昔いただいた初段免状。大山・中原時代・・・。

第33期竜王戦決勝トーナメント   第91期棋聖戦   第78期名人戦   第61期王位戦  
第33期竜王戦挑戦者は   第5期叡王戦   第68期王座戦   Dwangoと叡王戦
第70期王将戦挑戦者は   第33期竜王戦   第46期棋王戦挑戦者は
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第33期竜王戦決勝トーナメント開幕

コロナ非常事態の影響で、昨年よりほぼ1ヵ月遅れで竜王戦決勝トーナメントが開幕となる。先週までに、出場13棋士が確定した。

昨年のトーナメントとの最大の違いは、藤井七段の組み合わせが格段に恵まれたことである。ランキング3組優勝は4組優勝より1回戦違うということ以上に、藤井七段と当たるメンバーが昨年と比べるとかなり違っている。

豊島は竜王タイトル保持者だし、残る4強の渡辺三冠、永瀬二冠がランキング1組で敗れ決勝トーナメントにいない。広瀬前竜王も早々に脱落してしまった。残る強敵といえば羽生九段、木村王位になるが、二人とも逆の山に行ったことでかなり視界を良好にしている。

もちろん、ランキング戦を勝ち抜いてきた丸山九段、佐藤和俊七段、久保九段、佐々木勇気七段が与しやすい訳はなく、ダブル挑戦中の棋聖戦・王位戦があるので、決して楽とはいえない。

藤井七段がまず当たるのは、2組準優勝の丸山九段。角換わりのスペシャリストで名人経験者、昨年は順位戦B級2組をトップで抜けてB1に復帰した。ただし、先手番なら角換わり、後手番なら一手損角換わりにほぼ一択なので、戸惑うことはないはずだ。

ここを勝ち抜くと1組準優勝の佐藤和俊七段。ここも飛車を振ってくるのはほぼ確実なので、藤井七段得意の対抗形から優位に進めそうだ。

三番勝負へ最後の難関は、久保九段と佐々木勇気七段の勝者。実績では久保九段だが、2組昇級いきなり優勝の勇気七段の勢いは侮れない。そして、勇気七段は3年前の決勝トーナメントで敗れた相手である。二人とも、それ以来毎年昇級して現在に至っている。

もう一つの山では、1組優勝の羽生九段があと1勝で三番勝負となり最も有利である。現状、4強(豊島、渡辺、永瀬、藤井)とは少し差が開いたような気がするが、とりあえずこちらの山では最有力である。

1組4位は佐藤康光九段、1組5位は木村王位で、ともに侮れない相手だが、羽生九段のところまで勝ち上がるのは一人である。木村王位は、二年連続王位戦と挑戦者決定三番勝負の十番勝負になる可能性も残されている。

個人的には、こちらの山からは羽生九段が勝ちあがる可能性が大きいとみていて、藤井七段との三番勝負になるとこれまた盛り上がるだろう。羽生九段が挑戦者になれば、通算100期タイトル獲得がかかってくる。

現状の藤井七段と羽生九段を比べると、藤井有利は動かないところだが、ダブルタイトル戦の展開次第では不確定要素も残されている。何よりも、藤井七段は立ちはだかる3棋士を破らなければ話にならない。

藤井七段がデビュー当時の対談記事を読むと、谷川十七世名人が「藤井クンはタイトル3つ獲って九段になるでしょう」と言っていた。棋聖戦、王位戦を勝ち、竜王戦もタイトル獲得となると、今年中に八段・九段と連続昇進することになる。

第33期竜王戦決勝トーナメントは、7月6日の梶浦六段vs高野五段戦で開幕する。

今期の竜王戦決勝トーナメント、昨年より藤井七段の組み合わせがかなり恵まれた印象がある。


[Jul 2, 2020]


藤井七段、初タイトル棋聖獲得 

第91期棋聖戦五番勝負(2020/6/8-7/16)
藤井聡太七段 O 3-1 X 渡辺明棋聖

すでに記事で書いたとおり、コロナウィルスによる非常事態宣言の影響で各棋戦の進行が2ヵ月程度遅れている。本来棋聖戦は名人戦・叡王戦の後なのだが、スケジュール遅れの影響をもろに被ってしまった。

現在、名人戦、叡王戦、棋聖戦、王位戦の4タイトルが同時進行中である。登場する棋士も、豊島、渡辺、藤井の3名が2つのタイトル戦を争うこととなった。棋聖・挑戦者双方とも、別のタイトル戦との掛け持ちである。

さて、超過密日程を余儀なくされているにもかかわらず、それでも勝ちまくっているのが挑戦者・藤井七段である。棋王戦・王座戦は予選で苦杯を喫したものの、棋聖戦・王位戦は挑戦権を獲得。竜王戦も決勝トーナメントに駒を進めている。

特に、挑戦者決定戦の対永瀬二冠戦をはじめ、ここ一番の将棋ではほとんど負けなしを続けていた。百戦錬磨の渡辺三冠といえども、藤井七段に先行されたら厳しいと予想していた。その意味で、大きかったのは第2局である。

先手番から急戦矢倉に誘導した渡辺三冠。経験豊かな戦型で、細い攻めを丹念につなげる得意の形に持ち込むことを目指した。ところが、まだ昼食休憩前に指された藤井七段の5四金が意表を突く一手であった。

金は斜め後ろに下がれないので4段目まで上がるのは避けられることが多い。まして、5筋の歩が動かせなくなるので、角を3一に展開するのが難しくなる。おそらく、渡辺三冠も見たことがない手だったのではなかろうか。

結局、この金が盤面中央を制圧したまま終盤を迎え、この後もねじり合いが続いたものの、藤井七段の快勝譜となったのである。

藤井七段に1勝するのも大変なのに、渡辺三冠は残り3戦全勝しなければ防衛できない。この時点で藤井クンの初タイトルはかなり濃厚となり、実際に第3局では渡辺棋聖が一矢報いたものの、第4局を藤井七段が制して最年少初タイトルを獲得したのである。

これまでの最年少記録は、同じ棋聖タイトルで屋敷伸之現九段。あまり年齢にこだわる必要はないと思うけれども、マスコミが喜びそうである。

渡辺三冠は初防衛ならず、棋王・王将の二冠となってしまったが、充実著しい藤井新棋聖に4局とも終盤までもつれる将棋を指したのは、さすがに実力者である。B1降級直後の無敵の快進撃が記憶に新しく、本人もまだまだと思っているだろう。捲土重来は十分ある。

初タイトルの藤井新棋聖、インタビューでは「渡辺三冠といい将棋が指せた。思いもしなかった手を指されたりして戸惑う場面もあったが、成長できてよかった」と回答、17歳とは思えない立派な対応である。

一昨年に王座戦準決勝で斎藤慎太郎七段に敗れて先を越され、昨年は王将戦リーグ最終戦で広瀬竜王(当時)に即詰みを食らって逆転負け。デビュー当時の大騒ぎに反してタイトル戦登場までは少し時間がかかった。

しかし、その間に間違いなく実力は上乗せされており、現状は序盤・中盤・終盤いずれをとっても隙がない。これだけ過密日程では十分な時間もとれないはずなのに、どうやって研究しているのだろうか。

デビュー以来毎年8割以上の勝率を残してきたが、さすがに今年は難しいのではないかと思っていた。ところが、今日までの戦績がなんと14勝2敗、今年も勝率8割を軽く超えている。順位戦B2の全勝通過はほぼ確実なので、4年連続8割越えの新記録も現実味を帯びてきた。

気が早いかもしれないが、現在挑戦中で2勝先行している王位を獲得し、さらに竜王戦で豊島竜王を、王将戦で渡辺王将を破れば今年度中に四冠である。四強から藤井一強になるのもそう遠いことではないのかもしれない。

第2局、後手番の藤井七段が矢倉急戦に対し5筋の歩を突かず5四金が工夫の一手。結局、終盤までこの金が盤面中央を制圧した。


[Jul 16, 2020]


第78期名人戦、豊島またも防衛ならず渡辺新名人誕生 

第78期名人戦七番勝負(2020/6/10-8/15)
渡辺 明二冠 O 4-2 X 豊島将之竜王名人

豊島竜王名人はこれまで4つのタイトルを獲得しているが、過去に獲得した棋聖、王位はいずれも初防衛に失敗している。取られたらすぐ別のタイトルを取り返すので現在は竜王名人だが、あまり防衛戦に相性がよくない。

名人戦も、初防衛戦の相手がA級順位戦を全勝で突破した渡辺三冠(当時。名人戦と並行して行われた棋聖戦で失冠して二冠)。過去、A級を全勝で突破した棋士はそのまま名人獲得となるケースが多く、ここも豊島苦戦が予想された。

しかし、第4局までの展開は2勝2敗の五分。その一つの要因として、コロナウィルス自粛の余波でタイトル戦進行が遅れており、豊島は叡王戦、渡辺は棋聖戦とのダブルタイトル戦でほとんど準備期間がとれなかったことがあるとみられる。

迎えた第5局、後手番の渡辺が角道を止めて雁木に組むのかと思いきや、飛車を4筋に振って見たことのない駒組。そのまま力戦となり、両者譲らず拮抗したまま終盤戦にもつれこんだ。

2日目夕食休憩をはさんで約40分熟考したはずの豊島名人が8二の飛車を8一に成った。持ち駒が桂一枚で決め手があるのかと思いきや、8二銀とノータイムで指されて固まってしまった。どうやら、この手を軽視していたようなのである。

もともとこの飛車は渡辺陣の右辺で豊島陣をにらんでいた飛車で、角と桂を犠牲に奪ったものである。飛車の脅威はなくなったが、まだ3二にいる角をバックに8七歩成の厳しい攻めが残っている。持ち駒の飛・桂だけでは、渡辺玉を追い詰めるのは難しい。

8二飛で王手したのは、渡辺玉を動かし、8六の歩をとって竜に成るためと解説陣も予想していたし、私もそう思っていた。この日の豊島名人は徹底して受け重視で指していたからである。攻撃に妙手ありと読んで指したなら、8二銀を見逃しているのはおかしい。

豊島がタイトル戦線にたびたび出場し、四強の一角を占めるようになったこの2~3年。熟考したときにかえって悪手を指すという顕著な傾向がある。

時間がない、あるいは一分将棋になってこれまでの優勢を一気に失うケースは、昔から多くあったしいまも変わらない(藤井棋聖だって、1分将棋で自玉の即詰みを見逃したことがある)。しかし、長考の末に疑問手・悪手を指す頻度において、豊島竜王は際立っているのである。

なぜ、そういうことが起きるのか、これから先改善することが可能なのか、それは豊島竜王自身の問題である。藤井棋聖だって、即詰み見逃し以来極力1分将棋を避けるタイムマネージメントを心がけるようになった。

そうした点が改善されないと、せっかくの好局であっても豊島が長考に入った途端「また、やるのではないか」と心配になってしまう。勝ち負けとは別の次元で、すぐれた棋譜にはそれだけで価値があるはずなのである。

渡辺新名人は初挑戦で名人となり、再び三冠に返り咲いた。棋聖戦で藤井棋聖に完敗したのは痛かったが、これで調子を取り戻すだろう。幸い、永瀬二冠はB1、藤井棋聖はB2である。強敵とはいえ、一度に全員が挑戦してくる訳ではない。

第5局は力戦型となった。拮抗した攻防が続いたが、豊島名人が2日目夕食休憩をはさんで指した8一飛成で差が付いた。渡辺挑戦者にノータイムで8二銀と打たれ、7一金の竜取りと8七歩成を同時に受けられなかった。8六に飛車を成っておけば、まだまだ先は長かった。


[Aug 17, 2020]


藤井棋聖、王位も奪取して二冠達成 ~第61期王位戦

第61期王位戦七番勝負(2020/7/1-8/20)
藤井聡太棋聖 O 4-0 X 木村一基王位

今年の藤井棋聖の勝率8割は難しいだろうと予想していたのだが、王位をストレートで奪取。タイトル戦番勝負を7勝1敗で通過し、ノンストップで4年連続勝率8割が現実味を帯びてきた。4年連続勝率8割は、過去には達成されていない。

木村王位も意地を見せ、特に第2局ではほとんど勝勢と言っていい将棋にしたけれども、終盤の1分将棋で悪くした。他の3局は紙一重との評判だが、評価値的には序盤から藤井リードは変わらなかった。ベテラン木村王位を気遣っての形勢判断であろう。

とはいえ、王位戦以外の対局では木村王位は今年ここまで勝ち越しているので、決して弱い相手ではない。現在の藤井棋聖が強すぎるのである。まさに、手合い違いの強さである。

大山十五世名人の全盛期、同じプロ棋士から大山に香落ちでは敵わないと言われたそうである。木村十四世名人は平手の勝率が8割近かったとされる。当時はいまのように平手以外だと公式戦にならないということはなく、名人が駒落ちで戦うのは普通のことだった。

いま現在の藤井棋聖改め藤井二冠も、平手で勝負になる相手はほとんどいないと言っていいかもしれない。特に、持ち時間の長い将棋の安定感は抜群で、デビュー直後のような逆転勝ちすらこの頃はあまり見なくなった。

こういう状態が長く続くと、香落ち将棋が復活するのではないかと期待してしまう。プロ棋士は奨励会時代に香落ちの真剣勝負をしているので、指せと言われれば先後問わず指せるはずだし、駒落ち将棋には独特の面白さがある。

まあ、それは何年か先の夢物語として、これで藤井二冠は最年少の八段に昇進となる。しかし、少なくとも来年中にはタイトルを獲得ないし防衛して最年少九段に昇進することは確実であり、藤井八段と呼ばれることは一生ないのであった。

(ちなみに、叡王戦または王座戦を防衛すると永瀬も九段となり、永瀬八段と呼ばれた時代は全くなかったことになる。)

さて、番勝負で藤井二冠に勝てる棋士はいるのだろうか。現在、可能性があるとすれば永瀬叡王の持将棋・千日手ワールドだけだろう。過密日程でない渡辺名人との勝負も、改めて見てみたいが、豊島竜王を含めあとの棋士では難しいのではないか。

むしろ、苦手としている大橋六段とか、朝日杯3連覇を阻止した千田七段の方が可能性があるような気がするが、いずれにせよこれからA級に上がって名人に挑戦する残り3年間で、どのくらいタイトルを集めることになるのか、楽しみである。

そして、とりあえずの目標となるのは、秋に行われる王将戦リーグである。シード組の広瀬、藤井、豊島、羽生に加え、二次予選勝者も相当強力となる(まず、永瀬二冠が通過)。番勝負で藤井有利は間違いないが、一発勝負のリーグ戦では波乱は当然ありうるのである。

七番勝負第2局、この場面では藤井棋聖(当時七段)は劣勢を意識してうつむいていることが多かった。銀捨てから決め手があったものの、1分将棋の木村王位は見逃してしまった。ならば2八の成香を取ればと思うのは、私だけだろうか。


[Aug 21, 2020]


竜王戦挑戦者は羽生九段

第33期竜王戦挑戦者決定三番勝負(2020/8/17-9/19)
羽生善治九段 O 2-1 X 丸山忠久九段

第33期竜王戦決勝トーナメントは、開幕早々大波乱となった。中心になるとみられていた藤井聡太棋聖が、緒戦で丸山忠久九段に敗れたのである。

丸山九段は名人経験者であり、昨年はB2順位戦をトップで勝ち上がり、B1復帰を果たしている。昨今再び流行している角換わりを昔から得意としていて、藤井なにするものぞと本人は思っていたであろう。

対藤井戦、先手番でもちろん角換わり。中盤で膠着し千日手となったが、この時点で持ち時間には2時間半差がついていた。藤井棋聖相手に夕方近くまで互角の形勢ということ自体、簡単にできることではない。

指し直し局は丸山後手番で、もちろん一手損角換わり。やはり互角の形勢で進んだが、中盤の難しいところで藤井棋聖が秒読みに入った。丸山九段は1時間以上残っている。藤井棋聖が生まれる前から角換わりを指している丸山九段のペースである。

銀交換を角で取るのか飛車で取るのかという難しい場面で1分将棋。藤井棋聖は攻撃重視で角で取ったが、ここで形勢が傾いたようだった。藤井棋聖は最後まで逆転狙いのきわどい手を連発したが、時間のある丸山九段があわてず読み切ってきわどい勝負をものにした。

これでほっとしたのは手合い係だろう。ただでさえ各棋戦で勝ちまくる藤井棋聖、順位戦さえ定例日に組めないイレギュラー日程である。永瀬二冠、渡辺二冠(現名人・三冠)もランキング戦で敗退しているので、竜王戦決勝トーナメントは日程上の問題がほぼなくなった。

挑戦者決定戦には、まず丸山九段が勝ち上がった。藤井棋聖を下した余勢を駆って、1組2位の佐藤和俊七段、3位の久保九段を連破、2組2位から3連勝で挑戦者決定戦進出を果たしたのである。

もう一方の準決勝はパラマス方式。5組優勝の梶浦六段が4連勝で勝ち上がり、5組から初の挑戦者決定戦進出かと思われたが、立ちふさがったのは1組1位の羽生九段。横歩取りからの玉の薄い攻防をしのぎ、こちらも挑戦者決定戦に進出である。

羽生九段・丸山九段は1970年9月生まれの同い年で、今月50歳となる。いずれが進出しても竜王戦七番勝負に50代の棋士が進出するのは初めてとなる。

同年配の実力者同士なので、過去三十年にわたり数多くの対戦がある。三番勝負開始時点で羽生38勝、丸山19勝。羽生九段の2勝1敗ペースである。

挑戦者決定三番勝負も、計ったようにこの展開で進み、第1局丸山、第2局羽生の後、第3局を羽生が制して2年ぶりに竜王戦七番勝負の舞台に戻ることとなった。

現状の力関係からすると豊島竜王有利は動かしがたく、ひと頃の過密対局も峠を越えて波乱要因は小さくなっているように思う。とはいえ、羽生九段もタイトル100期の最後のチャンスかもしれず、防衛戦に弱い豊島なので、カド番に追い込むか、第7局までもつれさせればチャンスはある。

竜王戦七番勝負は、10月9日、例によって渋谷・セルリアンタワー東急能楽堂で開幕となる。

今回の竜王戦決勝トーナメント、白眉といえばこの一局。後手番の丸山九段が伝家の宝刀・一手損角換わりで向かうところ敵なしの藤井棋聖を破った。


[Sep 20, 2020]


九番勝負までもつれて豊島再び二冠に ~第5期叡王戦

第5期叡王戦七番勝負(2020/6/21-9/21)
豊島将之名人 O 4(2持将棋)3 X 永瀬拓矢叡王

タイトルに昇格して2期が4-0のストレート決着であっさり決まった反動という訳でもあるまいが、第5期叡王戦はいつ終わるのか分からない長期戦となった。

まず、コロナの余波で4月開幕が延期となった。ようやく開催にこぎつけた6月21日の第1局は千日手指し直しの上豊島勝利。7月5日の第2局は持将棋。

叡王戦の呼び物ながら今期初めて実施に至った持ち時間1時間の第3・4局は、永瀬先手の第3局がまたまた持将棋。同日の第4局は深夜に及ぶ232手の激戦を後手番の永瀬が制して、タイに持ち込んだ。同日の解説を勤めた藤井猛九段ではないが、「いつ終わりますかね。『そして伝説へ』でしょうか」という先の見えない番勝負となった。

リスケジュールされた番勝負の日程は、8月10日の第7局までしか組まれていない。第8局以降がいつ、どのような条件で戦われるのか、なかなか発表にならない。どこまで続くのか、いつまで続くのか分からない状況である。

こうなると、長丁場になればなるほど本領を発揮する永瀬叡王の得意とする分野と思われた。実際、第4局は豊島絶対有利の場面もあったのに、両者1分将棋の末、永瀬叡王が逆転している。

第7局まで終わって、永瀬叡王の3勝2敗2持将棋。ただ、ここで状況が大きく変わる。豊島は並行して戦っていた名人戦が決着し、永瀬は王座戦五番勝負が始まったのである。これまでとは状況が逆になった。

事前研究に定評のある豊島に時間の余裕ができ、永瀬はダブル日程である。第8局はこの状況がもろに影響したのか、75手という短手数で豊島が快勝、決着は第9局にもつれ込んだ。

第9局は第8局後に振り駒の結果、豊島先手番。採用した作戦は角換わりから5八金。膠着しやすい4八金としなかったのは、永瀬に千日手でゆさぶられるのを避けたためかもしれない。

第8局ほどではなかったが、111手とこの二人にしては短い手数で豊島竜王が連勝、カド番から逆転で叡王を奪取、再び二冠に返り咲きとなった。

名人戦から続いた番勝負のダブル対局がようやく終わったら、来月から竜王戦七番勝負が始まる。いまだ初防衛を果たしていないゲンの悪い防衛戦だが、そろそろ貫禄を示したいところ。叡王戦第8局以降は、好調時の将棋に戻っているようだ。

惜しくも防衛ならなかった永瀬前叡王だが、千日手あり持将棋ありの大乱戦で豊島竜王をおおいに揺さぶった。まさに、永瀬ワールド全開であった。課題があるとすれば、長手数にならないとやはり豊島竜王に一日の長があるということであろう。

これから後は王座戦に集中できるが、全勝で突っ走るB1順位戦が佳境に入るし、王将戦リーグも始まる。王将戦では対豊島の再戦があるし、王位戦・棋聖戦で敗れた藤井二冠にも借りを返さないといけない。他のメンバーも最近のタイトルホルダーばかりなので、王座戦に一点集中といかないのが難しいところだ。
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あと一点指摘したいのは、持将棋後の指し直しルールについて。

番勝負の持将棋は一局扱いとするまではいいのだが、このタイトル戦の特色は変動持ち時間にある。かつての中原・加藤一二三の名人戦なら後日指し直しで問題ないのだが、今回の場合、微妙に有利不利があったように思う。

私見では、第7局の前に指し直し第2局と指し直し第3局が挟まれるべきであり、前者は持ち時間5時間の永瀬先手、後者は持ち時間1時間の豊島先手である。それが、すべて持ち時間6時間となってしまった。

序列3位のタイトルだから、それなりに時間をかけて凡ミスのないようにするなら、初めから持ち時間6時間でやればいい。3時間とか1時間という持ち時間は、ある意味ミスをして逆転することを想定した番組である。

結果的には、それぞれの先手番で2回の持将棋があったので、そのあたりの有利不利があやふやになってしまったが、これでいいのなら最初から持ち時間5時間か6時間で統一した番勝負とすべきと思う。

もう一つ有利不利がなくなる方法は、いかなる場合も即日指し直しというルールだが、ネットとはいえ実況中継を前提とした棋戦では難しいかもしれない。対局者はいいとして、運営や解説者が厳しそうだ。

第5期叡王戦の流れが変わった第8局、先手番の豊島が飛車を切って速攻、75手という短手数で決着した。豊島の名人戦が終わり、永瀬の王座戦が始まるというスケジュールにも影響されたか。


[Sep 22, 2020]


第68期王座戦、永瀬王座防衛で藤井二冠に先立ち九段へ

第68期王座戦五番勝負(2020/9/3-10/14)
永瀬拓矢王座 O 3-2 X 久保利明九段

予選スタートながら挑戦者の本命とみられていた藤井聡太二冠が予選最終戦で大橋六段に敗れ、その大橋六段を破った久保九段が挑戦者に名乗りを上げた。

久保九段といえば振り飛車のスペシャリスト、さばきのアーティストとして名高い。かたや永瀬王座は千日手・持将棋大歓迎の泥沼流、粘っこさvs切れ味という対照的な両者の番勝負となった。

永瀬王座の最近の充実度は、渡辺・豊島・藤井とともに四強といわれるくらいで、B1ながら現役最強の一角であることは疑問の余地がない。懸念があるとすればスケジュールで、対局が立て込んで最近は2日おき3日おきに組まれている。

ここで相手が豊島とか藤井ということになると、準備期間の差がそのまま形勢に反映してしまうところであったが、久保九段は事前研究よりその盤面での感覚を重視するタイプなので、スケジュールが影響することはなかったようだ。

第1局永瀬、第2局久保とそれぞれ先手番が勝って、迎えた第3局が鍵となる一戦となった。

ともに決め手を与えず終盤の入口。コンピュータの形勢判断は50%。まったく五分というのではなく、お互いに最善手を指せば千日手という局面である(下図)。

永瀬王座としてはここしか拠点がないので、6二、7二を攻めるしかない。対する久保九段が持ち駒の金を使って受ければ、同金同金7三金打ちでまた金で受けて、いずれ同一局面に戻らざるを得ない。

後手番の久保九段としては千日手でもよかったような気がするが、ここをチャンスとみて持ち駒の金を温存して銀で受け、結果的に久保九段に難しい局面となってしまった。

最終第5局が久保先手で永瀬勝ちとなったように、先後逆転したからといって必ず有利になるとは限らない。それよりも、現局面で勝つ変化があると読めば打開して全く不思議はないのだが、相手が永瀬王座だと、千日手は相手の土俵という感覚があったように思えて仕方ない。

永瀬王座は初防衛に成功し、タイトル3期で九段に昇段した。八段もタイトル2期によるものだから、永瀬八段と呼ばれた時期は全くなかったことになる。

そして、タイトル初防衛では豊島竜王より先、九段昇段では藤井二冠より先と、ライバル棋士達にそれぞれ先んじることができた。あとは、全勝で先頭を走るB1順位戦を勝ちぬいて、A級昇級を果たせば名実ともに現役最強組の一角である。

王座戦はオールスター戦なので、タイトル保持者である藤井二冠は来期から予選を戦わず本戦から登場する。残り15人の中に、苦手とする豊島竜王、大橋六段がいるため簡単にはいかないだろうが、永瀬・藤井の番勝負という頂上決戦が期待される来期の王座戦である。

第68期王座戦第3局。この時点での評価値は50%でコンピュータの最善手は千日手だったが、後手番の久保九段が持ち駒の金を温存して打開に動く。結果的には、久保九段に難しい局面となった。


[Oct 16, 2020]


主催者から外れたDwangoと叡王戦

第5期の七番勝負が第9局までもつれ込んだ上、第6期の予選がなかなか始まらなかった叡王戦。先週ようやく、日本将棋連盟から第6期の開催要項が発表された。

大方の予想通り、DWANGOが主催者から下りた。代わりに主催者となったのは不二家である。新会館がらみのヒューイックや大成建設は使ってしまったし、新聞社はもう無理ということで苦しい選択だったと思うけれど、旧世代の会社という印象がぬぐえないし、コロナの展開によっては来年はご勘弁ということになるかもしれない。

そもそも、DWANGOが叡王戦を企画したのは、人間代表vsコンピュータ代表で戦わせたいという意図だった。AIの予想以上の進展であっという間に勝負がついてしまったけれど、意義のある対決だったと思う。

問題は、叡王戦をタイトルとする時点でニコニコ動画の後退がすでに明らかだったことである。こんなに早く撤退するなら、銀河戦とかAbemaトーナメント並みにとどめておくべきだった。にもかかわらずDWANGO主催で見切り発車し、のみならず序列第3位のタイトルに格付けしてしまった。

棋士のほとんどは小中学生から将棋一筋であり、将棋が強いからといって経済事情や経営環境の判断に長けている訳ではない。将棋が強いから頭もいいだろうと思い込んでしまうけれども、大山・升田だって中原・米長だって経営者という器ではなかった。そんなことは、書いたものを読めば見当がつく。

タイトル戦は棋士の収入に直結するから、毎年きちんと開催されることが望ましい。今年はコロナの影響で対局できない日が続いたけれども、それは不可抗力であって、主催者の経営がどうなのかは予測できることである。

さて、継続されることになった叡王戦だが、いくつかの大きな変更が加えられている。まず、本戦出場者が24名から16名に減員されたこと、そして七番勝負が五番勝負になったことである。

持ち時間が予選1時間、本戦3時間、タイトル戦4時間と短縮されたこととともに、タイトル戦の序列としてはもっとも低い棋聖戦と同じである。棋聖戦の二次予選は持ち時間3時間だから、考えようによっては棋聖戦を下回る格式ということになる。

それを反映したものなのか、第6期の番勝負は、「第6期叡王決定五番勝負」と銘打たれている。これまでの叡王戦と連続したものではありませんよ、と言っているようである。予選開幕前にタイトル序列の変更が行われ、叡王戦は棋王戦と王将戦の間、6番目に格付けられた。

タイトルの序列は棋士の序列であり、上座・下座もそれにより決まる。現在は豊島竜王が叡王なので問題とならないが(竜王は序列1位)、何年か前のように八冠すべて別の棋士であったら、先週と今週で席次が違うところであった。

予選開始が遅れたことにより、予選の基準日も春のはずが10月6日に後ろ倒しされた。これで割りを食ったのは春にタイトル保持者だった木村九段で、予選から出場しなければならなくなった。その点を考慮したものか、本戦シードは昨年のベスト4だけで、藤井二冠も予選スタートとなっている。(豊島、永瀬、渡辺のタイトル保持者はベスト4以上で、関係するのは木村九段と藤井二冠だけ)

このように、中味をみると全く別物のタイトル戦となっており、叡王戦の特色だった変動持ち時間もなくなった。正直なところ、変動持ち時間にはほとんど意味がないので気にならないけれど、本来タイトル戦というものは、何回続いたからいいというものではない。どのようなタイトル戦なのかというDNAが残ることに意味があるのではなかろうか。

せっかく作ったタイトル戦を残したいという気持ちは分からないではないが、これまでの金額ではスポンサーがつかないから規模を縮小しましょう、持ち時間も短縮しましょう、それに合わせて序列も下げましょうというのは、本末転倒のような気がする。

かと言って、アベマだってそれほど安定している訳ではないし、クラウドファウンディングも一回二回はともかく、何十年も続くかどうか分からないし困ったものである。Googleが何とかしてくれたらいいのに。

ニコニコ動画が撤退して、第6期から不二家がスポンサーになりました。不二家叡王戦とはいわないのかな?(出典:日本将棋連盟HP)


[Nov 1, 2020]


第70期王将戦、永瀬王座が挑戦へ。藤井二冠は初のスランプ!? 

第70期王将戦挑戦者決定リーグプレーオフ(2020/11/30)
永瀬拓矢王座(5勝1敗) O - X 豊島将之竜王(5勝1敗)

第70期王将戦挑戦者決定リーグは、開幕前から激戦が予想された。予選を勝ち上がってきたのは、永瀬王座(勝ち上がり時は二冠)、名人3期の佐藤天彦九段、前王位の木村九段である。シードが広瀬、豊島、羽生、藤井だから、A級順位戦以上の少数精鋭である。

王将である渡辺名人を含めた8人ですべてのタイトルを保持しているばかりか、昨年以来のタイトル獲得者をすべて含んでいる。王将戦リーグは例年レベルが高いけれど、ここまで集中するのは稀である。

そして、二冠を獲得して三冠目の期待を集めた藤井二冠が、なんと開幕から3連敗で早々に挑戦者争いから脱落してしまった。デビュー4年目でいまだB2の棋士がタイトル保持者や九段に敗れても驚くことはないのだが、藤井二冠だけに意外であった。

3敗目を喫した永瀬王座戦で、後手番の永瀬王座が意表をついた四間飛車を採用した。もともと振り飛車党だから不思議はないが、藤井は振り飛車対策が十分でないとみたのだろうか、いずれにせよトップ棋士が藤井対策をとってきたことは間違いない。

藤井二冠は後半3局を3連勝、3勝3敗でリーグを終えたが、順位の差で同じく3勝3敗の広瀬八段に及ばず、惜しくも陥落となった。来期は二次予選からのスタートとなる。

中盤戦を終わって、豊島竜王、永瀬王座、羽生九段が3戦全勝で並び、挑戦権争いはこの3名に絞られた。ところが、豊島・羽生は竜王戦七番勝負の最中。リーグ最終戦は一斉対局なので、手合い係がまたもや大変なことになった。

まず11月3日、竜王戦第3局の4日前に、永瀬・羽生戦が行われた。先手番の永瀬が相掛りに誘導、角交換から羽生が敵陣に馬を作ったが永瀬が1筋に押さえ込む。角金交換の駒得から永瀬が攻勢をかけ、89手で永瀬が勝って4勝目をあげた。

11月18日は豊島・永瀬の全勝対決。こちらも先手番の永瀬が矢倉に誘導。攻勢をかけて豊島玉を不安定にしてから、一転して守りに回って相手のと金を消すというしぶとい指し回しで169手の激戦を押し切り5連勝となった。

11月20日の最終局、永瀬の相手は広瀬八段。永瀬が勝てば全勝で挑戦決定、敗れれば豊島・羽生戦の勝者とプレーオフとなる。広瀬もここを落とすとリーグ陥落なので、簡単に負ける訳にはいかない。

先手番の広瀬が相掛りから圧力をかけ5筋を突破、そのまま力づくで永瀬玉を仕留めた。広瀬は前期挑戦者なので藤井二冠より順位が上で、3勝3敗の同成績ながら残留を決めた。1敗対決は豊島が激戦を制して5勝1敗となった。

プレーオフは10日後の11月30日。叡王戦9番、リーグ戦本割、JT日本シリーズ決勝に続く豊島・永瀬の顔合わせである。振り駒の結果後手番となった永瀬王座は、角交換を拒否して雁木に組む。

低く囲った豊島竜王に対し、永瀬王座は9筋を突き越して9四桂で圧力をかける。駒得の豊島竜王だが、角、桂を窮屈な位置に打たされて苦しい中盤。そのまま永瀬王座が押し切ってプレーオフを制し、挑戦権を手にした。

叡王戦最終局、日本シリーズ決勝と大一番で豊島に敗れた永瀬だが、ここは借りを返した形。そして、自身初の2日制となる。渡辺王将との番勝負は2017年第43期棋王戦以来で、その時は2-3で初タイトル成らなかった。七番勝負は、年が明けて1月10・11日に開幕する。

※ 王将戦は棋譜利用ガイドラインによりブログでの棋譜利用が認められていないため、残念ながら途中図を掲載いたしません。

[Dec 2, 2020]


第33期竜王戦、豊島ようやく初防衛

第33期竜王戦七番勝負(2020/10/09 - 12/06)
豊島将之竜王 O 4-1 X 羽生善治九段

七番勝負開始前に予想したとおり、豊島竜王が羽生九段を破ってタイトル初防衛に成功した。

豊島竜王は防衛戦に弱く、これまで3回連続して防衛戦でタイトルを失っていた。番勝負に弱いとも思えないし、実力は現役屈指である。ただ、長考するとペースを自ら狂わせてしまうところがあり、今回も長丁場になると不安があった。

しかし、その心配は杞憂であった。1勝1敗で迎えた第3局以降を3連勝して、4勝1敗でみごと竜王初防衛を果たしたのである。

今回の場合、羽生九段には申し訳ない言い方だが、強力なライバルが挑戦者になる前に次々と敗れたのが大きかった。渡辺名人、永瀬王座はランキング戦で敗れ、藤井二冠も決勝トーナメント初戦で敗退した。羽生と丸山の挑戦者決定戦となった時点で、豊島竜王はひと安心したのではないかと思う。

七番勝負で鍵になった一戦として、第一局をあげたい。この開幕局で、矢倉模様から後手番の豊島竜王が早々に右桂を跳ね、双方居玉からの超急戦となった。初日午後、羽生挑戦者の5五角に対し、豊島竜王が2七歩の飛車取りで切り返したのである(下図)。

角を放置すれば、3三角成で馬を作られて王手香取りなので、放置するには勇気もいるし事前に研究していないと打てない。豊島竜王は春の過密スケジュール時にはこういう手は打てなかったので、ようやく調子が戻ってきたようだ。

この後一直線の駒の取り合いとなり、竜王戦七番勝負史上最短の52手で豊島竜王が先制した。この一局が、今回の防衛戦の流れを決めたように思う。羽生九段のタイトル100期は成らなかったが、99と100の違いにこだわることもない。99でも十分に偉大である。

さて、第34期竜王戦はすでにランキング戦の組み合わせが発表となり、順次スタートしている。豊島竜王への挑戦権へ最短距離にあるのは、やはり渡辺、永瀬、藤井の四強残り3人である。

ただ、渡辺名人は昨年同様、年明けから王将戦、棋王戦、名人戦と番勝負が続く。順位戦がないのは恵まれているものの、ハードスケジュールの合間となるランキング戦に万全の状態で臨めるかどうか不安は残る。

永瀬王座も王将戦の後は大詰めの順位戦、そして王座戦の防衛戦と続く。藤井二冠もちょうど決勝トーナメントの時期に王位戦、棋聖戦の防衛戦が重なる。間隙を縫って今期のようなベテラン勢、あるいは佐々木勇気、近藤誠也など若手の台頭があるかもしれない。

第33期竜王戦七番勝負、第1局は双方居玉のまま超急戦となった。後手番豊島竜王が3三角成を放置しての2七歩が鋭く、このあたりから形勢が傾いたようだ。竜王戦七番勝負で最短の52手で豊島竜王が先制した。


[Dec 08, 2020]


第46期棋王戦、糸谷八段5年ぶりタイトル戦へ

第46期棋王戦挑戦者決定二番勝負(2020/12/18-28)
糸谷哲郎八段 OO - XX 広瀬章人八段

デビュー初年度の本田五段(当時四段)が昨年の挑戦者だったように、新鋭棋士が活躍する棋戦として定評のある棋王戦だが、今年はタイトル戦に実績のある4名が勝ち残った。4名とも、渡辺棋王と番勝負を戦った経験がある。

昨年に続いてのベスト4入りは広瀬章人八段のみ。準決勝で広瀬と当たるのは、四強の一角、永瀬王座である。永瀬王座は、同時に進行している王将戦で挑戦権を獲得し、年明けから渡辺王将と七番勝負が始まる。

もう一つの山からは、久保九段と糸谷八段が勝ち上がった。久保九段は2-3で奪取ならなかったが今年の王座戦の挑戦者であり、引き続き好調を維持している。かたや糸谷八段は昨年A級に昇進し、今年も挑戦者争いに加わっている。

勝者組決勝は広瀬vs糸谷の元竜王対決。ともに竜王失冠以来やや調子を落としているものの、A級上位の実力棋士である。だから両者とも勝ち上がって何の不思議もないのだけれど、四強が圧倒的に強い昨今の趨勢からすると、やや意外な組み合わせである。

(そのせいか、挑戦者決定第2局のabema視聴者数も20万人台で、藤井二冠の100万人以上とかなり違った。)

糸谷先手で戦型は角換わり。速攻に出た糸谷だが、広瀬陣は厚く決定打にはならない。糸谷の攻めが止まったところで広瀬が逆襲、94手で広瀬が勝者組からの勝ち上がりを決めた。

敗者復活戦決勝は糸谷vs永瀬。最近充実著しい永瀬に対し、糸谷が角換わりで大駒の取り合いから、例によって早指しでペースを握り、持ち時間を半分残して永瀬の粘り腰を発揮させなかった。

挑戦者決定戦は、勝者組決勝からの広瀬・糸谷三番勝負となった。この二人の対戦、二番勝負直前では広瀬10勝、糸谷3勝とかなりの差が開いている。そのせいか、序盤から糸谷が時間を使う珍しい展開。勝者組決勝とは異なり勝負は夜戦にもつれ込む。

陣形は先手の糸谷が堅いが、飛車角を押さえ込まれて厳しい中盤戦。ここで角を切って金打ちの俗手で敵陣の飛車に迫ったあたりから糸谷が追い上げる。薄い広瀬玉は入玉を目指すが、最後は即詰みに討ち取り、挑戦者決定は年末の第2局に持ち込まれることとなった。

第2局が組まれたのは12月28日、ご用納めの日である。挑戦者決定戦二番勝負というけれども、先後は二局とも振り駒で決められる。結果、糸谷が先手番。本割、第1局、第2局とすべて糸谷先手となった。

戦型は再び角換わり。後手番の広瀬が銀桂交換の駒損から馬を作るという作戦に出て、またもや糸谷が時間を使う展開となった。午前中に広瀬八段が30分も使っていないのに対し、糸谷八段は1時間以上使っている。早指しのイメージが濃いだけに、意外な展開となった。

下図まで、糸谷は中盤を制圧したけれども大駒金駒が渋滞している印象があり、6三桂と両取りをかけた場面では後手ペースかと思われた。しかし、評価値はこのあたりから先手に振れていた。これで指せると判断していたとしたら、すごいことである。

この後、桂馬で角を取り6七歩がと金になり、入手した角で6六の飛車を取って後手の思い通りになったのだが、そこから明確な寄せがない。一方で後手の飛車は封じられ、序盤で2筋を押し込まれた影響で玉がたいへん狭い。結局その狭さをとがめて、糸谷がきわどく攻め合いを制したのである。

敗者組から2連勝で挑戦者となったのは2015年の天彦八段(当時)以来。二番勝負とはいうものの第1局は勝者組・敗者組の決勝戦で、第2局は同率プレーオフだから振り駒でおかしくないが、2番続けて先手番を引いた糸谷八段はラッキーであった。

糸谷八段は、2015年の竜王戦以来5年ぶりのタイトル戦登場、相手はその時1-4で竜王を獲られた渡辺棋王である。三冠名人の壁は厚いが、渡辺棋王は王将戦とのダブル日程となる。イメチェンを果たしつつある糸谷八段の雪辱を期待したい。

後手番広瀬八段思い通りの局面に誘導したと見えたこのあたりから、形勢は糸谷八段に傾いていた。角銀両取りをかけたこの後、6七の歩も成って飛車も取ったのだが、自陣の玉が狭いところを突かれてしまった。


[Dec 29, 2020]

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