八木ヶ鼻温泉    穂高温泉郷    もえぎの湯    小菅の湯    のめこい湯
大菩薩の湯    みとみ笛吹の湯    麻葉の湯    瀬音の湯    鶴の湯温泉


八木ヶ鼻温泉 [Apr 22, 2009]

新潟の出張ついでに、どこかいい温泉がないかなとネットで探していたところ、八木ヶ鼻温泉がいいという評判である。調べてみると、公共の日帰り温泉施設「いい湯らてい」があるらしい。一抹の不安を胸に、ちょっと行ってみることにした。

この温泉があるのは三条市。三条にはかつて地方競馬があって、いまでも競馬場跡が残っている。東三条から少し郊外へ出たところにあるバス停の名前も、「競馬場」のままである。都会と違って、すぐに再開発するほどの建設需要がないのであろう。

単調な景色が続きうとうとしていたら、いつのまにかバスは水量の多い川沿いを遡っている。信濃川の支流、五十嵐川である。もう4月なので山もすっかり緑になっているから、おそらく雪解け水で水かさが増えているのだろうと思って見ていると、やがて目の前に異様な岩の塊が登場する。八木ヶ鼻である。

この八木ヶ鼻、五十嵐川沿いをほぼ垂直に200m近くそそり立っている断崖絶壁である。こういう崖が川の両岸に続いているという景色は全国にいくつかあるが、単独でひとつだけ、どかーんと鎮座しているものはあまり見たことがない。そこから少し行ったところが、バスの終点である八木ヶ鼻温泉である。

一抹の不安というのは、こうした公共の日帰り温泉の場合、温泉自体はあまり大したことがない、というケースが多いからである。さて、フロントへ行くと、受付を若いお姉さん2、3人でやっている。公共の施設ではかなり珍しい。タオル、バスタオルに館内着の貸出しもついて950円は格安である。

泉質は硫酸塩泉。公共なので、加温・加水・循環・塩素殺菌と3拍子も4拍子も揃っている。入ってみても、特に何のへんてつもないお湯である。そんなにおすすめの温泉かなあ、確かに施設の割に安いけどと思って露天風呂に入ってみて、驚いた。

露天風呂に入って振り返ると、いきなり八木ヶ鼻の絶壁が目の前に広がるのであった。息を飲むとはこういうことであろう。夕方の涼しい風で、温かいお湯が心地よい。これまで相当数の露天風呂に入ってきたけれども、景色という点ではおそらくナンバーワンである。

温泉は、泉質とか、源泉かどうかということだけでなく、環境も含めてのものなんだなあと改めて思ったのでした。なお、実際に行く人のためにいうと、真ん中の一番大きい露天風呂に向かい、「○○山の噴火口が牛に見える」という説明書きのあたりで振り返ると、最高にびっくりします。

[Apr 22, 2009]

奇勝・八木ヶ鼻と「いい湯らてい」。東三条からバスで40分ほど。


穂高温泉郷 [Sep 26, 2011]

何度も書くのも気が引けるのだが、ここしばらくは忙しい部署に異動になって好きな温泉にもほとんど行くことができなかった。この3連休に久々に出かけることができたので、その時の話。

穂高温泉郷はその名のとおり北アルプスの山麓にある。前にも行ったことがあって、もう十七八年前のことになる。以前は穂高町、豊科町、三郷村などといったのだが、最近合併して安曇野市となった。今回お伺いした「しゃくなげ荘」はもともと穂高町営の施設で、現在は民営化されているようだが、「以前と建物もお風呂も変わっていません」とのことである。

前に訪れた時は三郷村の行事「アップルマラソン」に参加して10kmを走り、その足でこちらに寄り日帰り入浴をさせていただいた。同じようにマラソン参加者が大挙しておしかけたのだが、湯量も豊富でスペースには比較的余裕があるので、廊下に座り込んで風呂上りの休憩をとった記憶がある。今回はゆっくりと宿泊である。

泉質は弱アルカリ性単純泉。アルカリ泉特有の、肌にしっとりとくるなめらかなお湯である。ここで気に入ったのは、浴槽が2つに分かれていて熱い湯(43度くらい)とぬるい湯(40度くらい)になっているところ。源泉が60度以上あるため、いずれにせよ加水してある。最近源泉かけ流しにこだわりすぎてやたら熱い湯のところがあるが、ゆっくり入れるのはやはり適温のお湯である。

最小限の加水であれば、入っていて分かるものである。かけ流しとはいっても長く入れないのでは意味がないし、循環とかしていない出しっぱなしのお湯であれば、かけ流しと同じことではないかと思う。町営時代からあまり手を入れていないので施設は決して新しくはないが、ともかく気持ちいいお湯である。

もう一つすばらしいのは、価格がリーズナブルであるところ。夕食も土地の季節のものをたっぷり出していただいて、1泊2食で約8500円というのは破格といっていい。夜具もものすごく寝心地がよくてぐっすり眠ることができ、久しぶりの休暇を思う存分リラックスすることができた。これから寒くなるが、お勧めの温泉である。

[Sep 26, 2011]

穂高温泉郷・しゃくなげ荘の外観。決して新しい施設ではないですが、なかなかのお宿です。(2016年現在、宿の営業はやっていないらしい。惜しいことだ。)


今回訪問した信州・安曇野周辺は、そこら中で「おひさま」キャンペーン中。これは主人公・井上真央の蕎麦屋のセットのようです(見てないので)。ただし、このセットのある大王わさび農場は、昔と違って観光化されすぎてしまいました。


奥多摩もえぎの湯 [Apr 15, 2013]

この間の雲取山の帰りには、いつも満員で有名な奥多摩温泉「もえぎの湯」に行ってみた。休みの日に行くのは大変そうなので、平日を狙ってみたのである。ところが春休み中であったためキャンプに来た小学生が一杯で、やはり混んでいたのでありました。入れたからよかったけれど。(休日には入るのに何十分待ちとかなるらしい)

受付をして廊下を奥に進むと、階段を下に進むお風呂への通路と、上に進む休憩室・食堂への通路に分かれる。廊下にしても通路にしても、全体にあまり広くはない。経営戦略上、小さく作って無駄なスペースがない方がいいのは確かで、これならば登山客が少々減っても赤字にはならないと思われる。

脱衣場も決して広くはない。平日の1時前なのでそれほど混んでいないと思ったら、10人くらい先客がいて、着替えるのにちょっと狭かった。マッサージチェアとかが余計なような気がするが、地元の人にとってはこちらの方が重要なのかもしれない。逆に、お風呂には余裕がある。内風呂と露天風呂があって、山登りで疲れた足腰には非常にありがたい。

こちらの温泉のHPによると、奥多摩温泉は奥多摩の地下深く、日本最古の地層といわれる古成層より湧き出るメタほう酸・フッ素泉で、源泉100%の内風呂に入ると肌にまとわりつくような質感がある。つるつる温泉ほどぬめぬめ感はないのは、泉質の違いだろう。内風呂に入って、太もも、ふくらはぎを念入りにマッサージする。私の場合、登りはふくらはぎに、下りは太もも前側に疲れが出るのだ。

温まった後は露天風呂へ。こちらは景色がすばらしい。キャンプ場のある河原方向が開けていて、山側は60度以上はあろうかという急斜面を望む。JR奥多摩駅のすぐ裏から立ち上がっている本仁田山と思われる。加水してあるのか、こちらの泉質は内風呂ほど濃厚ではない。雰囲気を味わうお風呂といえそうだ。

お風呂の後は2階の休憩所・食堂に上がって、生ビールとカレーライスでお昼にする。奥が畳敷き、手前がテーブル席だが、登山客が大挙して来場したらバス1台分でいっぱいになってしまいそうだ。お土産にきゃらぶきを購入。食事は現金で食券を買うが、お土産はロッカーキーを見せて受付で帰りに精算する(このきゃらぶきが、七ツ石小屋のわき水で炊いたご飯と食べると絶妙)。

きれいな施設だし、すいている時に来る分にはいい印象が残る温泉である。しかし全体に狭いので、休日に来てごった返したらちょっとどうかという気もする。登山後で疲れているし、駅からここまで10分ちょっと歩いてその上待たされるのはつらい。がまんして河辺まで行って広くて駅から近い梅の湯という選択は十分ありえるかもしれない。

[Apr 15, 2013]

正面の建物がもえぎの湯。谷沿いに露天風呂があります。


多摩源流・小菅の湯 [Jun 3, 2013]

小菅村は山梨県に属するのだが、主な公共交通機関は西東京バスである。ここからJR奥多摩駅までバスで約1時間だから、相当の山奥ということになる。その小菅村に、村営の温泉施設である小菅の湯がある。行ってみてびっくり。ハイキング帰りのたくさんの人でにぎわっていた。

大菩薩峠から小菅林道を下りてきた最初の集落、橋立から村営バスが出ていて、これに乗ると小菅の湯に行くことができる。料金は100円、コミュニティバスはたいていこの値段である。小菅の湯からは再び村営バスが西東京バスと接続していて、次の奥多摩行きまで1時間と少し余裕がある。ひと風呂浴びて着替えるにはちょうどいい時間である。

単純アルカリ泉であるが、軽く硫黄の匂いがする。内風呂は打たせ湯、寝湯、バイブラ湯と普通の浴槽、それにサウナと源泉かけ流しの水風呂がある。その他に露天にも2つほどの浴槽が見えたが、日差しがきついのでこの日は内風呂のみ。標高差で1500m近く下りてきたので、さすがに足がだるい。

これだけ多くの湯船があるのだから、鉱泉とはいえ、湧出量は豊富ということであろう。さすがに、多摩川源流だけのことはある。それにしても、これだけの施設を山の中に作ってしまうのだからすごい。それも作るだけでなく、結構人が来ている。人が来るということは、施設を維持管理していく経費がまかなえるということである。

いまから40年くらい前だろうか。まず最初に田中角栄の日本列島改造ブームがあって、しばらくしてテーマパークのブームがあった。何しろ田中角栄だから、ハコものというか、施設の建設が主体のブームで、作ったものをどう運営していくのかという発想はほとんどなかった。建設業にとって工事需要は売上になるが、維持管理は売上にならないからである。

結局、全国至るところに、作ったはいいが赤字経営で放棄された施設の残骸が残ることになった。だから、「千と千尋」でお父さんは驚きもしなかったのである。ああいった鉄とセメントと木材のムダ使いが後で祟ることはないのだろうかと思うけれど、それはそれとして、ここ小菅の湯のように維持管理がしっかりなされている施設を見るのはうれしい。

ゆっくり風呂に入ってしまったので、食事の時間が20分ほどしかとれなくなってしまった。山菜の天ぷらなど、ゆっくり楽しみたいメニューもあったのだけれど、時間の関係でビールと定食にする。定食は、こちらの名物であるおそばとますのお刺身がメインである。もともとそばは、水田のあまりない、つまり米のとれない山間地の作物である。

川魚は刺身よりも塩焼きの方がおいしいと常々思っているが、この日のお刺身はなかなかのものであった。たくさん歩いてお風呂に入って、ビールと一緒に食べたこともあったのかもしれないが、くせがなくて、しかも生きがいい。思わず、時間もないのにわさび焼酎のグラスを頼んでしまった。

山梨側から東京側に抜けるという今回の山行は、こうして無事に終了したのでありました。小菅の湯から村営バス、西東京バスを乗り継ぐと、ちょうどJRの「ホリデー快速奥多摩号」に接続する。奥多摩から乗って御茶ノ水まで1本というのは、とてもありがたい。

[Jun 3, 2013]

小菅の湯正面玄関。JR奥多摩駅からさらにバスで1時間先とは思えない、整備されたきれいな施設です。


丹波山温泉・のめこい湯 [Jul 7, 2014]

前々から行ってみたいと思っていたのであるが、奥多摩からだといちばん奥の丹波山にあるので、なかなか行けなかった温泉である。5月の丹波天平(たば・でんでいろ)では、下りてくる時間がバスの時間と合わずに断念した経緯もある。笠取山では、いずれにしろ車でないと難しいので、下山後に入るつもりで最初から準備したのだった。

青梅街道沿いの「道の駅たばやま」に併設されている。道の駅から来ることもできるが、駐車場の案内に従って進むと民家の間から狭い坂を下って施設の裏側に駐車場がある。こちらは主に地元のお客さんが止めているようで、軽トラックなどが並んでいた。建物を半周して入口に向かうと、さすがに休日の午後、三々五々ハイキング客が入って行くのであった。

村営の施設で、かなり余裕をもって作られている。利用料600円を払って中に入ると、突き当りにレストランがあり、左に曲がって浴室と休憩室がある。浴室は男女ともほぼ同じ広さがあり、日ごとに入れ替えているようだ。その日の男湯は和風浴槽で、ひのきの枠で床面はタイル張りになっている。

内風呂は一度に15~20人は入れそうな浴槽が2つ。湯温はそれぞれ39度と42度に設定されている。その他に露天風呂があるがそちらは満員だったので、内風呂でまったりする。後から奥さんに聞いたら、女風呂は円柱とドームがある洋風だったそうだ。

「のめこい」とはこちらの方言で「つるつる、すべすべ」という意味で、入るとすぐお湯がぬるぬると肌に触れる感触がある。典型的なアルカリ泉の特徴である。掲示してあった成分分析表をみると、アルカリ性低張性温泉、単純硫黄泉と書いてある。弱硫黄臭とあるが、硫黄臭はほとんど感じられない。山歩きで疲れていたためだろうか。

ゆっくりお湯に漬かってふくらはぎと土踏まずをマッサージする。ぬめぬめのお湯がマッサージによく合う。奥さんは、下りの山道でヒザが笑うと言っていたが、ここのお湯のおかげで翌日には何ともなかったそうだ。

お風呂の後は畳敷きの休憩室でゆっくりする。公営施設の畳といえば大抵は古くて茶色くなっているのだけれど、ここの畳は青いし縁も真新しい。畳が古いと虫でもいるのではないかと思ってしまうが、そういう心配をさせないところがいい。

休んでいる間に、係りの人が何人も行き来して働いているのもいい。丹波山村の村営施設では、集客力ではここと道の駅ということになるだろうから、それだけ力も入っているということだろう。

山ひとつ向こうの小菅の湯もそうだったが、奥多摩駅から1時間先にこういう近代的な施設があるというのは、ちょっとした驚きである。

[Jul 7, 2014]

丹波山温泉のめこい湯エントランス。奥さんはここのお湯のおかけで、翌日はどこも痛いところがなかったそうです。


大菩薩の湯(少し爆) [Dec 13, 2014]

笠取山にテント泊に行った帰りに、大菩薩の湯で汗を流してきた。

大菩薩の湯は柳沢峠から塩山に向かう途中にある。すぐ近くに大菩薩峠に向かう裂石(さけいし)登山口があり、それで大菩薩の湯と名付けられているのだが、正式には甲州市交流保養センターといって、入口にもそう書いてある。立ち寄り温泉の多くは入口で入場券を買うけれど、ここは入ってすぐに産地直売所や食堂があるので、入場券は奥にある浴室入口で買う。ちょっと分かりにくい。

入口を入る前に、「登山者は靴の泥をおとして下さい」と書かれている。おまけに、市外者の利用は1080円と大きく書かれていて、のっけから登山客の利用を歓迎していない雰囲気である。3時間以内であれば640円なのだが、山歩きの帰りに3時間以上風呂に入る人がいるのだろうか。また、登山客が売り上げに寄与するところは小さくないだろうに、「ここは原則として地元だけ」なんて強調しなくてもよさそうなものだ。

入場券を買って浴室に入る。脱衣所の作りがちょっと古い。この地域の立ち寄り温泉は、小菅の湯にしてものめこい湯にしても、山梨県とは思えないくらいしゃれていて今風なのだが、ここはひと昔前の銭湯のようである。また、洗い場がとても狭い。この日はすいていたからよかったけれど、満員になったら背中がぶつかってしまいそうな配置であった。

泉質はアルカリ性単純泉の沸かし湯。確かにアルカリ性泉特有の肌にやさしいぬるぬる感のあるお湯であるが、ちょっとぬるい。外にある露天風呂は少しは違うかなと思ったら、もっとぬるかった。体感温度で、内湯は40℃、露天は38℃くらいしかなかったのではないだろうか。

源泉かけ流しなら仕方ないが、加温でこれはちょっといただけない。内湯は20人くらいは入れそうな大きなものだが、半分で区切って高温と低温にするくらいしてもいいような気がした。温泉の濃度も、のめこい湯とかつるつる温泉と比べると、ちょっと薄いような気がした。

それでも、前日はテント泊で風呂に入れなかったものだから、手足をもみほぐしゆっくりすることができた。マッサージ機が3台置いてあって10分100円。新しくてなかなかもみ心地のいい機械であった。休憩所は畳敷きでかなり広く、座布団を持ってきて横になって休んでいる人が多い。ただ、「座布団は1人1枚」(大量に余っているのに)、「使ったら戻すこと」など貼り紙があるのはおしつけがましい。

ある意味、公営の堅苦しさが前面に出た温泉施設といえそうで、少なくとも登山者や非居住者ウェルカムという姿勢はあまりみられなかった。もしかしたら、地元以外の人は来なくてもいいと思っているのかもしれないが、だったら「大菩薩の湯」なんて言わずに「交流保養センター」一本でいけばいいのにと思う。

[Dec 13, 2014]

大菩薩の湯エントランス。向かって左の棟が農産物直売所、右の棟が大浴場になります。


みとみ笛吹の湯 [Jun 15, 2015]

白沢峠から下りてきた帰りに、笛吹の湯に寄った。

笛吹川沿いにはいくつかの温泉があり、立ち寄り入浴が可能である。山小屋に泊まるとたいていは風呂に入れないし(尾瀬とかを除くと)、長い距離を登り下りした後なので、できれば汗を流して着替えたい。交通の便さえよければ、ひと風呂浴びてさっぱりして帰りたいところである。

今回問題となったのは、バスの時間である。西沢渓谷からは、シーズン中の土曜・休日であれば塩山行のバスが1日4~5便、山梨市行のバスがやはり1日4~5便出ている。しかしそれでも1日10便くらいだから、間隔は短くて1時間、長いと2、3時間は待たなくてはならない。幸いにこの日は白沢峠入口で10時20分過ぎのバスに乗ることができた。

このバスに乗れたので、約1時間後にも山梨市行のバスがある。途中にバス停のある「笛吹の湯」に入るには絶妙のタイミングなのであった。私だけでなく、始発あたりから乗ってきた登山客(雁坂峠か甲武信ヶ岳から下りてきたと思われる)もここで下りて1時間後のバスに乗ったから、結構ポピュラーなルートなのだろう。

(もし次のバスに乗っていたら、乗り継ぎは2時間後であった。そのためか、次のバスの登山客は、街中にある「花かげの湯」で下車していた。ここからだと、駅までタクシーを使ってもそれほどの金額にはならないし、歩いて歩けない距離ではない。)

現在は「笛吹の湯」という名前だが、タオルを買ったら「みとみ笛吹の湯」とプリントしてあったので、もともとはそういう名前だったようだ。「みとみ」は山梨市と合併する前の三富村のことで、「笛吹」は西沢渓谷から谷を流れる笛吹川からとっている。昔このあたりに来た時はもっと旅館・民宿があったように思うが、雁坂トンネルの開通で交通の便がよくなった分、宿泊ニーズは減少したようで、昔ほどのにぎわいはない。

バス停の名前が「笛吹の湯」なので、前に建っている建物がそうだと思っていたら、その建物は「三富デイケアセンター」で、スロープを上がった先にある武家屋敷風の建物の方が温泉施設であった。もしかすると、デイケアセンターにも給湯されているのかもしれない。

入口には例によって自動券売機がある。上がったところが休憩室になっており、応接セットやマッサージ機が置かれ、結構広いスペースがある。廊下を左側が浴室、右側には貸切の座敷があった。浴室入口には貴重品ロッカーもあって安心だ。

山から下りてくるとリュックの置き場所が気になるが、ここではカギ付きロッカーの上のスペースにリュックを置くことができる。利用者は、やはり地元のお年寄りが多い。どこに登ってきたんですか、などと聞かれながら汗まみれの服を脱ぐ。バスタオルと着替えは、荷物の中に入れてある。

成分表をみるとアルカリ性単純泉とある。山2つ3つ挟んでいるが、奥多摩の温泉と同じである。ただ、入ってみてまず感じるのは、ちょっとぬるいということと、のめこい湯ほどのぬめぬめ感はないということである。もう少し熱くてもいいような気がするが、かけ流しなのだろうか。あるいは、地元の人達の好みなのだろうか。

その分、ゆっくり入っていてものぼせないし、大汗をかくということもない。地元の人達は露天風呂で談笑しているから、向こうもそれほど熱い訳ではなさそうだ。私は誰もいない内湯を選択。歳をとったせいか、刺激の少ない温泉だとそれはそれで安心できるからありがたい。時間はあるので、手足を伸ばして2日ぶりのお風呂を楽しむ。

施設内に飲み物の自動販売機はあるが、食堂はない。どうしてもということになると売店で何か買って食べることになるが、それほどお腹が減っていなかったので風呂上りは応接スペースで荷物の整理をしながらゆっくり休む。

山の景色を楽しみ、山のいで湯でゆったり過ごす。考えてみれば、贅沢な時間の使い方である。健康に気を付けて、定年後はこんな時間を長く過ごしたいものである。

[Jun 15, 2015]

スロープ上の屋根が笛吹の湯。手前の建物は旧三富村デイケア・センター。


氷川郷温泉・麻葉の湯(三河屋旅館) [May 26, 2014]

三ノ木戸(さぬきど)山から下りて青梅街道に出たところに、三河屋旅館がある。ここの宿は現在、宿泊代金が奥多摩一高いお宿なのであるが、ホームページを見ると日帰り入浴も受け付けてくれるようだ。しかしながら、宿の前にはそういう看板・のぼりはない。半信半疑で旅館の入口を入り聞いてみると、「どうぞ、やってますよ。」ということでひと安心。

もしかすると、歩いて10分の「もえぎの湯」の大混雑に恐れをなして、大っぴらには宣伝していないのかもしれない。あるいは、宿泊客が優先なのであえて言わないのかもしれない。いずれにせよ、石尾根末端から下りてくると目の前にあるのは非常に魅力的である。利用料金は1000円である。

受付前の階段を下り、いったん屋外へ出て浴室棟まで歩く。暖簾の掛けられた入口を入ると脱衣所があり、その奥が浴室となっている。カランは6つ、浴槽も6人くらいは同時に入れるだろうか。幸いに、この日は私の専用である。正面の多摩川寄りが一面ガラス張りとなっており、駅前から急坂を登る愛宕山が眼前に迫って、雄大な景色にまず驚かされる。

お湯は盛大にかけ流されている。低温で湧出している鉱泉を加熱しているのでいわゆる「源泉かけ流し」ではないものの、何度も書いているように適温であれば全く問題ない。熱過ぎたりぬる過ぎたりする方が、使う側にとって難儀である。

WEBでは硫黄泉と書いてあるのだが、みたところ無色無臭の単純泉である。成分表をみると、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、塩素イオン、炭酸水素イオン、メタケイ酸イオンなどが多く含まれているようだ。入った感じは炭酸泉というよりも食塩泉に近い。落ち着いてしっとりしたお湯である。

山道を登り下りして固くなった足をもみほぐす。この日は、山の上では霰(あられ)となり寒くなったこともあるのか、太ももがけいれんするという困った事態になったことから、両太ももは特に念入りにもみほぐした。山歩きの後のお風呂は、まさに至福である。疲れがいっぺんに飛んで行ってしまう気がする。

駅まで歩いて5分なので、もえぎの湯より大分と近い。もっともこの日は、3時半のホリデー快速に間に合うように出たのだけれど、中央線の人身事故により立川止まりとなってしまった。こんなことならもう少しゆっくりしていけばよかったと思ったが、後の祭りであった。

[May 26, 2014]

氷川郷温泉「麻葉の湯」。浴室からは多摩川をはさんで、愛宕山が目前に迫る絶景です。まだ桜も咲いていました。


秋川渓谷 瀬音の湯 [Dec 21, 2016]

秋川渓谷瀬音の湯は、武蔵五日市からバスで桧原村役場・数馬方面に向かうバス通りの近くにあり、瀬音の湯を経由してくれる便も1日何台かある。奥多摩地域の日帰り温泉としてはたいへん有名で、休日午後などはかなり込み合って大変という評判も耳にする。その場所であるが、1/25000図では「青年の家」と書いてあるところである。

青年の家とは、かつて東京都内に何ヵ所かあった「東京都青年の家」のことである。青少年の健全育成を目的として、宿泊・研修施設、飲食施設、キャンプ・バーベキュー場などが整備されていたが、時代の流れとともに利用客が減り、次々と閉鎖された。現在ある瀬音の湯は、その跡地に整備されたものである。

現在運営しているのは新四季創造(株)という民間会社だが、おそらく東京都もしくはあきる野市が施設整備して、民間に運営委託しているのではないかと思われる。こうした施設ではよくある方式で、山登りでよく使われる日帰り温泉施設の中にはこうした施設がいくつかある。

さて、この日は戸倉三山の臼杵山から下りてきたのが午後5時を過ぎてからで、すでに真っ暗になっていた。下山口は荷田子という集落で、害獣除けのフェンスがあって出るのに苦労したのだけれど、途中、峠にあった案内標示には、「荷田子まで0.6km、瀬音の湯まで1.7km」と書いてあった。

だから1km余計に歩けば済むと思ったのだが、例によってなかなかその通りにはいかなかったのであった。バス通りから案内板の指示どおりに左に曲がり、大きく右にスライスしながら秋川と平行に進む。まっすぐな通りに出ても、なかなか建物は見えてこない。坂を下って登って、駐車場の奥が建物で、しかも温泉施設はいちばん奥にある。

あとからGPSのデータを確認してみると、フェンスを出たところから温泉の建物まで23分、1.3kmほどかかっている。山道で疲れた後のもうひとがんばりなので、それ以上に長く感じられたものであった。

さっそくお風呂に入らせていただく。入浴料は自販機で900円。時間制限は3時間だが、山歩きの帰りでこれだけあれば十分であろう。施設はたいへん新しく、備品もきれいで清潔感がある。ただ、備え付けのボディシャンプーは泡立ちがよくない。こうした施設は自然素材を使っているので、こういうケースが多いのは痛しかゆしというところである。

泉質はアルカリ性単純硫黄泉と書いてある。すべすべ感のあるお湯で、立地的に近くにある「つるつる温泉」や「のめこい湯」と似ている。印象的にはその2つよりもちょっと薄めといったところか。ただ、逆に、ゆっくり漬かる分には抵抗感がなくていい。硫黄の匂いはほとんど感じられない。

遅くなったので、ここで夕飯を食べに行くことにして、奥のレストランに行く。ここには宿泊施設(駐車場わきにあるコテージ)もあるので、それなりの味を期待していたのだが、生ビールを注文してグラスで出てきたのにまずがっかり。グラスで出すところは高い割に美味しくないというのが私のこれまでの経験則なのだ。

実際、つまみにお願いした牛すじ煮込みも、刺身定食も、値段と比べるとお得感はなかったというのが正直な感想である。同じ武蔵五日市周辺の「つるつる温泉」の食事が安くてたいへんに美味しく、生ビールは冷え冷えの中ジョッキがどーんと出て来るのと比べると、どうしても見劣りする。

あるいは、最初に述べたように民間への運営委託なので、安く入札してこのあたりで費用をかけてはいられないということなのかもしれない。だとすれば、たいへん悲しいことである。山の日帰り温泉の最大の楽しみは、風呂上りに飲む生ビールなのである。

[Feb 13, 2017]

真っ暗な中、ヘッデンの灯りで山から下りてきたものですから、こんな写真になってしまいました。


はとのす荘(鶴の湯温泉) [Oct 4, 2017]

今回の山行は鳩ノ巣発着となった。休日パスなので奥多摩まで行っておくたま号に乗るつもりだったのだが、あいにく下り電車が出たばかりだったので、そのまま線路を越えて川沿いに出た。日帰り入浴のできる「はとのす荘」までも歩いて5分と看板に書いてある。

集落の名前が棚沢なのに、なぜ鳩ノ巣というのかというと、江戸時代、振袖火事として有名な明暦の大火(1657)の際、建て直しのため材木が必要となり、ここ多摩川上流から多くの木々が伐り出された。

それだけ人手も必要だったことから、このあたりに人足の飯場が置かれ、神社も作られたのだが、その神社に鳩が巣を作り、それを見た人足たちが鳩ノ巣と呼んだのが始まりという。地名由来としては比較的新しく、それで集落の名前(当然江戸時代よりずっと前からある)と地名が違うのであった。

現代こそ小河内ダムがあり白丸ダムがあるのでここまで材木は流れてこないが、江戸時代のことであるから遮るものは何もなく、水量もいまよりずっと多く、それこそ鷹ノ巣山の麓のあたりから丸太をたくさん流してきたのだろう。想像するだけで雄大な景色である。

その鳩ノ巣渓谷に面して、つい最近、2015年にリニューアルオープンしたのが「はとのす荘」である。確かに、建物も駐車場周りもたいへん新しい。この宿はもともと国民宿舎として営業されていて、数年前から建て替えのためクローズとなっていたが、こうして新築されたのである。古い1/25000図には「国民宿舎」と記載されている。

雨除けになっているエントランスから入ると、まるでホテルのようなフロントがある。「日帰り入浴はできますか?」とお伺いすると、

「時間は3時までとなりますが、それでよろしいですか」

おっと、時間制限があるとなると登山帰りには気を付けなければならない。幸い、この日はまだ2時15分なのでまだ十分時間がある。1130円の入浴料を払って入場。

「正面を進んで左側になります。いまさっき10人ほど学生さんが入れられたので、ちょっと混んでいるかもしれません」

ということだったが、中には露天風呂と内湯があり、スペースにはまだ余裕があった。さすが奥多摩。日帰り入浴のできる施設は必ず客足が伸びる。時間限定だとそれほど収入はないかもしれないが、長く続けてほしいものである。

さて、こちらの温泉は「鶴の湯温泉」である。「鶴の湯温泉」といえば、小河内ダムの湖底に沈んだ源泉であり、ポンプで引き上げて奥多摩町の旅館・民宿にタンクローリーで配湯している温泉として有名である。泉質はアルカリ性単純硫黄泉、硫黄の匂いはほとんど感じられないが、奥多摩の他の温泉と同様にすべすべ感がある。

まだ新しいので、施設は清潔で手入れが行き届いている。先客の学生さんたちも大騒ぎするでもなく常識的で、早い人達はすでに洗面所を使って身支度を整えている。一安心して、空いていたカランを使って体を洗い、湯船で手足を伸ばす。この日は久しぶりの山歩きで結構しんどかったので、太ももやふくらはぎをマッサージする。

「もう3時だ。急ごうぜ」と撤退する学生さん達の後、スペースのできた脱衣所で着替える。CW-Xから普通の下着に着替えると、いっぺんに手足が開放的になった。この日の朝は乗り継ぎ不調で奥多摩まで4時間かかったけれど、帰りは順調に3時間で家に着いたのでした。

[Oct 4, 2017]

はとのす荘エントランス。鳩ノ巣に下りる場合便利だが、日帰り入浴は午後3時までなので注意。


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