昔いただいた初段免状。大山・中原時代・・・。
第71期王将戦   第80期順位戦   第47期棋王戦   第7期叡王戦挑戦者は   第93期棋聖戦挑戦者は
第7期叡王戦   第80期名人戦   第63期王位戦挑戦者は   第35期竜王戦決勝トーナメント
2021年下半期   2022年下半期   将棋目次

藤井竜王ストレートで王将奪取、五冠達成

第71期王将戦七番勝負(2022/1/9-2/12)
藤井聡太竜王 4-0 渡辺明名人

マスコミ論調では、またぞろ「史上最年少五冠」で大騒ぎするのだろうと思うが(新聞もとっていないしTVもあまり見ないのでよく分からない)、最年少より価値が高いのは、第一人者である渡辺名人をストレートで下し、番勝負無敗をさらに更新したことである。

これで、昨年度2回、今年度6回の番勝負(竜王戦挑戦者決定戦を含む)を全勝。タイトル獲得は早くも7期となり、郷田、豊島を抜き、南、久保の7期に並んだ。デビュー以来連勝記録の29くらいまで、誰も止められないかもしれない。

今回の七番勝負でも、形勢が二転三転したのは第1局くらいで、第2局以降は中盤で差が開いてそのまま押し切った。奇をてらった序盤というのは全くなく、相手に十分に組ませてなおかつ自分が優勢になるという堂々たる将棋である。

藤井竜王といえば、デビュー時にはすでに詰将棋の第一人者として知られていて、終盤の読みの速さと正確さには定評があったものの、序盤ではリードを奪われることが少なくなく、順位戦C級や竜王戦4組5組あたりで逆転勝ちがしばしば見られた。

ところが、ここ最近の序盤・中盤の強さは際立っていて、豊島九段とか、千田七段とか、独自の研究に優れた棋士でないと五分以上にわたり合うことが難しくなっている。

以前書いたことがあるけれど、矢倉、角換わり、相掛かりで藤井竜王が研究していない戦法はほとんどないと思われる。となると、あとは力戦系。AI対AIの将棋のような戦いでないと、藤井竜王を攻略するのは難しいかもしれない。

これで五冠達成となり、残すタイトルは3つである。まず、来期A級を確保するため、順位戦最終戦をしっかり勝つことが第一関門。そして、春の王座戦、秋の棋王戦はいずれもトーナメント。一発勝負には紛れがつきものだが、さらに充実した今年はどうだろう。

防衛戦の番勝負になると、過去に最終局までもつれている豊島九段、順位戦で敗れた稲葉八段、千田七段、棋王戦で敗れた斎藤八段くらいが強敵で、あとは誰が挑戦してきても負けそうにない。楽しみなのは大橋六段、伊藤四段だが、挑戦者までたどり着くのは容易ではない。

かたや、敗れた渡辺名人。現役名人がストレート負けとは穏やかでないが、相手がAIだと思えばそれほど落ち込むこともないだろう。いままさに棋王戦が進行中であり、4月から名人戦が始まる。気落ちしている暇はない。

王将戦で現役名人がストレート負けというと、升田・大山の指し込み事件を思い出すが、大山十五世名人はそれから巻き返して長くタイトルを独占した。渡辺名人も巻き返しを期待したい。

(棋譜利用ガイドラインにより、王将戦の局面図を掲載することはできません。)

[Feb 15, 2022]


第80期順位戦、斎藤八段連続名人挑戦

第80期順位戦が、3月10日のC級2組までで終了した。

A級順位戦は、2月4日の第8局で挑戦者、降級者とも決定。恒例の静岡最終局は来期の順位を決めるだけの戦いとなった。

挑戦者は2年連続で斎藤慎太郎八段。開幕から7連勝と突っ走り、第8局も豊島九段に勝ってあっさり挑戦を決めた。昨年は1勝4敗と歯が立たなかった印象だが、今年はどうなるだろうか。渡辺名人の調子はあまりいいとはいえない。

降級は羽生九段と山崎八段。羽生九段はA級以上30期連続はならなかった。タイトル獲得も99期で止まっており、ここ数年はA級でも勝ち越しが難しかったのでやむを得ないところか。ただし、渡辺名人が数年前B1に降級したものの、全勝で即復帰したこともある。4強以外にはまだまだ引けはとらず、再浮上を期待したい。

山崎八段は悲願のA級昇格を果たしたものの、1期で陥落となった。得意の力戦も一線級相手では不発に終わることも多く、順位も響いて挽回はならなかった。B1でも安定して上位とは言えなかったので、来期は正念場となる。

B級1組最終局は3月9日に行われた。藤井竜王が2敗したため最終局まで決着がずれ込んだものの、佐々木勇気七段に勝ってトップでA級昇格を果たした。

2位でA級即復帰を決めたのは稲葉八段。今期は藤井竜王に勝っている。序盤もたついたが、終盤6連勝で9勝3敗。千田七段と相星ながら順位の差で逃げ切った。千田七段が来期3位でA級初昇進を狙う。

一方、降級は松尾八段、阿久津八段と木村九段。いずれもB1以上に長く在籍した棋士が無念の降級となった。B2以下は降級点制度なので滞留しやすいところがある一方、全員と当たらないので組合せの有利不利がある。木村九段は即復帰が期待されるものの、深浦九段が苦戦しているところを見てもそれほど楽ではなさそうだ。

B級2組は最終局前に中村太地七段と澤田真吾七段が昇級を決めており、3つ目の枠は丸山九段が勝ってB1への即復帰を決めた。

中村太地七段はご存じのとおり元王座。順位戦ではB2で苦戦が続いていたが、今年は開幕8連勝で早々に昇級を決めた。タイトル戦の実績もあり、B1でも敷居が高いことはないはずだ。

澤田真吾七段は2009年4月四段。すでに竜王戦では5年前から2組に在籍し、王位戦ではリーグ戦に通算7期出場している。B2は7年いたので太地七段より1年長い。17歳でプロデビューした俊英で、同時期の三段リーグには永瀬、菅井、斎藤慎太郎といったタイトル経験者がいる。

3人目は丸山九段。これで3期前から、B2、B1、B2、そして来期B1と2往復したことになる。元名人で、最近では角換わりスペシャリストとして名を馳せている。2年前の竜王戦では、得意の1手損角換わりで藤井現竜王をストップした。

C級1組からは最終戦前に及川七段が昇級を決めた。2007年10月プロ入り。C2が長かったが、C1は3期で抜けた。昇級初年度の一昨年、頭ハネで昇級を逸したが、今年は逃さなかった。残り2枠は、大橋六段、飯島八段、高橋九段の3名に絞られた。

大橋六段は居飛車対振飛車の対抗形から夕食休憩前には優勢を築き、そのまま逃げ切って昇級を決めた。自力昇級可能な飯島八段は佐藤和俊七段との相振り飛車から早々に飛車交換、力戦形の将棋となる。夕食後に疑問手があって和俊七段が優勢となり、午後10時前に終局となった。

これで勝てば史上最年長昇級だった高橋九段だが、最終戦の相手は先崎九段。先崎の師匠であり高橋の兄弟子である米長永世棋聖が日頃言っていたのは「自分にとって消化試合で、相手に勝負がかかる一局こそ、大事な将棋」。

まさにそのとおりの猛烈な粘りで、先崎九段が劣勢の将棋を逆転した。高橋九段も終盤1時間を超える長考で挽回を図ったがかなわず、午後11時過ぎに無念の敗退となった。

大橋六段は昨年度に続き連続昇級。飯島八段は2017年にC1陥落後、5期で復帰となった。昨年から好調で勝ち数・勝率ランキングでも上位に顔をみせていたが、見事なカムバックである。C1からB2の復帰では、3年前に弟子を頭ハネした杉本昌隆八段を思い出す。

C級2組は混戦となった。最終戦前に昇級を確定したのは西田五段のみ、残り2枠を1敗の3人・2敗上位の2人が順位戦最後となる10日に争うこととなった。

一足先に昇級を決めたのは西田五段。2017年4月、藤井五冠の半年後に四段昇段。昨年以来、12連勝や朝日杯ベスト4と大活躍、順位戦でも8連勝の後、本田奎五段との直接対決を制して昇級を決めた。

最終局を勝って昇級・昇段を決めたのは、順位戦2年目の渡辺和史四段と1年目の伊藤匠四段。両者とも、勝ち数・勝率ランキングでも上位で各棋戦を勝ちまくっている。渡辺新五段はABEMAの解説によく出てくる。また伊藤新五段はすでに王位戦リーグに入っており、タイトル戦線登場もそれほど先のことではないだろう。

最終局を落として無念の残留となったのは服部慎一郎四段。少し気の毒だったのは、3日前に叡王戦の対局があったことである。通常、順位戦最終局の直前には他の対局は組まれないものだが、勝ちすぎてこういうスケジュールになってしまった。昇級した2人と同様に勝ち数・勝率ランキング上位であり、来期もチャンスはあるだろう。

第80期A級順位戦8回戦、斎藤八段が豊島九段に勝ち8連勝で連続挑戦を決めた。先手は持ち駒の金を相い駒してこの瞬間詰めろはかかっていないが、玉が2筋から脱出して混戦を制した。お互い1分将棋となり、終局は午前1時1分。


[Mar 15, 2022]


第47期棋王戦、渡辺棋王十連覇達成

第47期棋王戦五番勝負(2022/2/6-3/20)
渡辺明棋王 3-1 永瀬拓矢王座

2021年以来、8つのタイトルは4人で占めており、誰言うともなく「4強」と呼ばれている。しかし、4強相互の対戦成績は拮抗している訳ではなく、藤井竜王とほぼ五分の成績なのは豊島九段だけで、渡辺名人、永瀬王座は大きく負け越している。

そして、その両者の対戦成績はというと、これが渡辺名人の大差勝ち越しなのである。タイトル戦に限っても、第43期(2018年)棋王戦が渡辺棋王3勝2敗、第70期王将戦(2021年)が渡辺王将4勝2敗、今回の五番勝負が始まる前の対戦成績は、渡辺16勝、永瀬5勝で大きく差が付いている。

AIを活用した序盤研究が進み、コンピュータに不慣れな棋士は取り残されるという評価が一般的であるが、渡辺名人はじめ木村九段、丸山九段、深浦九段など必ずしもコンピュータに習熟していないと思われるベテランが第一線に踏みとどまっている。同一局面のない中盤以降では、まだまだ若手には負けないというところだろう。

(羽生永世七冠は、木村・深浦と同年代だがコンピュータに詳しい。どの程度研究に使っているかは知らないが。)

さて、そうした中で渡辺棋王の十連覇がかかった棋王戦五番勝負が行われた。結果は渡辺棋王が3勝1敗で防衛、みごと十連覇を果たすとともに二冠を維持したが、正直なところ、永瀬王座とは力の差があると思わざるを得なかった。

展開としては、開幕第1局で渡辺棋王が後手番を制し(私は個人的にサービスブレイクと呼んでいる)、それ以降第4局まで先手が勝ち続けて決着となった。第2局以下では先手が中盤以降優勢を維持したことをみても、第1局がポイントだったとみていいだろう。

この一局、相掛かりから難解な中盤戦が続き形勢が二転三転したが、永瀬王座が角を取って飛成、さらに銀に当てて好調に思われたが、ここで7六に嫌味な歩を打ったのが渡辺棋王の機敏な一着だった。

竜、金、玉のいずれで取るかだが、竜で取れば銀取りが消えるし、金で取れば頭が壁になって玉の逃げ道が狭くなる。玉で取れば入玉も視野に入るし、大駒3枚持っているので望むところという永瀬流だったが、すかさず△6四桂と打たれてしまった。

AIの推奨は金で取る手で、以下後手は銀を逃げ、先手は竜を敵陣に侵入させてまだ長い勝負ながら、評価値的には60%:40%で先手に振れていた。玉で取った結果、△6四桂▲6五玉△7三歩と進み、入玉と竜の侵入を両方防がれてしまった。

渡辺棋王はこれで区切りの十連覇を果たすとともに、来月から始まる名人防衛戦に幸先のいい勝利となった。印象深かったのは、永瀬王座相手なら不利になっても簡単に負けないだろうと思わせたところ。昔から棋戦にも棋士にも相性のようなものがあって、竜王戦、棋王戦以外の棋戦ではなかなか長期防衛ができていない。

かたや永瀬王座。今回のタイトル戦もスーツで通したように、妙にこだわりがあるのが強みなのか弱みなのか。一時期、対局開始は和服ですぐに洋服に着替えていたけれど、最近は最初から最後までスーツである。

昔の棋士も験かつぎはしたけれども、ここまで徹底するのは珍しい。ここ数戦のタイトル戦でも王座戦を除いて敗退が続いており、むしろスーツの方がよくないような気もするが。

棋士の多くが、和服を着ることのできる立場になりたいとおそらく思っている中で、スーツの方が平常心で対局できるし、いちいち着替えるのも面倒ということなのだろうと思う。まあ、そこまでこだわるのも一流ということなのだろう。

十連覇のポイントとなったのは渡辺棋王が後手番で勝った第1局。中盤以降形勢が二転三転したが、勝負を決めたのはこの場面。嫌味な7六歩を玉で取って入玉を目指したのは永瀬流だったが、ここは金で取れば優勢を維持できた。まだ勝つまでは大変だが。


[Mar 22, 2022]


第7期叡王戦、挑戦者は出口五段で新人王戦の再戦に

第7期叡王戦挑戦者決定戦(2022/4/2)
出口若武五段 O - X 服部慎一郎四段

DWANGOの撤退で主催者が不二家に代わるごたごたがあり昨年の叡王戦は秋にトーナメントが行われたが、今年は例年の時期に戻った。

当然ニコニコの中継はなくなったものの、引き続きABEMAは決勝トーナメントをすべて中継するのでインターネットで全局見ることができる。しかし、今年のトーナメントは、そろそろ佳境と思って午後3時に見るとすでに終局後という対局が多かった。

持ち時間3時間のチェスクロックというのは、DWANGOの時代から変わらない。午後から夜の対局が午前中からになったからかと思ったが、それにしても持ち時間を相当余しての終局というのがよく分からない。特に高段者のあきらめがいい。

ひとつの理由は、段位別予選ということにあるのだろう。前年度ベスト4以外はタイトル保持者もA級在籍者もすべて予選からだから、今年は渡辺名人、永瀬王座を含めてビッグネームが軒並み予選落ちした。そして、段位別の勝ち上がりでは低段位者の方が激戦を勝ち抜いてくるから、高段位の予選突破者よりも勢いがある。

ただ、私が考えるにそれ以上に上位者の気分を重くしているのは、勝ち上がっても藤井叡王と戦わなくてはならないからではないかと思う。タイトル戦になる前の叡王戦で、優勝するとAI相手に戦わなくてはならなかったのと同じ悩みである。

さて、ベスト4に残った4棋士のうち、一方の山は船江恒平六段と服部慎一郎四段。まさに低段から勝ち上がった両者が進出してきた。

船江六段は2010年10月デビューで、順位戦初参加のC2で10戦全勝、すぐにC1に昇級昇段した逸材である。C1が長いが、4年前に藤井現竜王とともに9勝1敗で頭ハネされた不運もあった。若手棋戦の加古川青流戦とYAMADAチャレンジ杯に優勝実績がある。

服部四段は2020年4月デビュー。今期は絶好調で、すでに40勝をあげて勝ち数・勝率ともランキングベスト5以内に入っている。一回戦で矢代七段、二回戦では豊島九段相手に後手番で、しかも角換わりの難しい将棋を勝ち切った。

この二人の準決勝は、船江先手で矢倉急戦を選択。序盤はやや有利に進めたものの、中盤で疑問手が出て服部が逆転勝ちした。

もう一つの山でベスト4まで勝ち上がったのは、出口若武五段と佐藤天彦九段。出口五段は村田六段、斎藤慎太郎八段に勝った。2019年4月デビューの新鋭で、藤井現五冠と新人王戦決勝三番勝負を戦ったのは記憶に新しい。

最後にベスト4に勝ち上がったのは、天彦九段。糸谷八段、丸山九段とタイトル実績のある実力者を連破した。タイトル昇格前の第2期叡王で、優勝してBONANZAと戦った。名人失冠後は活躍の場から遠ざかっているが、今回は堂々のベスト4である。

この二人の準決勝は出口先手で横歩取り。終盤で、出口2枚竜対佐藤2枚馬の珍しい戦いとなったが、両者1分将棋の難しい将棋を出口五段が間違えずに勝ち切った。

これで決勝は五段対四段のフレッシュな挑戦者決定戦。両者居玉の矢倉急戦となる。と金5枚で先手となった服部四段が時間を使わないまま優勢となり、一時はAI評価で80対20の大差が付いた。

しかし、ここからしぶといのが出口五段。研究範囲でそのまま押し切るケースも多いのだが、悪くなってからしぶとく逆転する将棋も少なくない。でなければ、毎年勝ち数・勝率の上位には残れない。

この将棋も、下図の局面でもう土俵際のように思えるのだが、服部四段の▲2一金が大事をとったつもりが逆転を招いてしまった。ここは、アベマ解説陣も予想していた▲2三銀打がよかったようである。

出口五段は、タイトル挑戦により六段昇段。準決勝の天彦九段戦もそうだったが、残り時間が少なくても力技で逆転のある局面に持ち込むのが大変うまい。どことなく、昔の棋士を思い出させるようなキャラクターである。

藤井叡王との番勝負は4年前の新人王戦以来となる。藤井五冠相手では、悪くしたら終盤逆転は難しい。序盤に一工夫が必要になるだろう。

残り時間でもAI評価値でも劣勢だった出口五段が、終盤に入って逆転した。この局面では、服部四段は無理しなくてもいいと思って指した▲2一金だったと思うが、△1五歩▲4六飛△5四桂となり逆転した。△5四桂は飛車取りだけでなく△6六金からの詰めろになっている。


[Apr 5, 2022]


第93期棋聖戦、挑戦者は永瀬王座 

第93期棋聖戦挑戦者決定戦(2022/4/25)
永瀬拓矢王座 O - X 渡辺明名人

藤井聡太現五冠がタイトル初挑戦・初戴冠を果たしたのは、コロナ自粛の中行われた2年前の第91期棋聖戦だった。あっという間に時が過ぎて、今年は2度目の挑戦者を決める第93期トーナメントが開催された。

ベスト4に残ったのは、渡辺名人と永瀬王座、久保九段と佐々木大地五段である。名人と王座については多言を要しないが、あとの2人も各棋戦で活躍が続いている。

久保九段は前々期王座戦に続く上位進出である。順位戦こそB1陥落後苦戦が続いているが、竜王戦は1組を堅持、王位戦リーグにも入って、さばきのアーティストは健在である。今期棋聖戦では、豊島九段、鈴木大介九段を連破して準決勝進出である。

佐々木五段は惜しいところでタイトル挑戦に手が届かない。棋王戦は挑戦者決定戦まで進出したものの本田奎四段(当時)に敗れ、王位戦もリーグにも残るもののなかなか突破できない。ただ、竜王戦は連続昇級まであと1歩で、今年も好調が続いている。

準決勝第1局は、渡辺名人対久保九段。渡辺名人は名人戦七番勝負に挟まれた1局となった。後手の久保九段は四間飛車。対抗形では高い勝率を誇る渡辺名人が徐々に優勢を築くが、久保九段も決め手を与えない。

二百手を超える激戦となり、一瞬逆転かという場面もあったが、1分将棋でも渡辺名人は安定しておりそのまま押し切った。

準決勝第2局は、永瀬王座対佐々木五段。ともに竜王戦は決勝トーナメント目前であり、佐々木五段は王位リーグがある。順位戦のないこの時期にもかかわらず、両者とも対局数が多くなっている。

佐々木五段先手で、角換わりに進みそうだったが、永瀬王座が角交換を拒否。矢倉対雁木の駒組合戦から、永瀬王座が9筋の端攻めを敢行、大地五段も2筋に飛・香・香の3段ロケットで反撃したが、永瀬王座得意の手厚い受けで、持ち時間を余しての終局となった。

これで、決勝は昨年92期に続いて、渡辺・永瀬のタイトル保持者同士の対決。そして、渡辺・永瀬戦は棋王戦五番勝負に続く対戦となった。

この一戦までの両者の対戦成績は、渡辺19勝、永瀬6勝と大差がついている。特に、永瀬後手番だと渡辺名人の14勝2敗で、振り駒で渡辺先手となったので今回も永瀬王座厳しいかと思われた。

ところが、渡辺名人の矢倉に対して、永瀬王座がバランス型で対抗。お互いに手を渡し合う展開となった。千日手かという局面もあったが渡辺名人が穴熊に組み替えて回避、長期戦歓迎で待つのは永瀬ペースである。

下の局面で▲2六歩。これは、飛車先を切って入手した歩を守りに使ったもので、明らかに当初予定した展開ではない。細い攻めを切らさずにつなげる渡辺名人には珍しい変調であった。

この後も永瀬王座が着実に差を広げ、最後は永瀬入玉の上、穴熊を攻略して快勝。対渡辺の後手番で貴重な3勝目を挙げた。五番勝負登場は2016年の第87期に続く2度目となる。

藤井棋聖との対戦では対渡辺名人に負けず劣らず差が付いているが、藤井棋聖も叡王戦、王位戦との防衛戦並行となるので、乗ずる隙があるとすればそこだろう。特に王位戦が始まると、2日制なので日程がきわめてタイトになる。

渡辺名人はらしくない負け方だったが、現在名人戦七番勝負のさ中であり、日程的な厳しさがあったかもしれない。そして、もしかすると、勝っても藤井棋聖との番勝負というのは、気が進まなかったかもしれない。

渡辺名人の視野に入っているのは、来年の名人戦七番勝負。対藤井の秘策があるとすれば、それまで温存しておきたいはずである。

手の渡し合いで膠着した局面が続いたが、永瀬王座△3三桂に対する渡辺名人▲2六歩が変調。△2五歩を避けるためやむを得ないが、攻めの飛車を守備だけに使わなければならなくなった。この後、右辺を突破される。


[Apr 27, 2022]


藤井叡王、出口六段を一蹴。番勝負十戦無敗 

第7期叡王戦五番勝負(2022/4/28-5/24)
藤井聡太叡王 3(1千日手)0 出口若武六段

4年前の新人王戦に続く藤井vs出口の番勝負、藤井叡王が3-0で出口六段を一蹴、これで番勝負十戦無敗、タイトル獲得数は早くも8となった。

今回の番勝負で興味深かったのは、藤井後手番の第2局だった。相掛かりから手番が藤井に回り速攻、馬を作って敵陣に迫り、夕刻には優勢な局面に持ち込んだ。

ところが下図から、▲1六飛△2九馬▲2六飛△1八馬が繰り返されて千日手になってしまう。その間、両者ともほぼノータイム。優勢な藤井叡王は△8六香や△2七歩といった打開手段があり、もちろん見えていたはずだが、あえて指さなかった。

千日手は先後入れ替えて即日指し直しだから、後手番は無理して打開せず千日手に持ち込むのが得策とされている。だが、個人的には、藤井叡王の余裕であったように思っている。

その少なからぬ理由のひとつは、せっかく挑戦者に勝ち上がった出口六段に花を持たせたいということがあったのではないかと勝手に推測している。

同じ関西奨励会で、出口六段の方が歳は7つ上。三段リーグで出口が停滞している間に藤井は一期抜け。前回の新人王もストレート、今回の叡王戦もストレートでは、あまりに申し訳ないと思ったのではなかろうか。

勝負師はそんなことではいかん。叩ける時に叩いておけというのは大山・升田や中原・米長の時代で、いまやAIの時代である。二百人前後しかいない同業者で、対局するのは二、三十人。一日中顔を突き合わせなければならないとなると、別の観点も重要になるだろう。

もう一つは、ファンサービスである。叡王戦なので新聞掲載はないが、ABEMAでインターネット中継がある。展開が早くて数多く対局が見たいファンは少なくないから、先後入れ替えてもう一局どうぞと考えたのかもしれない。

いずれにしても、後手番は千日手歓迎というのが定跡だし、持ち時間が少なくなればミスも出やすい。ゆるめた訳ではないだろうけれど、無理しなかったことは確かである。

思うに、藤井叡王は出口六段だけでなく、誰と戦っても何のタイトルだろうと、後手番だったら無理しないで千日手にするのではないだろうか。その背景にあるのは、一局ならともかく、番勝負で負ける訳がないという自信である。

もちろん藤井叡王もAIで研究しているから、AIとやれば負けることは分かっている。だから、もし将来自分より強い人間が出てきたとしても、それほどあわてないような気がする。(その頃まで生きているだろうか?)

そのあたりが、大山十五世とか米長永世棋聖と違うところである。きっと、目の前で戦っている人間は真の対戦相手ではないし、だから目の敵にする必要もないと考えているのである。

一つだけ、藤井五冠がおそらくほっとしたのは、永瀬王座との棋聖戦前に決めることができて、準備に時間がとれることだろう。

出口挑戦者の先手番となった第2局、藤井叡王は千日手をあえて打開せず、指し直しにして手堅く勝利。後手番で無理することはないとはいえ、余裕がないとできない選択であった。


[May 26, 2022]


第80期名人戦七番勝負、渡辺名人3連覇

第80期名人戦七番勝負(2022/4/6-5/29)
渡辺明名人 4-1 斎藤慎太郎八段

渡辺名人が防衛を決めた第5局、立会人は谷川十七世名人であった。永世名人襲名は原則として引退後だが、谷川九段が60歳を迎えたのを機に十七世名人を襲名することになったのである。おめでたいことである。

子供の頃は、現役ばりばりの大山十五世名人が誰にも文句を言わせず十五世を名乗っていたので(名人の防衛戦でもそうである)、現役棋士が永世名人でもおかしくは感じないが、永世名人が現役に複数いないように配慮するのだろう。

現在の将棋界は4強と呼ばれ、渡辺、豊島、永瀬、藤井の4者がタイトル戦線を席巻している。その4強に次ぐ実力者の筆頭が斎藤八段で、王座1期、名人挑戦2年連続という文句ない実績がある。

その斎藤八段に対し、2年間で8勝2敗、勝率8割というのはたいへんな数字である。渡辺名人は以前から棋戦による好不調が顕著で、竜王・棋王はかなり前に永世資格をとっているにもかかわらず、他のタイトル戦はなかなか勝てない。

名人戦も苦手な棋戦の一つで、数年前にはB1に陥落した。しかしここから心機一転、B1を12戦全勝して1年でA級復帰すると、返す刀で9戦全勝して挑戦権獲得、当時の豊島竜王名人を下して名人位を獲得した。何と、この時が初の名人挑戦であった。

斎藤八段はどちらかというと受けの棋風であり、攻めの渡辺名人と相性的に合わないのかもしれない。とはいえ、最終局後の結果が渡辺12勝・斎藤5勝だから、名人戦七番勝負を除くと4-3でほとんど差がない。不思議なものである。

さて、今回の七番勝負で特徴的だったのは第1局である。振り駒の結果先手は渡辺名人。矢倉模様で始まり、渡辺が玉を囲い斎藤がバランス型。角交換から斎藤が6四に角を再設置、△4五歩で銀の行き場所を尋ねたのである。

ここで▲同銀が渡辺名人の面目躍如であった。△1九角成で香を取られて駒損、しかも馬を作られるけれども、それよりも相手の玉が薄いうちに攻め込もうということである。まだ初日の午後だというのに。

結局斎藤八段は取った香を守りに使わざるを得ず、敵陣に殺到した渡辺名人が幸先よく1勝を挙げた。第2局も連勝。斎藤八段が第3局を勝って1つ返したものの、第4局・第5局と連勝してタイトル防衛を果たしたのである。

斎藤八段は今期のA級順位戦では開幕8連勝で早々に挑戦を決めた。その中には豊島九段、永瀬王座も含まれており、昨年よりさらに充実しているにもかかわらず、渡辺名人には通用しなかった。

とはいえ、斎藤八段は藤井竜王に3勝4敗と、五分に渡り合っている数少ない棋士の一人である。あきらめるのはまだ早い。A級の対藤井戦は4局目に組まれており、先手番。ここで止められないと、藤井竜王がすんなり名人挑戦を決めるだろう。

これで渡辺名人は名人3期。永世名人にはあと2期必要であるが、あと2期守れるかどうかたいへん微妙である。前にも書いたように、藤井竜王がトーナメント以外で後れをとることは考えにくいし、番勝負で負けたことがないのである。

渡辺名人が、2年連続で斎藤八段の挑戦を4-1で退けた。第1局で△4五歩で銀の行き場所を問われた手に対し、▲同銀と踏み込んだのは渡辺流。△1九角成で駒損するが、先攻すれば玉の堅さが違うという判断はさすが。


[May 29, 2022]


第63期王位戦、挑戦者は豊島九段

第63期王位戦挑戦者決定戦(2022/05/31)
豊島将之九段 O-Ⅹ 池永天志五段

第63期王位戦挑戦者決定戦は豊島九段が勝ち、2年連続で藤井・豊島の王位戦七番勝負となった。

今回の王位戦リーグは組合せが偏った。紅組に豊島、佐々木大地五段(現七段)、近藤誠也七段、伊藤匠四段(現五段)が集まり、最終局まで優勝者・残留者が決まらなかった。最終局で豊島が伊藤匠を下し、紅組優勝を勝ち取った。

白組も決着は最終局に持ち込まれたが、池永五段が4勝1敗で優勝した。2018年デビューの5年目。新人王戦・加古川青流戦をそれぞれ優勝している。

リーグ戦の1敗は羽生九段。その羽生が久保・糸谷に敗れたことから単独優勝となった。残留は羽生九段。前期残留の澤田七段は羽生と同星ながら、直接の対戦成績で惜しくも陥落となった。

挑戦者決定戦は、振り駒の結果豊島九段の先手。オーソドックスに角換わり腰掛け銀となった。豊島が玉を8八に入城、池永がバランス型で対抗し、8筋の強襲から豊島陣に迫る。

飛車を犠牲に豊島陣を手薄にすることに成功したが、ここから決め手を与えないのはさすが豊島九段。とはいえ、△8六歩の王手に対し、当然と思える▲7八玉に残り時間の大部分である67分の大長考をした時には、いつもの悪い癖かと思った。

実際は、かなり先まで読んでいたようで、玉はこの後6七から5四、最後は1七まで転身して詰みのない形に持ち込み、池永玉を即詰みに打ち取った。

2年前には竜王名人だった豊島九段も現在は無冠、昨秋の竜王戦以来のタイトル戦となる。早見え早指しというと糸谷八段の専売特許のように思われているが、豊島九段もかなり早指しが強い。昨年のNHK杯では、ほとんど楽勝続きで優勝したくらいである。

研究範囲で時間を使わないのも有名で、二日制タイトルの初日午前中に数十手進み、長考したとたん疑問手が出るのも特徴であった。ただ、今回の挑戦者決定戦をみると、その点でも改善が図られたように思える。(AIによると、途中で長手数の即詰みを見逃したようだが)

藤井王位はこれまで番勝負無敗。対豊島九段でも、叡王戦、王位戦、竜王戦といずれも藤井が制している。ただし、藤井相手にフルセットまで持ち込んだのは叡王戦の豊島だけで、対戦成績でも当初は優位にあった。

竜王戦から約1年、豊島九段も何らかの研究をぶつけてくるはずである。藤井五冠は永瀬王座相手の棋聖戦と並行した防衛戦で、かつ初登場のA級順位戦を戦わなけれはならない。好勝負を期待したい。

第63期王位戦挑戦者決定戦、後手番の池永五段は角換わりから猛攻、先手玉を手薄にすることに成功したが、ここで豊島九段は当然と思える▲7八玉に1時間半の残り時間のうち67分の長考。悪い癖の長考後の悪手かと心配した。


[May 31, 2022]


第35期竜王戦、決勝トーナメント開始

第35期竜王戦、決勝トーナメントの顔ぶれが出そろった。

昨年は藤井現竜王が勝ち上がれるかどうかが最大の焦点だったが、2組ランキング戦優勝から挑戦者となり、豊島竜王を破って竜王タイトルを獲得した。今期は、誰が藤井竜王への挑戦権を獲得するか、新たなステージの戦いとなる。

決勝トーナメントのメンバーをみると、4組から6組は本命が途中で敗れるケースが多かったのに、いずれも有力候補が勝ち上がった。藤井竜王の8割には及ばないものの、3人とも勝率7割。対藤井竜王でもあるいは、と思わせる。

6組優勝の伊藤匠五段は目下売り出し中の新鋭で、藤井竜王より年下の数少ない棋士である。Abemaトーナメントで藤井竜王と同じチームに入って勝ちまくり注目された。C級2組を1年で通過、竜王戦も6組を2年目で優勝した。

5組優勝は佐々木大地七段。他棋戦での活躍があるのに竜王戦では長らく6組を抜けられなかった(順位戦もC2を抜けられない。三段リーグも次点2回だった)。前期6組3位で昇級すると、今年は5組優勝で連続昇級、七段に昇段した。

4組優勝は大橋六段。藤井竜王と同期で、藤井戦に勝ち越している数少ない棋士である。今期の王座戦トーナメントも勝って、対藤井4連勝、今年中の藤井六冠を阻止した。懸念材料は、ベスト4に残っている王座戦と日程がかぶることだろう。

この3人のつぶし合いで勝ち残った1人が、1組5位稲葉八段、1組4位山崎八段、さらに1組優勝永瀬王座と破らなければ挑戦者決定戦に登ってこれない。はるか遠い道のりであるが、昨年・一昨年に梶浦七段があと一歩のところまで勝ち上がっている。

もう一方の山はすべてタイトル経験者でパラマスに比べると常連という印象があるが、半面意外性は少ない。

森内九段は永世名人資格者で、谷川十七世が襲名したので次ということになる。宣言でフリークラスになったが竜王戦は2組2位で決勝トーナメントに残り、来期は1組。まだまだ一線級である。

その森内九段と対決するのは3組優勝の高見七段。森内・高見戦の勝者が佐藤天彦九段と対戦する。高見、佐藤ともタイトル失冠以来ぱっとしない成績だが、このあたりで再浮上のきっかけをつかみたいところ。

丸山九段、広瀬八段はかつて藤井竜王に煮え湯を飲ませた経験がある。永瀬王座はともかく、若手の誰かが挑戦者決定戦に残るとすれば、そう簡単に負ける訳にはいかない。広瀬八段は竜王戦の相性もいい。

決勝トーナメントは、来週28日、佐々木大地vs伊藤匠戦で開幕する。いきなり、優勝候補同士の戦いである。

番勝負無敗の藤井竜王への挑戦者を決める第35期決勝トーナメントが始まる。1組優勝の永瀬王座はもちろん有力候補だが、4組~6組優勝者が勝ち上がればかなり強力な挑戦者となる。


[Jun 25, 2022]

LINK