昔いただいた初段免状。大山・中原時代・・・。

第79期順位戦   第46期棋王戦   第70期王将戦   第92期棋聖戦   第62期王位戦挑戦者は
第79期名人戦   第34期竜王戦決勝トーナメント   第6期叡王戦
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第79期順位戦終了、名人挑戦はさいたろう八段 

第79期順位戦が、3月11日のB級1組を最後に終了した。 今回からB1からC1までの昇級・降級枠が2から3に拡大された。永瀬王座、藤井二冠、高見七段のタイトル保持者・経験者は手堅く、横山七段、高崎七段といった頭ハネの常連もまた昇級を果たしている。

A級順位戦は、2月26日に静岡で一斉対局。この日までに降級二人(三浦九段、稲葉八段)が決まり、挑戦権も斎藤、広瀬の二名に絞られたため、多くの棋士にはそれほどプレッシャーのかからない最終局となった。

挑戦者争いは、夕食休憩後早いうちに決着していた。豊島竜王が広瀬八段を破りともに3敗となったので、慎太郎八段の1位・名人挑戦は確定していた。ただ、将棋界の不文律でその結果は他の対局者に知らされなかったはずで、天彦・慎太郎戦は深夜に及ぶ大熱戦となった。

序盤でリードを奪った慎太郎八段だが、天彦九段も決め手を与えず、先に秒読みに入ったのは慎太郎八段。何度か決め時を逃したけれども、日付が変わってから最後は即詰みに討ち取って8勝1敗で名人挑戦権を獲得した。

斎藤慎太郎八段はネット上では「さいたろう」で通っている。これは、NHKにも出ている中村桃子女流がそう言い間違えたことによるが、本名では堅苦しいイメージがニックネームだとさわやかな外見にマッチするから不思議である。

昨年度のB1で2位に入り、A級に初昇級で名人挑戦となった。近年、A級昇級初年度の活躍が目立っており、5年前の74期には天彦八段(当時)、翌75期には稲葉八段がA級初登場で名人に挑戦している。同列にはできないが、昨年の渡辺二冠もA級復帰即挑戦であった。

B級1組最終局は3月11日に行われ、すでに昇級を決めていた山崎八段に続き、永瀬王座がA級昇級を決めた。

山崎八段は2008年、20代半ばで昇級してから13年間B1に在籍した。その間、次々と後輩棋士に追い抜かれ、今期の順位は11位、つまり今年だったら降級してしまう成績であった。

力戦型を得意とする独特の戦法で、タイトル戦になる前の叡王戦やNHK杯で優勝実績があるにもかかわらずA級昇級を果たせずにいた。本人もいろいろな思いがあっただろうが、今期は開幕から勝ち星を重ね、最終局前に昇級を決めた。

永瀬王座は2期でB1を抜けた。今期は開幕6連勝したもののその後負けが込み、最終局は勝つか木村九段が敗れると昇級という条件だった。四強の一角でA級に入っても実力上位で、今年の慎太郎八段に続いて初A級名人挑戦となっても誰も驚かない。

一方、降級は深浦九段、丸山九段、行方九段とベテランの九段勢となった。丸山九段は前期B2首位で再びB1となったばかり、深浦・行方の両者は2~3年前までA級なので、B2では実力上位と思われる。再度の浮上を期待したい。

B級2組は最終局前に藤井二冠、佐々木勇気七段が昇級を決めた。両者とも今期C1から上がってきたので連続昇級ということになる。B2は以前からこうしたケースが多く、C1と実力差がほとんどないともいえる。昇・降級枠拡大で活性化を期待したい。

最終局は3敗6名と4敗筆頭の谷川九段にチャンスがあった。結果的には順位が最上位で自力昇級可能だった横山七段が勝ち、7勝3敗で3つ目の昇級枠を確保した。

横山七段は第62期、2003年に四段となったがその後長くC2にいて、C1に昇級したのは2014年の73期だった。B2でも昨年、一昨年と次点(3位)、特に昨年は7勝1敗からラスト2連敗で昇級を逸していた。3年連続3位で、昇級枠拡大のチャンスを生かした。

C級1組からは高崎七段、増田六段、高見七段の三名が昇級。最終局で自力だった高見七段が敗れたものの、ライバルの船江六段も敗れて辛くも残り1枠を確保した。

高崎七段は2006年四段プロデビューで、4期でC2を抜けたもののC級1組に10期在籍した。これまで順位の差で昇級を逃すことが多かったが、今回は10連勝で文句なしの昇級となった。

増田六段はC2・C1とも3期で抜けた。藤井二冠と比較するから平凡な記録に見えてしまうが、まだ20代前半の若さであり、ますますの成長が期待される。高見七段はご存じタイトル経験者(叡王一期)。再度タイトル戦線への浮上を果たしたい。

C級2組は従来から3名の昇級で、黒田四段が最終局前に、出口四段、大橋六段が最終局で勝って昇級(黒田・出口は五段昇段)を決めた。黒田・出口は2019年デビューの同期で、黒田は昨期好成績で順位がよく早々と昇級を決めたのに対し、出口は昨期降級点で最終局負ければ昇級を逃すところだった。

大橋六段は藤井二冠と同じ2016年(前期)三段リーグの勝ち上がりで、藤井キラーとして知られている。すでに勝ち星と竜王戦連続昇級で六段まで昇っており、他棋戦の成績もすばらしい。連続昇級有望だろう。

第79期名人戦七番勝負は、4月7~8日、ホテル椿山荘(東京)でスタートする。

第79期順位戦最終局、斎藤慎太郎八段は実は夕食休憩後早々に挑戦が確定していたが、日付が変わるまでの激戦で佐藤天彦九段を破り8勝1敗でA級昇級初年度で名人挑戦を決めた。▲8三歩が決め手で、金で取れば▲5四歩で飛車角が働くし、放置すればと金ができる。


[Mar 18, 2021]


第46期棋王戦、渡辺棋王タイトル9連覇 

第46期棋王戦五番勝負(2021/2/6-3/17)
渡辺明棋王 O 3-1 X 糸谷哲郎八段

第1局を糸谷八段が制した時はバージョンアップなったかと思われたのだけれど、第2局から渡辺が3連勝で終わってみればあっさり防衛。渡辺はこれで棋王9連覇となった。ちなみに、棋王戦の最長記録は羽生永世棋王の12連覇である。

この両者の対戦成績は番勝負前の段階で渡辺15勝、糸谷5勝。王将戦の渡辺・永瀬同様に大差で渡辺棋王がリードしている。糸谷八段には申し訳ない言い方だが、番勝負で渡辺名人・棋王に勝てるイメージが思い浮かばない。

永瀬王座なら、展開がはまれば何とかするかもしれないという期待があるけれども、糸谷八段では一つ二つは入れられるかもしれないがそれ以上は無理と思わざるを得ないし、事実そのとおりの展開となった。

糸谷八段は早指しのイメージがあるけれども最近スタイルを変えていて、「時間の使い方に注目してほしい」とのコメントがあったように糸谷の消費時間の方が多かった場面もみられたのだが、空回りしてしまったようだ。

第1局では渡辺棋王有利の将棋からうやむやの展開に持ち込み、最後は逆転で幸先いい一勝をあげた。なるほどイメージチェンジと思ったのもつかの間、締めてかかった渡辺棋王に第2局から3連勝されてしまった。

王将戦でも触れたように、渡辺棋王は自分より若い相手との番勝負に絶対的に強く、敗れたのは藤井二冠だけである。これでタイトルは28期となり、羽生・大山・中原に次いで単独4位となった。しかし、次の中原十六世名人が64期なので、いまの倍獲ってもまだ届かない。

渡辺名人・棋王の持ち味は何といっても攻め。細い攻めを繋げることには定評があり、一度踏み込んだら容易に切れない。そのタイミングがまたすばらしく、分かっていても受けきれないというケースが多い。

課題があるとすれば棋戦によって得意・不得意が極端に分かれることで、竜王・棋王はかなり前に永世資格を取っているにもかかわらず、名人はいまが初めてだし、王位はまだとっていない。王座・棋聖も1期だけである。

LIVE中継を見ていると、どうも花粉症の時期が苦手のように見えるのだが、あるいは競馬のクラシックシーズンはいろいろ気が紛れるというのがあるのかもしれない。次の名人戦もきっちり防衛しそうだ。

敗れた糸谷八段。基本的に受け将棋なので、事前研究よりも実際の対局でどうやって自分の土俵にひきずり込むかが重要となるが、その前に相手の攻めが筋に入ってしまうケースも少なくない。これからますます若手が台頭してくる中で、タイトル戦線に再浮上するのは容易ではない。

関西勢躍進のキーとなった一人であるが、竜王を獲ったあたりで伸びが止まってしまったような印象がある。兄弟子の山崎八段同様に力戦が得意だが、山崎ほどの独創性がないのが難点ではある。再度の奮起を期待したい。

渡辺棋王は来期区切りの10連覇が懸かる。永瀬王座がベスト16から、藤井二冠も本戦シードされるので、この両者が次期挑戦者の本命・対抗であることは間違いないだろう。今年同様王将戦とのダブルスケジュールとなるので、渡辺棋王にとっても試練となりそうだ。

第46期棋王戦五番勝負、第1局を逆転負けした渡辺棋王だが、その後は攻めが止まらず3連勝で防衛、タイトル9連覇となった。第4局は両端を突き越されながら5六歩打が急所。▲同歩は△3九角、▲同馬は△5二飛で、どう受けても先手陣が崩れる。


[Mar 23, 2021]


第70期王将戦、渡辺王将4-2で永瀬王座を退ける 

第70期王将戦七番勝負(2021/1/9-3/14)
渡辺明王将 O4-2 X 永瀬拓矢王座

第70期王将戦は、激戦の挑戦者決定リーグを永瀬王座が勝ち上がった。四強同士の番勝負であり、2020年叡王戦同様の激戦が予想されたのだが、意外にも渡辺王将が第1局から3連勝、早々と防衛に王手をかけた。

もともと渡辺王将は永瀬王座に相性がよく、七番勝負開始前で渡辺10勝、永瀬3勝、1千日手と差が開いていた。通算勝率7割を超える永瀬王座にしては意外な大差で、内容的にも渡辺王将が一気に攻め勝つ将棋が多い。

そして、渡辺王将にとって課題であると思われた棋王戦とのダブルタイトル戦だが、棋王戦が始まる前の1月中に3-0と差を開いたことも大きかった。2月には棋王戦が始まるが、永瀬王座もA級が懸かる順位戦の大詰めで、両者ともスケジュール的に余裕がない。

さすがにストレートとはいかず、第4局は永瀬王座が完勝した。角道を止めて急戦を回避してから時間差で矢倉に組み、飛車が動いた後の左辺を制圧して渡辺王将から久々の勝利となった。

この前後は渡辺王将がハードスケジュールで、前の週に棋王戦で糸谷八段に、2日前に朝日杯で藤井二冠に敗れて臨んだ第4局だった。特に、2日前の藤井二冠戦は持ち時間の短い将棋にはもったいない大熱戦で、おそらく疲れも残っていただろう。

第5局も永瀬王座の研究手順だったようで比較的短手数で勝負がつき、第6局が正念場と思われた。渡辺王将は前の週に棋王戦第3局、棋聖戦本戦があって中2日のスケジュール、永瀬王座はB1最終局から移動日を挟んでの対局である。A級昇級の懸かった大事な一局から翌々日の対局はきつい。

そして迎えた第6局はなんと千日手指し直しとなる。後手番の渡辺王将が主導して千日手の手順に持ち込んだのだが、まあ後手番であればそういう考え方はある。ただし、千日手は永瀬挑戦者の土俵という見方もあるから、成り行きが注目された。

しかし、さすがに渡辺王将、千日手局に続く角換わりで、封じ手前後に決行した端攻めが止まらなかった。永瀬王座もあえて金を取らせる受けで意表を突いたかに見えたが、得意の泥仕合には持ち込めなかった。

渡辺王将は36歳。名人、棋王でもあるので現在三冠である。番勝負に圧倒的に強く、ここ3年程で番勝負で敗れたのは昨年棋聖戦の藤井七段(当時)だけ、その前となると2017年の竜王戦で羽生永世七冠に敗れた時まで遡らなくてはならない。

特筆すべきは自分より若い対戦者との番勝負では、藤井二冠以外誰にも負けていないということである。まだ全然老け込むような年齢ではないし、現在の名人でもある。無人の野を行くが如き藤井二冠の前に立ちふさがってほしいものである。

※ 王将戦は棋譜利用ガイドラインによりブログでの棋譜利用が認められていないため、残念ながら途中図を掲載いたしません。

[Mar 19, 2021]


第92期棋聖戦、渡辺名人逆転でリターンマッチへ 

第92期棋聖戦挑戦者決定戦(2021/04/30)
渡辺明名人 O - X 永瀬拓矢王座

昨年までは名人戦と棋聖戦の間に叡王戦があったのだが、主催者交代のどさくさで開催時期がずれたようだ。昨年はコロナのあおりを受けて準決勝以下1週間で番勝負までやってしまった棋聖戦、今年はきちんと間隔をとってトーナメントが進行した。

準決勝には前棋聖の渡辺名人、四強の一角永瀬王座に対して、山崎隆之八段、中村太地七段が残った。山崎八段はA級昇格の余勢を駆って、中村七段は王座失冠以来のタイトル戦登場なるかと期待されたが、四強の壁は厚く、渡辺・永瀬という見慣れた対戦となった。

注目されたのは対局日である。4月30日というのは、渡辺の名人戦第2局から中1日である。第2局の対局は福岡だったから、前日は移動日である。準備期間なしで挑戦者決定の大一番ということになる。

まして、名人戦第1局で渡辺は逆転負けを喫している。悪い流れを引きずらないためにも、先手番の第2局はきっちり勝ちたい。となると、事前研究の多くは名人戦の準備に費やされたはずで、加えて第3局は4日後の5月4~5日。渡辺名人やや厳しい日程といえた。

かたや永瀬王座。名人戦と同日に王位戦リーグの佐々木大地戦が組まれていたものの、スケジュールには余裕があり、渡辺名人と比較してこの1局に集中して準備できるアドバンテージがあった。

4月30日、振り駒の結果渡辺名人の先手番。両者飛車先を突いて相掛かり。しばらく前まで来る日も来る日も角換わりだったが、このところ相掛かりの戦いが増えている。ちなみに、両者とも直近の対局が相掛かりだった。

後手横歩取りから渡辺名人の6六角と出た手に永瀬が食いつき、攻勢をかける。研究手順だったようで持ち時間をそれほど使わずに進み、一時は評価値で80%:20%と差が付いた。永瀬王座リードである。

ところが、夕方頃から形勢が混とんとなる。永瀬王座は何度か決め手を逃し、自陣に手を戻す間に渡辺名人は5三の地点に戦力を集中する。下図は歩切れの名人に永瀬が2四香と飛車取りをかけ、2五桂とがんばった局面。

このあたりではまだ後手が60%:40%で優勢だったが、この後とうとう逆転。渡辺玉は左辺に逃走し、永瀬は5三を突破された。永瀬としては、得意の粘りこみではなく攻勢をかける展開となったことが誤算だったかもしれない。これで両者の対戦成績は渡辺16勝・永瀬5勝と差が広がった。

渡辺名人としては、序盤では準備の差が出たのか先手番にもかかわらず引き離されたものの、中盤以降決め手を与えずに逆転したのはさすが。対若手に絶対の強さを改めて見せつけた。

その渡辺が、若手で唯一負け越しているのが藤井棋聖である。1年前以来の番勝負でダイレクト・リマッチ。渡辺としては、なるべくなら名人戦を長引かせず、棋聖戦に集中して臨みたいところだろう。

夕方には永瀬王座が80%:20%でリードしていた局面から、渡辺名人が懸命に粘る。歩切れを突かれた△8四香に▲8五桂で受ける。この場面ではまだ後手優勢だが、この後とうとう逆転して藤井棋聖とのリターンマッチへ。


[May 5, 2021]


第62期王位戦、挑戦者は豊島竜王

第62期王位戦挑戦者決定戦(2021/5/24)
豊島将之竜王 O - X 羽生善治九段

第62期王位戦リーグは大混戦だった。予選から勝ち上がったメンバーが強力だったことに加え、澤田真吾七段、佐々木大地五段が大健闘、紅組・白組とも4勝1敗者が単独優勝という結果となった。

ここ数年の王位戦リーグでは、5戦全勝の勝ち抜けが多かった。4勝1敗だとプレーオフ、3勝2敗ではリーグ陥落が普通で、4勝1敗で単独優勝、3勝2敗で残留というのは珍しい。

また、王位戦リーグは前期順位より直接勝敗が優先されるので、3勝2敗の同星ながら前王位の木村九段、前期挑戦者決定戦に残った永瀬王座が陥落という結果となった。

残留したのは決定戦進出の両者と澤田七段、佐々木大地五段。澤田七段は第58・59期に続き、大地五段はリーグ4期目で初の残留となった。ともに、王位戦はたいへん相性がいい。

挑戦者決定戦に残ったのは、ともに王位経験のある豊島竜王と羽生九段。豊島竜王は叡王でもあり現在二冠、羽生九段はタイトル99期で足踏みしているが昨年の竜王挑戦者、もちろん永世王位である。

振り駒の結果羽生九段の先手となり、相矢倉となる。羽生九段は1筋を突き越し、豊島竜王は香を9二に上がって雀刺しの気配をみせる。羽生が歩を突き捨てて先攻するが、豊島がっちり受けて隙を見せない。

羽生が1四に香を上がったあたりからの豊島の指し回しが絶妙だった。羽生の飛車を攻めて、ついに逃げる場所をなくしてしまうのである。相手の攻め駒を攻めるのは昨年十番勝負を戦った木村九段の得意技である。

飛車を取った後は敵陣を攻めずに1筋に香、飛を成り込み、入玉を阻む駒がない状況を作り上げた。長手数も持将棋もどんとこいというのは、木村九段だけでなく昨年九番勝負を戦った永瀬王座の独壇場である。

こうしてみると、昨年大苦戦を余儀なくされた両雄の得意技を吸収し、さらに芸域を広げたようにみえる。さすが豊島竜王、名人を獲り竜王を獲り、さらに上昇している。

これで、来月から藤井王位との七番勝負である。藤井王位は渡辺名人を挑戦者として迎える棋聖戦五番勝負とのダブル日程となり、2日制ということもあってスケジュールはきついことになる。

藤井二冠について、昨年度の勝率8割は難しいと予想したのだが、あっさり達成してこれで連続4年8割である。その原動力のひとつとなったのは、棋聖戦・王位戦のダブルタイトルで7勝1敗だったことが大きい。

だが、さすがに今年は7勝1敗で通過するのは難しいだろう。まして、豊島竜王が長手数にも習熟してくるとなると、時間がなくなることの多い藤井二冠にとって厳しい展開となることもありうる。

王位戦七番勝負は6月29・30日、名古屋市で開幕する。

第62期王位戦挑戦者決定戦は、相矢倉から豊島竜王が1筋を突破、入玉を確定して羽生九段を投了に追い込んだ。木村九段、永瀬王座と激闘を繰り広げる間に、芸域を広げたことを示した。藤井二冠との決戦が楽しみ。


[May 28, 2021]


第79期名人戦、渡辺名人初防衛

第79期名人戦七番勝負(2021/4/7-5/29)
渡辺 明名人 4-1 斎藤慎太郎八段

タイトル獲得実績は単独歴代4位である渡辺名人だが、名人の防衛戦は初めてである。かたや、A級参加初年度で挑戦権を手にしたさいたろう八段、フレッシュな対決となった。

第1局、渡辺名人優勢の局面から斎藤八段の驚異的な粘りがあり、いつの間にか形勢不明となり、最後は逆転で斎藤八段が幸先いい1勝をあげた。これで面白くなるかと思われたが、第2局から4連勝で渡辺名人が初防衛を果たした。

この中でカギになる対局となったのは、第4局と思う。渡辺名人の先手番で迎えた本局、名人勝てば防衛まであと一勝に迫り、斎藤八段が勝てば2勝2敗と振り出しに戻る。矢倉模様の出だしから、難解な中盤戦が続いた。

Abemaで見ていると、2日目の午後まで50%:50%という評価値が続いた。評価値50%というのは、双方最善を尽くせば千日手を意味することが多い。

とはいっても、画面に現れるAIの読み手順10手くらいでは全然千日手にならない。数十手先の千日手を読むことは、おそらく人間には無理である。

と、ある時点で、評価値がいっぺんに渡辺名人に振れた。50%から60数%まで動いたと記憶している。とはいっても、斎藤八段が疑問手を指したわけではなく評価値上位3手くらいの中だったし、名人も絶妙手を指した訳ではない。

察するに、ベスト以外の手順を選ぶとこの時点で千日手にならなくなったということではないかと思う。以降も、渡辺名人はAI推奨の一手は指さないのだが、人間として指しやすい手順を選び、優勢を拡大した。

下の局面では名人すでに97%の勝勢である。しかし、Abema解説の藤井猛九段によれば、「97%って言われたって、私なら勝てませんね。絶対間違える」ということである。いずれにせよ一手違いで、先手の玉は極端に狭い。

ただ、この時点で斎藤八段が秒読み(残り10分以内)だったのに対し、渡辺名人は20分以上残していた。まず飛車を取り(7二に打った金を玉で取ると詰む)、その飛車で王手して8七のと金を取って大勢が決した。

その手順はAI推奨の最短勝ち手順ではなかったものの、確実な勝ち筋であり、紛れの余地もほとんどない。人間対人間の対局では、最短手順が必ずしも最善ではないという好例だと思う。

この激戦を制して3勝目をあげた渡辺名人は、続く第5局も勝ち、4勝1敗で初防衛を果たした。若手相手に抜群の安定感があり、番勝負ではほとんど負けていない。ただ一人負けている相手が藤井二冠で、これから棋聖戦のリターンマッチが始まる。

名人としては、タイトル戦が重なることになるスケジュール面での課題がなくなったのは何よりのことで、6月早々に始まる棋聖戦に集中することができる。棋王戦、王将戦、名人戦と3タイトル防衛を果たして、間違いなく期するものがあるだろう。

藤井二冠は棋聖戦と王位戦のダブルタイトル戦となることに加えて、並行してB1順位戦、竜王戦決勝トーナメントも戦わなければならない。このクラスまで上がってくると楽な相手などいない。まさに、試練の時である。

第4局は終盤まで難解な激戦だった。下の局面でAbema解説の藤井猛九段は「97%(評価値)でも私が先手なら勝てないですね」と言っていた。AI推奨の6三金とは違ったが、▲7二金から飛車を取って渡辺名人が初防衛に前進。


[Jun 4, 2021]


第34期竜王戦、決勝トーナメント開始

今年も竜王戦決勝トーナメントの時期がやってきた。ここ数年そうだが、注目を集めるのはやはり藤井聡太二冠である。

今年もランキング2組で優勝、これでデビュー以来5年連続ランキング戦優勝である。おそらく空前絶後、今後破られることのない記録ではないかと思われる。(天彦九段も5年連続昇級だが、連続優勝はしていない。)

それでも、過去何人かが達成している下位組からの決勝トーナメント突破は果たせていない。昨年は緒戦で丸山九段の角換わりに敗れてしまった。持ち時間の長い将棋は得意にしているのだが、妙に相性がよくないのが不思議である。

今年も、最初に当たる1組3位は山崎隆之八段である。独特の手将棋であり、何年か前に一度敗れている。A級初昇級で気をよくしており、緒戦からかなりの難関である。

加えて問題となるのは、保持するタイトル、棋聖と王位の防衛戦とスケジュールが重なることである。棋聖戦は渡辺名人、王位戦は豊島竜王と最強の挑戦者が勝ち上がってきた。竜王戦だけに集中という訳にはいかないのが厳しいところである。

藤井聡・山崎戦の勝者は、久保九段、八代七段、三枚堂六段の勝者と挑戦者決定三番勝負を懸けて争う。2組優勝者は1組の2~4位と同条件で2つ勝てば挑戦者決定戦となるが、やはり山崎戦が関門になるだろう。

もう一つの山はランキング戦5・6組優勝者から始まるパラマス方式。昨年は5組の梶浦六段が連勝して挑戦者決定戦まであと1番に迫ったが、1組1位の羽生九段に敗れた。羽生九段はそのまま挑戦者決定戦を制して挑戦者となった。

その梶浦六段は、今年も4組を制して決勝トーナメントに顔をみせている。藤井二冠のようにデビューしてすぐという訳ではないが、3年連続ランキング戦優勝はたいしたものである。

6組優勝は折田祥吾四段。編入試験を合格して昨年プロ棋士となった。まだフリークラスで順位戦昇格成績を確保していないにもかかわらず、ランキング戦優勝は快挙である。これを機に、早く順位戦に昇格したいところだ。

5組優勝は青嶋未来六段。5年前の6組優勝以来の決勝トーナメント登場である。昨年、プロ入り同期の梶浦六段があれだけ活躍したので、期するものがあるだろう。1回戦を勝てば、同期対決となる。

続く1組5位は、佐藤天彦九段。名人以外のタイトルにほとんど縁がなく、竜王戦でも1組と2組を往復しているが、今年は決勝トーナメントに駒を進めた。以前のような勢いが感じられないのと、あっさり土俵を割るような将棋が多いのが気になる。最近は振り飛車も指す二刀流だ。

1組4位は羽生九段。4位決定戦で木村一基九段を激戦で下して今年も決勝トーナメントに進出した。タイトル99期で足踏み状態だが、今年は王位戦でも挑戦者決定戦まで駒を進めた。四強以外にはまだまだ遅れはとらない。

最後に1組1位で登場するのが、永瀬王座である。1組決勝では、捌きのアーティスト久保九段との対戦。昨年王座戦五番勝負の再戦となったが、隙を見せずに完勝した。

12年で7度の決勝トーナメント進出は、藤井二冠は別格としてきわめて優秀な成績。1組優勝はこれが初めて、1組1位の特権として1つ勝てば挑戦者決定戦となる。

王座の防衛戦前には決着しそうなのと、相性のよくない渡辺名人がいない点でも恵まれており、決定戦で対藤井二冠ということになれば、藤井二冠は四強の残り3者と同時期に番勝負を戦うことになる。

第34期竜王戦決勝トーナメント。注目は5期連続ランキング戦優勝の藤井二冠だが、決勝トーナメントで勝ち運に恵まれないのが気になるところ。


[Jun 9, 2021]


第6期叡王戦・藤井二冠、豊島竜王と十二番勝負へ

第6期叡王戦挑戦者決定戦(2021/6/26)
藤井聡太二冠 O - ⅹ 斎藤慎太郎八段

開始以来5年でドワンゴが撤退、叡王戦は主催者が不二家に代わりタイトル序列も3番目から6番目に格下げとなった。

本戦も24名参加から16名参加に減り、当然ながらニコ動の中継もなくなった。Abemaの中継は続くけれども、Abemaトーナメントと両方続けるのはいずれ難しくなりそうだ。

本戦は昨年ベスト4以上のシード棋士と、段位別予選を突破して12名により戦われた。ベスト4に残った中で、2年連続は佐々木大地五段のみ。あとの3人は段位別予選からの勝ち上がりとなった、

準決勝第1局は、佐々木五段と八段予選を勝ち上がった斎藤慎太郎八段。慎太郎八段は今年名人戦の挑戦者となっており、本戦2回戦では渡辺名人に雪辱を果たした。佐々木五段にも完勝して挑戦者決定戦に進んだ。

準決勝第2局は、やはり八段予選を通過した藤井二冠と、九段予選を勝ち上がった丸山九段の対戦。この一戦、昨年の竜王戦決勝トーナメントで、千日手指し直しで丸山九段が制したいわくつきの一局の再戦であった。

振り駒の結果、藤井二冠の先手。後手番となった丸山九段は、予想通り一手損角換わりに誘導するが、藤井二冠は前回の轍は踏まない。

勝負どころで飛車先の歩を切って2二歩と桂取りに歩を打つ。ここからどうやっても丸山九段に挽回の余地はなかったようで、87手の短手数で藤井二冠が完勝、昨年の雪辱を果たした。

挑戦者決定戦は、昨年までの三番勝負から一発勝負となった。対局日は中3日の6月26日土曜日。準決勝からほとんど間がないのは、藤井二冠のスケジュールが棋聖戦、王位戦。順位戦の過密日程でここしか空かないからであった。

振り駒の結果、斎藤八段の先手番となり、角換わりに誘導する。序盤、下段に引いた飛車を6筋、玉の後ろに動かし、首尾よく6筋の歩を交換する。2筋に飛車を戻しての継ぎ歩攻めが斎藤八段の工夫であった。

下の局面の2四銀打ちが意表を突く手で、3五歩、同歩、3四歩に持ち込む展開になればよかったのだが、さすがに藤井二冠それは許さない。AIの評価値では途中65%:35%で斎藤八段有利の局面もあったのだが、特に疑問手もないのに数手先には五分に戻った。それだけ難解な将棋だったのだろう。

結局、斎藤八段は1筋の歩を伸ばしたのだが藤井玉に3一に逃げられ、2四に打った銀が活躍する場面のないまま、藤井二冠が薄い斎藤陣を攻略して挑戦者決定戦を制した。

これで、叡王タイトルを持つ豊島竜王とは、王位戦と並行して十二番勝負となった。藤井二冠が負け越している数少ない棋士のひとりが豊島竜王であり、これから9月までの短期間に少なくとも7局戦わなくてはならない。6年連続勝率8割に向けて、試練の時といえるだろう。

豊島竜王には、タイトル挑戦に強く防衛戦に弱い傾向があるのと、持ち時間の長い将棋で長考すると疑問手を指すというジンクスがある。叡王戦は持ち時間が短縮されてタイトル戦でもチェスクロック4時間なので、その点では懸念材料が少なくなるかもしれない。

第6期叡王戦挑戦者決定戦、斎藤八段は6九飛から趣向をみせ、2筋の歩を切って2四銀と勝負をかけたが、藤井二冠が危なげなく受けきった。

[Jun 29, 2021]

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