昔いただいた初段免状。大山・中原時代・・・。
第91期棋聖戦挑戦者は 第61期王位戦挑戦者は
2019年 2020年下半期 将棋目次
豊島竜王名人、叡王に挑戦へ ~第5期叡王戦
第5期叡王戦挑戦者決定三番勝負(2020/2/6-2/24)
豊島将之竜王名人 O 2-1 X 渡辺明三冠
叡王戦は最も新しいタイトル戦である。その前に竜王戦ができたのが1988年、昭和終わりなので、平成唯一の新設タイトルということになる。
タイトル戦に昇格した第3期の高見・金井がC級1・2組、第4期挑戦者決定戦の永瀬・菅井がB級1組だから、3年目にして初めて名人・A級が上がってきたということになる。そして、4月からの名人戦七番勝負と同じ組み合わせで、豊島竜王名人は昨夏に引き続いて十番勝負を戦うこととなった。
叡王戦にA級棋士達が登場しなかったのは、私が思うに、叡王戦で勝つとコンピュータと戦わなくてはならないというイメージがあったからではないだろうか。第1期優勝者の山崎八段、第2期優勝者の佐藤天名人(当時)は、コンピュータと戦わなくてはならなかった。現在、その制度はない。
ネット中継があるので早指し棋戦と思われがちであるが、本戦の持時間はチェスクロック3時間+夕食休憩ありなので、早指しというほどではない。だから若手ばかりが活躍しなくてもよさそうなものだが、これまではそういう傾向があった。
ところが今年は一転して、トップクラスが勝ち上がった。それも、竜王名人と三冠というトップ中のトップで、二冠を持つ永瀬叡王と合わせて八冠中七冠を占めるという文句なしのトップ対決である。
渡辺三冠は準決勝で、青嶋未来五段の中飛車に銀冠の対抗形から、振飛車に全く捌かせずに圧勝した。一昨年のB1降格から全勝での復帰以来好調を長く持続しており、今期のA級順位戦でも1月中に早々と挑戦を決めた。王将戦、棋王戦の番勝負と並行しての戦いとなる。
豊島竜王名人の準決勝は、佐々木大地五段との矢倉戦。中盤では評価値で佐々木五段が若干リードしていたが難解で、桂交換からの金取りを手抜いて玉頭を攻め押し切った。研究範囲だったようで、持ち時間をかなり残しての決勝進出となった。
挑戦者決定戦第1局は豊島竜王名人の先手。角換わりとなり、ほとんど持ち時間を使わないうちに渡辺三冠が角を打ち込み、歩頭の桂打ちで9筋を突破する勢い。ここで竜王名人の手が止まり、持ち時間3時間のうち2時間の長考。指された手が疑問手で、渡辺三冠の角切りからの攻勢が決まった。
豊島竜王名人は研究範囲であればほとんど時間を使わず、未知の局面になってはじめて長考する。ところが、長考の結果が良くないことがしばしばあり、昨年の王位戦七番勝負でも何度かその傾向がみられた。
そして第2局、先手番の渡辺三冠が一気に挑戦を決めるかと思われたが、そううまくはいかなかった。渡辺三冠が時折見せる中盤から一気に形勢を損ねる将棋で、持ち時間を半分残しての早い投了となった。勝負は第3局に持ち込まれた。
迎えた第3局。渡辺三冠はこの時点で王将戦、棋王戦とのトリプル番勝負で過密日程、しかも、3連敗中であった。秋には勝率8割という驚異的な勝ち方をしていたのに、突然の変調と言っていいかもしれない(中継をみていると、花粉症なのかもしれない)。
振り駒の結果、竜王名人の先手となったが、渡辺三冠が角道を止めて雁木を目指す。竜王名人は意表を突かれたかと思いきや、ほとんど時間を使わず棒銀へ。夕食休憩時には持ち時間に1時間以上の差がつき、しかも棒銀が2筋を突破するという竜王名人のペースとなった。
ところが、例によって竜王名人が長考するようになって雰囲気が変わる。駒得していた渡辺三冠が敵陣に飛車を打ち込み、両者一分将棋でどう転ぶか分からないところまで形勢が最接近する。しかし、最後は玉の堅さの差が出て竜王名人が再びリードを奪い、渡辺玉を寄せ切った。
これで、竜王名人が永瀬二冠に挑戦という若手トップ対決が実現した。この二人が番勝負で対戦するのは初めて。そして、竜王名人は名人戦と並行しての七番勝負で、現在の渡辺三冠と同様の過密日程となる(インタビューによると、NBAを見ていた時間を充てれば大丈夫というけれども)。
研究に裏付けられた豊島竜王名人の強さは抜群だが、永瀬二冠の粘りも他者の追随を許さない。研究がはまれば竜王名人だが、長考を要する場面になると上に書いたような死角がある。
そして、この両者は七番勝負に先駆けて、進行中の王位戦リーグ紅組で当たることになっている。おそらく事実上の紅組1位決定戦で、白組からは藤井七段が上がってくる可能性がかなり高い。こちらも相当に注目度が高い。
そして、タイトル昇格以降の叡王戦は2回とも4-0決着で、変動持ち時間という叡王戦の特色が出るところまで行かなかった。タイトル戦では他に例がない持ち時間1時間の早指し勝負に持ち込まれれば、どうなるか分からない。今回の叡王戦は、さまざまの角度から楽しめそうである。
挑戦者決定戦第3局。難解な終盤戦で両者1分将棋となり、渡辺三冠が6二の銀を7一に引いた手が大きかった。玉の退路は開けたものの、3一角が生じて一気に寄り形となった。
[Feb 24, 2020]
渡辺棋王、本田五段を3-1で破りタイトル8連覇 2
第45期棋王戦五番勝負(2020/2/1-3/17)
渡辺明棋王 O 3-1 X 本田奎五段
初出場で挑戦権を獲得した本田奎五段。棋王戦はアマと女流にも出場枠があるので、もし同じことができればアマでも女流でも挑戦権に手が届く。充実著しい渡辺三冠にどこまで迫ることができるか興味深い番勝負となった。
本田挑戦者はデビュー以来間もないため、五番勝負第1局が渡辺棋王とは初手合いとなった。
勝ち上がりの過程で、現二冠の永瀬七段、前竜王の広瀬八段、前名人の佐藤天九段を破っているので挑戦者資格としては十分であるが、現時点トップの一人である渡辺三冠を破ればまさに新星登場である。
その意味で、初手合いであり開幕戦でもある第1局の比重がたいへん大きかった。本田五段が先手となって研究手順に持ち込めば面白いと思っていたが、振り駒の結果先手は渡辺棋王、経験豊富な矢倉戦に持ち込んだ。
角交換の後、お互い敵陣に角を打ち込んで馬を作り、どちらの馬が有効に働くかという局面となった。Abemaの解説陣である藤井猛九段、中村太地七段が長期戦を予想する中、本田五段は銀矢倉の右銀で敵陣突破を図った。
ところがここで、渡辺棋王の4五桂が強烈なカウンターとなった。馬で取れば2六の銀が取られるし、3三の銀を逃げれば4六金で拠点の歩が取られ馬に当てられる。金を取っても銀を取られて馬取りが続く。この時点で、評価値的には大差が付いてしまった。
数手前までは夜戦必至、千日手・持将棋の可能性もあるといわれていたのに、双方持ち時間を約1時間余して午後5時に本田五段投了というあっけない結末となったのである。
実績・経験で劣る本田五段が百戦錬磨の渡辺棋王に対抗するには何とかして棋王をあわてさせる必要があるのに、この第1局は大きかった。一手違いどころか渡辺陣はほぼ手付かずである。意表を突いた銀矢倉も、あまり効果がなかったように見えた。渡辺棋王が、早くも八連覇に向けて展望が開けた第1局であった。
第2局を本田五段が勝って迎えた第3局。この時点で両者とも過密日程で、ともに直近5戦1勝4敗と、勝率上位を争う両者にしては変調とも言うべき状況での対局となった。
とはいえ、3日前のA級最終局を勝って5連敗を免れ、全勝で名人挑戦を決めた渡辺三冠の方が、公式戦ではないものの折田アマの編入試験で敗れた(デビュー間もないのでこういう仕事もある)本田五段より上向きにあるのではないかとみられた。
この第3局も昼食休憩明け間もなくから渡辺棋王の攻勢が始まり、第1局と同様に午後4時台という早い終局となった。余勢を駆って2週間後の第4局も渡辺陣手付かずのまま午後5時台の終局で、3勝1敗で渡辺棋王の防衛となったのである。
渡辺棋王はこれで7度目の防衛でタイトル8連覇。現在継続中の最多防衛記録を更新し、自身の持つ竜王9連覇にあと1と迫った。タイトル防衛というのは簡単ではなく、大山・中原・羽生を除きタイトル5連覇以上を果たしたのは佐藤康光の棋聖6連覇だけで、永世名人資格者の谷川も森内も通算獲得回数による永世資格である。
渡辺三冠のすごいところは、ソフト全盛の現在、これまでとは違う研究方法が求められる中にもかかわらず、コンピュータが得意とも思えないのに十分以上に若手に対抗しているという点である。
もともと渡辺は羽生の次、藤井聡太の前の中学生プロで、長く活躍している印象だけれど広瀬と3歳、佐藤天彦と4歳しか違わない。とはいえ、ソフトが人間の棋力を超えてからまだ4~5年、その前から活躍している渡辺三冠がソフトでの研究を得意としているとは考えにくい。
近い将来、20歳近く年下の藤井聡太が挑戦者として名乗りを上げてくる。早ければ、夏の棋聖戦になるかもしれない。次世代の新星を相手に渡辺三冠がどのような将棋を指すのか、今から楽しみである。
第1局は矢倉戦。お互いに馬を作って長期戦になりそうだったが、取られそうな2七桂を3五にハネたタダ捨てで、一気に形勢が傾いた。4四に銀が逃げると4六金で馬が追いつめられる。
[Mar 20, 2020]
第78期順位戦・A級全勝で渡辺三冠が名人挑戦
今年度の順位戦が、3月12日のB級1組を最後に終了した。
今年の順位戦は星が偏るクラスが多く、1月中に渡辺三冠の名人挑戦、菅井七段のA級昇級(昇段)、丸山九段のB1復帰が決まった。2月の対局では、藤井七段のB2昇級、高見七段(前叡王)のC1昇級、斎藤七段(前王座)のA級昇級(昇段)が決まり、3月に持ち越されたのはC2の残り2枠、C1、B2の残り1枠のみとなった。
降級も、A級から久保九段、B1から谷川九段と関西の重鎮二人の降級が2月までに決まり、残りは各1枠となった(B2以下は降級点)。
「将棋界で一番長い日」であるA級順位戦最終日も、今年は名人挑戦者が決まっているので例年ほど緊張した日ではなかったかもしれない。コロナウィルスの影響で大盤解説など一部のイベントが中止されたが、対局は2月27日に静岡で行われた。
最終局では、3勝だった3名がすべて勝ち、4勝5敗で6人が並ぶ結果となった。順位の差で木村王位の降級が決まり、負ければ降級だった佐藤前名人は新年度の順位を一気に4位まで上げた。
B級1組は菅井、斎藤のタイトル経験者が昇級昇段を決めていたが、最終局で畠山鎮八段の降級が決まり、B2への降級は歳上の方から二人ということになった。今回A級昇級した斎藤慎太郎新八段は、畠山八段の弟子である。
B級2組は丸山九段に加え、最終局で近藤誠也六段が勝ち、8勝2敗で2期連続昇級と昇段を決めた。昨年C1で藤井七段の全勝を阻止し、頭ハネで昇級枠も奪った若手有望株である。これで来年も藤井七段の一歩先に行くことができたが、B1は昔から言われる「鬼の住処」、降級枠も増えているだけに楽な戦いではないかもしれない。
C級1組は藤井七段が全勝で通過、最終局で佐々木勇気七段が9勝1敗となり、順位の差で及川六段、石井健太郎五段を押さえてうれしい昇級となった。ご存じ、藤井七段にプロ入り初黒星をつけた棋士であるが、さらに上のクラスを狙える逸材である。
また、来期以降、B2からB1、C1からB2の昇級枠が2から3に拡大される。現状、B2とC1はやや停滞しており、昇級する棋士が次々昇級する一方、9勝1敗の頭ハネが頻繁に発生している。竜王ランキング戦と比べて流動性の少ない戦いとなっていたが、これで少しは風通しがよくなるのではなかろうか。
C級2組は高見七段に続いて、三枚堂七段、古森四段が9勝1敗で昇級を決めた。前回次点の佐々木大地五段は、8勝2敗で2年連続の次点となった。三段リーグも2度次点でフリークラスの四段となっており、各棋戦で勝ちまくる割に順位戦に運がない。
さて、4月から開幕する名人戦七番勝負は豊島・渡辺の頂上決戦となった。過去来、A級を全勝や8勝1敗で通過した挑戦者はタイトル獲得となる例が多く、豊島名人も8勝1敗から七番勝負4連勝で名人を獲得した。
ただ、2020年に入ってから渡辺三冠の勢いがやや止まっており、叡王戦挑戦者決定三番勝負は1勝2敗、王将戦は最終局に決着が持ち込まれている。もともと渡辺三冠は名人戦に相性がよくなくて今回が初挑戦であり、やや気になるところである。
昨夏の豊島・木村十番勝負も第十局まで熱戦が繰り広げられたし、今回の七番勝負も簡単には決着しないだろう。豊島竜王名人は叡王戦と並行しての七番勝負で、そのあたりのスケジュールがどう影響するのかも含めて楽しみである。
[Mar 25, 2020]
渡辺王将フルセットを制し防衛、三冠維持 ~第69期王将戦
第69期王将戦七番勝負(2020/1/12-3/26)
渡辺明王将 O 4-3 X 広瀬章人八段
七番勝負が始まる前の渡辺三冠の充実度はめざましかった。2019年4月以降、敗れた相手は豊島名人のみ、勝率は8割を超え、順位戦は全勝街道を驀進していた。王将戦・棋王戦とも圧倒的な強さで防衛して、名人挑戦に臨むことは確実と思われた。
ところが、年末くらいからスケジュールが立て込んでくると、並行して調子も下降してしまう。負ける時は中盤から悪くしてそのまま押し切られるという戦いで、棋王戦も1勝1敗、王将戦も2勝2敗と両防衛戦とも開幕前の予想とは異なり接戦で2020年3月を迎えることとなった。
王将戦の第5局は、3月5日から6日。渡辺王将は第4局と第5局の間に、2月24日に叡王戦挑戦者決定第3局、27日にA級最終局、3月1日に棋王戦第3局が組まれていた。A級最終局と棋王戦は前日から拘束されるので、ほとんど準備期間のない過密スケジュールである。
かたや広瀬挑戦者は、A級最終局があっただけで他に対局はなく、体調面でも作戦面でも準備期間を作ることができた。そういうコンディションの差があったのだろうか。後手番であったが中盤から優勢となり、最後は両者一分将棋を勝ち切ったのである。
カド番となった渡辺王将だったが、第6局は逆に広瀬挑戦者が2日前に竜王戦というきつい日程となった。先手広瀬にやや分のある将棋だったが、終盤で飛車を見捨てて攻めに出た渡辺王将が逆転、勝負は最終局に持ち込まれた。
第7局、改めて振り駒の結果渡辺王将の先手。矢倉模様の出だしから広瀬が急戦に誘導、ともに玉を囲わないうちに戦いとなった。
封じ手前後では、後手から王手馬取りの筋があり、先手はその順は選ばないだろうとみられていたのだが、渡辺王将はあえてその順に踏み込み、飛車角をすべて渡すという捌きに出た。
ところが、それだけ駒の損得があっても評価値はほぼ互角で、後手の大駒が渋滞してかえって指しにくいことが徐々に明らかとなる。広瀬挑戦者も入玉目前まで粘ったものの、結局は大駒3枚を取り戻し自陣に手付かずのまま渡辺王将が快勝、逆転防衛を果たしたのである。
大駒4枚渡しても優勢という場面は終盤では稀に出てくるけれども、まだ中盤なのに飛車角渡して大丈夫という展開はあまり見たことがない。しかも負けたら転落という大一番でその順を選べるのだから、その時点で詰み近くまで読み切っていたということであろう。
これで渡辺王将は三冠を保持したまま名人戦七番勝負に臨むことになるが、これで不調を脱してエンジン全開で名人戦に向かえるかというと、私はやや疑問を持たないでもない。
というのは、広瀬八段、本田五段を迎えた王将戦・棋王戦はもっと圧倒的な差で勝つと予想していたからである。現時点で、豊島竜王名人、渡辺三冠、永瀬二冠、藤井七段の充実度は他の棋士を圧倒していて、それ以外の棋士に苦戦するようでは四強の残り3人に勝てないだろうと思うのである。
惜しくも敗れた広瀬八段。捲土重来を期待したいと言いたいところだが、第6局の優勢な将棋を勝ちきれないあたり、以前ほどの終盤の切れ味がなくなっているように思う。棋王戦決勝トーナメントのあっさりした土俵の割り方といい、四強とはやや差がついたような気がする。
※ 王将戦は棋譜利用ガイドラインによりブログでの棋譜利用が認められていないため、残念ながら途中図を掲載いたしません。
[Mar 26, 2020]
コロナ影響も藤井七段が最年少タイトル挑戦へ
第91期棋聖戦・挑戦者決定戦(2020/06/04)
藤井聡太七段 O - X 永瀬拓矢二冠
コロナの影響により約2ヵ月間対局が進まなかった将棋界、ようやく非常事態宣言が解除されて動き出した。将棋界は新聞社の予算で動くので、1年間のスケジュールは固定である。つまり、伸びた分は収めなければならず、問題なのはスケジュールである。
名人戦と叡王戦の七番勝負が東西対決なので、対局者の移動が伴うため全く進めることができなかった。すでに挑戦者が決まっている時期の王位戦、棋聖戦も遅れており、次の竜王戦まで影響が出ている。
特に、昨今の将棋界においては、豊島竜王名人、渡辺三冠、永瀬二冠、藤井七段の四強が各棋戦で勝ち進んでいることから、手合い係は頭の痛いことであったろう。そうした中、再開早々真っ先に組まれたのが、棋聖戦の準決勝・決勝であった。
最初に聞いたとき、遅れている名人戦・叡王戦を先に組むのが筋で、これは藤井七段のタイトル挑戦で商売をしたい産経新聞の横車かと思った。何しろ、一緒にマージャンした検事長を文春に売った新聞社である。
今回の辞表提出で検事長は退職金を800万円減らしたというから、これまでのマージャンの勝ち分(どうせ接待だから勝ったに決まっている)を全部飛ばしただろうが、それはさておき産経新聞がもっとも疑わしい。
しかしよく考えると、そうではあるまいと思った。今回の日延べでもっとも影響を受けるのが2日制の名人戦に出る豊島と渡辺である。まず朝日・毎日と調整してこの2人の日程を決めるのが最優先であろう。
残った日程から永瀬・豊島の叡王戦と渡辺の棋聖戦をスケジュールしていくと、棋聖戦挑戦者決定戦は第1週にやるしかないということになったのではないか。あまり遅れて、永瀬の王座戦防衛戦まで絡んでくると収拾がつかない。
棋聖戦ベスト4に残ったのは、永瀬・山崎・佐藤天・藤井である。準決勝が東西対決だし、決勝もほぼ半分の確率でそうなる。だとすれば、関西勢は翌日ホテルに待機してもらって、準決勝・決勝を一度にやった方が移動リスクが少なくてすむ。
スケジュールがそういう状況なのに加えて、しばらく露出がなかった将棋界としても、藤井七段の最年少タイトル挑戦が成れば再開早々注目を集めることができる。という訳で、前代未聞の1週間以内に準決勝から番勝負ということになったのではなかろうか。
さて、準決勝2戦も注目すべきところは多々あったのだが、とりあげるべきはやはり挑戦者決定戦だろう。振り駒の結果、永瀬二冠先手番。相掛りから2六に引いた飛車を8筋に展開し、飛車交換を誘った。
藤井七段も交換に応じ、中盤抜きでいきなり終盤戦となった。永瀬二冠の攻勢でやや指しやすいというのが各解説者やAIの評価で、藤井七段の桂と銀を打っての逆襲もやや無理攻めにみえた。
ところが、永瀬二冠がここで1時間を超える大長考。下の盤面で、4八に金を重ねて打つのが手厚く、攻めのペースは落ちるものの守備力は万全。持ち時間が1時間17分対17分ということもあり、「もう一番やりましょう」の永瀬流のように思えた。
しかし、玉を6九に早逃げして評価値大逆転。解説者一同「ええーっ!!!」と絶句である。その後も迫る場面はあったものの、永瀬二冠が逆転負けとなったのである。
もともと永瀬二冠は、千日手上等長手数大歓迎という棋風である。鋭く技を決めるというよりも、自分から悪くしない守備型の棋士と理解していた。ところが、この一戦は序盤の飛車交換もそうだが、かなりリスクの高い戦いを挑んだのである。
一気に攻めきれればよかったものの、終盤大事なところでギアチェンジに失敗したように見える。今回、先手番での負けというのも大きく、再び藤井戦が想定される王位戦は叡王戦との重複日程でもあるので、もし当たっても厳しい戦いとなりそうだ。
とはいえ、藤井七段相手にここまで白熱した戦いとなったのは、永瀬二冠だからともいえそうである。準決勝の佐藤天vs藤井戦が、「手合い違い」とも評すべき一方的な展開だったのと比較すると、さすが四強の一角である。
藤井七段はじめてのタイトル戦は、明日6月8日から、渡辺棋聖との五番勝負となる。渡辺棋聖は名人戦との重複日程、藤井七段も王位戦、竜王戦挑戦者争いと並行しての戦いとなる。どのような戦いになるのか、興味は尽きない。
挑戦者決定戦は、大駒交換から永瀬三冠のペースで進んだが、午後5時過ぎに1時間超の大長考で指した6九玉が変調。2七に飛車を打たれて逆転した。その後も押し引きあったが藤井七段が最年少タイトル挑戦へ。
[Jun 7,2020]
第61期王位戦、藤井七段が棋聖戦とダブル挑戦
第61期王位戦挑戦者決定戦(2020/6/23)
藤井聡太七段 O- X 永瀬拓矢二冠
リーグ戦を勝ち進んでいた両者が最終一斉対局も勝ち、ともに全勝で紅組・白組を勝ち抜け、棋聖戦に続く挑戦者決定戦での対決となった。
両者とも各棋戦を勝ちまくっている4強の一角であり、コロナの影響で2ヵ月対局が滞っていたことも加わって過密日程を余儀なくされた。タイトル戦は地方会場への遠征を伴うので、移動日を勘案するとほとんど休みなしである。
永瀬二冠は前々日に叡王戦第1局、千日手指し直しで深夜に及ぶ戦いであった。5日前にも竜王戦1組ランキング戦を戦っている。2日後には竜王戦の1組4位決定戦、4日後には王将戦二次予選という超過密日程である。
藤井七段も2週前に棋聖戦の準決勝から五番勝負第1局を戦い、3日前に竜王戦3組決勝の師弟対決があった。さらに2日後にはB2順位戦の開幕戦、5日後に棋聖戦第二局と、永瀬二冠に劣らぬ過密日程である。
先日行われた棋聖戦挑戦者決定戦は、相掛りから飛車交換となり、いきなり難解な終盤戦となった。永瀬二冠がやや指しやすい将棋のようだったが、らしくない攻め急ぎで藤井七段の逆転タイトル挑戦となった。
叡王戦第1局の千日手局も、永瀬叡王やや指しやすいとみられていて、AI評価値でも優勢を保っていたのだが、あっけなく千日手が成立した。千日手歓迎の棋風なので永瀬らしい戦いだったが、指し直し局で後手番となり敗れてしまった。
今回は振り駒の結果、藤井七段の先手番。角換わりから、永瀬二冠の得意戦法である早繰り銀で挑んだ。永瀬も早繰り銀で応戦、ともに相手の守りの銀を壁銀に追い込んで玉の薄い戦いとなった。
持ち時間4時間なので、夕食休憩がなく午後の戦いが長い。午後6時を過ぎるまで膠着した争いが続き、AI評価値も55対45以上には開かない接戦となった。栄養ドリンクを盛んに消費する永瀬二冠には、2日前の影響が感じられた。
先攻したのは永瀬二冠。序盤で9筋の歩を突き越し、桂馬も7三から8五と飛び出していただけに端攻めは必然だったが、馬を作られた後の藤井七段の6七桂打ちが手厚かった(下図)。勢い、永瀬二冠は飛車を切ることとなり、ここで評価値が開いた。
解説席ではもっぱら7六歩から8五飛、さらに8六歩と打ったら飛車がどうするかという見解だったが、7七に空間ができない分、桂で追った方が守りが堅い。飛車の逃げ場所によっては、5五に跳ぶ狙いもある。
さらに6七桂のすばらしいところは、飛車がいなくなった後も馬の展開をけん制したところで、結局藤井陣は終局まで安泰。最後は、中盤の接戦からみて意外なほど差が開いてしまった。
永瀬二冠にとって挑戦者決定戦での連敗は痛いが、考えようによっては叡王・王座の防衛戦とB1順位戦に集中できる訳だから、気を取り直して立て直しを図りたい。両者とも、準備期間の少なさは影響したはずだからである。
藤井七段は棋聖戦・王位戦のダブル挑戦となり、7月以降の超過密日程は避けられなくなった。王位戦七番勝負で待つのは「千駄ヶ谷の受け師」木村王位。最年少タイトル挑戦者と最年長タイトル獲得者、受け師対詰将棋絶対王者の対照的な戦いとなる。
いまの藤井七段に七番中4番入れるのは至難の業だが、木村王位の指し手は四強とは波長が違うし、いつものように時間いっぱい使って面食らう場面がないとはいえない。スケジュールのきつさもあるので、結構おもしろい勝負になるかもしれない。
王位戦挑戦者決定戦は、棋聖戦に続き永瀬vs藤井戦。相早繰り銀からじりじりした戦いが続いたが、終盤で藤井七段の6七桂打が手厚かった。
[Jun 23, 2020]
LINK