な値段を取る。これで元をとっているのかもしれない。

お風呂場には内湯、露天風呂とサウナがあり、たいへん広いので湯船の端に座って夕陽を眺めていても全く邪魔にはならない。お湯は食塩泉の鉱泉を加温していて、ちょうどいい温度に温まっている。

靴を預けるのと脱衣所と、2枚の100円玉が必要になるのはさすがに公共施設で(もちろん戻ってくる)、両替は受付に戻らなければならないのであらかじめ用意しておく。

お風呂上りに休む休憩所はたいへん広く、浴室と同様に西向きで、日が沈んだ後の霧多布の街が見えた。ロッカーから戻ってきた100円玉を使って、マッサージ椅子でリラックスする。機械に肩を揉んでもらいながら、初めて来た霧多布を望む。

「霧多布」は北海道の多くの地名と同様、アイヌ語に由来する。「キタプ」とは茅を刈る場所、つまりカヤ場を意味し、チセの屋根や壁を葺く茅をこのあたりで集めたものであろう。したがって、「霧」とは必ずしも結びつかない。

とはいえ、沖にある島との間に囲まれた海からは、もやのような霧のような水蒸気が漂っていて、その向こうからテーブル状になった瞼暮帰島(けんぼっきとう)がぼんやりと浮かび上がる風景はたいへん幻想的であった。

もともとの意味には「霧」は含まれていないのだが、あえて「霧」を地名に入れた古人の感覚はすばらしいと感じたのでありました。

[Oct 24, 2018]

霧多布温泉ゆうゆ。公共施設なので、入浴料は大人500円と格安。


霧多布湿原。根室から釧路に向かって海沿いを走ると、陸側に湿原、海側は沖の瞼暮帰島(けんぼっきとう)の眺めが幻想的である。


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