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二日市温泉 [Oct 10,2006]

二日市温泉は九州の歴史の町筑紫野市にある。JRの二日市駅から少し線路沿いに歩き、そこからありふれた田舎町の景色を見ながらしばらく行くと、突然という感じで温泉街が現れる。関東に住んでいて温泉地というと、どうしても山あいとか大きな川の近くにあるような印象があるのだが、ほんとに突然現れるのである。いわば「スーパー銭湯」的な立地にあるのだが、ここは万葉の昔から千数百年の歴史を誇る名湯なのである。

歴史や寺社に興味のある方なら、大宰府政庁跡とか観世音寺、大宰府天満宮といった史跡があるすぐ近くと言えば、見当がつくのではないかと思う。西鉄の大宰府駅は、西鉄二日市からすぐである。ご存じのように太宰府天満宮は菅原道真公をお祭りしている神社であり、道真公は平安時代中頃に京から大宰府に左遷させられたことから怨霊(天神)になったとされている。

それよりかなり前の奈良時代初め、ここ大宰府で大伴家持が長官、部下に山上憶良とかがいて、集まっては酒を飲み、酒を飲んでは和歌を作っていて、その歌が万葉集に多く収められている。

山上憶良は貧窮問答歌や「まされる宝子にしかめやも」などシリアスな歌が代表作として知られているけれども、妻子を口実に酒宴を抜ける歌(「憶良らは今はまからむ子泣くらむそれその母も我を待つらむぞ」)などもあって、万葉集も時々面白いところもあるのだが、そんな歴史に思いをはせながら温泉街を行くと、いかにも由緒ありそうな「御前湯」という温泉施設がある。調べてみたところでは、江戸時代、福岡藩黒田の殿様専用の温泉であったらしく、その名前を引き継いでいるらしい。

入ってみると、みやげ物屋と並びで入口があり、なんだか庶民っぽい。脱衣所も浴槽も普通の町の銭湯と一緒で、違うところといえばまっ昼間から満員であることぐらいだろう。泉質は単純泉で、特にくせはない。逆に言うと温泉に来ているんだか銭湯に来ているんだか分からんということでもある。ただ温泉から上がると、とても大きな畳敷きの休憩所があって、ここは一日いてもいいらしい。もちろん足を伸ばそうが寝ようが自由である。これで200円だから、お得だとはいえそうだ。

ここに行ったのは2年くらい前のことなのだが、御前湯の向かいにある「アイビーホテル筑紫野」で野菜料理のバイキングをやっていて、あれはすごくおいしかった。まだ続いているのかなあ。また、大宰府天満宮から15分くらい歩いたところに九州国立博物館の新築工事中でその後オープンしたはずなので、近いうちにまた一度行ってみたいと思っている。

[Oct 10,2006]

二日市温泉、御前湯前で。


別府温泉 [Jun 16, 2008]

出張のついでに、別府温泉に行ってきた。

源泉数・湧出量ともに日本一とされる温泉で、「別府八湯」と呼ばれる大きな温泉街もあれば、路地裏に忽然と現れる温泉もある。市立図書館(元・別府町役場)前には「桜町の飲み湯」という温泉もあり、道端の自動販売機の裏からお湯が出ていたりする。

今回泊まったのは、海岸沿いの温泉街にあるビジネスホテルで、もちろん温泉大浴場がついている。温泉街には多くの旅館があるが、それほどの人通りはない。関東でいうと熱海の旅館街と似たところがあって、かつてはたいへんな賑わいをみせたのであろうと想像された(聞いたところによると、観光客の多くは湯布院温泉の方に行ってしまうようだ)。

国道をJR別府駅方面に渡り、大通りから細い道に入ると、おそらく数百軒はあるのではないかと思われる飲食店街が広がっている。地方都市ではおなじみの、4階建てくらいのビルにそれぞれ20~30軒の飲み屋の看板が掲げられていて、そういうビルが通りごとに何棟もある。もしかすると、ここに泊まっている観光客の数よりも飲み屋の数の方が多いのではないかと思うほどであった。

温泉の泉質は、湧出量が多いだけあってさまざまである。海も近いし、山も近い。路地裏からほんのりと硫黄の匂いもする。宿の泉質表をみると、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、塩素、炭酸水素などのイオンの含有量が多い。食塩泉と重曹泉の特徴を持った温泉のようだ。

入ってみると、特に匂いや刺激は感じられないが、重曹泉特有のしっとり感がある。お湯に手を浸した後こすり合わせると、きゅっきゅっ、というあの感じである。衛生面から循環・加温しているのは大規模なホテルでは仕方ない。個人的には、源泉かけ流しと清潔感のどちらか選べと言われれば、清潔感がある方がいい。露天風呂でしばしの間くつろぐ。

ちなみに当地の名物は、関さば、関あじ、城下かれいなどの魚と、とり天と呼ばれる鶏肉の天ぷらである。関さばは入っていなかったので、城下かれいのお刺身でビール。鶏は、関東人からするとやっぱりから揚げやマリネの方が好みかもしれない。

[Jun 16, 2008]

夜の別府温泉。国道沿いからタワー方面。


別府・明礬(みょうばん)温泉 [Dec 22, 2009]

今年は温泉というと出張の行き帰りに立ち寄るくらいしかできないのであるが、今回も同様である。ただし、別府温泉八湯の中で、最もディープといわれる明礬(みょうばん)温泉へ行って来た。もちろん、評判の「別府温泉保養ランド」である。

別府駅西口から立命館アジア・パシフィック大学(APU)行きバスに乗って約30分、山をまたいで走る高速道路の大きな橋梁部を背景に、別府温泉保養ランドがある。いろいろなサイトに、とても古くてあまりきれいでない、と書いてあったので相当に身構えて行ったのだが(出張なのにジャージを持って行った位である)、一部を除いてびっくりするほどではない。

入口でおばさんに1050円払って入場。200円のコインロッカーに貴重品を入れようとすると、「中に100円のがあるよ」と親切に教えていただく。都会のと違って、おカネが戻ってこないコインロッカーである。休憩所兼大広間までしばらく歩く(後から、露天風呂の周りを回っていたと分かった)。

畳敷きの大広間には、温泉の来歴や注意書き、藤波辰巳がここへ来て治療して行った時の写真などが掲示してある。また、「県警の指導により、撮影機能のある携帯電話の持ち込みを禁止します」とも書いてある。なんと、後から地元の人に聞いたら、ここは混浴温泉のメッカなのだそうである。

大広間から奥へ進むと脱衣所、そこから扉・戸もなしに、すぐに内湯のコロイド湯である。洗い場には2つの蛇口があるが、どちらからも水しか出ない。そして、石鹸は使うなと書いてある。ディープな温泉なのである。ゴボゴボとお湯の湧き出る音と、硫黄の臭いが温泉の雰囲気をかもし出す。確かにいいお湯だが、中が見えずに足を石で切ってしまった。

コロイド湯から脱衣所に戻る方向に、地下の泥湯への階段がある。この泥湯がこの保養ランドの売りだったはずなのだが、残念ながら泥はほとんど沈殿しておらず、浴槽の底は石だらけでちょっと期待外れ。しかし、そこから外へ出た露天風呂は、確かに温泉ファンの間で有名になるだけのことはあるすぐれものであった。

さし渡り20メートル以上ある巨大な露天風呂で、中には泥(湯の花)が沈殿している。そして、その泥の中からまさに温泉が沸いて出てきているので、湯温はすごく熱いところからそれほど熱くないところまでさまざま。それで自分の気に入った温度のところを選ぶことができる。下からすくった泥を腕や胸に伸ばしたりするのも心地よい。

湯船からは、自動車道の橋も見えて雄大である。そして湯船の一角には「女湯」という表示があって、暗くなると女性も入ってくるらしい。確かに湯船は泥でにごっているので、混浴とは言ってもそれほど抵抗はないのかもしれない。

ただ個人的には、見えない湯船の中にいろいろ危ないものがある(ごつごつした石、パイプのような仕切り、浴槽の段)のが気になって、内湯のコロイド湯の方にした(それでも足を切った)。脱衣所からの入口にあたるので、入ってくる人達をさりげなく観察する。私と同年輩はそれほど多くなく、若いグループが何組か。外人さんを連れているグループもいた。

この温泉は昭和時代の泉質表では「明緑礬泉」、平成のものでは「単純酸性温泉」と書いてあった。明礬(みょうばん)は硫酸アルミニウム、緑礬(りょくばん)は硫酸鉄であり、いずれにしてもこの温泉以外ではあまり見たことのない泉質である。

石鹸もシャンプーもなく、またシャワーもない前近代的なこの温泉、このまま次の時代まで生き残れるかどうかという興味も含めて、確かにディープな温泉である。

[Dec 22, 2009]

湯煙りの上がる、別府温泉保養ランド。


大分自動車道の鉄橋。露天風呂からの眺めは圧巻。


由布院温泉(爆) [Mar 7, 2012]

由布院温泉は別府から山を越えたところにある。先日奥さんと一泊してきたので、その時の話。ちなみに、温泉地の名前はもともと”由布院”で、昔の市町村合併の際に湯平村と由布院町が合併して”湯布院町”となったことから、その町名が駅名やIC名、温泉の通称名として使われるらしい。そのように亀の井バスの待合所に書いてあった。

私としては、別府同様に湯量が豊富な温泉で、別府より奥にあるひなびた温泉という印象を持っていたのだが、奥さんはTVをよく見ているので、「あんたの苦手な人口密度の高い温泉」と最初から知っていたそうだ。だったら行く前に言ってほしかった。

JRの駅からしばらくまっすぐ進むと、大きな通りを渡ったあたりで急に人が多くなる。遠くから見ると、通りを埋めて人間がひしめいているのが分かる。まるで巨人戦の水道橋から東京ドームに向かう人混みのようだ。後からタクシーの運転手さんに聞いたところでは、奥にある金鱗湖の近くにバスの駐車場があって、そこに観光バスが止まって大人数が散策をするらしい。

さて、人混みのところまで行くと、そこから通りの両側に土産物屋や雑貨屋、スイーツ専門店が何百メートルも続いている。個々の店の大きさはさほどでなく、昔ながらの温泉土産物店とは違っておしゃれである。値段は結構高い。普通3~400円で売っているロールケーキに「由布院○○」と名前を付けただけで千五百円も取るのだから驚く。

もっと驚くのは、やたらと他人にぶつかっていく人が多いということであった。何だよーと思ってそういう人をよく見ていると、かなりの確率で日本語を話していない。よく見るとお店の方にもハングルや中国語の説明がある。そう、ここは海外からの観光客が集まる場所なのであった。

雑貨やスイーツにはあまり興味がないので、目についた「九州の銘酒そろってます」という謳い文句の酒屋に入ってみる。外装は気が利いているのだが、中に入ってみるとたいした酒が置いていない。せいぜい3~4000円のどこででも手に入るような銘柄ばかりで、ここでなければ買えないだろうという酒は見当たらなかった。

さらに、立派な陳列用ワインセラーがあったので、さてどんなワインを揃えているのかなと中をのぞいてみると、「サンライズ・カベルネ」(チリ)や「シュヴァルツ・カッツ」(ドイツ)がわざわざ横にして置いてあった。もうこれだけで、ワインのことをろくに分かっていない店だというのがよく分かる。

JR湯布院駅前。この日は雨で由布岳は全然見えませんでした。


さて、温泉地の本分はもちろん温泉である。JR駅に戻ってタクシーで宿へ。例によって営業妨害と言われるといけないので、仮に”Ⅰ”とする。その後の状況を調べてみると、HPがハングルとか簡体になっていたので、そういう方ご用達のツアー宿ということのようだ。

駅からタクシーで行くのが由布院温泉としてどの程度の位置関係なのかは、よそ者なのでよく分からない。ただ、先ほど歩いた土産物街を過ぎ、さらに大通りを過ぎ、墓地から細い道を入ったあたりで、これはもともとの温泉街ではないなと気がついた。それでも、別荘地のようにも見えるので、気を取り直す。

小規模ながら、建物はきちんとしている。この旅館には本館と離れがあって、我々は本館の宿泊。まず気付いたのがロビーがないこと。フロントも人ひとり何とか入れる程度のスペースで、見るからに狭い。個室は控えの間付きの広いものなのだが、共用スペースがほとんどないということは、もともと旅館として建てられたものではないのだろうか。

さて風呂である。部屋にもバスはあるのだが、こちらは温泉ではないということで別棟の大浴場へ。”大”浴場とはいうものの、脱衣所には6人分のスペースしかなく、ここでも?マークがつく。翌朝の食事時には二十人分以上の用意があったので、明らかにアンダーキャパシティである。

そして浴室に入ると、なんと内風呂部分には浴槽がなく、洗い場しかない。しかもカランの配置が悪く、排水が洗い場じゅうにたまってしまうよくない作りである。たまたま私一人で入っている時間なので問題なかったが、他人が一緒だったらかなり不快だっただろう。

一つしかない浴槽は露天である。露天とはいっても、岩風呂とか工夫している訳ではなく、大きなたらい状のものがど真ん中に置いてあるだけの殺風景なものであった。そして、HPでは「かけ流し」を謳っているこの温泉、なんと湯口から出ている源泉は「5分たったらやかんが一杯になる程度」しかない。

浴槽の広さと比べても、一日ためて浴槽が一杯になるかどうかという量。もちろん浴槽からあふれて流れるお湯もほとんどない。しかもお湯はぬるい。「源泉は90度あるので注意してください」とチェックインの時言われたので非常に期待したのだが、これではかけ流しとはいえない。

源泉かけ流しを強調する余り、熱すぎて普通の人には入れない温泉も困ったものだが、十分な湯量がないため実質的に「ため湯」になってしまった源泉では、清潔感も開放感もない。しかも浴槽は一つしかないのである。アルカリ性の食塩泉で肌触りは悪くないものの、これは何のねばねば感だと思うとあまり楽しくない。

さて、本来であれば温泉宿に来たら、着いて一風呂、寝る前に一風呂、起きてからまた一風呂というのが普通だと思うのだけれど、何とここの温泉は、夜は11時まで、朝は7時半からという時間制限ありなのだった。保安上とか書いてあったが、おそらく本当の理由は、湯量がないので24時間の提供はできないということなのであろう。

温泉成分分析表を見たが、「湧出量:測定せず」と書いてあった。ちなみに温泉名は由布院温泉ではなく、地元の名前とみられるものである。まあ、そのこと自体は他の温泉地でもありがちなことだが、湯量が足りなければ加水・加温するのが誠実な営業というものであろう。

結局この宿は、価格に見合った水準といえるのは部屋と食事だけで、温泉もサービスもひどかったし、館内施設も出した値段だけの満足感は得られなかった。以前、鬼怒川温泉でも相当がっかりしたものだが、こんなことをしていたら日本の温泉旅館はいよいよ先細りになるのではないだろうか。

[Mar 7, 2012]

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