昔いただいた初段免状。大山・中原時代・・・。

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第77期名人戦は千日手が勝負を決めたか 

第77期名人戦七番勝負(2019/4/10~5/17)
挑戦者 豊島将之 4-0 前名人 佐藤天彦

このところ、将棋実況を見て過ごすことが多くなったので、気がついたことを書いてみたい。まず、先週行われた七番勝負第4局で豊島挑戦者が勝ち、4連勝で初の名人位獲得となったシリーズについて。

いまでこそ(契約金の関係で)竜王が最高位ということになっているけれども、江戸時代からの伝統があり、タイトルとしても第二次世界大戦前からある名人位は別格である。その名人位を豊島王位・棋聖がストレート勝ちで奪取、これで1年間に一気に三冠となった。

ただ、今回の七番勝負が名勝負だったかというと、ちょっと首をひねるところがある。4-0のストレートだったからというのではなく、第1局に先手番の佐藤名人が、1日目の午後早い時間にもかかわらず千日手にしたのが個人的にまず気に入らない。

実力が接近している場合先手がやや有利といわれていて、それは先手の方が主導権を奪えるからである。1手先に指せる分、どういう駒組みを選ぶか比較的自由に決められるが、後手は先手の陣形をみて不利にならないようにする必要がある。

だから、五番勝負・七番勝負といった番勝負の場合、テニスと同じで後手番でいかに勝つか、相手のサービスをブレークするかが勝負の分かれ目となることが多い。その第一局で、佐藤名人は先手番を千日手にして、実質的に4局中3局を後手番で指すことになったのである。

「先手後手関係ないよ。俺は強いんだから勝つ」というのであれば、少なくともストレート負けしてはいけない。それに、名人たるもの、相手の攻勢をがっちり受け止めるのがあるべき姿だと思うのである。

将棋は相手の王将を詰めれば勝ちだが、引分け的な決着が2つある。千日手と持将棋である。持将棋は両方の王様が相手陣に入玉して双方詰みがなくなるケースなのでまさに引分けだが、千日手は同一手順の繰り返しで勝負が進まなくなることである。引分けというよりノーコンテストに近いかもしれない。

そして、千日手となった場合、先手後手を交換して指し直しである。だから、後手番となった場合、あえて千日手を避けないという作戦もありうる。有利とされる先手番で指し直しできるからである。逆に、先手番の場合はそういう局面にならないよう注意しなければならない。

その先手番で、しかも2日制の1日目で千日手というのがよく分からない。まさに序盤もいいところで、まだ事前研究の及ぶ範囲内である。中盤以降の千日手はお互い避けようがないこともあるが、まだ序盤である。この日の戦型である角換わりは序盤で差がついてしまうケースも多いので序盤だからダメというのではないが、だからこそみんな研究しているのである。

結局、差し直し第1局、第2局と先手番の豊島が勝って、迎えた第3局。この先手番で何とかしないとストレート負けの危険性がかなり大きくなるという大事な一局で、佐藤名人は終盤まさかの見落としで逆転負けを食らうのである。

この第3局、後手番の豊島が序盤やや優勢に進めていたものの、中盤以降形勢不明となり、終盤では名人かなり有利な情勢となっていた。ソフトの評価値で1000を超えていたから、「間違えなければ勝ち」という状況である。

ところが、何回か決め手を逃して+500くらいまで差が詰まり、最後は相手が攻めてきているのを受けずに攻撃に出て、そのとたん評価値は-9999になった。「勝負ありました」ということである。 というのは、その手順で名人が攻め続けた場合、王手の千日手となってしまうのである。王手の千日手にはルールがあって、王手をかけた側が手を変えなくてはならない。しかし王手をかけないと、次の手で自分の王様が詰まされてしまうのであった。

ということで第3局も豊島が制し、迎えた第4局。今度は豊島の先手番で千日手になりそうになった。ここで豊島は1筋に角を打って打開、千日手を避けたのである。

飛車は盤面どこに打っても可動域は16マスあるが(もちろん、相手の駒があるのでそのすべてに動ける訳ではない)、角の場合は打つ場所によって可動域は異なる。盤面中央に打てば16マスで飛車と変わらないが、端に近づくほど可動範囲が狭まり、1筋・9筋など端に打てば8マスにしか動けない。端に角を打つのはそれだけ駒の働きがよくないのである。

だから必ずしも成算があったとは思わないのだけれど、最後は終盤のねじり合いになり豊島が4連勝で名人位を獲得した。先手番で千日手にした佐藤としなかった豊島の差が出たといえば言い過ぎだろうか。

佐藤天彦前名人は若い時からタイトル獲得間違いなしと言われた逸材で、実際に3年前、当時の羽生名人からタイトルを獲った。ただ、名人以外のタイトル戦にはあまり縁がなく、タイトル獲得どころか挑戦者まで残ることもほとんどない。予選落ちしてしまうこともしばしばである。

4期連続で名人というケース自体、1980年代の中原名人以来ないので防衛できなかったことを悲観する必要はない(その後永世名人権利を得た谷川、森内、羽生は通算獲得年数によるもので、連続防衛ではない)。けれども、今回の負け方(千日手とポカ)や他のタイトル戦の不調を勘案すると、復調には時間がかかるかもしれない。

コンピュータと対局したり派手な和服を着たり、古い時代の将棋指しのイメージ(気難しくてギャンブル好き)を大きく変えた棋士であり、ぜひがんばってタイトル戦線に再浮上してほしいものである。

[May 21, 2019]


第32期竜王戦・決勝トーナメント開幕

将棋界最高峰のタイトルである竜王戦の第32期決勝トーナメントが始まる。(それにしても、月下の棋士で怖い顔をした人が「王竜戦!」と言ってから30年経つのか。歳をとったものだ。)

竜王戦のコンセプトは、その時点における最強者が竜王のタイトルを獲れるチャンスがあるということである。名人戦は挑戦者がA級順位戦勝者であるから、プロであること、少なくともプロ入りから4年かけてA級に上がってこなければならないことが条件となる。

対して竜王戦は、プロ入り直後からチャンスがあるし、アマにも女流棋士にも門戸が開かれている。もしチェスのチャンピオンが挑戦する気になれば、それも可能なのである。例えれば名人戦は「全米プロ」、竜王戦は「全米オープン」ということになる。

そして、竜王戦の挑戦者決定システムの特徴は、予選であるランキング戦とプレイオフである決勝トーナメントの2段構えになっていることである。ランキング戦は1組から6組まであり、前年の成績により4人ずつが昇降級する。そして、その年の挑戦者を決める決勝トーナメントは、アメフトのプレイオフを参考にしたのではないかと思われるほどよくできた番組なのである。

アメフトとの共通点は、Byeの仕組みがあることと、シード順位が上の棋士がよりシード順の低い棋士と当たることである。まずByeのシステムだが、以下のようになっている。

1.ランキング戦5組優勝者と6組優勝者は、1回戦から戦う。
2.ランキング戦4組優勝者は2回戦から戦う。(1回戦Bye)
3.ランキング戦3組優勝者と2組2位、1組5位は3回戦から戦う。(1~2回戦Bye)
4.ランキング戦2組優勝者と1組2~4位は4回戦(準々決勝)から戦う。(1~3回戦Bye)
5.ランキング戦1組優勝者は5回戦(準決勝)から戦う。(1~4回戦Bye)

つまり、上の組で予選を勝ち抜いた棋士がそれだけ有利になるということである。ランキング戦1組で予選を勝ち上がった棋士は2人勝ち抜けば挑戦者だが、ランキング5組・6組の場合、6人勝ち抜かなければならない。

もう一つの「シード順が上の棋士がよりシード順の低い棋士と当たる」点については、1組優勝が第1シード、1組2位が第2シード、以下2組優勝第6シード、3組優勝第8シード、6組は第11シードとなり、上位シードは下位シードと当たる。

ただし、NFLのように勝ち上がりによって相手が変わるシステムではなく、上位者が勝ち上がった場合そうなるという組み合わせになっている。トーナメント表が確定していないといろいろやりにくいのだろう。

このシステムは当初からこうだった訳ではなく、2005年の第18期までは違う方式で行われていた。だから、2004年の第17期で当時の渡辺五段がランキング4組から決勝トーナメントを勝ち上がって竜王になったが、当時は現在より組み合わせが少し楽だった。

渡辺二冠の場合、その後9連覇して永世竜王になるなど圧倒的に強かったので、おそらく現方式でも勝ち上がった可能性は大きいけれども、現方式になってから4組以下から挑戦者になった例はない。2014年第27期のダニー糸谷の3組がシード順下位からの勝ち上がり最高記録である。

その4組優勝者が、注目の藤井七段である。これでデビュー以来3期連続の決勝トーナメントだが、今年の4組はかなり苦しんだ。ベテランの畠山成八段、中田功八段には土俵際まで追い込まれたし、準決勝の高見叡王(当時)にも逆転勝ち、決勝の菅井七段(前王位)には千日手指し直しから真夜中に及ぶ激闘を制した。

ただ、これから先さらに厳しい戦いが待っている。1回戦Byeながら、上がって来るのは近藤誠六段か梶浦四段。ともに勝ちまくっている若手で、近藤誠也は昨年度C1順位戦で全勝・昇級を阻まれた相手だ。

3回戦は棋聖戦予選で敗れている久保九段、その上は豊島名人・三冠、さらに上は渡辺二冠・永世竜王とA級棋士が続く。特に豊島名人と渡辺二冠はいま絶好調で当たるべからざる勢いだ。

もう一つの山には初タイトルを獲得して充実著しい永瀬叡王と復活を期す佐藤天九段、羽生九段を下して駒を進めた「千駄ヶ谷の受け師」木村九段がいる。木村九段は今年A級復帰で気をよくしているし、王位戦リーグでも活躍している。

こうしてみると、最も有利なのは1組優勝の渡辺二冠で、強力なライバルが潰し合ってくれるというメリットがある。逆の山では捲土重来を期す前名人・佐藤天九段が有力とみるが、最近の調子からするとそう簡単には勝たせてもらえないだろう。

近藤誠也・梶浦戦でトーナメントがスタートし、挑戦者決定三番勝負は8月から行われる。

第32期竜王戦決勝トーナメント。過去最高に厳しいトーナメントのように思います。特に藤井七段の山がきつすぎる。

[Jun 5, 2019]


第90期棋聖戦、渡辺が三冠目奪取

第90期棋聖戦五番勝負(2019/06/04~07/09)
渡辺明棋王・王将 O 3-1 X 豊島将之棋聖

将棋の各タイトルの中で、若手に獲りやすいタイトルは王位戦とよく言われるが、個人的に私が一番若手向きだと思うのは棋聖戦である。

その理由はいくつかあって、まず第一に16棋士によるトーナメントの一発勝負であること。つまり、組み合わせの有利不利があって振り駒の結果で先手・後手が決まる。同じ16棋士トーナメントの王座戦に比べてシード棋士が少なく、予選勝ち抜けが比較的しやすいこともあげられる。

そして、持ち時間が他の棋戦よりも短い4時間であること。一日制の五番勝負ということも大きい。持ち時間が長く二日制七番勝負である王位戦と比べて、その時点の好不調やスケジュールが影響しやすいのである。

さらに、1988年までは年2回という短いサイクルで行われたことも若手棋士に向いていた。米長邦雄は中年過ぎてから名人や四冠を獲得したが若い時のタイトルは棋聖だけだったし、田中寅彦、お化け屋敷はじめ、若手がタイトルを獲ることが多かった。

そのように若手が活躍する棋聖戦なのだが、今年は豊島棋聖(名人・王位)に渡辺明棋王・王将が挑戦する頂上決戦となった。昨年の今頃は8大タイトルを8名の棋士が分け合うという約三十年振りの群雄割拠状態であったが、開幕時点で8冠中5冠をこの二人で占め、今シーズン両者とも無敗で臨むというまさに頂上決戦であった。

私が思うに、今回の焦点は第三局である。1勝1敗で迎えた渡辺二冠の先手番で、渡辺は6八銀から7七銀で角道を止めて矢倉に組んだ。1年前は居飛車の8割近くが角換りで、そうでなければ相掛りだったのに、ここ数ヵ月で矢倉がちらほら見られるようになった。

矢倉の弱点とされたのが、急戦になった場合角道が止まっていて相手は通っているという点にあったが、渡辺二冠は急戦を巧みに牽制しつつ角を右辺に展開、気が付いた時には渡辺二冠の角は天王山の5五にいるのに、豊島棋聖の角は3一で王の退路を塞いでいる。この時点で評価値は先手が500くらい有利であった。

(ちなみに、ニコ生の将棋中継は評価値速報を有料放送だけにしてしまった。こういうことをしていると、将棋の普及そのものに影響が出ると思う。でも、ニコ生も商売なので仕方がない。棋譜を手入力して無料ソフトで評価値を確認しながらアベマで見た。)

その後、渡辺二冠の角は成り込んで馬となり破壊力を増した。豊島棋聖も端攻めから飛車を切っての猛攻で追い上げたものの先手の攻めが速度で上回り、渡辺二冠が勝ってタイトル奪取にあと1勝とした。

この1局の結果をみて、おそらく第4局、あるいは第5局を渡辺二冠が勝ってタイトル奪取するだろうと思った。というのは、五番勝負の勢いからいって豊島棋聖の連勝は難しいだろうと思ったのと、豊島棋聖のスケジュールである。

木村九段を挑戦者に迎えた王位戦七番勝負が進行中であるだけでなく、7月中に王座戦準決勝の羽生九段戦、竜王戦準々決勝の藤井七段戦と大勝負が続く。昔と違って今は事前研究のウェイトが高まっている。対局以外は競輪競馬をしていればいいという時代ではないのだ。

かつて米長永世棋聖は「ただいま対局しているこの一局に全力」と言ったが、だからといって直近の一局だけ準備する訳にはいかない。手を抜くことはありえないにしても、比重の軽重があり時間的制約もある。どれも均等に時間をかけることはないはずである。

だから、渡辺二冠相手の棋聖戦は、カド番に追い込まれた時点である程度優先順位を下げざるを得ないだろうと思っていた。実際、第4局では銀取りを放置するなど冒険的な作戦がみられた。穴熊に囲っているならともかく、左美濃では相当にリスキーである。藤井戦では絶対やらないであろう作戦であった。

もちろん、相手もまた研究しているので、時間をかけたからすぐに結果が出るというものではない。とはいえ、現時点で最も勝ちにくい相手に連勝する準備よりも、より勝ち進む可能性が高い戦いに資源を投入するのは、私には当然のように思えるのである。

渡辺二冠は初の棋聖位で、これで三冠となった。次は準決勝から登場の竜王戦で、豊島・藤井戦の勝者と当たる。いま現在のスケジュールは比較的ゆるやかで、竜王戦は本命だと思っているが、半年後には棋王戦・王将戦の防衛戦があり、その時期に順位戦も佳境を迎える。ちょうどいま現在の豊島名人の立場になる訳で、逆の立場でどういった戦いをみせるのか今から興味深い。

いまや将棋界の頂上決戦といえる豊島棋聖vs渡辺二冠。第三局は先手・渡辺二冠が矢倉に組み、角を展開して圧勝した。この局面ではすでに評価値が先手に振れている。

[Jul 12, 2019]


第32期竜王戦挑戦者は豊島名人 

第32期竜王戦決勝トーナメントは、まれにみる激戦のトーナメントであった。現方式で初の4組からの挑戦権獲得が期待された藤井七段だが、近藤六段、久保九段相手に勝ち進んだものの、準々決勝で豊島名人に敗れて初のタイトル挑戦はならなかった。そして、準決勝に残った4名が、ランキング1組の1~4位通過者という、シード順どおりとはいえ珍しい組み合わせとなった。

一方の山の準決勝は8月2日に行われた。ランキング戦1位の渡辺三冠対4位の豊島名人の対戦で、これは7月まで行われていた棋聖戦五番勝負の再戦である。振り駒の結果先手となった豊島名人が、3五に飛んだ桂馬を5三に成るという思い切った作戦をとった(下図)。

金で取ると角打ちの隙が生じるので玉で取ったものの、3四の歩を取り込んでこの時点で桂馬と歩2枚の交換。通常は桂損が大きいのだが、後手の陣形を乱したのと3四の歩が2筋の銀・桂を封じ込めて先手が攻勢をとる。そのまま豊島名人が押し切って決勝進出を決めた。

この手順はあまり見たことがなかったので、おそらく豊島名人が棋聖戦の先手番用作戦として準備していた作戦と思われる。棋聖戦が不利な状況となったので、一発勝負の竜王戦で使ったのではないだろうか。渡辺三冠も意表を突かれたかもしれない。

翌週の月曜日にもう一方の準決勝、ランキング戦2位の永瀬叡王と3位の木村九段の対戦。永瀬が勝つと7月の王座戦挑戦者決定戦の再戦、木村が勝つと現在進行中の王位戦七番勝負と同じ組み合わせの決勝戦である。

こちらの準決勝は、永瀬叡王が時々やるところの「ヤマが外れました」的な戦いとなった。横歩取り角交換から永瀬叡王が歩切れで苦しい攻勢をかけ、木村九段が丁寧に受けて逆襲、双方持ち時間を1時間ほど余して木村九段の勝利となった。

これで豊島名人vs木村九段は、王位戦と並行して十番勝負となった。この時点で王位戦は豊島王位が連勝スタートとなっていたが、合わせて十番勝負となることで流れが変わったようだ。

8月8~9日の王位戦第3局を木村九段が勝って七番勝負初白星をあげると、13日の竜王戦挑戦者決定戦第1局は豊島名人の勝ち。20~21日の王位戦第4局は木村が勝ち、そして23日の挑決第2戦、かなり不利な一局を木村が逆転して王位戦・竜王戦どちらもタイとなる3勝3敗でお互い一歩も引かない応酬となったのである。

ところがベテランの木村九段の体力的な問題もあったのか、王位戦第五局、竜王戦挑決第3戦はいずれも豊島名人がかなり早い段階から優勢となった。そして豊島名人がそのまま押し切り、2勝1敗で初の竜王戦七番勝負進出となったのである。

竜王戦については、3局とも夕方までに豊島名人が優勢となったため、白熱した戦いという印象はあまり受けなかった。とはいえ第2局は夜に入って逆転したから勝つまでは容易ではないということなのだが、やはり長丁場では20歳近い年齢差が出たのかもしれない。

豊島名人にとって、今年4月以降では名人戦、棋聖戦、王位戦に続く番勝負となる。王位戦の決着がつく頃には今期30局前後になるはずで、対局数・勝ち数ともにトップを争う数字である。かたや広瀬竜王は今期まだ一桁対局で、今現在の調子ということでは豊島名人に分がありそうである。

そしてこの二人は、竜王戦と並行して王将戦リーグでも戦わなければならない。王将戦リーグは藤井七段が予選通過しており、注目を集めることは間違いないのでこちらも手を抜けない。竜王戦の七番勝負が王将戦リーグに影響があるのかどうか、注目される。

準決勝の渡辺vs豊島戦では、先手番の豊島名人が3五桂から5三桂成という手順で渡辺三冠の陣形を乱し押し切り勝ち。これはおそらく、かねてからの研究手順と思われる。


[Sep 9, 2019]


第60期王位戦、木村悲願の初タイトル

第60期王位戦七番勝負(2019/7/3~9/26)
木村一基九段 O 4-3 X 豊島将之前王位

王位戦は若手でも活躍できる棋戦と昔から言われている。その理由はというと、名人でもデビュー間もない新人でも予選が横一線のスタートで、しかも勝ち抜けが8人だから他の棋戦よりは勝ち上がりが比較的楽ということがある。

ただ、私のみるところ挑戦者になるのはそれほど楽ではない。決勝リーグはシード4人と勝ち抜け8人が2組に分かれての総当りで、その1位同士が挑戦者決定戦を行う。総当たりということは全員と当たるということで、その中には当然後手番で指さなければならない何局かが含まれている。

さらに、タイトル戦は2日制の七番勝負である。持ち時間の長い2日制で、タイトル保持者から4勝をあげなくてはならないという高いハードルなのである。

若手の活躍云々が言われたのは、おそらく高橋道雄、郷田真隆が低段者のうちにタイトルを獲ったことが大きいと思われるが、この両者とも決してフロックではなく、その後もタイトルを獲得している。高橋はつい最近まで竜王戦ランキング1組にいたし、郷田は久保のすぐ前の王将である。

今年も佐々木大地五段、長谷部浩平四段といった若手が予選を通過し、挑戦者決定リーグを戦った。しかし両者とも残念ながら届かず、紅組・白組とも4勝1敗者が2人で、4人のプレーオフというこれまで例をみない激戦となった。

プレーオフに残ったのは、菅井前王位、木村九段、羽生永世七冠、永瀬叡王の4名。この中で、おそらくオッズが一番高かったであろう木村九段が勝ち残って挑戦者となった。これが7度目のタイトル挑戦。対深浦王位の3連勝4連敗を含め、タイトル獲得はまだない。「不屈の挑戦者」というキャッチコピーが付いた。

そして七番勝負が開幕、まず豊島王位が2連勝した。特に第2局は、2日目午前中の段階で木村挑戦者が評価値2000点以上リードしていて、解説していた棋士が「これで逆転したらシリーズ終わりですよ」と言っていたくらいである。その絶対有利な局面から、木村九段は負けた。それを見ていて、これは豊島王位の防衛間違いなしと思った。

ところが、第2局と第3局の間に行われた竜王戦決勝トーナメントの準決勝で、この2人がいずれも勝ち上がって挑戦者決定三番勝負を争うこととなったのである。王位戦と合わせて十番勝負である。

この展開は、木村挑戦者にとって大きかった。「あと2つ負ければ終わり」か「あと4つ負けなければ終わらない」ではかなり違う。とにかく木村九段が1勝すれば、その後はどう転ぶか分からない。案の定第3局は、木村九段が後手番から得意の受けに持ち込んで1勝をあげた。

続く第4局は、木村九段得意の相入玉模様の点数争い。この手の将棋をトップクラスで最も指しているのが木村九段で、今回の王位戦リーグでも菅井七段との三百手に及ぶ激戦があった。中盤で大駒3枚を確保した木村九段が、最悪でも持将棋(引き分け)という局面から、着実にポイントを上げ2勝2敗のタイに持ち込んだ。

その後、第5局は豊島、第6局は木村が制して、十番勝負第10局にもつれ込む。振り駒の結果、先手は豊島王位、得意の角換わりとなる。今シリーズ、角換わりで豊島王位は連勝中であった。

しかし、封じ手前後に豊島王位が連続長考する頃から様子が変わってきた。強く玉を前進させ入玉をめざすのかと思うと、一転して後退する。豊島王位も逆転の筋を連発して粘ったものの、受け師・木村が本領発揮して受け切り、最後はみごとに一手余してみせた。

木村の46歳初タイトルは史上最年長だが、「初」でなければまだ上はいる訳だし、年齢とか記録とかいうのはどうかと思う。それよりも、将棋ソフト全盛の時代に、長手数歓迎・相入玉上等というきわめて特徴ある棋風で、第一線の若手連中と五分に戦っているということがすばらしい。

例えをあげるならば、立ち技中心・攻撃重視の講道館オリンピック柔道の中で、寝技中心・守備重視の高専柔道が戦っているようなイメージである。今年の夏も、豊島・永瀬・佐藤天・菅井といった若手一線級を王位戦・竜王戦で破っている。まだまだ、相入玉の点数争いの将棋をみせてほしいものである。

[Sep 27, 2019]


奨励会同期対決、永瀬が勝って二冠達成 ~第67期王座戦

第67期王座戦五番勝負(2019/9/2-10/1)
永瀬拓矢叡王 O 3-0 X 斎藤慎太郎前王座

王座戦がタイトル戦に昇格したのは1983年と比較的新しい。そのため、タイトルとなってからの王座には大山十五世名人が入っていないのだが、それでも、個人的に「将棋界のオールスター戦」と呼んでいるタイトルである。

というのは、タイトル保持者が本戦の16人にシードされるため、自動的に予選通過枠がたいへん少ないこと、持ち時間が5時間と順位戦に次いで長く、腰の据わった大勝負になることが多いこと、そして、羽生永世七冠が19連覇というおそるべき記録を持っていることである。

そのオールスター戦に永瀬叡王がトーナメントから出場したのは、タイトル保持者のためではない。前期に予選から勝ち上がり、ベスト4に残ったことでシードされたのである。このところ毎年タイトル戦の挑戦者となっているが、今年は叡王獲得に次いで2度目のタイトル登場である。

この二人は奨励会同期である。三段リーグ参加も同時で、他にも菅井前王位、澤田真吾六段が2008年前期からの三段リーグである。すぐ前の世代の三段リーグも豊島名人、広瀬竜王、佐藤天前名人、糸谷八段、中村太地七段など錚々たる顔ぶれであったが、当時の三段リーグも強豪揃いである。

すでに菅井、高見、斎藤慎太郎がタイトル獲得、売り出し中の佐々木勇気、矢代弥、三枚堂あたりがいつタイトル戦線に登場してきてもおかしくない。20代の若手棋士とはいえ、すぐ後ろから藤井七段や増田六段などさらに若い世代が追いかけてきているだけに、のんびりしてはいられない。

私の見るところ、勝敗を分けるポイントとなったのは第2局であった。夕食前の段階で、斎藤王座が評価値で600点ほどリードしていて、見た目にも永瀬叡王の玉が窮屈な位置に押し込められ、終局近しと思わせる状況であった。

ただ、王位戦でも2000点差の逆転があったように、コンピュータと人間の感覚は違う。また、評価値で数百点の差を人間が感知できるとは限らない。この後、勝負どころで斎藤王座の持ち時間が少なくなり、何度か決め手を逃して混戦となってしまった。最後は秒読みで疑問手があり、永瀬が逆転したのである。

若手の中でも、豊島、永瀬、菅井といったタイトル常連は持ち時間の使い方がたいへんうまく、序盤はほとんど時間を使わず終盤戦でも十分に考える時間を残している。時間攻めというと相手のミスを誘う印象があるが、そうではなく自分がミスをせず、最善手を逃さないという時間の使い方である。

また、永瀬新王座は、さきの木村王位と似たところがあって、長手数の勝負を全く苦にしない。そして、木村が持将棋系であるのに対し、永瀬は千日手系という違いがある。永瀬は先手でも後手でも千日手を避けず、まるで長時間指せば自分が有利と思っているかのようである。

今回の王座戦でも、第1局は永瀬先手の千日手となり、後手番になったが指し直し局を永瀬が制した。第2局も上記のとおり後手番で永瀬が連勝、斎藤王座は早々にカド番に追い込まれた。

聞くところによると、ソフト同士の戦いで千日手となる例がたいへん多いという。おそらく双方が最善手で戦いが進めばどこかで千日手となり、回避した方が不利になるというのが将棋の結論だろうという気がする。そうなると、何番勝負であっても指し直し、指し直しの連続で第1局すら終わらないということになる。まるで、「東一局五十二本場」のようだ。

ソフト同士の対局はシンギュラリティまでにそういう結論に達するのかもしれないが、人間の場合は持ち時間というものがあるので、私が生きている間にはそういうことにはならないだろう。永瀬新王座の戦いはそうした未来将棋のイメージがあり、これから渡辺、豊島、藤井聡汰らとどういう戦いを繰り広げていくのか、たいへん興味深い。

[Oct 6, 2019]


藤井七段、最年少タイトル挑戦ならず ~第69期王将戦リーグ

第69期王将戦挑戦者決定リーグ最終日(2019/11/19)
広瀬章人竜王(5勝1敗) O - X 藤井聡太七段(4勝2敗)

昨日まで行われていた王将戦挑戦者決定リーグで、広瀬章人竜王が藤井聡太七段を破って5勝1敗でトップとなり、挑戦者となった。年明けから渡辺明王将との七番勝負に臨むことになる。藤井七段は屋敷九段の持つ最年少タイトル挑戦記録の更新が期待されたが、惜しくも敗れた。

最年少とかそういう記録にはあまり意味がないし興味もないが、特に挑戦者では尚更である。藤井七段はすでに叡王戦を予選落ちしているので最年少挑戦者の記録更新はなくなったが、まだ最年少タイトル獲得のチャンスはある。引き続き精進してほしいと思う。

さて、今回の広瀬戦、わが家のAIでは終始先手がリードしていて、解説陣の説明しているような手順で一方的に決まる展開ではなかった。2四歩や4一銀が入れば鉄壁に見える後手陣の矢倉もかなり危ないという評価で、300点とか500点先手がリードという展開であった。

実際そういう展開となり、終盤では先手勝勢という場面もあった。ただ気になったのは先手が最善手を指し続けないと逆に後手の勝ちとなる変化があったことである。

藤井七段の最近の傾向で、読みの速さに自信を持っているからか持ち時間を無造作に使い、秒読み、あるいは1分将棋にしてしまうところがある。今回も、勝ちは遠のくけれども自陣に手を入れておけば安全だった場面もあったのに、1分将棋で読み切れなかった。

ただ、まだ17歳であり、それもこれも経験である。前回のタイトル挑戦チャンスは王座戦の準決勝で敗れ、今回は勝てば挑戦という一局で敗れた。おそらく本人もどこか見落としがあって逆転負けしたことは分かっているだろうから、これからは大一番でこういう負け方をしないよう、努力すればいいだけである。

さて、藤井七段は負けてしまったが、4勝2敗の成績は羽生九段と同率3位でリーグ残留である。今回の挑戦者決定リーグで藤井七段以外の6人は、全員A級でタイトル保持者か獲得経験者であり、この成績はたいしたものなのである。

今回リーグ戦の2敗は広瀬竜王と豊島名人で、いずれも将棋界最高峰といっていい強豪である。そう簡単に突破されてほしくない壁であったことも確かなので、この結果はかえってよかったような気がする。

その藤井七段、今回のベスト一局をあげれば4勝目をあげた久保九段戦である。久保九段といえば振り飛車のスペシャリスト、さばきのアーティストとして知られるが、その久保九段にほとんどさばかせなかった。

さて、王将というタイトルは、いまでこそ餃子の王将のネーミングライツのようになってしまったが、もともと将棋界では名人に次いで古いタイトルである。升田が王将戦七番勝負で時の木村名人に4勝1敗となり、第6局を香落ちで指すという場面で起こったのが陣屋事件である。大山・升田全盛期には、名人・王将・十段しかタイトルがなかった。

われわれの世代には、将棋の王将、囲碁の本因坊は特別のタイトルという印象があるが、順位戦をめぐる朝日・毎日の争いの結果、こういうことになってしまった。当時の朝日新聞の文化部長が契約金をケチらなければ、今でも順位戦は朝日、王将戦は毎日だったはずである(究極のメニューにカネがかかった訳でもあるまいにw)。

王将タイトル保持者の渡辺王将は現在絶好調で、A級順位戦も全勝、今年度の勝率は全棋士中トップである。勝率トップは予選で勝ちまくる若手棋士が占めることの多いポジションで、相手も一流ばかりのA級棋士が8割以上の勝率というのはすごい。ちなみに、4月以降負けたのは豊島名人相手の4敗のみである。

勝った広瀬竜王は、初の王将挑戦。並行して行われている棋王戦でもベスト4に残っていて、こちらも挑戦者になると渡辺三冠と冬の十二番勝負となる。夏は豊島・木村の十番勝負で盛り上がったので、冬はこの二人が盛り上げてほしいものである。

※ 王将戦は棋譜利用ガイドラインによりブログでの棋譜利用が認められていないため、残念ながら途中図を掲載いたしません。

[Nov 19, 2019]


第32期竜王戦、豊島名人逆転の連続で竜王名人に

第32期竜王戦七番勝負(2019/10/10~12/07)
豊島将之名人 O 4-1 X 広瀬章人前竜王

木村九段との夏の十番勝負をフルセット戦った豊島名人が、広瀬前竜王を4対1で下して初の竜王を獲得、史上4人目の竜王・名人となった。

今回の竜王戦は、第3局・第5局で、2日目夕方まで広瀬竜王優勢とみられていた局面から豊島名人が逆転した。ともに興味深い1局だったが、ここではカド番に追い込んだ第3局をとりあげたい。

先手番の豊島名人が角換わりから1筋を交換、7三の桂馬を狙いに行った。封じ手前後の局面では先手の攻めは細いとみられており、私も、これで先手が押し切ったら角換わりは先手有利で結論づけられてしまうだろうと思っていた。

実際、先手の攻勢はそう簡単に決まらず、せっかくできた竜を後手の自陣飛車と交換、馬も取られて後手有利の分かれとなった。

2日目午後の形勢は後手が1000点リード。広瀬竜王は入玉して点数勝ちというルートも見えるし、持ち駒も多く攻め手には事欠かない。あとは詰めろの連続で決まるという局面で、広瀬竜王は3四にいた金を4五に上がった。これが敗着で、動いた後に桂を打たれて逆転してしまった。

4五金も詰めろなのだが、王手の方が強い。そして、後手玉を下段に落とした後で8五銀と歩を取ると、自玉の逃げ道を開くとともに寄せに必要な歩を確保する「詰めろ逃れの詰めろ」になるのである。

これを見ていたアベマ解説の深浦地球代表が「よく木村さん勝てましたね」と言ってしまった(どう考えても失言だが、木村王位本人が解説してもそう言ったような気がする)ほど、一瞬のスキをとらえた大逆転であった。

3連勝であと1勝となれば、豊島名人絶対有利である。第4局の先手番で広瀬竜王が1勝を挙げ、第5局は豊島名人の先手番。再び得意の角換わりで、桂と歩4枚の交換。どちらの主張が生きるのか難解な中盤戦となった。

2日目に入ってお互いに長考の連続。と金を作って敵陣に飛車を打った広瀬竜王が攻勢をかけ、夕方の段階では後手優勢で解説者の見解は一致していた。

実は私も、8七歩まで見てあとは後手勝ちだろうとプールに行ってしまった。驚くべきはここからで、9八に避けた豊島玉が詰まないのである。帰ってきて結果を見たら豊島逆転勝利となっていたのでたいへん驚いた。

ここに至るには前段があって、2日目午後3時前後にあわや千日手という局面があった。ここは広瀬竜王が打開したのだが、千日手の可能性がある局面では多くの場合、打開した方がやや不利になる。あるいはこのあたりに勝負のアヤがあったのかもしれない。

広瀬前竜王は終盤の強さに定評がある。しかし今回の竜王戦では第3局、第5局で優勢とみられた局面から逆転を許した。王将戦リーグ最終局の藤井七段戦も相手が1分将棋でなければ間違えなかっただろうし、棋王戦勝者組決勝では本田四段に敗れている。まだ30代前半で老け込むには早いので、王将戦七番勝負での巻き返しを期待したい。

豊島名人は10代目の竜王、史上4人目の竜王名人となった。インタビューで答えていたようにタイトル獲得はあるが防衛はなく、来年は防衛が目標となる。

個人的に気になるのは、豊島竜王名人は事前研究の深さに定評があり、時間をかけずに指す場合には安心して見ていられるのだが、研究範囲から外れて長考するようになるとあまりよくない手を指すことである。

王位戦七番勝負でもそうだったが、今回の竜王戦でも持ち時間の消費とともに形勢が悪くなる傾向があった。今後防衛しなければならない名人戦も竜王戦も、持ち時間の長い将棋である。そのあたりどう修正を図っていくのか、興味深い。

第3局終盤。後手の広瀬竜王は詰めろの連続でよかったが、3四の金を4五に上がったのが悔やまれる敗着。動いた後に桂を打たれて逆転した。


[Dec 7, 2019]


本田四段、タイトル戦初出場で挑戦権獲得の快挙(第45期棋王戦)

第45期棋王戦挑戦者決定二番勝負第2局(2019/12/27)
本田奎四段 O - X 佐々木大地五段

棋王戦は妙なトーナメントである。本戦トーナメントに1回戦スタート、2回戦スタート、3回戦スタートの組があり、条件が異なる。竜王戦や名人戦(挑戦者決定戦)のようなプレイオフ形式であればともかく、それ以外のトーナメントでは例がない。

私見では、本戦トーナメントは勝ち上がり条件を均等にするのがフェアであり、出場者数の関係でそれが難しい場合でも1回戦差が限度だろう。もちろん、予選で差があるのは仕方がないが、本戦で2回Byeがあるというのはどうなのかと思う。

こうしたいびつなトーナメントとなっている要因は、棋王戦の本戦シードの条件にある。シードされるのが、前期ベスト4、タイトル保持者、永世称号者とB級1組以上なのである。これに予選枠8を加えると確実に30を超えるので、前期ベスト4が3回戦シードというのは本当は無理なのである。

まあ、それは運営者と日本将棋連盟の考えることだから仕方がない。ともかくも、前期ベスト4が圧倒的に有利なトーナメントであり、しかもベスト4に残ると敗者復活戦がある。だから棋王戦トーナメントは、ベスト4の攻防を中心にみると流れをつかみやすい。

かつては羽生・佐藤康・森内・郷田といった面々が常にベスト4に残っていたが、最近は若手の躍進が目覚ましく、そうした厳しい勝ち上がり条件にもかかわらずベスト4に残っている。

昨年(第44期)は、ベスト4に広瀬竜王、佐藤天彦名人(当時)、三浦九段と黒沢怜生五段が残った。このうち、広瀬竜王を除く3名は一昨年の第43期もベスト4であった。

そして、今年はどうなったかというと、広瀬竜王は2年連続でベスト4に残ったものの、残る3名は敗れた。代わってベスト4に残ったのが、丸山忠久九段、佐々木大地五段と本田奎四段である。

丸山九段は名人経験者であり、活躍しても全く不思議ではないのだが、昨年来急上昇している。昨年度のNHK杯でベスト4に残ったあたりから好調を維持しており、今期の順位戦B2では全勝でトップを走っている。山崎八段、三浦九段、佐藤康光九段を下してベスト4に進出した。

佐々木大地五段も毎年、対局数・勝数ランキングで上位に食い込んでいる。今年は春の王位戦でリーグ入りし木村九段(現王位)に土をつけたが、残念ながらプレイオフには一歩及ばなかった。今回の棋王戦は予選から勝ち上がり、本戦では谷川九段、黒沢五段、羽生九段と連破してベスト4に進んだ。

本田奎四段は昨年度前期の三段リーグを勝ち抜いてデビューしたばかりの新鋭である。やはり予選を勝ち抜いて本戦に進み、行方八段、佐藤天彦九段、村山慈明七段に勝ってベスト4入りした。

勝者組からは本田奎四段が丸山九段、広瀬竜王を下してみごと挑戦者決定二番勝負に進出した。角換りで丸山九段、相掛りで広瀬竜王と、それぞれ相手の得意戦法で勝ち切った。

敗者組からは佐々木大地五段が勝ち上がった。勝者組準決勝で広瀬竜王に敗れて敗者復活戦に回り、丸山九段、広瀬八段を連破した。広瀬八段は竜王戦第5局の逆転負けから移動日1日での対局で、コンディション的に厳しかったかもしれない。

とはいえ、佐々木五段は各棋戦で上位争いに何度も食い込んでおり、次のタイトル戦初出場は藤井聡太か佐々木大地と前から思っていたので、挑戦者決定戦進出には驚かない。むしろ、いつまでも順位戦C2、竜王戦6組である方が不思議である。

挑戦者決定戦第1局は佐々木五段の勝利。巧妙な序盤戦術の前に本田四段はチャンスがつかめず、右銀が4段目まで上がってまた下がるというようなちぐはぐな戦い方に見えた。

第2局は佐々木五段の先手番。ここまでくると経験の差が物を言うかと思いきや、今回は本田四段が敵陣の角打ちから馬を作り、一気に攻め持ち時間を1時間残して圧勝した。

タイトル戦初出場で挑戦者は史上初。現在進行している王位戦、棋聖戦予選でも予選通過まであと一歩に迫っており、今回の挑戦が決してフロックではないことが分かる。そして、本田四段は三段リーグに一期しかいなかった藤井七段と対戦があり、その時勝っているのである。

タイトル戦初登場は昨年叡王戦の高見泰地、金井恒太以来。現時点で最もキャリアの浅いタイトル挑戦者は千田翔太現七段だったから、一気に5年以上若返ったことになる。渡辺棋王有利は動かしがたいものの、フレッシュな挑戦者登場は楽しみである。

挑戦者決定戦第2局。本田四段は後手番ながら得意の相掛かりで速攻、佐々木五段に巻き返しのチャンスを与えず押し切った。馬を作ってからは優勢だったが、6一の香打ちが強烈。


[Dec 27, 2019]

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