昔いただいた初段免状。大山・中原時代・・・。

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第92期棋聖戦、藤井棋聖ストレートで初防衛

第92期棋聖戦五番勝負(2021/6/6-7/4)
藤井聡太棋聖 3-0 渡辺 明名人

渡辺名人が勝ち上がり、直接のリターンマッチとなって注目された第92期棋聖戦五番勝負、藤井棋聖が3連勝で、あっけなく初防衛を果たした。藤井棋聖(二冠)は、これでタイトル初防衛と九段昇段の最年少記録を更新した。

それより注目すべきは、渡辺名人がタイトル戦でストレート負けを喫したのはこれが初めてということだと思う。棋王戦、王将戦、名人戦と若い相手に圧倒的な強さをみせた渡辺名人だが、藤井棋聖を苦手としているようである。

しかも、第1局、第3局と先手番で、作戦選択ができたにもかかわらずである。第3局はお互い秒読みで、最後は指運が結果を左右したように思われるが、第1局は渡辺名人の完敗であった。

下図が第1戦の途中図で、名人が8筋で飛車取りをかけた場面である。通常、この手は利く(手抜けない)はずというのが普通の感覚であるが、藤井棋聖は手抜けると考えた。そして、△8八歩と打ったのである。

△8八歩自体は手筋なので、渡辺名人も当然見えていたはずだが、この場面でというのは予想外だったようだ。インタビューで「見えなかった」と言っている。実際、この歩を銀で取っても、初志貫徹で飛車を取っても、先手は一手遅いのである。

第2局は藤井棋聖の先手番。相掛かりから角交換となり、お互いに筋違い角を打ち難解な中盤戦が続く。171手に及ぶ激戦を制したのは藤井棋聖で、連勝で初防衛に王手をかけた。

第3局は矢倉の急戦となり、後手の藤井棋聖は早々に△7二飛と動く。△7二飛が採用された直近の実戦は2日前の八代・三枚堂戦(竜王戦)で、藤井棋聖はこの日王位戦だった。1日しかない準備期間でここまで研究するというのはすごい(渡辺名人の先手番なので、矢倉になるとは限らない)。

途中、残り時間の差が1時間となり、しかも藤井棋聖は秒読み。形勢は二転三転し、最後はお互い1分将棋となる。飛車を切って攻めた渡辺名人がリードした場面もあったのだが、最後は藤井棋聖が逆転して3連勝、初防衛を果たした。

藤井棋聖もコンピュータではないので、攻め合って1手勝ちの場面は1分将棋で指せなかったが(ABEMA解説の阿久津八段が詰めろ逃れの詰めろを発見した)、それでも負けにくい手を指し続けていたように見えた。

逆に渡辺名人は、すぐに見えるはずの王手銀取りの桂打ちや、角を移動させての飛車成りをせず、飛車を切って最短距離の勝ちを目指した場面がポイントだった。感想戦でも、「飛車を切って勝ちだと思ったけど、錯覚だった」と言っていた。

渡辺名人は、半年間続いたタイトル連戦がこれで一段落。来年初めの棋王戦・王将戦までしばらく充電期間となる。ともに、藤井二冠が勝ち上がってくる可能性がかなりあるので、きっちり準備して巻き返してほしいところだ。1勝7敗というのは、藤井二冠が相手とはいえ偏りすぎである。

一方藤井棋聖は、いままさに豊島竜王と王位戦・叡王戦の十二番勝負中。B1順位戦と竜王戦決勝トーナメント、王将戦二次予選もあるので、今後は過密スケジュールを余儀なくされる。2日置いて火曜日にはさっそく順位戦(対久保九段)、3日置いて土曜日には竜王戦(対山崎八段)、さらに中2日(前日入りなので実質中1日)で来週13・14日には王位戦第2局がある。

渡辺名人のリターンマッチで注目された第92期棋聖戦、第1局は相掛かりから華々しい空中戦となったが、藤井棋聖の8八歩が渡辺名人曰く「見えなかった」。飛車取りを手抜いたこの手が利くという読みで、実際に▲8一香成△8九歩成となると先手は一手遅い。


[Jul 6, 2021]


第69期王座戦、挑戦者は木村九段 [Jul 21, 2021]

第69期王座戦挑戦者決定戦(2021/07/19)
木村一基九段 O- X 佐藤康光九段

第69期王座戦挑戦者決定トーナメントは、序盤から波乱の展開となった。

オールスター戦の要素が濃い王座戦は、タイトル保持者が本戦トーナメントにシードされる。本戦は16名スタートなので4勝すれば挑戦者であり、持ち時間が5時間と長いこともあって、実力者に有利なトーナメントとなっている。

にもかかわらず、番狂わせが起こりやすいのが近年の特徴である。中村太地七段がB2ながら羽生永世王座からタイトルを奪取したのは四年前だし、中村から奪取した斎藤慎太郎、慎太郎から奪取した永瀬現王座ともA級に上がっていなかった。

今年もそうした傾向は残っているのか、四強の豊島竜王、渡辺名人、藤井二冠が3人とも2回戦までで姿を消した。ベスト4に残ったのは、佐藤康光会長九段、木村九段、飯島栄治八段、石井健太郎六段である。

飯島八段は昨年度32勝13敗の好成績で、NHK杯にも成績優秀者としてシードされた。「この歳になって成績優秀者でシードされるとは・・・」とインタビューに答えていたけれど、王座戦も好調。二次予選を突破し、本戦では久保九段、深浦九段と連破してベスト4に進んだ。

石井六段は3期前にC2からC1に昇級して以来好調が続いている。C2では9勝1敗で昇級を逃すという不運があったが(その年は藤井現二冠が全勝)、今期王座戦では一次予選、二次予選と突破して、本戦では稲葉八段、渡辺名人に勝って堂々のベスト4入りである。

準決勝第1局は、佐藤会長対飯島八段。先手番の康光九段は向かい飛車を採用しての対抗形となったが、例によって見たことのない陣形。飯島八段が攻勢をとったかに見えたが、会長は自在の指し回しでいつの間にか1九に玉が移動して穴熊のような堅陣。

こうなると会長のペースで、最後は飯島八段の攻めを見切って逆襲、決勝進出を決めた。飯島八段が勝てば自身初の挑戦者決定戦進出だったが、会長の壁は厚かった。

準決勝第2局は、木村九段対石井六段。後手となった石井六段が、相掛かりから1筋・9筋を動いて先攻するが、木村九段が落ち着いて対応。玉飛角接近の悪形から玉頭の6筋を逆襲、石井六段の攻め駒を働かせず完勝した。

挑戦者決定戦は康光九段対木村九段のベテラン対決。振り駒の結果、康光九段の先手番となった。またもや見たことのない序盤になるかと思いきや、矢倉急戦模様から右玉という会長にしてはオーソドックスな戦型となった。

先手が九筋の位を取れば、後手は中央の位を取って対抗。ただ、右玉で薄い分、駒組が進めば後手十分となる雰囲気で、康光九段は桂頭から苦しい攻勢をかけざるを得なくなった。

こうなると、千駄ヶ谷の受け師、木村九段のペースである。清算して自玉を安全にすると、先手玉の玉頭に殺到、逆転を狙った康光九段の猛攻をしのいで逃げ切った(AbemaAIによると即詰みを見逃したようだが)。

さて、この一局、終盤であわや逆転という場面があった。下図の局面で、角のタダ捨てが決め手かと思われたのだが、実はこの時、評価値は逆転していたのである。(ありがたいことに、王座戦では1図面の引用が可能である。王将戦と違って普及に志がある)

とはいえ、AI推奨の最善手はタダの角を取らない3九玉で、Abemaを見ながら「人間には指せないよ」と言ってしまったくらいである。角を取れば後手も2六飛で角を取って、次に王手飛車取りの3七角があるから先手はもう一手かけなければならない。実際そうなって、後手勝勢となった。

木村九段も、3七への角打ちでは意外と難しいとみて2六角打ちをひねり出したものと思われるが、3七に来るのが馬でも難しかった訳である。ただ、時間とともに評価値は50%:50%に近づいたから、双方最善で千日手だったかもしれない。

康光九段は大山十五世名人以来35年ぶりの会長職タイトル戦登場なるかと思われたが、惜しくも敗れた。得意の見たこともない陣形にならなかったのは残念だが、久々のタイトル戦まであと一歩まで迫ったのはさすがA級棋士である。

木村九段は昨年失冠の王位戦以来、1年振りのタイトル戦登場。今回の王座戦は本戦スタートで、決勝までずっと若手相手を堅実に勝ち上がった。こういうケースでは得てして誰かに兜首をあげられてしまうのだが、さすが直近タイトル保持者の実力をみせつけた。

永瀬王座の3連覇がかかる王位戦五番勝負は、9月1日に開幕する。ともに鉄壁の守りを身上とする両者、長手数の戦いとなる可能性がきわめて大きい。

木村九段が2六に打った角のタダ捨てが決め手になったかと思われたが、なんとこの時、評価値は先手有利に振れていた。AI推奨の3九玉は、人間には指せないと思う。多分。


[Jul 21, 2021]


第62期王位戦、藤井王位4-1で豊島竜王を圧倒

第62期王位戦七番勝負(2021/6/29-8/25)
藤井聡太王位 4-1 豊島将之竜王

デビュー4年目にして王位・棋聖二冠の藤井王位。棋聖戦で渡辺名人相手にストレート防衛したのに続き、王位戦でも豊島竜王を4-1で圧倒、初防衛を果たした。防衛戦で7勝1敗、まさに勝率8割男の面目躍如である。

七番勝負の展開を振り返ると、第1局を豊島竜王が完勝して好スタートを切ったものの、第2局は難解な攻め合いを藤井王位が逆転。第3局以降は藤井王位が中盤でリードを奪い、接戦にもならなかった。

これまでの対戦成績では豊島竜王に大きく負け越しており、この王位戦も第1局ではこれまで見たことのないような負け方で、さすがにこの相手では簡単に勝てないと思わせた。

ところが、第5局の勝利で対戦成績を豊島9勝、藤井7勝とほぼ互角にまで挽回している。藤井二冠に9勝している豊島竜王もさすがであるが、ここ数局は内容でも藤井王位が押しているように見える。

下図は防衛を果たした第5局。藤井王位の先手番から相掛かりとなった。8筋から動いた豊島竜王の飛車を攻めて飛車角交換に持ち込み、駒得した銀を攻防の要所に投入、この局面では先手陣に付け入る隙がない。

さすがの豊島竜王も粘る順が見つからない。9七の桂を取っても香で取り返されて1二香成を見せられるし、取らなければ8五桂と飛ばれる。持ち駒は歩しかなく、使える場所が見当たらない。結局、9七歩成、同香までで投了となった。豊島竜王自身、こういう大差負けはほとんど例がない。

とはいえ、並行して行われている叡王戦は2対2で勝負は最終局に持ち込まれている。豊島竜王としては、叡王戦第4局から中1日で秘策を出すよりも、防衛まであと1勝に迫った叡王戦にウェイトを移したのかもしれない。

さて、これもまた並行して進んでいる竜王戦決勝トーナメントでも、藤井二冠は挑戦権まであと1勝に迫っている。永瀬王座と争う挑戦者決定第2局は先手番、ここで勝って挑戦者となれば、再び豊島竜王との七番勝負となる。

竜王戦が始まる頃には叡王戦が決着しているのでタイトル戦同時進行とはならないものの、竜王挑戦となれば合計十九番勝負になる。そして、叡王戦、竜王戦いずれかで獲得なれば最年少三冠達成。もし敗れたとしても、来年・再来年には再びチャンスがやってくることは疑いない。

ここ三十年ほどの将棋界は基本的に羽生時代ということになるが、羽生永世七冠が大山・中原ほどの圧倒的な強さを見せたかと言うと、そうではなかろうと思う。名人も竜王も連続防衛ではなく通算獲得年数による永世資格獲得だし、永世名人では森内に先を越された。

同様に、現在は圧倒的な強さを見せている藤井二冠だが、あと三十年経ってからの評価は、同世代、そしてより若い世代との対決を待つ必要があるだろう。まさに、そういう世代がいま、三段リーグからプロ入りを目指しているさ中である。

第62期王位戦七番勝負、第1局を完敗でスタートした藤井王位だが、第2局から4連勝であっさり初防衛。第5局はまさに「勝ち将棋鬼の如し」で、大差が付いて豊島竜王の投了となった。この場面では、もはや先手陣に攻められる場所がない。


[Aug 26, 2021]


第34期竜王戦、藤井二冠圧勝の連続で挑戦へ 

第34期竜王戦挑戦者決定三番勝負(2021/8/12-30)
藤井聡太二冠 2-0 永瀬拓矢王座

これまでの4年間、決勝トーナメントで敗れて挑戦者決定戦まで進出できなかった藤井二冠、2組優勝の今年、満を持して勝ち上がってきた。決定戦の相手は1組優勝の永瀬王座、四強の一角を占める強敵である。

今年の藤井二冠のスケジュールは決して楽ではなかった。渡辺名人との棋聖戦、豊島竜王との王位戦と並行して決勝トーナメントが進められ、王将戦の二次予選、棋王戦決勝トーナメントも重なった。準備期間がほとんどとれかったはずだが、当り前のように勝ち進んできた。

当然、相手も対藤井ということで研究も念入りで、最近実戦で出たばかりの最新形で臨むことが多い。その中で、勝率8割を軽くクリアしているのだから異次元の強さと表現する他はない。今回の決勝トーナメントも、圧勝の連続であっさり竜王挑戦を決めた。

挑戦者決定三番勝負の第1局は永瀬王座の先手番となり、永瀬は意表を突いて三間飛車に振った。中継を見慣れている方はご存じのとおり、AIは飛車を振った途端に評価値が落ちる。それでも、普通の居飛車ではいまの藤井二冠は崩せないという永瀬の評価かと思われる。

藤井二冠にとって予想した展開の一つだったのか、あるいは通常モードで指しただけなのか、結果的には最初から最後まで評価値は藤井二冠有利のままで、サービスブレイク。幸先よく1勝を挙げた。

第2局は藤井二冠の先手番。選んだ戦型は相掛かり。最近の傾向は飛車先交換を急がないが、それに反して早めに2筋の歩を交換、対して後手が8筋を交換に来た際の7六歩が機敏だった。

後手がこの歩を取れば瞬間的に1歩損で、さらに4筋で突いた歩も取られれば2歩損である。ただし、飛車が逸れれば8二歩が打てるし、桂が9三に逃げれば端歩を伸ばして先攻できる。まさしくそのように進んで、午後早々には藤井二冠が70%の評価値となっていた。

注目すべきは、このあたりまで藤井二冠はほとんど時間を使っておらず、かねてからの研究手順と思われたことである。タイトル戦が同時進行して他の棋戦もあって、家で研究できる時間などほとんど取れないはずなのに、いったいいつ研究しているのだろう。

この歩が取れないで例えば△8四飛、▲4七銀となると、先手と後手を比べると角道を開けた手、4筋に歩と銀を進出させた手と3手先手が多く指した形となる。その分後手に主張できるところがあるかというと難しい。おそらく、昨日今日でいろいろな棋士が研究しているだろう。

挑戦者決定の2局だけでなく、決勝トーナメントの山崎八段、矢代七段戦も藤井二冠の圧勝で、1手違いにもなっていない。まさに「手合い違い」の強さで、現在のところ豊島竜王を除いて、誰も藤井二冠に2割以上の勝率は残せないだろう。

このままで行くと「四強」から「藤井一強」になるのもそう先のことではないように思える。少なくとも、角換わり、相掛かり、矢倉あるいは振り飛車で藤井二冠に勝つのは至難の技である。

今月半ばの叡王戦最終局、来月から始まる竜王戦七番勝負の帰趨を見極めなければならないが、もしかすると来年3月までに藤井二冠は六冠制覇の可能性がある。誰かが快進撃を止めることができるのか、ますます目が離せない。

昨年の棋聖戦、王位戦でも藤井二冠は、永瀬王座を挑戦者決定戦で破って番勝負に勝ち上がり、タイトル奪取に成功している。2度あることは3度あるのかどうか、いずれにせよ竜王奪取に視界は良好である。

第34期竜王戦、挑戦者決定戦第2局。先手番の藤井二冠は相掛かりから飛車先の歩をすぐに交換、後手の歩交換に7六歩と角道を開けた。この歩を取れば8二歩からほとんど一本道で、藤井二冠の序盤研究の深さがうかがわれる。


[Sep 2, 2021]


第6期叡王戦、藤井フルセットを制し三冠

第6期叡王決定五番勝負(2021/7/25-9/13)
藤井聡太王位・棋聖 3-2 豊島将之叡王

これまで相性が悪かった豊島竜王との対戦で注目された叡王戦。藤井二冠がフルセットを制して叡王を奪取、三冠目のタイトルを手にした。

前期までの変動持ち時間から一変、すべて持ち時間4時間のタイトル戦となったが、チェスクロック4時間はすぐに持ち時間がなくなる。今回の番勝負も、1分将棋で差が開いたり逆転するケースが何局かみられた。

この両者の対戦、今回の十二番勝負開始前は藤井二冠の1勝6敗だった。それが、叡王戦第5局までで8勝9敗と、わずか3ヶ月あまりでほぼ五分に戻している。竜王戦七番勝負で逆転する可能性は、かなり大きい。

単純に勝ち負けだけでなく、これまでの対豊島戦では序盤でリードを奪われ、そのまま押し切られるという展開が多かった。王位戦第1局もそのパターンで、やはり豊島には相性がよくないのかと思わせた。

ところが、王位戦第2局で、いつものとおり豊島リードで終盤まで進んだものの、豊島の悪癖ともいえる長考後の大悪手で藤井の逆転勝ち。ここでペースをつかんだ藤井が王位戦第3局、叡王戦第1局と3連勝した。

このまま藤井が三冠に突き進むかと思われた叡王戦第2局、今度は藤井二冠リードから秒読みに追われて逆転負けを喫する。ここできちんと修正するところはさすがで、以降の対局ではできるだけ持ち時間を全部使わず、1分将棋を回避するようにしたようだ。

第3局を藤井、第4局を豊島が制して決着は最終局にもつれ込んだ。振り駒の結果、「と」が3枚出て藤井先手。相掛かりから後手の豊島が動いて、2枚の銀を前陣に繰り出す。玉の薄い相掛かりで速攻を決めれば主導権を握れるが、ここで藤井二冠の指した9七角が機敏だった。

1歩損の代償で得た手得を生かしてせっかく7五に出た銀を6四に下がらされ、以降も7、8筋の戦線と関係ない場所に銀を移動させられ、午後早くから藤井ペースとなった。結局、1手違いにもならず豊島が投了に追い込まれることとなる。

現状の将棋界は4強時代というのが定評だが、今年のタイトル戦をみると対豊島竜王に7勝3敗、渡辺名人に3勝1敗、竜王戦挑戦者決定戦で永瀬王座に2連勝と、4強残り3者に12勝4敗と藤井三冠が圧倒的優位にある。

課題と思われた秒読みへの対応にも成長がみられ、現状すでに藤井一強といっていいかもしれない。藤井三冠は普段の研究でディープラーニング系のAIを使っていると聞くが、AIの使い方でも他の棋士とは違うようである。

AIはディープラーニングにより、1年前のAIに対して勝率8、9割にのぼるほど棋力を向上させている。それを研究に使う藤井三冠も、3年前はC2クラスに勝率8割、1、2年前は一流棋士相手に勝率8割、今年に至っては4強残り3人はじめ超一流棋士に勝率8割、しかも週2局というハードスケジュールをこなしてである。

来月から始まる竜王戦でも、豊島竜王にはかわいそうな言い方だが現状で藤井三冠に勝てる展開が思い浮かばない。まるでAI相手に人間が指しているようである。もちろん、豊島竜王もAIで研究しているのだが、そのAI自体に差があるように思えてくるほどである。

いま現在の藤井三冠の強さを過去の棋士と比較すると、羽生永世七冠、大山十五世名人をすでに超えているように思う。少なくともあと4~5年の間、藤井三冠を番勝負で破る棋士は現れそうにない。

したがって、残り5冠の完全制覇に向けて、ハードルとなりそうなのは棋王戦、王座戦のトーナメントだけではないかと思う。あとの竜王戦、王将戦、順位戦で藤井三冠がつまずくケースは考えにくく、1年でできなかったとしても2年あれば通過するのではないか。

フルセットとなった第6期叡王戦、振り駒で後手番となった豊島叡王は、銀2枚を前線に進め速攻を狙うが、藤井二冠の9七角が機敏でこれ以上攻めが続かない。6四銀と下がらされて、以降藤井ペースとなった。


[Sep 15, 2021]


第69期王座戦、永瀬王座3-1で3連覇

第69期王座戦五番勝負(2021/9/1-10/5)
永瀬拓矢王座 3-1 木村一基九段

四強残り3者が2回戦までに姿を消し、五番勝負に勝ち上がってきたのは木村九段となった。王座も挑戦者も受けに定評があり、超手数の乱戦となることが予想されたが、千日手も持将棋もなく永瀬王座の防衛となった。

第1局こそわずかに優勢の局面から木村九段の強襲を受けて逆転負けしたが、第2局からは3連勝。いずれも相掛かりで、中盤以降優勢を拡大して勝ち切った。

木村九段も2年前の王座戦で豊島王位を破って初のタイトル獲得を果たしているが、初防衛戦で藤井現三冠にストレートでタイトルを奪われている。AIを使って研究するタイプではなく、四強とは力の差ができてしまったかしれない。

まさかそんなことは考えていないだろうが、永瀬王座は相掛かりを指しながら、目の前で対局する木村九段ではなく藤井三冠を意識しているように思われた。第4局で序盤で8二歩を打たせた場面など、対藤井戦で指された手順と重なっていた。

そして、決め手となったのは下図の局面。9一飛の打ち込みに対し、ノータイムで9二角。9一飛を打つまでは自信満々に見えた木村九段がとたんにトーンダウンしたように見えた。

さらに数手後、3八角で角を切って銀を手に入れることはできるのだが、わざわざ6五で途中下車して飛車を8三に成らせてから角を切り、8二銀で飛車竜両取りという手順が秀逸だった。

実はこの手はAIの推奨手なのだが、アベマ解説陣は「角を切るのにわざわざ一手かけて飛車を成らせる手は、自玉も危険になるので指しにくい。ひとり時間差ですね」と解説していた。その手を長考の末指すのは、さすが永瀬王座、四強の一角だけのことはある。

これで王座は3連覇となり、渡辺名人の棋王9連覇に次ぐタイトル防衛回数となった。唯一最大の懸念材料は、藤井三冠との相性がたいへん悪く、突破口を見いだせない状況が続いていることである。

いまの藤井三冠が、番勝負やリーグ戦で後れを取ることは考えにくく、不覚をとることがあるとすればトーナメント戦である。王座戦はまさにそのトーナメント戦で、昨年は予選で大橋六段に、今年も本戦1回戦で深浦九段に敗れている。

率直に言うと、藤井三冠が勝ち上がってくれば4連覇に赤信号ということになるが、たとえ勝率8割男でも4連勝の確率は4割である。そう簡単に勝たせては、他の棋士達の面目にかかわるということになるだろう。

3連覇となった第4局、9一飛を受けた9二角を6五に上がった手が決め手となった。アベマ解説陣は「一人時間差」と呼んでいたが、先に飛車を7三に成らせるのが狙い。角を切って入手した銀を8二に打って竜飛車の両取りとなる。


[Oct 6, 2021]


第34期竜王戦、藤井聡太デビュー5年で将棋界トップ

第34期竜王戦七番勝負(2021/10/8-11/13)
藤井聡太三冠 4-0 豊島将之竜王

満を持して竜王戦決勝トーナメントを勝ち上がった藤井三冠が、そのままの勢いで豊島竜王をストレートで破り、将棋界最高峰のタイトルである竜王を奪取した。

藤井新竜王はデビュー直後に参加した竜王戦6組を優勝、以来、今年優勝した2組までランキング戦を5連覇した。つまり、ちょうど満5年(正確にはデビュー以来5年2ヶ月)で将棋界トップに立つこととなった。

6組優勝した時点ではデビュー後29連勝の大記録が継続中であり、渡辺永世竜王以来の中学生棋士として注目された。以来、勝率8割を継続中であり、今年も棋界最高の実力者との対戦が多いにもかかわらず、8割勝率継続が有力である。

こうした状況をみると、藤井新竜王の実力の伸び方は、1年前のソフトに対する勝率が8割を超えるという、最新鋭将棋ソフトの伸びしろをほうふつとさせる。

NHKニュースでもやっていたが、デビュー1、2年の頃、藤井新竜王は豊島を苦手としており、初対局から6連敗している。その最大の原因は豊島の序盤研究が卓越していたことによるもので、序盤で差を開いてそのまま押し切るというケースがほとんどだった。

今年前半の王位戦・叡王戦でもその傾向は続いていて、終盤で逆転することはあるけれども序盤は豊島リードという状況が続いていた。ただ、タイトル戦を数多く戦う間に、その差は確実に小さくなっていたようだ。

結果的には藤井4連勝となった竜王戦だが、第1局は豊島リードから終盤ノータイムで指した手が敗着という結果となった(下図)。アベマ解説陣も例外なく3六桂で豊島勝勢という見解だったのに、対局している豊島だけがその手が見えなかったのである。

第2局以降は、藤井が序盤からリードする展開。第4局こそ藤井リードから豊島逆転という評価値だったが、私のみる限り飛車を成り込んだ藤井新竜王の方が指しやすく、コンピュータでない豊島が最善手を続けるのは難しかったように思う。

(アベマ解説陣も、ソフト推奨の5五桂から先手有利の変化を特定できず、「これは詰めろじゃないってことですか?」などと首をひねっていたくらいである。豊島も1時間半の長考の結果、5五桂でなく3五桂とした。)

さて、これで藤井は対豊島のタイトル戦を3つとも勝って、対豊島の対戦成績も逆転して勝ち越しとなった。番勝負はこれで6戦全勝、これは最年少とかランキング戦から全勝で竜王奪取とかよりすばらしいことである。

竜王戦が早く決着したことで、現在進行中の王将戦に集中でき、こちらもタイトル挑戦まであと2勝と迫っている。いまの勢いを止められる棋士はいるのだろうか。

第34期竜王戦第1局。1日目から優勢を保った豊島竜王、2日目夕方にこの局面からノータイムで指した7七飛成が痛恨の一手となる。アベマ解説陣も、3六桂でどうやっても先手苦しいで一致していた。この一局で七番勝負の流れが決まった。


[Nov 16,2021]


第71期王将戦リーグ、藤井竜王3度目の正直で挑戦権

第71期王将戦リーグ(2021/11/19)
藤井聡太竜王(5勝0敗) O - Ⅹ 近藤誠也七段(3勝2敗)

第71期王将戦、今期も前期に引き続きA級順位戦を上回るほどの少数激戦リーグとなった。

何しろ、シード組が永瀬、豊島、羽生、広瀬とすべてA級タイトル経験者。二次予選からの勝ち上がりが藤井三冠(リーグ開始時点)、糸谷八段、近藤誠也七段である。唯一タイトル実績のない近藤七段もB1だし、何しろC1当時藤井の連続昇級をストップした男である。

藤井は王将戦リーグ3年連続3度目の登場である。初年度の第69期、挑戦まであと1勝と迫りながら、広瀬八段戦で即詰みを食らって逆転負け。2年目の第70期は緒戦から3連敗でリーグ残留も逃した。今年は二次予選からの参戦となる。

二次予選では石田直裕五段、稲葉陽八段を破ってリーグ入り。そして今季のリーグは竜王戦七番勝負との並行日程ながら快調に勝ち進み、他の棋士達が星をつぶし合う中、19日の対近藤七段戦で5連勝、最終局を待たずにタイトル挑戦を決めた。

終局後のインタビューでは(囲碁将棋チャンネル独占なので見ていないが)、「これまで王将戦リーグで実績をあげられなかったのでうれしい」と答えていたそうだが、一昨年が4勝2敗、昨年が3勝3敗だから、決して悪い成績ではない。

一昨年がC1、昨年がB2だったことからすれば破格の好成績で、そもそも激戦の王将戦リーグをA級棋士以外が勝ち抜くことなどほとんどない。昨年、B1の永瀬王座が勝ち抜いたのが、20年以上振りのA級以外の棋士のリーグ戦首位だったくらいである。

今回の王将戦では、先手・後手にかかわらず藤井三冠(現竜王)の完勝ばかりで、囲碁でいうなら中押し、ボクシングでいうならTKO勝ちの連続であった。相手から詰めろをかけられることさえほとんどない。

こういう表現は穏当でないかもしれないが、現状では藤井竜王と平手で勝負になる棋士はいない。。持ち時間の少ない早指し将棋では実力差がそのまま出ないにしても、持ち時間の長い8大タイトル戦で藤井竜王に勝つのは至難の技である。

王将を持つ渡辺名人は、すでに棋聖戦で藤井竜王と2度のタイトル戦を経験し、1勝3敗、3連敗でいずれも敗れている。1月から始まる王将戦は2日制の七番勝負である点で棋聖戦とは異なり、違った展開もありえるかもしれない。

とはいえ、藤井竜王はすでに王位戦で2日制七番勝負を経験済であり、去年・今年で8勝1敗と圧倒的に強い。今回の王将戦でも接戦にならないようであれば、さ来年に実現するはずの名人挑戦でも藤井竜王の進撃を止めることはできないだろう。

(王将戦は棋譜利用ガイドラインにより、局面の紹介ができません。分かりにくい点をお詫び致します。)

第71期王将戦リーグ、藤井竜王は5戦全勝で最終局を待たずにタイトル挑戦を決めた。これまで番勝負で敗れたことはなく、王将を獲得すればタイトル5冠となる。


[Nov 23, 2021]


第47期棋王戦、挑戦者は永瀬王座

第47期棋王戦挑戦者決定二番勝負(2021/12/21)
永瀬拓矢王座 O - X 郷田真隆九段

今期の棋王戦、最大の注目は渡辺棋王区切りの十連覇なるかということであるが、それを左右する最大のポイントは藤井聡太三冠(トーナメント開始時点)が挑戦者に勝ち上がれるかということであった。ところが、藤井三冠(当時)は斎太郎八段に敗れ、トーナメント2回戦で姿を消した。

デビュー以来勝率8割、番勝負負けなし、竜王・王位・叡王・棋聖の現在4冠、いまのタイトル常連では歯が立たないと思っている。だから、いつかも書いたように兜首をあげられるとしたらトーナメント戦で、棋王戦・王座戦が最後に残る可能性が大きい。

ただ、棋王戦はベスト4以上になると2敗失格制なので、リーグ戦とほとんど変わらなくなる。したがって藤井竜王としてはベスト4まで3回勝てばいいのだけれど、そう簡単にはいかない。

なにしろ、相手は事前研究のすべてを対藤井戦に費やすことができるのに、藤井竜王はそのつど相手が変わる。タイトル戦の番勝負であればともかく、トーナメントで当たる可能性のあるすべての棋士を研究していたら時間が足りない。そうでなくても対局過多で週2~3日は実戦なのである。

さて、棋王戦は若手の進出が目立つ棋戦で、ここ数年でもデビュー1年目の本田奎四段が挑戦者となったり(タイトル挑戦により五段昇進)、ベスト4に佐々木大地五段、黒沢怜生五段が残ったりしていた。ところが今年は、実力棋士のベスト4そろい踏みとなった。

4強から永瀬王座、豊島九段。あと2人はベテランの佐藤会長九段、郷田九段である。誰が勝ち上がっても、渡辺棋王とは何度も戦ったことがある。

勝者組決勝は永瀬王座vs佐藤会長九段。佐藤会長はこのところ絶好調で、久々にタイトル挑戦が見えるところまで勝ち上がってきた。振り飛車が主戦法だが、居飛車でも独特の発想から力戦系の将棋となる。

この一戦も、居飛車をちらつかせながら、ツノ銀中飛車に構える。しかし、充実著しい永瀬王座はあわてない。よく知られるように、AIは飛車を振っただけで5ポイントほど評価値が下がる。その差を維持したまま挽回を許さず、永瀬王座の快勝となった。

敗者復活戦は、その佐藤会長と郷田九段。この2人は勝者組準決勝でも顔が合って、会長が逆転勝ちしている。今回は20日おいての再戦。戦型は角交換型振り飛車から相穴熊の持久戦となった。

ただ、相穴熊となると攻め合いの速度計算が主となり、どちらかというと佐藤会長得意の力戦にはなりにくい。中盤で差を詰められる場面はあったものの、先手の郷田九段が終始リードを保ち、197手と長手数の将棋を勝ち切った。

挑戦者決定戦は永瀬王座と郷田九段の顔合わせ。郷田九段は渡辺名人の前の棋王で、永瀬王座は4年前の挑戦者である。振り駒の結果、先手番となった郷田九段は敗者組決勝に続き穴熊。対する永瀬王座は中住まいのバランス型で対抗する。

玉の堅さで上回る郷田九段が強襲を狙うが、永瀬陣には攻める場所がない。逆に、一瞬のスキを突いて端攻め。中盤以降どんどん差が開く。お互いに持ち時間を余しての終局で、永瀬王座が4年ぶり2度目の棋王挑戦を決めた。

永瀬王座はここへ来てさらに充実しており、王座戦3連覇中。一昨年は叡王を獲得、今年度も複数タイトル戦登場となった。例によってスーツでタイトル戦に臨むのだろうが、それだけ平常心を大切にしているということだろう。

渡辺棋王には4年前の棋王戦、昨年の王将戦と番勝負でまだ勝てていない。一方の渡辺棋王にとってつらいのは王将戦と重なってスケジュールが厳しいこと。王将戦の挑戦者は藤井竜王であり、どちらの防衛戦も楽ではない。

第47期棋王戦トーナメントは、永瀬王座が郷田九段を下して挑戦者となった。この局面で△3四歩。3筋は全く同じ形から歩交換して元に戻り、これで先手に指す手がない。▲4六歩で歩の入手を図るが、そこで△9六歩の端攻めが決まる。


[Dec 28, 2021]

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